（５７）

　佳代は、目を瞑って椅子の背に持たれていた。
　大きく開いた足を手すりに乗せグッタリとしている。

　蜜壷からは、仙次郎の放った分身が流れ出していた。

　仙次郎は、ティッシュを佳代の股間に差し込み煙草を吸い始めた。

（フゥゥー‥‥‥‥疲れた‥‥‥‥しかし、眠気もすっとんじまったぜ‥‥）

　壁に掛けられた時計を見る仙次郎‥‥‥‥‥‥

（ゲッ‥‥‥２時じゃねぇか‥‥‥‥）

　仙次郎は、家に帰るのを諦め、社に泊まる事にした。

　佳代を抱き上げてソファに運ぶ仙次郎‥‥‥‥

（グッ‥‥‥寝てるから重たいな‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、佳代をソファに寝かせるとスカートが汚れないように脱がした。
　目が覚めているせいか、仙次郎に悪戯心が湧いてくる。

（‥‥‥ククッ‥‥‥よく寝てるな‥‥‥よぉーし‥‥‥）

　仙次郎は、佳代の綺麗にそり上げた恥丘にマジックで落書きを始めた。
　書いてる最中に急激な笑いがこみ上げてくる。

（ググッ‥‥‥ブハハハッ‥‥‥‥駄目だ‥‥‥笑えてくる‥‥‥）

　更に、佳代の脱いだショーツを頭に被せると、ジャケットを毛布代わりに佳代に掛けていった。

（ププッ‥‥‥‥こりゃ、朝が楽しみだ‥‥‥）

　電気を消して応対室に入っていく仙次郎‥‥‥‥

（少し、休んでおくか‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、リクライニングチェアに座り、静かに瞼を閉じていった‥‥‥‥‥

☆☆☆☆☆

「あぁぁぁぁぁーっ！‥‥‥‥せ、先生ぇぇっ！」

　部屋に大声が響いた。

　佳代が、怒った顔をして応対室で寝ている仙次郎に駆け寄ってきた。

「先生っ、なんですかっ、この落書きぃっ！」
「‥‥‥ぇ‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥‥‥な、なんだ‥‥‥もう朝か‥‥‥」
「朝か、じゃありませんよ。それより、何ですかこれっ。」

　佳代は、下半身素っ裸のままで、仙次郎の顔の前に股間を突き出した。

「ん？‥‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥ブハッハハハハハッ‥‥‥‥」
「‥‥な‥‥‥‥わ、笑ってる場合じゃありませんよ。これ、マジックですよ。消せないじゃないですか？」
「‥‥‥‥フハハハ‥‥‥そのうち消えるさ。」

　仙次郎は、怒る佳代の顔を見て、更に大笑いしていく。

「何、笑ってるんですか‥‥‥‥」

　佳代は、まだ、ショーツを頭に被っている事に気づいていないようだ。
　腹を抱えながら、佳代の頭を指さして笑い苦しむ仙次郎‥‥‥‥

「ぇ？‥‥‥‥何？‥‥‥‥‥‥‥」

　佳代は、リクライニングチェアの後にある大型の鏡に自分の姿を映した。

「あぁぁぁっ！‥‥‥‥せ、先生‥‥‥‥‥もぉぅっ、先生の馬鹿ぁっ！」

　急いで、頭からショーツを取る佳代‥‥‥‥‥
　髪の毛が左右にパンダのように張り出していた。

「ドハハハハハハハハッ‥‥‥‥‥ヒ、ヒィィィー‥‥‥‥ぐ、苦しいぃぃ‥‥‥」

　仙次郎は、顔を真っ赤にして激爆している。

　怒りながらも、鏡を見て髪を触る佳代‥‥‥
　その滑稽な姿に、仙次郎の笑いは、暫く収まる事はなかった。

「先生っ、もう家に帰ってる暇がないから、駅前のサウナに行ってきます。」
「ああ‥‥‥‥了解‥‥‥‥ごゆっくり‥‥‥‥」
「もぉうっ‥‥‥先生の悪戯のせいで‥‥‥‥‥ついでに、朝食買ってきますから。」
「おう、すまんな‥‥‥‥おにぎり３つね‥‥‥」
「フンッ！」

　佳代は、ブツブツ独り言を言いながら膨れっ面で駅前のサウナに出かけていった。

（ふーっ‥‥可笑しかった‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、コーヒーを入れると執務室のテレビをつけた。

（なんだ、まだ、７時か‥‥‥‥）

　椅子に座り、ニュースを見ながら熱いコーヒーを啜っていく‥‥‥‥‥
　テレビは、昨日の事件や事故を報道していた。

（しかし、毎日、毎日、事件ばっかりだな‥‥‥‥）

　煙草をふかしながらテレビに見入る仙次郎‥‥‥‥‥
　ニュースは、若い母親が、幼い子供を虐待し逮捕されたことを報道していた。

（ケッ、自分の子供に暴力か‥‥‥‥‥酷ぇ、母親だな‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、溜息をつきながら紫煙を吐き出した。
　その時、仙次郎の脳裏に、昨日、恩師のアンダーソンに貰ったヒントが思い浮かんだ。

（ん‥‥虐待？‥‥‥‥‥‥トラウマ‥‥‥‥‥！‥‥‥待てよ‥‥‥）

　仙次郎は、専門書と二重人格の事件ファイルを取り出して考察した。
　二重人格に至る過程と、その原因を記した部分を念入りに読んでいく。

（これだっ！‥‥‥‥‥‥衝撃的体験‥‥‥）

　仙次郎は、ある項目の部分で、ページを止めた。
　アンダーソンが送ってくれた、資料も取り出して定義を読み直す仙次郎‥‥‥

　長い時間を掛けて、専門書や資料を調べていく。

（なるほど‥‥‥‥ひょっとして‥‥‥‥‥‥‥）

　資料を隈なく読んでいくうちに、仙次郎の顔が徐々に深刻になっていった。
　そこへ、佳代が買い物袋を持って帰ってきた。

「先生、帰りました。‥‥‥‥‥？‥‥‥‥先生‥‥‥」

　仙次郎は、真剣な表情で資料に集中している。

（んーむ‥‥‥やはり、二重人格に限りなく近いかも‥‥‥解離性ヒステリーか‥‥）

「先生ったら！」
「え？‥‥‥あ、佳代君か‥‥‥」
「さっきから呼んでるのに。‥‥‥‥朝食を買ってきましたよ。」
「おう、サンキュー。」
「ところで、何してたんです？」
「ああ、ちょっと、轟君のことを思い出してね。‥‥‥‥‥」
「何か解ったんですか？」
「ああ、轟君は、二重人格ではなく、ヒステリーによる記憶障害行動かもしれない。」
「記憶障害行動？」
「んむ。だが、放って置くと間違いなく二重人格になる。」
「ということは、やはり、今は違うって事ですか？」
「いや、一概には言えないんだが、可能性は低い。つまり、彼女の性行動はギリギリまでは、自分の意志で動いている。その後、彼女は自分の行動を忘れているというが、確かに自分のした行動を覚えていないというのは、二重人格の兆候でもある。だが、普通、自分の意志以外で、そういう行動を取ると記憶を辿ろうとした時にストレス障害で、他の症状が併発するんだよ。」
「‥‥‥‥‥そうなんですか‥‥‥」
「ああ。ところが、彼女には、まだない。‥‥過去のトラウマが、彼女を駆り立てて、その苦い経験を消そうと、自ら、別の異常行動を取るんだ。」
「というのは‥‥‥‥その‥‥‥」
「ああ、昨日言っていたセックスだ。自分の身体を汚している事に気づいていない。」
「自分を虐めてるということでしょうか？」
「まさに、その通りだ。それを行うために整形手術もしたんだろう。でなければ、男性が、自分に近づいてこないと思ったんじゃないかな。」
「何故、自分を虐めるんですか？」
「僕の勘に間違えなければ、彼女は、昔、虐待を受けている。」
「えぇっ？」
「それを知りたい。佳代君、悪いが、彼女のデータを出して洋平の所に行ってくれ。」
「え？」
「彼女の家族構成と、幼少期当時からの生活環境を知りたいんだ。」
「でも、直接‥‥‥‥」
「彼女は、喋らないさ、絶対に。‥‥‥‥‥だから、こういう状態になるんだ。」
「‥‥‥‥‥」

　仙次郎は、佳代を見て口元だけで笑った。

「これが、解離性ヒステリー、つまり、二重人格になる者の共通した状態なんだ。」
「‥‥‥‥先生‥‥‥‥」
「佳代君、明日の午前中までに、調べてくれと洋平に伝えてくれ。」
「‥‥‥解りました。」

　佳代は、仙次郎の指示に頷いて、洋平の元へ向かった。

☆☆☆☆☆

−　翌日　−

「仙次郎、調べたぞ。」

　洋平が、仙次郎の部屋に入ってきた。

「おう、そうか。‥‥‥それで？」
「かなり酷い生活環境だったようだ。」

　洋平は、仙次郎に轟久美子の幼少時代からの生活を詳しく説明した。
　その内容に、仙次郎は、自分の思った通りと納得した。
　佳代は、顔を顰めながら轟に同情を表していく。
　そして、洋平が、独り言のように呟いた。

「父親に犯されていたとはな‥‥‥‥それも、１０歳で‥‥‥‥」
「原因は、それだ。」
「辛かったろうに‥‥‥」
「父親に犯されるなんてのは、子供にとっては尋常でないさ。よく、今まで我慢して、普通の生活をしてこれたもんだ。」

　轟久美子は、少女時代に実の父親に性的虐待を受けていたのだ。

　母親は、父と久美子を残し蒸発していた。
　父親はショックと怒りで、毎日のように酒を飲み明かしていたらしい。
　あるとき、父親の言動や行動に異常が見られはじめた。
　アルコール依存症と精神障害による幻覚で、娘の久美子を蒸発した女房の名前で呼ぶようになっていたのだ。

　久美子の母親の名は、由紀子といい、いつの間にか久美子も母親の名で呼ばれることを苦にしなくなっていた。
　新しい友達は、久美子と呼ばず由紀子と呼んでいたほどだった。

　久美子は、高校に入学するまで父親に犯され続けていた。
　しかし、父親は、入学後、直ぐに肝臓ガンで亡くなり、久美子は、親戚に引き取られたのだった。

　優しい伯父と伯母の元、久美子は、今までの生活とは打って変わり幸せな生活を満喫していた。

　短大に入学し、卒業後は、榊原グループに入社したが、整形手術に至った原因までは判らない。

「仙次郎、整形手術する訳があったんだろう。」
「一昨日の彼女の話では、単にブスだからと言っていた。」
「それは、本心で言ったのか？」
「それを考察したんだが、半分以上は本心だろうな。今の話を聞いて思ったんだが、彼女は、実父に犯され続けた地獄の生活から急変し、優しい親戚に大切に育ててもらうようになった。ところが、思春期を無視して犯され続けた身体は、意思に関係なく脳をノックされるんだ。」
「ノック？‥‥‥‥‥なんだそれ？」
「つまり、完全に自分の身体が大人になる前に、セックスは、気持ちがいいもんだと、彼女の身体が覚えてしまったんだよ。」
「‥‥‥‥‥‥‥で、整形と何の関係があるんだ。」
「整形したのは、入社してから半年も経たないうちだ。二十歳を過ぎたばかり、年ごろの年代だ。　あらゆる言動にも、心に深い弊害を与えるだろうさ。」
「‥‥‥つまり‥‥‥」
「容姿を馬鹿にされたりしたんじゃないかな？‥‥‥自分の思考とは関係なく自然とセックスの快感が脳をノックし始める。。‥‥つまり、したくなる。」
「‥‥‥‥‥‥セックスをか？」
「んむ。だが、皆、相手にしてくれない。」
「‥‥‥‥‥‥‥そうか‥‥‥」
「そして、過去の辛い思い出が蘇ってくる。その辛さを忘れるために‥‥‥‥‥」
「誰構わず‥‥‥セックス‥‥‥‥‥を？」
「そこが、今回のキーワードだ。彼女は、女性にモテない男性を選んでいると言っていた。‥‥‥自ら慈善行為と認めている。」
「先生、ということは、本当に、二重人格を形成してるんですか？」
「その特徴としては、普段の自分に戻ったときに、もう一人の自分の言動を記憶していないという事だ。独立した人格になってるはず。彼女が、知っていて、わざと知らない振りをしているのかを調べる。」
「もし、そうだったら‥‥‥‥」
「ただ、別の人格が、彼女の行動をある一定期間、支配しているという条件に当てはまっていない。」

　洋平が、仙次郎に尋ねた。

「どうしてこんなことが起こるんだ？」
「さっきも言ったが、幼少児期の衝撃的体験にあるのではないかと言われてる。」
「衝撃的体験？」
「ああ、衝撃的体験とは、児童虐待なんだ。性的、身体的、感情的な虐待があるが性的虐待の典型は、近親相姦、身体的虐待は、殴るとか、蹴るとかタバコの火を押しつけるとかだ。感情的虐待は、例えば、お前を生まなければよかったとか、お前がいなければ、もっと自分は幸せになれたのにとか、つまり、言葉の虐待だ。」

　佳代も仙次郎に質問をした。

「感情的虐待というのはなんですか？」
「感情的虐待というのは、こんなひどい経験をしているのは、自分じゃない。自分だと思いたくない。自分じゃなく他の誰かだ。と信じることによって、その子供の、イデンティティの統一性を失っていくことさ。これも辛いぞ。」
「‥‥‥‥‥彼女が、それに当てはまっているとしたら？」
「彼女は、さっき説明した記憶障害行動か、単にセックスや男性に抱かれるための擬似行動‥‥‥つまり投げやり的な行動だと思う。いずれにせよ、この症状でも、自殺願望に近いものを持っている。」

　洋平と佳代は、仙次郎の説明に生唾を飲み込んでいった。

「仙次郎‥‥‥‥」
「‥‥‥んむ‥‥‥‥助けねばなるまい‥‥‥」

　仙次郎は、洋平の調べた資料を読みながら、轟の対処法を思考していった。

（５８）

　昼食を終えた仙次郎は、準備を整えて轟を待っていた。

「先生、それじゃ私は、奥の部屋に入っていますので。」

「ああ。そうしてくれ。」

　佳代が、部屋に入ったと同時だった。
　ドアがノックされ、轟久美子が応対室に入ってきた。

「失礼します。」
「お待ちしてました。」

　轟は、自らドアのロックを掛け仙次郎を挟んでソファに腰掛けた。

「嬉しいですわ、先生。二人きりで‥‥‥‥‥」
「轟さん、今日は、貴女の症状を改善すべく色々な事を聞かせていただきます。」
「ええ、いいですわよ。」
「で、一昨日の続きですが、貴女は、本当に自分を二重人格と認識しているんですか？」
「ええ。もう一人の私をご覧になります？」
「それも、いいですが、まず、貴女の全てを調べてみたいんです。」
「え？」
「治したいのでしょ？」
「ええ‥‥‥もちろんです。」

　仙次郎は、臆する事無く堂々と応対する轟を観察し始めた。

「先生、煙草吸ってもいいですか？」
「どうぞ。」

　轟は、煙草のパッケージをバックから出して１本を口に咥えた。
　ライターで火を点けると、火を消す事無く炎を見つめている。

（‥‥‥‥？‥‥‥‥‥何してるんだ‥‥‥‥）

　色々な角度からライターの炎を見ながら煙を吐いている。
　暫くして、轟は、炎で熱せられた金属の部分を指で抑えた。

「ぁ‥‥‥熱い‥‥‥」

　轟は、そう言うとライターをテーブルに放って仙次郎に笑みを見せた。

「先生、私のオ○ンコ見たいんでしょ？」
「‥‥‥‥？」　

（‥‥‥‥‥‥既に考えておいた計画的な自演にも思える‥‥‥‥が‥‥‥）

　轟は、ソファにもたれると足を大きく開いてスカートの中を仙次郎に見せ付けた。
　スカートの中は、下着をつけていなかった。

　轟は、仙次郎の顔を見つめながら亀裂を指で撫で上げた。
　仙次郎は、轟から視線を外さず表情を観察する。

（‥‥‥？‥‥‥‥肛門に裂傷跡があるな‥‥‥‥）

　一瞬、恥しそうに顔を赤らめた轟だったが、直ぐに妖艶な表情を浮かべ始めた。

（な！‥‥‥何っ？‥‥‥‥か‥‥‥変わった‥‥‥‥‥）

「先生‥‥‥私のオ○ンコに入れてみたいでしょ。‥‥‥いいわよ‥‥‥」

（どうなってんだ‥‥‥明らかに雰囲気が変わったぞ‥‥‥まさか‥‥‥やはり‥‥）

　仙次郎は、戸惑いを隠せなかった。
　クールを装いながら、用意しておいた轟の質問を思い出していく仙次郎‥‥‥‥

「轟さん、そんなにセックスが好きなんですか？」
「ええ。大好き。だって、気持ちいいんですもの。」
「貴女は、モテない男性が可哀想だから、セックスをさせてあげると言っていましたが、何故、そんな事をする必要があるんですか？」
「いい歳して、女性の身体を知らないなんて可哀想じゃないですか。こんな気持ちいい事は、皆で分かち合わないと。そうでしょ。」
「なるほど‥‥‥。じゃ、貴女は、誰でもいいわけですね。」
「失礼な事を言わないで下さい。女性にモテそうじゃない男性だけです。」
「そうでしたね。‥‥‥すいません。」

　轟は、指を蜜壷に入れて自慰を開始した。
　湿った音を立てながら、仙次郎を挑発している。

「先生‥‥オ○ンチンが疼いてきません？‥‥‥私の名器を味わいたいでしょ？」
「んー‥‥‥特には‥‥‥」
「嘘よっ。男なんて、やりたいばっかじゃない。」
「そうでもないと思いますけど‥‥‥」
「私を知らない男性は、抱くのを目当てで、よく声を掛けてきますわよ。でも、格好良い男性は、無視するんです。下心見え見えなんですもの。」
「‥‥‥‥‥そうですか。」
「あいつらは、ブスを人間と思ってないのよ。」

（‥‥‥‥‥‥‥ん‥‥‥いま、感情を出したな‥‥‥）

「フゥゥゥー‥‥‥ァァ‥‥‥もう、オ○ンコがベチョベチョよぉ‥‥‥」

（やはり、そうだ‥‥‥‥明らかに、現在の性格とは別だぜ‥‥‥確かに記憶を忘れるかもしれん。間違いない‥‥‥‥この女性は自己催眠ではなく‥‥‥‥‥‥完全に自分とは‥‥‥‥‥クッ‥‥）

　仙次郎は、今まで経験した事の無い緊張に襲われた。

　仙次郎の脳裏の片隅に、轟は、解離性ヒステリーではなく解離性同一性障害（ＤＩＤ）ではないかという思いが強くなってきた。

（‥‥‥‥‥‥やむをえん‥‥‥‥試すしかないな‥‥‥）

　仙次郎は、轟の母親、由紀子の名を呼んで、感情と意識の自我を分離させる方法を試す事にした。
　仙次郎は、立ち上がった。

「轟さん‥‥‥‥‥」
「‥‥‥あら‥‥‥オ○ンコに入れてくださるの？」
「‥‥‥‥久美子‥‥‥‥‥いや‥‥‥‥由紀子っ‥‥」
「！”」
「由紀子っ‥‥‥入れてやるぜ。」

　轟野の顔が、一気に怯えた表情に変わった。

「イ‥‥イヤ‥‥‥イヤァァァァァー‥‥‥‥‥‥」

　大声で叫ぶ轟‥‥‥‥
　佳代が、その悲鳴に驚いて、部屋に入ってきてしまった。

「‥‥‥せ、先生っ‥‥‥」
「‥‥‥‥‥佳代君、黙ってろ。」
「さあ、由紀子‥‥‥‥してやろう。」
「や‥‥‥やめて、乱暴は止めて、パパっ‥‥‥‥」

　仙次郎は、顔を顰めながら轟に近づいた。

「パパっ‥‥‥叩かないで‥‥自分で、自分で脱ぐから叩かないでぇぇぇーっ！」

　轟は、身体を震わせながら、服を脱ぎ始めた。
　素っ裸になると、仰向けになって足を大きく開いていく。

「パパ‥‥‥‥パパ‥‥‥‥」

　轟は、涙を浮かべて仙次郎を見つめた。

「久美子‥‥大丈夫‥‥‥パパは、もう居ないよ‥‥‥‥」

　仙次郎は、胸を詰まらせながら本名を呼ぶ‥‥‥‥
　轟は、瞬時に起き上がって表情を変えた。

「アタイがブスだから抱きたくないっていうのっ！馬鹿にしないでよ。男なんて誰でも一緒じゃない。オ○ンコがあれば入れたくなるんでしょ！」

　轟は、乱暴な言葉遣いに変わって仙次郎を罵倒した。

　ショックを隠せない仙次郎‥‥‥‥‥

（間違いない‥‥‥ＤＩＤだ。‥‥‥‥クッ‥‥‥‥俺の役目は終わりだ‥‥‥‥）

　仙次郎は、強いショックと絶望感を受けた。
　ゆっくりと後を振り向き佳代に呟く仙次郎‥‥‥‥

「佳代君、洋平に電話をして、彼女の伯父と伯母を呼ぶように言ってくれ。」
「は‥‥‥はい‥‥‥‥」

　仙次郎は、ソファに座ると目頭を抑えて黙り込んでしまった。

☆☆☆☆☆

　１時間後、洋平が応対室に入ってきた。

　仙次郎に服を着せられた轟は、足を組んで煙草をふかしている。

「仙次郎‥‥‥‥連れてきたぞ。」
「そうか。‥‥‥入ってもらってくれ。」

　洋平に促され、轟の伯父と伯母が応対室に入ってきた。

　驚く轟‥‥‥‥

「伯父ちゃん、‥‥‥伯母ちゃん‥‥‥‥どうして‥‥‥」

　轟は、仙次郎と洋平を交互に見ながら不安な表情を浮かべた。

「洋平、轟君をどこか別室へ連れて行ってくれ。彼女から離れないようにな。」
「わかった。」

　洋平に促されて席を立つ轟‥‥‥‥
　しかし、急に現われた伯父と伯母に不安を募らせていく。

「先生‥‥‥何で‥‥‥何で、呼んだの？」
「君を助けるためだ。」
「卑怯じゃないっ！‥‥‥言えないから先生のところに来たのに‥‥‥先生っ！」

　仙次郎は、洋平を見つめて合図した。
　頷く洋平‥‥‥‥

　洋平は、暴れる轟を落ち着かせながら部屋から連れ出していった。

　今まで見たことの無い久美子の様子に驚く伯父と伯母‥‥‥‥
　下着を着用していない捲くられたスカートを見て急激に不安を募らせていく‥‥‥‥

「ぁ‥‥‥あの‥‥‥一体‥‥‥‥」
「始めまして。当社のカウンセリングをしている高輪と申します。」
「‥‥‥く、久美子の伯父の轟孝です。こちらは家内の絵美です。」
「どうも‥‥‥」
「あの‥‥‥久美子が‥‥‥何か‥‥‥‥‥」
「ええ、大事なお話があってお呼びだて致しました。どうぞ、お座りください。」

　孝と絵美は、神妙な面持ちでソファに座った。

「あの‥‥‥久美子は‥‥‥‥一体‥‥‥‥？」

　伯父の孝が、仙次郎に恐る恐る問い掛けた。

　仙次郎は、二人を見つめると静かに言葉を吐いていく。

「非常に‥‥‥‥‥‥非常に、申し上げ難いのですが、久美子さんを退社させざるを得ない結果となりました。」
「ぇ‥‥‥えぇっ！‥‥‥な、何故です？」

　孝と絵美の驚きようから判断すると、久美子の症状を理解していないようだった。

「彼女は、外傷性精神障害‥‥‥ＤＩＤ‥‥‥つまり、解離性同一性障害なんです。」
「‥‥‥‥‥な‥‥‥何ですか‥‥‥それは‥‥‥‥」

　絵美が、泣き顔で仙次郎に問いただしてくる。

「普段は、普通の人と変わらないんでが‥‥‥つまり、多重人格‥‥ＤＩＤです。」
「た‥‥‥多重‥‥‥人格‥‥‥ＤＩＤ？」

「ＤＩＤというのは、一人の人間に対し明瞭に区別される２つ以上の同一性、又は、人格状態が存在する病態です。それぞれの人格状態は、同一性、記憶及び意識の統合の失敗を反映しているんです。より受身的で情緒的にも控えめな人格状態と、より支配的、自己主張的、保護的、または敵対的で、時には性的にもより積極的、開放的な人格状態という対照的な２つの主要な人格状態を持つことが多いのですが、その他に、小児や児童、思春期の人格を持つのが普通なんです。この他にも数名、数十名の人格状態を示す事もありまして。その症状が、明らかに久美子さんに。」
「あの‥‥‥つまり‥‥‥久美子は‥‥‥‥」
「多重人格です。」
「そ‥‥‥そんな‥‥‥‥しかし‥‥‥‥」
「人格が変わるのは、何らかの情緒的ストレスが引き金になって、あるいはカウンセラーの希望、要求や暗示によって誘発されて時には意識的に、時には自然発生的に起こります。人格交代のスイッチングは、時には微妙ですが、時には一瞬の虚ろな表情、トランス状態や数秒間の閉眼をはさんだり、時には演技的にも見えるほどの意識消失発作をはさむことがあるんですよ。」
「ぁ‥‥‥あの‥‥‥だから‥‥く‥‥‥久美子は‥‥‥どうすれば‥‥‥その‥‥」
「‥‥‥久美子さんに、専門的な治療をお勧めします。」
「どうして‥‥‥‥どうしてなんですかっ！」

　絵美が、ひどく感情的な態度で仙次郎に迫った。
　絵美を制止する孝‥‥‥‥

「待ちなさい。先生の話を詳しく聞こうじゃないか。」

　孝は、絵美を落ち着かせると仙次郎に詳細を求めた。

「先生、納得できるように説明を‥‥‥」
「‥‥‥わかりました。」

　仙次郎は、まず轟久美子の性癖行動と状態を説明した。

　伯母の絵美が、泣き叫びながら仙次郎を批判していく。

「嘘っ、いい加減な事を言わないでくださいぃーっ！」
「‥‥‥奥さん‥‥‥‥事実なんです。」
「久美子が‥‥‥久美子‥‥‥そんなっ‥‥‥‥嘘よぉぉぉーっ！」

　伯母の絵美の悲鳴は尋常ではなかった。
　久美子の過去を知らなかったのだろう。

　久美子の父親の兄である孝は、冷静を保って妻の絵美をなだめ続けた。
　しかし、絵美の背を撫でる手が震えている。

（‥‥‥‥伯父も、知らなかったんだな‥‥‥‥）

　仙次郎は、このまま説明すると、叔母の絵美まで精神的ショックを与えてしまうのではと思った。
　しかし、理解させずに説明を終われば、最悪、久美子は自害するかもしれない。
　仙次郎は苦悩の表情を浮かべながら、説明を再開する事にした。