（１１）

「へぇぇー‥‥‥そんなに忙しいの？」
「ああ‥‥‥楽と思って引き受けたのが大間違いだった。」

　仙次郎は、亜希子を乗せてヨットハーバーに車を走らせていた。
　今週から始めた仕事の内容を亜希子に話しながらステアリングを軽快に切っている。

「でも、生活に張りが出来ていいじゃない。」
「俺は違う所で張りを出したかったんだが。」

　亜希子が、ムッっとした顔で仙次郎の股間を指で弾いた。

「アダダッ‥‥‥‥じょ、冗談だって‥‥‥‥」
「フンッ、どうだか‥‥‥」

（‥‥‥‥クッ、クッ‥‥‥‥相変わらずなやつだ‥‥‥‥‥）

　仙次郎は、横目で亜希子を見ながら、アクセルに乗せる足に力を入れていった。

☆☆☆☆☆

　ヨットハーバーに停留した仙次郎のクルーザーが海面に降ろされた。
　水面を揺らしながら、大型のクルーザーはその姿を悠々と現している。

　全長２０メートル５千馬力超の仙次郎のクルーザー、ブルーホークだ。

　亜希子が、目を丸くしながら仙次郎に問い掛けた。

「ど‥‥‥どうしたの‥‥‥これ‥‥‥」
「達也から貰ったんだ。」
「えぇーっ‥‥‥‥も‥‥‥‥貰った？」
「ああ‥‥‥要らないから乗ってくれってな。」
「乗ってくれって‥‥‥そんな簡単に‥‥‥ち、ちなみに‥‥いくらするの？」
「んー‥‥‥２億とか言ってたな。」
「に‥‥‥‥‥２‥‥‥‥億‥‥‥‥‥そ、それって‥‥‥‥‥お金？」
「ま、そんなことはいい。乗ろうぜ。」

　仙次郎はステンレスのラダーを掛けてクルーザーに乗り込んだ。
　亜希子の手を引っ張り、デッキに引っ張り込む。

「うわぁぁ、広いぃぃ‥‥‥‥素敵ぃぃーっ‥‥‥‥」

　大喜びする亜希子をよそ目に操舵室に乗り込んでいく仙次郎‥‥‥

　レーダーやオートパイロットも当然ついておりコンピューターにより事故回避装置は当然ながら、水深、座礁等も調べることができる。
　船内内部は、絨毯を敷き詰めた広いサロンにオーナーズルームもあり２つのトイレと寝室、大理石のシャワールームと浴槽など高級マンションを思わせる内装だった。

「キャァァー、最高ぉぉー‥‥‥素敵過ぎるぅぅっ！」

　亜希子は、船内の内装を見て感激していた。

「亜希子っ、キャビンに出てろ。動かすぞ。」
「え？‥‥‥‥‥あ、うん。」
「沖に出たら自動操縦に切り替えるから、暫く風を楽しんでてくれ。」

　そう言うと、仙次郎はメインスイッチをいれエンジンを掛けた。
　軽い振動と共に重低音のエンジンが唸りを上げていく。

　スターティングランプが赤から緑に点灯した。

「行くぜ、亜希子‥‥‥」
「やっほぉー！」

　ブルーホークは、先艇を上げながらゆっくりと沖に向かって進み始めた。
　真っ青な空と海、暖かい陽気で亜希子の気分も最高だった。

　波を切り、水飛沫をあげながらブルーホークは豪快に海に踊り出ていった。

　時速にして、約５０キロのスピードで３０分ほど進んだだろうか‥‥‥‥
　仙次郎は、自動操縦に切り替えてキャビンに下りていく。

　亜希子が、仙次郎に振り向いた。

「仙ちゃん、最高の気分よっ！」
「そっか‥‥‥‥亜希子、サロンの冷蔵庫からビールを持ってきてくれ。」
「了解っ！　キャプテンッ。」

　仙次郎は、キャビンに備え付けられているオークのラブチェアに腰を降ろした。

　亜希子が、缶ビールを持ってキャビンに戻ってきた。
　仙次郎の隣に腰掛け、ビールの栓を抜いて手渡した。　

「サンキュー。」

　亜希子も自分の分を抜くと、仙次郎が持つ缶ビールに合わせた後、口に運んでいった。

「んー‥‥‥美味しいわ‥‥‥こういうところで飲むと味も格別ね。」
「ああ‥‥‥ツマミは、真っ青な海と空だ。」
「‥‥‥そして、私は、仙ちゃん‥‥‥‥フフッ‥‥‥」

　仙次郎は、優しい笑みを浮かべながら亜希子の肩に手を回して引き寄せた。
　亜希子は仙次郎の肩に頭を乗せていく。

「仙ちゃん‥‥‥こういう二人の時間‥‥‥私、大切にしたいゎ。」
「‥‥‥‥‥そうだな。」

　仙次郎は、ビールを喉に流しながら囁いた。

「亜希子、俺と一緒に暮らせばいいのに。」

　亜希子が、柔らかな笑みを見せながら瞼を閉じていく。

「そうね‥‥‥‥でも、一緒に生活すると私が狂っちゃうもの。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「私ね‥‥‥離れているから、仙ちゃんのことがよく見えるの。仙ちゃんの妻だったころは、いつもハラハラドキドキしてた。でもね、今は、冷静になれるし仙ちゃんの事を思う気持ちがその頃の２倍、いえ３倍にもなったわ。心の底から愛してる。」

　仙次郎は、亜希子の言わんとしている事が十分に理解できた。
　いくら仲が良くても、小言は少なからずある。
　生活の中で食い違いも出てくる。

　亜希子は、仙次郎に、とことん愛されたいから、そして、人生の全てを掛けて愛したいから離れていたいのだ。
　そう、それが亜希子の考え方と性格なのだった。

「‥‥‥‥わかった。」

　亜希子は、仙次郎の頬にキスをしながら囁いた。

「二人が、次に一緒に暮らすときは、真愛が沸点に到達したときよ。」
「‥‥‥‥ククッ‥‥‥‥亜希子‥‥‥お前、覚えていたか。」

　仙次郎は、亜希子と離婚をしたときの会話を思い出していた。

≪仙ちゃん‥‥‥‥‥解って‥‥‥‥私、気が狂いそうなの。≫

≪‥‥‥亜希子‥‥‥何故？‥‥‥‥俺に気を使ってるからか？≫

≪違う‥‥‥違うわ。‥‥‥‥≫

≪なら、どうして？≫

≪仙ちゃんの愛に溺れそうなの‥‥‥‥‥そうすると私は駄目になる。絶対っ。≫

≪‥‥‥‥亜希子‥‥‥‥解った。‥‥‥‥十分に解ったよ。≫

≪‥‥‥ゴメンね、仙ちゃん‥‥‥‥でも、でも私は死ぬまで貴方の物‥‥‥‥離れて暮らしても、仙ちゃんとは、毎日、会いたいし、抱いて欲しい‥‥‥‥≫

≪‥‥‥女ってのは、不思議な生き物だな。‥‥‥‥俺も、まだ勉強が必要だ。≫

≪‥‥‥‥心理学博士さん、貴方の女性学の永遠テーマね‥‥‥‥≫

≪‥‥‥‥チェッ‥‥‥‥ま、そうかもな‥‥‥‥‥‥‥≫

≪私は、仙ちゃんとは、夫婦以上の関係でありたいの。≫

≪‥‥‥‥‥‥ああ、俺もだ。≫

≪‥‥‥いつか、また‥‥‥仙ちゃんと暮らす時が来る‥‥‥‥そうよね。≫

≪よし、じゃぁ‥‥‥‥‥俺とお前の愛が沸点に到達したらな。≫

≪ええ。‥‥‥‥仙ちゃん、全身全霊を込めて‥‥‥‥貴方を愛してるわ。≫

　仙次郎は、思い出し笑いをしていた。

「なにが可笑しいの？」
「ぁ‥‥‥いや‥‥‥‥」
仙次郎は、はぐらかすように、肩を組んでいた手を亜希子の胸の谷間に滑らせていった
「‥‥‥‥‥もぉぅ、仙ちゃんったら。」
　指が亜希子の乳首を挟んで巧みに転がしていく。
「‥‥‥ァァァ‥‥‥‥アンッ‥‥‥‥気持ちいぃぃ‥‥‥」
　亜希子は自ら胸を肌けて仙次郎の指の動きを助けた。
「ん？‥‥‥今日はやけに大胆だな。」
「だって、こういう場所って開放的になるじゃない。」
「ま、確かに‥‥‥‥‥‥‥そうだ、亜希子、全部脱ごうぜ。」
「‥‥‥‥ウフフッ‥‥‥そうね。」
　亜希子は、仙次郎の手を払うと着ている服を脱ぎ始めた。
「仙ちゃんも脱いで。」
「ああ。」
　青い風景に亜希子の白い肌がマッチしていく。
　真っ裸になった二人は、優しく抱き合った。

　自然と唇が重なっていく。
　仙次郎のディープで、亜希子は、一気に燃え上がっていく。

　仙次郎は、亜希子を抱いたままチェアに腰を降ろした。
　亜希子は、優しく仙次郎の手を振り解き股間に跪くと肉棒を咥えていった。
　仙次郎を見つめながら舌を巧みに駆使していく。
「んーむ‥‥‥‥相変わらず上手いな。」
　亜希子は、妖艶な視線を仙次郎に投げかけていた。
「亜希子‥‥‥跨がれよ。」
　亜希子は、肉棒から口を離すと仙次郎に背を向けながら腰に跨っていった。
「‥‥‥ァァ‥‥‥アンッ‥‥‥‥‥ァァァァ‥‥‥」
　完全に肉棒を蜜壷に埋没させると亜希子は仙次郎にもたれかかっていった。
　仙次郎は、後から亜希子の乳房を掴み優しく揉んでいく‥‥‥‥
「ァァァ‥‥‥‥仙ちゃん、なんか‥‥‥物凄く気持ちいいんだけど‥‥‥‥」
「ククッ‥‥‥たまには、こういうところでやるのも新鮮でいいな。」
　仙次郎は、乳首を指で挟みながら乳房を揺すっていった。
「ゥゥゥ‥‥‥‥‥ァァァ‥‥‥‥イィィィィー‥‥‥」
　亜希子は、腰を回転させながら肉棒が壁に当たる心地よさを満喫していく。
　次第に二人の結合部から湿った摩擦音が漏れ始めた。
「ゥゥゥ‥‥‥仙ちゃん‥‥‥‥‥気持ちいぃぃ‥‥‥‥」
　亜希子は、自ら女芯を擦って感度を上げていた。
　溢れ出す蜜は、既に仙次郎の袋部分にまで到達している。
　閃光のように照らす陽が瞼を閉じていても眩しく感じた。
　波で揺れる感触と爽やかな風‥‥‥‥
　そして、なによりも、仙次郎に身体を預け征服されているという快感が、亜希子の艶淫さを増長させていく。
「クフゥゥゥゥゥゥゥゥー‥‥‥‥‥アァ、、、、、イィィィィィィィー‥‥‥‥」
　亜希子は、チェアに足を乗せて自ら上下運動を始めた。
　後手に仙次郎の肩を掴み、見え隠れする肉棒を身体を屈めながら見入っている。

　仙次郎は、前のめりに倒れないよう亜希子の腰を支え同じく結合部を眺めていた。
　肉棒が、亜希子の蜜でグッショリと濡れ滾っていた。
　太陽の陽が蜜に反射し妖しい光をおびている‥‥‥‥

「アンゥゥゥゥゥ‥‥‥ウフゥッゥゥゥゥゥゥー‥‥‥‥」
　そして、肉棒が埋まるたびに亜希子の形の良いヒップがセクシーに歪んでいった。
「ァァァ‥‥‥‥‥仙ちゃん‥‥‥‥仙ちゃん、イキッ‥‥イキソッ‥‥‥‥」
「亜希子‥‥‥まだだ‥‥‥‥‥」
　仙次郎は、亜希子を引き寄せて立ち上がった。
　亜希子に挿入したまま、仙次郎はキャビンの最先端まで歩いていく。
　亜希子は、爪先立ちで顔を顰めながら誘導されていった。

　手すりに捕まる亜希子。
　仙次郎は、亜希子のウェストを左右から掴みスライドを開始した。
「ンアァァァッァァァァァァァァー‥‥‥‥」
　膝を軽く曲げてヒップを突き出す亜希子‥‥‥‥
　仙次郎の突き上げに合わせてヒップを当てていく。
「ンアァァッ‥‥‥あ‥‥当たる‥‥‥奥に当たるぅぅぅぅぅーっ！」
　カウンターのような感じで強い衝撃が蜜壷の壁を刺激していった。
　口を大きく開け、仙次郎に振り向く亜希子‥‥‥
　眉を顰め、目は潤んでいる。

　亜希子の背中が大きく沿った。
　括れたウェストと美しく伸びる女性特有のシルエットラインが仙次郎の股間を一層、痺れさせた。
「亜希子‥‥‥‥そろそろ‥‥‥‥」
「わ‥‥‥‥‥私も‥‥‥‥‥‥ぁぁ‥‥‥も、もう‥‥‥‥駄目、駄目よぉっ！」
「いくぜっ！」
「ァァァァ‥‥アァァァ‥‥‥ングッ‥‥‥せ、仙ちゃぁぁぁぁぁぁーんっ！」
　亜希子のヒップから首筋に掛けて一気に鳥肌が浮かび上がった。
　強い締め付けで肉棒に悲鳴を上げさせていく。
　仙次郎の熱い分身が、勢いよく壁に当たっていった。
「ゥゥゥゥゥ‥‥‥‥‥‥た‥‥‥たまんなぁ‥‥ぃぃ‥‥‥‥ァァァ‥‥‥‥」
　仙次郎が大きく溜息をついて肉棒を引き抜いた。
　しゃがみ込む亜希子‥‥‥‥

　蜜壷からは、仙次郎の分身がゆっくりと姿を現わした。
　手すりに顔を預け余韻を楽しむ亜希子‥‥‥‥
「仙ちゃん‥‥‥‥‥大好きっ‥‥‥」
「‥‥‥‥亜希子‥‥‥‥お前は、最高だ‥‥‥‥‥」
　仙次郎は、そう言うと亜希子の背中を包み込むように被さっていった。

（１２）

　船内のサロンでは、亜希子の絶叫がこだましていた。
「ンアァァァァァァー！‥‥‥‥仙ちゃぁぁんっ‥‥‥もっと‥‥‥もっとぉぉっ！」
　亜希子は、自ら蜜壷を左右に大きく開いて悶え狂ったかのように首を振っている。
　既に３回も昇天したにも関わらず、貧欲さは全く衰えなかった。
　サロンのソファは、亜希子の流した蜜と潮でびっしょりと濡れていた。
「ハゥ‥‥‥ァァ‥‥クッ、フゥゥ‥‥‥ィ‥‥ィィ‥‥‥‥」
「亜希子‥‥‥激しすぎるぞ。」
「ィ、イヤッ‥‥‥せ‥‥‥‥仙ちゃん‥‥‥キスしてぇぇ‥‥‥‥‥ぁぁ‥‥」
　両手を差し伸べてキスをせがむ亜希子‥‥‥‥
　仙次郎は、亜希子の上体を起こし腰の上に抱え込んだ。

　蛇の様に舌を強引に絡めてくる亜希子‥‥‥
　仙次郎は、亜希子の舌を巧みにかわし舌根を刺激していく。
「アクゥゥゥゥゥー‥‥‥‥」
　亜希子の唇の淵から涎が垂れていく。
　それと同時に蜜壷内部の動きが、微妙に変化した。
　肉襞の糜爛が仙次郎の肉棒を摩擦していく。
「クッ‥‥‥亜希子‥‥‥‥」
　まるで蜜壷の中で舌が這っているようだった。
　肉棒を吸い込む強さも徐々に増していく‥‥‥‥‥
　仙次郎は、後に手を回し亜希子の菊門に指を入れた。
「アッハァァッァァァァァァァァァァァァー‥‥‥‥‥」
　食い千切られるのではと思うほど蜜壷が締まっていく。
　仙次郎は亜希子の全身を激しく揺すりながら腰を突き上げた。
「ウアァッ‥‥も‥‥もう‥‥‥イ、イヤァッ‥‥イックゥゥゥゥゥゥゥゥー！」
　全身を激しく痙攣させる亜希子‥‥‥‥
　首にしがみ付き歯を仙次郎の肩に当てた。
「ンゥゥゥゥゥゥゥゥ‥‥‥‥ゥッ‥‥‥‥ゥッ‥‥‥‥ゥゥ‥‥‥‥」
　仙次郎は、静かに亜希子をソファに倒して入った。
　グッタリと横たわる亜希子‥‥‥
　仙次郎が、肉棒をゆっくりと引き抜くと同時に亜希子が、余韻を味わいながら身体を震わせていた。

☆☆☆☆☆

　仙次郎のキャデラックが、亜希子のマンション前に止まった。
「仙ちゃん、今日はありがとう。楽しかったわ。」
「ああ、また電話してくれ。」
「うん。」

　亜希子は、助手席のドアを開けて外に出た。
　足が、少々ふらついている。
「おい、大丈夫か？」
「‥‥‥フフフッ‥‥‥仙ちゃん、激しかったから。」
「それは、お前だろうが。」
「アハハッ‥‥‥また鍛えておくわ。」
「仕事も忙しいんだろう。ジムも程々にしておけよ。」
「ええ。」
「じゃな‥‥‥亜希子‥‥‥」
「オヤスミ、仙ちゃん。」
　仙次郎は、軽く手を上げて亜希子の前から走り去って入った。

（仙ちゃん‥‥‥‥‥絶対に私を離さないでね‥‥‥‥‥‥）

　亜希子の心奥に、先ほどまで仙次郎の車に流れていた
　ジャズミュージックが流れ出した。

≪What Are You Doing The Rest Of Your Life? ≫

　これからの人生、何かご予定はおあり？

　あなたの人生の東西南北、どんな風に過ごすつもり？

　あなたの人生に、一つだけ注文があるの。

　それは人生の全てを、私と一緒に過ごして欲しいということ。

　あなたの日々の全ての季節も、全ての時間も、あなたの日々の、こまごましたありきたりの事々も、あなたの日々の、生きている意味や理由も、全て、私と共に始め、私と共に終えて欲しいの。

　私はありとあらゆる種類の光の中にいるあなたの顔を見ていたいの。

　夜明けの野辺でも、夜の森の中でも。

　そしてあなたがバースデー‥ケーキの上のキャンドルの前で祈る時、心の中で願いごとを言う声を聞ける、たった一人の人間でいさせて欲しいの。

　そんな日々は、あなたの目の奥深くで目覚めるのを待っている。

　あなたの目の中にしまわれている愛の世界の中で、今はまだ眠っているものを、私はきっと目覚めさせてみせるわ。

　ひとつかふたつキスをすれば、きっとそれは目覚めるわ。

　私の生涯をふり返った時、私の人生の春夏秋冬、全ての季節をふり返った時、

「いつもあなたと一緒だった人生」を、私に思い出させて欲しいの。

　亜希子は、心地良い疲れを感じながらマンションの中に入っていった‥‥‥‥

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−　翌月　−

　仙次郎と佳代は、１月余り、多忙な日々を送っていた。
　名倉の相談以降、一向に相談者が減らないほどの状態だったのだがつい先日、やっと当初の落ち着きを取り戻していた。

「先生、とりあえず前半の予約を消化しましたね。」
「長かったな、佳代君‥‥‥」
「でも、今年１年分、全て予定は埋まっていますので。」
「ま、調整して入れたから、この１ヶ月のような忙しさは無いだろう。」
「ええ。そうですね。‥‥‥‥‥‥‥‥ところで、先生、何読んでるんですか？」
　佳代は、仙次郎が手に持つ分厚い本を覗き込んだ。全てが外国語である。
「見るかい？」
　仙次郎は、本を佳代に手渡した。
　ページを捲る佳代‥‥‥‥
「‥‥！す‥‥‥凄い‥‥‥‥こ、これ‥‥‥先生‥‥‥」
　モノクロではあるが、女性が縛られたり、拷問にあっている写真が、たくさん載っていた。
「こういう事も勉強するのさ。」
「‥‥‥ど、どうしてですか？」
「佳代君、人間の悩みの８割は、ほとんどが性と体に関する事ばかりなんだ。ただ性といっても性交だけではなく、性器の悩みとか性感などもそうだ。」
「‥‥‥‥は、はぁ‥‥‥」
「特に女性の場合に多いが、自分の性スタイルに気づかず悩みを持つ人が多い。つまり、気づかないんだろうな。」
「気づかないって？」
「んー‥‥‥‥例を言うとサドやマゾだな。普通のノーマルセックスで十分に幸福感を得る人もいれば、過激なプレーで、もっと辱めを受けないと満足感がないとか、反対に男性に対し女王様的なプレーをしないと燃えないとかだ。」
「‥‥‥なんとなく‥‥‥解ります‥‥‥が‥‥‥」
「つまり、この本は、ただの拷問や過激プレーが載っているだけじゃないんだよ。これは、中世期に行われた拷問なんだが、色々な女性に対して、これを行った記録とその女性の精神状態や様子が事細かく書かれている。つまり拷問されて苦痛なはずなのに、意識とは別に快感を得てしまっていたり、快感を表現して、悦びを訴える女性達を書い本で、性的究明に近い拷問書なんだ。もっと詳しく言うと性に対する女性心理を説いているんだ。これを読むと原点が理解できる。」
「具体的には‥‥‥‥‥」
「んーっ、例えばだな‥‥‥露出をさせられて、激しく興奮するとか、自分の裸つまり性器を見せて、それを見る男性の表情を伺い激しく快感を得る人とか。」
「見せたがりやって事ですか？」
「ああ、それ以外にも拘束して犯して欲しい。つまり、そうしてくれないと果てる事が出来ない女性とかね。当然、男性にも、そういう人間はいる。」
「‥‥‥‥なるほど‥‥‥普通、そんなこと聞けないから。」
「ああ、だから、相手の心理や性格を読み取って、こちらから、敢えてアドバイスをしてやるんだ。」
　佳代は、仙次郎の話が理にかなった説明であると感じていた。

「佳代君、そういえば、まだ君と食事に入ってなかったな‥‥‥‥今夜どうだい？」
「本当ですかっ？　はいっ、ぜぇぇぇぇーったいに行きます。」
「ハハ‥‥‥好きなもの食ってくれ。」
「先生、私を食べてもいいですよ。」
　佳代も仙次郎の性格に慣れてきたのだろう。
　恥しがる事もなく平気で、自分の気持ちを曝け出すようになっていた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥な‥‥‥‥何、言ってんだい。」
　佳代が、膨れっ面で仙次郎を睨む‥‥‥‥
「‥‥‥先生、私に魅力を感じ無いんですか？これでも身体には自信あるんです。」
「いや、そういう問題じゃなくて‥‥‥‥その‥‥つまり、離婚はしてるが、元妻とは今でも‥‥その‥‥‥だな‥‥」
「安心してください。　結婚してくれなんて言いませんから。」
「‥‥‥しかしな‥‥‥その‥‥‥なんだ‥‥‥つまり俺は‥‥‥‥変態に近いぞ。」
「変態、大ぁぁーぃ好きっ。私、普通のセックスに飽きてるんです。」
「‥‥‥‥‥‥君の言う、普通のセックスって？」
「私の今付き合ってる彼って、正常位だけで、それに１分もたたないで果てちゃうんです。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ハ、ハハ‥‥‥‥そりゃ、気の毒に‥‥‥」
「早漏なんですよぉ。私、イッたことがなくて‥‥‥」
「でも、付き合った男性は、一人だけじゃないんだろ。」
「男運も悪いんです。長持ちしても、ただ腰振ってるだけで‥‥痛くって。」
　仙次郎は苦笑いをしながら佳代を見ていた。

「しかし、俺がそうだとも限らんじゃないか。」
「いえ、先生は、そんなこと無いと思います。今まで相談にきた女性の説明を聞いていても、お話は繊細ですし、性に関する研究もされていたようだし。」
「必要だから勉強しただけで、それを実践してるわけじゃないさ。」
「とにかく‥‥‥‥」
「ああぁー、わかった、わかった‥‥‥‥‥体調がよければな。」
「体調良ければって‥‥‥‥‥」
　仙次郎は、コーヒーを啜りながら資料を見始めた。

（‥‥‥‥もぉぉーっ‥‥‥‥何となく、はぐらかされた感じだわ‥‥‥）

　佳代は、悪戯心が湧いてきた。

（そうだっ！）

　佳代は、膝上まであるスカートを捲ってショーツを露出させると仙次郎を呼んだ。
「先生‥‥‥」
　振り向く仙次郎‥‥‥‥‥
「ん？！‥‥‥‥ブフォー‥‥‥ゲホッ‥‥‥ゴホッ‥‥‥‥」
　勢いよくコーヒーを吐き出す仙次郎‥‥‥‥
「え！‥‥あぁぁぁー、先生、大丈夫ですかっ！」
　慌てて仙次郎の背中を擦る佳代‥‥‥‥
　スカートは、まだ捲れ上がったままだ。

　仙次郎は、屈み込んで激しく咳き込んでいる。
　顔の直ぐ横には、佳代の濃紺のレースショーツがあった。
　仙次郎は、何気に視線を向けて、それを見ると佳代が、ショーツを裏返しに穿いている事に気づく。
　仙次郎は、驚きから笑いに変化し、更に一層咳き込んで入った。
「ガハァーッ、ゲホッ、ゲホッ‥‥‥‥‥」
「どうなちゃったんですか？‥‥‥‥そんなにビックリしなくても‥‥‥」

　普通に声を掛けてくる佳代に、もはや仙次郎の笑いは限度を超えていった。
　気管支に入ったコーヒーの刺激で胸が苦しくなる仙次郎‥‥‥‥
　激しい笑いで息を吸う事も出来ない。

（‥‥‥ウグッ‥‥‥ぐ‥‥‥苦じぃ‥‥‥ヤ‥‥‥ヤバイ‥‥‥‥）

「‥‥‥‥み‥‥‥‥み‥‥‥‥‥み、水‥‥‥‥‥を‥‥‥‥‥」
「えっ？‥‥‥‥ぁ、は‥‥‥はい。」

　佳代は、急いで水をグラスに入れて仙次郎に手渡した。
　ゆっくりと、口に運んでいく仙次郎‥‥‥‥‥
　やっとの事で咳を止める事が出来た。

「‥‥‥‥ふぅぅぅー‥‥‥息が止まるかと思った。笑いながら死んだとあっては、末代までの恥だぜ。」
「笑いながら？‥‥‥‥先生、私の下着見て笑ってたんですか？」
　ムスっとした表情で仙次郎に問いただす佳代‥‥‥‥
「佳代君、今朝よっぽど慌てたのかどうかは知らないが、ショーツが裏返しだよ。」
「ぇ？‥‥‥‥」
　まだ、捲くれ上がったままのスカートの上から下着を見る佳代‥‥‥
「‥‥‥！‥‥‥ぁ‥‥‥あぁぁぁぁー‥‥‥ヤダァァァー‥‥‥」
　佳代は、慌ててスカートを降ろすと部屋を飛び出して入った。
　再度、笑い出す仙次郎‥‥‥‥

（今まで気づかなかったが、彼女は、意外とユニークな女性だな。）

　仙次郎は、思い出し笑いをしながら零れたコーヒーを拭き始めた‥‥‥‥‥‥‥