（３１）

　咲子は、コンピューター付きのリラックスチェアに座って天井を見上げていた。
　そこへ、仙次郎が、機材を持って応対室に戻ってきた。

「神野さん、今からこのモニターに映る映像を最後まで見ててください。」
「‥‥‥‥はい。」
「それと、もう一つ‥‥‥絶対に目をそらさない事を約束してください。」
「‥‥ゎ、解りました。」

　仙次郎は、咲子のこめかみと手首にセンサーを当ててヘッドフォンを耳に被せた。
　モニターを咲子の目の前に持っていき、ディスクをデッキに挿し込んだ。
　マイクを持った仙次郎が咲子に囁きかけた。

「私の声が聞こえますか？」
「はい。」

　特殊なマイクで、コンピューターにより誰が喋っても女性の声でヘッドフォンから声が流れるようになっていた。

「では、映像を流します。」

　仙次郎は、スイッチを押した。
　モニターに映し出されたのは、仙次郎が、あらゆるアダルトビデオを編集して作成したアブノーマル映像だった。
　一人の若い女性が、ある部屋で椅子に座らされている。

「神野さん‥‥‥‥この女性は、貴方です。‥‥‥そう思い込んでください。」

　頷く咲子‥‥‥‥

　仙次郎は、データを見ながら咲子にマイクで話し掛けたいった。

　いま流れている映像は、二人の若いカップルが、露出や相互鑑賞をしている場面だった。
　女の恋人であろう男性が女性にポーズをとらせ街中や人の多い場所で裸を撮っているシーンが映し出されている。

「貴女も、こういう事をしましたね‥‥‥‥」

　頷く咲子‥‥‥

「興奮したでしょう？」
「‥‥‥はい。」

　次々と速いテンポで映像は流れていく。

　ディスクには、相互鑑賞やスワッピングのシーンも納められていた。
　咲子の表情を観察しながらセンサーがはじき出すグラフに目をやる仙次郎‥‥‥

（‥‥‥やはり、脈と波動が乱線してるな‥‥‥‥‥）

　引き続き、スワッピング、そして複数プレーと画面が切り替わっていく。
　咲子の呼吸が目に見えて荒くなってきた。
　目は虚ろではあるが、瞳孔は鮮明だ。

　咲子が異常な反応を示したのは、恥辱シーンだった。
　十数人の男性の前で便器に跨り放尿をしている女性が、股間を覗く男たちに罵声を浴びていた。
　しかし、その女性は、視姦による快感で悦びながら喘いでいる。
　センサーのグラフは、最高点にまで達していた。
　咲子は、完全にビデオに集中していた。
　興奮気味に胸が大きく上下している。

　仙次郎は、タイミングを計りながら質問を繰り返した。

「貴女も視姦されたいんでしょう。」
「‥‥ぁぁぁ‥‥‥‥‥‥‥は‥‥‥‥はい‥‥‥‥」

　質問は、肯定的に進められた。
　これは、一種のマインドコントロールで、本人が否定する質問をすると正確なデータを読み取れないのだ。
　その後、モニターの女性は、背後位にされ次々と男たちに犯されていった。
　しかし、その女性は恍惚な表情で喜びを鮮明に表している。
　咲子は、眉を顰めて半開きにした唇から長い息を吐き出していた。

「‥‥‥‥‥‥‥ァァァ‥‥‥‥‥ハァァァァー‥‥‥‥‥」

　気づかれぬよう部屋の照明を切り替えイメージをリアリティーにしていく。
　モニターは、次々と過激なプレーが流れていった。
　緊縛、ビザーディング、性器改造‥‥‥咲子は、完全にビデオに没頭している。
　そして、咲子は遂に服の上から乳房と股間に手をあて声を上げ始めた。

「‥‥‥‥‥‥‥ウゥゥゥ‥‥‥アァァァァァァァァァァ‥‥‥イィィ‥‥‥」

（‥‥‥‥‥やはり、間違いないな。）

　仙次郎は、確信した。
　そして、クライマックスになる寸前、仙次郎は、モニターのスイッチを切った。

「いやぁぁぁぁぁぁっぁーっ！‥‥もっとぉぉぉぉーっ！」

　絶叫と共に照明を元に戻す仙次郎‥‥‥‥
　我に帰った咲子は、洗い息を吐きながら周りを見渡した。

　仙次郎は、咲子のこめかみと手首からセンサーを取りヘッドフォンも外した。

「‥‥‥‥ぇ‥‥‥‥ゎ‥‥‥‥‥‥私‥‥‥‥」
「神野さん、少し休みましょう。」
「‥‥‥は‥‥‥はい‥‥‥‥」

　そこへ、ちょうど洋平から電話が掛かってきた。

「先生、西条次長から電話です。」

　受話器をとる仙次郎‥‥‥‥

「俺だ。」
『‥‥‥仙次郎、わかったぞ。全て話してくれた。』
「‥‥‥で？」

　洋平は、浜田から問いただした内容を詳しく話した。

「やはり、そうだったか‥‥‥‥わかった。‥‥‥」
『今、彼女は、そこに居るのか？』
「ああ‥‥‥‥」
『どうだ‥‥‥‥‥解決しそうか？』
「いや、予想外だ‥‥‥‥‥‥‥‥‥最悪の結果になるかも‥‥‥」
『え？‥‥‥‥どういう意味だ。』
「‥‥‥また、後で話すよ。」

　仙次郎は、そう言って電話を切った。

　咲子をソファに座らせる仙次郎‥‥‥‥

「さて、神野さん、結果を話しましょうか。」
「‥‥‥‥‥はい。」

　仙次郎は、データをコピーしたプリントを佳代から受け取ると話を開始した。

「神野さん、私が、昨日、そして今日、貴女の話を聞いて気づいた事があるんです。」
「‥‥‥‥‥どういう‥‥‥」
「貴女の上ずった話し方、リアルすぎる説明、これを分析しました。」
「‥‥‥‥‥‥そ‥‥‥それで？」
「貴女の悩みは、浜田さんの性癖やプレーの強要だけではなく貴女自身の性癖と身体異常にもあるような気がするんです。」
「え？‥‥‥‥どういう事ですか？」
「性異常昇華型過敏症候群です。」
「‥‥‥‥‥‥しょ‥‥‥昇華型‥‥‥‥」
「アブノーマルな性的プレーを貴女自身が知らないところで望んでいるんですよ。」
「‥‥‥‥‥‥な‥‥なんで‥‥‥‥わ‥‥‥‥‥私は‥‥‥そんな‥‥‥」

　咲子は、真意を突かれたのか、言葉が濁っていく。

「では、私が代わりに言いましょうか。」

　咲子は、スローモーションのように首を縦に振った。

「貴女は、浜田さんの趣味で、あらゆるプレーを強要された。しかし心から彼を愛しているという気持ちがあり、貴女は、渋々、了承したものの、実際に、そのような経験をして、実は、自分の願望ではないか、と疑問に思い始めたんです。」
「‥‥‥‥‥」
「ところが、浜田さんの前では、明らさまに、それを認めるわけにはいかない。確かに露出までは、お互いに、その行為を理解していたし、貴女も悩みまで持つほどのものではなかったはず。しかし、徐々に行為が過激になっていった。貴女は、拒否するが、愛しているが故に承諾したと自分に言い聞かせた訳です。」
「‥‥‥‥‥言い聞かせた？」
「いえ、正確に言うと、愛する彼に見破られないように演技をしたんですよ。」
「‥‥‥演技？‥‥‥どういう意味です‥‥‥」
「それは、婚約を解消されるかもと思ったからです。でも、それは当然でしょう。貴女は、婚約者の浜田さんを心から愛しているのだからね。しかし運が良い事に彼の方から、その話を持ちかけてきた。貴女は、願望を持っているという疑問をその時点で放棄し、彼を愛しているから、嫌々と、やるんだという態度を自然と彼の前で表した。つまり自分自身さえをもごまかして納得をしていたんです。」
「ち、違うぅぅぅぅーっ！」

　咲子は大声で叫んだ。

「今、貴女は、感情を剥き出しにして否定しましたね。それは、あなた自身が、異常な性癖を持っている事を恥ずかしい言いたくないと考えているからです。」
「‥‥‥‥ち‥‥‥違う‥‥‥‥わ‥‥‥私は‥‥‥‥彼が‥‥‥‥」
「では、貴女の婚約者、浜田さんが、何故、貴女に、そういう行為をさせたのかをお話しましょうか。」
「‥‥‥え？」
「先ほど、取締役公室の西条次長に依頼して浜田さんに事情を聞き出しました。」
「‥‥‥‥‥‥」
「貴女もご存知でしょうが、彼は、ネットで知り合った男と交友関係にありますね。その男から脅かされているんです。」
「脅かされて‥‥‥‥」
「そうです。彼は、個人的に、その男とメールなどで画像をやり取りしていたんですよ。そして、ノーカットの貴女の写真をつい出来心で渡してしまった。その男は、言葉巧みに会いたいと要求してきた。彼は断わったが、男は、貴女の卑猥な全裸写真をばら撒くと脅しをかけてきたそうですよ。そして、彼は、止む無く承諾せざるを得なかったんです。」
「‥‥‥‥‥そ‥‥‥そんな‥‥‥」
「つまり、根っからスワッピングや複数プレーなどを浜田さんは、やるつもりなど全くなかったんですよ。」
「‥‥‥‥‥ぅ‥‥‥‥ぅ‥‥‥‥そ‥‥‥‥」
「ところが、貴女は違っていた。先ほども説明しをましたが性異常昇華型過敏症候群という、性に対しての心的願望が異常に発達していて、自然と身体が反応してしまうんです。」
「‥‥‥‥‥‥わ‥‥‥私は‥‥‥‥‥」
「ただ、理性もあり、浜田さんと同様に真面目な性格です。世間体もあり、お互いが恥をかくような事を恐れている。ケアの方法によっては、その心的願望を直す事は可能です。」

　咲子は、仙次郎に言い聞かされて、やっと自分の持つ不安と悩みを素直に納得する決心がついた。
　そして‥‥‥‥

「先生‥‥‥‥私、‥‥‥‥恐いんです。」
「どんどん過激な事を望んでしまう事が‥‥‥ですね。」

　頷く咲子‥‥‥‥

「知らず知らずに、そうなってしまうんです。考えないようにしても思い出してしまうんです。夜になると、彼じゃなく会った事もない男性を思い出してしまうんです．‥‥‥‥‥苦しいんですぅぅっ！」

　咲子は、そう言って号泣し始めた。
　仙次郎は、咲子を宥めながら話を聞かせた。

「神野さん、貴女が、彼を愛し、自分のその悩みを解消したいと心から願うなら、私は全力を持って、お助けする事を約束します。」
「‥‥‥‥ぅぅ‥‥‥‥お‥‥‥お願いします‥‥‥ぜ‥‥‥是非‥‥‥‥」
「解りました。」

　仙次郎は、今日のところは、咲子を帰し、今から直ぐに浜田を呼び出して、詳しい話を聞かせようと思った。

（３２）

『え？‥‥‥‥夕方の約束では‥‥‥』

　浜田は、仙次郎の呼び出しに戸惑った。

「貴方と神野さんの将来にかかわる問題ですよ。」

　仙次郎は、クールに、そう言い放った。

『わ、解りました‥‥‥‥直ぐに伺います。』

　徹は、そう言って電話を切った。

　１０分後、徹は、仙次郎の部屋を訪れていた。
　ソファに座って、仙次郎を待つ徹‥‥‥‥‥

「お待たせしました。」
「どうも、この度は‥‥‥色々とご迷惑を‥‥‥」
「迷惑？‥‥‥‥フッ、これが私の仕事です。」

　仙次郎は、至って冷静に話を始めた。

「単刀直入にお聞きします。貴方は、神野咲子さんと結婚するつもりはありますか？」
「‥‥‥‥‥‥‥ど‥‥‥どういう意味でしょう‥‥‥」
「隠さなくてもいいですよ。公室の西条にも話は聞きました。貴方が、投稿しているサイト仲間から脅かされている事をね。」
「‥‥‥‥‥‥‥」

　仙次郎は、神野咲子が、相談に来た事を説明し、そして咲子を診た結果を丁寧に説明して言った。

「えぇぇーっ！」
「つまり‥‥‥貴方が彼女を説得して無理矢理誘った行為も実は、彼女自身が持つ性的感性に、偶然、合っていた訳です。」
「‥‥‥‥そ‥‥‥それで‥‥‥‥」
「それでとは？」

　浜田は、自分の考えを素直に仙次郎に説明した。

「いえ、よくよく考えると、私が、そんな事を言えば、絶対に拒否すると思いました。仮に、強引に説得してもフラれる。いや、話し合いもせずに離れていくだろうと。」
「しかし、彼女は、そうしなかったわけでしょ。。」
「‥‥‥はい。私は、本宮と言う男に脅迫された時に、正直に咲子に話をしようと思ったんです。しかし、彼女の怒った顔が頭に浮かんでしまって。」
「浜田さん、先ほどの質問ですが‥‥‥今も彼女を愛しているんですか。」
「勿論です。‥‥‥‥そして、結婚もするつもりです。」
「それを聞いて安心しました。では、私が今から言う事を実行してください。」

　仙次郎は、浜田に咲子の心的感性を入れ換えるための方法を言い渡した。

「まず、その投稿仲間と、どんな手を使ってもいいから縁を切ること。そして、自分の口から、今までの事を全て彼女に説明するんです。それから‥‥‥‥貴方と彼女の将来の愛の形を語り合ってください。」
「‥‥‥え？」
「いいですか‥‥‥彼女の性格を直ぐに変えることなど出来ないんですよ。結婚して子供が出来ても、性的感性は、そうそう変わるものではありません。つまり、結婚しても、彼女の性癖を理解しないと、とんでもない事になります。」
「‥‥‥‥た‥‥‥たとえば‥‥‥‥‥」
「貴方が、そういう事を拒めば、彼女は、目を盗んで浮気をするでしょうね。」
「そ、そんな‥‥‥‥‥咲子は、私を心から愛していると言ってますし、私もそうです。そういうことは、もうやめて、二人だけで楽しめるプレーをしようと説得すれば、咲子も納得するんじゃないでしょうか。」
「それが簡単に出来れば、人間の悩みの半分は、この世から無くなりますよ。」

　仙次郎は、咲子が、自嘘性的な性格を持っているという説明を徹に、するかしまいかを迷っていた。

「先生っ‥‥‥はっきり言ってください。他にも何か問題があるんですかっ！」

　仙次郎は、強い口調で言う浜田の真剣味を感じ取った。

「解りました。では、言いましょう。浜田さん‥‥‥彼女が貴方を愛していると言う事も、先ほど説明した自嘘かもしれないんです。」
「‥‥‥‥え？」
「貴方を愛していると言い聞かせているだけかも‥‥‥と言う意味です。」
「し‥‥‥しかし、現に‥‥‥‥」
「貴方が、今後も彼女の性癖を理解して満足させる気があれば、何ら問題はおきませんよ。彼女は、貴方を愛し続けるでしょう。」
「え？」
「つまり、これからも、彼女の希望通り複数プレーや視姦プレーなどを叶えてやるという意味ですよ。」
「‥‥‥そ、んな事が出来るわけないじゃないですかっ！」
「それなら、貴方は、相当の努力をしなければね。」
「私は、後悔してるんです。気持ちを正直に説明すれば‥‥‥‥」
「もう、そんな事はいいんですよ浜田さん。彼女を愛し続ける気持ちに変わりがなければ、今から私の言う事を当分の間、続けてください。期間は、貴方が約束を守り、頃合を見て、私が診断を下すまでです。」
「‥‥‥‥わ、解りました。」
「では、言います。神野さんは、自分の気持ちや思いを隠していた。そして‥‥‥‥‥貴方も彼女にそうなる経緯と真実を隠していた。しかし、今、お互い、その事実が解ってしまった。彼女は、感情と心理が複雑になっています。しかし、貴方は違う。だから、貴方が彼女を治すんですよ。‥‥‥‥それは、私にはできない事ですので。
　いいですか、‥‥‥よく聞いてください。‥‥‥今後一切、彼女の性に関する悩みや貴方に投げかけてくる質問に対して否定しない事、そして、過去の彼女がしてきた行為や考え方を問い詰めない事です。」
「‥‥‥‥‥？」
「つまり、今までしたスワッピングや複数プレーの感想や具体的な気持ちを聞かない事という意味です。」
「‥‥‥‥‥解りました。」
「しつこいようですが、もう一度言います。‥‥彼女の言葉を否定しない事、問い詰めない事です。‥‥‥約束できますか？」
「‥‥‥‥はい、勿論です。」

　仙次郎は、頷いた。

「よろしい‥‥では、彼女にも言いましたが、私も全力でお助けします。今後、徹底的に彼女の性の感性を改造するための心理療法を考えます。それまでは、辛いでしょうが、今言った事を必ず約束してください。」
「はい。」

　浜田は、大きく息を吐いて身体の力を抜いていった。
　仙次郎に、深々と頭を下げ部屋を出て行く浜田‥‥‥‥‥

　佳代が、応対室に入ってきた。

「先生、出来るんですか？」
「ああ。まだやった事はないがマインドコントロールをしてみる。失敗は出来ないから、まず彼に今言った事を続けて彼女の感情を逆撫でないようにしておく必要がある。ま、必死で調べてみるよ。」
「私も、先生にマインドコントロールしてもらおうかな？」
「え？」
「もっと、エッチになって先生を振り向かせる事が出来るように。フフッ‥‥」
「ば、馬鹿言ってんじゃないよ。‥‥‥今でも、異常なのに。」
「な‥‥‥そういう言い方ってありますぅ？‥‥‥私が異常なんて‥‥‥」
「わ‥‥わかった、わかった‥‥‥言い過ぎた。君は、理性が飛ばないからな。」
「ほんとに‥‥‥‥言葉に気をつけてくださいよ。」

　佳代は、そう言ってコーヒーを入れ始めた。
　笑みを浮かべる仙次郎‥‥‥

（‥‥‥‥‥ま、佳代君の場合は、よっぽど大丈夫だろうが‥‥‥‥）

　仙次郎は、溜息をつきながら部屋に入って専門書に目を通し始めた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−　８日後　−

「咲子っ‥‥‥もっと舌を使えっ！」
「ングゥゥゥ‥‥‥ムムゥゥゥー‥‥‥‥‥‥」
「さあ、お前ら、順番に咲子を悦ばせてやってくれ。」

　咲子は、浜田徹の投稿仲間だった、本宮正二と、その仲間数人で乱交プレーを満喫していた。
　本宮は、ニヤニヤと笑いながら呟いた。

「まさか、あんたから直接、連絡貰うとは思わなかったぜ。クククッ‥‥‥」

　咲子は、四つん這いの格好で下から本宮を見つめて唸るように言い放った。

「あぁーん‥‥‥そんな事もういいわ。彼とは、別れたし。今日から私は貴方の玩具よ‥‥‥厭らしい事を一杯してぇぇ‥‥‥」
「ああ‥‥‥とことん、遊ばせて貰うぜ。」

　咲子は、恍惚な表情を浮かべながら、本宮の肉棒に口を被せていった。

　背後からは、何人もの男たちが咲子の蜜壷に怒張した肉棒を挿しこみ腰を躍らせている。
　ふと、先日の徹との会話が、脳裏を過ぎった。
　咲子の目から濁った涙が一滴零れ落ちていく。

≪徹さん‥‥‥‥ごめんなさい‥‥‥≫

≪いいんだ‥‥‥それより、俺も悪かった。この間、本宮とは縁を切ったよ。≫

≪え？‥‥‥‥‥で、でも‥‥‥≫

≪大丈夫‥‥‥‥やむをえなかったが金で解決した。咲子、君の写真も全て奴から返してもらったよ。≫

≪‥‥‥そ‥‥そう‥‥‥≫

≪どうした？‥‥‥‥‥もう、酷いプレーを勧める事はないから安心しろよ。≫

≪‥‥‥ええ‥‥‥≫

≪まだ、何か心配なのか？≫

≪‥‥‥‥‥ぇ‥‥うぅん‥‥‥あ、あの‥‥‥‥‥たまには、徹さんのやりたい事していいのに‥‥‥≫

≪‥‥‥‥何、言ってるんだ。‥‥‥俺は‥‥‥≫

≪‥‥‥‥‥‥≫

≪‥‥‥咲子‥‥‥どうしたんだ？‥‥何か言えよ‥‥‥≫

　押し黙る咲子に感情をあらわにする徹‥‥‥‥‥‥

≪おい、咲子っ！‥‥‥‥何か不満でもあるのかっ？≫

≪‥‥‥‥‥‥‥≫

　咲子は、下を俯いたまま喋ろうとはしなかった。
　徹は、仙次郎と約束した事を瞬時に忘れ去っていた。

≪いい加減にしろよっ！。　じゃ、なんだ‥‥‥咲子、お前は‥‥お前は、まだ見知らぬ男に突っ込んで欲しいと思ってんのかっ！≫

≪‥‥‥‥‥‥そ‥‥‥そんな‥‥‥‥私は‥‥‥‥徹さんに‥‥‥≫

≪俺のせいなのか？‥‥なら、何で拒否しなかったんだ。お前は、淫乱を通り越して変態だぜ。気づいてるんだろっ！≫

≪と‥‥‥‥‥徹さん‥‥‥‥‥‥≫

≪結局は、お前が望んでたってことじゃねぇか‥‥‥‥≫

≪‥‥‥‥と‥‥‥‥‥徹さんの‥‥‥徹さんの馬鹿ぁぁぁぁーっ！≫

　咲子は、我に返った。

（‥‥もう、戻れない‥‥‥貴方の所には‥‥‥‥私は‥‥‥こういう事が好き。）

　咲子は、思いを振り切ってプレーに没頭した。

「グフゥゥゥゥゥゥー‥‥もっと、もっとぉぉぉぉぉぉぉー‥‥‥」

　自ら腰を押し付けて男たちの肉棒を堪能する咲子‥‥‥

「ンアァァッー‥‥‥思いっきり出してぇぇぇぇぇーっ！」

　そして、咲子は、遂に魔の性界に落ちていった‥‥‥‥‥

☆☆☆☆☆

「な、何だとぉっ。‥‥‥‥会社を辞めた？」

　洋平が、落胆した表情で仙次郎の部屋に訪れていた。

「ああ、二人ともな‥‥‥‥浜田が、公室に辞表を持って来た。」
「‥‥‥二人とも‥‥‥」
「ああ。お前に浜田から言付けも頼まれた。約束を守れなくてすみませんとな。」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥最悪の結果と言っていたが‥‥‥‥この事か、仙次郎‥‥‥」

　仙次郎は、深い溜息をついて洋平に語りかけた。

「‥‥‥‥‥‥‥洋平‥‥‥‥‥理性って言う本当の意味が解るか。」
「理性‥‥‥‥‥‥概念的思考能力‥‥‥だろ。」
「ああ。正常な人間の状態では、感性的欲求に左右されずに思慮的に行動できる能力だ。超自然的掲示に対し人間の自然的認識能力さ。」
「‥‥‥‥つまり‥‥‥‥彼らは‥‥‥‥」
「浜田、神野、二人とも正常な理性は持っていたんだ。」
「‥‥‥‥仙次郎、詳しく教えてくれないか？」

　仙次郎は、煙草を咥えて火を点けた。
　長く、ゆっくりと煙を吐き出しながら仙次郎は、喋り始めた。

「性戯の好みなんてのはな、千差万別なんだよ。性器を刺激するだけじゃない。キスだけでも手を握るだけでも、極端な事を言えば見つめ合ってるだけでも快感を得る人間はいるんだ。‥‥しかし、それが肉体をもって理解するには当然、合う合わないという事がある。今回、俺が二人の悩みを回避する自信があったのは、二人とも適正だったからだ。異常性とかいう問題じゃないんだ。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「思慮的に行動できる人間は、どんなプレーを好んで実行しても理性を失わない。その場では、快感や淫悦を満喫しても、理性を適正にコントロールできるんだ。」
「‥‥‥‥そうかもな‥‥‥‥‥‥だが‥‥‥」

　仙次郎は、洋平の言葉を遮った。

「例えば、佳代君がそうだ。‥‥彼女は、Ｍだ。」
「せ‥‥‥先生‥‥‥‥ちょ、ちょっと‥‥‥」

　佳代が、顔を真っ赤にして慌てている。
　しかし、仙次郎は、気が昂ぶっているため佳代を無視して話を続けた。

「露出癖もあるし、視姦を好んでいる。過激なプレーに興味を抱いてるし性に関して知識のない人から見れば、変態と思われるかもしれない。しかし、恋人とも上手くやっている。生活に支障はなく仕事も熱心だ。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「なぜか解るか。‥‥‥‥それは、概念的思考能力が身についているからだ。」

　仙次郎は、そう言うと歯を噛み締めて拳を強く握った。
　僅かに身体が震えているようにも見える。

「先生‥‥‥‥」
「‥‥‥仙次郎‥‥‥‥‥‥お前のせいじゃない‥‥‥‥」

　洋平の言葉に、眉を顰める仙次郎‥‥‥‥
　視線は、乱れていた。

「‥‥‥‥‥だから‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥だから、心理学は、難しいんだっ！」

　仙次郎は、握った拳で、テーブルを思いっきり叩いた。

　確かに仙次郎に落ち度はなかった。
　だが、恥を偲んで相談に来たにもかかわらず、そして仕事に落ち度がないにもかかわらず、会社を辞めさせてしまったという、やるせない気持ちが仙次郎の全身を襲った。

　仙次郎は、無言で席を立ち奥の部屋に消えていった‥‥‥‥‥