（１９）

　秀子は、人事課長の青木に電話をかけていた。

「課長、酷いじゃないですか。散々、私を抱いておいて。」
『い‥‥いや‥‥‥つまり‥‥‥‥‥』
「私、幹部の人たちに報告しますからね。いえ、奥様にも‥‥‥‥」
『ま‥‥‥待ってくれ‥‥‥そ、それだけは‥‥‥‥』
「課長、高塚さんが愛人なんですってね‥‥‥」
『ど‥‥‥どうして、それを‥‥‥‥』
「私の人脈を舐めてもらっては困りますよ。」
『‥‥‥き‥‥‥君‥‥‥‥』
「かなり、変態じみた事も好きなようですね。」
『クッ‥‥‥‥ぅぅぅ‥‥‥』

　秀子は、急に態度を変え青木に迫った‥‥‥‥

「課長‥‥‥‥私‥‥課長の好みの女になるわ。だから‥‥‥‥‥お願い、私を昇格させて。」
　
　少々、間を置いて考える振りをする青木‥‥‥‥‥

『‥‥‥‥‥わ‥‥‥わかった‥‥‥‥‥‥そのかわり‥‥』
「安心して。誰にも言いません。私、一生、課長のセックス奴隷になりますから。」
『‥‥‥‥‥‥‥や、山井君‥‥‥‥』
「今夜、課長が、よく行くＳＭクラブに連れて行ってください。私が、高塚さん以上に、課長を興奮させて上げますから。私、それくらいの覚悟は十分あります。何でもやる自信が。」
『そ‥‥‥そこまで知っているのかね‥‥‥』

　秀子は、心の中で笑っていた。

（山田さんに聞いて正解だったわ。）

『‥‥‥‥‥‥わかった‥‥‥‥‥じゃ、今夜‥‥‥』
「ええ。駅前で待ってます。」

　秀子は、そう言うと不敵な笑みを浮かべて電話を切った。

（ＳＭか‥‥‥‥‥多少、苦しくても今日は我慢しないと‥‥‥）

　秀子は、ＳＭクラブのステージに上がる決心をしていた。
　それで、青木を満足させ、高塚から引き離そうと考えていたのだ。

☆☆☆☆☆☆

−　就業後　−

　青木から連絡を受けた仙次郎は、先日、佳代と行ったＳＭクラブ、奈落に足を運んでいた。
　まだ、開店までには、３時間以上もある。

　仙次郎は、入口が閉まっているため裏口に回った。
　ドアを叩く仙次郎‥‥‥‥

「誰だい？」

　中から一人の男が姿を現わした。

「すいません、こんな時間に‥‥‥‥」
「ん？‥‥‥あんた‥‥‥‥確か先日、店に来た‥‥‥‥」
「は？」
「駿河問いをリクエストした人だろう。」
「ええ‥‥‥よく覚えていますね。」
「まあね。‥‥‥で、何の用だい？」
「ちょっと、頼み事がありまして‥‥‥貴方は、ここのオーナーですか？」
「いや違うが、オーナーに用なのかい？」
「ええ。ちょっとお話が‥‥」
「‥‥‥‥‥ちょっと、待っててくれ。」

　男は、そういい残して奥に入っていった。
　暫くして一人の女性が現れた。

　ノーメイクだが美人の部類に入るであろう整った顔立は清楚なイメージを思わせる。
　切れ長で白目部分が大きく妖しげな瞳は、男の性心を擽る不思議な雰囲気を醸し出していた。

「‥‥‥ぁ‥‥‥あら‥‥‥‥‥‥‥‥夢見たい‥‥‥」

　その女性は、そう答えて仙次郎を見つめた。

「は？」
「‥‥‥この間から貴方の顔が忘れられなくて‥‥‥」
「え‥‥‥？」
「お忘れかしら‥‥‥私のステージを‥‥」

　仙次郎は驚いた。あの時、先程の男にステージで駿河問いをされた女性だった。

「確か‥‥‥美也子と呼ばれていた‥‥‥」
「フフッ‥‥‥あれは源氏名よ。本名は、樹里‥‥‥如月樹里っていうの。」
「私は、高輪と申します。‥‥‥‥‥‥あのぅ‥‥‥君が‥‥」
「そう、オーナー兼ＳＭ嬢よ。」
「そうだったんですか、私はてっきり先程の方が‥‥‥」
「あの人は、この店の専属の緊縛師なの。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「それで、頼みごとって事らしいけど。」
「ええ、いきなり訪れて恐縮なんですが。」
「どうぞ。お入りになって‥‥‥‥」
「はい‥‥‥‥失礼します。」

　仙次郎は、樹里に促されて店内に入っていった。

「お掛けになって‥‥‥」
「ええ。」

　仙次郎は、樹里の専用控え室へ案内された。
　周りには、あらゆる衣装やＳＭ道具が置かれている。

「では、お聞きしましょうか。」
「はい。」

　仙次郎は、今夜、来店する青木と山井秀子の事を説明した。

「‥‥‥‥‥なるほど‥‥‥‥そんな、事情が‥‥‥‥」
「そうなんです。会社の意向で直接解雇と言う形を取りたくないんです。」
「へぇー‥‥‥ま、それは私には関係ないけど、それで、その女性がステージに？」
「ええ、予約をさせますので、その女性に今ほど言ったプレーを。」
「いいんですか？」
「ええ。そして、マスクも途中で外して言葉が喋れないように猿轡で‥‥‥‥」
「構いませんよ。」
「本当ですか？」

　樹里は、意味ありげな笑みを見せて仙次郎を見ると追言した。

「ただ‥‥‥条件が‥‥‥」
「？‥‥‥‥条件‥‥‥とは‥‥‥」
「今から、私を辱めてくれない？」
「辱める‥‥‥‥‥‥‥って‥‥‥」
「あの時‥‥‥‥貴方に一目惚れしたの。」
「‥‥‥‥‥‥‥あ‥‥‥あの‥‥‥」
「貴方に虐めてもらいたいの‥‥‥‥」

　仙次郎は焦った。
　まさか、そんな条件を言われるとは思っていなかったからだ。

「しかし‥‥‥」

　樹里は、いきなり着ている薄手のガウンを脱いだ。
　この間、見たとおり、背中には牡丹の刺青が施されている。

「嫌なら帰って‥‥‥‥」

（チッ、なんとなくハメられた感もあるが‥‥‥ま、しょうがねぇな。まだ時間もあるし‥‥‥‥よし、どうせなら楽しませてもらおうか。）

　仙次郎は、口元だけで笑うと樹里を見据えて立ち上がった。

「解りました。‥‥‥‥やりましょう。」

　仙次郎の言葉に、樹里は淫艶な吐息を吐いた。

　仙次郎は、壁に掛かっている麻縄を手に取った。

「立ってもらえますか？」

　樹里は、仙次郎の指示に従った。

　仙次郎は、器用に縄を解き、立ち上がった樹里を縛り上げていく。

「ンッ、ァァァァァァァー‥‥‥」

　数分で樹里を縛り上げた仙次郎‥‥‥‥
　完成した縛りは、後手観音縛り、いわゆる背中の後で両手を合わせ拝んでいるような格好である。
　この縛りは肩の関節と肘が柔らかくなければ、形にならないほどの荒縄縛りだった。
　早くも、樹里は、涙目になっている。

「‥‥ぁぁぁ‥‥‥‥‥素敵ぃ‥‥‥‥」
「座ってくれるかな？」

　樹里は、言う通りに畳に座った。
　仙次郎は座禅を組ませ、重ね合わせた両足首を固定すると上部に引っ張り樹里の首にかけていく。

「グゥゥゥゥ‥‥‥‥‥‥‥ンハァァァァー‥‥‥」
「さて‥‥‥‥樹里さん‥‥‥‥これでどうかな？」

　樹里の目は一気に変化した。
　乳首は、これ以上なく硬く突起し蜜壷からは薄っすらと愛液が染み出ている。

「ァァァァァ‥‥‥‥」

　仙次郎は、道具は使いたくなかった。
　真性である樹里を言葉で落とそうとしたのだ。

「さぁ‥‥‥どうして欲しいか言ってみるんだ。」
「‥‥‥ぁぁ‥‥‥オ○ンコをいじくってぇ‥‥‥」
「厭らしいマ○コだな‥‥‥‥汁がバターのように溶けて流れ出しているぜ。」
「ハゥゥゥー‥‥‥いやぁぁー‥‥‥」
「ク○トリスも皮を飛び出して顔を出しているじゃないか‥‥‥」
「ゥゥゥ‥‥‥」
「ここは、どうかな‥‥‥」

　仙次郎は、樹里の菊門を指で撫でた。

「ンアァァァァァァーッ‥‥‥‥‥イヤァァァー‥‥」

　更に、カチカチになった乳首を小指で転がしていく。

「ハウゥゥゥゥゥゥー‥‥‥イィィィィーッ！」
「ククッ‥‥‥‥千切れそうなほど硬くなってるな。」

　既に樹里の蜜壷からは、大量の愛液が流れ菊門を通り越し畳に落ちている。
　仙次郎は、再度、菊門に指を当てると、蜜で濡らした指を一気に根元まで挿し込んだ。

「ンッオォォォォォォォー‥‥‥‥ッ‥‥‥‥ウハァァッァァァァァー‥‥‥」

　その、快感と衝撃で樹里の尿道からは、チロチロと小水を流していた。
　指を鍵状にし子宮側に刺激を与えていく‥‥‥‥

「クフゥゥゥゥゥゥー‥‥‥‥い‥‥入れてぇぇ‥‥‥オ○ンコにぃぃぃー‥‥」
「いや、まだだ。‥‥‥‥‥指だけで狂ってもらおう。」
「イヤァァァー‥‥‥アゥゥゥゥゥー‥‥‥」

　恍惚な表情で淫乱な声を上げるが、瞳は責めによる悦びで浮いている。

　仙次郎は、樹里の顎を突き上げて口の中に舌を挿入した。

「ンググッ‥‥‥ンムムゥゥゥー‥‥‥‥」

　仙次郎は舌を絡ませながら舌根に近いところを探っていく。

「フムゥゥゥゥ‥‥‥‥」

　指はまだ菊門に刺さったままだった。
　樹里は、全身に力を入れ身体を動かそうとするが、後手観音と座禅縛りでは身動き一つ取れない。
　仙次郎は、舌先で舌根部の小さな突起を巧みに刺激していった。
　もがく樹里‥‥‥‥
　仙次郎のディープで全身に鳥肌を立てていく。

「ンッ‥‥ンゥゥゥー‥‥‥ンァゥッ‥‥‥‥‥アハァァー‥‥‥」

　仙次郎は、樹里の後ろ髪を引っ張りながら舌先を回転させた。

「クアァァァァァァァァァァァァァーッ！」

　樹里は、仙次郎のディープだけで昇天してしまった。
　尿道から勢いよく噴出した飛沫が、仙次郎の膝に大量に当たっていく。
　舌を抜いた仙次郎は、女芯を強く摘んだ。

「アヒィィィィィィィィィィィー‥‥‥‥」

　樹里は、白目を剥いて頭を垂れた‥‥‥‥‥‥

（‥‥‥‥‥‥ククッ‥‥‥Ｍはこれに限るぜ。）

　仙次郎は、座禅縛りを解いた。
　足をえび反りに折り曲げ腰で固定する。
　うつ伏せになった樹里の股間が大きく形を変えていった。

「‥‥‥さ、樹里さん‥‥‥‥責めさせてもらうよ。」

　仙次郎は、菊門と蜜壷に同時に指を挿入した。
　グッタリとさせていた樹里の全身が仙次郎の指によって再起していく。

「フゥゥゥ‥‥アクゥゥゥー‥‥‥」

　蜜壷だけが別の生き物のように蠢いていた。
　指に絡みつく肉壁が強烈に指を締め上げていく。

（‥‥‥‥こりゃ凄い‥‥‥‥）

　仙次郎は、恥丘側の浅い位置にあるＧスポットを巧みに撫で上げていった。

「ンァァァァァァーッ‥‥‥‥‥‥‥‥」

　前に手を回し頬を強く両側から握り締めた。
　口内の頬肉が歯に当たり激痛が走る。
　しかし、樹里は唾液を大量に垂らしながらも、それを自然と快感に変えていった。

「ウァァァ‥‥‥アガ‥‥‥ゥゥゥゥゥ‥‥‥‥‥」

　動けば動くほど縄が身体に食い込んでいく。
　既に後手観音にされた手は、紫色に変色していた。
　仙次郎は、腰椎の真上に中指を立てた拳できつく押していった。

「ウギィィィィィィィィー‥‥‥‥」

　強烈な痛みと共に下半身の力が抜けていく。
　しかし、樹里は、この不思議な痛みが即座に快感に変わり、体が宙を舞っている様な錯覚を覚えた。

「フゥゥゥゥゥゥゥー‥‥‥‥‥ァ‥‥ァァ‥‥‥‥ァァァァー‥‥」

　樹里の目は虚ろで泳いでいる。
　仙次郎は頃合と見てズボンをブリーフごと下ろした。
　前に移動した仙次郎は、いきり立った肉棒を樹里の口に挿入した。

「ムグググググゥッ‥‥」

　仙次郎は、頭部を両側から押さえつけ腰を降り始めた。

（ん？‥‥‥‥‥咽喉口が広いな‥‥‥‥）

　仙次郎は、それを納得すると根元まで肉棒を押し込んだ。

「ンクゥゥゥー‥‥‥グゥッ‥‥‥グゥッ‥‥‥グゥッ‥‥」

　案の定、スロートも出来るようだ。
　樹里の喉が大きく膨れ、目は充血し涙を流している。
　剛士は窒息しないように抜き挿しを繰り返しながら樹里を遠慮なく責め立てていった。

　暫くして樹里の身体が硬直し始めた。
　仙次郎は口から肉棒を引き抜くと後ろに回り、グッショリと濡れた蜜壷に肉棒を勢いよく打ち込んだ。

「アッヒィィィィィィィィィィィィィーッ！」

　樹里は、大絶叫した。仙次郎は、菊門に指を入れ強く刺激しながら腰を突き上げていく‥

「‥‥アゥゥゥ‥‥‥こ‥‥‥こんな‥‥‥‥な‥‥‥‥も‥‥‥し‥‥‥死ぬぅ‥‥‥イ‥‥‥‥イアヤァ‥‥‥‥‥だ‥‥‥‥駄目‥‥‥‥ダメェ‥‥‥‥ァァ‥‥ゥゥゥゥゥ‥‥‥ウッ‥‥‥‥ウッハァァァァァァァァーッ！」

　仙次郎も同時に樹里に中で果てた。
　熱い分身が、再奥の壁に当たっていく。
　樹里は、まるで麻酔をされたように、ゆっくりと目を閉じていった。

（‥‥‥‥‥かなり‥‥‥‥‥名器だな‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、服を着直すと樹里の縄を解いていった。
　徐々に血の気が戻っていく‥‥‥‥

　仙次郎は、樹里の上体を起こしガウンを羽織らせると股間にティッシュを当てて静かに寝かせていった。

（２０）

　樹里が、気がついたのは２０分ほど経過してからだった。
　薄っらと開けた目に映るのは、煙草をふかしている仙次郎の笑顔だった。
　樹里は、咄嗟に飛び起きると仙次郎に抱きついた。

「‥‥‥ァァァ‥‥‥やだっ‥‥‥‥もう離さない‥‥‥貴方は私のもの‥‥‥‥絶対に、絶対に離さないゎ。」
「ぇ‥‥‥えぇぇぇーっ！」

　仙次郎は、困惑気味に樹里を静かに突き放した。

「あ‥‥‥あの‥‥‥‥私は‥‥‥‥」

　樹里は妖艶な視線を崩さずに仙次郎に囁いた。

「‥‥‥‥‥ＳＥＸでイカされたのは初めてよ‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥そ‥‥‥‥べ、別に‥‥私は‥‥‥」
「貴方は、この間見た時に不思議な魅力があるって感じたの‥‥‥私を貴方の‥‥‥」
「ちょ、ちょっと、待って下さい。」

　仙次郎は、樹里を落ち着かせようと必死になった。

「私じゃ駄目？　嫌い？」
「いや、嫌いとかじゃなくて‥‥‥その‥‥‥」
「だったら、私を貴方の女にしてっ。結婚してなんて言わないわ。」
「あの‥‥‥貴女は、あの人の‥‥‥‥」
「清ちゃんのこと？‥‥‥あの人はプロの緊縛師‥‥‥商売上のパートナーよ。‥‥‥‥‥それに‥‥‥‥‥」
「それに？」
「彼は‥‥‥無いの。」
「無いのって‥‥‥？」

　樹里は、仙次郎の股間を触って答えた。

「‥‥‥これが‥‥‥」
「‥‥‥‥！」

　清ちゃんと呼ばれた男、番清七は、ある事情で男根を失っていたのだ。

「私は、本番をするＳＭ嬢じゃないの。あくまで道具でイカされるだけ。今まで、それで満足だったの。‥‥‥だけど‥‥‥‥今、貴方に‥‥。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「今日、貴方の物が入ってきたとき‥‥‥衝撃が走ったわ‥‥‥‥何年かぶりに。そう‥‥‥男の人の物が‥‥‥‥それも、経験した事が無い最高の快感だった。」
「あの‥‥‥失礼ですが‥‥‥彼氏とか‥‥」
「居ないわ。貴方が、今日から私のご主人様よ。」

　樹里は、この世界に入ってから一度も男性と付き合った事は無かったのだ。

「ま‥‥‥‥‥まあ、その話はいずれ、ゆっくりと‥‥‥」
「そんなこと言って、もう店に来ないんでしょっ！」
「そんな事ありませんよ。」
「じゃ、電話番号教えてっ！」

　仙次郎は、断わる理由も無く樹里の強引さに、つい電話番号を教えてしまった。

　樹里は、これ以上ない笑顔を仙次郎に投げた。

「私、決めたわ。貴方にずっと着いていきます。」

（着いていくって‥‥‥‥‥亜希子に知れたら、また怒られるな‥‥‥‥）

　仙次郎は、少々、後悔しながら今夜の段取りを説明した。

☆☆☆☆☆

　秀子は、青木と居酒屋で会話をしていた。

「私、お昼に電話で言ったことは本意じゃないんです。誤解しないで下さいね。」
「もういいさ。」
「私、課長のお気に入りの女になります。‥‥‥高塚の女狐になんか負けません。」
「‥‥‥ああ‥‥‥」

　青木は、酒を飲みながら静かに秀子の話を聞いていた。

「それで、課長、そのＳＭクラブは、まだ開店していないんですか？」

　青木は時計を見ながら秀子に答えた。

「２０時からなんだ。まだ、１時間以上あるよ。」
「そうですか‥‥‥私、どんな事されても我慢出来ます。」
「しかし、君、何故、そんなに昇格したいのかね？」

　秀子は、正直に気持ちを話した。

「私、この会社に、補欠採用で入社したんです。女性社員は６人居たんですが、そのうち２人は結婚退社して‥‥‥残った私以外の女性は皆、優秀でした。活躍できる目立つ部署ですし、彼女らは、いい意味で対抗意識を持ってて。でも、私だけは眼中に無いような態度をとられてたし見下されていたんです。私は、見返したいと言う気持ちが強くなって。彼女らに勝つためなら‥‥‥。」
「しかし、こんな手を使うのは卑怯じゃないのかね。」

　秀子は、青木を睨んで怒鳴るように言い返した。

「いい思いしたいのっ！‥‥‥将来は、部下を持って、海外に出向したり、周りから脚光を浴びたいのよっ！」

　青木は、唾を飲み込みながら秀子の執念に驚きを見せた。

「しかし、君の態度や行動が、他の者にいい印象を与えないと昇格しても部下は、君についてこないんじゃないのかね？」
「だから、これ見よがしという態度は、出していません。私のしている事がバレたら一貫の終わりだし、私のプライドはズタズタになってしまうわ。まして、身体を売って課長に媚びいれたと判ったら笑い者にされてしまう。」
「ぼ、僕は言わないよ。」
「そのときは道連れよ。課長が黙ってさえいてくれれば、直接、社の人間に見られない以外、恥もかかないし。」
「見られない？」
「高塚さんだって、上手にやってるじゃない。課長の趣味でいつも下着を着けないで出社してるんでしょ。それに‥‥」
「き‥‥‥君‥‥‥‥」
「フフッ‥‥‥役員トイレとかで楽しんでいるんですってね。」
「‥‥‥‥‥‥」
「見つからなければ大丈夫なの。彼女だって、それを見られたら会社に居られなくなるでしょ。私も同じよ。それを知られてまで会社に居られないわ。でも、私、課長の命令だったら上手に‥‥。」

　秀子は、実力に反比例して、かなりプライドが高い女性だった。

「山井君‥‥‥‥」
「私が、今まで課長に抱かれてても、それに気づかなかったの。」
「‥‥‥‥それは‥‥‥」
「言ってくれれば良かったのに‥‥‥そういう趣味があるって。」
「‥‥‥あ‥‥‥ああ‥‥‥」
「具体的に、ＳＭクラブでは、どういう事をするの？」

　青木は、仙次郎に説明された事を秀子に話し始めた。
　秀子は、多少、驚きながらも、高塚が青木にされている事を想像しライバル心をメラメラと燃やしていった。

「私にだって出来るわ。それに顔が判らないように仮面を被ってもいいんでしょ。」
「ああ。」
「私、いやらしい事は大好きだし、それに少し興味があったの。」
「そ、そうかい‥‥‥‥‥」
「ちょっと、トイレに行ってくるわ。」

　秀子は、青木に振り向きざま淫艶な視線を送りながらトイレに向かった。

☆☆☆☆☆

　青木と秀子は、開店と同時にＳＭクラブ、奈落に入った。
　青木は、さっそくステージ調教の予約を済ませ店内に入っていく。

　店内には、中年のカップルやマニアらしき客がたくさん居た。

「意外と多いのね。」
「ああ‥‥‥露出や視姦願望の強い女性が多いんだ。」
「そうなんですか。」
「カップル以外は料金が倍なんだ。そのかわり、１枚５０００円で写真も撮れる。」
「へぇぇー。」
「視姦願望の強い女性は、ステージに上がらずとも服を脱いで、他の客に見せて楽しんでる人も居るんだよ。」
「そうなの？」
「ああ。意外と良い小遣い稼ぎになるようだしね。それに、自分のパートナーを見せて興奮するんだ。」

　青木は、秀子にそう説明しながらカクテルを頼んだ。
　時計を見る青木‥‥‥‥
　まだ、仙次郎が来るまでに１時間はある。

　秀子が落ち着かない様子で青木に声をかけてきた。

「私がステージに上がるのはいつなの？」
「そこの版に今日のスケジュールが書いてあるだろう。」
「あ、３番目のショーね。」
「‥‥‥約、１時間後かな。」
「なんだか緊張してきたわ。フフフッ‥‥‥」

　その頃、仙次郎は、樹里の控え室から出て店の外で達也を待っていた。

（遅っせーな‥‥‥）

　そこへ、真っ黒のプレジデントが仙次郎の前で止まった。
　後部座席から達也が降りてくる。

「帰りは、一人で帰るから。」

　そう言ってドアを閉めると仙次郎に走り寄ってきた。

「仙次郎さん、すいません。会議が長引いてしまって。」
「なに、いいさ。たまには一緒に飲もうと思ってな。」
「今日も面白い話を聞かせてください。」
「話もいいが、ちょっとショーでも見ようじゃないか。」

　店を振り向く仙次郎‥‥‥‥

「ほぉー、面白そうですね。」
「ＳＭショーを見て、女房に試してやれよ。」
「そんな事したら殺されますよ。」

　二人は大笑いして店内に入っていった‥‥‥‥‥‥‥‥