（４５）

　弓矢は、不安そうに仙次郎のペンの動きをじっと見つめていた。

　仙次郎が、ペンを休めて弓矢を見つめる。

「弓矢さん、貴女の今の状態をまとめてみました。」
「‥‥‥はい。」
「知らず知らずのうちに、欲求が貴女を支配しています。」
「よ‥‥‥欲求？‥‥‥‥あの、だから私は‥‥‥欲など‥‥‥」
「まあ、最後まで聞いてください。」
「‥‥‥ぁ‥‥‥‥‥はい。」
「いいですか。欲求にも種類と段階があるんですよ。そして、どんな人でも死ぬまでその欲求を持ち続けるんです。これは、人間である以上しょうがない事なんですよ。」
「‥‥‥‥‥」
「人間の欲求には、一時的欲求があります。つまり、生理的欲求です。もう一つは、二次的欲求、これは、人格的欲求、または社会的欲求をいいます。例えば、食べたい、飲みたい、眠りたいといった欲求は、生理的欲求です。これが満たされないと人間は、死んでしまうから、この欲求は、非常に強烈です。仮に一週間寝ないでいたら何億円を上げようと言われても、恐らく人間は、知らずに寝てしまうでしょう。」
「‥‥‥‥‥‥はぁ‥‥‥」
「しかし、人は、生理的な欲求だけで生きているのではありません。人として、この社会で生きていく上で、様々な願い、つまり欲求を持ちます。たとえば、有名になりたいとか、綺麗になりたいといった欲求です。貴女の場合は、仕事をやり遂げたいという欲求ですね。」
「‥‥‥‥ぇ‥‥‥ええ‥‥‥‥‥‥そうです。」
「先程、欲求には段階があるといいましたが、貴女もそれを踏んでいるんです。」
「え‥‥‥‥私が‥‥‥‥ですか？」
「ええ。知らず知らずにね。つまり、貴女の思考を無視してです。」
「‥‥‥‥‥そ‥‥‥そんな‥‥‥」
「では、その段階を説明しましょう。」

　弓矢は、仙次郎を真剣に見つめていた。

「これは、マスローの欲求段階説というのですが、マスローという学者は欲求には、必ず段階があると言っているんです。順に言いましょうか。」
「‥‥‥はい。」
「まず、生理的欲求、安全欲求、愛情欲求、所属欲求、社会的承認欲求そして、自己実現の欲求です。難しい言葉なので例で説明しましょう。」
「‥‥‥‥‥‥」
「まず人は、食べることや他の物質に襲われないことを求めます。次に、家族や仲間が欲しいと願い、更に皆から認められたいと願います。そして最後に、自分らしく生きよう。例えば趣味、ボランティア、芸術、心理の探究などの安らぎを求めます。」
「‥‥‥‥？」
「気づかないかもしれませんが、貴女も求めているんです。」
「‥‥‥‥‥そうでしょうか‥‥‥‥」

　弓矢の顔が僅かに歪んだ‥‥‥‥‥

（‥‥‥‥‥当たってるな‥‥‥）

　仙次郎は、説明を続けていく‥‥‥‥

「例えば、原始人は、最初の方の欲求を満たすために必死でしたが、現代人は余裕があるので、自己実現を目指す行動に励みますよね。」
「‥‥ええ‥‥‥まぁ‥‥‥‥」
「でも、同じように芸術や学問、そして仕事に励んでいる人も、心の中は色々です。上司に認めてもらうため、友人に仲間外れに会わないため、リストラされないため、そんな思いで行動しているのならば、表面上はともかくとして、実際は安全や安心、愛情、承認といった欲求が満たされないでしょう。しかし、貴女は少々違うようだ。」
「？」
「本当の自己実現行動は、本来、とても楽しいはずですが、欲求を満たすための行動は、非常に辛いものになります。」
「‥‥‥あの‥‥‥‥」
「欲求不満とは、簡単には語りきれないんです。次々と自分の欲求が満たされれば問題ありませんが、そうでないと、徐々に欲求不満、つまりフラストレーションに陥っていきます。これが蓄積されると人間は、ある行動をとります。思い当たる節があるか聞いてて下さい。」
「‥‥‥はい。」
「まず、意味のない行動を繰り返し、神経質になり、その問題に対して触れて欲しくなくなる。決断力が鈍くなり、どうでもいいことに固執する。」
「‥‥‥‥‥！」
「心当たりありますか？」
「‥‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥あの‥‥‥‥」
「あるようですね。‥‥‥貴女は、何かを焦ってしまった。だから先回の企画会議でミスをした。そうじゃないですか？」
「‥‥‥‥‥‥‥そ‥‥‥それは‥‥‥‥あの‥‥‥‥例えば‥‥つまり、それを解消する方法というのは、‥‥‥あるんですか？」

（‥‥‥ククッ‥‥‥乗ってきたな‥‥‥）

　仙次郎は、腕を組みながら弓矢に答えた。

「解消ですか。‥‥‥‥‥‥ま、ありきたりの言葉ですが、欲求不満になるような環境を避ける。つまり環境を変え欲求不満に耐える力を強める。これは内的安心感ですね。若しくは、欲求不満の解消法を自分なりに工夫してみる。と、いったところでしょうか。しかし、貴女は違うんです。」
「え？」
「貴女は、外的な要因と自分自身の内的な要因で、そうなっているだけで、実際は、ミスなんか恐くないんだ。つまり、何かの理由で拘ってるだけです。」
「‥‥‥‥！」

　弓矢は、仙次郎の鋭い言葉に身体を硬直させた。

「弓矢さん、貴女、彼氏は？」
「え？‥‥‥ぁ‥‥‥‥あの‥‥‥‥ぇぇ‥‥‥い、一応居ますが、そ‥‥‥その‥‥‥彼は、関係ないし‥‥‥‥‥私は、自分が‥‥」

（ククッ‥‥‥しかし、なんという正直な女性だ。‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、弓矢の気持ちを尊重し、直接、要因を告げるのは控えた。
　つまり、弓矢はそれほど深刻な症状があるわけでもなく、ちょっとした、助言程度で十分に復活すると思ったのだ。

（やはり若い‥‥‥‥‥男だな‥‥‥‥‥その拘りは‥‥‥）

　仙次郎は、他の質問で、弓矢を誘導的に原因の根を喋らせようと考えた。

「弓矢さん、あまり難しい話ばかりでは、それこそストレスが溜まります。ちょっと、話題を変えましょう。プライベートな事を聞いていいですか。」
「はい。」

　仙次郎は、コーヒーメーカーからフラスコを取って弓矢のカップに注いだ。

「弓矢さんは、休みの日は何をしているんですか？」
「え？‥‥‥‥」
「彼氏とデートとか‥‥‥趣味で時間を潰しているとか。」
「ええ‥‥‥‥まぁ、彼とも会いますし‥‥‥‥お部屋をお掃除したりとか、お料理を作ったりとか‥‥‥‥‥‥ぁ、あのぅ‥‥‥それが何か関係‥‥」
「いや、ただ、君のような女性は何をしているのかと思ってね。」
「はぁ‥‥‥‥‥‥私、ごく普通の女です。」
「いや、魅力ありますよ。頭は切れる。仕事に熱意もある。それに美人だ。」
「そ‥‥‥そんな‥‥‥‥」
「本心ですよ。」
「私は‥‥‥今、そんなことを話す気力が‥‥‥‥‥」
「クククッ‥‥‥貴女の欠点は、その、せっかちな所ですね。」
「え？」
「まあ、それはいいですが‥‥‥貴女は、彼氏を愛しているんですか？」
「も、勿論です。」
「どれくらい？」
「どれくらいって‥‥‥‥その、‥‥‥私の人生を全て捧げていいくらい‥‥‥‥」
「なるほどね。先程、私は、欲が貴女を支配していると言いましたね。ずばり、それを言い当てましょうか？」
「‥‥‥‥え‥‥‥えぇ‥‥‥」
「貴女の彼氏が貴女の欲の原因です。」

（ぅ！！‥‥‥‥‥）

「彼氏に、何か言われてるんじゃないですか？」
「‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥ぁぁ‥‥‥‥‥あ、あの‥‥‥‥ど‥‥‥どうして‥‥‥」
「ハッ、ハッ、ハッ。弓矢さん、私の勘ですが、貴女の彼氏は、同期の男性じゃないですか？」

　弓矢は、もはや驚きを隠せなかった。
　何故、たったこれだけの質問で、そこまで判ってしまうのかを。

「図星ですね。」
「先生、ど、どうして‥‥‥‥‥」
「それが判るかって？」

　無言で首を縦に振る弓矢‥‥‥‥‥‥

「フッ‥‥‥それは貴女の顔に書いてあるからです。」
「‥‥‥‥‥‥ご、ご冗談を‥‥‥‥」

　弓矢は、どうしても納得が、いかない様子だった。

「解りました。では、私が、それを話したら貴女も彼氏との秘密を話してくれますか？」「‥‥‥わ‥‥‥解りました。‥‥‥そ、そのかわり‥‥‥‥」
「わかってます。あなたが納得するように、お話しましょう。」

　仙次郎は、冷めたコーヒーを全部飲みほすと弓矢を見ながら説明を開始した。

「まず、貴女は、ミスした事を悩んでいるのではなく、ミスしてはいけないと思っていたことに対して、それが叶わなかったから、悩んでいるんですよ。」
「‥‥‥‥‥」
「貴女は、彼と何か約束でもしたんでしょう。同期全員が特例年選抜入社だ。つまり、榊原グループのエリート。その同期である二人は、恋人同士で、たぶん、結婚の約束もしているんじゃありませんか？そうでしょ‥‥‥。」

　頷く弓矢‥‥‥‥

「彼も、こう思っているはずだ。自分と君は、特例年選抜入社のエリート社員で部署こそ違え、社を担っていく人間だと。そして、彼と何かを約束した。ここからは、私の憶測ですが、‥‥‥つまり、目的達成するまでミスをしないでおこうと。」
「‥‥‥ぁ‥‥‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥‥‥‥‥ぁぁ‥‥‥‥」
「ところが、これも私の勘ですが、彼は、それを真意で言ったわけでは無いと思うんです。若い男女同士だ。恋の悩みは色々とある。本当に自分を好いていてくれるんだろうか。私を嫌っていないだろうかと考えてしまうのは普通だ。恋愛している事によって君に隙を与えたり、悩ましたりする事を恐れて、敢えてミスをしないでおこうと彼なりの優しさで、そう言ったとしか考えられない。もし仕事上でミスしたら君と交際を止めるとでも言ったんですか？違うでしょ。つまり、君は、仕事でミスしたのを悩んでいたんではなく、彼にすまないと言う事を悩んでいたんだ。それが、先ほど私が貴女に説明した欲の段階に足を踏み入れてしまったということなんです。弓矢さん、解りますか？」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「さ、次は、貴女の番です。話してください。」

　弓矢は、仙次郎の実力を見極め、そして全てを信頼し、本意を話し始めた。

「全く先生の言うとおりです。彼は、いま、海外渉外部にいるんですが、毎日忙しい日々を送っているんです。彼とは、入社時から付き合っていたんでが、いくら私が、特例年選抜入社した社員といっても自信がありませんでした。その時、彼に相談をしたんです。彼は、私を物凄く大事にしてくれました。そして親切にアドバイスもしてくれました。私は、彼のそんな優しさに惚れ直したし、何よりも親身になって助言してくれる事が嬉しくて嬉しくて、いつのまにか、全てを甘えるようになっていたんです。解ってはいたんですが、それでも私は、会うたびに、彼に泣き言をぶつけていたんです。自信が無いって。ある日、同じように、彼に相談したんです。
　そうしたら彼はこう言ったんです。俺は、自身を持たない人間は嫌いだって。楽な仕事なんか世の中にない。俺は、君を駄目な人間にしたくないって‥‥‥‥そして、こう言いました。結婚するまで、お互い、ミスをしないって約束しよう。ミスをしない仕事は難しいかもしれない。でも約束すれば頑張れるはずだって。」
「‥‥‥‥ふむ‥‥‥‥なるほど。君を愛していればこそ言った言葉でしょうね。」
「私も、先生に言われて気がついたんです。自分でいつの間にか思い込んでいたんです。ミスをした時は彼と別れるときだって。彼とは、忙しくてなかなか会えないんですが、それが原因なのか、知らぬうちに彼が言ってもない事を私は頭に浮かべていたんです。」
「ふむ‥‥‥‥妄想依存ですね。」
「でも、先生、何故、そこまで読めるんです？」
「まあ、そのための心理学ですから。」
「ぁ‥‥‥‥す、すみません。」
「あ、いや、誤らなくてもいいですよ。まあ、基本的に、その人の心の中に自分が侵入することですね。そうする事で悩みの半分は判断がつきます。」
「それで、私の心が？」
「何故、そう思ったかというと、貴女に質問した答えから心理的障害のメイン症状が全く無かったんです。ただ、それがショックで食事も喉に通らなかっただけの事です。恋の関連した悩みは大きいですね。」
「‥‥‥‥‥せ、先生‥‥‥‥」
「そういう貴女の性格だ。彼にもまだ話してないんでしょう。」
「‥‥‥‥‥は、はい‥‥‥」
「こう言ってみなさい。約束を守れずに仕事で大きなミスをしました。ごめんなさい、もう、どうなっても構いません。‥‥‥‥‥‥とね。彼は、仕事中だろうと、君の所へ、すっ飛んでくると思いますよ。」

　笑って、そういう仙次郎に弓矢が呟く。

「あの‥‥‥‥でも、私は‥‥‥彼を‥‥‥‥」
「君くらいの年代は、多少、男を尻に敷いた方が上手くいくんですよ。」

　弓矢は、少々考えた後、仙次郎に答えた。

「‥‥‥‥‥‥‥先生‥‥‥‥言ってみます。」

　弓矢が、初めて仙次郎に笑顔を見せた。

「そうしなさい。」

　佳代が、話を終わったのを確認したのか応対室に飛び込んできた。

「弓矢さん、誰、誰‥‥‥‥同期で海外渉外部にいるって‥‥‥‥」
「おい、佳代君‥‥‥‥‥‥」
「いいじゃないですか、先生。私たちは同期なんだし。」
「フフッ、川島さん‥‥‥‥後藤君‥‥‥後藤賢治よ。」
「えぇぇーっ！　後藤君なのぉ。‥‥‥‥海外渉外部かぁ‥‥‥‥海外赴任が多いんでしょ。この部署は、エリート集団だからね。」
「‥‥‥‥そ‥‥‥そうかな‥‥‥」
「じゃ、弓矢さん、結婚したら、一緒に着いて行けるじゃないのぉ。いいなぁ‥‥‥うちの海外支社は、先進国ばかりだし憧れるわぁ。」

　仙次郎は、佳代の話で、弓矢の出世欲がないという気持ちが今解った。

（なるほど、結婚したら社を辞めて彼について行く気だな‥‥‥‥‥それで‥‥）

「川島さんは、まだ結婚しないの？」
「だって、まだ、やりたいこと一杯あるし‥‥‥それに先生とＳＭ‥‥‥」
「な！‥‥‥‥コ、クォラァァァァァァァー！」

　大声を出す仙次郎‥‥‥‥‥‥

「ぁ‥‥わゎ‥‥‥」
「え？‥‥‥‥いま、Ｓがどうのって‥‥‥」
「い、いえ‥‥‥‥な、何でもないの‥‥‥アハハハ‥‥‥」

　慌てて口を塞ぐ佳代‥‥‥‥‥
　仙次郎は、佳代に独り言のように呟いた。

「‥‥‥‥君が、特例年選抜で入社したたってのが信じられないよ。」

　仙次郎は、煙草を咥えながら佳代を見た。

　イソイソと目を叛ける佳代‥‥‥‥‥

　仙次郎は、力が抜け切った身体をソファに預け、元気なく煙を吐き出した。

（４６）

　翌日、仙次郎は、内線で名倉と談話していた。

『えぇっ？‥‥‥‥そんな理由だったんですか？』
「ええ。大したこと無いですよ。」
『でも、よかったわ。』
「それに、彼女は、結婚したら社を辞めるつもりですよ。」
『え？』
「彼女の彼は、海外渉外部でしょ？」
『そうか‥‥‥‥海外赴任すれば、最低でも５年は帰って来れないし。』
「そういう事です。‥‥‥一緒に居たいんですよ。」
『それなら、何も会社を辞めなくたって、社規定を使って支社勤務にしてもらえば。』
「へぇー、そんな事できるんですか？」
『勿論です‥‥‥‥今は、そういう時代ですよ。社員の家庭の事も考えるんです、この会社は。』
「でも、彼女は、それを知らないようですよ。是非、その規定がある事を教えてやってください。」
『ええ、そうしますわ。』

　その後、仙次郎は、名倉としばらく他愛のない話をして電話を切った。

　仙次郎は、デスクに足を投げ出して読みかけの専門書を見始めた。

「先生、コーヒーでも入れましょうか？」

　暇そうにしている佳代が、仙次郎に声を掛けた。

「ああ、頼む。」

　佳代が、コーヒーを入れたカップを仙次郎のデスクに置いた。

「先生、今日は、珍しく１本も相談の電話が入りませんね。」
「いいことじゃないか‥‥‥‥たまには、ゆっくりしよう。」
「ですね‥‥‥」

　コーヒーを飲みながら本に目を通す仙次郎‥‥‥‥
　佳代は、その仕草と仙次郎の表情を見ながら妙に身体が興奮してくるのが判った‥‥‥

（何となく、ムラムラしてきちゃったわ‥‥‥）

　佳代は、何気に仙次郎の背後から本を覗き込んだ。
　ほとんどが英語のようである。

（‥‥‥‥何を書いてあるのか解んないゎ‥‥‥‥）

　仙次郎は、本に集中しているようだ。

　人間、こういう暇な時に限って悪戯心が湧いてくるものだ。
　佳代は、仙次郎に身を寄せ背中に乳房を押し付けた。

「‥‥‥‥‥暑いっちゅーの‥‥‥」
「ねぇ‥‥‥先生ぇぇ‥‥‥」

（ん？‥‥‥‥‥‥‥非常に、ヤバイ雰囲気だな。）

　仙次郎は、咳払いをしながら身体を揺すった。

「いいじゃないですかぁ、先生ぇ‥‥‥暇なんだしぃ‥‥‥」

　そう言って仙次郎の膝に腰を降ろす佳代‥‥‥‥‥‥

「コラっ‥‥‥本が見えないぞ。」
「もぉぅっ‥‥‥‥」

　佳代は、拗ねた様子で仙次郎の股間を撫で始めてくる。

（‥‥‥‥ったく‥‥‥よーし‥‥‥無視してやろう。）

　仙次郎は、無表情で佳代のされるがままになっていた。
　佳代は、一向に怒張してこない仙次郎に苛立ちを隠せないようだ。
　眉を顰めて仙次郎の顔を覗き込む。
　しかし、相変わらず無表情で仙次郎は本を捲っていた。

（こうなったら‥‥‥‥‥）

　佳代は、膝から降りて仙次郎のベルトを外しチャックを降ろした。

（‥‥‥‥おい、そこまでやるかよ‥‥‥）

　仙次郎のブリーフを捲り肉棒に唇を被せる佳代‥‥‥‥‥‥

（なっ？‥‥‥‥ったく‥‥‥‥‥こうなったら意地でも立たないでいてやる。）

　仙次郎は、気を集中して本に没頭した。
　佳代は、気を引くために大袈裟な音を立てて、仙次郎の肉棒に舌を絡めている。

（‥‥‥うぐぐ‥‥‥‥やっぱ、だ、駄目だ‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、とても我慢できるような状態でなくなってきた。
　気を緩めた仙次郎の肉棒は、速いスピードで怒張していく。

「‥‥‥！？‥‥‥ングゥッ‥‥‥ンムゥゥゥッ‥‥‥」
「えー‥‥‥‥‥佳代君‥‥‥‥もうちょとキツメに吸ってくれ‥‥‥」

　佳代は、鼻声で返事をしながら下から仙次郎を見上げて満面の笑みを浮かべた。

　その時‥‥‥‥

「おーい、仙次郎、いるかぁー‥‥‥‥？‥‥‥おーいっ！」
「ゲッ、ヤバイ‥‥洋平だ。」

　応対室の方から、洋平の声が聞こえたかと思うと、いきなり執務室のドアが開いた。

「ギクッ‥‥‥」

　仙次郎は、佳代の頭を抑えながらデスクに向きを変えた。

　佳代は、驚きながら仙次郎のデスクの中に潜り込み物音を立てないように、じっと身を潜めた。

「何だ、仙次郎‥‥‥返事くらいしろよ。」
「あ‥‥‥ああ‥‥‥スマン、スマン‥‥‥ちょっと本を読んでいたんでな。」
「ふぅーん‥‥‥‥川島君はどうした？」
「え？‥‥‥ぁ‥‥ああ‥‥‥ちょっと、買い物に行ってもらった。」
「そうか‥‥‥」
「ところで、何のようだ？」
「いや、暇でしょうがないんで遊びに来たんだ。」
「遊びに？‥‥‥‥」

（チッ‥‥‥非常にヤバイぜ‥‥‥‥）

　そんな仙次郎の焦りと裏腹に佳代は、この状況を楽しんでいた。

（フフッ‥‥先生、かなり焦ってるわね。）

　佳代は、音を立てないように仙次郎の肉棒に舌を這わせていった。

「‥‥‥ォ‥‥‥ゥッ‥‥‥‥クッ‥‥‥」

　洋平は、首を傾げながら仙次郎を見ている。

「？？‥‥‥どうした仙次郎、気分でも悪いのか？」
「え？‥‥‥‥あ、いや、何でもない‥‥‥‥」

　仙次郎は、足で佳代を蹴っている。

（佳代君‥‥‥やめろって‥‥‥）

「どうした？‥‥‥おかしな奴だな。」
「ハ‥‥ハハ‥‥気にするな。」
「‥‥‥‥ならいいが。‥‥‥‥‥ところで茶くらい入れろよ。」
「なにぃーっ！」
「は？‥‥‥‥何って‥‥‥なんで怒ってるんだ？」
「あ‥‥‥‥す、すまん‥‥‥ちょっと考え事してたんでな。応対室のボードにカップとコーヒーが置いてあるから飲めよ。」
「‥‥‥‥‥本当におかしなやつだな。俺は客だぞ。」
「俺とお前に、そんな遠慮は無しだ。」
「チェッ‥‥‥‥」

　洋平は、執務室を出てコーヒーを入れにいった。
　仙次郎は、急いでデスクの下の佳代に小声で言い放った。

「佳代君、止めろっつーの。」

　佳代は、貪りつくように仙次郎の肉棒に貪りついていた。

「ンゥゥ‥‥ンムムゥゥ‥‥‥‥ンッ‥‥ゥゥ‥‥」
「何、言ってんだ？‥‥‥‥早く止めろっての。」

　そうこうしているうちに、洋平がカップにコーヒーを入れて戻ってきた。

（チッ‥‥‥）

「ところで仙次郎、今日、暇なら飲みに行くか？」
「ああ、そ、そうだな‥‥‥‥」
「どこか、面白い店あるか？」
「面白い‥‥‥とは？」
「馬鹿野郎‥‥‥俺が、面白いといえば風俗だろうが。最近、行ってないからな。」
「じゃ、このあいだ行った奈落に行くか？」
「おお、あのＳＭパブか？　よぉーし、そこでＯＫだ。‥‥‥‥クククッ、今からビンビンになってくるな。」

　佳代が居るとも知らず、平気で喋り続ける洋平‥‥‥

「洋平、あまり、卑猥な事を言うな。」
「え？何言ってるんだ。さっきから様子がおかしいぞ。」
「そ、そんな事ねぇーよ。」
「‥‥‥しかし、仙次郎、この涼しい部屋で何でそんなに汗かいてるんだ。」
「汗？」

　額を触る仙次郎‥‥‥‥‥

（‥‥‥‥チッ、冷や汗だぜ、これは‥‥‥）

　洋平は、なかなか、部屋を出て行こうとしない。
　焦る仙次郎は、何とか洋平を部屋から追い出す手立てを考えたが、佳代が、肉棒を咥えながら刺激しているために集中できないでいた。

（クッ‥‥‥‥こうなったら適当に‥‥‥）

「よ、洋平‥‥‥もうじき、客が来るから仕事終わってから落ち会おうぜ。」
「なんだ‥‥‥そうか‥‥‥わかった。じゃ、社門で待ってるぜ。」
「あ、ああ‥‥‥‥悪いな。」
「で。誰が来るんだ？」
「え‥‥‥あぁ‥‥‥えぇっと‥‥‥そう、名倉課長だ。」
「名倉さんか‥‥‥‥少し挨拶してくかな。」
「な、なに‥‥‥‥‥そ、それはいかん。」
「なんで？」
「ぁ‥‥いや、かなり、深刻な話らしいから。」
「ふーん。そうか‥‥‥最近、そんな風には見えんかったがな。‥‥‥ま、いいか。じゃ、俺は行くから。後ほど‥‥‥‥‥。」
「ああ、夜楽しもうぜ。」

　洋平が、執務室のドアを開け、部屋を出ようとしたときだった。

「あ、名倉さん。」

（何ぃぃぃぃぃぃーっ！‥‥‥マ‥‥‥マジかよ‥‥）

「あら、西条さん‥‥‥先生に用だったの？」
「いえ、暇だったので、ちょっと遊びに‥‥‥‥」
「そう。」

　運の悪い事に、本当に名倉が仙次郎を訪れてきてしまった。

「何か、深刻な相談らしいですね。」
「深刻？‥‥‥何言ってるの？それより、和菓子持ってきたの。一緒にどう？」
「お、そうですか。」

　二人の会話を聞きながら、肝を冷やす仙次郎‥‥‥
　どう考えても、ブリーフとチャックを上げズボンを直す暇などない。
　ましてや、佳代をデスクの下から上げようものなら一発でバレてしまう。

（クッソー‥‥‥‥万事休すだぜ‥‥‥‥‥出そうだし‥‥‥‥‥）

　仙次郎の困惑とは逆に、佳代は、興奮しながら仙次郎の肉棒に執着していた。

「おい、仙次郎っ、名倉さんが、菓子持ってきて俺も一緒にって言ってくれてるから食ってくぜ。」
「そ‥‥‥そうか‥‥‥‥ハ、ハハハ‥‥‥」

（チッキショー‥‥‥もう、どうにでもなれっ‥‥‥）

　仙次郎は、完全に諦めて椅子をデスクの奥に入れた。
　下半身を二人に見えない状態にするためだ。

　名倉が、和菓子を仙次郎に差し出す。

「ど、どうも‥‥‥」
「先生、美味しいんですよこれ。」

　名倉は、デスクの前のソファに座り、洋平と何やら話しを始めた。

（クゥゥゥー‥‥‥、げ、限界だ‥‥‥‥出しちゃおう‥‥‥）

　仙次郎は、下半身に力を入れた。

（‥‥‥‥ングゥゥ‥‥‥‥‥ンゥ‥‥‥ゴクッ‥‥‥‥）

　放出した仙次郎の分身を飲み込んで行く佳代‥‥‥‥
　それでも佳代は、肉棒から口を離さなかった。

（か、勘弁してくれよ‥‥‥‥‥）

　洋平と名倉は、和菓子を食べながら談笑している。
　仙次郎の様子には、気づいていないようだ。

　そうこうしているうちに、仙次郎の肉棒が、再度、怒張してきた。

（こりゃ、マジで何とかしないと‥‥‥‥）

　仙次郎は、口で２回も放出するなどプライドが許さなかった。

（そうだっ！）

　仙次郎は、携帯電話を取り出し、デスクの下で自分の部屋に電話をかけることにした。

　俯き加減でダイヤルをプッシュする仙次郎‥‥‥
　デスク上の電話が鳴り響く。

　急いで受話器をとる仙次郎‥‥‥‥

「はい、高輪です。え？‥‥‥‥西条次長ですか？‥‥はい、居ます。名倉課長も一緒ですが‥‥‥‥はい、‥‥‥はい、わかりました。」

　仙次郎は、自演して電話を切った。

「おい、洋平、専務がお呼びだぞ。名倉さんも一緒に来てくれって。」
「え？‥‥‥何かしら。」
「仙次郎、専務って二人居るが、どっちだ？」

（ゲッ‥‥しまった‥‥‥二人も居たっけか？‥‥‥）

　つい、適当に言ってしまった仙次郎は、焦りながらいい加減な答えを返す。

「あれ？‥‥‥‥‥あ、しまった、聞くのを忘れたぜ。」
「何だ、おっちょこちょいな奴だな。」

（お、おっちょこちょいだとぉ‥‥‥‥クッソー、洋平め‥‥‥）

「西条さん、とりあえず行きましょう。専務二人とも部屋は隣同士だし。」
「そうですね。‥‥‥‥仙次郎、邪魔したな。じゃ、今夜‥‥‥」
「おう、楽しみにしてるぜ。」

　洋平と名倉は、やっとの事で部屋を出て行った。

　ホッと、胸を撫で下ろす仙次郎‥‥‥‥
　しかし、佳代は、そんなことはお構いなく、相変わらず肉棒に執着している。

「コラ、佳代君‥‥‥‥もう誰も居ないから出て来いっての。」
「ンゥゥゥゥゥゥー‥‥‥‥」

　潤んだ目で仙次郎を見上げる佳代‥‥‥‥

　仙次郎は、主導権を握らせた佳代を責め返そうと考えた。

　佳代から離れ立ち上がる仙次郎‥‥‥‥

　二つのドアの鍵を掛けると、デスクの下から出てきた佳代を引き寄せていく。

「アンッ‥‥‥‥」

　スカートを捲りストッキング後とショーツを下ろすとソファの前にあるテーブルに手をつかせた。

「ぁぁぁ‥‥先生ぇぇ‥‥‥‥‥」

　仙次郎は、いきり立った肉棒を徐に佳代の蜜壷に埋め込んだ。

「クッフゥゥゥゥゥゥゥゥー‥‥‥‥」

　既に佳代の蜜壷内は、大洪水だった。ヒップを突き出し、股間から結合部を覗き込んで興奮する佳代‥‥‥‥

「アァッァ‥‥‥‥気持ちいぃぃ‥‥‥先生ぇ、気持ちいぃぃぃぃーっ！」

（‥‥‥‥‥しかし、何で、こうなるんだ？）

　佳代を責めながら、ふと考える仙次郎‥‥‥‥

（ま、いいか‥‥‥‥）

　仙次郎は、佳代の服を全て脱がせた。

　佳代に挿入したまま、窓際に移動する仙次郎‥‥‥
　ブラインドを開けると佳代は、声を絞る事無く大絶叫し始めた。