（６４）

　仙次郎と清七は、桂川を壁から降ろし、ベッドの上に寝かせていた。

「仙次郎さん、次は、どうします？」
「この女は、Ｍではない。‥‥‥‥清七さん、痛みの刺激を与えてみますか。」
「解りました。‥‥‥‥では、吊るしましょう。」

　清七は、手際よく桂川を縛り上げていった。

　鉄砲縛りを作り上げると、更に座禅縛りを施し、逆さまにして天井から吊り下げた。

（凄いな‥‥‥‥）

　その姿は、とても普通の人間が絶えられる緊縛ではなかった。
　見る見るうちに腕が変色し、顔に血が上っていくのが判る。

「清七さん、どうするんです？」

　清七は、不敵な笑いを浮かべて仙次郎に説明した。

「闇針責めをしましょう。」
「闇針責め？」
「ええ。この女の身体を針で刺していくんですが、この女は目隠しをしている。つまり、何処から刺されるか判らない。恐怖も、もちろんですが、長く刺し続けると気が狂ってしまうんですよ。」
「ほぉぉー‥‥‥」
「ベトナム戦争でアメリカ兵捕虜が受けた拷問の一つなんですが、かなり効きますよ。」

　清七は、繊針という注射針よりも更に細い針を取り出して桂川の前に立った。

　清七は、桂川の乳首に、その針を刺し込んだ。

「‥‥‥‥！？‥‥‥‥‥ゥ‥‥‥ウギャァァァッァァァァァァーッ！」

　桂川は、激痛で目を覚ました。

「‥‥ァゥ‥‥‥ァヮヮ‥‥‥‥‥な‥‥‥何を‥‥‥‥‥や、やめ‥‥‥」

　次に清七は、無言で菊門に針を刺した。

「ンギャ、グギャァァァァァァァァァァァー‥‥‥‥‥」

　とても、人間とは思えない悲鳴が部屋を包んでいく。

「痛いだろう。ここは、強烈に痛い箇所なんだ。毛細血管が集中しているからな。」
「‥‥‥や‥‥‥やめ‥‥‥‥‥‥やめて‥‥‥‥」
「どういう風に刺したら痛いか教えてやろうか‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥お‥‥‥お願い‥‥‥‥‥許して‥‥‥‥」
「ゆっくり刺して、直ぐに抜くんだ。肉が収縮し始めた瞬間にな‥‥‥」

　清七は、そう言って、座禅をしている足の親指の付け根に張りを刺す。

「フンギャァァァァァァァァァァァァー‥‥‥‥‥‥」

　清七は、間を空ける時間を不定期にして刺していった。
　相手に刺されるという覚悟を持たせないのが、この責めのやり方なのだ。

「どうだ、喋る気になったか？」
「しゃ、喋る‥‥‥‥‥喋ります‥‥‥‥‥‥」

　桂川の言葉に仙次郎が質問を投げかけた。

「アンタが、説得した女性はどういう風に組織に入れたんだ。その方法を言え。」
「‥‥‥‥‥‥‥そ、それは‥‥‥」
「まさかとは思うが、マインドコントロールか‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥ち‥‥‥違うゎ‥‥‥」
「じゃ、なんだ‥‥‥‥‥」
「‥‥‥か‥‥‥‥‥覚醒‥‥‥‥剤を使って‥‥‥‥」

（‥‥‥なるほど‥‥‥‥酒に混ぜたんだな。）

「その女性らには、覚醒剤を飲ませたと教えてないんだろう。」
「‥‥‥‥‥ぇ‥‥‥ええ‥‥‥」

　仙次郎は、納得した。
　定期的に常用させて、禁断症状が出る頃に誘いを掛け、新たに服用させては、自分の力で治したと嘘びいていたのだろう。

　当然、女性らは、覚醒剤とは気づかない。
　そして、桂川に会えば、また巧く薬を飲まされ禁断症状がなくなる。
　女性らは、桂川の力を信じ込み驚嘆してたのだろう。
　そういう意味で教祖と呼ばれているに違いないと思った。

「とんだ、教祖様だな‥‥‥‥‥‥組織の女性らには何と言って飲ませるんだ。」
「‥‥‥‥御神の‥‥‥玉光薬といって‥‥‥‥それを‥‥‥‥‥飲ませて‥‥‥」

　仙次郎は呆れて物が言えなかった。

「その覚醒剤は、何処から手に入れてる？」

　仙次郎の質問に、桂川は答えない。
　刺される恐怖とは違う、別の恐怖を抱いている事を仙次郎は読み取っていた。

（‥‥‥‥‥‥一体誰なんだ‥‥‥暴力団関係か‥‥‥）

　針で刺し続けても死ぬ事はない。
　だが、清七の言うとおり気が狂ってしまうだろう。

　そうなると、桂川の後で操っている人間を聞き出すことは出来ない。
　このままでは、せっかく組織の女性らを助けても、桜クリニックの院長を始末しても意味はないのだ。

「桂川さん‥‥‥言って楽になったらどうだ。どうせ、アンタを無事に帰すつもりはないぞ。」
「‥‥‥ゥゥ‥‥‥‥」
「アンタは、死に値する悪さをしたんだ。」
「‥‥‥‥わ‥‥‥私は‥‥‥‥」
「罪のない女性の身体を改造させ、男の玩具にして私腹を肥やし、覚醒剤で恐怖と苦しみを植え込んで、儲けた金を巻き上げる。そして、使い物にならなくなると平気で放ってしまうんだろう。アンタ、今まで、何人の女性に、人間廃業をさせてきたんだ。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥ゥゥ‥‥‥」
「まあ、今は、そんな事はいいさ。それより、組織の大元を言ってみろよ。」

　桂川は、唇を震わせていた。
　しかし、その様子から判断し、喋る気はなさそうだ。

　仙次郎は、溜息をつきながら持参した道具に視線を移していった。

　バッグを漁る仙次郎‥‥‥‥

　仙次郎は、遂にスタンガンを持って清七に手渡した。

「清七さん‥‥‥これを‥‥‥」

　受け取る清七‥‥‥‥

「仙次郎さん、絶えれますかね。」
「さあ‥‥恐らく無理かも‥‥‥‥」
「部分的に筋肉麻痺を起こしますよ。」
「しょうがないでしょうね。」

　清七は、頷いた。

「解りました。やりましょう。」

　清七は、桂川の女芯にスタンガンの先を当てた。
　その冷たさに桂川の体が硬直する。

「な‥‥‥なにするの‥‥‥や‥‥‥やめて‥‥‥‥やめ‥‥」

　そこまで言うと、清七はスイッチを押した。
　青白いスパークが光ると同時に桂川は飛び跳ねて絶叫した。

「フギガァァァァァァァァァァァァァァーッ‥‥」

　一気に気を失う桂川‥‥‥‥
　しかし、清七は、覚醒法を知っている。
　直ぐに、スタンガンを蜜壷に入れて再度、スイッチを押した。

「ウギャァァァァァァァァァァァァァー‥‥‥‥」

　失禁しながら悲鳴を上げる桂川‥‥‥‥

　痛みと痺れで、放尿は止まらない。
　まるで噴射するように飛沫が放たれていた。

「さ、喋れよ。喋って楽になれ。」

　桂川は、清七の言葉に反応しないでいる。

（‥‥‥‥‥こりゃ意外だぜ‥‥‥‥耐えるつもりだな。）

　仙次郎は、桂川の目隠しを外した。
　部屋のライトが眩しいのだろう。
　目をきつく瞑り開けようとはしない。

　清七が、菊門にスタンガンを刺した。

「‥‥‥‥ゥゥ‥‥‥や‥‥‥やめ‥‥‥‥‥やめ‥‥‥‥‥」

　躊躇せずにスイッチを押す清七‥‥‥

「ンギィィィィィィィィィィィィィー‥‥‥」

　歯茎に食い込むのではないかと思うほど、噛み締めて桂川は絶叫する。
　その瞬間、瞼が緩み、白目を剥いて気を失った

「仙次郎さん‥‥‥‥」
「駄目だな‥‥‥最後まで、この調子かもしれないですね。」

　仙次郎は、桂川を喋らせる方法を考えた。

（‥‥‥‥こうなったら、桂川本人の弱点を見つけるしかないな。）

　仙次郎は、清七からスタンガンを取ると恥丘に当ててスイッチを押した。

「ンガッハァァァァァァーッ！」

　ガチガチと歯を鳴らして涙を流す桂川‥‥‥‥‥‥

（こうなったら、変成意識を侵していくしかないか‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、桂川の脳波を乱波させ、意識を破壊させようと考えた。

（いちばん簡単な方法は‥‥‥‥‥‥‥‥よし、あれでいくか‥‥‥）

　仙次郎は、脳揺叩法で、桂川の一番苦痛な事を聴き出すことにした。

「清七さん、この女のコメカミを棒でリズム良く叩いてもらえますか？」
「え‥‥‥棒で‥‥‥コメカミを‥‥‥」
「ええ。」
「でも、なんでですか？」
「これも、一種の刺激性トランス形成法なんです。」
「トランス‥‥‥形成法‥‥‥ですか？」
「ええ。自意識とは別にこちらの質問に答えさせる方法なんですが、夢を見ているような感じになり、発作的に口走ってしまうんです。」
「え？」
「よく、ボクサーや空手家が、頭部に強烈なパンチやキックを受けると、痛みを感じてる様子もなくフラフラ立ち上がろうとしますでしょう。」
「ええ‥‥‥そうですね。」
「これを続けると、ボクサーで言うパンチドランカーになります。」
「‥‥‥‥？」
「それを一時的に作り上げて、この女の弱点とか、嫌いな事を聞き出すんですよ。」
「ハハァーン、なるほど‥‥‥」
「狂う寸前に質問をすれば大体の人間は喋ります。」
「じゃ、その時に、この女のバックを聞けば‥‥‥」
「清七さん、それは不可能なんですよ。食べ物とか身近なこと位しか、この方法では聞き出せません。なぜなら喋る事が出来る時間は、せいぜい２、３秒しかないからです。とても、そんな時間はない。」
「‥‥‥そうなんですか‥‥‥解りました。」
「私が、観察します。清七さんは、１秒に１回づつ、コメカミを叩き続けてください。」「はい。」

　清七は、棒で軽く殴打を開始した。

　始めてから３０分くらい経過しただろうか‥‥‥
　桂川の目が、焦点が合わなくなってきた。
　瞳孔が、閉じたり開いたりしている。

「‥‥‥‥ぅぅ‥‥‥ぅぅぅ‥‥‥ゎゎ‥‥‥‥」

　うわ言のように桂川は、呻き始めた。

（そろそろか‥‥‥‥）

「や‥‥‥やめれ‥‥‥‥く‥‥くらは‥‥‥い‥‥‥」

　桂川の舌が回っていない。
　泥酔したような言葉で、そう呟いている。

　仙次郎は、桂川の瞳孔が濁ってくるのを慎重且つ冷静に待った。
　チャンスは、一度しかない。
　タイミングを逃すと発狂してしまうからだ。

　その時、桂川の網膜が膜を張ったように濁った。

（‥‥‥‥‥いまだ‥‥‥）

「桂川さん‥‥‥君の嫌いなものはなんだい？」
「‥‥‥‥ぁ‥‥‥ぅぁ‥‥‥‥い‥‥‥‥い‥‥‥犬‥‥‥‥‥」
「犬？」
「‥‥‥‥‥‥‥む‥‥‥‥‥虫‥‥‥‥‥虫‥‥‥‥」
「むし？‥‥‥‥‥虫か？‥‥‥」

　仙次郎は、急いで清七の叩く手を止めた。
　その瞬間、桂川は、胃の中の物を全て吐き出して気を失っていった。

「ふぅぅー‥‥‥‥危なかったな‥‥‥‥」
「仙次郎さん‥‥‥始めて見ましたよ。」

　清七が、驚きながら仙次郎に言い放った。

「諜報機関のエージェントがよく使う手です。‥‥‥‥‥それより、今、聞きましたか。」
「ええ。犬って言ってましたね。‥‥‥それと虫‥‥‥昆虫の事かな。」
「んー‥‥‥こんな時間に昆虫を探してくるのはな‥‥‥」

　清七が思い出したように仙次郎に呟いた。

「そういえば、樹里ちゃんが、先月、番犬にするって犬を買いましたよ。」
「樹里ちゃんが？」
「ええ。大型犬ですが‥‥‥‥‥たしかボクサーって言ってたな。」
「ふーむ‥‥‥‥‥‥」

　仙次郎は、犬を使って桂川を喋らせる方法を考えた。
　仮に連れてきたとしても、どういう方法で脅せばいいか解らない。
　ましてやボクサー、噛み付いて殺してしまっても意味はない。

　その時、清七が仙次郎に、意味ありげな笑みを見せて呟いた。

「仙次郎さん‥‥‥‥獣姦は？」
「え？‥‥‥‥じゅ‥‥‥‥獣姦‥‥‥‥」
「確か、雄の犬ですよ。」

　仙次郎は、最初、清七が何を言っているのか意味が解らなかった。

「‥‥‥‥！な、なるほど‥‥‥‥‥」

　仙次郎は、清七の案に頷いた。

「それ、いきましょう。でも、連れてこれるかな？　ホテルの人に怒られるでしょう。」
「ここの経営主は、樹里ちゃんですよ。」
「え‥‥そうなんですか？」

　清七は、仙次郎に笑いを見せると、さっそく樹里に電話を掛けた。

（６５）

　しばらくたって、樹里が、ボクサーを連れて部屋に入ってきた。

　振り向く仙次郎‥‥‥‥

「仙次郎さん‥‥清ちゃん‥‥‥‥一体、何やってんの？　犬なんかどうするのよ。」
「デ‥‥‥‥‥デカイ‥‥‥‥」「‥‥‥なんと‥‥‥‥」

　仙次郎と清七は、思わずそう口走った。
　背高は、有に１メートルを超えている。
　頭部まで入れると子供の身長に近いほどだ。

（‥‥‥‥‥こんな、デカイとは‥‥‥‥‥）

　仙次郎の驚いた顔をよそに、怪訝そうな顔をして、奥を見る樹里‥‥‥

「？‥‥‥‥女性？‥‥‥‥‥何してるの？‥‥‥なんか怪しいわね‥‥」
「ぇ‥‥‥ああ、実は‥‥‥‥」

　仙次郎は、樹里に事の内容を説明した。

「まあ、酷い女ね‥‥‥‥で、犬をどうするの？」

　仙次郎は、言い難そうに樹里に答えた。

「‥‥‥つまり‥‥‥‥その‥‥樹里ちゃんの犬で、あの女と姦らせようと‥‥‥‥」
「えぇぇーっ！‥‥‥仙次郎をっ！」
「せ‥‥‥仙次郎って‥‥‥？」
「ぇ‥‥‥あ、この犬、仙次郎さんと同じ名前にしたの。フフッ‥‥‥」
「フフッって‥‥‥‥」
「仙次郎さんの頼みならいいわよ。それに獣姦って生で見たことないし。フフッ」

　樹里は、そう言って仙次郎の胸を指で撫で上げた。
　仙次郎は、樹里の横に立つボクサーを見ながら心の中で呟く。

（‥‥‥‥‥‥よりによって、犬に俺の名前を付けなくても‥‥‥）

　仙次郎は、複雑な気持ちで樹里と犬を交互に見ていた。

（‥‥‥‥しかし、本当にデカイな‥‥‥）

　３人は、桂川の寝るテーブルに近づいた。
　仙次郎が、樹里に問い掛けた。

「樹里ちゃん、この犬、噛み付かないかい？」
「ええ、大丈夫よ。」
「なら、いいけど‥‥こんなデカイ犬に噛まれたら、間違いなく食い千切られるから。」「なんなら、口輪をはめておきましょうか？」

　そう言って、樹里は、ジーンズのポケットから皮製の口輪を取り出した。

「‥‥‥‥念のために填めておこうか。」
「ええ、わかったわ。」

　樹里は、ボクサーの口に皮製の口輪を装着した。

「よし‥‥‥‥‥じゃ、始めようか。‥‥‥‥清七さん。」

　仙次郎の合図に清七が頷いた。

　清七は、テーブルの足に固定してある桂川の四肢のロープを解くと、打つ伏せに体位を変え、再度、両手両足をテーブルの足に固定した。

　桂川の身体は、背後位のような格好になる。
　清七は、桂川の尻にスタンガンを当てスイッチを押した。

「グッハァァァァァァァァァァァー‥‥‥‥ゥゥゥ‥‥ゥグゥ‥‥」

　悲鳴を上げて目を覚ます桂川‥‥‥‥

「‥‥‥ゥゥ‥‥‥グフゥゥ‥‥‥」
「どうだい、桂川さん‥‥‥‥気分は？」
「‥‥‥な‥‥‥何されても‥‥‥‥‥し‥‥‥しゃ‥‥‥喋らない‥‥‥‥ゎ」

　仙次郎は、桂川の前に移動ししゃがみ込んだ。

「桂川さん‥‥‥あんた、昆虫が嫌いなんだって？」
「‥‥‥‥‥！？」

　桂川は、不思議そうな視線を仙次郎に投げた。

「ククッ‥‥‥身体に這わせたら面白いだろうな‥‥‥」
「‥‥‥や‥‥‥やめて‥‥‥よ‥‥」
「ああ、そんな事はしないさ‥‥‥ところで、犬も嫌いなんだってね。」

　桂川は、驚愕した目で仙次郎を見つめる。

「な、なんで‥‥知って‥‥るの‥‥‥‥‥ど‥‥‥どうする‥‥‥つもりなの‥‥」

　仙次郎は、樹里にウィンクで合図を送った。
　樹里が、ボクサーを連れて仙次郎の隣に移動してくる。
　桂川は、目の前に現われた大型犬を見て絶叫した。

「‥‥‥‥ぅ‥‥‥ぁ‥‥‥ぅぁ‥‥‥‥イヤァァァァァーッ！」

　桂川の全身に鳥肌が立った。
　顔面は蒼白になり眼球が飛び出すのではないかと思うほど見開いている。

「ァヮヮ‥‥‥イ‥‥イ‥‥‥イヤ‥‥‥‥イヤ‥‥‥‥‥ど、どけて‥‥‥」

（‥‥‥こりゃ、相当なもんだな‥‥‥‥）

　仙次郎は、不敵な笑い顔を桂川に投げると、静かに囁いた。

「喋るんだったら犬をどけてやる。」
「‥‥‥‥‥ぅぅ‥‥‥‥そ‥‥‥それは‥‥‥‥‥‥‥」
「桂川さん‥‥‥‥この犬は、雄なんだ。」

　桂川は、仙次郎の言葉の意味を解らないでいる。

「‥‥‥クククッ‥‥‥‥この犬がアンタの性器に突っ込みたいとさ。」

　桂川の表情が、一気に凍りついた。
　半開きにした口から乾いた吐息が漏れ始める。

「‥‥ァヮ‥‥‥ァヮヮ‥‥‥‥ぃ‥‥ぃ‥‥‥イヤァァァァァァァァッ！」

　清七は、桂川をテーブルごと壁鏡の前に移動させた。

「‥‥‥な‥な‥‥なに‥‥‥‥‥する‥‥‥‥‥ぁぁ‥‥‥‥」
「バックで入れてもらうんだ。　犬の姿が見えないと興奮しないだろう。」

　清七の言葉に首を激しく振る桂川‥‥‥‥
　もはや声を出すことも出来ないほど、恐怖が全身を襲っている。

　仙次郎が、樹里に囁いた。

「樹里ちゃん、始めてくれ。」
「ＯＫっ！」

　樹里が、桂川の背後にボクサーを連れて行った。
　ボクサーは、鼻先で桂川の股間を嗅いでいる。

　ボクサーは、桂川の股間から漏れる分泌物の匂いで徐々に興奮してきたようだ。

「ヒィィィィィィィィィィィー‥‥‥‥」

　桂川の皮膚は、硬直し、目が真っ赤に充血していた。

「‥‥‥ァヮ‥‥‥‥ィ‥‥‥‥ィ‥‥‥‥‥ィ‥‥‥‥‥ィャ‥‥‥‥」
「樹里ちゃん。」

　仙次郎の声に樹里は頷いた。
　樹里は、ボクサーの首のロープを軽く引っ張り声を上げる。

「仙次郎っ‥‥‥‥行けっ！」

（‥‥‥‥‥‥なんか俺に言われてるみたいだな‥‥‥）

　仙次郎は、複雑な思いでボクサーを見つめた。

　ボクサーは、樹里の声で桂川の背中に覆い被さっていった。
　既に、ピンク色のボクサーの肉棒は怒張している。

「ギヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィー‥‥‥」

　桂川は、狂ったような悲鳴を上げながら失禁し始めた。
　そして、石のように硬くなった身体が、鮫肌のように変化し、桂川は気を失ってしまった。

（チッ‥‥‥‥気絶したか‥‥‥）

　その時、仙次郎の元に洋平から電話が掛かってきた。

「俺だ。」
『仙次郎か？』
「どうした？‥‥‥いま。桂川に聞き出しているところだ。」
『そうか‥‥‥いや、全て完了したんで電話したんだ。』
「よし。一応、計画はパーにしたわけだな。‥‥‥‥そうだ、洋平、お前も来い。」
『え？』
「なかなか、口を割らなくて困ってるんだ。」
『ほぉー、しぶといな。‥‥‥わかった行こう。‥‥‥場所は何処だ。』

　仙次郎は、洋平にホテルの住所を教えて電話を切った。

（さて‥‥‥起こすか‥‥‥）

　仙次郎は、スタンガンを手に取り桂川の身体に押し当てた。

「ンギャァァァァーッ！」

　桂川は、もはや、人間の形相とは思えない表情で怯えていた。

「‥‥や‥‥や‥‥‥やめ‥‥‥‥やめ‥‥‥‥やめ‥‥‥‥て‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥なら、言え。」

　桂川の背中には、ボクサーの前足が乗っている。
　しかし、桂川は何かに取り付かれているかのように首を横に振った。

（‥‥‥‥‥何なんんだ一体‥‥‥‥）

　仙次郎は、樹里を見て頷いた。
　樹里は、手綱を引きボクサーを嗾けると手を緩めた。

　ボクサーは、興奮した状態で、肉棒を桂川に当てていく。

「フンギギギィィィィィィィィィィィィーッ！」

　ボクサーほどの犬ともなると人間の肉棒と遜色ないほどの太さがある。
　桂川の全身は、真っ白に変色しながら体温を低下させていった。

　ボクサーの荒い鼻息が桂川のうなじに当たり、爪が皮膚に食い込んでいく。
　桂川は、白目を剥いたまま、涎と鼻水を垂れ流して愕然としていた。

「ガフゥゥゥゥゥー‥‥‥‥ウィィィィー‥‥‥」

　桂川は、またしても気を失ってしまった。

「よっぽど、犬が苦手らしいな。」
「仙次郎さん、これじゃ埒があきませんね。直ぐ気絶してしまうし。」
「そうですね。‥‥‥‥少し、我々も休憩しましょう。」
「ええ。」

　樹里は、ボクサーを引き寄せ、壁のフックに固定した。

「仙次郎さん、ビール飲みます？」
「ああ‥‥‥貰おうかな。」

　樹里は、ビールを冷蔵庫から取り出し二人の前に運んできた。
　グラスにビールを注ぐ樹里‥‥‥

　清七が、一気に飲み干すと仙次郎に声を掛けてきた。

「気絶するほど嫌いなのに、何で喋らないんでしょうね。」
「‥‥‥恐らく、この女のバックが、相当、恐いんでしょう‥‥‥‥」

　ドアノックが聞こえた。

「洋平だな‥‥‥樹里ちゃん、開けてやってくれ。」
「ええ。」

　洋平が、部屋に入ってきた。

「どうだ、仙次郎？」
「相変わらずだ‥‥‥‥‥犬が嫌いなようでな。わざわざ樹里ちゃんに連れて来てもらったんだが。恐怖で、聞き出す間もなく、直ぐに気を失ってしまうんだ。」

　溜息混じりに答える仙次郎‥‥‥‥

「そうか‥‥‥何とかならんのか？」

　清七が、横から口を開いた。

「‥‥‥しかし、こう気を失われちゃ‥‥‥」
「どんな奴なんだろうな、相手は。」
「ま、何とかしてみよう。」

　仙次郎は、そう答えると腕を組んで考えた。

（桂川を気絶させないよう犬の恐怖を継続するには、内面的に操作するのは無理だ。）

　部屋を見渡す仙次郎‥‥‥‥ふと、床に転がるスタンガンが目に入った。

（外部からの刺激しかないか。‥‥‥‥よし‥‥‥‥）

　仙次郎は、スタンガンを手にとり一番低い電流にセットした。

「清七さん、もう一度やってみましょう。」
「ええ。」
「どうするんだ、仙次郎‥‥‥」

　洋平が、仙次郎に声を掛けた。

「気を失う瞬間に、これを身体に当てるのさ。」
「‥‥‥‥スタンガンか？」
「ああ。‥‥‥俺が、観察しながら当てていく。お前が質問してくれ。」
「‥‥‥ああ‥‥‥わかった。」

　樹里が、ボクサーを連れて桂川の背後に移動した。
　ボクサーは、興奮状態で桂川の背中に前足を乗せいく。

「仙次郎、まだよっ、慌てないでっ！」

　樹里は、そう言って手綱を引いた。

「なんだ？‥‥‥‥仙次郎？？」

　洋平が、樹里と仙次郎を交互に見た。

「この犬の名前だ。」
「へ？」
「私が、名づけたんです。」

　洋平は、鼻の穴を膨らまし笑いを堪えていた。

「洋平‥‥‥笑ったら殴るぞ。」
「‥‥ゎ‥‥‥わかった‥‥‥ゥ‥‥‥ププッ‥‥」

　仙次郎は、気を取り直してスタンガンを桂川に当てた。

「ヒィィィィィー‥‥‥」

　ゆっくりと目を開ける桂川‥‥‥
　今までと違い電流が低いため悲鳴も小さかった。
　しかし、背中に乗るボクサーを見て、一気に恐怖に陥っていく‥‥‥

「‥‥ァァ‥‥‥‥ヮヮヮ‥‥‥‥い‥‥いや‥‥‥‥ど‥‥‥どけてぇぇぇ‥‥」
「樹里ちゃん。」

　樹里は、頷いて手綱を緩めた。
　ボクサーは、桂川の蜜壷に肉棒を挿入していく‥‥‥

「グギャァァァァッァァ‥‥‥ッハゥゥゥゥゥ‥‥ンギィィィィー‥‥」

　桂川は、全身を硬直させて悲鳴を上げた。
　仙次郎がタイミングよくスタンガンを当てる。

「フヒィィィィー‥‥‥‥ギヒィィー‥‥」

　気を失う瞬間、電流を当てられ桂川は、瞬時に覚醒する。

（‥‥‥‥‥ん‥‥‥いけるな‥‥‥）

「や‥‥‥やめてぇぇぇぇぇー‥‥‥‥‥やめぇぇぇぇー‥‥‥ヒィィィィー‥‥‥」

　洋平が、桂川の顔の前にしゃがんで質問を開始した。

「さぁ‥‥‥言えよ‥‥‥もう、気を失う事はできないぞ。」

　恐怖で真っ白に変色した顔面は、まるで屍のようだった。

「‥‥‥‥桂川さん‥‥‥‥２分もしないうちに犬は射精するぜ。」
「フガァ‥‥‥‥‥ンヮヮ‥‥‥‥ぃ‥‥‥‥‥ぃゃ‥‥‥‥や‥‥‥やめ‥‥‥‥」
「言え‥‥‥言うんだっ！」

　桂川は、朦朧とした表情で首を縦に振った。

「如月さん。」

　洋平の合図でボクサーを引く樹里‥‥‥‥‥

「さぁ‥‥‥言ってみろ。‥‥‥組織の大元を。」
「‥‥‥‥‥‥こ‥‥国土‥‥‥国土交通省‥‥‥せ‥‥‥政務次‥‥‥官の‥‥」

（！‥‥‥国土交通省‥‥‥‥‥政務次官だとぉ‥‥‥‥‥な、中沢か‥‥‥‥）

「‥‥‥‥ウゥ‥‥‥‥‥もう‥‥‥許し‥‥‥て‥‥‥‥」

　国土交通省　政務次官　中沢勇作
　伯父は、歴代首相を務め、父は、現民政党党首、兄は、現役大臣という政治家一家だ。

　次男である勇作は、伯父、父、兄とは、政党を異するが、連合与党の一員として数年前から、頭角を現わしはじめた若手代議士の一人であった。

「‥‥‥‥新明党の中沢‥‥‥中沢勇作‥‥‥そうだな。」

　仙次郎の言葉に、力なく頷く桂川‥‥‥‥

　蒼ざめる洋平‥‥‥‥

「洋平‥‥‥‥」
「せ‥‥仙次郎‥‥‥‥とんでもない事を聞いちまったぜ‥‥‥‥」
「ああ。中沢家といえば名門だぞ。旧華族出身の祖父時代から、政治を職に持ち、家系はもちろん、親族も大企業を持っている。」

　蒼ざめる仙次郎と洋平を見て樹里が質問をしてきた。

「‥‥‥‥仙次郎さん‥‥‥‥華族って？」
「華族というのは、明治憲法下で、貴族院を構成し多くの特権を持っていた人たちの事さ。この中沢家は、中でも一等華族だ。」
「特権‥‥‥？」
「明治維新後、公卿と大名を華族としたんだが、明治１７年に華族令を定めたのさ。公、侯、伯、子、男の５つの爵位を与えたんだよ。終戦後、華族は廃止されたがね。」
「つまり、‥‥‥どういう事？」
「‥‥‥‥‥相手が悪いってことだ。中沢の父親は、実質、現政権を牛耳っているような中心人物なんだ。」
「‥‥‥‥‥‥」
「簡単に揉み消されるってことだよ。」

　清七の言葉に樹里は、表情を濁した。

「仙次郎‥‥‥」
「ああ‥‥‥‥とりあえず終了だな。‥‥‥で、どうする？」
「社長に話さねばなるまい。‥‥‥‥しかし、中沢を落とすのは難しいだろうな。」

　訳の判らない倦怠感が、仙次郎と洋平を襲った。

　桂川を見る仙次郎と洋平‥‥‥‥

　桂川の蜜壷からは、ボクサーが放出した分身が静かに流れ出していた‥‥‥‥‥‥‥

☆☆☆☆☆

　前回の事件から、１週間後、洋平は、仙次郎のもとに説明に訪れていた。

「そうか‥‥‥‥やはりな‥‥‥」
「中沢は、病気を理由に長期療養という事で政界を離れた。さすがに、親父も一族の汚点を気にしたんだろうな。」
「これが解決とは思えんが‥‥‥‥‥‥」
「仙次郎、社長が言っていた。爆弾を抱えてしまったとな。」
「‥‥‥‥だろうな‥‥‥‥」
「しかし、社長は、見ない振りをしない人間だ。」
「どうするんだ、洋平‥‥‥‥」
「もし、もし‥‥‥それに関して社長が手がけるなら、俺は、全力を持って、社長に協力をするつもりだ。」
「お前らしいな。‥‥‥‥‥‥‥ま、その時は俺も手伝おう。」
「‥‥‥‥仙次郎‥‥‥‥‥」
「気にするな。お前は、俺の親友だ。」

　洋平の仙次郎を見つめる視線に力が入った。
　照れくさそうに笑う仙次郎‥‥‥‥

「さて、もう終わりだし、たまには飲みに行こうぜ。」
「仙次郎、今日は、飲みまくっていいか‥‥‥」
「ククッ‥‥‥もちろんだ。」

　佳代が、二人に近づいてくる。

「‥‥‥あ‥‥‥あのぅ‥‥‥‥私も一緒に行っていいですか？」

　洋平が、即答した。

「川島君、仙次郎と３人で３Ｐしようか？」

　仙次郎も相槌を打つ‥‥‥‥

「ダブルサンドか‥‥‥面白いな。」
「ぇ‥‥‥えぇぇーっ！」

　大声を上げる佳代‥‥‥

　仙次郎と洋平は、大笑いをして佳代をからかった。

　真っ赤に顔を染める佳代だったが、二人の男の無邪気な笑い顔と少年のような雰囲気に、自然と心を和ませていった‥‥‥‥‥‥