２．危険な迷い・・・

　しばらくすると、郁夫から再びコーヒーを頼まれ運んでいった。
　郁夫は執筆が進まないようで思案顔で杏子に言った。
「ふぅ〜ぅ・・・うん、今回だけは、さすがに困ったよ〜」
「どうなさったんですか？お義父さんでも、難しいことがあるんですか？」
　郁夫の作品は、哲学、宗教を包括した人間の根底にある心理を題材にしていた。
　杏子も何冊か読んだが、女子大学生の間では、結構、愛読者がいた。
「実は・・・今回の小説の中で、若い男女の愛し合うところがあるんだが・・・」
「恋愛小説・・・じゃ、無いですよね？」
「あぁ、出版社の意向で若い男女の心理を扱ったんだが・・・外的要因による内的変化を描くシーンで、20代のセックスを書こうと・・・しかし、どうしても分からないんだ・・・今の若い人たちの楽しみ方が・・・」
　杏子は困った顔で真剣に話しをする郁夫に親近感を覚えていた。
　日頃は雲上人のような郁夫が弱さを自分に示している・・・それが嬉しかった。
　言葉を続ける郁夫の股間のバスタオルが鋭く盛り上がっていたのに気づいた。
　杏子は視線の端にそれを感じながら、見て見ないふりをしていた。
「杏子さんたち夫婦は、どうかな？結婚前と結婚後で変わったりしたのかい？」
「えっ？何が・・・」
「いや、だから、愛し合い方と言うか、セックスそのものと言うか・・・」
「えっ、考えたことも無かったので・・・恥ずかしいですよ、そんなこと・・・」
「純粋に文学の話だよ〜僕にとっては、困り果てて訊いているんだから・・・手助けしてくれないか？無論、雄太には内緒だが・・・」
　雄太を気にする時の郁夫の表情や仕草に、杏子は親しみを感じていた。
「杏子さん、雄太とじゃなくてもいいんだ、経験から教えてほしんだが・・・」
「まぁ、お義父さんたら〜わたし、経験なんてありませんよ！」
「そうか、それは申し訳ない・・・まだ、新婚だから毎晩夢中だろ？」
「えぇ、まぁ・・・」
　杏子は郁夫のストレートな問い掛けに困惑した。
「話しづらいよな〜じゃぁ、僕らの時代の話をしよう・・・僕の場合は、子供を作る為の性行為と楽しむ為のセックスは全く別物だった。夫婦生活でセックスは非常に重要な要素で、相性が悪いと離婚にもつながる。だからこそ僕たち夫婦は、楽しむ為のセックスには時間をかけた。前戯には30分はかけ、お互いの性器を舐めたり触ったりして・・・それだけで女房は何度もイッていたよ」
「前戯に30分も時間をかけるんですか？」
「そうだよ、当たり前だろ？君たちはそうじゃないのか？」
「えぇ・・・３分もかからない・・・」
「そこ、そこなんだ。僕が知りたかったのは・・・今の若い人たちは、前戯にどのくらいの時間をかけて、どんな愛撫を・・・？愛し合うふたりには、どんな愛仕方だって出来るわけだが・・・」
「あのぉ〜愛撫でイクって・・・？」
「えっ？杏子さん、イッたことがないのかい？」
「えぇ・・・」
「雄太は一体どんな愛し方をしてるんだ！馬鹿者が〜可哀想に・・・杏子さん、前戯に３分じゃ、感じ始める前に合体することになりそうだね？」
「えぇ、少し、気分が良くなってきた頃に合体して・・・それから３分か５分で」
「何？それじゃ、楽しむような時間が無いじゃないか・・・今の若い人たちは皆、そうなのかな？絶頂感を感じたくないのかな〜？」
「同級生なんかと話しをすると、やっぱり旦那さんが出すだけみたいで・・・前戯よりすぐに入れたがる旦那さんが多いみたいです」
「ふぅ〜ん・・・淋しいねぇ〜〜分かった！ありがとう！少し書いてみるよ〜ところで、杏子さん熱でもあるんじゃないのか？顔が赤くなって・・・」
「いえ、大丈夫です。少し、疲れているだけで・・・」
「そう、じゃぁ、僕は仕事するから、ゆっくり休んでなさい」
「はい・・・」
　郁夫は杏子との会話がヒントになったようで、机に向き直って書き始めた。
　杏子は静かに部屋を出て、リビングのソファで横になった。

　杏子は悶々としていた。
　郁夫の話にショックを受けてたからだ。
　性生活は確かに大切だとは思っていたが、自分が思っていた性生活は、郁夫から見れば子供のお遊びのようで、前戯や絶頂感にも興味をそそられた。
「30分も掛けて前戯を楽しめば、快感を感じるのかしら・・・？本番は普通、何分ぐらい掛けるのかしら？気持ちいいって・・・どんな・・・？」
　郁夫の勃起した肉棒が何度もチラついていた。
「そうだ！ネットで検索してみよう！」
　２階の夫婦の部屋に行き、ネットに接続して検索してみた。
　今まで杏子は、あまりセックスに興味を持ったことが無かったので、そういう話題にも入っていかなかった。
「えっ？・・・ふぅ〜〜そうなんだ・・・えぇ〜〜っ！こんなことするの〜？」
　杏子は新しい発見をしたように瞳を輝かせて画面に見入っていた。
　自然と自分の手で見たとおりに自慰を始めていた。
　しかし自慰をするのも初めての杏子は、上手く感じることが出来なかった。
「難しいわ・・・やっぱり、やってもらわないと無理よねぇ〜ふぅ〜ぅ・・・」
　お昼が近づいていたが、郁夫は執筆に夢中になっていたので、杏子は少し弄って濡れた下着に不快感を感じ、浴室でシャワーを浴びた。
「あぁ〜ぁ！スッキリしたわ〜〜さぁ、お昼の支度をしようっと！」
　濡れた髪を拭きながら洗面所に出た時、今度は杏子が郁夫にぶつかった。
「キャッ！・・・あぁ、お義父さん！すみません〜」
「どうしたんだ？君が日中からお風呂なんかに入るなんて・・・」
　郁夫は全裸の杏子を見ても何の反応も無かった。
　杏子は恥ずかしくてバスタオルで慌てて前を隠してドキドキしていた。
「いえ、雨降りのせいか、少し、ジトジトしてたので・・・すみません〜すぐに、お昼のしたくしますから・・・」
「いや、慌てなくてもいいよ〜僕は、まだ書きかけだから・・・」
　そう言って、郁夫は書斎に戻っていった。
（ショック・・・わたしの裸って、魅力ないのかしら・・・？結構スタイルは自信あったのに・・・お義父さんたら何も感じてなかったわ〜）
　杏子は郁夫に裸を見られたショックより、何も反応してくれなかったことに女としてガッカリしていた。
　鏡に自分の裸体を映してみて、胸を持ち上げたり、身体を捩ってお尻を見たり、杏子は自分の豊満な肉体を再確認した。
（やっぱり、グラマーよね・・・）