（４８）

「なに？　また急な話だな。」
「ああ、俺に直接、直訴してきたんだ。凄い興奮状態だったぞ。」

　洋平は、先日発表した昇格社員の内示後にある一人の女性から深刻な悩みを相談されていた。
　今回、管理部、システム課電算係長に昇格した社員で総務部、広報課広報係の伊藤涼子という女性だ。
　しかし、この部署は、女性社員が多く色々な面で難しい人間関係があり係をまとめていく自信がないと言ってきたのだ。

「なら、彼女も役職者面接で断れば良かったのに。」
「そうは、いかんさ。あくまで人事のことだ。」
「部署を変えてやるとか？」
「それが出来れば、俺も苦労はせんさ。とにかく、話を聞くと彼女は、昇格など考えてもいなかったらしい。ただでさえ、若い社員ばかりで、やり難い係なのに、その係の長など、とても出来ないと言って来たんだ。仙次郎、何とかしてくれ。」
「しかし、珍しいな‥‥‥普通は昇格すれば喜ぶものなのに。人選ミスか？」
「考査した課長の話で、適任だといわれて、公室と人事部は決めたんだがな。とにかく、俺としては立場上、彼女の要求を受け入れるわけにいかんのだ。」
「で、俺に‥‥‥か？」
「ああ。彼女にも、既に話をしてきた。来月から新部署で仕事をするんだ。それまでには、なんとかしないと。」
「お前、俺に責任転換したな。」
「まあ、そう言うな。」
「しかし、今日の昼からとは、急すぎるぞ。」
「だから、簡単でいいんだって。頼むよ、仙次郎‥‥‥‥‥」
「んーむ‥‥‥‥まあ、しょうがないな。‥‥‥よし、わかった。」
「助かるぜ。じゃ、１３時に連れてくる。」
「‥‥‥わかった。」

　洋平は、早速、伊藤涼子に伝えるために部屋を出て行った。

「先生、どうやって納得させるんですか？」
「さあ、どうしようかな。珍しいパターンだからな。」
「昇格を嫌がってるというところが問題ですよね。」
「んむ。‥‥‥‥洋平の話からして人間関係に自信がないようだが。」
「それに、関する話をしてあげたらどうですか。」
「そうだな‥‥‥‥バランス理論でも説いてやるか。」
「バランス理論？」
「まあ、説明が面倒だから君も一緒に聞いていればいい。」
「ぇぇ‥‥‥‥はい‥‥‥‥」
「とりあえず彼女のデータを出してくれ。」
「わかりました。」

　佳代は、伊藤涼子の社員データ−を取り出しプリントアウトして仙次郎に手渡した。

　受け取る仙次郎‥‥‥

（全くもって、ごく普通の社員だな‥‥‥‥‥欠点もないし‥‥‥‥‥）

　伊藤涼子の性格も、特に問題はなかった。
　評価点も優れており、今回の人事も妥当なものといえる。

　仙次郎は、データを見ながら策を練った。

（やはり、単に性格上、人間関係に不安をもっているだけだなのかな。）

　仙次郎は、目を瞑って伊藤涼子に話す内容を頭の中でまとめ始めた。

☆☆☆☆☆

　洋平が、時間通り伊藤涼子を伴って部屋を訪れてきた。

「仙次郎、伊藤君を連れてきた。」

　頭を下げて挨拶をする伊藤‥‥‥‥

「‥‥‥‥始めまして‥‥‥‥伊藤涼子です。」
「高輪です。どうぞ、お掛けください。」

　仙次郎は、佳代にお茶を入れるよう促した。

「大体の話は、洋平‥‥‥ぁ、いや‥‥‥西条次長から聞いています。一応、人事の決定ですので、拒否できないようですし、貴女の意向も十分踏まえて、納得するような、お話をさせていただきますので。」
「‥‥‥はい‥‥‥‥しかし‥‥‥」

　洋平が、伊藤に声を掛けた。

「伊藤君、係長に値する人間だから昇格したんだ。これが会社の人事なんだよ。君も会社を辞める訳には、いかないだろう。」
「‥‥‥そ、それは、そうですけど‥‥‥‥‥」

　伊藤は、小声で、そう呟きながら俯いていく。

「それでは、高輪先生、私は席をはずしますのでよろしくお願いします。」

（ケッ‥‥‥何が高輪先生だ‥‥‥‥）

　仙次郎は、腹痒い思いを振り払って伊藤に話し掛けた。

「まあ、貴女の悩みというか、昇格に対しての不安を拭うために、私に、白羽の矢が立ちましたが、なるべく参考になるような話をしたいと思っています。ただ、私が喋っているだけでは、貴女も聞き飽きてしまいますので、質問形式で説明したいと思いますが、どうですか。どうぞ、遠慮なく質問をしていただければ結構です。」
「‥‥‥‥は、はい。‥‥‥‥‥お願いします。」
「それでは、まず、会社での人間関係が、貴女の一番のネックになっているようなので、それに関して話していきましょうか。」
「はい‥‥‥」
「では、最初に社会心理学について、説明します。」

　真剣に耳を傾ける伊藤‥‥‥‥

「世の中を見る目、人を見る目についてということで、バランス理論という説明をします。まず、見て感じ取るという事なんですが、目で見たり耳で聞いたりして、感じ取ることを心理学では、認知と言っています。認知は、感じたり考えたりする事など幅広い意味で使います。何が大事か解りますか？」
「‥‥‥‥バランスが大事と言う事でしょうか？」
「ずばり、その通りです。私たちは、世の中の無数の事について考えます。頭の中には、様々な思いが入り乱れていますが、でも、その色々な思い、認知が、できるだけバランスがとれた状態にしたいと人は考えるんです。」
「？‥‥‥‥‥何か、いい例はありませんか？」
「そうですねぇ。では、自分と相手と物について考えましょう。例えば、私がいて、交際相手がいて、交際相手の趣味がある。私は、その人が好き、その人は、自分の趣味が好き、私も、その趣味が好き。この場合は、バランスがとれていますよね。」

　頷く伊藤‥‥‥‥

「私と相手と、その趣味の話をしても、話はスムーズなはずです。ところが、私は、その人が好き、その人は、その趣味が好き、でも私はその趣味が嫌い。この場合は、バランスがとれていない。バランスがとれていないと、気持ちが悪いので、変えやすい物を変えます。大抵は、相手の趣味を理解しようとするでしょう。」
「出来なかったら？」
「どうしても、それが出来ない時には、交際相手を変えるか、それとも、その趣味の問題は、とても小さい事だと考えます。」
「でも、それだと、まだ、バランスが取れていませんよね？」
「ええ。では、そのバランスの理論になる例を話しましょう。例えば、憎いと思っている人が居ると、その人の行動が全て気に入らなくなります。憎い相手が好きな物にたいしては、憎んだほうが、自分の心のバランスが、とれるからです。」

　伊藤が、再度、質問をしてくる。

「でも、会社組織では、それは通用しませんよね。特に、部下を持つようになると、好き嫌いは‥‥‥。」

（解ってんじゃねぇーか‥‥‥このアマ‥‥‥）

　仙次郎は、気を取り直して話を続けた。

「そのとおり。だが、心理を知る事で考え方を変えれば問題は小さくなるはずです。例えば、仲良しの友達が仲良くしている相手に対しては、自分も好意を持ちます。その方が、バランスが良いからです。好きな芸能人がコマーシャルをしている商品に好感を持つもの同じ事ですね。では、ある部下が、あの上司は嫌いだからついていけない。仕事をするつもりはないと思うと、これまた問題になってくる。」
「先生、そこが一番聞きたいところですが‥‥‥‥‥」
「そうですね。では、いくつか話してみて、貴女自身の心理をまとめてみてください。社会的に仕事をする上で人間関係は、重要な位置をしめます。憎い敵が憎んでいる敵は、自分の味方にしようとするのが、人間の心理です。つまり、その人と一緒に相手を攻撃できるわけですが、これが部下を持つ上司となると話は変わってくる。」
「‥‥‥‥‥‥」
「家庭でもそうです。子供がいる家庭では、特にそれが顕著に現れる。子供にとって夫婦喧嘩は辛いことですよね。私は、父が大好きだ。私は、母も大好き、そして父と母はとても仲良がよい。この場合は、バランスがとれています。ところが、私は父が好き、母も好き、でも、父と母は、とても仲が悪い。これでは、心のバランスがとれていない。子供は、どちらの味方にもなれず、好きな両親の喧嘩を心を痛めながら見るわけですから、非常に辛い事です。」
「仕事に当てはめると、割り切りは必要な要素ということですか？」
「いや、割り切りというよりも、これが、いい意味でのバランスなんです。どちらか一方の味方になってしまえば、一応、心のバランスはとれる。たとえば、お母さんと２人で、父の悪口を言えばよいわけですからね。しかし、社会心理学的なバランスはとれていますが、このような状態が長く続けば、また別の問題は出てきます。特に会社組織では通用しない。」

伊藤は、自分の言いたい事を頭の中で整理しながら仙次郎に訴えた。

「先生、私は、人から‥‥‥‥同僚から非難されたくないんです。私は、別に昇格なんかしなくても普通に働く事が出来れば不満なんか。」
「伊藤さん。会社と言う組織を理解しないといけませんよ。この会社に限った事ではありませんが、存在目的はなんです？　利益ですよね。では、何故、利益を得るのが目的なんです？」
「そ‥‥‥それは‥‥‥‥」
「まあ、色々あります。貴女たちの給料を払う事もそうです。それは、生活のためもあるし、会社のために働いたという報酬でもある。でもそれだけではありません。消費者側から考えれば、そういう人たちの生活に対し必要不可欠な産業を提供する事も、会社組織の在り方の一つです。解りますね。」
「‥‥‥え‥‥‥えぇ‥‥‥‥」

　伊藤は、仙次郎の言っている事は理解しているようだ。

　しかし、仙次郎は、伊藤の態度が気にいらなかった。
　とってる態度が曖昧であり、会社での自分のあり方とかを悩んでいるようには思えない。
　人間関係が、単に鬱陶しいとだけを主張しているように思える。

（おかしい‥‥‥俺の説明を適当に受けとめている。）

　仙次郎は、思った。
　悩んでいるという割には、考えている素振りが見られないからだ。
　ただ、思いつきで物事を喋っているようにしか仙次郎には映らなかった。

（‥‥‥‥やる気が、ないだけなんだろうか？）

　仙次郎は、伊藤を隈なく観察した。

（どうも、違う所に悩みがあるような気がしてならんな‥‥‥‥‥‥‥私生活なのか？‥‥‥いや、この女性は悩んでない。）

　仙次郎は、質問を切り替えた。

「伊藤さん、ご主人とは４年前に結婚とありますが、お子さんは？」
「いえ‥‥‥まだです。」
「作る気がないとか？」
「いえ‥‥‥主人は、海外出張が多くて‥‥‥家にあまり居ないんです。」
「家に居ない？‥‥‥いつからですか。」
「２年ほど前からシンガポールに‥‥‥つまり、単身赴任です。」
「それは、大変ですね。」
「ぇ‥‥‥‥ええ‥‥‥ま、まぁ‥‥‥‥‥」

　曖昧な返事に、疑問を抱く仙次郎‥‥‥‥

（‥‥‥‥‥彼女は、３３歳か‥‥‥‥結婚して４年目‥‥‥おかしいぜ。）

「失礼ですが、ご主人が居なくて寂しくありませんか？」
「‥‥‥ぁ‥‥‥あの‥‥‥どういう‥‥‥意味でしょうか？」
「ご主人を愛しているんでしょ。‥‥‥それに、まだ新婚に近い。」
「あ‥‥‥え‥‥‥‥ええ‥‥‥‥‥それは、そうですが‥‥‥‥仕事だし‥‥」

　仙次郎は、私生活を聞く必要があると考えた。
　しかし、伊藤の相談とは全く関係のないことであり強制的に喋らせる事は出来ない。

（‥‥‥待てよ‥‥‥‥‥）

「伊藤さん、貴女の今の仕事は、主にどういう内容なんですか？」
「広報課ですので、社内報を作成したり、デザイン課が作成した会社の書類やポスターとかテレビコマーシャル用の宣伝文を校正して、担当部署に配布をしたりしているんですが‥‥‥‥。」
「なるほど‥‥‥‥忙しいですか？」
「いえ、広報課は、各自に割り当てられた仕事をこなすだけですので言ってみれば、自分のペースで進めていくことが出来ますし、さほど。」
「そうですか‥‥‥‥」
「今度、昇格していく部署は、管理部のシステム課ですよね。」
「はい‥‥‥‥電算係です。」
「どういう事をするんです？」
「担当係長に聞いた所では、本社や支社から送られてきた企業データを細分化したり、データ化して文書ランクを決定し分類する仕事です。」

（‥‥‥‥ふむ‥‥‥忙しそうだな‥‥‥‥‥だが‥‥‥）

　仙次郎は、思った。
　伊藤は、恐らく残業の多いこの仕事に何らかの不満を持っているのではないかと予想したのだ。

「わかりました。‥‥‥伊藤さん、夕方に、また来ていただけますか？」
「え？‥‥‥‥‥今日の‥‥」
「ええ。都合悪いですか？」
「あの‥‥‥就業後は‥‥‥ちょっと‥‥‥」
「そうですか。‥‥‥‥‥‥では、また明日の昼に一度来てください。」
「ええ‥‥‥はい。‥‥‥でも‥‥‥」
「色々と聞きたい事があるんです。」

　伊藤は、迷った感じでいたが、仙次郎の言葉に承諾した。

「では、今日は、これで‥‥‥‥」
「はい。」

　伊藤は、小さな溜息を吐いた。

（‥‥‥‥ん？）

　仙次郎は、瞬時に伊藤の心内を瞬時に読み取った。
　今まで話した事をろくに聞いていないような態度と雰囲気を仙次郎は感じたのだ。

（‥‥‥‥‥‥‥おかしいぜ。‥‥‥‥絶対に悩んでねぇ‥‥‥）

　伊藤は、仙次郎に頭を下げると、そそくさと部屋を出て行った。

（４９）

「先生‥‥‥どうも伊藤さんの様子が、おかしいですね。」
「んむ‥‥‥。一度、確かめてみる必要があるな。」
「何をですか？」
「今までの仕事と、彼女の様子をだ。‥‥‥‥よし、さっそく‥‥‥」

　仙次郎は、伊藤涼子の元上司である広報課長に電話を入れることにした。

「もしもし、厚生部メンタルオフィスの高輪と申しますが‥‥‥」

　電話には、伊藤の上司である広報課長が出た。

　仙次郎は、伊藤の今までの仕事振りと人間関係、そして様子などを事細かく聞きだした。
　広報課長の話によると、伊藤は、常に明るく同僚達とも上手く付き合いをしているそうだ。
　当然、仕事もよくこなし、担当長の評価もよい事から、人事会議で人事部と考査を繰り返した結果、伊藤の亭主が、海外赴任しており、現在、子供もいないことから適任と判断され、伊藤のシステム課の異動昇格が決定したらしい。

「そうですか。‥‥‥‥で、あなたが伊藤さんを推薦したわけなんですね。」
『実は、推薦したのは、もう一つ理由がありまして‥‥‥』
「理由？」
『彼女の同僚から聞いた話なんですが、‥‥‥‥‥不倫をしているらしくて。』

（‥‥‥‥‥やはりな。）

「‥‥‥そうですか。」
『あくまで、噂なんですが‥‥‥‥』
「詳しく、話していただけませんか？」
『はい。‥‥‥‥‥うちの課の広報係長に柏田という者がいるんですが伊藤君の直属の上司だったんです。彼とは、社内では、そんな素振りは全く見せないのですが、彼女の同僚が何度か二人でいる所を目撃してて。』
「二人で？‥‥‥‥しかし、それだけでは‥‥‥」
『いえ‥‥‥その‥‥‥つまり‥‥‥‥‥ホテルから出てくるところとか‥‥‥』
「‥‥‥‥なるほど‥‥‥そうですか‥‥‥」
『彼女には、ご主人も居ますし。当然、柏田君も結婚しています。私は、彼女の家庭の事も考えて、今より忙しい部署を推薦したんです。」
「柏田という人を異動させても良かったのでは？」
「彼は、非常に真面目で、この部署にはなくてはならない存在なんです。そもそも、柏田君が、不倫などする人間とは思えないんですよ。」
「そうですか。‥‥‥‥何故、彼女を異動に？」
『広報課は、定時に終われますし、自由時間も多いんです。そういう暇を与える事によって、二人が、間違った道に進む事を阻止したかった事も理由の一つなんですが、それが正解だったかは、私も悩んでいまして。』
「まあ、休日に会えるわけですからね。」
『勿論、そうですが、二人との距離を少しでも遠ざければと思って。』
「確かに、忙しければコンタクトを取る暇は少なくなりますが‥‥‥‥」
『係長ともなると忙しさは、普通の社員の倍以上になりますし、ある意味、彼女にとっても柏田君にとっても良いと思って。』
「なるほど。まあ、社の事を思えば、そうするのが上司としては当然の事ですね。」
『ただ、プライベートの事ですので、直接は、言い難かった事もあります。』
「でしょうね。解りました。私が電話をした事は、二人に黙ってて下さい。」
『解りました。』

　仙次郎は、電話を切ると溜息をついた。

（‥‥‥ったく、やっぱり、こんな事か‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、洋平に連絡をし、部屋に来るように告げた。

『わかった。直ぐ行く。』

　煙草をふかす仙次郎‥‥‥‥‥‥
　佳代が、仙次郎に問いただしてきた。

「先生、何か判ったんですか？」
「ああ‥‥‥‥‥彼女は、不倫しているらしい。」
「ええっ？」
「彼女が、拒んだ訳が、大体、理解できたよ。」
「あの‥‥‥‥」

　そこへ、洋平がノックをして部屋に入ってきた。

「どうした、仙次郎‥‥‥何か問題か？」
「ああ、まあな。」

　仙次郎は、洋平に説明をした。

「なにぃ‥‥‥そういう理由だったのか。」
「ああ。」
「しかし、お世辞にも柏田君は、良い男と言えないが、伊藤君も物好きだな。」
「洋平っ、顔の事を言うんじゃないっ！」
「あ‥‥‥し、失礼‥‥‥‥だが、柏田君が不倫か‥‥‥信じられんな。」
「どういう意味だ。」
「彼は、真面目が取り得なんだ。女性は、もちろん、男性社員の評判もいいからな。」
「ほぉう‥‥‥」
「まあ、しかし当然、彼女にとっては、本心を言えないわけだ。不倫出来ないから嫌なんてな。」
「そうだろうな‥‥‥‥」
「ところで、洋平、システム課ってのは、そんなに忙しいのか？」
「ああ、システム課は、かなり忙しい部署だ。残業も毎日あるしな。独身社員を多く使うのも、そういう意味合いを考えての事なんだ。その分、当然ながら給料は良いし、色んな意味で特典はあるがな。」
「なるほど‥‥‥だが、担当長になれば、そういう事も言っておれんだろう。」
「んむ。年齢的に考えても担当長は既婚が多い。だから、新築したとか、子供が進学して家庭が財政的に困ってる者や、ローンを多く組んでいる者は、会社の配慮で、希望者に限って配置している。だが、全ての希望を受け入れる訳にはいかない。今回の彼女の場合は、旦那が海外出向しているし、子供もいない。業績も優秀だし人間的にも問題がないから、係長のポストに配置したんだが。」
「プライベートな事だし、社に影響がなければ、他っておいてもいいんじゃないか？」
「そうは、いかん。モラルの問題だ。会社が知っていて黙っているとなると社員に蔓延していく恐れがある。それに、二人とも部下を持つ係長だぞ。」
「だろうな‥‥‥‥で、どうするんだ。もう、俺の出番じゃないぞ。」
「仙次郎、乗っかった船だ。手伝ってくれ。」
「馬鹿な事を‥‥‥‥専門外だぜ。」
「だから、そう言うな。前にも言ったが‥‥‥‥」

　仙次郎は、洋平の言葉を遮った。

「洋平っ、解ってる。追い出しの場合は、俺も手伝うと言った。しかし、今回は、追い出しじゃない。不倫を止めさせる問題だ。」
「だから、お前が、それを彼女に説いてくれ。」
「ばかばかしい。‥‥‥こう言えよ。不倫を止めないと会社を辞めてもらうと。」
「それが、出来ないから頼んでるんだ。」
「ったく、お前は。‥‥‥‥‥だが、自主退社すれば、問題起きないだろう。」
「彼女は、ともかく、柏田君の方は家庭があるからな‥‥‥無理だろうな。それに、あくまで俺の勘だが、柏田君に非があるような気がしないんだ。」
「‥‥‥‥」
「彼女が、会社を辞めても会う機会が増えるだけだし結局解決にはならんか。」
「今更、内辞を変更する事は出来んだろうしな。」
「‥‥‥ああ、当然だ。」
「しかし、今まで居た広報課と違ってシステム課は、定時に帰れないし二人の会う機会は減るだろう。少しの間、様子を見たらどうなんだ？」
「証拠を掴んで、別れろと説得するのか？」
「ま、それも一案だが‥‥‥‥」
「んー‥‥‥‥まだ、新しい課で仕事するまでに２週間あるが‥‥‥‥」
「チッ‥‥‥しょうがない。‥‥‥洋平、柏田を俺の所に連れてこい。」
「柏田を？」
「直接、聞きたいことがある。」
「ん？」
「俺の今まで人間を見てきた直感で言わせて貰うが、伊藤涼子の本性は担当長の評価とは全く違うような気がする。つまり、仮面を被っている。」
「え？」
「さっき、色々と話や説明をしてる時は、彼女は、俺の話を真剣に聞いていた。質問も返してくるし、心理的な自分の状態を考えているようにも見えたが、恐らく、上の空だ。自分の悩みと質問とかが、まるで一致していないんだ。」
「どういうことだ。」
「簡単に言えば、就業後の自由時間が減る事だけが嫌なのさ。つまり、柏田と会えないことが気に入らないんだと思う。」
「んーっ‥‥‥‥‥よし、解った。今すぐ呼ぼう。」

　洋平は、内線で広報課に電話をした。

「え？‥‥‥早退した。」
『はい。』
「そうか‥‥‥解った。」

　横から仙次郎が、洋平の肩を突付いた。
　受話器を押さえて仙次郎に振り向く。

「伊藤涼子も聞いてみろ。」
「‥‥あ‥‥ああ。」
「伊藤君は？」
『伊藤主任も体調が優れないといって、先ほど帰りましたが。』
「そうか‥‥‥ありがとう。」

　洋平は電話を切って仙次郎に説明した。

「‥‥‥‥どこかで会ってるな。」
「んむ‥‥‥‥間違いないだろう。タイミングが良すぎるぜ。」
「しょうがない。‥‥‥‥伊藤君と柏田君の全てを徹底的に洗ってくる。」
「そうしてくれ。真実が解らんと手の打ちようがないからな。」
「だな‥‥‥」

　仙次郎と洋平は、この後、とんでもない展開に発展していく事を知る由もなかった。

☆☆☆☆☆

　柏田幸一と伊藤涼子は、ホテルの一室で痴態を繰り返していた。

「幸ちゃん‥‥‥早く、舐めてぇっ！」
「ぁ‥‥‥ああ‥‥‥‥」

　涼子は、全裸で椅子の手すりに両足を掛けていた。
　手には、ローターを持ち、自ら女芯を刺激している。

「フゥゥゥゥ‥‥‥‥‥クゥゥゥ‥‥‥‥もっと、舌を使ってぇぇっ！」

　柏田は、涼子の蜜壷を左右に開いて必死で舌を動かした。

「アフゥゥゥゥゥゥー‥‥‥そ、そうよ‥‥‥そう、そう‥‥‥その調子ぃぃぃっ！」
「幸ちゃんっ、　服を全部脱いでぇ‥‥‥」

　甘ったるい声で柏田に呟く涼子‥‥‥

「わ、わかった‥‥‥‥‥」

　柏田は、服を脱ぎ始めた。

「フフッ‥‥‥‥さ、幸ちゃん、ベッドに行きましょ。」

　柏田は、ベッドに歩く涼子の後をついていく。

　涼子は、仰向けに寝ると柏田に甘えた声で囁いた。

「幸ちゃん、いつものように舌で綺麗にしてぇぇっ！」

　そう言って、腰の下に枕を入れ、両足を抱えて足を広げた。
　涼子の蜜壷と菊門が天井に向けられ、妖しく蠢いている。
　柏田は、まだシャワーを浴びていない涼子の菊門に舌を這わせていった。

「フングゥゥゥゥァァァァァ‥‥‥‥‥‥‥し、舌を挿し込んでぇぇっ！」

　柏田は、涼子の菊門に舌を挿入していく。

「クゥゥゥゥゥゥー‥‥‥いい、気持ちいいいわぁぁ‥‥‥‥アフゥゥゥゥー‥‥‥」

　涼子は、自分の菊門に舌を伸ばす柏田を見て興奮気味に叫んだ。

「幸ちゃん、オ○ンコに指入れてぇぇっ！」

　柏田は、菊門を刺激しながら指を涼子の蜜壷に挿入した。

「‥‥‥ぁぁ‥‥‥擦って‥‥‥ァァァ‥‥擦ってぇぇぇぇぇぇー！」

　柏田は、窮屈な姿勢で涼子の蜜壷と菊門を同時に責め続けた。
　顔は、涼子の流した蜜で、びしょ濡れになっている。

「ゥゥ‥‥‥アググゥゥゥ‥‥‥ァァ‥‥ウアァァァ‥‥‥‥」

　涼子は、持っている両足を柏田の首に巻きつけた。

「クフゥゥゥゥ‥‥‥アギィィィ‥‥‥‥ヌアゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーッ！」

　柏田の頭を股間に押さえつけ、絶叫と共に涼子は果てた。

「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥‥‥‥ウフゥゥゥ‥‥‥‥良かったわぁ‥‥‥」

　涼子は、煙草を咥えると火を付けて柏田に差し出した。

「幸ちゃん‥‥‥‥まさか、もう会わないなんて言わないでしょうね。」
「そ、そんな事は‥‥‥‥しかし、君がシステム課にいくとなると‥‥‥」
「夜中に会えばいいじゃない。」
「だから、それは‥‥‥‥‥女房が許さないよ。」
「私と奥さんと、どっちが大事なの。私は、貴方の子供を中絶しているのよ。」
「だけど、僕は、酔っていて‥‥‥君と本当に‥‥‥‥」
「幸ちゃん、私が騙してるっていうの？」
「い‥‥‥いや‥‥‥‥‥そ、それは‥‥‥‥‥」
「そんな事は、もういいの。会ってくれないんだったら会社に言うわっ。貴方に妊娠させられて、誰にも相談できずに、やむなく中絶した事を。」
「ま、待ってくれっ‥‥。そんな事をしたら僕は‥‥‥」
「だから、今まで通り、私と会ってくれればいいじゃない。」
「夜に抜け出すなんて出来ないんだよ。」
「何とかしてよ。私、何日も会えないなんて我慢できないわ。」
「今までは、良かったさ。同じ部署だったし早い時間に帰宅できたんだから。だけど、来月からは‥‥‥‥」

　涼子は、しかめっ面で柏田の胸を叩いた。

「幸ちゃんの馬鹿っ‥‥‥」

　涼子は、柏田を押し倒して顔に跨った。

「ウググッ‥‥‥‥」
「幸ちゃん‥‥‥舐めてっ。」

　涼子は、柏田の顔に蜜壷を擦りつけていった。

「や‥‥‥やめ‥‥‥‥うぐぅ‥‥‥‥」
「イヤァァ‥‥‥‥、しっかり舐めてぇぇー。」

　涼子は、柏田の肉棒を握って擦り上げた。

「ググゥッ‥‥‥‥」

　柏田の苦しむ顔を見て興奮していく涼子‥‥‥‥‥

「幸ちゃん‥‥‥気持ちいぃぃぃぃ‥‥‥‥」

　涼子は、乳房を鷲掴みにして、遠慮のない声を張り上げていった。