（４３）

「な‥‥‥なんと‥‥‥‥名倉さんっ‥‥‥」

　仙次郎は、どうしてもと言う名倉の誘いでデートに応じていた。

　食事を終え、ホテルの一室で、二人は一夜を過ごしていた。

　名倉が、シャワーを浴びベッドに戻ってくると巻いていたバスタオルを仙次郎の前で取り去ったのだ。
　とても４４歳とは思えない、張りのある身体を惜しげもなく見せ付けてきた。
　名倉の恥丘の陰毛は、綺麗に剃り上げられ、なおかつ剃り跡が残らないようにレーザー処理されていた。

「先生、驚きました？」
「驚いたも何も、名倉さんが、そんな事をするとは思ってもいなかったので。」
「フフフ‥‥‥実は、私‥‥‥‥‥再婚する事になって。」
「えぇっ！‥‥‥本当ですか？」
「はい‥‥‥‥」

　名倉は、顔を赤く染めて仙次郎に頷いた。

「名倉さん、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「で、‥‥‥‥お相手は？」
「開発部長の大場さんなんです。」
「ほぉー、それは、それは。‥‥‥‥‥しかし‥‥‥その‥‥‥どうして。」
「大場さんとは、先生に相談した１ヵ月後位から、お付き合いしていたんですが物凄く気が合ったんです。大場さんは、１０年前に奥様を亡くされたんですがお互い子供も手から離れたし、色んな意味で一人では、不都合も生じるし‥‥」
「なるほど‥‥‥そうですか。」
「先週、どちらからともなく、こういう話になりまして。‥‥‥‥‥そして、大場さんの方から‥‥‥‥‥‥‥」
「プロポーズですか？」
「‥‥‥‥はい。」

　一層、顔を赤くして照れる名倉‥‥‥‥

「いやぁ‥‥‥おめでたい。よかったですね。」
「ええ、何より嬉しかったのは、娘が大賛成してくれたんです。お母さんの人生だから、大事にしてって喜んでくれたんです。」
「ふむ‥‥‥娘さんも本心で言ったと思いますよ。」
「‥‥‥ええ。」
「ところで、その‥‥‥‥」
「あ、これですか？」

　名倉は、綺麗にそり上げた恥丘を見ながら仙次郎に囁いた。

「ええ‥‥‥つまり‥‥‥大場さんの‥‥‥‥」
「趣味ですか？」
「私も、まさか、あんな真面目な方がと、最初は驚いたんですが。二人とも、今まで異性と交わる事など無くて。‥‥‥色々とデートを重ねていくうちに、セックスも欲が出てきてしまって。」
「なるほど、大場部長も結構、好き者ですね。」

　冗談っぽく言う仙次郎だが、なかなかどうして、大場も名倉も、まだまだ若いと実感していた。

「今、凄く楽しくて毎日が充実しています。」
「しかし、いいんですか？　大場さんがいるのに私と‥‥‥あ、解りました。つまり、報告がてら最後の思い出にと‥‥」

　仙次郎が、そこまで喋ると名倉は慌てて話しに割り込んできた。

「いえ、違うんです。」
「え？‥‥‥違うって‥‥‥」
「先生のお話を大場さんにも話したんです。大場さんは、ひどく先生に興味を持っていました。先生は特別だからまだ色々と教えてもらえと。」
「は‥‥‥‥‥言ってる意味がよく解りませんが。」
「先生も、心理学者の割に鈍感ですね。」
「！‥‥‥‥‥も、もしかして‥‥‥」
「その、もしかしてです。」
「そんな‥‥‥‥次期常務になるって噂の人の奥さんになるんですよ。」
「でも、先生に色々教わって、あの人に‥‥‥‥‥」
「あ、あの人って‥‥‥‥‥しかし‥‥‥」
「もぉぅ、先生っ、そんな事いいじゃないですか。」

　名倉は、そう言って仙次郎に抱きついてきた。

「な、名倉さん‥‥‥‥ちょ、ちょっと‥‥‥‥」

　名倉は、仙次郎の肉棒を手で弄り身体を押し付けてきた。

（‥‥‥‥‥‥しかし、変わるものだな‥‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、積極的な名倉の行動に観念した。

「‥‥‥しょうがない人だ‥‥‥」

　仙次郎は、名倉を抱き起こしベッドに仰向けに寝かせた。

「ん？‥‥‥‥名倉さん、身体が引き締まりましたね。」

　妖艶な視線を衰えさせる事無く仙次郎に返答する名倉‥‥‥‥

「あの人とダンスに行ってるんです。」
「ダンス？」
「ええ‥‥‥社交ダンスなんですが、いい運動になって。」
「へぇー‥‥‥」
「ドレスを着るので、シェイプアップしてるんですよ。」
「ほぉ‥‥‥しかし、いろんな事に挑戦していますね。」
「第二の人生、エンジョイしますわ。」

　そう言って、下から仙次郎を引き寄せる名倉‥‥‥‥
　仙次郎は、名倉の不思議な魅力に負けて身体を覆い被せていった。

☆☆☆☆☆

「アァァ‥‥‥‥先生‥‥‥そ、そこ‥‥‥‥ぁぁ‥‥‥気持ちいぃぃぃ‥‥‥」

　以前にも増して、名倉は大胆になっていた。

（‥‥‥‥‥んー‥‥‥‥こんなに綺麗にセクシーになるとは思いもしなかった。）

　仙次郎は、名倉の努力に感嘆した。
　そして、いくつになっても恋という薬は、人を美しくすると実感したのだった。

　仙次郎は、四つん這いにして名倉の蜜壷を真上から眺めた。
　肉棒をくわえ込み吸い込むように締め上げていく名倉‥‥‥‥

　仙次郎は、名倉の菊門に指先を当てた。

「ウッフゥゥゥゥゥゥ‥‥‥‥‥」

　同時に蜜壷を瞬時に締め上げていく。

（‥‥‥‥‥感度抜群だな‥‥‥）

　仙次郎は、ゆっくりと出し入れを開始していく。
　肉棒を抜くたびに名倉の蜜が摩擦で泡だっていった。

　仙次郎と名倉は、時間を掛けて、背後位を楽しんだ。
　肉棒の先が奥の壁に当たるたびに名倉の背中が反っていく。

　時折、恨めしそうに仙次郎の顔を見つめてくる名倉‥‥‥
　眉を顰めた表情がなんとも妖艶な感じを覚えさせる。

「せ‥‥‥先生ぇぇ‥‥‥ゥゥゥ‥‥‥ア‥‥ァァ‥‥‥アハァァ‥‥‥‥」

　名倉は、腰を降り始めた。
　激しく動かして欲しいという合図なのだろう。
　仙次郎は要望に応え、突き上げるように腰を前後していった。

「クゥゥゥゥゥゥーッ‥‥‥イ‥‥イィ‥‥イィィィィィィー‥‥‥‥」

　既に乳房がベッドにつき蜜壷だけを仙次郎に預ける格好になっていた。
　名倉がいきそうになるたびに、ワザと中断し焦らしていく‥‥‥‥

「イ、イヤァァー‥‥先生の意地悪ぅぅ‥‥‥もっと、もっと、してぇぇぇーっ！」

　甘えた声で、腰を振る名倉‥‥‥‥

「じゃ、そろそろ‥‥‥いきますか‥‥‥」

　仙次郎は、名倉の向きを変え仰向けにさせた。
　大きく足を開き、名倉の蜜壷に肉棒を挿入すると乳首と女芯を同時に指で刺激していく。

「アフゥゥゥゥゥゥー‥‥‥‥ァァ、イィィ‥‥先生、凄く、イィィィ‥‥‥」

　名倉は、顔を左右に振り快感を露にしていた。
　蜜が肉棒に纏わりつき、摩擦感が心地いい。

「イヤァァァー‥‥‥‥イィィ‥‥‥凄くイィィィィー‥‥‥」

（こりゃ、感度抜群になったな‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、何度も体位を変え、名倉の一番快感を得る形を探っていった。
　名倉の喘ぎ声は途切れる事が無かった。
　髪を振り乱して遠慮の無い声を上げていく。

　無くなった陰毛から見え隠れするクレヴァスが、淫韻な蜜を浴びながら妖しい光を帯びている。

「アゥゥゥゥ‥‥‥先生ぇぇ‥‥‥‥ィィ‥‥‥ウグゥゥゥゥゥゥ‥‥」

　前回とは打って変わって、蜜壷内の突起が増え、仙次郎の責めに対して敏感な反応を返してきた。

　仙次郎は、結合したまま、名倉の身体を横に向け松葉崩しの格好にした。
　より深く肉棒が侵入し、互いの恥骨が当たり、違う感度が名倉を襲った。

「ウグゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー‥‥‥‥アァァ‥‥イィィィィィィィー‥‥」

　名倉は、腰を激しく振り始めた。
　湿った摩擦音が、二人の耳に入ってくる。

「ゥゥッ‥‥ァァ‥‥だ、駄目っ‥‥ァァ‥‥‥ィィ‥‥‥イヤッ、気持ちいぃぃイ、イ、‥‥ァァ‥‥‥アゥゥッ‥‥‥‥イ、イ、イ、イクゥゥゥゥゥゥゥッ！」

　限界にまで背中を反り、名倉は昇天した。

　肉棒を引き抜く仙次郎‥‥‥‥‥

　名倉の閉じた亀裂からは、仙次郎の放った分身が顔を出し始めていた。

「こりゃ、なかなかナイスだった‥‥‥‥」

　薄っすらと汗をかいた名倉の身体を見ながら仙次郎は、独り言を言った。

　全身を投げ出し遠慮のない痴態を曝け出す名倉だが、妙にセクシーに見える。

（ふぅー‥‥‥‥名倉さん‥‥‥大場部長が求婚するわけだよ。）

　仙次郎は、ゆっくり立ち上がると名倉を残して浴室に消えていった。

/ / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /

「先生、素敵でしたゎ‥‥‥‥」
「いや、名倉さんこそ‥‥‥‥しかし、大変身しましたね。」
「全て、先生のおかげです。‥‥‥あの、結婚式は、身内でひっそりと行うんですが、先生には、是非、出席していただきたくて‥‥‥‥‥」
「ええ‥‥‥分かりました。是非、お祝いさせていただきます。」

　仙次郎のグラスに、ビールを注ぎながら名倉は微笑んだ。

「あ、ところで、先生‥‥‥‥実は、また、お願いしたい事がありまして。」
「ええ‥‥名倉さんのお願いなら何でも聞きますよ。」
「すみません。実は、私の部下で弓矢智子という女性がいるのですが、凄く仕事もできて、実力もあるんですけども、先日、企画会議で大きなミスをしてしまって、かなり落ち込んでしまっているんです。」
「‥‥‥何か、性格的に弱いとか？」
「いえ、私の見る限り、ごく普通の女性です。しっかりしていますし言動も問題ありません。ただ、今回、失敗は初めてだったようで。」
「ほぉー‥‥‥今まで、ミスが無かったんですか？」
「ええ。何事にも男勝りですし、どんな小さな仕事も一生懸命やるタイプです。」
「へぇー。」
「仕事に命を掛けてるっていう感じも受けますし、迫力ある女性なんです。」
「そりゃ、頼もしいですね。名倉二世って感じじゃないですか。ハハハ。」
「もうっ、先生、からかわないで下さい。でも、確かに目は掛けてるんです。でも、ショックが、かなり大きかったようで、もう、３日も仕事を休んでて。」
「‥‥‥‥‥３日もですか。そりゃ、彼女にとっては重大な出来事だったようですね。」「ええ。特に私生活で悩みがある風には見えませんし。今回のミスが、その原因とは思うんですけど‥‥‥‥」
「しかし、そのミスで名倉さんや上部から、厳しい指示を出したわけでなないんでしょ。」
「はい。むしろ、励ましたくらいです。」
「そんなに、大きな仕事だったんですか？」
「今回は、企画会議でしたので、プレゼンをしたわけでもありませんし、他社の人間がいたわけでも‥‥‥‥‥。それに、評価オンリーという人間ではないんです。どちらかといえば、昇進や昇格を目指すより、やり遂げる事に醍醐味を抱いている性格といえるかもしれません。」
「そりゃ、立派な女性ですね。まだ若いんでしょ。」
「２６歳です。」
「２６歳っ？‥‥‥そんなに若いんですか？」
「ええ。この若さで企画部にいること自体、すごい事なんですけど、更に、来期の新事業を率先して担当したいと意気込んでるようで。」
「なるほど。自信以上に何か目的意識を持っているようですね。しかし、仕事の内容は別としても、始めての失敗でそんなに落ち込むというのも不自然といえば不自然と思うんですが。」
「ええ。私も失敗は、よくしましたが、あれほどまでに落ち込んだ事はなくて。」
「自信もあり、今まで失敗がなかった人間によくあるパターンですね。」
「昨日、自宅に顔を出したんですが、食事も摂っていないようでやつれてて。」
「いいでしょう。明日にでも連れてきてください。」
「お願いします。」

　名倉は、そう言って自分もビールを口に運んでいった。
　上品にビールを飲む名倉‥‥‥

　股間から除くクレヴァスが、仙次郎の心を擽っていく‥‥‥‥
　名倉が、潤んだ目で仙次郎に声を掛けた。

「ところで、先生‥‥‥また、おねだりしてもいいですか？」
「え？」

　名倉にとっては、大胆な発言であろう言葉に仙次郎は思わず微笑んだ。
　性格までもが、大きく変貌している。

（この調子なら、初の女性取締役も近いかもな‥‥‥‥‥）

　まだまだ発展途上である名倉ではあったが、異性との付き合い、駆け引きに長けてくると、仕事においても大きく変貌を遂げるものだ。
　いい意味で、名倉は企業人として男性にも負けず劣らない道を歩み始めたようだった。

「では、やりますか。‥‥‥‥‥ただ、明日、仕事を休んでも知りませんよ。」

　仙次郎の言葉に名倉は、一気に熟した色気を発散し始めた。
　まさに、明晰な女性が行き経つであろう、最高に妖艶な雰囲気を醸し出していた。

（４４）

「先生、これ見てぇっ！　昨日買ってきたんですぅ。」

　佳代が、スカートを捲し上げショーツを仙次郎に見せつけた。
　呆れる仙次郎‥‥‥‥

「‥‥‥‥‥‥朝から何をやってるのかね君は‥‥‥‥」

　喜ぶと思って、ショーツを見せ付けた佳代だったが、予想に反する仙次郎の返答で一気に恥しさが湧いてくる。

「だ、だって‥‥‥先生が喜ぶと思って‥‥‥」
「馬鹿者っ。変態みたいな言い方をするんじゃない。」
「でも、先生の性格を知らなかったら、変態と思いますよ。」
「確かにな‥‥‥‥‥‥？‥‥‥‥ば、‥馬鹿者ぉぉぉぉーっ！　何言わせるんだ。」
「アハハ‥‥自認しているじゃないですか。」
「俺を誘導尋問するんじゃないっての。」
「す、すいません‥‥‥‥‥」

　仙次郎は、ガックリとしながらデスクに腰掛けた。

「あ、ところで、先生、今日、相談にくるという方は？」

　仙次郎のカップにコーヒーを注ぎながら佳代が問いただしてきた。

「ああ、名倉課長の部下で弓矢智子という女性だ。」
「弓矢さん？」
「知ってるのかい？」
「ええ。同期なんです。凄く優秀で仕事に熱意持った女性ですよ。」
「ああ、そうらしいな。君の代わりに彼女が秘書になってくれれば良かったのに。」
「先生っ、それ、どういう意味ですかっ！」

　怒りを露にして仙次郎に食いつく佳代‥‥‥‥

「あ、ゴメン、ゴメン‥‥‥‥‥冗談だって‥‥‥」
「もぅっ‥‥‥言葉に気をつけてくださいね。」
「へい、へい‥‥‥」
「先生だけなんですからね。私のオ○ンコを弄らせたり、オシッコしたり、浣腸させてあげて醜態を見せてあげるのは。」
「な‥‥‥何の関係があるんだ、今の話と？‥‥‥訳が解からんぞ。それに、いつ、俺が、そんな事をやらせてくれって頼んだんだよ。」
「あれ、言いませんでしたっけ？」
「全部、君がやってくれと言ったんじゃないか。」
「‥‥ァ‥‥‥ア‥‥ハハハ‥‥ハハ‥‥‥‥‥‥でしたね。」
「もう、いい‥‥‥それより、彼女は、どういう感じなんだ？」
「性格までは、知らないんですよ。ほとんどが男性社員で女性は、３人しか居ないんですけど、２、３回、同期で飲みにいったくらいで、その後の付き合いは特に‥‥。」
「ほぉぅ、同期なのに、付き合いがないとはな‥‥‥」
「確かに同期ですけど、私は、秘書課所属の接客係でしたので研修は別々でしたし。」
「そうか‥‥‥でも、何で、彼女が優秀だって知ってるんだ？」
「人事部に居ましたから噂だけは‥‥‥‥‥」
「そうか‥‥‥」
「あ、そういえば、私の同期の社員たちは、私を含めて全員が選抜考査で入社しました。つまり、無試験で榊原グループに入った者ばかりですよ。」
「なんだ、それ？」
「うちの会社から、大学に講師で行っている連中も多いんですが、つまり、講師が、在学中に優秀な人間を見つけて勧誘するんですよ。」
「何だ、つまり、引き抜きか？」
「ええ、技術職、専門職などです。」
「なるほど‥‥‥‥つまり、君の同期は、全員が引き抜きって訳か？」
「５年に一度づつ、このような採用をするんです。特例年選抜入社と言うんですが。」
「特例年選抜入社？」
「まあ、簡単に言えば、社の活性化という意味もあるんですけど将来のエリートというか‥‥‥‥んー‥‥‥幹部候補生かな？」
「？‥‥‥‥と言う事は、君も？」
「エヘヘ‥‥‥‥‥」
「マジかよ‥‥‥‥で、君は、なんの専門職で採用されたんだい？」
「財務、経理、経営の資格は、ほとんどもっています。」
「‥‥‥‥とても、そうは見えんが。」
「失礼ですね。先生ったら。」
「ちなみに、どういう資格をもってるんだい？」
「えぇーと、経理実務士、公認会計士、税務会計能力検定、税理士、中小企業診断士とか。まあ、他にも結構持っていますけどね。。」
「他にって？」
「秘書検定の１級も持ってます。」
「‥‥‥‥‥見かけによらんとは、この事だな‥‥‥‥」
「本当ぉぉぉぉーに、失礼ですね、先生って。」

　佳代が、段々と膨れっ面になってきた。

「しかし、、なんで君は、分野が全く違う人事部に配置になったんだい？」
「それは、私が美人で社交的だから‥‥‥ウフフ‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」

　呆れ顔で佳代を見る仙次郎‥‥‥‥

「先生、何か、言いたいんですの？」
「い‥‥‥いや‥‥‥‥‥ま、確かにそうかもしれんが自分で言う人間も珍しくて。」
「先生だから言うんですよ。」
「‥‥‥‥ま、いい‥‥‥‥‥それより、彼女の資料だけ出しておいてくれ。」
「はい。」

　佳代は、自分のデスクに座り、弓矢智子の社員データを引き出した。

「先生、出しました。」
「お、早いな‥‥‥‥」
「ええ、私も優秀ですから。」

　笑いながらプリントを受け取る仙次郎‥‥‥‥

　弓矢智子　２６歳　独身　特例年選抜入社
　企画部　第一企画課員
　○○工業大学卒　資格　アドミニストレータ

　隈なく目を通していく仙次郎‥‥‥‥

　担当長評価では、考査は９０点以上もあり、優秀で勤勉とあった。

（新人では、企画部配属は、異例なんだな‥‥‥‥‥アドミニストレータか‥‥‥）

　アドミニストレータとは、情報システムの利用者の立場で、業務システムの改善と情報システムの企画‥立案に主として従事する者で、利用者部門において業務の改善、経営課題の達成ということを常に考慮しながら、情報処理技術を活用した業務の効率化、利用者部門の情報リテラシーの向上を図る役割を担う者だ。

（なるほど‥‥‥まさに、抜選配置か‥‥‥‥しかし‥‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、ある一つの事に疑問を持った。

　確かに、優秀である事には違いない。
　しかし、入社して、まだ数年‥‥‥‥‥
　経験も少ないし、企業社会の中での経験が浅すぎる。

　更に、弓矢の年齢である。
　正直、この若さで、率先して大事業の担当を申し出るなどとはある意味、おこがましさもある。
　確かに、優秀であり、やり遂げる事も可能ではあろうが、企画と立案だけが、立派であってもそれが成功に繋がるとはいえない。
　たった一度の失敗で落ち込む事自体が普通では考えられないのだが、それだけ、弓矢は今まで仕事と自分に自信を持っていたのだろう。
　仙次郎は、その源と、何故、そこまで拘っているのかを聞く必要があると考えた。

☆☆☆☆☆

　ドアをノックする音が響いた。

　入口を開ける佳代‥‥‥‥

「あ、か、川島さん。‥‥‥‥ここに配属になったの？」

　弓矢が佳代に声を掛けた。

「ええ、この４月からね。でも、お久しぶりね。活躍してるようじゃない。同期として嬉しいわ。」
「ぁ‥‥‥ありがとう‥‥‥‥」
「どうぞ、先生から聞いてるわ。お入りになって。」
「‥‥‥‥えぇ‥‥」

　佳代は、弓矢を応対室に入れると仙次郎を呼びに執務室に入っていった。

「先生、弓矢さんが来ました。」
「んむ、解った。」

　仙次郎は、吸っていた煙草を消して応対室に入っていった。

「こんにちは。高輪と言います。名倉課長からお話は伺っています。」
「恐れ入ります‥‥‥‥どうぞ、よろしくお願いします。」

　弓矢は、仙次郎に頭を下げた。

　社員データで見るよりも弓矢は、ほっそりとしていた。
　ショートカットで、化粧も薄いが、素朴な感じの美形タイプだ。

　仙次郎は、佳代にコーヒーを入れさせると執務室に入っているよう指示した。

「弓矢さん、では、さっそくお話しましょうか。」
「は、はい‥‥」
「大体の内容は、名倉課長から、昨日お聞きしました。企画会議でミスをして落ち込んでいると言う事ですが。」
「はい‥‥‥‥」
「貴女にとって、今回のようなミスは初めてだということですけど。」

　弓矢は、視線を仙次郎に移して話を始めた。

「ええ‥‥‥‥‥‥いつも、準備を怠らず徹底して事に当たっています。」
「なるほど‥‥‥‥‥それで？」
「しかし、あの時は、立案段階であるにもかかわらず、企画が通った後の説明を私の勝手な判断で良かれと、ついしてしまったんです。ちょっとした心の隙があったのか、上役の指摘に発言を怠ってしまった事と、それに応える説明が不足してしまい‥‥‥つまり、立案を全て説明しないまま、終了させてしまって。」
「しかし、弓矢さん、そんな事は、良くある事ではないのですか？」
「わ‥‥‥私は‥‥‥ミスをしたくないんです。してはいけないんです。」

　強い口調で言う弓矢‥‥‥‥‥
　仙次郎は、弓矢の性格を正確に感じ取っていく。

「貴女は、特例年選抜入社という事ですが、プレッシャーでもあるんですか？　ミスをしてはいけないって言いますが、どんな優秀な人間でもミスはある。ミスを恐がっていて、大きな仕事なんか出来るんでしょうかね。特に企画部に席を置いている以上、これからもそういう事はあると思うんですが。どうです？」
「‥‥‥‥わ‥‥‥私は‥‥‥‥い、今だけ‥‥‥‥‥‥その‥‥‥‥‥」

（？‥‥‥今だけ‥‥‥‥）

　何か違う思いがありそうな弓矢だが、仙次郎はかまわず話を進めた。

「私は、企業人ではないので、安易な言葉は吐きたくありませんが、立案時までは、いくら失敗しても関係ないと思うんですがね。担当者の案が通り、事業開始という発令が出てからは、失敗は許されないかもしれない。だが、貴女は最初からミスをしたくないようだ。何かに拘っているか、単に貴女自身の性格なんでしょうか。」
「自分でも‥‥‥‥自分でも、よく解らないんです‥‥‥‥ただ、私は、仕事をやり遂げたいんです。それだけです。」
「なら、３日も仕事を休まないで、直ぐに復帰すればいいじゃないですか。」
「‥‥‥そ‥‥‥それが‥‥‥‥できないから‥‥‥‥」

　弓矢は、声を震わせて呟いた。

「弓矢さん、長い人生、人はミスだらけですよ。失敗だって幾度もある。」
「でも‥‥‥‥所詮、女だから、若いからミスして当然だと思われています。若さや性別なんか関係ないと思います。出来るのに失敗したという事が‥‥‥」
「やけに、自信をもった発言ですね。」
「これから、仕事をしていく上で、ミスは、私にとって恥的感を拭えない重要な事なんです。‥‥‥恥を‥‥」
「そんな事は、恥じゃない。もう一度チャレンジしようと思わないことが恥なんだ。それが企業人魂じゃないんですか。貴女の若さで完璧な者などいませんよ。技術、実力があっても出来ないものがあります。貴女は、まだ、場数を踏んでいない。本当の実力は、たくさんの経験を踏む事で身に付くものなんですよ。失礼ですが、貴女は自信過剰なところがある。」
「‥‥‥そ‥‥‥そんな事‥‥‥‥」
「では、聞きますが、貴女は自分の実力だけで最後までやりたいと言いますが立案し企画しプレゼンをし、これが認められ許可を受け、そして初めて事業に取り掛かっていくんですよね。さらに、これを貴女一人で出来るんですか？」
「‥‥‥で、‥‥‥できます。」

（違う‥‥‥‥本心で言っていないな‥‥‥‥）

　仙次郎は、瞬時にそう思った。
　ノートに質問の応答とその時の弓矢の様子を克明に記しながら話を続けていく。

「来期の新事業は、商業マーケットの拡大らしいですが建築も関わってきます。建築関係は、榊原グループの子会社を使うと思いますが実際は下請けを使う。」
「‥‥‥‥‥あの‥‥‥なにを‥‥‥言いたいんですか？」
「つまり、これらを全てまとめて、完成まで持っていく過程の中では、他の者の意見も尊重し、さらには、専門知識を持った人の助言や協力も必要だ。一人で最後までやる職位ではないし不可能でしょう。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥で、でも‥‥‥」
「何のために、部課に分かれているかという事を考えないと。事業成功までには、色々な担当が関わる。その人達を無視して最後まで自分一人でやり遂げるなどとは、到底無理ですよ。」
「で、でも、過去に、実例が‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥なるほど、貴女の所属長の名倉さんは、確かにそうでしたね。しかし、それは、補佐時代ですよ。あなたの若さで、実現はしていない。」
「‥‥‥‥‥‥し、‥‥‥しかし‥‥‥‥」

　仙次郎は、弓矢を観察しながら心を探っていった。

「弓矢さん‥‥‥‥貴女は、同期の人たちをライバル視していますか？」
「‥‥‥と‥‥‥当然、いい意味で負けたくないとは思っています。」
「ん？」
「しかし、昇格や昇進など全く考えていません。出世なんかどうでもいいんです。私は‥‥‥」
「何故です。頑張る理由の一つは、それがあるでしょう。」
「そ‥‥‥それは‥‥‥‥でも‥‥‥」

　仙次郎は、手で弓矢の言葉を遮った。

「解りました。おそらく‥‥‥それは、貴女の本心でしょう。」

　弓矢は、仙次郎を怪訝そうに見つめていた。

（確かに、出世欲とかは持っていないようだな‥‥‥‥しかし、何か隠している‥‥）

　仙次郎は、弓矢と言う女性が、何か強い拘りと人的不安を持っているような感じを受けた。
　それが、自然に弓矢自身の欲に繋がっているのだ。

　仙次郎は、書き記したノートを見ながら、弓矢に対する対処法を思考し始めた。