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（しっかし、この野々口さんも、マジでようやるよっていう人だよな）
　僕にはなぜ、野々口さんが物語の肝心な所で、これほど太い脇道に入ってまで寄り道…ではなく、回り道をするのか、その理由、意図が読める。盥さんの小説を読み慣れていれば、大概の人が見当を付けられる。

　僕は大学で学んだのは薬学だから、文章力に自信はないが、おそらくこの先は、こんなふうに綴られているはずだ。

『しかし、たとえ美保が同じ励ましを受けても、美保にはもう立ち直れる気力が残されていない。
　もう充分に便意と戦ってきた。腸の中には、ユルユルに溶けたウンチとガスが、まだまだたくさん残っている。そしてそれを排出する瞬間には、眩いほどの光も催涙ガスも少しも浴びていないのに、目も眩むような羞恥に襲われ、涙が滂沱となるのだ。
　いや、その前に、自分でも耳を塞ぎたくなるような口上を述べなければ、肛門を塞ぎ、大腸が閉塞するほどの苦痛を与えている“肛門専用栓”は、絶対に抜いてもらえないのである。
　そんな美保専用の逃げ道を、いったい誰がどこに設けてくれると言うのだ。』

　もちろん、それだけで終わるとは思えない。ここまでの間に、「出っ歯の落語名人」と呼ばれた明石家ハダシの息子で、「昭和の爆笑王」の誉れ高い明石家軽平の遺児、明石家ハヤシだけを何度も実名で登場させ、類似のギャグをテンコ盛りしてきたからには、こんな落ちも必ず用意している筈。

『もしその役を明石家ハヤシが買って出たとすれば、最後の台詞「自分と戦うんだ」を言い終えた直後に、「なんちゃって」を付け足して裸足で逃げ出し…いや、おもむろに立ち去り、以後、彼はマスコミから「明石家ハダシ」の大名跡を継ぐ日は近いと報じられるだろう。』

　僕の読みが正しいことを、マジで検証してみるために、次のページを…めくる。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　▽

「ふーん…美保さんみたいな超美人の芸能人でも、オナラの音は私と一緒だし、下痢したときのウンチの出方も、ウンチの臭いも、みんな私と全然変わらないんだね。何か私、安心しちゃった」
　ガングロ女が、言語明瞭意味不明の…いや、それはどこかの国の総理大臣の専有特許にも等しい表現。タケシタは…違う、正しくは……そう、言語も明瞭で意味も明確な感想だけに、なぜそれを美保に聞かせてきたのか、その意図がまったく推し量れない。

「ねえ、ゴロちゃんは？　ウンチもオナラも私と一緒の美保さんと、そんなにエッチしてみたいんなら、私も美保さんと並んでウンチしちゃうけど」
「いや、俺…こういうのダメ。マジで苦手なんだ。もしデコがオナラしても、それはそれで、俺の場合やたらとぶっ放すから、しょうがないかも知んないけど、デコがウンコするとこなんか、絶っ対、超マジで見たくない」
「ふふ…やっぱアタシと、超普通にエッチするほうがいい？」
「ああ。デコとなら何発だってやれるけど、こんなふうになってる美保さん見たら、とてもじゃないけど、やる気がなくなったもんな」
　喜ぶべきか、悲しむべきか、鼓膜の意見は左右で異なっている。だが『こんなふうになってる』という形容句の中の『ふうになってる』を、まず『汚らしい』に置き換えて受け止め、次に『恥ずかしい姿』へ置き換え直した点だけは両耳共通だ。

　わざわざ姿見を探してその前に立ち、我が身を映して確かめる必要はない　これほど恥ずかしい姿を、鏡に映す気になど到底なれない。
　美保の閉じた瞼の裏には、鮮明な映像として映し出されているからだ。

　きれいにセットされていた髪は、すでに“スタイル”を完全に失った。輝きや艶どころか生気さえ失われている。寝起きの髪のほうが、まだ余程マシだ。
　周囲の人から『化粧らしい化粧を施していない』と言われるほどに薄い化粧も、涙で何度となく洗い流され、脂汗がすべて浮き上がらせたせいで、単なる薄汚い塗り物と化した。　

　ただし例外もなくはない。誰もが似合うと言ってくれるルビーレッドの口紅だけは、今も本来の役目を果たしている。ただそれも、唇を何度となく噛み締めたせいで、すっかり斑模様を呈しているのを見れば、誰一人としてお世辞にも『似合っている』とは言ってくれないだろう。
　そして斑模様の一部だけが、異常に濡れ光っていることに気づき、それが鼻水や鼻汁だと知ったなら、誰もが必ず『きったなーい』か『きったねーな』と口を揃えるに違いない。

　そんな顔を鏡に映せば、美保のお気に入りのアクセサリー、深くて赤い輝きを放つルビーのイヤリングでさえ、あまりにも場違いなことに気づき、さらに赤味を深めるどころか、ガラス玉のイヤリングにその場を譲りたくなるはずだ。

　身体も汚れている。全身、脂分を多く含んだ汗でじっとりと鈍く濡れ光り、『スベスベというよりサラサラ』と評されている肌が、今やその面影を、どこにも残していない。
　まるでガソリンスタンドに併設されたガレージサロンへ立ち寄り、変質した灯油とエンジンオイルの混合液を使う“老いるマッサージ”でも受けてきたかのようだ。

　下腹から腿の内側にかけた一帯は、殊に汚れ方がひどい。夥しい量の新鮮な蜜液が、迸るように陰裂から溢れ出し、しかもアンモニアを含む老廃液までもが伝い流れたために、その名残が今なお消えずに残っている。
　ピストン運動をされた結果ではない。電動マッサージ器の震動によって、膣の粘膜から濃厚な体液を絞り取られ、直腸と大腸のチューブに使われた空気入れが、小便タイヤ…いや、タンクをパンクさせた結果である。
　よほど嗅覚に劣った人でもない限り、近くに鼻を寄せていけば、あたりに漂う便臭とは明らかに異なるその淫臭を、誰でも容易に嗅ぎ分けられるはずだ。

　背中の側はどうか。合わせ鏡を用いなければ、自分の後姿を見るのは難しい。
　だが、今の美保にはできる。脳膜の描くイメージを網膜に投影するだけで、難なく確かめられる。

　お尻の形は化粧ほど崩れて…いや、まだまったく崩れていない。当然だ。
　美保はまだ二十六歳。
　そのデビュー曲のサビの歌詞が、美保にはどうしても『♪美っ保っはっまだ〜ニ、十〜六だ〜から〜』と聞こえてしまうハーフの新人歌手、ミホ・ハマダも同年齢だが、彼女と比べたら美保のお尻のほうが、十歳は若いとさえ言えそうなほどである。

　ただ、本当に十六歳の女の子であれば、すずきその子が…違う、たとえその子が処女だと知っていても、良識と豊富な性体験を持っている大人の男なら、『まだまだ青くさい』とか『小便くさい』と言って、まったく相手にしないだろう。

　また逆に、見るからにその子が処女を何度となく卒業していようと、そんなことはまったく気にもかけず『十六歳？　いいねえ』というロリコン系の中年男も、当然のごとく存在するに違いない。
　高校生の中には『俺も十六だ』と、自分の年齢さえ振り返ることもなしに、生の中出しで孕ませてしまった結果、中絶費用のカンパに精を出す単細胞の男も多そうである。

　しかし、美保はもう二十六歳。にもかかわらず、お尻を汚してしまった。
　肛門周辺だけならまだしも、いや、その程度なら誰もが自分の日常的体験を通じて、やむを得ないことだと感じるだろうが、膨らみの内側まで汚した経験は、そうそう持っていない……などと書けばそれは明らかなクソに…失礼、ウソになる。

　赤ちゃんでお尻を汚さない子は誰もいない。オムツが取れた後も、例えば遊びに熱中になったり、絵本に夢中になったりすれば、洩らしたことさえ気づかないような子もいる。
　誰もが経験してきたことなのに、みんなそれを大人になって忘れただけだ。

　もしそれを今も憶えている大人がいるとしたら、その人は学校の授業中に手を挙げて『トイレに行きたいです』と言えないほどの、過剰に羞恥心が強い子供だったか。
　あるいは『嘘も方便』という重要な諺の意味を、少しも体得できていなかったせいで、『おなかが痛くなりました』と言えない馬鹿正直な子供だったか。
　それとも、同級生にいつも虐められていたせいで、学校へ行くと必ず腹痛を起こし、羞恥心の強すぎる子供や、馬鹿正直な子供と同様、『ウ○コ洩らし』だの『クサイ』だのとまで言われた辛い過去を、今なお引きずらされている気の毒な人なのかも知れないが。

　今の美保も、途中までは似たような経緯をたどった。
　ガングロ女を中心に、三人からずっと虐められてきた。肛門を栓で塞がれるとも知らず、恥ずかしさに泣きじゃくりながらも、『美保は豚のケツが、ケツの穴からブビビビー、ブビビビビーとユルユルウンチを洩らす時の、汚らしいオナラの音を、もう聴きたくありません。ブビビビー、ブビビビビーを、もう聴いてほしくありません』とまで言わされた。

　ところが途中からは、少し風向きが変わった。いや、虐めの嵐が弱まったというほうが正しいかも知れない。
　肛門栓を抜いたガングロ女は、美保に『ユルユルのガバマンを広げておけ』だの、『豚のケツが鳴きやすいようにケツを突き出しておけ』だのといった命令を、いっさい下してこなかった。
　つまり美保は、トイレに行く自由や、便器こそ与えてもらえなかったものの、足を閉じる自由と、腰を伸ばす自由だけは与えられたのである。

　ただし、それが良かったかどうかはまた別の問題。
　直腸が“下痢ＢＥＮ鉄砲”と化して噴出させたときは、そのたびに思わず腰が伸び、臀筋の助けも借りて肛門を閉じ込めた。閉め切った肛門から、豚が鳴きながら逃げ出す際は、お尻が堪らえようもなく悶えた。
　その結果、膨らみの狭間が、ひどく汚れてしまったのである。

『小便くさい』年齢をとうに過ぎ、いくらお尻の形がいいからとはいえ、誰からも『青くさい』などとは決して呼ばれず、左右の膨らみを少しでも割り広げれば『ウ○コくさい』ことは、美保が誰よりもいちばんよく知っているのだ。
　そんな自分を惨めとも恥ずかしいとも感じないほど、美保が生まれ持った純真な心は、芸能界の裏を流れる汚い泥水に染まっていない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　▼

（んー？？？）
　おかしい。僕の予想が外れたことは何の問題もないが、これは大問題。
　美保ちゃんはすでに『小』同然に出したはずの『大』の用を足し終えている。これを大問題と言わずに、他のなにを大問題と言えようか‥‥などと言えば、あまりにも大袈裟すぎるけれど。

　物語の主役に抜擢されたにもかかわらず、美保ちゃんは『立ち姿での下痢ＢＥＮ排泄』という“見せ場”への出演を拒んだ‥‥わけはない。脚本家にもなれそうな小説家の野々口さんが、肝心なその“読ませ所・抜かせ所”を省いたのだ。

　これでは小説にならない。いや、名前だけで売っているエロ本作家の中には、こんなふうに物語を進める人も多い。いわゆる『手抜き』だ。

　僕も趣味のひとつにしている囲碁では、『手抜きが最善』という局面も数多く現われる。
　でもそれは、相手の打った石にいちいち付き合うより、自分の狙いや意図を優先させたほうがいいという囲碁の理論に基づくもの。
　囲碁では石の置き換えが許されないけれど、卑近な例で露骨に置き換えてみれば、「１万でやらない？　ナマで中出しもオッケーなんだけど」と誘ってくるヤリマン女子高生と付き合うより、後々のことも考えて、自分の手で抜くほういいという判断を下すのと一緒だ。

（どうしたんだろう）
　不思議でならない。

　予算のないＣ級のポルノ映画なら、今まさに美保ちゃんが１発目を噴出させようとするシーンで、スクリーンには大きく『終』の文字が表れ、噴出を隠すのが常。そしてそこに金盥を叩く音を被せるのが常套的手段。

　一方、知名度は超Ａ級、内容はマジでＢ級のエロ本作家の場合は、まず先に、脂汗を浮かべた美保ちゃんの表情や、乱れた髪の様子などを文学的且つ細密に描写することで、いかに美保ちゃんが苦悶しているか、それを伝えようとする。そのほうが楽にページ数を稼げるからだ。

　もちろん次は、１発目の噴出場面を盛り込むのだが、それがまたいかにも“もったいぶる”割りには、肝心な場面をあっさりと書き流す。たぶん描写が面倒なのだろう。

　そして最後を、ほとんど必ずと言っていいほど、『こうして美保に対する陵辱は、夜明けまで延々と続くのであった。』とか、『そんな美保の恥ずかしい姿を、三人は飽きることなく眺め続けるのであった。』の１行で、あっさり済ませるのであった、いや、あっさり済ませるというミエミエの手抜きを、平気でやるのだ。

　でも、御手洗盥さんや野々口英世さんは違う。これまでそんな手抜きは一切しなかった。
　確かに“地の文”が脇道に逸れることは多い。だが、いったん“読ませ所”や“抜かせ所”に入ったら、いったいいつになったらその場面を抜けるのだろうかと、読んでいながら先が読めないほどに読ませてくれるのだ‥‥というような内容の文章を、野々口さん自身、盥さんの『ケツをまくった変態は大変』の解説に書いていた。

　そんな野々口さんが、まさか著作の中でケツをまくるとも思えない。僕が不思議に思うのも当然だろう‥‥と思っていたら、理由が判明。犯人は特定できないが、犯人がいた。

　ページが抜けている。１０ページ分も欠けている。それも製本段階で生じた落丁ではない。
　ここで立ち読みをした誰かが、剃刀かカッターナイフを使って本の背表紙に近い部分、専門用語では『喉』と呼ばれるらしい部分の“際”から切り取ったのだ。

　実在しない中川美保ちゃんの名誉を守るために‥‥などという馬鹿なことを考えたのなら、それはそれで、大馬鹿さ加減に呆れるしかないけれど、この犯人の目的は違う。
　家で手っ取り早く“タダ抜き”を繰り返すために、切り抜いて持ち去ったのだ。その悪質さには呆れ果てるしかない。

　今日まで僕は長い間、剃刀や刃物を携帯するような人種には、大きく分けて２種類‥‥いや、片方は『人非人』だから‥‥正しくは‥‥『人』が１種類と『鬼畜』が１匹ないし１頭しかいないと思い込んでいた。　
　常に剃刀や刃物を携帯するような人は、ヤクザのチンピラとその見習いであり、また人非人の場合なら、強姦魔ないし痴漢の常習者、すなわち鬼畜と鬼畜の志願者しかいないはずだと、頭から決めつけていた。

　しかし。こうも堂々と‥‥では日本語的には変だと思うが、新聞の整理記者は恥じることなく『白昼堂々』の４文字を使って犯罪記事を報道するから、その点はともかく。
　書店が商品として扱う本のページを、それも読者なら誰もが読みたいページを。自己利益を図るためだけの目的で切り取る馬鹿まで現われたことを、身をもって思い知らされれば。

　やはりその背景には、日本の教育制度が抱える問題が、欠陥として大きく横たわっていることを、強く再認識させられると同時に、その元凶を見通していた御手洗盥さんの慧眼には、改めて感心するしかない。

　どの本に書いてあったか、僕の場合は濫読しているから、小説のタイトルは思い出せないけれど、盥さんはその著作の中で、登場人物にこんな趣旨のことを言わせていた。

『変態には二種類いる。断罪や糾弾をされる必要など更々なく、常に許されて然るべき変態と、断じて許してはならない変態だ。そしてその境目は、法律や条例によって明確に規定されている。
　つまり、法律が罰則を設けている行為や、条例で禁じられている行為をおこなうかどうか、それが唯一絶対の判断基準なのである。
　決して道徳に基づくものではない。そのことは、たとえ親や子に対して殺意を何度となく抱いたとしても、それだけでは罰せられないことを考えれば、あなたにも理解は容易だろう。』

　そしてそれに続き、日本の教育制度の欠陥についても、元凶を名指しで批判していた。

『子供に法律を教える必要は、もちろん無い。法律などというものは、政治家と役人が好き勝手に変えるのだから、子供が学校で学ぶ意味はない。
　ただ、法律を知っておくことの大切さは教えたほうがいい。そして法律の抜け道を探し、それで自己の欲望を満たそうとするという行為が、いかに人の道に外れているかを、徹底的に教え込まなければならない。
　つまり、道徳や倫理といったものを、低学年の間に、たっぷりの時間を割いて教え、全身の全細胞に叩き込むのだ。
　ただそこでの問題は、なにが「道徳的」な行為で、どんな行為が「非道徳的」なのか、なにをもって「倫理」と規定するのか、その選別と決定役を一身に担って然るべき文部省が、そうした最も肝心な仕事を放棄していること。いや、それは正しい表現ではない。
　組織は人が構成するものだと考えれば、誰がなにをしているせいか、この際、はっきりと指摘したほうがいい。
　文部省で働く役人たち自身が、法律に触れない範囲で、自己の欲望を満たすために汲汲としていること。それが諸悪の根源なのだ。
　諸悪の根が教育現場にはびこれば、仲間と楽しく学び遊ぶために通う通学路から外れ、不良への道へ進む子供が増える。
　諸悪の根というものは、人間が人間であるための源、性根や根性まで腐らせるから、学歴を重ねていくたびに、法律の抜け穴探しが得意になる学生と、楽に稼げる道として公務員を志望する学生も増える。
　その増殖スピードは、高速増殖炉の中で中性子が核分裂を繰り返す、そのスピードの四割も速いから、民間人では止めるのが難しい。』

　盥さんは、自分の意見の最後を、こんなふうに締め括った。

『国家公務員という商売は、ごく一部の人を除けば、楽に稼げて安定性抜群。ツブシは利かないが、天下り先が潰れたという話しも聞かない。
　それを長い人生経験から学んだ親に教えられ、ただそのことだけを理由に国家公務員を志し、めでたく霞ヶ関の税金泥棒組合に加わり、その巨大な教育担当支部に配属された優秀な小役人たちには、どんな仕事が与えれるか。
　我が子たちにも同じ道を歩ませてやることを大命題として、教育格差を広げると同時に、無駄な予算と無意味で楽な仕事を増やす目的で、教育制度を歪め、歪みを外部から指摘されると、これは絶好の機会だと利口に判断し、直ちに入念に歪め直すこと。それが彼らの仕事の大部分だ。
　時には残業を自主的に申し出る場合もあるが、その仕事内容は、自分たちと異なる商売哲学の持ち主を徹底的に排斥することだけ。
　もちろん彼らが後ろめたさを覚えることはない。税金泥棒組合の他の支部、例えば現金収集担当支部にしても、医師医薬品担当支部にしても、似たような仕事しかやっていないことを、彼らはその、実に目先がよく利く目で、あっというまに見聞きしてしまうからだ。
　では、どうしたら税金泥棒組合を、実質的な解散状態に追い込めるか。結局、日本が直接選挙による大統領制を敷かない限り。そして大統領制を敷くべきだと考える政治家を国民が選ばない限り。
　教育制度が正しく改められる日など、絶対に来ることは有り得ず、反面、国会図書館にまで、貴重な蔵書を平気で傷める人が来る日も、それほど遠くないのだ。』

（！！）
　思い出した。どの本に書かれていたか、小説のタイトルを思い出した。
　盥さんが、そうしたことを語らせていた人物。それはカメラマンの椿庄太朗。そしてそれを黙って聞いていたのは、化粧品会社の若き取締役で、並外れた嗅覚を持つ優しい男、秋山義弘‥‥。

　まちがいない。椿庄太朗は、長い話しの終わりを、こんな台詞で締め括ったのだ。

『なにかいい方法はないか…ですか。そんなことを考える暇があったら、秋山さんは、ご自分の息子さんや娘さんに、せめて性教育だけでも充分に施してあげたほうがいいですよ。
　まだお子さんがいないなら、愛息の亀ちゃんを慰めてやりなさい。ちょっと慰めただけで、亀ちゃんが感激の涙を流すようなら、もっと厳しく鍛えてやりなさい。
　え？　鍛えるための道場がない。それではどうしようもありませんね……なんてことは言いませんし、ただ同情するだけでは、男の友情を築くのも難しいでしょうから、僕がいい店にご案内しましょう。クラブＳ＆Ｓという店なんですが、僕はそこの特別会員ですからね。料金はすべて生涯無料ですし、秋山さんを同行しても、マダムはどうこう言いませんよ。もしあいつが僕に言えることがあるとすれば、それは……いや、それは後でまた機会があったら話しましょう』

　そこまで詳細に思い出してしまえば、そうした内容が『ケツをまくった変態は大変』の第１０章の上巻の冒頭に書かれていたことも思い出せる。

　なぜ、すぐに思い出せなかったか、その理由もわかる。立ち読み中の小説のページが、無残にも切り取られていたという犯罪行為に遭遇し、脳味噌が少なからずショックを受けたせいだ。

（でもまあ）
　諺には『災いを転じて福となす』というやつもある。
　家でじっくりと読むときの楽しみを、ここで減らしてしまわないために、美保ちゃんが立ち姿で下痢ＢＥＮを排泄する場面は、却って読まないほうが良かったのかも知れないのだ。

（えーと‥‥）
　どこまで読んだのか、マジで忘れた。
　超だいたいの行から、超即、続きを読むことに即決定だ。