（２１）

「達也、ビールでいいか？」
「ええ。しかし、ここはエキサイティングな感じですね。」
「そうだろ。もうじきショーが始まるから楽しめよ。」
「ハハ、そうします。‥‥‥ところで、仕事のほう順調なようですね。」
「まあな。」
「夕方、西条君に聞いたら、初の追い出し作戦をやるそうで。」
「ああ、それが今日、この場でだ‥‥‥」
「えっ‥‥‥？‥‥ここで。」
「ああ。前の席を見てみろよ。」

　仙次郎が指でカウンターを指した。

「あれは、人事課長の青木‥‥‥‥」
「ああ、その隣の女性がターゲットだ。山井秀子と言う庶務課の主任だ。」
「彼女が、どうしたんです？」
「昇格を狙って、青木さんを脅かしたらしい‥‥‥身体を使ってな。」
「脅し‥‥‥というと？」
「今度の異動人事で事業部の推進係長のポストが空くだろう。そこを狙ってるんだ。」
「ほぉー‥‥‥でも、あそこは重要なポストですよ。」
「らしいな。」
「彼女は、実力があるんですか？」
「青木さん曰く問題外だそうだ。だから身体を使ったんだろう。」
「なるほど‥‥‥青木さんも気の毒でしたね。」

　仙次郎は、呆れながら達也を見て言い放った。

「しかし、達也、お前、重役の割にそういう事を知らないんだな。」
「え‥‥‥あ、いや‥‥‥その重役といっても、まだ親父‥‥あ、いや、社長の使いっぱしり‥‥つまり修行中でして。」
「ハハ、ま、西条の言うには、青木さんは社の幹部からも信頼されてるし、助けないと今後に、かなり響くそうだ。」
「ええ、彼は、人事考査にかけては、天下一品ですからね。」
「ま、見てな‥‥‥あの女の落ちるところを。」

　仙次郎は、煙草に火をつけると美味そうにビールを飲み干した。

　２回目のショーが終わり休憩タイムに入った。
　秀子が店のスタッフに呼ばれたようだ。
　青木と共に裏部屋に入っていく。

（‥‥‥‥青木さん、上手に説明してくれよ‥‥‥）

　仙次郎は、心の中でそう叫びながら腕時計を見た。

（‥‥‥‥そろそろ、洋平たちも来るな‥‥‥）

　そう思っていた矢先、洋平が、女性数人を引き連れて店内に入ってきた。

「キャァー、凄いぃーっ！」
「次長、こんな店に来るんですか？」

　女性らが歓声を浴びせながら洋平の後に続いてくる。

「いや、始めてさ。広学のためにね。それに一人じゃ来る勇気ないし、それで君たちを誘ったってわけだよ。結構面白いって聞いたんだ。」

　そう言って、洋平は、仙次郎のほうを見た。

「ん、仙次郎さん、西条君じゃないですか。」
「ああ、社の女性を連れて来てくれと頼んだんだ。」
「何か作戦でも？」
「ああ。洋平が連れてきた女性は、今度の昇格候補の女性なんだ。」
「えぇっ！‥‥‥‥つまり‥‥‥」
「ああ、青木さんと一緒に居た女性の同期だ。‥‥‥まだ来るぜ。」
「は？」

　そこへ、人事係長の山田が、またしても社の人間と店に入ってきた。
　連れているのは、人事部と、現在、秀子が所属する庶務課の連中だった。

「仙次郎さん、どういうことなんですか？」
「鈍い奴だなぁ‥‥‥‥山井秀子が、ステージに上がるんだよ。」
「えぇぇぇーっ！」

　仙次郎は、感の鈍い達也に事情と作戦を説明した。

「なるほど‥‥‥‥‥しかし、よく彼女が承諾しましたね。」
「まあ、昇格の欲望は、性格をも変えるんだろうな。必死なんだろう。恥も外聞もない状態だと思うぜ。」

☆☆☆☆☆

「では、お客様、内容をリクエストしてください。」

　スタッフが青木と秀子にプレーの内容を問い合わせていた。

「課長‥‥‥高塚さんと同じ事して。」
「‥‥‥いいのかい？」
「ええ。‥‥‥‥私、課長の女ですもの。」
「わかった。じゃ‥‥‥」

　青木は、スタッフに、５つあるコースのうち全てをリクエストした。
　内容は、緊縛、吊るし、剃毛、言葉責め、道具の使用だ。
　そして、カウンターロール、つまり、カウンターを１周し客の視姦を浴びるのだ。

「では、襦袢を着て頂きますので服と下着を全て脱いで、これに着替えてください。」
「はい‥‥」

　秀子は、服を脱いでハンガーに掛けた。
　下着をバッグにしまい、真っ裸になると襦袢を着て帯を締めた。

「じゃ、僕は席に戻ってるから。」
「ええ‥‥‥私を見て興奮してね。」
「ああ‥‥‥‥」

　青木は、そう言って店内に戻っていった。

　秀子は、目だけを覆う仮面をはめ、更に目隠しをされた。

「では、音楽が流れたらスタッフが誘導しますので‥‥‥」
「はい。」
「緊縛師が、色々と話し掛けますが、答えてもいいし無視しても結構です。貴女に合わせて、演技は進められますので‥‥‥ただ反応していただくとお客様も喜びますし、演技も迫真化していきます。飛びかったチップは全てお客様の物になります。時間は、約４０分ですのでご了承ください。」
「‥‥‥解りました。」

（‥‥‥課長が悦ぶように、思いっきり淫乱にやってやるわ。）

　秀子は、不思議と興奮が湧いてくるのがわかった。
　むしろプレーを楽しみにしているような感さへ浮かべている。

　そして、数分後、ステージに音楽が流れ始めた。

　ステージでは、サングラスを掛けた男、緊縛師の番清七が、マイクを持って客に挨拶をしていた。

「本日３回目のショーは、ご存知、素人ショーでございます。」

　客から一斉に拍手が沸きあがった。

「先週に引き続き、スペシャルメニューをご希望されました。」

　客からは、更に歓声が上げる。

　店内の照明がオレンジ色に変わりステージだけが、真っ暗になった。
　清七を照らすスポットライト‥‥‥‥

「疎かな‥‥‥望み欲する蝙蝠を‥‥‥‥落として三途の川向こう‥‥‥‥」

　清七の開始の言葉が流れた‥‥‥‥

「さ、行きますよ。」

　スタッフに合図をされ、秀子は、導かれてステージに上がった。
　拍手の渦の中、秀子はステージの真ん中に誘導された。
　立ち去るスタッフ‥‥‥‥

　ステージの照明がつけられた。
　秀子は、清七の隣で立ち尽くしている。

「女‥‥‥‥何が望みだ？」
「‥‥‥‥あ‥‥‥あの‥‥‥‥う‥‥‥うんと厭らしく‥‥‥」

　数人の客が、手を叩いた。

「クッ、クッ、クッ‥‥‥‥よかろう‥‥‥‥襦袢を脱げぃ！」

　秀子は、言われるとおりに襦袢を脱いだ。
　清七は、秀子に近づき縄を当てた。

　巧みな手業で、秀子を胸縄後手緊縛に縛っていく。
　清七の技術に客が歓声を上げた。

　背中の真後ろで縛られた両手首を、天井のフックに掛け固定した。
　胸の縄が食い込み、乳房が異様に張り出していく。

「‥‥ア‥ア‥ア‥‥‥‥‥ァァァァ‥‥‥‥」

　清七は、秀子の片方の膝を縛ると同じく天井のフックに固定した。
　秀子の股間は大きく開き客の目に晒されていく。

（‥‥‥ァァァ‥‥‥何となく興奮する‥‥‥今、皆が見てるんだわ。‥‥）

　秀子は、心臓の鼓動が早くなってきた。

「女っ、口を開けろっ。」
「‥‥‥は、‥‥‥はぃ‥‥」

　清七は、竹筒を秀子の口にいれ猿轡をした。

「これで、お前は呻き声しか上げられない‥‥‥心して恥辱を受けろ。」

　頷く秀子‥‥‥‥
　清七は、秀子の目隠しを外した。
　客の姿は、ブラックライトで目だけが鮮明に映し出されており、薄っすらとしか、全体は見えない。

　秀子は、青木の姿を探したが、なかなか見つける事は出来なかった。

　清七が、秀子の陰毛に泡を塗りつけた。
　剃刀を当てて綺麗に剃り落としていく。

「‥‥‥‥ゥゥゥゥゥー‥‥‥‥」

　秀子は、蜜壷から自分の愛液が垂れるのが判った。

「クククッ‥‥‥女よ‥‥‥濡れておるじゃないか。」
「ンゥゥゥゥー‥‥‥」

　清七は、秀子の陰毛を綺麗に剃り落とした。
　客達は、低い声で唸っている。

「さて、‥‥‥‥‥地獄の責めを受けてみよ。」

　清七の言葉で、ステージのブラックライトが、カウンターと同じオレンジ色に変わった。
　客の顔が一斉に確認できるようになった。

（‥‥‥ぁぁぁ‥‥‥‥恥しいぃぃ‥‥‥‥‥）

　周りを見渡す秀子‥‥‥‥‥

　その時、秀子の目に飛び込んできたのは見覚えのある顔と姿だった。
　一気に全身が凍っていく錯覚を覚えていく。

（エェッ！！‥‥‥‥‥‥そ‥‥‥そんな‥‥‥‥た‥‥‥高塚洋子‥‥‥‥）

　秀子は、目が飛び出しそうだった。
　隣には同期の二人と次長の西条も居る。
　慌てて青木を探す秀子‥‥‥だが、青木の姿はない。

　焦った秀子ではあったが、よくよく考えれば、仮面を被っており、そうそう気づかれるものではないと気づいた。

（‥‥‥‥だ、大丈夫‥‥‥見つかりっこないわ。）

　清七は、秀子の蜜壷を撫で上げていた。

「ぁぁぁ‥‥‥‥‥ウゥゥゥゥゥーッ！」

　清七は、秀子の後ろ髪を引っ張り、カウンターをまわり始めた。

「オアァァァァァァァァァーッ‥‥」

　カウンターから、秀子の股間を除く男性客、カメラのフラッシュが秀子を襲う。
　そして、前に来る度に拍手と淫乱な言葉が飛び交った。

　元の位置に戻った秀子の髪を清七は、押すように離した。
　しかし、その拍子に仮面が外れてしまった。

（！‥‥‥‥そ、そんな‥‥‥‥）

「ンオァァァァァァァァァァァァァァァァァー‥‥‥‥アー‥‥‥アァー‥‥‥」

　必死に喚く秀子‥‥‥だが、言葉にならず、当然、客も演技と思っている。
　秀子は、首を左右に激しく振りながら暴れていた。

「そうそう‥‥‥もっと嫌がれっ！」

（違うぅぅー‥‥‥ヤメテェェェェェェェェェェェー‥‥）

　そう叫ぶが、全く言葉にならない。
　一方、何も知らない同期の高塚達は、仮面が取れた秀子を見て、歓喜気味の笑顔が、一気に驚愕の表情に変わっていった。

（２２）

「ちょ‥‥‥ちょっと‥‥‥‥あ‥‥‥あれ‥‥‥‥や、山井さんじゃ‥‥‥」

　高塚が言わずとも全員が気がついていた。

　皆、驚いた様子で秀子を見ている。
　しかし、それを知っている洋平は、落ち着いた声で高塚たちに呟いた。

「‥‥‥‥まさか、彼女にこんな趣味があったとはなぁ‥‥‥いやぁ‥‥凄いよ。」

　秀子に聞こえるような声で話し掛ける洋平‥‥‥

　その言葉に、隣の同期３人も、徐々に様子を変えていった。

「ぁ‥‥‥え‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥‥フフフッ‥‥‥‥そ、そうですね‥‥‥‥‥」

　洋子も、シドロモドロに相槌をうつ‥‥‥‥

「本当‥‥‥ね。‥‥‥でも、とても真似できないわ。」

　もう一人の同期が、そう囁いた。

　洋平が、３人の女性に囁いた。

「色々な性癖を持った人が居るさ。さぁ、せっかくだし、じっくり見ようじゃないか。」
　洋平の声で、３人の同期は、卑猥な笑みを見せて秀子を見入った。

「ンアァァァァァ‥‥‥オォォォォォォォォォォー‥‥‥‥‥」

　竹筒から涎を垂らしながら秀子は声を荒げた。
　しかし、他の客は、秀子の迫真の演技と思い拍手で湧かせていく‥‥‥‥
　清七は、ツルツルになった秀子の恥丘にクリップを縦に挟んだ。

「アオォォォォォォー‥‥‥」

　亀裂が延び、女芯が顔を出す。秀子の心内は、もはや尋常ではなかった。
　顔を隠そうにも隠せない‥‥‥
　必死で顔を叛けると、そこには、同じ所属の庶務課の連中がいた。

「アヒィィィィィィィー‥‥‥‥オアァァァァァァァー‥‥‥‥」

　自然と声を荒げる秀子‥‥‥庶務課の連中も秀子と気づいたようだ。

「‥‥‥ま‥‥‥‥まさか‥‥‥‥ちょっと‥‥‥‥山井主任じゃ‥‥‥‥」
「ウッソォォー‥‥‥‥」

　後輩の一人が大声を上げた。
　涙を大量に流しながら秀子は暴れた。
　しかし、縄の締め付けは半端じゃない。
　全く動く事もできずに、ただ、歯で竹筒を噛み締めるだけだった。

　清七は、太目のバイブを秀子の蜜壷に当て蜜を湿らせていった。
　滑りが広がり糸を引くと、ゆっくりと客に見えるように蜜壷に挿入していく。

「アー‥‥アー‥‥アァァー‥‥‥‥アォォォー‥‥‥」

　清七は、バイブの根元を紐で固定し縄で吊られている太腿に縛りつけた。

　スイッチを押す清七‥‥‥‥
　モーター音が、店内に響き渡る。
　清七は、再度、秀子の後ろ髪を掴みカウンターを回り始めた。
　全身を震わせる秀子‥‥‥‥

　客は、秀子の蜜壷に深々と刺さるバイブに見入っていた。
　興奮しながらカメラのシャッターを押す男性客‥‥‥‥‥

「凄いわ‥‥‥山井主任、あんな太いバイブを入れられて悦んでいるもの。」

　その声が秀子の耳にも伝わった。
　庶務課の前のカウンターに来ると、後輩の男性社員が唸った。

「んーっ‥‥‥主任のアソコは、あんな形だったのか‥‥‥」
「意外と真っ黒ね。使い込んでるのかしら。」
「男なんて居ないと思ってたよ。」
「だから、バイブでオナニーしてるんじゃないの。」

　色んな声が秀子に聞こえた。秀子は、真っ赤に目を充血させて涙を流していた。

（‥‥‥もう、やめてぇぇぇー‥‥‥‥許してぇぇー‥‥‥ッ‥‥）

　しかし、秀子の意に反してプレーは続いた。
　胸縄縛りは、そのままに、高手小手縛りを解いて両手をそのまま垂直に吊るし直す。

　両足を左右から引っ張り、同じく天井から吊るし上げると、秀子の股間は突き出すようにして全身がぶら下がった格好になった。

　蜜壷に刺さるバイブと菊門が露になった。
　清七は、バイブのスイッチを強にした。

「オアァァァァァァァァァァァァァー‥‥‥‥」

　バイブは固定されているため外れる事はない。
　その分、蜜壷から露出している部分が円を描くように回り見る者の目を楽しませた。

（イヤァァァァァァー‥‥‥‥もう、やめてぇぇぇぇー‥‥‥‥）

　アイシャドーが涙で流れ落ち、頬を黒く汚していく‥‥‥‥
　秀子の痴態は見るものをひどく興奮させていた。
　清七は、エアーポンプの管を秀子の菊門に挿入した。

（‥‥‥ィ‥‥‥イヤァァァァァァァァー‥‥‥）

　首を激しく振る秀子‥‥‥‥
　清七は、動じる事無く空気を入れていった。

「ハハァァァー‥‥‥オアァァァァァー‥‥‥」

　秀子の下腹部が膨れ上がっていった。客は、目を丸くして秀子を見ている。
　清七は、空気を送っていた手を止めた。
　秀子の下腹部は妊婦のように膨れ上がっている。
　管に取り付けられたストッパーにも空気を送り、漏れないようにすると、清七はバイブを握りピストン運動を開始する。

「ンオアァァァァァァァー‥‥‥」

　身を乗り出して秀子の股間を注視する中年男性‥‥‥
　ステージが回転し、同期の連中や庶務課の仲間の前を通るたびに秀子は、最大の羞恥が全身を襲った。

（‥‥‥も‥‥‥‥もう‥‥‥‥‥ぃ‥‥‥‥いや‥‥‥‥‥‥）

　秀子は、まさに店名どおり、奈落の底に落とされた状態だった。

　そして‥‥‥‥

　清七は、風船をつけたストローを秀子の菊門に突っ込んだ。

「オアァッ‥‥‥」

　管を抜き、指で摘んでいたストローを緩めると腸内の空気が一気に風船に逆流していった。

　客は、膨らむ風船を見て一斉に歓声を上げた。
　風船は、５０センチ近くまで膨らむと大きな音を立てて破裂した。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ！」

　客から怒号に似た歓声が上がると、暫くして女性客から笑いが漏れていく‥‥‥‥
　ステージの床から天井に向かってミストシャワーが上がった。
　悪臭を消す香水のようなものである。
　秀子は竹筒を咥えたまま号泣した。

（‥‥ウゥゥゥゥー‥‥‥‥も‥‥‥‥‥‥もう‥‥‥‥‥‥イヤァ‥‥‥）

　ショックと絶望感で失禁を始める秀子‥‥‥‥
　さすがに社の仲間達は驚きを隠せない。

　必死で放尿を止めようとする秀子だが、精神的なショック状態に陥っており力が全く入らなかった。

「山井さん、いいぞぉぉー！」

　洋平が、秀子に聞こえるように叫んだ。
　他の客からは、拍手が起こり、まさにＳＭマニアの醍醐味を演じてくれた秀子に感激したようだった。

（‥‥‥‥‥‥ゥゥゥゥ‥‥‥‥‥‥も‥‥‥もぅ‥‥‥‥私は‥‥‥‥）

　縄を解かれ、床にひれ伏す秀子‥‥‥‥
　駆け寄ったスタッフにステージから降ろされていった。

「さてと‥‥‥‥ちょっと行って来る。」

　仙次郎は、達也にそういい残して控え室に入っていった。

☆☆☆☆☆

「失礼するよ。」

　仙次郎は、秀子のいる控え室に入った。

　秀子は、ガウンを着たまま尻餅を付いて朦朧としていた。

　目だけを仙次郎に向ける秀子‥‥‥‥

「‥‥‥‥‥‥誰‥‥‥‥あんた‥‥‥」
「私は、高輪といいます‥‥‥‥榊原のオフィスメンタルクリニックにいる‥‥‥‥」

　秀子は、社報で見た高輪と気づいた。

「‥‥‥‥何で、こんな所に‥‥‥‥‥‥‥‥見てたの？」
「ええ。‥‥‥‥」
「‥‥‥そう‥‥‥‥私を見て、オ○ンチン勃起した？」

　秀子は、頭が混乱しているのか、開き直ったのか、化粧が落ち汚れた顔を拭おうともせず、淡々と言葉を吐いていく。

「‥‥‥‥そうですね‥‥‥ま、ほどほどには‥‥‥‥」

　秀子は、口元だけで笑ったかと思うと、何かを思い出したように号泣し始めた。

　鎮まるまで待つ仙次郎‥‥‥‥‥
　小さな嗚咽に変わったとき、仙次郎は、静かに話を始めた。

「‥‥‥‥山井さん‥‥‥‥青木さんから話を聞きました。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「貴女の魂胆は、失敗でしたね。」
「‥‥‥‥‥‥」
「人間、誰しも欲はある。金欲、食欲、独占欲‥‥‥‥‥‥貴女は、出世欲が大き過ぎたようです。」
「‥‥‥‥‥‥だ‥‥‥‥誰でも‥‥‥‥ある‥‥‥‥でしょ‥‥‥」
「そうとも言えないが‥‥‥ま、異常な事ではない。しかし、君は、その欲に対して実力が伴っていなかった。‥‥‥だから、心の隙間から魔が差し込んで来る‥‥‥」
「！‥‥‥‥‥」
「君は、変思考性欲求症候群といい、目的達成のためには善悪の判断できなくなり、強引に突っ走ってしまうんだ。」
「‥‥‥‥‥‥違うわっ！　違うわよっ！」
「君は気づかないだけさ。君は入社した時点で、そうなってしまったんだ。補欠採用と言うコンプレックスで同期には負けたくないという気持ちから、自分は、人に注目されなければ、裏で駆け引きをしなければ彼女たちを追い抜けないと決め付けてしまったんだ。それが悪い方向に行ったのさ。」
「‥‥‥わ‥‥‥私は‥‥‥」
「それが根底にあるために、仕事で評価されようという企業人にとって一番大事な事を忘れてしまった訳だ。」
「‥‥‥‥やめてよっ！‥‥‥‥山田人事係長に聞いたわ。出世する女性キャリアは、人事課長のお気に入りで身体を売っているってっ！」
「そんな馬鹿な事があるわけないさ。君の同期の高塚君も青木課長とは付き合ってもいないよ。」
「嘘よっ！」
「本当だ。青木課長は、私に相談に来たんだ。そして、山田係長に協力してもらっただけさ。」
「！‥‥‥‥‥そ、‥‥‥そんな‥‥‥‥‥‥‥わ、私を騙したのっ！」
「騙したのは君だろう。」
「‥‥‥ひ‥‥‥‥卑怯よ‥‥‥‥卑怯じゃないぃぃっ！」
「だから、卑怯なのは君だろう。‥‥‥‥何人の男性に身体を売ったんだ。」
「‥‥‥ゥッ‥‥‥‥‥」
「たかが、出世するだけのために馬鹿な事をしたのは君だ。」

　秀子は、仙次郎の言葉に激しく反論していく。

「補欠採用ってだけで、同期から見下された視線を浴びるのよ。絶えられないじゃないっ。‥‥‥誰でもやってる事だわっ！」
「そういう人間を社から追い出す役目も私の仕事だ。」
「‥‥‥‥‥‥」
「考えてみたまえ。そういう人間が本物の仕事が出来るかい。社の業績を上げ、さらに部下を引っ張っていけるだろうか？」
「‥‥‥‥‥‥」
「実力は、努力で身についてくるもんだよ。」
「‥‥‥‥‥‥そんな‥‥‥‥簡単に‥‥‥」
「いいかい、よく聞くんだ。君のよく知っている名倉課長‥‥‥そして、人事課長の青木さんも補欠採用なんだよ。」
「！！」
「‥‥‥この会社は、試験の成績だけで採用するんじゃないんだ。入社して実力を発揮していく者も居る。トップの成績で入社しても地方に飛ばされる者も居る。‥‥‥‥‥いいか、よく聞きたまえ。上に上がりたいならば努力を見せる事だ。そして必死になる事だ。だが、君の必死さは違う所で発揮したようだ。仮に昇格しても降格は時間の問題だよ。考えが浅薄だったとしか言いようがない。」

　焦点の合わない視線を左右にちらつかせる秀子‥‥‥‥
　もう、何も言葉が出なかった。

「さて、青木課長は、約束どおり昇格させるといっているがどうするね。」
「‥‥‥‥‥‥‥居られるわけないでしょ。」
「‥‥‥‥‥？」
「‥‥‥あんな醜態を見られて会社に居られるわけないじゃないのぉっ！」
「だろうね‥‥‥‥‥‥西条次長のはからいで退職金は倍出すそうだ。解雇ではなく、円満退社という形で他企業を紹介するとも言ってた。勿論、君が働く気があればだがね。‥‥‥‥承諾は君の自由だが。」

　仙次郎は、そう言って部屋を出ようとした。

「‥‥‥‥待って‥‥‥‥」

　振り向く仙次郎‥‥‥‥‥‥‥

「教えて‥‥‥‥‥‥どうすればいいの‥‥‥どうすれば目的が叶うの？」

　仙次郎は、前を向いたまま淡々と答えた。

「‥‥‥‥‥‥自分を理解する事‥‥‥‥‥‥勤める会社を愛する事だ。そして、希望を捨てない事‥‥‥‥‥第二の人生、頑張ってください。」

　仙次郎はそう言って控え室を出て行った‥‥‥‥‥

☆☆☆☆☆

　社の連中は、店を出て行ったようだ。
　仙次郎は、達也が待つカウンターに足を運んだ。

「おう、待たせたな。！‥‥‥‥ゲッ‥‥‥」

　達也は、樹里と談話をしていた。

「あぁん、高輪さん、この方から色々聞いたわよぉ。」
「き、聞いたって‥‥‥‥？」
「仙次郎さん、心理学博士なんですって？」
「ぇ‥‥‥そ‥‥‥その‥‥‥‥」
「それに、キックボクシングのチャンピオンだったらしいじゃない。」

　仙次郎は、達也を睨んだ。

「‥‥‥達也‥‥‥ペラペラと‥‥‥‥‥」
「ぁ、いや、その、この人が、オッパイ見せてくれたし‥‥‥その美人だし‥‥‥」
「榊原さん、仙次郎さんは、私のご主人様なの。」
「え？‥‥‥‥ご主人様‥‥‥‥ですか‥‥‥‥」
「そ。今日からね。」

　仙次郎は、眩暈を覚えた。

「じゅ、‥‥‥樹里さん‥‥‥ちょっと‥‥‥‥」

　慌てふためく仙次郎‥‥‥‥‥
　隣で達也は笑っている。
　からかいの口笛を吹きながら達也は仙次郎の脇をコツいだ。

「て、てめぇー‥‥‥こら、達也っ‥‥‥‥」
「仙次郎さんは、モテますねぇ‥‥‥ヒッ、ヒッ、ヒッ‥‥‥‥」
「ヒッ、ヒッ、ヒッじゃねぇ‥‥‥絶対に黙ってろよっ！」
「解ってますって‥‥‥‥ウププッ‥‥‥」
「‥‥‥‥ゥ‥‥‥クッ‥‥‥」

　仙次郎は、ガックリと項垂れながらヤケクソ気味にビールを呷っていった‥‥‥‥