（１１６）

「大門先生、増田専門官から内線が入っています。」
「‥‥‥そう。」

　研究員で亜希子の助手を務める村上恵が受話器を渡した。

「はい、大門です。」
「やあ、亜希子君、仕事中にすまないね。」
「‥‥‥いえ。」
「今夜、暇かい？」
「ぇ‥‥‥ええ‥‥‥特に用事はありませんが‥‥‥」
「そうか。‥‥‥話があるんだ。食事でもしながらどうかな。」
「‥‥‥ええ、‥‥‥はい、わかりました。」
「じゃあ、終わったら駐車場に来てくれ。私の車で行こう。」
「はい‥‥わかりました。」

　亜希子は、そう言って電話を切った。
　助手の恵が、亜希子に声を掛けてくる。

「先生‥‥‥デートですか？」
「ぇ‥‥‥そんなんじゃないわよ。」
「先生、増田専門官に返事したんですか？」
「ぇ‥‥‥‥うぅん‥‥‥まだよ。」

　亜希子は、平静を装ってそう答えた。

「増田専門官、最近、落ち着かないようですね。」
「‥‥‥‥そうかな。‥‥‥‥ね、恵ちゃん、他の人には言わないでよ。」
「言いませんよぉ。‥‥‥‥でも、先生、プロポーズ受ける気はあるんですか？」
「‥‥‥‥‥‥まだ、自分自身、答えを出していないの。」
「もう、１ヶ月経ちますよ。」
「‥‥‥‥ええ‥‥‥‥そうね‥‥‥」

　亜希子は、増田からのプロポーズを受けて以来、悩みに悩んでいた。
　仙次郎に言われた言葉を必死で考え、そして結論を見出そうとしていたのだ。

　増田には、仙次郎と話し合った事を話していなかった。
　話す必要もないと思っていたからだ。
　若い結婚前の女性ではない。増田とも互いの領域は理解しあっている。
　一人の大人の女性として、その人間性を尊重してくれているのも確かだ。
　しかし、増田も一向に返事を返さない亜希子に対し焦りが生じたのだろうか、言葉にこそ出さないが亜希子を誘う回数が増えてきた事からその心境が窺えた。
　亜希子は、疲れた表情で椅子に座ると小さな溜息をついた。
　気持ちの整理と頭の中の整理が、結論に追いつかない。

「‥‥‥‥‥先生‥‥‥」
「ぇ‥‥‥あ‥‥大丈夫よ‥‥‥恵ちゃん、ちょっと早いけどお昼にしようか？」
「はい‥‥‥そうですね。」

　亜希子と恵は、研究室の鍵を掛けて昼食に出かけていった。

☆☆☆☆☆

　仕事を終えた亜希子は、増田の待つ駐車場に向かった。

　既に増田は、車の中で待っていた。
　亜希子に気づくと車から降りて助手席のドアを開ける。

「すいません、お待たせしました。」
「何、私も今来た所さ。」

　亜希子は、助手席に乗り込んだ。
　増田も運転席に座ると、早速、車をスタートさせる。

　増田は、市街地から郊外に抜けて高速に乗った。

「‥‥‥‥え‥‥‥増田さん‥‥‥何処に‥‥‥‥」
「いいレストランを見つけたんだ。」

　増田は、そう答えてニッコリと微笑んだ。

　１時間ほど走っただろうか、陽が沈み掛けたころ、二人は、海沿いの海鮮レストランに到着した。

「ここだよ。」

　増田は車から降りると、助手席のドアを開け亜希子を降ろした。

「‥‥‥素敵なレストランですね。」
「ああ‥‥‥海を見ながら食事が出来るんだ。」

　増田は、亜希子の腰に手を当てて店内に入っていった。

　亜希子と増田は、新鮮な魚料理を食べながら会話をしていた。

「亜希子君、どうだい、味は？」
「とても美味しいです。」
「そうだろう。結構、有名人の常連客も多いらしいよ。」
「そうなんですか。」

　亜希子は、増田に注がれた冷酒に口をつけながら海を眺めた。
　何隻かの船が、汽笛を鳴らしながら浮かんでいるのが見える。
　波を打つ音と、砂浜を駆う風に乗った波飛沫が砂浜からのライトで綺麗に輝いていた。

「亜希子君‥‥‥‥‥」
　
　増田に視線を戻す亜希子‥‥‥‥

「‥‥‥はい‥‥‥」

　増田は、ポケットから小さな箱を取り出して亜希子の前に差し出した。

「‥‥‥あの‥‥‥‥‥‥これは‥‥‥」
「開けてごらん。」

　亜希子は、それが何かをわかっていた。
　箱を手にとり、ゆっくりと蓋を開けていく。
　中は、ダイヤを散りばめたプラチナリングが収まっていた。

「‥‥‥‥‥‥増田さん‥‥‥」
「亜希子君、君からの返事を急いでいるわけではない。もし、断わる時は、それを返してくれればいいんだ。」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥とりあえず受け取ってくれないかな。」

　増田は、そう言うと照れを隠すように酒を喉に流し込んでいった。

「‥‥‥‥増田さん‥‥‥‥ありがとう‥‥‥‥必ず‥‥‥お返事はしますので。」

　増田は、優しい笑みを浮かべながら頷いた。

　口数少ない亜希子に、増田は気を利かせて話題を切り替えた。

　亜希子は、笑顔で増田の話に耳を傾けていく。
　楽しく会話を交わしていく亜希子と増田‥‥‥‥‥‥‥

「さて、ちょっと、外に出ようか。」
「ええ。」

　食事を終え、デザートも済ました二人は、店内から砂浜に出て行った。
　亜希子と増田は、ゆっくりとした足取りで砂浜を歩き出した。

「‥‥‥‥‥‥気持ちいい、風だわ。」
「‥‥‥‥波の音が心を癒してくれる。‥‥‥‥私は、海が好きでね。」
「‥‥‥‥私も好きですよ。」
「そうか‥‥‥‥海は、いいよね。」

　増田は、亜希子の肩に手を掛けて岩の上に腰掛けた。
　月が水面に反射し、波と風で揺らいでいる。
　二人は無言のまま、ずっと海を眺めていた。
　亜希子の肩に掛けている増田の手に力が入った。

「‥‥‥‥」
「亜希子君‥‥‥‥」

　増田は、振り向いた亜希子の唇を奪った。

「‥‥‥‥ンッ‥‥」

　ゆっくりと唇を離し亜希子を見つめる。

「亜希子君‥‥‥私は君を愛している。」
「‥‥‥‥増田さん‥‥‥‥‥‥‥私‥‥‥」

　増田は、亜希子の言葉を聞かずに立ち上がった。

「さ、帰ろう。」
「‥‥‥‥ぇ‥‥‥‥‥‥はい。」

　亜希子と増田は、店内に戻り、支払いを済ませると車に乗り込んだ。

「増田さん、運転、大丈夫ですか？」
「‥‥‥‥‥‥んー‥‥‥少し、喋りながら運転していけば酔いも冷めるさ。」
「‥‥‥‥‥気をつけてくださいね‥‥‥」

　増田は頷くと、海岸沿いの道路に車を走らせていった。
　亜希子は、暗い海を見つめながら、時折、ウィンドウに反射して見える増田の顔を確認していた。

「‥‥‥‥亜希子君‥‥‥‥色々と悩んでいるようだね。」

　増田の言葉に、鼓動が跳ね上がる亜希子‥‥‥‥

「僕はね‥‥‥‥今、物凄く胸が熱いんだ。まるで初恋の時のようにね。」

　亜希子は、増田の言葉に胸が詰まった。
　少々間を置いた後、亜希子は、仙次郎との事を増田に話す決心をした。

「増田さん‥‥‥どういう返事をするにしろ、私は、増田さんに嘘をつきたくないんです。」
「え‥‥‥‥どういう意味だい。」

　亜希子は、ゆっくりと深呼吸をしながら話を始めた。

「私、確かに主人とは離婚しました‥‥‥‥。でも、でも、主人とたまに会っていたんです。」
「えっ‥‥‥ど、どういう事なんだい。」
「増田さん‥‥‥私が主人と別れたのは、主人を嫌いになったからでも反対に‥‥‥‥‥主人から、別れを言い渡されたわけでもないんです。」
「‥‥‥‥‥‥？」
「私自身が、主人から受け取る愛に溺れそうになったんです。」
「‥‥‥‥‥愛に‥‥‥‥溺れる‥‥‥‥」
「私は、自分が駄目になると思いました。‥‥‥‥大好きな生物学の研究にも支障をきたしますし‥‥‥夢だった一流の学者になる事も遠のいてしまう気がして。‥‥‥‥それ以上に、自分という人間に甘えてしまう事が‥‥‥‥凄く恐くて‥‥‥それで別れたんです。」
「そ‥‥‥そんな理由で、離婚を‥‥‥」
「‥‥‥ぇぇ‥‥‥でも、主人は、納得してくれました。‥‥‥私は、主人に言ったんです。主人から貰う愛を汚したくないから、途切れさせたくないから自分を駄目にしたくないから、‥‥‥愛しているから離れて暮らそうと‥‥‥」
「‥‥‥‥‥そ‥‥‥‥そうだったのか‥‥‥‥」
「でも、‥‥‥‥愛という事を真剣に考えると、愛自体が苦しい事もあるって気づいたんです。」
「‥‥‥‥別れたご主人は、君を雁字搦めにしてたのかい？」
「いえ‥‥‥違うんです。‥‥‥何でも自由にさせてくれたし理解ある男性です。」
「‥‥‥‥なら、どうして‥‥‥‥」
「彼と一緒にいるだけで解るんです。」
「え？」
「まるで‥‥‥まるで包み込まれているような‥‥‥そんな人なんです。」
「‥‥‥‥‥‥‥亜希子君‥‥‥」
「‥‥‥‥でも、‥‥‥‥でも‥‥‥‥それが、苦しくって‥‥‥‥‥私‥‥‥‥‥絶えられなくて‥‥‥‥自分が駄目になってしまう気がして。」
「‥‥‥‥そんな男性に、私は‥‥‥勝てそうもないな‥‥‥‥」

　増田を振り向く亜希子‥‥‥‥

「増田さん‥‥‥勘違いしないで‥‥‥‥」
「え？」
「私は、愛というプレッシャーのない生活がしたかったのかも‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥どういう意味かな？」
「私‥‥‥‥‥増田さんのこと嫌いではありません。いえ‥‥‥むしろ、主人とは違う愛を感じています。。」
「‥‥‥ぁ‥‥‥‥亜希子君‥‥‥‥」
「同じ道を歩む学者としても尊敬しています。‥‥‥‥離婚れた主人とは違った開放感も感じています。増田さんのお誘いを了承したとしたら、今後、人生を歩んでいく上で、‥‥‥‥充足感もあるかもしれません。」
「‥‥‥‥‥‥亜希子‥‥‥‥く‥‥‥ん‥‥‥」
「私‥‥‥‥その結論が、一人で出せなくって‥‥‥‥それで‥‥‥‥」

　亜希子は、そう言って黙り込んだ。

　増田は、シガレットケースから巻きタバコを取り出して火をつけた。
　甘い香りが、車内に充満する‥‥‥‥
　そして、静粛を破るように増田が口走った。

「あ‥‥‥亜希子君‥‥‥‥‥私は‥‥‥‥‥私は、君を独り占めにしたい。別れた、ご主人のように、傍にいるだけで愛を訴える事が出来る術はないが君を苦しめるような事をしない自信はある。私と人生を共にしてくれないか。」
「‥‥‥‥‥‥増田さん‥‥‥‥」

　不思議な感覚が、亜希子の全身を襲っている。
　まるで、夢の中で、増田と会話をしているような感じだった。
　色々な思いが、亜希子の頭の中を掛け巡った。

　亜希子の膝に手を置く増田‥‥‥‥
　増田の手の温もりが、亜希子の心の中に愛という言葉を持って侵入してきた。

　増田を見つめる亜希子‥‥‥‥
　亜希子は、増田の手の上に自分の掌をかぶせた‥‥‥

「亜希子君‥‥‥‥何処かで、休憩していこうか？」
「‥‥‥‥‥‥ぇ？‥‥‥‥‥‥‥」
「今すぐ‥‥‥‥今すぐに‥‥‥‥君を抱きたい。」
「ぁ‥‥‥あの‥‥‥‥」
「いや、一緒にいるだけでもいいんだ。」
「‥‥‥‥‥」
「いいだろう‥‥‥‥亜希子君‥‥‥」
「‥‥‥‥‥ぁ‥‥‥‥ぇ‥‥‥‥‥ええ。」

　亜希子は、シドロモドロに返事をした。

（‥‥‥‥‥‥仙ちゃん‥‥‥‥私‥‥‥‥私‥‥‥‥‥）

　仙次郎の顔が、亜希子の脳裏に浮かんでは消えていく。
　妙な感覚が、亜希子の心の中を暴れまわっていた。

　いつの間にか仙次郎の顔が、亜希子の脳裏から薄くなり、そして、そして、遂に消えていった‥‥‥

（１１７）

　二人は、いつの間にか、小さなホテルの一室に居た。
　灰皿に乗せた巻き煙草からは、細長い煙が真上に立ち昇っている。

　亜希子は、増田と舌を絡め合っていた。

「‥‥‥ァァァ‥‥‥増田さん‥‥‥‥」

　増田は、亜希子の服を丁寧に脱がし始めた。
　じっと、増田のされるがままになっている亜希子‥‥‥‥‥

　酔いなのか‥‥‥それとも‥‥勢いなのか‥‥‥
　亜希子は、先ほどまで浮かんでいた仙次郎の顔が完全に消えている事に気づかないでいた。
　下着だけになった亜希子は、増田の肉棒をスラックスの上から握っている。
　増田は、亜希子のショーツの中に手を入れ、指で亀裂を撫で上げていた。

「‥‥‥‥ァァァァ‥‥‥‥」

　増田のネクタイとシャツのボタンを外していく亜希子‥‥‥‥
　全てを脱ぎさった増田は、亜希子の背後に周り、うなじに舌を這わしていく‥‥‥‥

「ァァァァァ‥‥‥‥‥増田さん‥‥‥‥」

　増田は、亜希子を抱きしめたままベッドに移動した。
　静かに亜希子の身体を横たわらせて覆い被さっていく。

　亜希子は、増田の首にしがみ付いて身体を密着させた。

「亜希子君‥‥‥‥」

　増田の指が、亜希子の蜜壷に埋まった。

「‥‥‥ァァッァ‥‥‥」

　舌を絡めて唾液を吸い取っていく‥‥‥‥‥
　亜希子の乳首は、これ以上なく固く突起し、増田の胸板に当たっていた。
　脈打った増田の肉棒が、亜希子の下腹部を擽っている。

「‥‥‥‥ぁぁ‥‥‥ま‥‥‥増田さん‥‥‥‥」
「亜希子君‥‥‥‥君を‥‥‥君を幸せにしたい‥‥‥‥」

　増田は、亜希子の足を左右に広げた。
　亀裂からは透明な液体が顔を覗かせている。
　増田は、肉棒を握り亜希子の亀裂に這わせていった。

「‥‥‥‥ァァァ‥‥‥‥キ‥‥‥‥キテェ‥‥‥‥キテェェェェー‥‥‥」

　増田は、亜希子の要求に応え肉棒を半分ほど蜜壷に埋めた。

「ウッフゥゥゥゥゥー‥‥‥‥」

　ゆっくりと、挿入を繰り返す増田‥‥‥‥
　増田の肉棒は、亜希子の蜜が付着し、ライトに照らされて光を帯びていた。
　亜希子の足を肩に抱え込む増田‥‥‥‥

「亜希子‥‥‥‥‥」
「‥‥‥ァァ‥‥増田さん‥‥‥‥‥」

　増田は、そのままの状態で亜希子に覆い被さるようにして肉棒を根元まで力強く挿し込んでいった。

「ンァッハァァァァァァッァァァァァァァァー‥‥‥‥」

　激しく蜜壷を責めていく増田‥‥‥
　亜希子は、顔を激しく振りながら増田の責めに悦びを表した。

「‥‥‥ゥッ‥‥‥ゥゥゥ‥‥‥」

　眉を寄せて顔を顰める亜希子‥‥‥‥‥

　暫くその体位で責めたいた増田は、放出を我慢し蜜壷から肉棒を引き抜いた。

「‥‥‥ァァァ‥‥‥‥‥抜いちゃ駄目ぇ‥‥‥‥」

　亜希子は、今まで口走った事のないような甘い声を漏らした。

「亜希子君‥‥‥‥少し休憩させてくれ。‥‥‥‥もったいなくて‥‥‥」
「‥‥‥‥ァァァ‥‥‥‥‥早くぅ‥‥」

　増田は、苦笑いをしながらシガレットケースから巻き煙草を取り出した。
　咥えた煙草に火をつけると、それを灰皿に置いた。
　甘い香りが、部屋に充満していく‥‥‥‥

　亜希子が、増田の手を引っ張った。

「‥‥‥亜希子君‥‥‥‥‥‥」

　亜希子の妖艶な仕草と、真っ白な肌の眩しさが増田の目に飛び込んでくる。
　その欲心に、増田は、亜希子の乳房を揉みながら、再度、亜希子の蜜壷に肉棒を埋めた。

「ンアァァァァァァー‥‥‥‥」

　増田の額から零れる汗が、亜希子の顔に落ちていく‥‥‥
　二人は、体位を何度も変えながら乱れていった。

「‥‥‥も‥‥‥もぉぅ‥‥‥‥もぉぅ‥‥‥‥‥ァァッァァァ‥‥‥」
「亜希子君‥‥‥‥‥君の中で‥‥‥‥‥」
「ァァァ‥‥‥‥ダ、‥‥‥ダメェ‥‥‥イ‥‥イヤァァー‥‥ァァァ‥‥‥アァァー‥‥イ、イックゥゥゥゥゥッゥー‥‥‥」

　増田は、亜希子の激しく絶叫する昇天の声を初めて耳にした。
　異常な興奮が増田を襲い、放出する分身の勢いも経験したことがないほど強烈なものだった。

「ウググググッ‥‥‥ス‥‥‥凄い‥‥‥こんなのは初めてだ。」

　増田の分身は、まだ続いていた。
　亜希子の蜜壷は、増田の肉棒を強烈に締め付けている。

「‥‥‥‥‥ぅぅぅ‥‥‥増田さん‥‥‥‥ぁ‥‥‥熱いぃ‥‥‥」

　増田は、亜希子の凄艶な表情を見ながら、全ての分身を出し切った肉棒を引き抜いた。

「‥‥‥‥ゥゥゥ‥‥‥‥」
「亜希子君‥‥‥‥‥‥‥最高だ‥‥‥‥‥最高だ。」

　亜希子は、虚ろな目で増田を見つめながら下半身を捩った。
　閉じた亀裂が僅かに開き、増田の放った大量の分身が流れ出てくる‥‥‥‥
　増田は、再度亜希子に覆い被さって唇を合わせていった。

　亜希子と増田は肩を並べてベッドで仰向けに寝ていた。
　亜希子は、天井を見つめたまま無言でいる‥‥‥‥
　亜希子は、困惑する自分に問い掛けていた。

（私‥‥‥‥私‥‥初めて‥‥‥初めて仙ちゃんの事を忘れて‥‥‥何故‥‥‥）

　いつも、増田に抱かれるときは、仙次郎とダブらせていた亜希子だったが、今日は、仙次郎の事を一度も思い出す事はなかった。
　亜希子は、それが不安なのか、ショックであるのかも判断がつかないでいる。

（私‥‥‥どうしたんだろう‥‥‥‥‥‥‥どうしたのっ、亜希子っ‥‥）

　奥歯を噛みしめる亜希子‥‥‥‥
　増田は、亜希子の手を握ったまま黙っている。
　隣で寝る増田を見る亜希子‥‥‥‥‥

（私‥‥‥増田さんを‥‥‥‥‥‥‥そうなの？）

　亜希子は、心の中の霧が消えていくのを感じていた。

（‥‥‥そうなの亜希子‥‥‥‥私‥‥‥私‥‥‥増田さんを‥‥‥）

　その時、増田の亜希子を握る手に力が入った。
　身体の力が抜けていく亜希子‥‥‥‥‥

「亜希子君‥‥‥‥‥私は‥‥‥私だ‥‥‥」

　亜希子は、その言葉で、ゆっくりと起き上がった。

「‥‥‥‥‥どういう意味‥‥‥増田さん‥‥‥‥」

「私と結婚しても、君の自由を束縛するつもりもない。‥‥‥‥‥別れたご主人と会うのも全く構わない。」
「そ‥‥‥そんな事‥‥‥‥‥」
「私は、ただ‥‥‥‥ただ、君という女性を手に入れたいだけだ。」

　亜希子は、増田の放った言葉を飲み込んだ。
　無言が続く二人‥‥‥‥‥‥

　増田の手は、亜希子の股間に伸びている。
　指が、まだ僅かに突起した女芯を擦っていた。
　亜希子の開いた口から、僅かに淫悦な吐息が漏れた。

「‥‥‥‥ァァァァ‥‥ァァ‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥亜希子君‥‥‥‥私と‥‥‥私と充実した人生を送ろう。」
「‥‥‥‥‥ァァ‥‥‥‥ま‥‥‥‥増田さん‥‥‥」

　亜希子は、ベッドの上に乗るバックを知らぬうちに手にしていた。
　そして、中から、先ほど増田から渡されたリングの箱を取り出した。

「‥‥‥‥‥‥亜希子君‥‥‥」

　亜希子は、リングを抜き取り、じっと、それを見つめた。

（‥‥‥‥‥‥‥仙ちゃん‥‥‥‥‥）

　亜希子は、目を瞑って何やら小さく呟いた。

「‥‥‥‥‥‥？」

　間を開けた亜希子は、そのリングをそっと指にはめた。
　驚きながら起き上がる増田‥‥‥‥‥

「ぁ‥‥‥亜希子君‥‥‥‥‥‥」
「増田さん‥‥‥‥私を‥‥‥‥‥私を‥‥‥」

　増田は、亜希子を強く抱きしめた。
　そして、亜希子も増田にしがみついていく‥‥‥‥

「亜希子君‥‥‥‥‥私は‥‥‥最高の宝物を手に入れたよ。」
「‥‥‥‥‥増田さん‥‥‥‥‥」

　亜希子と増田は、裸のまま、ずっと、ずっと抱き合っていた。

☆☆☆☆☆

　−　半月後　−

　仙次郎は、美優の誘いで、昼食を共にしていた。

「いつもながら、急に呼び出すんだな、美優‥‥‥」
「だって、近くまで来たんだもん。それに一人で食べてもさ‥‥‥」
「‥‥‥‥しょうがねぇな‥‥‥‥。」
「はい、ビール。」
「まだ、仕事中だぞ。」
「いいじゃない、１杯くらい。」
「だな‥‥‥‥‥飲むか。」

　仙次郎に酒を注ぎながら、美優は、握りを注文していく。
　二人は、寿司を頬張りながら他愛ない話を繰り返していた。

「そういえば、最近、亜希子さん、どうしてるの？」
「え？‥‥亜希子‥‥‥‥さて‥‥‥どうしてるやら。」
「なによ、それ‥‥‥‥」

　おどけた顔を見せる仙次郎‥‥‥‥

「ま、ちょっとあってな‥‥‥」
「ちょっとって‥‥‥何？」

　仙次郎は、別に隠す必要もないと思い、美優に亜希子の事を話し始めた。

「えぇぇーっ！‥‥‥亜希子さんが、プロポーズを‥‥‥」
「でかい声を出すんじゃねぇよ。」
「ぁ‥‥‥ご‥‥ごめん‥‥‥‥‥で、相手は、この間、噴水の前で見た？」
「ああ、上司の男さ。」
「で、仙次郎君、亜希子さんに何て言ったの？」

　仙次郎は、亜希子と話し合ったときの事を美優に聞かせた。

「えぇーっ‥‥‥‥‥せ‥‥‥仙次郎君‥‥‥‥普通、止めるんじゃないの？」
「‥‥‥いや、俺が止めるべきではない。それに、法上、離婚はしているんだし。」
「で、でも‥‥‥」
「亜希子は、研究者でもあり学者だ。あそこの研究所を辞めることはできない。‥‥‥つまり、相手に断わっても蟠りが残るし、亜希子の人生にも影響する。自分自身で結論を出さないと何にも解決にはならないのさ。解るだろうっ。」
「‥‥‥でも‥‥‥‥そんな悠長なことを‥‥」
「悠長かな？」
「でも、かれこれ２ヶ月経ってるじゃない。」
「んー‥‥‥そうだな‥‥‥」
「‥‥‥暢気なもんね。　でも、もし、ＯＫ出したらどうするのよ。」
「さて、どうしたもんかな‥‥‥」
「ばっかみたい。とても私には理解できないわ。」
「ま‥‥‥その時は、連絡をくれるといったし。とにかく最後まで私を見ててと言ってたからな。」
「‥‥‥‥‥不思議な関係ね。」
「俺とお前もな‥‥‥クククッ‥‥‥‥」
「お馬鹿っ。でも、もし、亜希子さんがプロポーズを受けたらどうするのよ。」
「それも運命だ。」
「そんな簡単に済ませれるかしら。」
「その時は、俺と一緒になるか、美優‥‥‥」
「ぇ‥‥‥‥ぁ‥‥ば、馬鹿っ。‥‥‥もっと、真剣に考えなさいよ。」
「もう、考えたさ。」
「え？」
「考えたから、こう言う風になったんだ。」
「‥‥‥‥‥仙次郎君‥‥‥」
「さて、もう、そんな事はいい。食うぞ。」
「‥‥‥‥ぇ‥‥‥‥‥あ、あの‥‥‥」

　美優は、複雑な気持ちで仙次郎を見つめた。
　何も動じない様子で仙次郎は、寿司を頬張っている。

（仙次郎君‥‥‥‥‥）

　美優は、そんな仙次郎と亜希子の関係を知って一気に食欲を失っていた。