（５５）

　仙次郎の元に、一人の女性が、事業部長に付き添われて相談に訪れていた。

「二重人格？」
「はい‥‥‥‥‥‥」
「それは、君が自分で思ってるんですか？」
「‥‥‥‥はい。」

　女性は、無表情で淡々と返事をしている。

　女性の名は、轟久美子、２３歳　
　事業部施行課に所属する入社３年目の社員だった。

　轟は、短大卒業後、榊原グループに入社し、主に施行課で受注を専門とする仕事に携わっていた。
　轟は、自分を二重人格と称し、普段の生活に支障があると相談に来たのだった。

「失礼ですが、何故、自分を二重人格と？」

　轟は、無表情で仙次郎に答えた。

「私、整形手術をしたんです。」
「整形手術？」
「はい。」
「何故ですか？」
「ブスでしたので。」

　相変わらず、余分な説明をせずに、轟は淡々と答えていく。

　仙次郎の戸惑いに、付き添ってきた事業部長の葉山が口を開いた。

「先生、彼女は、特に仕事に関して支障があるわけではないのですが、あの‥‥‥困った事に‥‥‥関連業者の社員を‥‥‥つまり‥‥‥」

　葉山は、言い難そうだった。轟を横目で見ると口を閉ざしていく。

「？‥‥‥‥‥葉山部長、ちょっと奥に行きましょうか？」
「え、ええ‥‥‥」

　仙次郎は、轟を残し、葉山を執務室に連れて行った。

「葉山さん、ここなら彼女に聞こえません。詳しく話してください。」
「はい‥‥‥」

　葉山は、仙次郎に轟の事を説明していった。

　轟は、他社からの受注を受けると、その担当業者に対して日程や工程を説明し施行に至るまでの段取りなどをまとめていく仕事を主としていた。
　常に上司とペアで秘書的役割を果たす役目なのだが、必ずといっていいほど、接待がつきまとう。
　轟は、接待が終わり、上司を見送った後、いつも最後に一人で帰るのが常だったのだが２年程前から、相手の会社の社員を誘惑し体の関係を持つのが癖になっていたのだ。

「癖？‥‥‥‥変な言い方ですね。」
「癖と言うか‥‥‥自分を売っていると言うか‥‥‥‥」
「意味が良くわからないのですが。」
「つまり‥‥‥‥男性に抱かれるのを好んでいるような‥‥‥」
「何故、そう思うのですか？」
「彼女は、先ほども言いましたが、整形手術をしているんです。こんな事を言うと、本当に彼女に失礼なんですが‥‥‥その‥‥」
「つまり、美人ではなかったと。」
「ええ‥‥‥その‥‥‥かなリ‥‥‥‥低い‥‥‥‥‥‥」

　葉山は、言い難そうだった。

「ま、つまり、極度に容姿が悪かったわけですね。」
「‥‥‥はい。」
「それで？」
「それまでは、何をするにも消極的で引き込みがちな性格だったんですが、整形した後に、１８０度、変わりまして。つまり、行動までもが‥‥‥」
「ふむ‥‥‥良くある事ですね。」

「見ての通り、凄い美人になったんですが、元の彼女を知っているので、社の男性達は、彼女に声もかけません。その反動なのか、他社の男性を強引とも思える方法と行動で誘惑しては体の関係を持つようになって。」
「‥‥‥‥‥他の会社からクレームでも入りましたか？」
「‥‥‥はい‥‥‥そうなんです。」
「葉山さんは、それを彼女に言ったんですか？」
「もちろんです。しかし、プライベートだからと‥‥‥‥」
「よく、彼女を連れて来れましたね。」
「それが、ここ最近、急に態度や性格が変わるんです。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「泣き出したり、私に助けを求めてきたかと思えば、数分後に元に戻っていたり。」

　仙次郎は、困惑した顔で考え込んだ。

（‥‥‥‥‥それが、本当なら社会生活は、困難だぜ‥‥‥‥）

「葉山さん、彼女と話をしてみますが、それが事実で本当の二重人格ならば、私では手に負えませんよ。」
「え？」
「二重人格‥‥まあ、多重人格とも言いますが、専門医の治療が必要になってきます。私は、医師ではないので、彼女の治療に専念し集中する事は出来ません。あくまでカウンセリングを主体としていますので、助言や方法を説明し改善するだけなんです。それをご理解頂きたい。」
「わ、解りました‥‥‥‥」
「ただ、虚心行動かもしれませんし、それは私が調べてみます。」
「虚心行動？」
「つまり、簡単に言えば、演技です。自演と言った方がいいかな。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥あの‥‥‥何故、そんなことを？」
「それを調べるんですよ。」
「‥‥‥はぁ。」
「では、葉山さん、彼女と二人きりになりたいので‥‥‥‥」
「解りました。」

　仙次郎は、葉山を帰らせて応対室に戻っていった。

「お待たせしました。」

　仙次郎がソファに座るなり、轟は、口を開いた。

「先生、モテない男を私のオ○ンコで自慰させてるんです。」

　仙次郎は、真顔で轟の話を聞いた。

「ほぉぅ‥‥‥それは、何故ですか？」
「昔の私みたいに、全然、女性にモテない男性を慰めてるんです。善意なんです。」
「何故、そんな事をするんですか？」
「可愛そうだから。」

　仙次郎は、一種の精神障害ではないかと思った。

「貴女は、先ほど自分で二重人格といいましたが、何故、そう思うんです？」
「やった、覚えがないのに、私の性器から男の人の精子が‥‥‥‥」

　仙次郎は、久しぶりに深刻な問題を目の当たりにし、少々、戸惑いと焦りを感じていたのだ。

（んーむ‥‥‥‥）

　佳代が、心配そうに仙次郎を見つめていた。

「とにかく、貴女は、それを悩んでいるんですね。」
「はい。」
「貴女は、二重人格と言う症状を理解していますか？」
「ええ、一応‥‥‥知っているつもりです。」
「解りました。どれくらい貴女が、それを理解しているか話してみましょう。」

　轟は、仙次郎に頷いた。

「例えば、日頃は、意識することのない無意識とか潜在意識というものを、私たちは、持っています。そして、この隠された部分が、ひとつの人格となって現われる事を、二重人格と言います。貴女も、よくご存知ですよね。」
「はい。」
「つまり、もうひとりの自分が、自分に変わって行動をしたり話しをしたりする症状なんです。」
「だから、私が、そうなんですよ。」
「ふむ‥‥‥その特徴としては、当然、普段の自分に戻った時に、もう一人の自分の言動などを記憶していないということです。独立した、全く別の人格になってしまっているんですよ。」
「そうですね。よく解ります。」
「まあ、精神障害の一種ですが、その基準としては、２つ以上の明確に区別できる人格が存在する事です。人格がその人の行動をある一定期間支配する事、単なる物忘れでは説明できない重要な事柄に関する記憶喪失がある事、それらの症状が、薬物や内的疾患の影響によるものではない事です。多重人格、或いは、二重人格は、解離性同一障害とも言うんですが、神経症、精神障害の一つとされています。」
「つまり、私は精神障害なんですね。」
「貴女を診断しないと判りませんが、一概には、精神障害とは言えません。」
「というと？」
「貴方に、それに至る起因があって、それを解決すれば、何事もなかったように普通の状態に戻る場合もあります。」
「‥‥‥‥つまり、治るんですか？」
「場合によってはね。」

　轟は、真剣な表情で仙次郎を見つめながら話を聞いていた。

（おかしい‥‥‥‥目が生きている‥‥‥‥本当に、二重人格なのか？）

　轟は、唐突に仙次郎に尋ねてきた。

「それで、解離性同一障害とは、なんですか、先生‥‥‥」
「解離性同一障害とは、人格障害の一つで、共通して言えるのは記憶喪失の症状が見られるらしいんですが、精神病ではない。」
「精神病ではない？」
「ええ。　ヒステリーのような神経症の一種として定義されています。」
「は？」
「つまり、解離性ヒステリーと呼ばれるものです。」
「へぇー‥‥‥。でも難しくて判らないわ。とにかく、治るんですか？」

　ぶっきらぼうに、仙次郎に訴える轟‥‥‥‥‥

（絶対に、おかしい‥‥‥‥‥彼女は、二重人格じゃに様な気がする‥‥‥‥）

　仙次郎は、この場での即答を控えた。

「轟さん‥‥‥‥私と一日、生活を共にしてみませんか？」
「‥‥‥‥先生と？」
「ええ。」
「嬉しいわ。先生のような格好良い人と一日一緒に居られるなんて。
　いつも、ブサイクな男にオ○ンコを貸しているんで飽きていたの。」
「貸している？」
「ええ、貸してるだけなんです。私のオ○ンコは、凄い名器なんですよ。」

　堂々と言ってのける轟‥‥‥‥‥

（んーむ‥‥‥脳障害ではないな。かといって、精神異常とも考えられない。）

　仙次郎は、戸惑った。
　今まで、多重人格を研究をした事はあるが、直接、目の当たりにした事はなかったからだ。
　しかし、轟が、本当に二重人格であるとは、まだ診断し難い。

（‥‥‥‥‥‥もし、本当なら、良い機会だ。‥‥‥徹底的に調べてやる。）

　仙次郎は、轟に笑みを見せて囁いた。

「そうですか‥‥‥‥‥名器ね。」
「先生を満足させますわよ。」

　佳代が、顔を真っ赤に染めて怒りを露にしている。
　仙次郎は、それに気づき、手だけで佳代を制した。

「では、轟さん。明後日一番で、ここに来てください。今日、明日と、貴女の対処法を考えておきたいので。」
「解りました。じゃ、先生、綺麗にオ○ンコを洗っておきます。」

　そう言って、轟は、部屋を出て行った。

　佳代は、轟が出て行ったあと声を荒げて仙次郎に近づいてきた。

「先生っ！あんな女、相談に乗ってあげる必要ないですよ。」
「コラ、佳代君、本意で言ってるんじゃないかもしれないぜ。」
「そ、そうですけど‥‥‥でも、名器だとか、他の男に自分の性器で自慰させて喜んでるとか‥‥‥‥馬鹿としか思えないんですけど。」
「言ってる事は、馬鹿げてるが、俺は、心理学者として興味がある。」
「え？」
「今まで、二重人格を見たことがないんだ。研究させてもらおうと思ってな。」
「まさか‥‥‥先生‥‥‥彼女とやったりしませんよね。」
「それは、わからん‥‥‥‥」
「絶対、駄目っ！‥‥‥他に方法が、あるはずだわ。明日は、私も一緒に居ます。なんと言われても。」
「‥‥‥‥‥‥ったく‥‥‥僕は、変な考えは持ってないぞ。」
「‥‥‥ね、念のためです。私、秘書ですから。」
「ったく‥‥‥わかったよ。‥‥‥ただし、顔は出すなよ。」
「‥‥‥ぁ‥‥‥はい。解りました。」

（しかし、どうしたもんかな‥‥‥‥‥‥‥‥久しぶりに電話してみるか。）

　仙次郎は、アメリカに留学していた時の恩師に教示を請う事にした。

　アメリカでは、１８世紀後半から多重人格研究記録が残っており、既に、その時点で、発表された記録もあるほど先進的な研究が進んでいる国だった。

　仙次郎は、当時の恩師である、心理分析の第一人者、マンセル‥アンダーソン博士に電話を掛けた。

（５６）

『センジロウ？‥‥‥‥‥‥センジロウ‥タカナワか？』
「お久しぶりです。博士‥‥‥お元気ですか？」
『ああ、元気さ。そして今、君の声を聞いて、一段と元気になった。』
「‥‥‥‥‥恐れ入ります。」
『で、どうしたんだね。‥‥‥私が君に教える事はもうないよ。』
「いえ、多重人格の事で、ご教示頂きたくて‥‥‥‥」
『多重人格？』
「ええ。先生は、第一人者ですし、いまだに研究を続けておられるので。」
『そうか‥‥‥‥君の国では、まだ珍しいようだね。』
「はい。アメリカは、研究が進んでいますし。‥‥‥まだ、日本には、例が少ないんです。」
『なるほど。犯罪大国、アメリカならではこその先進学問でもあるからね。で‥‥‥‥相手は？』
「女性です。」
『犯罪絡みかい？』
「いえ、ごく普通の会社員ですが‥‥‥‥」
『普通の女性？』
「ええ。」

　仙次郎は、アンダーソンに、轟久美子の症状と内容をつぶさに説明した。

　アンダーソンは、一言も口を挟まずに最後まで仙次郎の話を聞いていた。

『なるほど‥‥‥ハッ、ハッ、ハッ‥‥‥‥‥‥面白い女性だね。しかしね、センジロウ、今の話だと、その女性は、まだ基準に至ってないようだね。二重人格ではない、と言えなくもないが、そこまでに至る診断基準を比較しないと、私でも解らないよ。』
「そうですか‥‥‥‥‥どういう方法で比べるんですか？」
『んむ。‥‥‥多重人格の診断基準は、アメリカの基準と、世界的な基準で比べてみるんだよ。アメリカは、多重人格者の犯罪が多い国でもあるが、診断基準ＤＳＭでは、二つ、又は、それ以上のはっきりと他と区別される同一性、又は、人格障害の存在を比較しないと決定付けることは難しい。』
「というと？」
『つまり、その各人格は、環境や自己について知覚しており、関わりや思考する比較的持続する独自の様式を持っているんだ。そして、もう一つは、これらの同一性、又は人格状態の少なくとも二つが、反復的に患者の行動を統制する。』
「‥‥‥なるほど‥‥‥」
『更に、重要な個人的情報の想起が不能であり、普通の物忘れで説明できない程強い。そして、世界的診断基準のＩＣＤ−１０では、この人格障害は稀であり、どの程度医原性であるのか、文化特異的であるのかについて、議論が二分されるんだよ。」
「‥‥‥‥例えば？‥‥‥」
「主な病像は、二つ以上の別個の人格が、同一個人内に、はっきりと存在し、そのうち一つだけが、ある時点で、明らかであるというものなんだがね。人格は独立した記憶、行動、好みをもった完全な人格なのさ。それらは病前の単一の人格と著しく対照的な事もある。まあ、非常に難しいんだが。』
「んーっ‥‥‥‥‥つまり‥‥‥」
『君が、目の前でそれを見ないとわからないだろうね。』
「‥‥‥‥‥解りました。」
『とにかく、整形手術したことも気になるね。単に自分の容姿が気に入らなかったという理由だけではないだろう。そして、慈善的思考だ。女性に縁のない男性をセックスで助けてやるという考え方が、彼女の何処から出てきたのか。だね。』
「はい‥‥‥娼婦的な考えも持っていないようです。身体を提供する事で、報酬を得ているわけでもないし。」
『ふむ。‥‥‥‥‥そうだ、資料を君に送ろう。メールでいいかな。』
「ええ、是非‥‥‥」
『ハハハッ、センジロウ、いい機会だ。苦労してみなさい。』
「ええ、そうします。」
『頑張りたまえ。』
「ただ、今の、その女性を私なりに判断すると、確かに兆候はあるんですが、完全な二重人格とも思えないんです。博士が言ったとおり自演開放症候群の可能性もある様な気がして。」
『私は、反対の意見だがね。』
「え？」
『あ、いや‥‥‥‥。まあ、しかし、それも、放って置くと非常に危ないよ。』
「はい。この際、徹底的に研究してみます。」
『そうしたまえ。』
「はい。」
『フッ‥‥‥君がアメリカに残っていたらな‥‥‥‥‥』
「‥‥‥博士‥‥‥‥」
『また、暇な時に遊びに来たまえ。』
「はい。是非、近いうちに‥‥‥‥‥」
『では、電話を切るよ。こちらは、真夜中なんでね。』
「ぁ‥‥‥し、失礼しました‥‥‥‥」
『グッド‥ラック‥‥‥センジロウ‥‥‥‥‥‥‥』

　アンダーソンは、優しい声で仙次郎に語りかけて電話を切った。

（‥‥‥‥‥ありがとうございます‥‥‥‥博士‥‥‥‥）

　仙次郎は、早速、関連した物件や研究データをつぶさに調べ始めた。
　数分後、アンダーソンから送られたメールが届き、仙次郎はプリントアウトした。
　時間を掛けて、資料に目を通していく仙次郎‥‥‥‥‥

（‥‥‥‥‥ふーむ‥‥‥‥‥なるほど‥‥‥‥‥擬似的行動を疑えか‥‥‥）

そして、最後の部分にアンダーソンからのヒントとメッセージが添えられていた。

≪少なからず、その女性は、トラウマを持っているはずだ。それを徹底的に調べてみなさい。糸口が見つかるはずだよ。頑張りなさい、センジロウ≫

（‥‥‥博士‥‥‥‥）

　仙次郎は、アンダーソンに感謝しながら、対処法検索に没頭していった。

☆☆☆☆☆

「先生、少し休んだらどうですか？」

　佳代が、仙次郎を心配しながら声をかけてきた。

　昼食も摂らずに専門書を捲っている仙次郎‥‥‥‥
　すでに、就業時間を過ぎていた。

「おっ、もう、こんな時間か‥‥‥‥ふぅぅぅぅーっ‥‥‥‥」

　大きく手を伸ばして、欠伸をする仙次郎‥‥‥‥‥

「佳代君、先に帰っていいよ。」
「え‥‥‥でも‥‥‥」
「俺は、大丈夫、あと少しで、調べ終わるから。」
「明日は、どうするんですか？」
「ああ‥‥‥まず、彼女が、本当に二重人格か調べる必要があるんでね。」
「それは、直ぐに判るんですか？」
「まあ、彼女が、もう一人の人格を出現させてくれれば、大体は、判断がつく‥‥‥」
「‥‥‥‥‥あの‥‥‥つまり‥‥‥」
「もし本当に、二重人格だったら、社会生活は無理だ。会社に話して、彼女を退社させなくてはならないさ。つまり、危険ということだ。」
「危険？」
「ああ。専門医による治療が必要になってくるからね。」
「先生では無理なんですか？」
「佳代君、カウンセリングと医療とは違うんだ。僕は、医者ではない。学者だ。しかし、いい関係でなくてはならない。僕も臨床心理学は、課程終了している。無理ではないかもしれない。だが、彼女一人のために時間を費やせないよ。」
「‥‥‥‥‥‥ですよね。」
「あくまで、判断を下す事さ。」
「‥‥‥‥先生‥‥‥‥無理しないで下さいね。」
「ああ。‥‥‥早めにケリつけて帰るさ。」
「じゃ、先生‥‥‥私‥‥‥」
「ああ、お疲れ。気をつけて帰れよ。」
「はい。お先に失礼します。」

　佳代が部屋を出て行くと、仙次郎は、棚からバーボンを取り出した。
　カップに注ぎ一気に喉に流し込む。

（クゥゥー‥‥‥すきっ腹には堪えるなぁ‥‥‥‥）

　仙次郎は、頭を振りながらデスクに座り直した。

　再度、集中して独自の資料を作り上げていく仙次郎‥‥‥‥
　既に、夜の１１時を過ぎている。

（‥‥‥‥‥‥‥よぉーし‥‥‥‥何とか質問を完成したな。）

　仙次郎は、パソコンのソフトを使ってフローチャートを作成し質問した内容の答えが何に当てはまるかを、瞬時に応答できるようポイントアクセスを形成していった。

（この作業は、面倒臭ぇな‥‥‥‥‥‥腹減ったし‥‥‥‥）

　その時、応対室のドアを開く音がした。

（‥‥‥‥‥ん？）

　執務室に入ってきたのは、佳代だった。

「佳代君‥‥‥」
「直ぐ終わるって言ったのに、先生ったら‥‥‥」
「あ、ああ‥‥‥ちょっと、集中してたもんだから。」
「何も食べてないんでしょ先生‥‥‥これ買ってきました。」

　佳代は、仙次郎に寿司の折り詰めと缶ビールを差し出した。

「お、気がきくなっ‥‥‥佳代君、すまないね。‥‥‥‥しかし、何でまた‥‥‥」
「今日、友人と飲み会があって。帰りに社の前を通ったんです。そうしたら、まだ電気がついていたので、先生だと思って。」
「で、これを？」
「いえ、コンビニで買ってきたんですけど。」
「そうか‥‥‥‥」
「もう終わったんですか？」
「ああ、後は、フローチャートを作るだけさ。」
「先生、私がやります。」
「えっ、いいって、自分でやるから。」
「それくらい、私でも出来ます。」

　佳代は、そう言って仙次郎のデスクに座った。

「アクセスポイントを作ればいいんですよね。」
「あ‥‥‥ああ‥‥‥‥じゃ、頼もうかな‥‥‥‥」

　仙次郎は、佳代に資料の説明をし、ハイパーテキスト方式に作成するよう佳代に注文した。
　慣れているのか、さすがに、キーを打ち込むのは早かった。
　資料とブラインドしか見ないで、淡々と打ち込んでいく‥‥‥‥

　寿司を頬張りながら佳代の作業を見ている仙次郎‥‥‥‥

（んーむ‥‥‥さすが、秘書‥‥‥‥‥‥‥俺の倍は早い‥‥‥）

　仙次郎は、感心しながらビールを喉に流し込んでいった。

　暫くして、佳代が声を上げた。

「先生、終わりました。」
「早ぇっ‥‥‥‥もう、終わったのか？」
「ええ。タイプ打つだけなら考えなくてもいいですから。」
「‥‥‥‥‥しかし、さすがだな‥‥‥」
「フフッ‥‥‥さて、先生‥‥‥‥‥ご褒美下さい。」
「は？」
「は、じゃ、ありませんよ‥‥‥‥‥抱いてください。」
「な‥‥‥‥なに言ってんだい‥‥‥」
「残業代いりませんから‥‥‥‥」

　そういってスカートを捲り仙次郎にウィンクをする佳代‥‥‥‥
　仙次郎は、苦笑いをしながら肩を竦めた。

「‥‥‥‥‥‥フゥッ‥‥‥‥元気だね、君は‥‥‥」

　仙次郎は、残りのビールを飲み干すと佳代のショーツをストッキングごと引きずり下ろしていった‥‥‥‥‥‥