（３８）

　亜希子が、アメリカからの出張帰りに仙次郎のマンションに寄っていた。

「アァーン‥‥‥仙ちゃん、早く２回目しようよ。」
「ったく‥‥‥‥お前は、疲れてないのか？」

　呆れながら言う仙次郎を見て亜希子は、膨れっ面で睨んでくる。

「仙ちゃんの馬鹿っ。‥‥‥‥‥空港から急いで飛んで来たのよ。」
「そりゃ、そうだが‥‥‥‥行く前は早朝で、今日は深夜だぞ。」
「私は、時差ボケでちょうどいいの。」

　仙次郎は、苦笑いをしながら亜希子の頬を撫でていく。

「クッ、クッ‥‥‥お前の積極さに眠気も吹き飛ぶぜ。」

　亜希子は、シーツに潜り込んで仙次郎の肉棒を口に含んだ。
　執拗に舌を絡めながら頭を上下に振っている亜希子‥‥‥‥‥

　仙次郎は、シーツを捲って亜希子の頭を抱えた。
　亜希子は、そのまま仙次郎のほうにヒップを向ける。

　透明な液体が蜜壷から溢れ出ていた。
　白く形の良いヒップが、小刻みに揺れている。

「ングゥ‥‥‥ンッ、ンッ、‥‥‥‥‥ジュッ‥‥‥ジュプッ‥‥‥‥」

　亜希子の口から漏れる湿った摩擦音が大きく響いた。

「おい、亜希子っ、激しすぎるぞ。」
「ンゥゥゥー‥‥‥ンッ、ンッ‥‥‥」
「口から離して喋れよ。」
「もぉう‥‥‥集中させてよ。久しぶりなんだから。」

　そう言って、再度、仙次郎の肉棒を咥えていく。

「久しぶりって、１週間前にやったじゃないか。」
「ンゥゥゥッゥ‥‥‥ッゥ、ンゥッ！」

　肉棒に歯を当てて怒る亜希子‥‥‥‥

「イデデッ‥‥‥‥わかった、わかった‥‥‥‥」

　仙次郎は、気分を切り替えて亜希子の蜜壷に指を入れＧスポットを探り始めた。

「ンムゥゥゥゥゥゥゥー‥‥‥‥ンァァァァ‥‥‥」

　一発で亜希子のメインスポットをつく仙次郎‥‥‥‥
　女性は、いつも同じ場所にＧスポットがあるとは限らないのだ。
　昨日と今日では、その位置もずれていく。
　しかし、肉襞と内部の突起を微妙に探り当て熱さと感度、そして蜜量の分泌で判断していくのだ。

　亜希子は、肉棒を咥えたまま、鼻から唸るような呻き声を上げて快感を表現した。

　仙次郎は、亜希子の女芯を同時に責めながら菊門も指でなぞった。

「ンクゥ、ァヮ‥‥ァァァァァァァァァァァー‥‥‥‥」

　亜希子は、大きく背中を反って唸り声を上げた。

　我慢が出来なくなったのだろう。
　亜希子は、起き上がると直ぐに肉棒を蜜壷に埋め込んだ。

「アハァァァァー、、仙ちゃぁぁぁぁんっ‥‥‥‥‥ゥゥ‥‥イィィィィィー‥‥‥」

　全体重を仙次郎の肉棒に落としていく亜希子‥‥‥‥
　ベッドが軋み二人の身体がバウンドするように上下していた。

（‥‥‥‥こりゃ、発情って感じだな‥‥‥‥‥よぉーし‥‥‥）

　仙次郎は、亜希子を抱え込むと仰向けにベッドの下に落とした。

「ンアァァァァ‥‥‥‥‥せ‥‥仙ちゃん‥‥‥ゥゥ‥‥」

　そそまま、真上から強烈な一撃を加えていく仙次郎‥‥‥‥‥

「ウンアァァッァァァァァァァァー‥‥‥」

　亜希子の顔は、血が上って真っ赤になっていた。
　虚ろな目で下から仙次郎を見つめている。

「もっと‥‥‥‥もっとぉぉぉー‥‥‥仙ちゃぁぁぁぁーんっ‥‥‥‥」

　亜希子の乱れようは、尋常ではなかった。
　推測するに、アメリカへ発つときから性欲求のストレスが溜まっていたのだろう。

「アウゥ、アゥゥ‥‥‥アッハァァァァァァァー‥‥‥‥‥」

　仙次郎はベッドから降りると亜希子を四つん這いにした。
　亜希子は、頭上に手を伸ばし胸を着いた。

　ヒップを限界まで突き出し完全に蜜壷の支配を仙次郎に任せていく。
　亜希子の蜜壷は、淫鄙に盛り上がりながら挿入の催促をしているようだった。

「仙ちゃぁんっ、早くぅぅぅぅぅーっ‥‥アァァァー、キテェェェェッ！」

　仙次郎は、亜希子のヒップを抱え込み肉棒を強く挿入した。

「ングゥゥ‥‥ァァァッァァァァァァァァァァァー‥‥‥‥」

　亜希子の流す蜜の多さに、結合部は、ポンプで水を汲み上げるような摩擦音を発していた。

「アグゥゥ‥‥‥も、、、もっと‥‥‥もっと強くぅぅぅぅぅぅぅっ！」

　言わずとも仙次郎は、強烈な突き上げをしていった。
　挿入の度に、亜希子のヒップの肉が背中側に押されていく。

「ハゥゥゥゥ‥‥ィィ‥‥‥アァァァー、イィ、イィィィぃぃーッ！」

　肉棒の先がコツコツと奥の壁に当たった。

「ウグゥゥゥ‥‥‥も、漏れちゃぅぅぅぅぅー‥‥‥」

　亜希子は、眉を顰めて顔を仙次郎に向けた。

「せ、仙ちゃん‥‥‥‥ゥゥゥ‥‥わ‥‥‥私‥‥‥ァァ‥‥‥いっちゃいそう。」
「まだ、早いぜ。」

　仙次郎は、亜希子を起こし背面騎乗位にして乳房を鷲掴みにした。
　指の間には乳首をはさみ、起用に摘み上げていく‥‥‥

「ンゥゥッゥゥゥゥー‥‥‥‥気持ちいぃぃ‥‥‥アァァァァー‥‥」

　亜希子は、頭部を仙次郎の方に垂らして大声を発した。

「ィ‥‥イヤァァ‥‥‥イキタイッ‥‥‥もぉぅ‥‥イカセテェェェーッ‥‥‥」
「了解っ！」

　仙次郎は、激しく亜希子の腰を揺らした。
　肉襞が肉棒に絡みつき、摩擦音が一層、大きくなっていく。

「ゥゥ‥‥‥ゥゥ‥‥ゥァァ‥‥‥‥‥イクゥゥゥゥゥゥゥゥゥーッ！」

　亜希子は曲げていた足を伸ばし、激しく痙攣をしながら昇天した。
　瞼が小刻みに震え、背中は目一杯反り、そして、全身が快感で硬直している。
　仙次郎の分身が勢いよく蜜壷の奥に当たり温もりを広げていった。

　亜希子を抱き上げてベッドに寝かす仙次郎‥‥‥
　亜希子の蜜壷から零れた分身がシーツにゆっくりと落ちていく。

「せ‥‥‥仙ちゃん‥‥‥‥‥‥キスして‥‥‥‥‥」

　仙次郎は、亜希子に覆い被さって舌を絡めていった。
　仙次郎の髪を掻き揚げて貪りついていく亜希子‥‥‥‥‥

「仙ちゃん‥‥‥‥このまま死んでもいいくらい好きっ‥‥‥‥」
「‥‥‥‥亜希子‥‥‥‥俺もだ‥‥‥‥」

　亜希子は、貧欲に仙次郎を求めていった。

☆☆☆☆☆

−　翌日　−

「先生、どうしたんですか。目が真っ赤ですよ。」

　出社した仙次郎に佳代が声を掛けた。

「ああ‥‥‥‥ちょっと寝不足でな。」
「大丈夫ですか？」
「ああ、少し寝させてもらうよ。眠くてたまらん。」

　仙次郎は、上着を脱いでソファに横になった。
　佳代が、手帳を持って仙次郎の顔の前に近づいてくる。

「先生、寝る前に予定を‥‥‥」
「ああ‥‥‥」
「えー、今日、お昼に管理部の加藤部長が維持課の堀内課長と相談に来たいそうです。」「二人か？」
「いえ、堀内課長の方らしいのですが。」
「わざわざ、部長が付き添ってくるのか？」
「ええ。かなり深刻そうでしたよ。」
「ふぅーん‥‥‥ま、社員データだけ揃えておいてくれ。」
「はい。」

　下から佳代を見上げる仙次郎‥‥‥
　スカートの中が丸見えだった。

「お、今日は、ガーターか‥‥‥‥パンツが色っぽいな。」
「イヤァン‥‥何処見てるんですか、先生ったら‥‥‥‥」

　そう言いながら、足を開いていく佳代‥‥‥‥

「何やってんだ、君は。」
「え‥‥‥だって、先生、色っぽいって言うから見せてあげようと思って‥‥‥」
「普通は、キャァー、エッチィィーとか叫ばないか？」
「私、普通じゃありませんので‥‥‥」

　そう言って、亀裂部分の布をずらして蜜壷を見せた。

「おっ、ナイス、パイパンっ！」
「ほらぁ‥‥先生ぇ‥‥‥」

（し、しまった‥‥‥‥‥）

　クスクスと笑ながら仙次郎の前にしゃがみ込み顔を見つめてくる。

「‥‥‥‥‥何だよ。」
「いえ、見ていたいんです。先生の顔を‥‥‥‥」
「馬鹿者っ‥‥‥‥落ち着いて寝れないだろうが。」
「気にしないで下さい。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」

　何か言いたそうな仙次郎だったが、睡魔が急激に襲ってきた。
　仙次郎は、知らず知らずのうちに、眠りについてしまった。

　３時間ほど寝ただろうか。
　仙次郎は、空腹感を覚えて目を覚ました。

（んー‥‥‥朝飯食ってないから腹減ったな‥‥‥‥）

　ゆっくりと上体を起こして佳代を探した。
　佳代は、椅子に座ってモニターを眺めているようだ。

（ん？‥‥‥）

　デスクの下から佳代の足が見える。
　佳代のデスクは、事務机のため仙次郎の大型机と違って前から見える形になっていた。
　佳代は、大きく足を開いてショーツの上から亀裂をなぞっている。

（‥‥‥また、見てやがるな‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、静かにソファから離れ、身を屈めて佳代のデスクの下に潜り込んだ。
　佳代は、集中しているのか、仙次郎にまったく気づいていないようだ。

（ウシシシシ‥‥‥‥何となく興奮するな。）

　仙次郎は、だらしなく開いた佳代の股間を凝視した。

（ウププッ‥‥‥‥染みが出来てるぜ‥‥‥‥‥ゥクッ‥‥‥）

　笑いを我慢できない仙次郎‥‥‥‥
　つい声を漏らしてしまうが、それでも佳代は気づいていない。

（‥‥‥‥‥ったく‥‥‥‥）

　仙次郎は、狙いを定めて指をショーツの上から押し込んだ。

「？‥‥キャァァァァァァァァァァー！」

　驚いて足を伸ばす佳代‥‥‥‥
　つま先が、額に当たり仙次郎は後へ転がっていく。

「痛ででででででっ‥‥‥‥‥アタァァァァー‥‥‥‥」
「せ、先生、何やってるんですか。こんな所に潜り込んでっ。」

　額を押さえながら立ち上がる仙次郎‥‥‥‥

「いや、また、エッチな画像を見ながらオナニーしてるから驚かせようと思ってな。」

　佳代は真っ赤な顔をしながら股間を抑えた。

　佳代のデスクに回りモニターを見ると案の定、仙次郎との絡みの画像が映っている。

「‥‥‥‥‥‥」
「あ‥‥‥あの‥‥‥‥」
「どうでもいいが、佳代君‥‥‥‥仕事中にこんな物見てるなよ。」
「す、すいません‥‥‥‥あっ、でも先生だってエロ本見てるじゃないですか。」
「大馬鹿者っ。俺の場合は、教養で見ているんだ。必要だからだぞ。」
「そうは見えませんが‥‥‥‥」

　仙次郎は、言い訳するのも億劫になってきた。

（‥‥‥‥んー‥‥どうも、最近、佳代君に押されてるな‥‥‥）

　仙次郎は、溜息をつきながら出かける用意をした。

「ま、いい‥‥‥昼飯でも食いに行こうぜ。」
「ぇ‥‥‥ぁ‥‥‥‥はい‥‥‥‥」

　スカートをまくってショーツに手を掛ける佳代‥‥‥‥

「‥‥‥‥‥‥な‥‥‥‥何やってんだ？」
「先生が指入れたから、食い込んじゃったんですよぉ。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

　平気で手を入れてショーツを直す佳代‥‥‥‥
　まだ、半年と言うのに仙次郎の前では平気でこのような事をするまでになっていた。

（‥‥‥‥‥異動を頼んでおいたほうがいいかな‥‥‥‥）

「え？‥‥何か言いました。」
「ぁ‥‥いや、何でもない。」

　仙次郎は、全身をローダウンしながら佳代と昼食に出かけていった。

（３９）

「先生、ご馳走様でした。」
「ああ。‥‥‥‥今日の店は、なかなか美味かったな。」
「ええ、本当に‥‥‥‥また、連れてってください。」
「あいよっ。」
「それより、先生‥‥‥」
「ん、何だい？」
「今日、夜なんですが‥‥‥‥‥暇ですか？」

（‥‥‥来たっ‥‥‥また、あっちの誘いだな‥‥‥）

「いや、今日はだな‥‥‥つまり‥‥‥」
「その言い方は、予定無いですね。」
「うっ‥‥‥‥」
「ちょっと付き合ってくださいますか。」
「え？‥‥‥どこに‥‥‥」
「昨日、家でネットしてたんですけど、面白いアダルトショップを見つけたので行ってみたいなと思ったんです。一人だと行き難くて。」
「ふぅーん‥‥‥‥ま、それくらいならいいが‥‥‥‥」
「ヤッタァー、約束ですよ。」
「ああ‥‥‥ま、いいが。」

　喜びを隠さない佳代は、仙次郎の後を追って部屋に戻っていった。

☆☆☆☆☆

「先生、加藤部長と堀内係長が来ました。」
「ん、わかった。」

　仙次郎は、佳代がコピーしておいた堀内聖子のデータを持って応対室に入っていった。

　堀内聖子は、管理部長の加藤の横で神妙な面持ちで座っていた。
　加藤と堀内が、立ち上がって仙次郎に挨拶をする。

「先生、今日は、どうかよろしくお願いします。」
「‥‥‥‥どうぞ、お座りください。」
「はい‥‥‥」
「少々、堀内さんのデータを見させていただきますのでお待ちください。」

　仙次郎は、堀内の資料に目を通していった。

　堀内聖子、３３歳　管理部　維持課管財係長
　家族は、夫との二人暮らしで子供はいない。
　地元の大学を出て１１年前に榊原グループに入社
　一貫して管理畑を歩いてきた維持課員の中心人物だった。

（評価は、良いな‥‥‥‥なるほど、彼女が社内の維持管理を担ってるわけか。）

　仙次郎は、資料を閉じて二人と顔を合わせた。

「それでは、お話を聞きましょうか。」

　仙次郎の言葉に、部長の加藤が口火を切った。

「先生、実は、彼女‥‥‥‥堀内係長から辞表を預かっていまして。」
「辞表を？」
「はい。‥‥‥‥‥彼女は、皆に迷惑を掛けたくないと言って急に辞めると‥‥‥」
「？‥‥‥‥言っている意味がよく‥‥‥‥」

　堀内は、伏し目がちに横から話に割り込んだ。

「お恥ずかしいのですが‥‥‥私‥‥‥‥ヒステリーが‥‥‥」
「ヒステリー？」
「‥‥‥‥は‥‥‥はい‥‥‥‥」
「ただ、先生、彼女は、女性に対しては、そうでもないんです。」

　部長の加藤が横から追言した。

「‥‥‥‥そうですか‥‥‥」

　仙次郎は、堀内と加藤、両方から話を聞くことにした。

　堀内は、職務柄デスクワークが少なく、主に社内及び支社内の建築物の修繕や美化、室内環境を修復し、それを維持管理していく仕事だった。
　当然、予算と照らし合わせて、部課の要望を聞き入れていくのだが、必要、不必要を見極め、強い要請にも毅然たる態度で応対していかなければならない。

　その要望は、毎日、数十件を超え、堀内は忙しい職務をこなしていた。
　１０年以上もこの仕事に携わり、全ての保持を担う堀内にとっては上部からも一目置かれた存在だった。

　しかし、忙しさの反発からか、性格が、数年前から急変したのだった。
　不当な要求をする部課の社員に対して、上司であろうと感情を剥き出しにして喚き散らしたり横暴な態度をとるようになってきたのだ。

　家に帰っても、夫婦喧嘩が絶えず、夫とは会話もない状態だった。
　仲の良かった男性の同僚からも敬遠されるようになり、ちょっとしたことにもピリピリし、どうでもいいような事を部下に指示しては怒鳴り声を上げるようになっていたのだ。

「なるほど‥‥‥‥‥自分でいけないと解っているわけですね。」
「‥‥‥はい。」

　仙次郎は、堀内聖子に対して的確な助言をするために何度も思考しながら言葉を選んで話をしていった。

「まず、今の段階で言えるのは、貴女は自分を客観的に見ることが出来ない状態ですね。」
「え？」
「貴女は、今の仕事に対して上部から、かなり信頼を得ている。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「入社以来、ずっとこの仕事をしてきて、貴女の技量に勝る者はなかなか育たない。言うなれば、貴女に任せておけば安心だと思っている者が多い。貴女の指示通りに行えば失敗も少ないし、ある意味、貴女は頼られている存在なんです。しかし‥‥‥‥」
「‥‥し‥‥‥‥しかし‥‥‥何ですか？」
「貴女自信が、失敗を恐れているのではないですか？」
「！‥‥‥‥ぁ‥‥あの‥‥‥どういう‥‥‥」
「つまり、貴女は、実力がある。今まで適切、的確な仕事で評価を受けてきた。部下や後輩は、貴女の性格は別として頼っており、それを貴女は理解している。つまり、プレッシャーが、常に貴女を襲っているんじゃないかと思うんですよ。」
「‥‥‥‥‥‥」
「失敗は、許されない。‥‥‥‥‥誰かが、自分の失敗を期待しながら待っているのではないかと、不安になってくる。プレッシャーと、そのストレスで、先ほど貴女に言った客観的に自分を見るという事が出来なくなっているんですよ。これはデータ上よくあるパターンです。」
　
　堀内聖子は、深刻な顔をしながら仙次郎の話を聞いていた。

「心当たりがありますか？　堀内さん。」

　堀内は、小声ながらポツリポツリと話しはじめた。

「実は、何事に対しても不安になってしまうんです。 些細な身の回りの悩みや家庭生活の心配、自分自信、主人や親など親しい人の不幸を考えてしまったり。」
「‥‥‥‥‥まだ、他にもあるでしょう？」
「‥‥‥ええ。‥‥‥体の不調についての取り越し苦労や対人関係での気苦労まで様々な心配や失敗の恐怖とか、懸念、思い過ごしが、多々あります。特に仕事や自分の悪い出来事を想像してしまうことも。自分で自分を抑えることができずに、神経過敏になり悪循環に不安を募らせるてる気がします。いつも不安があってイライラして落ち着かず、物音にもビクビクして短気になり不眠になることも。」

　堀内は、無表情で淡々と話した。

（‥‥‥思考力はあるな‥‥‥はっきり、物が言えてる‥‥‥‥‥）

「なるほど。貴女の、その時の身体の状態としては、急に息苦しくなったり、胸を締め付けられるように感じたり窒息して死ぬのではないかと思ったり心臓の動悸が激しくなり、眩暈を感じてしまう事もある。違いますか？」
「そ‥‥‥その通りです。」
「更に言えば、発作のない時でも漠然とした不安を感じ、妙に落ちつかない毎日を送ってしまうのではないですか？ 」
「‥‥‥は‥‥‥‥‥‥はぃ‥‥」
「堀内さん、なにか趣味のような物で、不安やストレスを解消できないのですか？」
「家に帰ると疲れが激しく、家事を済ますと直ぐに床についてしまうんです。休日も家の事をしていると、あっという間に時間が過ぎてしまいますし。」
「‥‥‥‥‥‥‥？」

　仙次郎は、疑問に思った。
　先ほどから、事あるごとに、忙しいとか時間がないとかを口にしている。

「堀内さん、貴女が、そういう症状になったのは、最近ですよね。」
「‥‥‥え‥‥‥ええ‥‥‥」
「それ以前は、今よりも、もっと忙しかっと思うのですが？」
「‥‥‥‥そ‥‥‥それは‥‥‥‥」
「おそらく失敗するという不安やプレッシャーだけではなさそうですね。」
「え？」
「ご主人と喧嘩が絶えない‥‥‥‥失礼ですが、性生活も満足ではないでしょう。」

　仙次郎の遠慮の無い質問に堀内の表情が険しくなった。

「そ、そんな事関係ないじゃないですかっ！」

　大声で怒鳴る堀内、表情はきつく血管が浮き出るほどだ。

「いえ、大いに関係ありますよ。」
「‥‥‥‥‥‥そんな事ありませんっ！」

（‥‥‥‥なるほど‥‥‥‥確かに症状通りだな。）

　仙次郎は、堀内に構わず話を続けた。

「まあ、落ち着いて聞いてください。確かに、症状はヒステリーですね。」
「‥‥‥‥‥‥」
「しかし、貴女は、ヒステリーと言う本当の意味が解りますか？」
「‥‥‥‥ぇ‥‥‥‥‥」
「少し説明しましょう。ヒステリーは、神経症に含まれる疾患なんです。精神分析では、欲求、つまり、リビドー、特に幼児期の性的なものが自己防衛機制として抑圧‥否認された結果生じるものとされるんです。」
「‥‥‥あ‥‥‥あの‥‥‥な、何を言ってるのかわかりません。」

　怪訝そうに仙次郎に疑問をぶつける堀内‥‥‥

「つまり、現在でも何らかの困難な状況からの疾病への逃避として捉えられてはいますが、性的な内容には、拘ってないんですよ。しかし、貴女は今、声を大にして怒りを現わしましたが、冷静に聞いて下さい。貴方は、性的要因が、かなり強い傾向にあります。」
「え？」
「ヒステリーは、大きく分けて転換ヒステリーと解離ヒステリーがあります。転換ヒステリーは、抑圧‥否認された無意識下に潜った欲求が、身体的な症状として出現するのものです。古典的には、運動麻痺、痙攣、感覚障害、ヒステリー球などが有名でしたが、現在では、こうした華やかな症状はほとんどありません。特に心因性の発熱、ヒステリー性の視力障害とか視力低下や視野狭窄など健康診断で発見されることが多いのですが、腹痛、頭痛、咳などの軽微な症状が多いのです。いずれにしても、身体に疾患がないことを確かめる必要があります。 一方、解離ヒステリーは、抑圧、否認された無意識下に潜った欲求が精神的な症状として出現するものです。」
「‥‥‥‥？」
「んー‥‥‥例えば、ヒステリー性の朦朧状態とか、興奮、恐怖、恍惚などで現れ、意識が傷害された状態です。また、多重人格、ヒステリー性の健忘、生活史における一部、あるいは、全部の記憶が消失してしまう意識消失発作。この場合も、まず第一に器質的な疾患の除外が必要です。病院で診てもらった事は？」
「はい‥‥‥精密検査まで受けて‥‥‥でも、異常はありませんでした。」
「そうですか‥‥‥‥」
「あの‥‥‥先生‥‥‥わかりやすく説明していただけないでしょうか？」
「いいでしょう。‥‥‥ヒステリー性格とは、診断名のヒステリーと性格類型のヒステリーとは、しばしば混同されがちなんです。すなわち、ヒステリーと言うと、まず女性が頭に浮かび、ギャーギャー大騒ぎする状況を連想する方はヒステリー性格の特徴に近いものを思い浮かべていますね。違いますか？」
「いえ‥‥‥そう思います。」
「ヒステリー性格は、自己顕示欲が強く、自己中心的、好き嫌いが激しい気分屋、負けず嫌い、誇張的といった特徴を持っています。もちろん女性だけでなく、男性にも多数存在します。本人が求めるものに能力が伴えば、かなりの成功を収めることも可能です。ヒステリーになる人が、皆ヒステリー性格であるとは限りません。より典型的なヒステリー症状を呈しやすいというだけなんです。近年ではヒステリー症状が軽微化し、同時に広く認められるようになっており、かえって誰でもヒステリーに陥る危険性を帯びていると言える現代病なんです。」
「‥‥‥‥‥‥‥」

　堀内は、仙次郎の説明に表情を一層暗くしていった。

「つまり、貴女は、解離ヒステリーです。自分は正しいのに、会社の方針を守り予算内で、きっちりとした仕事をしているにも関わらず、部課の人間から苦情を受けたり、正しいのに非難を浴びたりしてストレスが、蓄積された状態なんです。」
「‥‥‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥あの‥‥‥」
「治りますよ。直ぐに‥‥‥‥‥」

　堀内は、仙次郎の言葉に初めて明るい表情を見せた。

「せ、先生‥‥‥‥どうすれば。」
「先程、性的要因が強いといいましたね。」
「え、ええ‥‥‥」
「まず、外的ストレスは除きましょう。つまり内面的なストレスを取り去ります。」
「‥‥‥‥あの‥‥‥具体的には‥‥‥‥」
「性的要因をクリアする事です。貴女の年齢を考察すると、最もホルモンバランスが、正常に保たれていなくてはいけない時期なんです。失礼ですがセックスレスでしょう？」
「！‥‥‥‥‥‥は、‥‥‥‥はい‥‥‥」
「別に、ご主人とのセックスに抵抗があるわけではないんですよね。」
「ぁ‥‥‥は‥‥‥はい‥‥‥」

　今の質問で堀内の瞳が、酷く濁ったのを見逃さなかった。
　仙次郎は、眉を顰めた。

（‥‥‥‥‥‥‥おかしいな‥‥‥‥まだ、何か隠している‥‥‥‥）

　仙次郎は、堀内に悟られないよう質問を続けた。

「何年、していないのですか？」
「３年は‥‥‥‥‥していません。」
「ふむ‥‥‥しかし、原因は、貴女じゃないですか。仕事が忙しくて、つい機を逃してしまったのでは？」
「‥‥‥え？」
「ご主人が、サインを送っているにもかかわらず気づかなかったとか？」
「‥‥‥‥‥あの‥‥‥‥よく、覚えていません‥‥‥‥」
「そうですか。‥‥‥解りました。私は、医者ではありませんが、明日にでも、堀内さん、貴女に内観療法を試してみましょう。」
「内観療法？」
「ええ。ある医学者によって開発されたのですが、私もかなり良いと感じました。かなり、優れた効果を上げている精神療法です。ユング派の精神科学者の中にも内観療法を知らずして、精神療法は語れないとして積極的に内観療法の手法を取りいれている人もいます。今日一日、貴女の幼少の頃からの過去を出来る限りタイプに記してきてください。それを参考に私が貴女に試させてもらいます。」
「解りました‥‥‥‥‥お願いします、先生‥‥‥」

　部長の加藤も同じく頭を下げた。

「先生、よろしくお願いします。彼女に、今、会社を辞められると‥‥‥‥‥」
「はい。任せてください。」

　仙次郎は、自信有り気に返事をした。

　二人が、部屋を出ると佳代が問いただしてきた。

「先生、内観療法って‥‥‥？」
「彼女のヒステリーは、出るべくして発症したような気がしたんだ。」
「え？」
「さっき、旦那とのセックスに抵抗ないでしょうと質問した時に、彼女の様子が極端にに変わった。」
「そうでしたっけ？」
「んむ。‥‥‥思うんだが、やはり性に対しての苦い思い出か、心の奥に染み付いた恐怖があるような気がしてならない。」
「それで‥‥‥内観療法というのを？」
「ああ。ま、明日、一緒に聞いてろ。」
「はい‥‥そうします。‥‥‥しかし、先生って色々な事を知ってるんですね。」

　仙次郎は、ガックリとしながら項垂れた。
　かなりショックを受けたように身体の力が抜けていく。

「あ、あのな、佳代君‥‥‥‥僕は、これで今まで飯を食ってきたんだ。大学時代から、これを勉強してきたんだ。知ってて当たり前なんだよ。」
「し、失礼しました。」

　仙次郎は、溜息をつきながら呟いた。

「佳代君、コーヒー入れてくれ。」
「は、はい‥‥‥‥」

　佳代は、舌を出しながら、逃げるようにして、その場を離れていった。