（９６）

「あぁぁー、先生ぇ、凄い出てくるぅぅ‥‥‥‥」

　股間を覗きこんで、蜜壷から流れる分身をティッシュで受け取る佳代‥‥‥

「‥‥‥佳代君、もっと恥らいながらしたまえよ。」
「え？‥‥‥‥だって、先生の前だと何しても恥ずかしくないんですもの。」

　足を開いて、遠慮なく蜜と分身を拭き取る様子に仙次郎も呆れかえっていた。

（んー‥‥‥‥‥‥‥‥‥ま、いいか‥‥‥俺もスッキリしたし‥‥‥）

　身なりを整えた仙次郎は、デスクに向かって研究専門書を開いた。

　暫くして佳代が熱いコーヒーを運んでくる。

「どうですか、先生‥‥‥」
「んむ。久々にサディズムに関する資料を開いたが、やはり色々タイプがいるな。」
「そうなんですか。」
「ああ。」

　佳代は、仙次郎の前に座って一緒にコーヒーを飲み始めた。

「そういえば、先生、さっき、加藤補佐に説明している時にサディストは哲学を持っていると言っていましたけど、一体どういう意味なんですか。」
「そうだなぁ‥‥‥よく一体性的サディズムなどと気楽に言うけどサディズムと言う以上、それは、マルキ‥ド‥サド侯爵の作品や生涯を指していっているんだろうな。君は読んだことはないかい？」
「ええ。」
「まあ、サドとかマゾとかいうけど、小さい頃の影響と言うのは意外とあってね。」
「小さい頃からの？‥‥‥‥つまり兆候があると？」
「ああ。環境とか親のしつけも影響してくるね。」
「そういえば、少年犯罪でもそういう様なニュアンスで報道されてる事ありますね。」
「ああ。なぜ、そういう風になってしまうかは、専門的に研究されてるがな。」
「未成年でも、そういうようなサドとかマゾ的な犯罪ってあるんですか？」
「んー、つまり、なんと言うかな‥‥例でいうと、ほら、数年前に１２歳の少年が、小学生の男児を強制猥褻で殺人を犯しただろう。」
「ええ‥‥‥おぞましい事件でしたね。」
「この事件の内容を友人の心理学者に詳しく聞いた事があるんだが、この少年にも共通しているのは、自我肥大で、人でなしの哲学であると言えない事もないんだ。
　だが、これは所詮、虚構、想像の世界であって、現実は、身体の世界とは明瞭に区別されるがな。もしこのような人間が、サド侯爵のように、想像力を浪費して、自分のしたい限りの変態と犯罪を小説に書いたとしたら、その変態と犯罪自体に対する興味を失ったかも知れないんだよ。こういう思考を持った人間の想像力は、むしろ貧困といえる。この事件の１２歳の少年は、無垢な弱者である男の子を裸にし、性器をいじったり、はさみで傷つけ、逮捕されないために殺すことしか思いつかなかったのさ。だが、こういう類いの人間は、変態と犯罪のカタログは、サド侯爵の作品中のカタログに比べれば子供の遊びといえるくらい程度は低い。」
「へぇー‥‥‥‥そうなんですか。」
「ああ。もしこういう奴等が、現実に、サド侯爵のような作品中の変態と犯罪のカタログを見たら、反吐を吐いたかもしれないな、。奴等は作品中のサド侯爵のサディズムには及びもつかないんだ。性的サディズムなどという言葉を当てはめる程の人間ではないと解釈されるのさ。つまり、この１２歳の少年にしてもそうだが、通り魔弱者殺人犯とか、男児強制猥褻殺人とか言われ、つまり単に殺人犯なんだ。」
「でも、よく解らないけど、そういう思考が類似しているわけでしょ。」
「まあ、そう言えるかもしれないが、現実の身体あるサド侯爵は何をしたかという問題になると、作品中では、反吐の出るような変態と、犯罪のカタログを作ったサド侯爵も、身体ある現実の人間としては、娼婦を相手に、お金などを払って、乱交やアナルセックスをしたり催淫薬を私用したり、そして縛り、鞭打ちなどを行っただけで、人を殺したことはないんだよ。現実の性的サディズムとは、本来そういうものであり、それ以上のものではないし、ひどいケガをしたり、身体を壊しかねないという際どい部分もあるかもしれないが、お金などを対価に相手の自発性を前提にして行われる以上は、原理的な犯罪性はないと言えるだろうな。」
「現代のセックス産業に似てますね。流行のＳＭプレイと同じですか。」
「ああ、そうだな。」
「でも、報酬を対価として理解しているならしょうがないですよね。」
「プレーを見たり、実際に参加して目覚めてしまう場合もあるさ。」
「‥‥‥‥そうなんですか？」
「例えば、苦痛系のサディストは、鞭を打たれて苦痛を感じたり、熱いローソク垂らされて悲鳴を上げたり、吊るして息苦しさを味わったりな。また、視姦プレーでは、トイレに行かせないで、いわゆる、お漏らしをさせたりして、その反応が得られないと相手と自分が、接触しているという感じがしないんだろうさ。」
「なるほど‥‥‥」
「つまり、言葉とか態度や仕草などでは接触感がないんだ。相手の深層心理にコンタクトできていないと考えられる。相手の身体の苦痛による反応しか信じられないのさ。普通の人は、言葉や態度や仕草などで充分、相手と接触し相手の深層心理にも大体においてコンタクトしていると思っている。だから、わざわざ暴行紛いの苦しい行為ををさせてまで、相手に苦痛を与えようとは思わない。だが、苦痛系のサディストは、相手への授苦によってのみ接触を感じられるんだ。ところが苦痛系のマゾヒストは、その逆で両者は自発的に契約をしている。そして２人は親密に接触したという満足に浸るわけなのさ。」
「先生と私みたいなものですね。」
「ば、馬鹿者ぉっ！　満足するために君の要求をのんでるわけじゃないぞ。別にＳＭなんか、やらなくても、普通のセックスで十分満足できるからね。」
「デヘヘ‥‥‥」
「デヘヘじゃないっつーの‥‥‥」
「でも、先生、私、苦痛系ではないんですけどね。どちらかと言うと、縛られた方が感じるんです。」
「んむ‥‥‥‥‥奈落の樹里さんがそうさ。」
「樹里さんが？」
「ああ。彼女も君と一緒でサドではない。マゾだ。清七さんに縛られた樹里さんはすぐに目が潤み始めて顔が上気し始めるんだ。僕も目の前で見たが、性器も凄く濡れている。縛られて興奮し、快感を得られる女性は、間違いなく存在するのさ。」
「それは、私も認めます。フフフッ‥‥‥」
「僕も縛ったことあるし、清七さんも専門の緊縛師だが、別にサディストではない。あくまで、プレーの一貫だ。たぶん束縛系のサディストは、相手の身体の運動が自由であることが不安なんだよ。つまり所有感がない。相手に自分自身の欲望を逃避されたくなく、自分の欲望に反抗されたくないと考えている。だから完全に受動的になり、されるがままになって貰いたいと考えてしまうのさ。つまり本来、所有されない自由な存在である相手を所有する幻想と考えていいだろう。逆に束縛系のマゾ、つまり、樹里さんや君は、自分が欲望から逃げ、欲望に逆らう可能性を剥奪される事を望んでいる被所有の幻想だ。この場合もプレーする同士自発的に認め合っているから、２人は所有、被所有の満足に浸れる。解るかい？」
「ええ‥‥‥私と先生がそうですもね。」
「だから、違うっちゅーに‥‥‥」
「アハハ‥‥‥‥」
「真面目に聞けよ。」
「すいません‥‥‥‥。じゃ、さっきのような少年犯罪者が考えるサディスティックな思考とは違うという事ですか。」
「一概には違うと断言できないが、その思考を持ち続け、性に興味を持ち始めると、本物に成りかねんかもな。行動分析では、この少年の場合、小さくて力が弱い者、つまり年下への攻撃衝動が、適切に発散されずに、把握もされず、単に激しく抑圧されたために、その攻撃衝動が他の者への類比物に転移して普遍化し殺人を犯したことになったんだ。無垢な弱者殺人の衝動と、その実行があるだけなのさ。絶対権力支配のサディズムの可能性は、彼にもあるとは言えるかもしれないけど、サディストの想像力の浪費や思考には、勿論、遠く及ばないと言えるだろうね。」
「じゃ、本物のサディストが度を越えると凄く恐いですね。」
「まあな。」
「でも、なんで、その少年は、そんな行動をとったんですか？」
「この少年は、小さく弱い男の子の排泄用としてまどろんでいる性器に性交的な接触の欲望を強く感じたんだろう。裸にして性器をいじるというのは、そういう事さ。男のくせに同性の男児の性器に欲望を感じたというような批判ではないんだが、それは、性同一性障害というものであって、本人に苦悩をもたらすとしても、別に犯罪ではない。」
「‥‥‥‥互いが、理解しあっていれば？」
「そうではなく、排泄用の性器、これは、女の子の性器でも同じなんだが、これをまだその意志も能力もないのに強制によって性交用として扱い、彼曰く、１２歳の大人としての力と知恵によって強制的に男の子を裸にし性器を性交的にいじり傷害し、その上あろう事か殺害したことが許せない行動なんだ。まだ幼く、愛らしい４歳の男児、大多数の人間が自然に保護し手助けしなければと思ってしまう小さな男児を強制猥褻し殺害しただけだ。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「いわば、無垢で絶対的な弱者を弄び殺したという事実。少年が、刑務所に入れば、たぶん最も卑劣な犯罪者として犯罪者たちからさえ同害報復を受け弄ばれる事も有り得る。なぜ、司法関係者や教育関係者、マスメディアはこんな屑みたいな男に優しげなのかという批判もある。その倒錯に呆れ果てる者も多いだろう。つまり、彼らの言い分は、１２歳だから何なんだ。関係ない。他の１２歳の多くの子供は、誰もそんな事はしていないだろうと考えてしまう。」
「‥‥‥‥‥‥」
「ここにも絶対権力支配のサディズムのミニチュア版のようなものはあるのさ。しかし、この場合もサドの想像力の浪費には、もちろん遠く及ばないんだよ。」
「え？」
「ただの幼児強制猥褻殺人犯に過ぎないんだ。つまり、絶対的な断言は無理さ。だから、この少年に対し中途半端にサディズムなどと言うべきではないんだ。」
「そういうものですか‥‥‥」
「と、心理学的には、思うんだがね。」
「でも、先生、この子にとっては、一種の性欲なんでしょ。」
「勿論、そうなんだが‥‥‥‥漠然と悪戯をしていたいという段階から仮に性欲が高まってきたとすると、更に過激な方向に進んでいくんだ。この少年の場合は、性器を傷つける事で性的興奮を得ていたんだろう。この年齢では、性の対象が広く、程度の差はあるが性的倒錯があるがな。」
「じゃ、先生、本物のサディストって、一体どういう事がしたいんですか。」
「本物の、と言うのが説明しづらいんだが、さっき、君が度を越えると恐いと言ったが、そのプレー自体も変態じみてることが多いようだな。」
「例えば？」
「んー、そうだな‥‥‥‥スカトロなんかそうだ。」
「スカトロって、私が先生にするところを見せたような？」
「‥‥‥‥‥佳代君、僕と君の話はするなっつーの。」
「す‥‥‥すいません。」
「まあ、確かに、君の用を足す所を見ていたが、正確には、スカトロプレーとは言わないな。」
「そうなんですか？」
「あれは、視姦プレーと羞恥プレーだろう。排泄というのは、通常、他人に見せる物ではないし見られる事も恥ずかしい事だろう。その恥しい事を見られて快感を得る人間、つまりマゾヒスト的な要素を持った人だ。つまり、相手に対し羞恥を与えるのが目的と言えるだろうな。比較的、女性に多いのは確かだがね。つまり、最も恥しい部分を見せる事が出来るほど好きな相手であるとも言える。」
「じゃ、その‥‥‥本当のスカトロとは？」
「本当の、と言う意味ではないんだが、通常、強制的にという考えでいいと思う。浣腸させて、無理矢理、排出させたり、固定した人間の顔に直接掛けてしまう。或いは、食べさせるとかね。身体中に塗りつけて、いわゆる家畜扱いするとか。」
「気持ち悪ぅぅーい。」
「んむ、確かにな。」
「そういえば、先生、殺して射精する人がいるって聞いた事がありますよ。」
「ああ、いるね。特に欧米では、こういう犯罪が多い。屍姦というんだが、死んだ人間とセックスをするんだ。大体において精神異常であるがな。」
「それも気持ち悪いですね。」
「挿入中に首を締めて全身が緩締する感覚を好む者もいるし、肌を噛んで血を吸わないと射精できない者もいる。獣姦といって犬や動物でないと快感を得ることが困難という人間もいるんだ。こういう類いの連中は、サディストと言えるかもしれん。つまり、色々とセックスを経験した中でそれが、本人にとって一番、快感を得たプレーと認識してしまうんだよ。」
「‥‥‥‥気分が悪くなってきたわ。」
「今は、そういう情報が普通の人にも入るようになったし、興味本位で試す若者も多いようだ。特に、ソフトＳＭならいいという若い女性も多い。その感覚は本物と言うよりプレー思考だ。好きな彼氏が喜んでくれればと割り切っているんだろう。」
「そういえば、雑誌でもよく記事になっていますね。」
「んむ。だが、そういう情報も良し悪しだがね。」
「え？」
「例えば乱交だ。有名私大の学生がパーティーと称して女性を強姦したり一人の女性に対して何十人と言う男が代わる代わる交代で射精したり。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「だがね、そういう事をされたいという女性がいることも事実だ。」
「思考感覚が狂うんですか？」
「それもあるが、心理学で考査すると、そういう女性のほとんどが、私は、皆に喜ばれている。私の体に男たちが夢中になっているという優越感に浸るタイプだ。」
「へぇ‥‥‥」
「例えば、ストリップなんか典型だな。踊りながら性器を見せ、それを生唾を飲み込みながら、食い入るように見つめる客達。当然、ストリップ嬢は、優越感に浸るし、もっとそれ以上に注目されたいがために踊りや演技を研究して、来客する人を魅了しようと進化していく。それに対してプロ意識も持つ。」
「‥‥‥‥んー‥‥‥よく解ります。」
「彼女らの、そのような状態をスポットライトシンドロームと言うんだ。」
「でも、それはプロだからでしょ。」
「今は、素人の女性にもそれが浸透している。性を意識する普通の女性にとっては、最初は、躊躇したり恥しさもあって、なかなか溶け込む事が出来ないんだろう。しかし、慣れてしまうと見せたくなってくるんだ。そして、自分の性器を見て興奮したり、自慰する男性を見てエクスタシーを感じるようになってくるのさ。」
「露出プレーに似てますね。」
「誰しも注目される事に悪い気はしないさ。だが、その思考回路が狂うと‥‥‥危ない。」
「というと？」
「そういうプレーをしないと、生きているという実感が薄れていくんだ。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥ぇ？」
「つまり、精神的に異常が発生する。‥‥‥人間心理を無視するようになる。」
「‥‥‥‥‥こ‥‥‥恐いですね‥‥‥」
「ああ。‥‥‥まあ、サディストのタイプが色々あると言ったのはこういうわけさ。」
「それを、明日、加藤補佐に説明して奥さんの詳細を聞くんですね。」
「んむ。外見とセックスプレーだけでは、確実に判断できないんだよ。加藤さんの奥さんの性格、普段の行動と思考全てを聞かないとね。ただ断言は出来ないが、彼の奥さんはサドじゃないような気がする。」
「え‥‥‥なぜ、そう思うんですか？」
「先ほど話した少年犯罪の例をとってもそうなんだが、順を追って性の知識を得たものなら確信は出来るのだが、奥さんの行動を見ていると、俄か知識で適当にやっているようにしか思えないんだよ。つまり試しているような感じさ。」
「試してるって？」
「まあ、僕の勘だが、‥‥‥つまり、濡れるんだということをね。」
「どちらにしろ、明日は、大変な一日になりますね。」
「‥‥‥‥‥ふぅぅー‥‥‥これが、俺の仕事だからしょうがないさ。」

　大きく溜息をついた仙次郎は、佳代に真顔でそう答えた。

（９７）

　−　翌日　−

　加藤は、私服で仙次郎の部屋を訪れていた。

「加藤さん、お待たせしました。」

　仙次郎は、大量の資料を持って応対室に入ってきた。
　資料をテーブルに置きソファに座る仙次郎‥‥‥‥

「昨夜、遅くまで色々と調べておきました。なるべく今日中に加藤さんの奥さんの思考とタイプを判断したいと思います。」

　加藤は、テーブルに置かれた資料を見て仙次郎に礼を言った。

「‥‥‥‥‥先生‥‥‥本当に申し訳ありません。」
「なに、私の仕事ですからね。」
「‥‥‥‥‥恐れ入ります。」

　加藤は、済まなそうに頭を下げる。

「さて、それでは、早速ですが奥さんの話をお聞きしましょう。」
「はい。‥‥‥‥‥実は、昨夜、妻の方から話があると‥‥‥」
「離婚の話ですか？」
「ええ、純子君とは話がついたの。とか、どうなってるの‥‥‥と‥‥‥」
「そうですか‥‥‥‥まあ、それは、後からお聞きしましょう。」
「ぇ‥‥‥ぁ‥‥‥はい‥‥‥」
「それで、奥さんの過去を詳しく調べる事は出来ましたか？」
「はい。結婚してからの事は、私でもお話できますが、結婚前の事は、昨日のうちに妻の古い友人や、義父に内緒で話しを聞いておきました。」
「義父に？」
「さすがに義母には聞きにくいですし。ただ途中で妻が会社から帰ってきたので、あまり多くを聞く事は出来ませんでしたが。」
「‥‥‥そうですか。‥‥‥解りました。では、話していただけますか。」
「はい。‥‥‥‥昨日もお話しましたが、私との生活は、特に、これといって問題はありませんでした。唯一、セックスに関してだけです。‥‥‥非常に真面目で、結婚前も上司の評判は良かったように聞いています。家事も疎かにしないし、私の意見も尊重し、滅多に愚痴や文句も言われた事はありません。」
「ふむ、なるほど‥‥‥‥‥結婚１０年ということですね。失礼ですが、過去、何回、奥さんとセックスをしましたか？」
「それは、よく覚えていませんが、大体、月に一度は私が誘っていました。」
「奥さんから誘われた事はないんですね。」
「ええ、一度も。」
「私は、最初、話しを聞いた時に、奥さんが不感症だからと思いました。ところが、津谷さんとのプレーで、それは否定されてしまった訳です。」
「‥‥‥はい。‥‥‥‥それに結婚前は、そうでもなかったし‥‥‥‥」
「ふむ。と言うことは不感症ではないわけです。ただ、貴方とのプレーだけに限って濡れない。」
「‥‥‥‥ええ‥‥‥‥」
「失礼ですが、奥さんは、処女でしたか？」
「ええ、そうです。」
「‥‥‥‥他の男性とは付き合ったことはないんでしょうかね。」
「‥‥‥‥あの‥‥‥‥それこそ、妻の古い友人に聞いたのですが‥‥‥」
「何です。」
「大学時代に付き合っていた男性がいたようで。」
「ふむ、男性と付き合ったのは、貴方が、二人目と言う事ですか。」
「ええ。それは、私も妻から、直接、聞きましたので間違いないんですが、体の関係は、なかったようです。つまり、初体験は、私と‥‥‥‥‥。」
「なるほど‥‥‥‥かなり、遅かったんですね。」
「はい‥‥‥‥私も驚きましたが‥‥‥」
「付き合い始めた頃はどうでした？」
「ええ‥‥‥既に私は、妻との結婚を意識していましたし、彼女もそういう意味では私を好きでいてくれたと思います。」
「そうですか。‥‥‥奥さんは、どういう感じの人でしたか。」
「はい、何というか、自分で言うのもなんですが、妻は結構、男性に人気があって、しかし、何処となく、ツンとした態度に見られる事が多かったように思います。」
「男性を寄せ付けなかったと？」
「何と言うか、気品はあるのですが、お高くとまっていて、男性も近寄りがたいという感じを持っていたんじゃないでしょうか。そういう私もそうでしたから。声を掛けるのに勇気が要りました。」
「そうなんですか‥‥‥‥貴方から結婚したいと？」
「ええ。暫くして、プロポーズをしたんですが、即答で返事を貰って‥‥。」
「失礼な事をお聞きしますが、奥さんは、貴方の何処に惚れたのでしょう？」
「はぁ‥‥‥妻曰く、誠実だからと‥‥‥私を大事にしてくれる感じがするとか。まあ、私は嬉しくて、特にその時は、その言葉を深く考えませんでしたが。」
「なるほど、そうですか。」
「デートもいつもドキドキしてました。美人ですし、皆も羨ましがっていたので。ですが‥‥‥その、私もどちらかと言うと、内気な面があって手を繋ぐこともなかなか出来なかった思い出があります。なんというか‥‥嫌われそうで‥‥。」
「しかし、付き合いも長くなると、抱きたいという欲も出てくるでしょう。」
「確かにそうなんですが、妻も真面目でしたし、そういう意味では、性に関して素朴というか、セックスには、まるで興味がないような雰囲気はありました。だから、露骨にホテルに誘うとか、関係したい素振りは見せませんでしたが。」
「なるほど‥‥‥もしよければ、その時の奥さんの様子を聞かせてくれますか？」
「は‥‥‥はい‥‥‥とにかく、震えていました。私も、妻に嫌われないように丁寧に、そして慎重に抱いたんですが、さすがに挿入した時は、痛がりまして。」
「‥‥‥‥‥‥でしょうね。」
「とにかく、終わったあとに暫く何かを考えているような‥‥‥‥‥。」
「‥‥‥‥‥ん？‥‥‥」
「なんというか‥‥‥‥涙を浮かべていたんですが、急に微笑んだような気がしたんです。私が、そう言う風に見えただけかもしれませんけど。」

（‥‥‥‥微笑んだ？）

「なるほど‥‥‥‥その後は、定期的には、セックスは続かなかったんですか。」
「そうでもないですけど‥‥‥」
「あまり、なかった‥‥‥と？」
「いえ、全くしないという事ではありませんでしたし、昨日もお話しましたが、独身時代は、妻も濡れないという事はなく、スムーズに出来てはいたんです。」
「ただ、回数は、頻繁ではなかったんですね。」
「ええ‥‥‥‥処女でしたし、かなり最初に痛がっていましたので。私も、強引に誘うのも可哀相だと思いまして‥‥遠慮してました。それに、そんなに毎回、要求しても変態扱いされそうな気がして。」
「ハハハ‥‥‥別にそうとは思いませんが。」
「それでも、結婚までは、何回か、関係はしましたし、数回後には痛みも訴えなくなり、その何と言うか‥‥‥ごく普通には‥‥‥」
「ただ、奥さんからは要求はされなかった？」
「はい。でも嫌いとは言いませんでしたし、誘いも断わらなかったんです。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「しかし、最近は、変わってきて誘いこそしませんが、そう言う話を‥‥。」
「ふーむ、そうですか。‥‥‥‥‥‥‥では、津谷さんとのプレーもそうですが、そういう意味では、奥さんは、結婚してから性知識を得たと考えていい訳ですね。」
「私は、そう思うんですが‥‥‥」
「解りました。それでは、義父から聞いた話を聞かせてもらえますか？」
「はい。妻は、歳が離れた姉がいるのですが、その姉が、幼い頃から妻の面倒を見る事が多く、妻も姉を慕っており、お姉ちゃんっ子だったと言っていました。」
「いくつ離れているんですか？」
「１３です。」
「ほぉー、かなり離れていますね。」
「ええ。妻の両親は、共働きという事もあって、食事や身の回りの世話も。ほとんど姉がしていたようです。」
「ふむ‥‥‥あまり、両親とは、接触がなかったんですね？」
「ええ。義父が言うには、帰りが遅かったので妻と顔を合わすのは、朝食の時だけと言っていました。」
「なるほど。」
「しかし、義姉も非常にしっかりした人で、妻のしつけや勉強も
　きちんと見ていたようです。事実、妻は、勉強は小さい頃から良く出来たようで、学校での成績や態度も良かったと聞きました。」
「そうですか‥‥‥」
「ただ‥‥‥」
「ただ？」
「小学校６年の時に姉が婚約をして家族紹介のために自宅に彼氏を連れてきたらしいのです。当然、婚約者を家族を紹介しますよね。」
「まあ、そうですね。」
「その時から、口数が減り、家に篭りがちになる事が多くなったと言っていました。」

（‥‥‥‥！）

「‥‥‥‥そうですか。」

　仙次郎は、重要な部分をピックアップしノートに記していった。

「中学に入ると、男性に人気が出てきたようです。高校ではファンクラブなるものがあったそうで。」
「へぇー‥‥‥」
「しかし、特定のボーイフレンドは、特にいなかったと言っていました。クラブ活動もせず、家で本を読んでいることが多かったらしいんです。」
「引っ込み思案なんですか？」
「義父曰く、そうでもないらしいのですが。とにかく、姉が婚約してから、家に居ることが多く、友達と遊ぶ事も少なくなったと言っていましたが。」
「そうですか。‥‥‥‥奥さんのお姉さんに何か原因がありそうですね。」
「‥‥‥‥？‥‥そうでしょうか？」
「いわば、その時点で、奥さんの今の性格が出来上がってしまった感もします。」
「‥‥‥‥‥」

　淡々と話す仙次郎に加藤も戸惑いを隠せないようだ。

　それに気づく仙次郎‥‥‥‥‥

「加藤さん、軽はずみな言動ではないので誤解されないように。」
「ぁ‥‥‥す‥‥‥すいません‥‥‥‥‥」
「他には、気になった話はありませんでしたか？」
「ええ、実は、義父も言い難そうだったのですが、一度、妻の自慰を見た事があると。」「奥さんが‥‥‥ですか？」
「ええ‥‥‥‥高校時代らしいのですが、たまたま、義父が、妻の部屋の前を通ったら声が聞こえたらしくて‥‥‥‥‥勿論、直ぐに通り過ぎて、自分の部屋に戻ったらしいのですが。」
「なるほど‥‥‥ま、しかし、女性でも自慰くらいしますからね。」

（‥‥‥‥‥‥‥‥自慰は、してたのか‥‥‥‥）

　その後も、仙次郎は、泉美の性格や気になった行動等をこまめに記録していった。
　２時間あまり質問を繰り返しただろうか。
　泉美の性格、人間性、思考、趣味等をほぼ聞き出すことが出来た。

　泉美は、基本的に大人しく感情を自分の中に閉じ込めておく癖があるようだった。
　中学、高校と男性に人気があったということだが、泉美本人は、あまり男性に対し興味を示していない事も解る。

　大学では、工業デザイナーを目指し設計の勉強に集中していたようだが、榊原グループに入社してからは、デザイン系の設計を担当するようになり、気落ちしていた次期もあるという。
　しかし、仙次郎は、直接、今回の事とは関係がないと判断した。

「加藤さん、やはり今までの話しを聞いている分には、奥さんのお姉さんの事が、非常に気になりますね。」
「‥‥‥というと？」
「それまでは、明るくて、友達とも遊ぶ事が多く活発だったようですが、お姉さんが結婚して家を出てから性格がガラリと変わっています。さらに細かく分析すると、お姉さんが婚約者を家に連れてきてから心理的に揺れ動いているように思えます。」
「‥‥‥‥‥どういう事ですか？」
「こればかりは、私も解りませんが、例えば、大好きな姉を奪った婚約者を恨んだ、とか、その婚約者の男性に話し掛けられて、訳の解らない怒りを感じたとか。要するに、姉を取られたというショックが尾を引いてるような。」
「‥‥‥は‥‥‥はぁ‥‥‥」
「つまり、幼くても異性に対する考え方は、ませた部分を持っていますからね。」
「姉を恨んだと？」
「よくあるパターンが、裏切られたと錯覚してしまう事なんです。」
「‥‥‥‥そうですか。」

　仙次郎は、疲れた様子の加藤を気遣って酒を勧めてみた。

「加藤さん、ビールでも飲みましょうか？」
「え？‥‥‥‥ビ、ビール‥‥‥ですか‥‥‥」
「ええ。リラックスしましょう。まだ、加藤さんの記憶にあって、話してない事も思い出すかもしれませんし、疲れたでしょう？。」
「は、はぁ‥‥」
「今日は休みを取っていますし、いいじゃないですか。」
「‥‥‥わかりました‥‥‥では‥‥‥」

　仙次郎は、佳代にビールを運んでくるよう伝えた。
　煙草を咥えて火を点ける仙次郎‥‥‥‥
　加藤は、話題をもてあましたのか、仙次郎に他愛もない質問をしてきた。

「先生‥‥‥‥」
「はい。‥‥‥‥何でしょう？」
「先生は、昔からこういう仕事を？」
「ええ。大学で心理学を勉強していましたので。」
「‥‥‥そうですか‥‥‥どこかでカウンセリングを？」
「大学院を出て、アメリカでも研究をしていたんですが、帰国後、母校で数年間、教鞭をとっていたんですよ。」
「へぇ‥‥‥アメリカで。」
「主に、臨床心理学や精神心理学を勉強していました。元々は、対人心理や社会心理学が専門なんですけどね。」
「難しそうですね。」
「まあ、そうですね。しかし、人の心を解き明かすなんてのは本来おこがましいかもしれませんが、妙に取り付かれまして。」

　仙次郎は、笑顔でそう答えた。」

「何故、この会社に？」
「‥‥‥‥‥ある事件を起こしましてね。」
「‥‥‥え‥‥‥」
「ハハ、加害で服役していたんです。まあ、正当防衛だったんですけど、過剰防衛に問われまして‥‥その後、ここに引っ張ってもらいました。」
「そうなんですか‥‥‥‥すいません、変な事をお聞きしまして。」
「いいんですよ。」

　佳代が冷えたグラスにビールを注いでテーブルに運んできた。

「どうも‥‥‥」
「加藤さん、飲みながら話しましょう。」
「ええ‥‥」

　加藤は、グラスを手にとって一口喉に流し込んだ。

「それでは、加藤さん、昨夜の奥さんの話しをお聞きしましょうか。」
「‥‥‥はい。」

　加藤は、ビールを半分ほど空けると、困惑顔で話しを始めた。

「私が、義父に電話をしている最中に妻が帰ってきたんです。」
「津谷さんの事を聞かれたと言っていましたね。」
「ええ‥‥‥私は、まだ話は進展していないと答えたんです。」
「‥‥‥‥‥それで？」
「はい、妻は、相変わらず怒るわけでもなく、接する態度は優しくて控えめなんですが、明らかに５ヶ月前とは、様子が変わっていると気づきました。なんとなく小さな部分で、それを良く感じるんです。」
「ふむ‥‥‥なるほど。」
「昨日も、以前に増して優しくなったと言いましたけど、純子君と会うようになってからは、特に。それに自分の方からアダルトな話題をしてくるんです。
　これ知ってる？とか、こんなことした事ある？とか‥‥‥妙に性関係に対して興味を抱いているような素振りがあるんです。私の知らない事まで質問されて。」
「それは、津谷さんと、そういう関係になったから特に感じるんじゃないですか？」
「それもあるでしょうが、それ以来、妙な行動を‥‥‥」
「妙な行動とは？」
「ええ‥‥‥２週間ほど前なんですが、私の背広を着て鏡の前に立っていたんです。」
「‥‥‥‥‥」
「実は、昨日もなんですが、私は、離婚などするつもりはありませんし、何とか妻と元の生活に戻りたいと考えていたので、ベッドに入ってから妻に手を掛けたんです。」
「ほぉぅ‥‥‥‥」
「私は、てっきり断われるかと思ったのですが妻のほうが‥‥‥」
「‥‥‥どうしたんです。」
「ええ‥‥‥‥‥‥口でしてあげると‥‥‥」
「でも、それは、前からそうだと言っていましたよね。」
「ええ、しかし、以前は、必ず目を閉じながらしていたんですが、最近は、マジマジと私のものを見ながら、まるで手で弄ぶように‥‥‥私は、妻の股間に手を入れようとしたんですが、妻は、今日は口だけでと‥‥‥‥」
「ふむ‥‥‥断わられたんですね。」
「はい‥‥‥妻は、最後までしてくれたんですが‥‥‥‥‥‥‥その‥‥」
「‥‥‥‥‥‥言ってください。」
「は‥‥はぃ‥‥‥‥‥その‥‥妻は‥‥‥私も‥‥これが有ったらな、と‥‥‥」
「これがと言うのは、‥‥‥‥男性器のことですか。」
「‥‥‥はい‥‥‥そうです。‥‥‥‥‥いつまでも見つめながら口で‥‥‥‥」

（‥‥‥‥んーむ‥‥‥‥‥）

　仙次郎は腕を組んで考え込んだ。

（性同一性障害？‥‥‥‥しかし‥‥‥‥濡れないというのが引っ掛かるが‥‥‥）

　その時、加藤が小声で叫んだ。

「ぁ‥‥‥そういえば‥‥‥」
「‥‥‥どうしました。」
「変わった本を読んでいます。」
「どういう本ですか？」
「実は、今日持ってきたんですが、以前は、建築関係の本しか読んでいなかったのに。」
　そう言って加藤は、紙袋から数冊の本を取り出した。

「創世記とか、中世男女論とか‥‥それこそ、マルキ‥ド‥サドの翻訳版も。私が読んでも理解できないような本を結構、真剣に読んでることが多くて。少し、中身を覗いたら、それはもう過激な内容で驚いたので持ってきたんです。」
「‥‥‥‥‥‥そうですか‥‥‥‥」

　加藤の出した本を持ち、題名を読む仙次郎‥‥‥‥

（ほぉぅ‥‥‥中世男女論も読んでるのか‥‥‥）

「何故、急にそんな本を読み始めたのか解らなくて‥‥‥‥やはり、サディスト的なことに興味を持ったんでしょうか。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

　仙次郎は、現在の泉美の心理を推理した。

　高い確率で、加藤の妻、泉美はサディズムの知識を得ていると‥‥‥
　そして、非常に興味を持っていると確信した。

（こりゃ、加藤さんにも、詳しく教えてやらんといかんな‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、加藤にサディズムに関する、あらゆる話を聞かせることにした。