（８６）

　佳代が、依頼の電話を聞き終わって仙次郎の元に寄って来た。

「先生、今ほど、依頼の電話があったんですが‥‥‥‥‥」
「ん？‥‥‥ああ、それで‥‥‥」
「それが、ちょっと変わった方で‥‥‥‥‥」
「変わった？‥‥‥なんだ、それ。」
「それが、内容は、こちらに来てから話すと言っていたんですが、私に何度もしつこいくらい確認を取るんです。それも同じ事を。」
「いいじゃないか、別に。」
「いえ、それが‥‥‥つまり‥‥‥私が思うに異常なくらい心配性というか、まるで、私を疑ってるような感じで、何度も何度も同じ事を口ずさんでて。」
「ふぅーん‥‥‥心配性ねぇ‥‥‥‥ま、話しを聞けば解るだろう。」
「‥‥‥‥‥まあ、そうですけど‥‥‥‥‥‥」
「そう、気にするなって。」
「ええ‥‥‥‥‥はい、わかりました。」
「女性かい？」
「ええ、総務部管財課の犬飼という社員です。」
「そうか‥‥‥‥社員データを今のうちに出しておいてくれ。」
「はい。今、プリントアウトしています。」
「‥‥‥で、何時に来るって？」
「お昼休みに来るそうです。」
「そうか、じゃ、早めに昼飯を済ませておくか。」
「は？‥‥‥先生、まだ、１０時ですよ。」
「え‥‥‥あ、そうか‥‥‥‥‥‥何となく腹減ってたから勘違いしてた。」

　佳代は、ぶっきらぼうに答える仙次郎を見つめながら、ある事を思いついた。

（フフッ‥‥‥‥迫っちゃおうかな‥‥‥‥）

　佳代は、意味ありげな笑みを浮かべて仙次郎の膝の上に腰を降ろした。

「ん？‥‥‥‥‥何処に座ってんだ。‥‥‥自分の椅子に座れって。」
「いいじゃないですかぁ、二人きり何だしぃ。」
「馬鹿者っ、重たいんだよっ。」

　佳代は、仙次郎の文句に耳を貸さずに喋り掛けてくる。

「フフッ‥‥‥先生‥‥‥‥空腹感を忘れる方法を知ってます？」
「空腹感を？‥‥‥ああ、つまり性欲によって‥‥ん？‥‥‥‥‥おい、佳代君、僕はやらないぞ。」
「アハハ、バレました。」
「ったく‥‥‥」
「でも、最近、ご無沙汰なんですよぉ。」
「‥‥‥‥早漏の彼氏はどうした？」
「長期出張で東南アジアの方に行ってるんです。」
「へぇー、そりゃ大変だな。」
「それより、先生ぇ‥‥‥‥」

　甘ったるい声を出しながら仙次郎に胸の膨らみを押し当てる佳代‥‥‥

「君な、いつか言おうと思っていたが、彼氏がいるのに僕と関係をするというのは、マズイんじゃないかな。」
「フンッ、言うと思いました。‥‥‥いいんです。彼と別れますから。」
「え？‥‥‥ば、馬鹿者っ！　僕は君と結婚など出来ないぞ。」
「先生、勘違いしないで下さいよ。」
「ん？」
「実は、彼、他の女性と付き合ってるんです。」
「え？‥‥‥二股ってことかい。」
「ええ。私、見ちゃったんです。彼が、知らない女性と食事をしているのを。」
「でも、食事だけじゃ判らんだろう。」
「いえ、彼の携帯を黙って見たんです。メールも読んじゃいました。」
「読んだとは‥‥‥つまり？‥‥‥‥」
「愛してるとか、昨日は良かったよ、とか‥‥‥‥ラブラブな内容でした。馬鹿げた事に、その女性の裸を保存しているんです。もう悔しくって。」
「フハハハハハッ、オッチョコチョイな彼氏だな。」
「笑い事じゃありませんよ。とにかくもう、見切りをつけましたから。」
「おいおい、早まるなって。もしかしたら君の方を愛してるかも‥‥‥」

　仙次郎が、そこまで言うと佳代は大きな声で制止した。

「いいんですっ！‥‥‥‥もう決めちゃったし。それに、私、早漏は嫌だし。」

（そ‥‥‥早漏って‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、呆れながら佳代を見つめた。

「でもなぁ‥‥‥‥君、言ってたじゃないか。優しいし真面目だし君を凄く大事にしてくれて、アッチ意外は、最高の男性だと。」
「ええ、確かに今までは、そう思っていたし信用もしていました。でも嘘と判りましたし、ここまで馬鹿にされては気がすみません。」
「んー‥‥‥‥」
「とにかくもういいんです。所詮、アイツもいい加減な男なんです。」

　仙次郎は、苦笑いしながら佳代の怒った顔を見つめていた。

　自分を見つめる仙次郎に、佳代は、瞬時に笑顔に戻って喋りかけた。

「先生、スカッとさせてくださいよぉ。」
「えぇ？‥‥‥‥んー‥‥‥‥しかし‥‥‥‥」
「私、当分、エンジョイする事に決めましたから。」
「まあ、それは止めないが、別に僕じゃなくても‥‥‥‥僕より、もっと若い‥‥‥」
「先生が、い‥い‥ん‥で‥すっ！」
「‥‥‥‥な、なんで？」
「ぇ？‥‥‥だ、だって‥‥‥そのぅ‥‥‥‥一緒にいて楽しいし‥‥‥格好いいし‥‥‥‥そ、変態的なエッチが私にあってますしね。フフッ。」
「佳代君、それは僕を褒めてるのか？‥‥‥そもそも、変態的なエッチってなんだ。」
「だって、先生、やってくれるじゃないですか。」
「全部、君の要望だろうが！」
「アハハ‥‥‥‥そうでしたっけ？」

　仙次郎は、佳代の屈託のない笑顔と、全身から醸し出す不思議なセックスアピールに顔が崩れた。

「クッ、クッ、クッ‥‥‥‥君は不思議な女性だねぇ‥‥‥」
「え？」

　仙次郎は、佳代を引き寄せ腰の上に後ろ向きに座らせた。

「アンッ‥‥‥ァァ‥‥せ、先生‥‥‥」
「しょうがない‥‥‥‥慰めてやるよ‥‥‥」

　仙次郎は、後から手を回して佳代の両足を開かせた。
　佳代は、それと同時に背を仙次郎にもたれさせていく。

　ゆっくりとブラウスのボタンを外しブラジャーの中に手を入れていった。

「ゥ‥‥‥‥ァァァァ‥‥‥‥」

　指で乳首を転がすと佳代は、頭部を仙次郎の肩に預けていった。

（‥‥‥‥‥フッ‥‥相変わらず敏感だな‥‥‥‥）

　片手をスカートの中に入れ、ショーツの上から亀裂に沿って指を這わせていく。

「ァァァ‥‥‥‥ゥァァ‥‥‥」

　早くも、佳代のショーツは湿りをみせていた。蜜が染み出してきたのだ。
　仙次郎は、笑みを浮かべると佳代をデスクの上にうつ伏せにさせた。
　スカートを完全に捲りあげヒップを露にしていく。
　ブルーのレースショーツが、ヒップの割れ目に食い込んでいる。

　仙次郎は、ガーターのホックを外し、ショーツを膝まで引きずりおろした。
　ショーツに付着した蜜が糸を引きながら伸びている。
　佳代の蜜壷からは、透明の液体が大量に溢れ出ていた。

「佳代君‥‥‥君は、相当、感度がいいね。」
「ァァァァ‥‥‥先生ぇ‥‥‥恥しいぃぃ‥‥‥‥」

　顔を伏せたまま、佳代は、そう呟いた。

（んーむ‥‥‥‥‥結局、こうなるのか‥‥‥ま、いいか‥‥‥）

　仙次郎は、椅子から立ち上がるとベルトを外してスラックスを下ろした。

（お、ビンビンだぜ‥‥‥ククッ‥‥‥）

　仙次郎は、佳代のヒップを左右に割り、怒張した肉棒を亀裂に沿って撫で上げていった。

「アハァァァ‥‥‥‥先生ぇぇ‥‥‥‥‥」

　仙次郎の肉棒は、佳代の蜜で濡れ滾っていった。
　何度か、それを繰り返した後、ゆっくりと先を蜜壷に埋め込んでいく。

「‥‥アンッ‥‥‥ァァァ‥‥先生ぇぇ‥‥‥欲しいぃ‥‥早く欲しいぃぃー‥‥‥」

　しかし、仙次郎は、焦らすように肉棒の半分程を入れたり出したりして弄んだ。

「先生ぇぇぇ‥‥‥オ○ンコが‥‥‥オ○ンコがぁぁぁぁ‥‥‥」

（オ‥‥‥オ○ンコ‥‥‥‥‥こんなこと口ずさんだっけかな？）

「先生ぇぇ、気が狂っちゃうぅぅーっ！」

　仙次郎は、佳代の要望に応えた。
　ヒップを持ち上げるようにしながら肉棒を一気に根元まで埋め込んでいく。

「ンッ、アァァァァァァァァ‥‥‥‥イ、イィィィィー‥‥‥‥」

　佳代は、そう叫びながら自ら腰を降り始めた。
　湿った摩擦音と、それによって生じる気泡が弾く快感で仙次郎の下腹部に緊張が走っていく。

（‥‥‥こりゃ、堪らんぜ‥‥‥‥）

　仙次郎は、佳代を抱き起こし椅子に腰を降ろした。
　佳代は背を仙次郎に預けて前後に腰を動かしている。

　仙次郎は、佳代の乳首を弄びながら項に息を吹きかけた。

「アハァァ‥‥‥‥アゥゥゥ‥‥ァァァァァァー‥‥‥‥‥‥‥」

　一気に佳代の蜜壷が締まっていく。

「おっ、いいぞ、佳代君っ‥‥‥」

　仙次郎の言葉に気を良くする佳代‥‥‥‥
　円を描くように腰を動かして悦びを表していく。

「先生ぇぇ‥‥‥気持ちいぃぃぃぃー‥‥‥」

　既に仙次郎の股間は、蜜でびしょ濡れだった。

「先生ぇ‥‥‥‥駄目‥‥‥イ、イキソぉ‥‥‥」
「まだ早いぞ、佳代君‥‥‥‥」
「だ、だって‥‥‥‥気持ちよくてぇ‥‥‥‥ァァ‥‥‥」

（しょうがないな‥‥‥ピッチを上げるか。）

　仙次郎は、結合したまま椅子から立ち上がった。

「ァァ‥‥‥せ、先生っ‥‥‥‥」
「ゆっくりそっちに歩こう。」

　仙次郎は、佳代の腰を支えながら窓際に移動した。

　佳代は、桟に手を付き腰を突き出した。
　仙次郎は、それと同時に肉棒を前後させていく。

「イアァァー‥‥‥‥ァァ、イィィーッ‥‥‥イィィィィィーッ！」

　卑猥な摩擦音が部屋に響いた。
　佳代は、我慢の限界に来ているのだろうか足がガクガクと震えている。

「ゥゥゥゥゥ‥‥‥‥き‥‥‥気持ち‥‥い‥‥‥いぃぃぃ‥‥‥」
「さて、佳代君、フィニッシュといくか‥‥‥」

　仙次郎は、佳代の腰を引き付けるようにして肉棒を突き刺していった。

「ングゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー‥‥‥‥アァァ、ッハァァァァァー‥‥‥」

　佳代の背が強く反り返った。

「ゥゥゥゥゥゥゥ‥‥‥ァァ‥‥‥ァ‥‥‥ァ‥‥‥ァァ‥‥‥‥」

　佳代は、低く、くぐもった獣のような声を上げ始めた。

（そろそろだな‥‥‥）

　仙次郎は、肉棒を完全に根元まで埋め込むと、そのままの状態で強く腰を当てていった。
　肉棒の先が佳代の蜜壷の最奥壁にあたり強烈な刺激が全身に伝わっていく。
　その時、佳代の全身が硬直した。

「ウッ‥‥‥ゥゥ‥‥‥‥ィ‥‥‥ィ‥‥イッ、クゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーッ！」

　佳代は、白目を剥きながら絶叫した。
　まるで痙攣しているように足が震え、立っている事もままならない。
　仙次郎は、軽々と佳代を支えて分身を放出させた。

「‥‥‥‥‥ゥ‥‥‥ゥゥ‥‥‥‥‥ゥゥゥ‥‥ぁ‥‥‥熱い‥‥‥熱いぃぃ‥‥‥」

　うわ言のように呟く佳代‥‥‥‥

「フゥゥゥー‥‥‥‥ナイスだぜ、佳代君‥‥‥」

　そう言いながら仙次郎は、ゆっくりと肉棒を引き抜いた。

　佳代は、ガックリと腰を落としてしゃがみ込んだ。
　仙次郎の放った分身が、静かに零れ落ちてくる。
　佳代は、壁に頬をつきながら放心状態になっていた。

　暫くして緊張が解けたのだろうか、無意識に佳代の失禁が始まった。

（‥‥‥ゲッ‥‥‥ま、またか‥‥‥‥）

　仙次郎は、急いでタオルを佳代の股間の下に敷いた。

（ヤレヤレ‥‥‥‥だから、ここではやりたくないんだよな‥‥‥‥）

　仙次郎は、衣服を整えると佳代に声を掛けた。

「佳代君、綺麗に掃除しておくんだぞ。」
「ぁぁ‥‥‥‥あ、‥‥‥‥はい‥‥‥‥‥ァァァァァ‥‥‥‥‥」

　虚ろな目で仙次郎を見つめながら荒い息を吐く佳代‥‥‥‥

　仙次郎は、口元だけで笑みを見せ、静かに部屋を出て行った。

（８７）

　応対室で煙草をふかしながら本を読む仙次郎‥‥‥‥
　暫くして、執務室から佳代が、下半身に何も身につけない姿で顔を出した。

「‥‥‥‥‥な‥‥‥コ、コラッ、佳代君、なんて格好で出てくるんだ。」
「だって、先生、替えのショーツがバックに入ってるから‥‥‥」
「せめて、隠してこいって。」
「いいじゃないですか、先生と二人だけなんだしぃ。」

　佳代は、そう言いながらヒップを揺らして仙次郎の前を通り過ぎていく。

「ったくっ！」

　仙次郎は、読んでいた本で佳代のヒップを叩いた。

「アァーン‥‥‥‥先生、スパンキングなら今夜‥‥‥」
「アホォォォー！　早く穿けっちゅーの。」

　佳代は舌を出しながらバックから新しいショーツを取り出した。
　わざと背を向け、仙次郎にヒップを突き出すようにしてショーツを穿いていく佳代‥‥‥‥

（‥‥オッ、いい眺めだな‥‥‥‥‥‥ん？　イカン、イカン‥‥‥‥）

　仙次郎は、慌てて視線をずらした。

　衣服を整えた佳代が、本を読む仙次郎の背後から抱きついてきた。

「先生ぇ、やっぱり素敵でしたぁ。」

　そう言いながら仙次郎の耳たぶに舌を這わす佳代‥‥‥‥

「ダァァァー、くすぐったいっちゅーに！」
「フフッ‥‥‥‥素直じゃないんだから。」

　佳代は、仙次郎の頬にキスをするとロッカーからモップを取り出し汚れている執務室の掃除をするため、再度、中に入っていった。

（‥‥‥‥ヤバイ‥‥‥‥‥非常にヤバイ‥‥‥‥）

　仙次郎は、佳代の後姿を見つめながら心の中で呟いた。

　佳代が、彼氏と別れることは恐らく間違いない。
　となると、佳代の欲求処理は、必然的に仙次郎に降りかかってくる。

（‥‥‥これは、困ったぞ‥‥‥‥‥早く、新しい彼氏を作らせないと‥‥‥）

　仙次郎は、溜息をつきながら２本目の煙草に火をつけた‥‥‥‥

☆☆☆☆☆

　仙次郎と佳代は、早めの昼食を済ませて部屋に戻ってきた。

「先生、ご馳走様でした。」
「ああ。‥‥‥しかし、よく食べるね君は。」
「ええ、先生の激しい責めでお腹すいちゃったから。」
「激しかったのは君だろうが‥‥‥」
「アハハ‥‥‥‥」

（‥‥‥ん？）

　ふと、仙次郎が前を見ると、ドアの前で、一人の女性が立っていた。
　二人に気づいた、その女性が仙次郎に頭を下げる。

　午前中に佳代が予約を受けた犬飼という女性だ。

「あの‥‥‥‥高輪‥‥‥先生‥‥‥‥‥ですか？」
「‥‥‥‥‥犬飼さんですね。」

　仙次郎の呼びかけに小さく頷く犬飼‥‥‥‥

「早いですね。正午のお約束でしたが‥‥‥」
「‥‥‥は、はい‥‥‥‥その‥‥‥‥心配で‥‥‥」
「心配？‥‥‥‥何がです。」
「いえ‥‥‥あ、あの‥‥‥本当に、ご相談にのってくれるかと。」
「‥‥‥‥‥‥‥私は、依頼を受けた方は必ず診ますよ。」
「‥‥‥‥あ‥‥す、すいません‥‥‥‥」

　妙にビクついた態度で応答する犬飼‥‥‥
　仙次郎は、そんな犬飼を既に観察し始めていた。

「まあ、中に入りましょう。」
「‥‥‥‥‥はい。」

　仙次郎は、犬飼を部屋に入れて話を聞くことにした。

　ソファに座る犬飼‥‥‥
　仙次郎は、犬飼の前に腰を降ろすと、プリントアウトした犬飼の社員データを読み始めた。

（‥‥‥‥特に、これといっておかしな所はないな‥‥‥）

　その時、ふと仙次郎の視線が担当長の所感の部分に止まった。

（‥‥‥ん？‥‥‥‥‥神経質なのか‥‥‥‥）

　担当長の所感には、犬飼の性格などが記されてあった。
　その内容は、過剰ともいえる潔癖症、自信喪失が多く見られ、何度も同じ質問や行動を繰り返すため業務効率が悪い部分が多々あると書かれていた。

（‥‥‥フーム‥‥‥なるほどねぇ‥‥‥‥神経的な異常がありそうだな。）

　仙次郎は、プリントをしまうと犬飼に声を掛けた。

「犬飼さん、それではお話をお聞きしましょうか。」
「‥‥‥‥はい‥‥‥あの‥‥‥」

　犬飼は、伏し目がちに仙次郎を見つめた。

「どうしました？‥‥‥‥」
「いえ‥‥‥‥‥その、私の性格というか‥‥‥‥‥つまり、治したいんです。」
「犬飼さん、何処をどう治したいのかをお聞きしないと‥‥‥‥」
「‥‥‥‥は、はい。」

　犬飼は、話し辛そうだった。
　仙次郎は、犬飼の心を読み安心させていく。

「犬飼さん、まず、私を信用する事から始まります。私は、貴女から聞いた話しを外に漏らしませんし、誰にも、その内容を話すようなことはしません。どうか安心して全て本当のことをお話ください。」
「‥‥‥‥‥は‥‥‥はい‥‥‥‥すみません‥‥‥‥」

　犬飼は、小さく深呼吸すると、ポツリポツリと話をし始めた。

「‥‥‥‥実は、私、異常なほど小さな物事に拘る癖がありまして。」
「拘る癖‥‥‥ですか？」
「はい。‥‥‥‥そうなんです。同僚からも、そして彼からも呆れられてて‥‥‥私、‥‥‥‥自分でも、どうしたらいいか判らなくて‥‥‥それが嫌で嫌で‥‥」
「具体的に聞かせていただけませんか。」
「はい‥‥‥‥例えば‥‥‥玄関の鍵をちゃんと掛けたかが気がかりで、ひと晩に何十回も玄関へ確認に行ったり‥‥‥彼とデートする前に、‥‥‥‥つまり‥‥‥‥その‥‥‥‥‥‥儀式的な振る舞いをしないと安心できなかったり‥‥‥‥」
「儀式的な？‥‥‥例えば、それはどういう事ですか？」
「その‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥あの‥‥‥‥」
「犬飼さん、正直にありのままに話してください。先ほども言いましたが、貴女から聞いた話は、私は絶対に外部には漏らすことはありませんので。」
「‥‥‥‥は‥‥‥‥はい‥‥‥‥すいません。」

　仙次郎は、犬飼の言葉を待った。

「‥‥‥その‥‥‥‥デートに出かける前に‥‥あの‥‥‥‥アソコを‥‥‥‥そのぅ‥‥‥‥」

　犬飼は、顔を真っ赤にして俯いた。

「アソコとは‥‥‥‥性器ですね。」
「‥‥‥ぁ‥‥‥‥‥‥‥‥‥そ‥‥‥‥その‥‥‥‥‥はい‥‥‥‥」
「それで、性器をどうするんですか？」
「‥‥‥‥つまり‥‥‥‥‥‥‥‥洗ってから出かけないと‥‥‥‥その‥‥‥‥気がすまないというか‥‥‥‥‥‥それを考えると‥‥‥‥‥何度も浴室に入っては‥‥‥‥」
「ふむ‥‥‥なるほどね‥‥‥でも、犬飼さん、そういう方は、よくいますよ。」
「ぇ？‥‥‥」
「ま、それは、後でお話しましょう。‥‥‥他には、ありますか？」
「え‥‥‥‥他に‥‥‥ですか？」
「それだけではないはずですよ。例えば会社では、どうでしょう？」
「ああ‥‥‥‥はい、よくあるのが‥‥上司に注意された言葉が、何度も何度も頭の中に浮かんでくるんです。それを抑える事ができなくなって、無意味に繰り返し呟いてる自分が居るんです。」
「ほぉぅ‥‥‥他には？」
「はい、何か一つの事をどうしてもやらずにはいられなかったりとか、何かの観念が、頭に浮かんできては離れなくなったりするんです。例えば、書類を何回も何回も確認せずにはいられなかったりとか。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「お手洗いに何時間も掛かったり、男性を見るたびに厭らしい観念が浮かんだりするような事もあります。」
「それは、彼にもあるのでは？」
「‥‥‥はぃ‥‥実は‥‥‥あの‥‥当然、彼とは身体の関係もあるのですが‥‥その‥‥‥彼が‥‥‥つまり‥‥‥フェ‥‥‥フェラチオ‥‥‥を‥‥‥きょ‥‥強要というか‥‥‥やってくれないかと‥‥‥言うんですけど‥‥‥‥お風呂に入ったあとでも‥‥‥‥‥そ‥‥‥その‥‥‥自分で拭かないと気が済まなくて。」

　犬飼は、恥しそうに仙次郎に答えた。

「そうですか‥‥‥‥好きな彼氏であっても、汚いというイメージを？」
「そうでも‥‥‥‥ないんですけど‥‥‥つまり‥‥‥‥何となく私の感覚でそうしないと、やってあげないという‥‥拘りというか‥‥‥癖というか‥‥」

　仙次郎は、犬飼の説明に頷きながらノートにペンを走らせていた。
　そして、パソコンを起動し、データを開いて内容を確認していく。

「犬飼さん、貴女は、軽度ではありますが、神経的な症状が見受けられますね。」
「ぇ‥‥‥あの‥‥‥やはり‥‥‥‥‥‥治さないと‥‥‥‥」
「まあ、当然、治すべきでしょう。」
「どういった‥‥‥つまリ‥‥‥‥私は‥‥‥‥」

　仙次郎は、モニターから視線を外して犬飼を見つめた。

「犬飼さん、貴女は、強迫神経症という病気です。」
「‥‥‥‥強迫神経症‥‥‥？？」
「ええ。他に貴女が、どういう癖や行動をするか当ててみましょうか？」

　犬飼は、半信半疑な表情で仙次郎を見つめた。

「わ‥‥‥‥私の‥‥ですか？」
「ええ。」

　仙次郎は、モニター映るデータを見ながら犬飼に話し始めた。

「まあ、代表的な強迫観念の例でもありますが、まず、自分を傷つけてしまうかもしれないという恐れ。反対に他人を傷つけてしまうかもしれないと言う恐れです。」
「え？」
「つまり、暴力的な、或いは、恐ろしい考えや場面が頭に浮かんで離れなかったりですとか、何か恐ろしい事件、そうですね‥‥‥例えば、放火や、強盗などが起こると自分が知らぬ間にそういう事を自分がしたのではないかと考えてしまったりしてしまうんですよ。」
「‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥」
「他には、尿や便に関する過剰な心配を持ったり、汚れやバイ菌に関する過剰な心配をしたり、有害廃棄物、放射能に関する過剰な心配ですとか、洗剤に関する過剰な心配、昆虫‥動物に関する過剰な嫌悪ですとかね。」
「‥‥‥‥‥せ‥‥‥先生‥‥‥‥ぁ‥‥‥あの‥‥‥」
「とにかく、常に心配が付きまとってしまう。違いますか？」
「‥‥‥‥お‥‥‥おっしゃるとおりです‥‥‥」
「貴女に聞いた説明を私が判断するに、軽いレベルでは、少なからず、どんな人でも経験していると思うんですよ。しかし、そうした強迫症状、例えば強迫行為、強迫観念、強迫衝動によって、生活していくことが困難になると、病気として治療しなくてはいけないので注意が必要です。」
「‥‥‥‥‥‥」
「この病気は、もともと几帳面だった人が、なりやすいような印象があります。特に、問題となっている強迫症状を除けば、普段の生活に支障はないことが多いんです。そして、強迫行動を繰り返す事に関して、自分でも馬鹿らしいと思っていても、やめることができない。やめたいけど、やめられないというジレンマ、辛さが強迫神経症にはあります。まあ、貴女もそうでしょうねぇ。」
「‥‥‥は‥‥‥はい。」
「つまり、貴女は、先ほど自身が言ったように、自分でもバカバカしいと思う考えや行為を繰り返して止める事ができなくなる病気なんですよ。つまり、強迫神経症です。自分自身をコントロールする事に没頭し時間を消費したり、勉強や会社での仕事の能率が落ちてしまったりしてしまう。」
「‥‥‥‥‥ぅぅ‥‥‥」
「周りの人が、貴女の強迫症状について話題にすると、かえって強まったり、また、無理やり止めると、そのために強い不安に襲われることがあります。」
「‥‥‥‥‥あの‥‥‥‥彼と居る時に、よくそういう事が‥‥‥‥‥」
「フフッ‥‥‥ちょっと私の想像ですが、それも当ててみましょうか。」
「ぇ‥‥‥」
「つまり、今言った例をとると、彼氏が貴女にフェラチオをしてくれと頼んだ。だが、貴女は、大好きな彼なのに自分が持つ固定観念が邪魔をし始めるんです。別に、本心では汚いと思ってはいないかもしれないけど、自分がもう一度、彼のモノを綺麗にしないと、してあげれないという観念、つまりここで言う癖です。」
「‥‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥」
「ところが、彼は、気分を害しますよね。」
「ぇ‥‥‥えぇ‥‥」
「彼は、一気に君に対しての性欲が低下していく。もういい、と彼に強く言われると、今度は、彼にフラれるんじゃないかという心配が急激に襲ってくる。違いますか？」
「ぁ‥‥‥‥ぃ‥‥‥ぃぇ‥‥‥そ‥‥‥そうです‥‥‥‥」

　犬飼は、全身が不安に襲われた。
　ハンカチを握る手が震えている。
　顔は、蒼ざめているのだが、額には汗をかいていた。

（まるっきり当たっている様だな。‥‥‥さて‥‥‥どうしたもんか‥‥‥）

　犬飼が、強迫神経症である事は間違いない。
　そこまでに至った経緯と生活習慣、そして性格を調べる必要があると考えた。

　仙次郎は、犬飼の表情を観察しながら対処と解決法を考え始めた。