（１３）

　大衆居酒屋で、妙子は香坂に色気を振りまいていた。
　髪をかきあげ香坂を意味ありげに見つめている・・・・

「ねぇ、よかったら、もう一軒行かない？」

　香坂も、酔った振りをして妙子に答える。

「え？　いいですけど、何処に・・・」
「私、結構、君みたいな男だと燃えるのよねぇー。」
「は？　どういう意味でしょう？」
「もぉう、鈍感ねっ！」
「・・・・・す、すいません。」

　妙子は、妖しい眼つきをしながら遠慮なく香坂を誘い出した。

「・・・私と寝てみない？」
「えぇっ・・・で、でも、ご主人いるんでしょ。」
「旦那なんていいのよ。あいつも好き勝手な事をやってるし。」
「でも・・・」
「見つかんなきゃ関係ないわよ。それより貴方こそ彼女に悪いかしら？」
「は、はぁ・・・い、いえ別に。」
「それとも、私とじゃ嫌かしら？」
「いえ、そんな意味ではありませんが・・・・」
「フフッ・・・・ね、出ようよ。ここは私が払うから。」
「ええ・・・・はぁ・・・じゃ、・・・ご馳走様です。」

　香坂は、妙子が支払いを済ませているうちに急いで西田に連絡を取った。
　亜美も何とか佐々木を誘い出す事に成功したようだ。

『香坂、シンディから海沿いのパークホテルのバーラウンジで飲んでると、今連絡があった。』
「そうですか。」
『で、どうする？』
「わかりました。じゃぁ、私もそこへ佐々木の女房を誘い出します。途中、もう一度連絡を入れますが、佐々木の女房と一緒にいる所を何とか佐々木に確認させますので亜美にも、そう伝えてください。」
『わかった。じゃ、待ってる。』

　香坂が電話切ると妙子が、淫笑を浮かべ店の中から出てきた。

「どこか良い所知ってる？」
「僕のよく行く西港のパークホテルはどうですか？」
「ええ、いいわよ。」

　香坂は、タクシーを止めると妙子と共にホテルに向かった。
　タクシーの中で、妙子が香坂に持たれかかってくる。
　香坂は照れた表情で妙子を見た。
　妙子は、視線を合わすと口を半開きにしながら香坂の股間を触りだした。

「さ、佐々木さん・・・」

　妙子は、香坂の声に胸のシャツまで下ろして乳房を見せ始める。

「どぉぅ？私のおっぱい・・・」

　そして香坂の手を取りスカートの中に導いていった。

（・・ククッ・・・この女も相当だな・・・）

　妙子が、運転手に聞こえないように小声で香坂に囁いた。

「ね・・・指入れて・・・」
「・・え・・・ぇぇっ・・・」
「早く、貴方が欲しいわ。」
「でも、ここでは・・・・・あと少しで着きますので。」
「・・・もぉぅ・・・ウブねぇ・・」

　妙子は、香坂の手を離すと捲れたスカートとシャツを直し、香坂の腕を掴んで持たれかかってきた。

（やれやれ・・・）

　１０分程度でタクシーは、パークホテルに着いた。
　香坂と妙子は、洋子たちのいるバーラウンジに上がっていく・・・・
　香坂は、吹き抜けの空間を挟んで位置するラウンジを見渡した。

（亜美は、と・・・・・・ん、あそこか。）

　香坂が亜美を確認した。
　香坂は、亜美たちの正面に場所を移動する。

　香坂は、背中向きに妙子を座らせるとボーイにカクテルを注文した。
　何とか連絡して亜美に、気付かせなくてはいけない。

（亜美、こっち向けよ・・・。）

　香坂がイラついていると、ちょうど西田がメゾネットを歩いてくる姿が見えた。
　香坂に気付き目で頷いている。

　西田は、周りを見渡し亜美の場所を確認すると亜美側の方から歩き出した。
　ゆっくりと前から歩いてくる西田に亜美も気付いたようだ。
　指で香坂の到着を知らせると耳たぶに手をあて了解を合図する。

　西田は、向きを変え二人の中間に座った。

（よし、まずは第一段階終了だな。）

　西田は、太平洋化学管理部の神谷映子にパークホテルに急いでくるよう電話した。

「ねぇ、お酒はもういいわ。お部屋とってよ。」

　妙子の訴えに香坂は、微笑みながら答えた。

「じゃ、少し、ここで前哨戦といきますか？」
「え・・ここでって・・・・丸見えじゃない。」
「真正面からしか見えませんよ。」

　香坂の言うとおり、２人の座っている席はラウンジの美観的な意味でレースのカーテンを使用しボックスごとに区切られているのだ。

「でも・・」

　躊躇している妙子を香坂が手を取って引き寄せた。
　妙子は、香坂の膝に腰掛ける格好で倒れ掛かった。

　すかさず香坂は、妙子の唇を強引に奪う。
　驚いた妙子だが、直ぐに香坂に抱きつき舌を絡ませてきた。
　妙子のミニスカートが捲りあがってショーツが丸見えになった。
　妙子は、唇を香坂の首筋を移動し舌を滑らせている。

　香坂が、正面を見ると亜美も佐々木の隣りで腰を引き寄せられ乳房を揉まれていた。

「アン、ここじゃ嫌よぉー。」
「じゃ、部屋を取ってやろうか。」

　その時、佐々木は、香坂に跨りショーツ丸見えの状態で尻を揉まれている妙子に気付いた。

「お、おい、見てみろよ。向こうのカップルも大胆にやってるぞ。」
「あら、凄いわね・・・」

（・・・・・・ったく、裕二さんったら・・・）

「よし、やっぱり、少しあいつらを見ていよう。」

　香坂は、佐々木と亜美がこちらを見ている事に気付く・・・

　香坂は、妙子のショーツをずらして蜜壷に指を入れ始めた。
　佐々木が、興奮しながら独り言のように呟いた。

「おぉーっ、凄いぞ、あいつら。見ろよ、指入れてるぜ。」

（・・・ゆ、裕二め・・・いくら仕事とはいえ・・・・・・）

「んーっ、あの女の腰の振り方、相当感じてやがるな・・・グフフッ・・・」

　亜美は、佐々木の言葉に笑いを堪えながら肉棒をズボンの上から擦り始めた。
　既に佐々木の肉棒は、興奮で怒張している。

「私たちも部屋に行っていい事しようか？」
「あ、ああ。それもそうだが、前の奴らにも興味が沸くぞ。」

　その言葉で亜美は、佐々木のベルトを下げてチャックを開いた。
　一瞬、亜美の行動を怪訝に思ったようだが、なすがままにさせる佐々木・・・
　亜美は、佐々木の肉棒を露出させると手で硬くなったモノをゆっくりと擦すった。
　佐々木も亜美のヒップに手を当てて興奮しながら香坂たちを見続けている。

　香坂も、気付かぬ振りをして、そのまま妙子への愛撫を続けていた。

「どう？　感じるかい。」
「・・ぁぁ・・・いい、無茶苦茶、気持ちいいぃぃー・・・」
「ここで入れてみようか・・・」
「で、でも・・・」
「わかった、じゃ、場所を移動しようか？」
「ええ、そうしてよ。ここじゃ、やっぱり・・・」
「じゃ、直ぐにインサートできるように脱いでおこう。」

　香坂は、妙子を立たせるとショーツを脱がせてポケットにしまった。
　前を見ると亜美が、尻を擦られながら佐々木の肉棒を握って上下している。

（！・・ゲッ・・・・・・あ、亜美の奴・・・）

　香坂は、冷静を装うのに必死だった。
　香坂は、その場で妙子を抱きキスをした。
　スカートを捲りヒップを掴みながら割れ目を開いたり閉じたりしている。

「・・やつら場所を変えるようだな・・・・くそぉー・・・」

　香坂が、ボックスを離れて手すりに妙子を導いた。
　何とか佐々木に妙子だと気付かせなくてはならない。

　妙子は、手すりに身体を預けると香坂を見つめる。

「え・・ど、どうするの・・」
「やっぱり、もう少し濡らしておこう。」

　そう言うと、妙子の足を開かせ後ろから指を挿入する。

「・・ぁぁ・・だ、駄目よ・・・誰か来るわ・・・」

　香坂は、妙子のシャツを捲くり上げてもう片方の手で乳房を鷲掴みにした。
　妙子は、淫艶な表情で眼を閉じながら香坂の愛撫に浸った・・・

「ん？・・・・え・・・ま、まさか・・・」

　佐々木の態度に亜美が呟く。

「ど、どうしたの？」
「い、いや・・・・別に・・・」

　香坂が妙子の後ろから蜜壷に指を入れて激しく愛撫を繰り返す。
　そして、妙子の足が震え出した・・・

「・・・だ、駄目・・・ここじゃ嫌っ・・・」

　香坂は、愛撫を中止すると妙子を手すりから離れさせた。
　ちょうどスポットライトが照らす位置に妙子を引き寄せる。

　妙子の顔が佐々木の位置からも、はっきりと確認できた。
　香坂が、目を向けると佐々木が驚いた顔をしているのがわかった。
　そして香坂は、佐々木の方を見て静かに微笑んだ・・・・・・

（１４）

　スポットライトに照らされる妙子の顔が鮮明に佐々木の目に飛び込んできた。
　妙子は、香坂の股間に手をあて身体を寄せていっている。

「！・・・・ウッ・・・・た、た・・妙子っ！」
「え、、なに・・どうしたの？」

　亜美を無視して、佐々木は慌てて立ち上がると香坂と妙子を追い掛けようとした。
　しかし、亜美にベルトを外されズボンがさがった状態であるため走れない。

「お、おい・・・あいつらを追っかけてくれ。」
「え・・？　何で・・」
「いいから、早くっ、頼むっ！」

　佐々木は、チャックを上げながら亜美に怒鳴るように声を上げた。

「わ、わかったわよ、もう・・・」

　亜美が、香坂たちの後を追った。
　その行動を見ていた西田も薄ら笑いを浮かべて後に続く。
　焦っている佐々木は、シャツがチャックに挟まり、なかなか動けないでいた。
　ついに、諦めるとベルトを持ちながら必死の形相で追いかけていく。

　亜美は、ラウンジを出た所で特に慌てるわけでもなく、ロビーで壁にもたれて立っていた。
　慌てて飛び出てくる佐々木が、香坂の行方を亜美に尋ねる。

「見失っっちゃったわ。」
「な、なんだって・・・・・くっそー・・」

　顔を顰める佐々木に、亜美は見知らぬ顔で西田からの連絡を待った。

　一方、香坂は、階段を降りていると偶然、ドアが開いているリネン室を見つけた。
　香坂が妙子を、そこへいれてドアを閉める。
　中は、ホテルのリネン室だけあってかなりの広さだった。

「ど、どうしたの？　部屋へ行きましょうよ。」
「ちょっと、待ってくれ。」

　香坂は、妙子を待たせて外へ出ると西田に連絡をとった。

「もしもし、香坂です。いま、ラウンジのすぐ下階のリネン室にいます。」
『わかった。俺は、ロビーにいる神谷映子を連れてから、そこへ行く。』
「わかりました。」

　中に入ってきた香坂を妙子が怪訝そうな表情で質問をしてきた。

「な、何かあったの？」
「いや、なんでもないよ。」
「ねぇ、お部屋に早く行きましょうよ。」

　せがむ妙子に香坂は、答えた。

「ああ、まだ時間はあるし、１回戦はここでどうかな？」
「・・・こ、ここで？」
「こういう所も、結構いいと思わないかい？」

　妙子は、少し考えているようだ。
　香坂を見ると小さく頷いてから返答をする・・・

「・・・・後で、必ずベッドに連れて行ってくれる？」
「ああ、勿論さ。」
「わかった。じゃ、いいわ。」

　そう言うと、妙子は着ている服を全て脱ぎ香坂に抱きついてきた。
　香坂は、シーツを棚から落とし妙子を寝かせる。
　乳首を愛撫しながら蜜壷にも指を挿入した。

「・・・ゥゥ・・アァァァ・・・・た、たまんなぃぃぃ・・・」

　上のラウンジのロビーでは、亜美が佐々木に先程の事を尋ねていた。

「一体、どうしたの？」
「・・・ぅぅ・・さっきの奴ら・・・あの女は・・・・俺の・・・・俺の女房なんだ。」「ええっ？」

　亜美は、いかにも大袈裟に驚きながら佐々木に聞き返す。

「どうするの？」
「何処かの客室にいるかも・・・・探すには無理があるし・・・」
「今頃、奥さん、あの格好いい人に激しく攻められてるんでしょうね。」

　佐々木は、亜美の言葉に怒りを示し壁を思いっきり蹴っ飛ばした。

「ん？　なんで格好いい男ってわかるんだ。俺は暗くて、男が全く見えなかったのに。」
「え・・・・ぁ・・・・いや、何となく・・そうかな・・と・・」
「チッ・・・勝手に思うなっ！」

（フゥー、やばかったわ。）

　険しい顔で、何かを考えている佐々木が独り言のように喋りだす。

「まだ、あの男も女房もこのホテルにいるだろう。１階のロビーで待ち伏せててやる。」
「で、どうするの？」
「まず、男を半殺しにしてやるぜ。」

（・・・・・・逆だと思うけど・・・）

　佐々木は、腕時計を見た。

「チッ・・・時間を持て余すな・・・」

　そう言うと佐々木は亜美に近づいてきた。
　いきなり亜美に抱きつく佐々木・・・

「・・ちょ、ちょっと、何するのよ・・・」
「いいじゃねぇか、さっき、早く部屋に行きたいって言ってただろっ！」
「部屋ならいいけど、ここじゃ嫌よ。」

　佐々木は、亜美の言葉を無視してスカートの中に手を侵入させてきた。
　股間部をショーツの上から探り始める・・・

「やめてよっ！」

　亜美は、佐々木を突き飛ばした。

「なんだとっ。部屋でも、ここでも一緒だろっ！」

　そこへ、西田が映子を連れて現れた。
　佐々木が、西田と映子に気付き驚きの声をあげる。

「え・・映子、お前、帰ったんじゃないのか？・・・・・誰だっ、その男はっ！」

　佐々木の怒鳴り声に西田がクールに答える。

「貴方こそ誰です。妙子は私の女ですよ。」
「なっ・・・・・クッ・・・え、映子・・・本当なのかっ！・・・」
「・・・ええ、そうよ。」
「この、クソアマァー・・・舐めやがって・・・」

　西田の態度が一変した。

「佐々木さんよ、諦めろ。見苦しいぞ。」
「何だとぉっ、その女は俺の物だ。てめぇ、ただで済むと思ってんなよ。」
「よく言うぜ、その女性に抱きついていたじゃねぇか。」
「うるせぇっ！」

　佐々木が、西田に殴りかかろうとするが軽くフェイクしてかわされてしまう。
　よろめく佐々木に西田が呟いた・・・

「佐々木さんよ、そんな事より自分の女房はいいのか？」
「・・・な、なに・・・・・そ、そう言えば、貴様、さっきから俺の名前を知っていたり、女房の事まで・・・・・・一体何者なんだ。」
「佐々木さん、それを今から説明してやるぜ。一緒について来いよ。」

　そういうと西田は、亜美に小声で何かを囁いた。
　頷く亜美は、エレベーターでロビーに降りていく。
　佐々木が、再度、西田に怒鳴った。

「お、お前らっ・・・グルかっ！」

　西田は、薄笑いを浮かべると香坂に電話を入れた。

「香坂、今から行く。」
『了解っ』

（ククッ・・・やってるな・・）

　西田は、電話の向こうから聞こえた妙子の喘ぎ声に笑いを浮かべた。

「さ、じゃ、行きますか、佐々木さん・・・」

　西田と映子の後に続き階段を降りていく佐々木・・・
　妙に顔が強張っているのが解る。

　下階に降りた西田と映子、そして、佐々木がリネン室の前に立った。

「佐々木さん、ここに、貴方の女房がいる。」
「な、なにぃっ・・」

　佐々木は、ゆっくりとドアを開けた。

「あぁぁ・・早くオ○ンコに入れてぇぇぇー・・・」

　中から妻の妙子の喘ぐ声が聞こえた。
　佐々木は、勢いよくドアを開けると真っ裸で自ら蜜壷を大きく開き腰を上げて香坂を誘っている妙子の姿が目に飛び込んできた・・・

「た、妙子っ！」
「・・ぇ・・・・ぁ、・・、あ・・・あ、あなた・・・ど、・・どう・・して・・」

　妙子は、亭主の突然の出現に身体が硬直し声も出せないでいた。
　みるみる血の気が引いていくのがわかる。

　佐々木は、香坂をみると、いきなり殴りかかってきた。
　軽く膝をける香坂・・・・佐々木は勢いよく前につんのめっって倒れた。

「ググッ・・・き、貴様ら・・・・こんなことして、ただで済むと思うなよ・・」

　ちょうどそこへ、センター第三課長の野口が亜美と現れ佐々木の言葉に割って入った。

「ただで、済まないのは貴方の方ですよ、佐々木さん。」

　佐々木は、亜美と現れた野口の存在に頭の整理がなかなかつかないでいた。

「お、お前ら、一体、・・・・・何者なんだ。」

　野口は、顔色一つ変えずに答えた。

「私は、太平洋グループ、中央管理センターの野口と言います。」
「・・な、な、何だ・・・と・・・」

　佐々木は、野口の言葉に驚愕した。
　全く頭の整理が出来ないでいるようだ。

　野口が亜美に振り向き目で合図をした。
　亜美が、外に待たせていた連中を中に入れる。

　入ってきた男たちを見て、佐々木の顔が激しく歪んでいく。
　入ってきたのは、ＢＢ化学事業部長の本田と筆頭専務の石井だった。
　中の様子を見渡す二人は、佐々木と妙子を交互に見ていた。
　妙子が、慌ててショーツを手に取り、それを穿こうとするが、身体が震えて思うようにいかない。
　震えながらも、何とか穿く事は出来たが、裏返しの上にＴバックショーツが前後逆さで見事に蜜壷に食い込んでいた・・・

　専務の石井が佐々木に尋ねた。

「その、見苦しい格好をしているのは君の奥さんかね。」
「は、はい・・・・こ、これは・・・じ、実は・・こいつらに騙されまして・・・」
「ほぅ・・・それで？」

　香坂も黙って佐々木の言い分を聞いていた。

「・・・・つ、つまり・・・・」

　専務の石井が、話を割って入る・・・

「騙されたのは、私ら幹部と太平洋さんじゃないのかね？」
「・・そ、そそ・・・そんな・・・違います・・・・そ、その・・」

　野口が西田に説明を促した。
　西田が、映子を前に出し、ＢＢ化学の専務らに説明を始めた。

「専務さん、部長さん、この女性が太平洋化学の管理部員で神谷映子と言います。彼女が、お宅の佐々木さんに１７回に渡って当化学の機密データを渡しました。」

　佐々木の顔が更に歪む・・・・
　西田が、先程カメラで捉えた、佐々木と映子の受け渡し現場の写真を専務に見せた。
　更に、佐々木の胸ポケットから封筒を抜き取り映子が録音した会話テープを流し始める。
　録音テープを聞く専務の石井と部長の本田の額から汗が流れ始めた。
　野口は、テープを止めさせるとＢＢ化学の石井と本田に強い口調で訴えた。

「専務さん、どういう事になるか、お解りでしょうね。たかが、こんな事でもＢＢ化学は、これで終わりですな。太平洋としては、陳謝されても、一切聞く耳は持ちません。そして企業間提携を停止すると共に、来月の中央企業会議で今件の話を持っていきます。社長さんにも、よく話しておいて下さい。」

　専務の石井と部長の本田が、反射的に土袈裟をして額を地につけた。

「そ、それだけは・・どうか、どうか、お考え直しを・・・・」
「甘いっ！　明後日に、お宅らは、緊急の企業会見するそうじゃないですか。この佐々木という男がやった事がどういう事か解ってるんでしょうね？
　メディアによる報道でうちの運営がストップし、罪のない社員がクビを切られ製造が中止し親会社の投棄損失で80%億円が消えるんですよ。」
「・・・ゥゥ・・」
「ま、私は、一介のセンター課長ですので、上がどう判断するかわかりませんが、今、あなた方に言った事を当社の幹部にも、そのまま具申するつもりでいます。」
「・・・ど・・・どうか・・・どうか・・・」

　頭を床に擦りつけながら必死で願いを請う石井と本田・・・・
　顔色を変えなかった野口が、鬼の様な形相に変わる。

「・・・・・太平洋グループを舐めるんじゃねぇっ！」

　野口が大声で怒鳴った。
　専務の石井も部長の本田も野口の声で更に萎縮していく・・・
　石井は事の重大さに、身体の震えが止まらないでいた。

「・・・何卒・・・何卒・・・どうか・・・」
「最後に一つだけ言わせて頂きましょう。ＢＢ化学は若い主導幹部がいるらしいですが、低脳な者ばかりですな。確かに化学部門では、太平洋化学より歴史も古く実力もあるかもしれませんが、うちの親玉は天下の太平洋グループですよ。それを承知で対等に喧嘩を売ってきたんだ、覚悟の上での事でしょう。ええ？　専務さん、違いますかね？」
「・・・・そ・・・それは・・・」
「あなたも私たち同様、大手企業で命を張ってる人間だ。今まで胸張って、自信持ってやってきたんでしょう。」
「・・・・・・・」
「貴方たちもプロかもしれん。しかし、・・・・・我々、センター員は・・・・・ザ・プロだ！」

　野口の放った言葉に西田、香坂そして亜美の背筋が伸びた。
　さすがセンターの課長を務めるだけの事はあり、攻め込む言葉に重みがあった。

　石井と本田は、肩を落として唸っている。
　野口が佐々木と妙子を見据えたあと西田たちに声を掛けた。

「さ、行こうか？」

　野口の合図で、西田ら３人がリネン室を出た。

「課長、いつＢＢ化学の専務たちを？」

　香坂の質問に、野口が答えた。

「遠藤所長だよ。鏑木の案でな。ま、最近表に出ない分、俺たちも必死だが。」

　そう言って笑う野口の背中が妙に格好よく見えた。
　西田も香坂も男の背中は、まさに、実力が物語るという事を改めて実感した。