（１０２）

　仙次郎は、久しぶりに樹里のショーを見に奈落を訪れていた。

　まだ、出番前の樹里は、仙次郎とプライベートボックスで酒を飲みながら他愛もない話を繰り返していた。

「はい、仙次郎さん。」

　冷酒を仙次郎のグラスに注ぐ樹里‥‥‥

「お、ありがとう‥‥‥ところで、まだ出番じゃないのかい？」
「ええ、まだよ。先週から、ステージは１回だけになったの。」
「へぇぇー‥‥‥何で？」
「新しい子が、３人入ったのよ。私は、最後の１回だけなの。」
「なんだ、そうか‥‥‥‥せっかく、樹里ちゃんを見に来たのに待ってる間に酔っちゃいそうだな。」
「いいわよ。　私が介抱してあげるから。」
「え‥‥‥‥‥‥‥‥‥あ、いや、大丈夫、僕は、酒は強いから。」
「なによ、仙次郎さん、それぇ‥‥‥‥」
「はは‥‥‥‥変な意味ではないんだが‥‥‥」

　そう言って、ステージを見る仙次郎‥‥‥‥

「あ、仙次郎さん、彼女も新人の一人よ。‥‥‥エミーっていうの。２ヶ月前に、この店に入ったんだけど、よく頑張ってくれてるわ。」
「へぇー、綺麗な女性だね。」
「ええ。でも、彼女、性格が暗いのよ。」
「暗いとは？」
「なんというのかな‥‥‥笑わないし、口数も少ないし‥‥‥結構、お客さんには、あの暗いイメージが受けてるんだけど。」
「ほぉぅ‥‥‥」
「まあ、雇って正解だったわ。最初は、ビックリしたけどね。」
「ビックリって何が？」
「絶対に、ここを辞めないから１０００万貸してくださいって。」
「えぇっ‥‥‥それで、貸したのかい？」
「最初は、断わったんだけど、先週、貸したわ。まあ、頑張ってくれてるし、お客さんの受けも良いから。まあ、清ちゃんと相談したんだけど真面目だし、借用書も書かせたし保証人も親になってもらってるから大丈夫だろうと思って。」
「へぇー、しかし、樹里ちゃんも金持ちだね。」
「１０００万円程度なら、何てことないわよ。」

（１０００万円程度って‥‥‥‥‥‥一体、どういう金銭感覚してんだか‥‥‥）

　仙次郎は、ガックリとしながら呟いた。

「しかし、よく貸したもんだよ。」
「彼女、何か、悩み事を背負ってるような感じなのよ。どうしても、お金が、必要だからって言ってたわ。理由は聞かなかったけど、可哀相になっちゃってさ。」
「ふぅーん‥‥‥」
「それより、プレーは、過激で最高よ。」
「そうなのか‥‥‥‥」
「素人なんだけど、妙に板についてると言うか‥‥‥」
「ふぅーん‥‥‥‥」

　仙次郎は、樹里の話しを聞きながらステージに目を移した。

　ステージでは、後ろ手緊縛で縛られたエミーが、左右からスタッフに支えられていた。

　拍手と共に、女王ルックで現われた女性が登場すると左右のスタッフは、楽屋へと消えていく。
　真後ろから、エミーの乳房を掴み、鞭の柄で顎を突き上げる女王ルックの女‥‥‥

「あの女性は、リンダって言うの。若いけど本物のサディストなのよ。」
「ほぉぉー‥‥‥」
「彼女は、もうこの店に入って２年になるわ。半年間、休暇取っていたから、仙次郎さんが、彼女を見るのは初めてかもしれないけど。紹介しましょうか？」
「え？‥‥いいよ。」
「フフッ、恐いんでしょ、鞭で叩かれるのが。」
「‥‥‥‥‥‥‥」

　リンダは、真っ赤な皮製のビスチェとショーツ、そして真っ白のピンヒールブーツの姿でエミーの真後ろに立っている。
　化粧のせいもあるだろうが、表情は恐い。
　濃紺のアイシャドーと紫色のルージュ、鼻には、ルビーのピアスが填まっている。
　ビスチェから飛び出た両乳首にも同じくルビーのピアスが刺さっており、左右をチェーンでクロスさせていた。

「ほぉー‥‥‥絵になるね。」
「だから、本物ですもの。」
「あ‥‥‥そうか‥‥」

　リンダは、エミーの乳首を摘み上げた。

「ゥゥゥゥ‥‥‥」

　リンダは、エミーの片足を持ち上げ亀裂を客に見せ付けていく。

「ァァ‥‥‥‥ァァァ‥‥‥‥イヤァァー‥‥‥」

　リンダは、口元だけで笑みを見せるとエミーを座らせて座禅縛りを施した。
　リンダの手際のよさに客の拍手が響く。
　リンダは、そのまま、前のめりにすると、エミーは、自分の身体を頬と膝だけで支えて苦痛の声を上げた。

「ウググゥゥゥゥ‥‥‥」

　全く身動きが取れないエミー‥‥‥‥‥
　動けば頬や顎が痛み激痛が走っていく。

「‥‥‥‥ウグゥゥ‥‥‥ゥゥゥ‥‥‥‥」

　リンダが、手に持つ鞭でエミーのヒップを叩いた。

「ンッハァァァァァァァー‥‥‥」

　凄い音が店内に鳴り響いた。
　リンダは、ビスチェの胸に挟んでおいたゴム製の張り型を取ると皮製ショーツの股間に、それを装着した。
　まるで、男性の肉棒が勃起したようにそそり立っている。

　リンダは、その張り型を上下に擦りながらエミーの顔の前に膝をついた。
　エミーの髪を掴み上に上げるリンダ‥‥‥

「お舐めっ。」

　リンダはそう言って、腰を突き出した。

　エミーは、潤んだ目でリンダの股間に填まるゴム製の張り型を咥えていく‥‥‥‥

「ンムゥゥゥー‥‥‥」

　リンダは、鞭でエミーの背中を叩きながら腰を振り始めた。

「ングゥッ‥‥‥ンゥゥ‥‥‥ングググゥゥゥー‥‥」

　鞭を口で咥え、張り型をエミーの口に入れたまま、リンダは背中越しにエミーのヒップを掴んだ。
　ヒップを左右に広げてスタッフに頷くリンダ‥‥‥‥
　舞台が回り始めカウンターの周りをその状態で一周していく。

「‥‥‥‥ンムムゥゥ‥‥‥ンゥゥゥゥゥー‥‥‥」

　呻き声を上げるエミー‥‥‥
　元の位置に戻るとリンダは、エミーの口から張り型を抜いた。

「‥‥‥‥フグゥー‥‥‥フゥ、フゥ、フゥ‥‥‥」

　荒い息を吐きながら涙を流すエミー‥‥‥‥
　リンダとエミーの演技も迫真に迫っている。
　リンダは、エミーの腰の上に足を乗せて、唾液で光ったゴム製の張り型を満足気に擦りながら鋭い視線を客に放っていく。
　客は、その異様な光景に興奮気味だった。
　リンダが、再びエミーの真後ろに移動し膝を付いた。
　張り型を握り、エミーの蜜壷周りをゆっくりと撫でていく‥‥‥‥

「！‥‥‥ァァァァ‥‥‥イ、イヤァァァァァァー‥‥‥」

　エミーの悲鳴に客達も興奮を隠しきれない。

「こんなたっぷりと濡らしておきながら、嫌はないだろう‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥ゥゥゥ‥‥‥」

　リンダは、まるで男性の様な仕草で、エミーの腰を握った。

「さて、エミー‥‥ブチ込むよ。」

　リンダは、ゆっくりと先を挿入した。

「ァ‥‥‥‥ァヮヮ‥‥‥‥‥」

　リンダは、舌で唇を舐め上げると、鼻で気合を発しながら、張り型を強烈に挿入した。

「フッ！」
「ンアァァァァァァァァァァァァァァァァー‥‥‥‥‥‥」

　絶叫するエミー‥‥‥‥
　リンダは膝を上げ、エミーのヒップに腰を降ろした。
　客に結合部がよく見えるようにするためだった。
　太い張り型が、エミーの蜜壷に深々と挿し込まれている。
　男性客は、股間に手を当て、カップル客の女性らは、赤面しながらも身を捩じらせ興奮していた。
　リンダは、客の期待に応えるためピストン運動を始めた。

「グゥ‥‥グハァ‥‥‥ウングゥ‥‥‥ンゥゥゥー‥‥‥‥」

　挿されるたびに、呻き声を上げるエミー‥‥‥‥‥

「凄いでしょ？‥‥‥仙次郎さん。」

　隣でそう囁く樹里‥‥‥

「ああ。しかし、二人とも妖しい雰囲気をもっているね。」
「美人でしょぅ‥‥フフフッ。」
「そうだね。」
「でも、最近は、どんなお店に行っても可愛い子ばかりだけどね。」
「樹里ちゃんには失礼だけど、なんで、そんな綺麗な子が風俗に行くのかな？」
「さぁ。‥‥‥‥でも、殆んどの人が、お金が目的よ。」
「樹里ちゃんの場合は、ショーを見せるのが天命みたいだがね。フハハハ‥‥‥」
「仙次郎さん、変な言い方しないでよ。」
「いや、ゴメン、ゴメン。」
「でも、仙次郎さん、お金が目的じゃない子も居るのよ。」
「ん？」
「例えば、いまステージにいるリンダもそうよ。本物のサディストだけど、仮に、そう言う相手がいたとしても、しょっちゅう出来ないでしょ。」
「まあ、そうだろうね。」
「でも、こういう専門店に来れば毎日出来るじゃない。」
「なるほど‥‥‥」
「リンダは、お金要らないから雇ってくれって来たのよ。」
「へぇー‥‥‥凄いね。」
「今では、うちのスターよ。何だかんだいって、月に２００万稼ぐから。」

（‥‥‥に‥‥‥２００万‥‥‥）

　驚く仙次郎‥‥‥‥‥

「わかる気がする。」

　そう言ってステージに目を移す仙次郎‥‥‥
　ちょうどリンダは、エミーを昇天させた所だった。
　縄を解き仰向けに倒れるエミー‥‥‥
　リンダは、エミーの顔の前に跨り張り型を擦っていた。

「まだ、やるのかい？」

　そう質問する仙次郎に樹里は、笑いながら答えた。

「まあ、見てて。」

　仙次郎は、首を傾げながらステージを見た。
　リンダが、エミーの頬を手で掴み口をこじ開けている。
　リンダは、眉を寄せて荒い息を吐いていた。
　そして、張り型を口元に近づけると大声を上げて張り型を握り締めていく。

「ンォォォォォォォォォーッ！」

　その瞬間、張り型の先から真っ白な液体が放出し、エミーの口の中に注がれていった。
　歓声を上げる客達‥‥‥‥

「え？‥‥‥なんだ、あれ‥‥‥」

　樹里が笑いながら答えた。

「強く握ると中に入れてある液体が飛び出るようになっているの。あれは練乳よ。」
「そ‥‥‥そうなのか‥‥‥」
「ライトの関係で真っ白な練乳の方が、お客さんが見やすいのよ。」
「なるほどねぇ‥‥‥」
　
　客の唸り声に満足しながら、リンダは、腰を上げた。
　まるで男性が放った後のように足を開き握った張り型の亀頭部分をティッシュで拭き上げていく。
　リンダは、その拭いたティッシュをカウンターに向かって投げた。
　それを取ろうと客が殺到していく。

「あんな物が欲しいのかい？」

　仙次郎がそう言うと、樹里は、笑いながら返答した。

「あれを受け取ると、リンダが付けていた張り型をもらえるのよ。」
「‥‥‥あ、そう。」

　一人の客が、ティッシュを手に持ち高くそれを上げた。
　リンダは、クールな笑みを見せてショーツごと張り型を外した。
　客が一斉に歓声を上げる。
　それもそのはず、リンダの恥丘には、鮮やかな薔薇の刺青が施されていたのだ。

「おぉっ！　凄いねぇーっ。」
「私の真似をして刺青を入れたらしいわ。」
「へぇー‥‥」
「彼女、私の墨に憧れてるらしいの。それで、清ちゃんに頼んで入れたのよ。」
「そうなの‥‥‥」
「エミーと組ませたのは正解だったわ。」
「え‥‥‥？」
「お互い、まさにＳ＆Ｍだから‥‥‥ウフフ‥‥」
「ああ、なるほどね‥‥‥‥」

　リンダは、それを受け取った客の前で股間を付きつけ、蜜壷を開いて見せると妖しい視線をその客に放った。
　その場に殺到する客達‥‥‥

　リンダは、仙次郎と樹里のいるボックスに向かってウィンクを投げかけてきた。
　手を振る樹里‥‥‥‥

　仙次郎を見ながら不敵な笑いを見せるリンダ‥‥‥
　仙次郎は、おどけた表情でリンダに笑みを浮かべるとリンダは手でピストルの形を作って仙次郎を撃つ真似をした。

「フフッ‥‥‥仙次郎さん、リンダが私たちを見て妬いてるわよ。」
「おいおい、俺に鞭を振らないように言っておいてくれよ。」
「アハハハ‥‥‥」

　リンダは、客達に視線を戻すと舌で唇を一周し、ウィンクをしながら舞台から引き上げていった。

「いやぁー‥‥‥なかなか、よかったよ。」
「でしょ。」
「さてと‥‥‥」
「何処に行くの、仙次郎さん。」
「いや、楽しんだし、今日はこれで‥‥‥」

　樹里の目が吊りあがった。

「仙次郎さんっ！‥‥‥まだ、私のショーがあるでしょっ！」
「ぇ‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥そ‥‥‥そうだったね。」

　慌てて座りなおす仙次郎‥‥‥‥

「それに、終わっても帰さないわよ。」
「‥‥‥‥‥‥ま、まさか。」

　仙次郎を睨む樹里‥‥‥‥‥

「‥‥‥ハ‥‥‥ハハ‥‥‥ハハハ‥‥‥‥‥」
「じゃ、私、お化粧があるから‥‥‥終わったら楽屋に来てくださいね。」

　樹里は、仙次郎の頬にキスをして席を離れていった。

（‥‥‥‥‥‥‥‥樹里ちゃんに付き合うと朝になるんだよな‥‥‥）

　仙次郎は、ガックリと肩を落としながら、ヤケ気味に酒を呷っていった。

☆☆☆☆☆

−　翌朝　−

　仙次郎は、眠い目を擦りながら部屋に入っていった。

「あ、先生、おはようございまぁーす。」
「ぁぁ‥‥‥おはよう‥‥‥元気いいね‥‥」

　仙次郎は、ソファに座るとグッタリと背を持たれかけていく。

「佳代君、濃いコーヒーを入れてくれないかな。」
「はい。」

　煙草に火を点け深く吸い込んでく仙次郎‥‥‥‥
　昨夜の樹里との一戦で妙に腰に違和感があった。

（‥‥‥ふぅぅー‥‥‥あの時間に２発はきついな‥‥‥）

　仙次郎は、昨夜のことを思い出しながら凝った首を回した。

「はい、先生‥‥‥」

　佳代が、コーヒーを仙次郎の前に置いた。

「サンキュー。」

　佳代は、仙次郎の横に座ると股間を優しく撫でながら甘えた声を出してくる。

「先生、昨日で終わりましたぁ。‥‥‥‥‥ウフフッ‥‥‥‥」
「は？‥‥‥終わったって何が？」
「なに言ってるんですかぁー。ブルーだからエッチ出来ないって言ってたじゃないですか。」
「そうだったっけ？」
「先生って人の話しを聞いてませんね。」
「‥‥‥‥どうでもいいが‥‥‥‥で、終わったから何？」
「もぉぅっ、先生ったらぁ‥‥‥‥終わったらエッチしてくれるって言ったじゃないですか。」
「え？」

（‥‥‥‥そんな事、言ったかな‥‥‥‥）

「ねぇ‥‥先生ぇぇ‥‥‥」

　スカートを捲くって股間を仙次郎の足に擦りつけてくる佳代‥‥‥‥

「君は、やる事しか頭にないのかね？」

　佳代は、急に怒った顔をして立ち上がった。

「先生っ！　ちゃんと言いましたよね。ブルー終わった翌朝にここでしてやるって。」

　派手な刺繍を施したショーツを露にしたまま佳代は、腰に手を当てて仙次郎に絡んできた。

「その格好で言われても迫力を感じんぞ‥‥‥‥」
「え？‥‥‥あ‥‥‥」

　慌ててスカートを下ろす佳代‥‥‥

「先生、約束は守ってもらいますからね。」

　佳代は、そう言うと仙次郎の腰に跨って首にしがみ付いてくる。

「‥‥‥君と言う女は‥‥‥‥‥‥じゃ、夕方な。」
「えぇー‥‥‥夕方ですかぁ‥‥‥」
「そんな事より、いつになったら、彼氏を作るんだね‥‥‥‥」
「だって、縁がないですもの。」
「この会社に幾らでもいるだろう。これだけの社員がいるんだから。」
「でも、一日中、この部屋の中じゃないですか。」
「声を掛けられないのかい？」
「ええ、まったく。」
「おかしいなぁ。君は美人でスタイルもいいし、それにエッチだし、モテる様な気もするが。」
「エッチは余分ですって。」
「いや、条件的には満点の女性だぞ。」
「そうですか‥‥‥アハハ‥‥‥‥‥‥って、先生、話をそらさないで下さい。」
「別にそらしていないが‥‥‥‥。よし、今度、僕が探しておいてやるよ。」
「いいです。自分で探しますから。‥‥‥それより先生ぇ‥‥」

　しつこく迫る佳代‥‥‥

「今日は、やっぱキャンセルだ。」
「えぇぇぇぇぇぇぇーっ！」
「大袈裟な声出すなっつーの‥‥‥」
「当たり前ですよ。もぅ、オ○ンコのお汁が止まりません。」

（オ、オ○ンコの汁って‥‥‥‥‥‥‥どうしようもならんな‥‥‥）

「先生ぇぇ‥‥‥‥」
「諦めないね、君は‥‥‥‥」

　仙次郎は、何とか佳代を鎮める方法を考えた。

（‥‥‥‥！‥‥‥そうだ！‥‥‥）

「佳代君。今度の週末に船に乗せてやるから我慢しろって。」
「船？」
「クルーザーさ。豪華だぜ。ちゃんとベッドルームもあるし。キッチン、トイレ、寝室、リビングと完全フル装備なんだ。」
「本当ですかっ！」

　佳代の顔が見る見るうちに明るくなっていく。

「ああ。超セクシーな下着を穿いてきてくれ。酒を飲みながら‥‥クククッ‥‥」
「わかりましたぁー‥‥‥ウフフッ、楽しみだなぁ。」

　どうやら佳代の機嫌が直ったようだ。
　仙次郎もホッっと溜息をつきながら残りのコーヒーを口にしていく。
　その時ドアを勢いよく開けて洋平が入ってきた。

「仙次郎っ、いるかぁっ！」
「洋平か‥‥‥相変わらずノックせんな。」

（‥‥‥‥‥‥‥よかった‥‥‥‥佳代君とやってなくて‥‥‥）

　ヅカヅカと入ってくるなり、ソファに座って声を荒げた。

「仙次郎、また、手伝ってくれっ！」
「‥‥‥‥お前な‥‥‥まず、ノックをして返事をしてから中に入って来い。」
「え‥‥‥‥何で？‥‥‥‥俺と、お前の仲だろ。」
「そう言う問題じゃないっ。」
「なんだ、川島君を襲ってる現場を見られるとやばいか？」
「アホォォォーッ！」
「フハハハ、冗談、冗談‥‥‥」

（‥‥‥‥ありえる話だがな‥‥‥‥）

「で、何だ、手伝いって？」

　仙次郎の言葉に、洋平は、急に真剣な顔になった。

「実は、うちの女性社員に暴力を振るってる奴がいてな。」
「暴力？」
「ああ。」

（また、厄介な話じゃねーだろうな‥‥‥‥）

　仙次郎は、襲う睡魔を我慢しながら洋平の話を聞く事にした。