（１１２）

　−　翌朝　−

　仙次郎は、タクシーで美優を自宅マンションに送っていた。

「少し、寄って行く？」
「いや、帰るよ。‥‥‥‥ゆっくり寝たい。」
「フフッ‥‥‥私が甘えすぎちゃったかしら。」
「‥‥‥ククッ‥‥‥まあな。」
「ゆっくり休んで。」
「ああ。」

　タクシーのドアを閉める美優‥‥‥‥

　美優は、これ以上ない優しい笑みを浮かべると仙次郎に手を振って見送った。

☆☆☆☆☆

　タクシーから降りた仙次郎は、大きな欠伸をしながらエントランスに向かった。

　部屋ボタンを押し、ＩＤカードを差し込もうとしたとき背後から声が掛かった。

「仙ちゃん‥‥‥‥‥」

　振り向く仙次郎‥‥‥

「亜希子‥‥‥‥」

　ホールに備え付けの椅子から立ち上がって亜希子が仙次郎に歩み寄ってきた。

「‥‥‥‥どうした？‥‥‥‥俺を待っていたのか？」
「‥‥‥‥うん‥‥‥‥ルームチャイムを押したんだけど留守だったから帰ろうとしたんだけど、もうちょっと待ってようと思って‥‥‥‥‥。」
「携帯に電話をすればいいのに‥‥‥‥」
「うん‥‥‥‥」

　仙次郎は、亜希子の様子を窺った。

（‥‥‥‥なにか、あったか‥‥‥‥）

　亜希子は、妙に落ち着かない様子だった。

「どうした？」
「ぇ‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥うん‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥まあ、いいさ。部屋に来いよ。」
「うん。」

　仙次郎は、ＩＤカードを抜いてエレベーターホールに向かった。

/ / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /

　部屋に上がった仙次郎は、亜希子をソファに座らせた。

「いま、コーヒー入れてやるから待ってろ。」
「うん。」

　湯を沸かしながら豆を挽く仙次郎‥‥‥‥
　亜希子は、疲れた様子で部屋の壁に視線を投げている。

　ドリップを済まし、二つのカップを手で持って仙次郎はリビングに足を運んだ。
　コーヒーをテーブルに置く仙次郎‥‥‥‥

「‥‥‥‥ありがとう‥‥‥」
「どうした。さっきから元気が無いな。」
「‥‥‥‥‥仙ちゃん‥‥‥‥‥」

　言葉が途切れる亜希子‥‥‥‥
　仙次郎は、直ぐに増田の事と解った。

「‥‥‥‥‥‥亜希子‥‥‥増田さんのことか？」
「ぇ？‥‥‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥‥な、なんで‥‥‥」
「‥‥‥昨日の夕方、駅前の噴水のところでお前が立っているところを見たんだ。」
「‥‥‥‥あ‥‥‥あそこに居たの‥‥‥仙ちゃん‥‥‥」
「ああ。」
「‥‥‥声を掛けてくれればよかったのに。」
「掛けようと思った時に、増田さんが現われたんだ。お前の肩に手を掛けて直ぐに歩いていったからさ。」
「‥‥‥‥‥そ‥‥‥そうだったの‥‥‥‥」
「いま、帰ってきたのか？」
「‥‥‥え？‥‥‥‥なんで‥‥‥‥」
「いや、昨日と同じ服を着てるからさ。」

　仙次郎に見透かされたと思ったのか、寂しそうに俯く亜希子‥‥‥‥‥

「‥‥‥‥仙ちゃんには、嘘つくつもり無いわ。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥あの‥‥‥」
「‥‥‥ん？」
「増田さんが、独身って事は知ってるでしょ。」
「‥‥‥‥ああ。」
「‥‥‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥あの‥‥‥‥」

　言葉に詰まる亜希子‥‥‥‥‥

「プロポーズされたのか？」

　ビクっと肩を震わせる亜希子‥‥‥‥

「‥‥‥‥私‥‥‥‥私‥‥‥‥何度も仙ちゃんに言ってきたけど、世界中で一番愛してる。‥‥‥それは、これからも変わらないわ。」

　その言葉に、仙次郎の脳がフル回転し、亜希子の言わんとする事をすぐさま理解していく。

「‥‥‥‥‥増田さんのプロポーズを迷ってるって訳か。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

　亜希子は、慎重に返答する言葉を考えているようだった。

「何があっても仙ちゃんは、私の全てよ。そして、私の全ても仙ちゃん‥‥‥貴方のもの‥‥‥それは紛れもない事実よ。」

（‥‥‥‥‥？）

「亜希子‥‥‥‥詳しく話してみろ。」

　亜希子は、コーヒーを一口啜ると、少々間を置いてから話を始めた。

「‥‥‥仙ちゃん‥‥‥私が、仙ちゃんと離婚する前から増田さんとは、公の立場で会ってた事は知ってるでしょ。」
「ああ‥‥‥亜希子の研究指導者だからな。」
「‥‥‥ええ。‥‥‥‥生物学では、日本でも第一人者だし、私も、そう言う意味では‥‥‥‥尊敬している人だから。」
「‥‥‥ふむ‥‥‥」
「とても、真面目な方だし‥‥‥‥人間的にも立派な方だわ。」
「ああ、俺も解るよ。」
「‥‥‥‥え？」
「お前が言う事は、今まで間違いが無かった‥‥‥だから、そう思うんだ。」
「‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥ありがとう‥‥‥」

　小声でそう囁く亜希子‥‥‥‥

「それで？」
「‥‥‥初めて、増田さんと関係したのは、研究グループに入って、２ヶ月くらいしてからだった。‥‥‥‥仙ちゃんと離れ離れで暮らしてて‥‥‥いつも家に帰ると一人ぼっちで‥‥何で、何で離婚たんだろうと、毎日後悔してた。寂しくて、抱いて欲しくて‥‥‥‥私は、増田さんには、恋愛感情なんて抱いていなかった。‥‥たぶん‥‥‥たぶん、それは、現在もそうじゃないかと思うの。」
「‥‥‥‥‥？」
「私は、増田さんに抱かれてても、‥‥‥いつも仙ちゃんを思い浮かべていた。‥‥‥‥仙ちゃんとダブらせていたの。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「増田さんは、多分、それを解っていたんじゃないかなと思う。‥‥‥‥でも‥‥‥だとしたら、私を誘う理由というのは、私を抱きたいだけだからって疑問に思ったこともあったわ。‥‥そう思っていながらも、誘いを断わる事が出来なかった。‥‥‥‥何故だか、自分でも、それは解らなかった。‥‥‥‥でも、思ったの‥‥‥間違いなく、‥‥‥‥増田さんは、私を好きでいてくれてる。‥‥それなのに、それなのに‥‥‥私は、もしかしたら、増田さんに酷い事をしてるんじゃないかって。」
「‥‥‥‥‥‥なるほど‥‥‥‥」
「‥‥‥‥私の言ってる意味が解る？」
「ああ‥‥‥良く解るね。」

　怪訝そうに仙次郎を見つめる亜希子‥‥‥‥

「亜希子‥‥‥お前は、増田さんに対し恋愛感情は無いと言った。それは、まだ、俺という存在が、お前から消えていないからだ。‥‥‥‥だが、仕事の忙しさもあるし、なかなか俺と会えない寂しさに、脳と身体が、縛り付けの生活に麻痺されていった。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「尊敬する学者と一緒に仕事をするというのは、研究者の憧れだ。お前は、何度か増田さんと関係をして、彼の思いや話を聞き、そして増田さん自身の気持ちを打ち明けられてきた。おそらく、その時点では、人間の持つ慈悲的感覚が、お前を襲っっていた。
　‥‥‥‥だが、俺と言う存在がいる現状では、それ以上の関係を望んでいなかった。‥‥‥そう言いたいんだろう。違うかな？」
「‥‥‥‥‥‥ぇ‥‥‥ええ。」
「ところが、ここ最近、妙に亜希子自身の思考性に変化が出てきた。自分でも全く解らない感情が行動と一致しなくなってきた。‥‥‥そうじゃないのか？」
「‥‥‥‥‥せ‥‥‥‥仙ちゃん‥‥‥」
「そして、昨夜‥‥‥遂に、増田さんにプロポーズされた。‥‥‥‥‥まあ、彼にとっては、おかしくは無いだろう。お前に、夫が居る訳ではないし、お互いが独身なんだから。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥お前は、多分、増田さんのプロポーズで心が揺さぶられた。‥‥‥‥俺の事を好きと言うのは間違いないだろう。だが‥‥‥‥‥」
「‥‥‥だが‥‥‥‥‥なに？」
「‥‥‥‥‥増田さんという人間にも、心を惹かれ始めたのでは？　という疑問が、お前を襲い始めたんじゃないか？　だから悩んでる。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「亜希子‥‥‥‥こういう思いは、人間にとって非常に苦しい悩みだ。」
「‥‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥あの‥‥‥」
「つまり‥‥‥‥俺には、どうする事もできない。」
「で、でも‥‥‥」
「いいか。俺は、お前が好きだ。‥‥‥‥‥そう、お前と同様に愛を感じている。‥‥‥‥‥当然、それは、お前も同じだろう。だが、お前の持つ別次元の感情で、それを増田さんにも感じ始めている。となると、俺はどうする事も出来ないんだ。」
「‥‥‥‥‥別次元って‥‥‥」
「増田さんを好きになる素を持っているということさ。」
「‥‥‥‥あの‥‥‥だから、仙ちゃんが‥‥‥‥」
「増田さんとは付き合うな。って、言って欲しいのか？」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「亜希子‥‥‥‥心理を研究する専門的な立場から言わせて貰おう。‥‥‥‥‥‥仮にそう言ったとしても、その感情を断ち切ることが出来ないのが人間の弱さなんだ。無理に増田さんとの関係を俺が断ち切ったとしても、一生しこりが残る。いや後悔してしまうぞ。」
「‥‥‥‥‥じゃ‥‥‥じゃ、どうすれば‥‥‥‥」
「愛の選択を決断するほど難しいものはない。‥‥‥つまり、俺から言える事は、俺と増田さんを対称にした時に、愛と言う次元を超えた思考が出来るかどうかだ。だから、だから、俺が、お前と増田さんの関係を解決するなんて事は無理なんだ。」
「仙ちゃんが‥‥‥‥関係を切れって言っても、私は、切らないだろうと言う事？」
「‥‥‥‥切るかもしれない。‥‥‥でも、しこりが残るといってるんだ。」
「‥‥‥私は‥‥‥‥」
「しこりを残したまま、俺と普通に愛を語れるか？」
「‥‥そ‥‥‥‥それは‥‥‥‥」

　亜希子は、涙を浮かべて仙次郎をジッと見つめていた。

「‥‥‥‥亜希子‥‥‥‥後から人生を後悔したくなければ、今、とことん悩め。」
「‥‥‥‥ぇ？‥‥‥」
「いま、お前の話を聞いて、いや、正確にいうと、昨日、増田さんと歩いている姿を見て‥‥‥俺も、訳の解らない不安が過ぎったよ。」
「‥‥‥‥仙ちゃん‥‥‥‥」
「愛を誓った男と女でも、平穏無事に一生など終われるなんて稀さ。どこかで、一度や二度は、こういう壁にぶち当たるのが普通だ。俺と、お前にとっては、今回が、離婚の時以来、二度目の壁だな。」

　じっと、仙次郎の話を聞いていた亜希子‥‥‥

　亜希子は、仙次郎の言わんとする内容が痛いほどわかった。

「わかった‥‥‥‥わかったわ、仙ちゃん。悩んで、悩んで、悩み貫いてみる。」
「‥‥‥そうしろ。‥‥‥苦しい悩みも、探検すべき一つの世界だ。ある意味、人生で経験することのできる、一つの要素だからな。」
「‥‥‥ええ‥‥‥」
「避けられない悩みや苦しみは、しっかり味わって、克服するのが心理上、最も適した方法なんだから。」
「‥‥‥‥うん。」

　亜希子は、涙を拭って仙次郎に問いただした。

「‥‥‥‥‥仙ちゃん、一つだけ聞かせて。」
「ん？」
「仙ちゃん、私の事を好き？」
「ああ、もちろんだ。」
「もし‥‥‥もし、仮に仙ちゃんと、一生離れる事になったとしても仙ちゃんの記憶の中から、私の存在が消える事は‥‥‥絶対にない？」
「当然だ。」

　亜希子は、瞬間、ホッっとした表情を浮かべると、小声で囁くように言い放った。

「何度も言うわ。‥‥‥‥‥私は、私は、仙ちゃんが居てこその私‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥ああ‥‥‥‥よく、解ってる。」
「仙ちゃん、ありがとう‥‥‥‥‥話してよかった。」
「‥‥‥俺も聞いてよかったよ。」

　亜希子は、冷めたコーヒーを飲み干すと、軽く笑顔を浮かべて立ち上がった。

「行くわ。‥‥‥‥学会の資料をまとめないと。」
「送ってくよ。」
「うぅん‥‥‥‥いい。‥‥‥‥一人で考えながら帰りたいの。」
「‥‥‥‥そうか‥‥‥‥」
「‥‥‥‥仙ちゃん‥‥‥‥」
「ん‥‥‥‥なんだ？」
「何があっても、どんな事になっても‥‥‥最後まで私を見てて‥‥‥」
「解った‥‥‥‥そうしよう。」

　亜希子は、仙次郎の頬にキスをすると、ゆっくりとした足取りで部屋を出て行った。

　後姿を見つめる仙次郎‥‥‥‥

（‥‥‥亜希子‥‥‥‥お前の思いは、間違いではない‥‥‥だがな‥‥‥）

　仙次郎は、それ以上考える事を止めた。

　亜希子が出て行ったドアが閉まる音と共に、仙次郎は、深い哀感を全身に感じていった。

（１１３）

　バスに乗った亜希子は、外の景色を見ながら仙次郎の言葉を繰り返していた。

【避けられない悩みや苦しみは、しっかり味わって、克服するのが心理上、最も適した方法なんだから。】

　無造作に心の中でそれを繰り返す亜希子‥‥‥‥

（‥‥‥‥‥‥克服か‥‥‥‥‥私に出来るのかな‥‥‥‥）

　亜希子は、停車した緑地公園の前でバスから降りる事にした。

　園内に足を踏み入れる亜希子‥‥‥‥‥
　公園から自宅は、さほど遠くはない。
　亜希子は、そのまま遊歩道に入り、歩いて自宅に帰る事にした。

　周りに映える木々や花を見ながら、亜希子は、ゆっくりと足を進めていく。

（‥‥‥そういえば、仙ちゃんと結婚した頃、よくここを歩いたっけ‥‥‥‥）

　亜希子は、仙次郎との結婚当時を思い浮かべながら、懐かしむように景色を見渡した。

　小さな丘を下ると池を囲むようにして雑木林が群がる場所に踊り出た。
　いくつかのベンチが設置されている。
　亜希子は、一息つこうと池の辺近くにあるベンチに腰掛けた。

　精神的な疲れなのか、背をもたれると自然に瞼が閉じていく。

（‥‥‥‥‥‥‥なんで‥‥‥なんで、こうなるんだろう‥‥‥）

　自分自身、頭の整理が、なかなかつかないでいた。
　理由も無く、昨夜の増田との事が頭に浮かんでくる。

【亜希子君、食事はどうだった？】

【ええ‥‥‥‥とても美味しかったです。】

　亜希子は、ホテルのレストランで、食事を済まし、増田の予約した部屋の一室で、ブランデーを飲みながら会話をしていた。

　暫く話をしていた二人だが、いつのまにか話が途切れていく‥‥‥‥‥

　亜希子の様子を窺う増田‥‥‥‥
　徐に立ち上がると、ツインチェアに座っている亜希子に増田は近づいていった。

【‥‥‥‥‥‥】

　亜希子の手を引き立ち上がらせる増田‥‥‥‥‥
　増田は、亜希子の腰を引き付け、静かに抱き寄せていく。

【‥‥‥ァ‥‥ン‥‥‥】

　そして、首筋に唇を這わせながら、亜希子のヒップに手を当てていった。

【‥‥‥‥‥‥‥亜希子君‥‥‥‥】

　後部からスカートを捲し上げ、指を股間に滑らせていく。

【‥‥‥‥ま‥‥‥待って‥‥‥‥‥自分で脱ぐゎ‥‥‥‥】

　亜希子は、増田から離れるとベッドに歩いた。
　ジャケットとスカートを脱ぎ、ハンガーに掛けると備え付けのクローゼットに衣服をしまった。
　真っ白なブラウスのボタンを外し椅子の背にかける亜希子‥‥‥‥‥
　濃紺で上下お揃いの下着が増田の欲心を掻きたてていく。

　亜希子は、ストッキングを丁寧に脱ぎ、バックの中にしまった。
　そのまま、ベッドに潜りシーツを顔の近くまで覆っていく‥‥‥

　増田もシャツを脱ぎブリーフ一枚の姿になった。
　ベッドに腰掛け、亜希子が被るシーツを剥いだ。

　増田は、ブリーフをその場で脱ぎ捨てると亜希子の、下着をゆっくりと脱がしていった。
　既に、激しく怒張した肉棒は脈打っていた。
　無造作に投げ出す亜希子の両足を開いていく増田‥‥‥‥
　恥丘に張り付いた、少な目の陰毛を指で擦り上げていく。

【‥‥‥‥‥ァァ‥‥‥】

　増田は、亜希子の下部に移動し舌を股間に滑らせた。

【‥‥‥‥ァッ‥‥‥‥‥‥ァァァ‥‥‥】

　閉じた亀裂を割るようにして、増田の舌が下から上へと移動していく。

【‥‥‥‥‥ゥゥゥ‥‥‥‥ゥゥ‥‥‥‥‥アァァ‥‥‥‥】

　亜希子は、目を開けたまま天井の一転を注視していた。

　あまり、上手いとはいえない増田の性技だが、亜希子は拒否しないでいた。
　増田は、いつものように亜希子の女芯を覆う薄皮を捲り上げ舌先で転がすように突付いていく。

【‥‥‥クッ‥‥‥ァァ‥‥‥‥‥ァゥゥゥゥー‥‥‥】

　仙次郎との性戯と違い、漏らす声も遠慮気味だった。

　我慢が出来なくなった増田は、唾液で濡れた亜希子の蜜壷にいきり立った肉棒を挿入した。

【‥‥‥ハァァ‥‥‥‥ゥゥゥ‥‥‥】

＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜＜

　増田は、亜希子に覆い被さり、腰を激しく動かしていた。

【‥‥‥ググッ‥‥‥‥あ‥‥‥‥亜希子君‥‥‥‥‥】

　増田は、亜希子のヒップに手を回し強く股間を密着させると分身を爆発させた。

【‥‥‥ウグゥッ‥‥‥】

【‥‥‥ァァ‥‥‥‥‥‥‥ま‥‥‥増田さん‥‥‥】

　増田は、荒い息を吐きながら、静かに肉棒を引き抜いた。

【‥‥‥ぁ‥‥‥亜希子君‥‥‥‥はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥‥君は、最高だ。】

【‥‥‥‥‥‥増田さん‥‥‥‥】

　息を整える増田‥‥‥‥
　ベッド上のブランデーを飲み干すと大きく深呼吸して亜希子に囁いた。

【‥‥‥‥亜希子君‥‥‥‥‥君を‥‥‥‥君を私のものにしたい。】

【‥‥‥え？‥‥‥‥わ‥‥‥私を‥‥‥‥って‥‥‥‥】

【‥‥‥‥‥‥‥‥‥君を僕の妻としたい。】

【‥‥‥‥‥！‥‥‥そ‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥で、でも‥‥‥】

【もう、別れたご主人とは、何ともないんだろう？】

【‥‥‥‥‥ぇ‥‥‥ぁ‥‥‥あの‥‥‥】

【私は、本気だ。‥‥‥‥‥亜希子君、返事は、いつでもいい。】

【‥‥‥‥‥で‥‥‥でも‥‥‥‥】

　困惑する亜希子‥‥‥‥‥
　それを見取った増田は、顔を崩して照れくさそうに頭を掻いた‥‥‥

【ハハハッ、‥‥‥終わった後に言う言葉じゃなかったかな。】

【‥‥‥‥‥‥‥‥】

【君が、戸惑うのも無理は無いか‥‥‥‥】

【‥‥‥‥‥‥‥】

【先にシャワーを浴びてくるよ。】

　増田は、そう言ってベッドから降りると、亜希子の頬にキスをしてから浴室に歩いていった。
　亜希子は、天井を見上げたまま身動きしなかった。
　蜜壷からは、増田の放った分身が零れ出ている。
　股間を伝いヒップの割れ目に流れていた。
　その生暖かい感触に亜希子の両足の太腿が僅かに震えている。

（‥‥‥‥‥せ‥‥‥‥‥‥‥仙ちゃん‥‥‥）

　亜希子の眼からは、自然と涙が零れ出ていた。

（‥‥‥‥‥仙ちゃん‥‥‥どうしたらいいの‥‥‥‥会いたい‥‥‥直ぐに‥‥‥）

　亜希子は、冷たく真っ暗な闇の中を浮遊しているような錯覚に襲われていた。

/ / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /

　亜希子は、知らぬうちにベンチでうたた寝をしていた。
　頬に当たる風で目を覚ます亜希子‥‥‥‥‥

「‥‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥」

　咄嗟に時計を見る亜希子‥‥‥
　既に昼近い時間になっている。

（‥‥‥早く帰ってレポート作らなくちゃ‥‥‥）

　そう思う亜希子だが、複雑な思いが、心の中を行き交っている。
　頭を左右に何度か振ると、亜希子はベンチから立ち上がり急ぎ足でその場から立ち去っていった。

☆☆☆☆☆

−　数日後　−

　仙次郎は、仕事を終え自宅でジャズを聞きながら寛いでいた。
　スコッチを片手に、流れる歌声に耳を傾けている。

　亜希子の話を聞いてから、１０日が過ぎていた。
　しかし、仙次郎の元に連絡は一度も無かった。

　この１０日間、仙次郎は、自分なりに気持ちを整理していた。
　ふと、亜希子を思い出す仙次郎‥‥‥‥‥‥

（‥‥‥悩んでいるようだな‥‥‥ま、直ぐには結論が出るわけも無いんだが‥‥‥）

　苛立ちとは違う、妙に落ち着かない状態であることも自分で解っていた。
　しかし、亜希子から連絡が無い以上、仙次郎から話を出すわけにもいかない。

　仙次郎は、苦笑いを浮かべると、大きく溜息をついてスコッチを飲み干した。

（いつまでも、俺が考えていたってしょうがないな‥‥‥‥）

　仙次郎は、急に心の中のもやもやが吹っ切れた感覚を得ていた。
　離婚しているから自由とか、離婚れても愛の継続は可能とかいう理屈を説明する必要も無い。
　また、愛という存在を今更、亜希子に諭す必要は無いと考えていた。
　亜希子自身、仙次郎の気持ちは理解している。
　そして、その見極めを出来る人間でもあった。

　仙次郎と暮らしていると愛に溺れてしまう。
　苦しくなってしまうからと離婚を決意した亜希子‥‥‥
　しかし、その愛の成長にしたがって、その論理が逆転してきたようだ。

（なるようにしかならない‥‥‥‥‥運命は変わらないからな‥‥‥‥）

　スコッチをグラスに注いでいく仙次郎‥‥‥‥
　何曲目の歌だろうか‥‥‥
　Ｊust Ｔhe Ｗay Ｙou Ａre　が、鮮明に仙次郎の耳に伝わってきた。

（‥‥‥‥‥‥！）

　目を閉じ耳を傾ける仙次郎‥‥‥‥‥‥

　Don't go changing to try and please me

　You never let me down before

　Don't imagine you're too familiar

　And I don't see you anymore

　I wouldn't leave you in times of trouble

　We never could have come this far

　I took the good times, I'll take the bad times

　I'll take you just the way you are
　　

　Don't go trying some new fashion

　Please don't change the color of your hair

　You always have my unspoken passion

　Although I might not seem to care

　I don't want clever conversation

　I never want to work that hard

　I just want someone that I can talk to

　I want you just the way you are
　　　

　I need to know that you will always be

　The same old someone that I knew

　What will take till you believe in me

　The way that I believe in you

　I said I love you and that's forever

　And this promise from the bottom of my heart

　I could not love you any better

　I love you just the way you are.

　鼻唄で、Ｊust Ｔhe Ｗay Ｙou Ａre　に合わせる仙次郎‥‥‥‥
　その時、ある思いが、仙次郎の脳裏に突き刺さった。
　自分の言葉や、理由のない理屈とか説得だけで異性を縛り付けるほど人間として格好悪いものはない。
　亜希子自身が、必死で考えて悩んで出した結論なら、仙次郎は、何も拒む事をしないでおこうと決意した。
　その決意なのだろうか、妙に身体と心の軽さを感じる仙次郎‥‥‥‥

　数日後、仙次郎は、ごく普通の生活状態に戻っていた。