（２３）

　大塚が、説明を終えて亜美に喋り掛けた。

「もし、苦痛や絶えられない事があった場合は遠慮なく言ってください。」
「は、はい。」
「それから、本番は、ご希望しますか？」
「えぇーっ・・・・・・ぃ、いえ、それは・・ちょっと・・・・」
「では、器具使用のプレーだけでよろしいですね。」
「はい、それでお願いします。」
「では、どうしましょう？　アップル、オレンジ、グレープとありますが。」

　亜美は、ＳＭの知識もなく説明だけでは、どういう刺激があるのかも解らなかった。
　もう一度、解説本に載っているプレー写真を見ながら大塚に返答する。

「じゃ、オレンジでお願いします。」
「はい、オレンジですね。」

　結局、経験と思い、興味本位で適当に答えてしまう亜美・・・・

「では、仮面をお取りください。」

　亜美は、大塚の言うとおりにする。
　大塚が亜美の顔を眺めた。

（こ、こりゃ、いい女だぜ・・・・・・この女も頂いてやるかな。）

　大塚は、亜美の手を取り、産婦人科の診察椅子のようなものに座らされた。
　大塚が、殺菌グローブを両手にはめている。

（え？　ゴム手袋・・・・・・な、何をするのかしら？）

　大塚は、椅子の背を後ろに倒すと亜美の乳房を揉み始めた。

「・・アンッ・・・」
「いいオッパイだぜ。もっとキツク揉んでやろうか。」
「え、い、いえ・・普通でいいです。」

　亜美の、らしからぬ反答に大塚が笑いながら答えた。

「・・・あ、あの、お客様、一応、言葉も演技ですのでプレーにあわせましょう。ＳＭは、まず形から入るんです。私の言葉責めで感じるように努力してください。」
「は、はい、すみません。」

　亜美は、体裁悪そうに顔を顰めた・・・・・
　大塚は、気を取り直してプレーを再会する・・・・

　その頃、真央の部屋では、裕二が、章一の自殺した原因を聞かされていた。
　真央が遠くを見るような眼差しで煙草をふかしながら淡々と話をしている。

「章ちゃんは、元来、気が優しくて、すごく大人しい性格だったの。建築会社では、改装や模様替えを担当する指導主任をしていたわ。
　そして、偶然、この店を改装する時の指導担当を任されていたの。ここで中学時代に同級生だった大塚正と偶然、再会しまったのよ。
　大塚は、章ちゃんを見て懐かしがってたんだけど、元々、性格上悪どい男だし、章ちゃんを利用して営業成績をあげようと考えていたんでしょうね。
　大塚は、章ちゃんの会社の仲間も店に連れてくるよう頼んでいみたいで、章ちゃんも嫌と言えない性格だから、この店を仲間に紹介していたみたい。
　仲間の中には、ＳＭ好きな人もいて喜んでたらしいけど、ちょうど、章ちゃんの直属上司の部長さんが、例の如く大塚に騙されて、会社に、かなりの損害を被ってしまったのよ。
　もう解るでしょ、章ちゃんをおとりに掛けて大塚が金儲けに走ったのよ。身に覚えのない章ちゃんは、答えようがなかった。そして、結局は、会社をクビになったわ。」
「・・・・・」
「章ちゃんと、妹の美貢はね、小さい頃に両親を亡くして、ずっと施設で育ったの。
　でも章ちゃんは、頑張り屋だったし、必死の努力で会社に就職して美貢を大学にまで入れて頑張ってきたわ。
　美貢も章ちゃんの、それまでの苦難と自分を育てる努力を見てきたから、理由なくクビになった建築会社にも抗議にも行ったのよ。」
「・・・・・・」
「でも、そんなこと所詮無理よね。」
「・・・まあな。」
「そして、美貢は考えた。それなら章ちゃんを騙した大塚に責任を取らせてやろうと一人で出かけたの。」
「その時か・・・」
「ええ。・・・章ちゃんは、様子のおかしい美貢を問いただした。理由を知った章ちゃんは、大塚の所に足を運んだわ。大塚は笑いながら言ったのよ。
　お前の妹が望んだんだってね。そして・・・・・そして・・・挙句に・・・・・・・」

　真央の眼から、薄っすらと涙が流れ始めた。

「大塚は、お前の彼女も・・・・俺と付き合ってるんだと・・・・・・・・今日も、・・・・さっき抱いたばかりだと・・・嘘を・・・」
「・・・・・・」
「私は、それまで大塚とは、一回も会った事もないし、名前さへ聞いた事もなかった。章ちゃんは、ショックで酔いつぶれたわ。私に、確認する勇気さへ、持ってないような男だったからね。
　１２枚もの紙に遺書を書き残して、ビルの屋上から・・・・・」
「・・・・・・真央さん・・・・」
「そのときの遺書がこれよ。大塚と出会ってからの事が事細かく書いてあるわ。」

　真央がバッグから章一の遺書を取り出して裕二に渡した。

「読んでいいのかい？」

　頷く真央・・・・

「私の事を誤解したまま、自殺した章ちゃんに怒りを感じたわ。なんで・・・・なんで・・・・・・聞いてこないのよって・・・・・・・・」

　裕二は、章一の性格を読み取って静かに語った。

「真央さん、章一さんの性格上、君に聞けなかったんだよ。」

　真央は、悲しそうな顔をして俯いた。

「・・・・・・私も・・・・・私も死のうと思ったわ。死んで、あの世で章ちゃんを叩いてやろうと思った。・・・でも・・・」
「・・・・・・妹の・・・・美貢さんか？」
「・・・ええ、・・泣きながら私に抱きついてきたわ。お兄ちゃんの分まで、生きてって。死なないでって。・・・悔しかった・・・・・・悔しくて、悔しくて・・・・・・・・」
「真央さんと章一さんは、どうやって知り合ったんだい。」
「私は、この世界に入るまでは、普通のＯＬだったわ。章ちゃんとは、施設ボランティアのサークルで知り合ったの。章ちゃん自身、施設で育ったから彼らの寂しさや辛さを知ってるし、勇気を与えたいって。私は、親身になって懸命に接する優しさや真剣な活動を尊敬したわ。」
「そういうところを君も好きになったんだね。」

　真央が、ゆっくりと頷く・・・・

「・・・・・章ちゃんと結婚を約束した時、二人で施設を作ろうって・・・・・・・・・真央も手伝ってくれるかいって。私は章ちゃんに着いて行く事を決めたわ。」
「その矢先に・・・・か・・・」
「彼を・・章ちゃんを・・・・心の底から・・・・・愛していた・・・・・でも・・・」「・・・・」

　その時、裕二の携帯電話のバイブが響いた。
　センターからの電話だった。

「香坂です。」
『鏑木だ。』
「あ、補佐・・・」
『お前の部下が大塚の部屋から全て証拠品を奪ってきたぞ。』
「そうですか。上手くいきましたか。」
『ああ、ビデオよりもっと凄いものが見つかった。』
「え？」
『今まで奴のやってきた事は半端じゃないぞ。数年の懲役なんていうレベルじゃないな。』
「ほぉぅ・・・で、その内容は？」

　裕二は、鏑木からの説明を聞いた。
　裕二の顔も驚きを隠せないでいる。

「解りました。もはや、とことん派手にやっても奴は何も言わんでしょう。」
『香坂、好きなようにやってこい。』
「解りました。」

　電話を切った裕二に真央が話し掛けた。

「どうしたの？」
「・・・真央さん、奴は、本当の殺人者だよ。」
「えぇっ・・？」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　その頃、亜美は大塚からの責めで女芯を愛撫されていた。
　喘ぐ亜美を見て蜜壷に指を入れてくる・・・

「ちょ・・な・・アアン・・・抜いてぇー・・・」
「え？・・・指も嫌ですか？」
「あ・・・ええ・・その・・・ちょっと・・昨日、彼が激しくて、痛みが・・・・」

　いい加減な言い訳をする亜美に大塚も困り果てた。

「解りました、では視姦プレーにしましょう。」

　そう言うと大塚は、亜美から離れ、棚からグリセリンの入ったボトルを取り出し大型の注射器に液体を注ぎ始めていた。
　亜美は、早く大塚に目隠しをしようと必死だったが、中々いい手が浮かばない。
　大塚の様子を見るでもなく天井を向いたまま考えに集中している。
　準備の終えた大塚は、亜美に近づくとア○ルに注射器の先端を当て一気に液体を注入していった。

「ぅぅ・・イヤァー・・・な、・・・え？・・お尻に何入れたの・・」
「え、・・グリセリンですけど。」
「グ、グリセリンって・・・」
「だから、視姦プレーで、お客様が排便する所を私が見て言葉責めで恥辱を与えようと・・・・」
「そ・・そんな・・・・・・・ゥ・・」

　亜美は、早くも腹痛を訴え始めた。
　部屋には、ドアのない和式の便器が設置してあるだけで他にはない。
　絶対に、これだけは見られたくないと思った亜美が大塚に訴えた。

「あ、あの・・・で、出ちゃうから・・・何か・・栓を・・・」
「栓？・・・ああ、ア○ルプラグですね。」

　大塚は、そういうとプラグを持って亜美に見せた。

「どの大きさがいいですか？」
「い、一番小さいのを・・・」
「はい、解りました。」

　大塚がプラグにジェルを塗ると亜美の表情を確認しながらア○ルに差し込んでいく。

「・・ゥ・・ッ・・・」
「そのまま、５分程、辛抱してください。」

　亜美の思考能力が一気に落ちてきた。
　もはや手など考えている暇はない。
　遂に恥かしさを我慢して大塚に注文をする。

「あ・・あの・・私の・・・その・・オマタを・・・あ、愛撫して・・く・れない。」
「ええ、いいですよ。」
「で、できれば・・お口で・・・・」
「いいんですか？」
「ええ、・・・でも・・・恥かしいから・・その・・目隠しを・・・」
「それはかまいませんよ。」

　大塚は、興奮しながら亜美の寝ている椅子の下に移動すると、じっくりと濡れそぼる蜜壷を眺めた。

「綺麗なオ○ンコですねぇー。」
「い、イヤッ・・・め、目隠しして・・」
「解りました。では・・・」

　大塚は、皮のアイマスクをつけると亜美の蜜壷に舌を這わせ始める。
　それを見た亜美が、胸の拘束帯の裏に隠しておいたタッチボタンを急いで押した。

（裕二さん早く来て・・・も・・・漏れちゃ・・ぅ・・・）

「おっ・・・合図があったぞ。」

　裕二の胸ポケットのペンが光った。

「よし、行こう。」

　裕二は真央を促し、急いで大塚と亜美のいる部屋に向かった。

（２４）

　裕二と真央は、正面から向かって後方のドアから部屋を出た。
　正面からは、他の客に見られてしまうため裏の通路から入ることにしたのだ。
　真央に案内され、裕二は亜美と大塚に居る部屋の前で立ち止まった。

「ここよ。」

　真央の声に目だけで頷く裕二・・・
　真央は、施錠してあるドアに鍵を挿し込みゆっくりと回した。

「開いたわ。」

　真央の言葉で裕二は、そっとドアを開けて中を覗く。
　中央にいる大塚の背中が見えた。

（・・ゲッ・・・・大塚の野郎、亜美のマ・・・・クソッタレー、許さん。）

　裕二は、怒りを押さえながら音を立てないように部屋に入った。
　亜美が裕二に気付くと恥かしそうに手で顔を覆う。
　裕二は、静かに大塚に近づいた。

　裕二は、怒りを込めて股間に貪りつく大塚の髪を掴み一気に引き上げる。
　一瞬、何が起こったか解らない大塚がアイマスクを外し後ろを振りむいた。
　その瞬間、裕二の強烈な頭突きが大塚の顔面にヒットした。
　声をあげて唸る大塚の腹部を更に膝で蹴り上げると、大塚は、裕二に、もたれ掛かるようにして気を失った。

「ゆ、裕二さん・・・・お、遅い・・・っ・・て・・」
「亜美、何も、そんなとこを舐めさせなくてもいいじゃねぇか。」
「・・・ゥ・・ァゥ・・・・・そ、そんな事より・・・ト、トイレ・・・・へ・・」
「は？・・そこにあるぞ。」
「・・そ、・・・そんな丸見え・・・よ・・・」
「・・・だな。・・しかし、どうした？苦しそうだけど・・・」
「・・こ、コイツに・・・かん・・・浣腸・・・さ・・・・ァ・・」
「か、浣腸っ？」

　真央が、亜美にスタッフ専用のトイレを教えた。

「裏口の正面にあるわ。そこを使ってもいいわよ。」

　もう喋るだけで漏らしそうな亜美は、顔を真っ青にさせて頷いた。
　両手で後ろを押さえながら振動を与えないようにゆっくりと外へ出て行く。

「ったく、任せておけとか言っておきながら・・・・」

　裕二は、気を取り直して大塚を亜美の寝ていた診察椅子のようなベッドに寝かせた。
　両手両足を固定し、皮製の顔面拘束帯を被せる。
　真央が、裕二に尋ねた。

「どうするの？」
「・・・・君はどうしたい？」
「・・・・・・」
「もう、君の正体をコイツにばらしても全く大丈夫だ。コイツには、文句を言わせない切り札があるからね。」

　真央は裕二の言葉で大塚に対する仕打ちを考えた。

「コイツを・・・もう、女を抱けないようにできる？」
「・・・・いいだろう。」

　裕二は、大塚の派手な色のブリーフを脱がせると、足を止めている下部の台を上昇させた。
　大塚の菊門が、丸見えになる。

「真央さん、まずは君の好きなように痛めつけたらどうだい。」

　真央は、裕二の顔を見ると、棚から飾り用の木製男型を取り出した。
　ゆうに牛乳瓶くらいの太さはあるだろうか。

　真央は、それを大塚の菊門に当てがうと体重を掛けて一気に根元まで差し込んだ。
　痛みで目を覚ます大塚・・・

「・・？・・ウガァァ、グゴォォォーッ・・・グググッ・・だ・・・だ、だ、誰・・・・グアァ・・・」

　顔面拘束帯をはめているため声がくぐもって聞こえる。
　そして大塚の菊門からは大量の出血が始まった・・・

　真央が、大塚の顔面拘束帯の眼の部分だけを捲った。
　大塚が真央を見る・・・

「ま・・魔子・・・・テ、テメェー・・・・・・な、何の・・・真似だ・・」

　真央は、大塚の菊門に刺さった木製男型を引き抜くと、再度、力を込めて挿し込んだ。

「！ギギィ・・ウガァァァァァァァーッ・・・・・グググググッ・・・や・・・やめろ・・・」
「大塚、私はね・・・アンタを追ってこの店に入ったんだ・・・。」
「・・・な・・・？・・・ぅぅ・・」
「アンタの中学時代の同級生だった、篠塚章一を覚えてるかい。そう、自殺した篠塚章一、・・・・・私はその婚約者だった女よ。」
「！・・・な・・・な・・にっ・・・」
「彼と、彼の妹の美貢・・・そして・・・・・そして、私の苦しみを晴らすために、何年も・・・何年も掛けて・・・・私は・・・・アンタに復讐するために・・・」
「・・・魔子・・・テメェ・・こんな事して・・・グッ・・ただで済むと思うなよ。」
「あんた、この状況で、よくそんな事が言えるね。」
「テメェ、・・・俺の怖さを知らんようだな・・・俺のバックにゃ・・・」

　そこまで言うと、裕二が大塚の股間を爪先で蹴っ飛ばしながら言放った。

「グガァァァァァァァー・・・・・・・・・テ、テ、テ・・・テメェー・・・・・・・・ウグッ・・・・ゥゥゥゥ・・・・な、なんだ・・貴様・・は・・」
「俺か？・・・・俺は地獄からの使者だ。」

　目を真赤にさせて裕二を睨む大塚・・・
　裕二は、低い声で喋り始めた。

「あんたのバックとは、○○党の横山代議士か？・・それとも勝井組の親分か？　どちらにしろ無駄だ。奴らには既に手をうった。２度とお前とは関わらんだろう。」
「・・・な、なんだと・・・・」
「お前は、今まで２人の人間を殺してるな。一人は、付き合ってた若い女性、もう一人は、資産家の老婦人、いずれも保険金目当てでな。酷ぇ、男だぜ。」
「・・・クッ・・・な・・何を証拠に・・・・」
「さっき、お前のマンションに俺の仲間が踏み込ませてもらった。クローゼットの中の金庫に凄いものが沢山入っていたらしいぞ。」

　大塚の顔が一気に蒼ざめていく。
　目が飛び出るくらいの驚きようだ。

「それを警察に届けてみるか？」
「グッ・・・テメェ・・・・」
「それだけじゃない。今までの、お前のやってきた事は大半が犯罪だ。ま、辛い刑務所暮らしを数年続けた後、死刑台に乗るのは確実だな。」
「グッ・・・・テ、テメェは、いったい・・・何なんだ・・・」
「言っただろう。地獄の使者だって。」
「クッ・・・」
「ま、地獄に行く前に、今から少し慣れとけよ。」

　裕二は、そう言うと真央に振り向き首を振る。
　真央は、大塚の肉棒にクリップを挟むとカウザーという電気を流す機械を手に持った。
　そして、つまみをゆっくりと上げていく。

「ギィィィィィィィィィーッ・・・・や、やめろっ・・・やめてくれぇーっ・・・」
「この程度、なんだってんだい。章一は、もっと苦しかったんだ。美貢は、もっと辛かったんだよ。そして、私は・・・私は・・・・・・・」

　真央は、そこまで言うと、つまみを最大値に回した。

「・・・ギャァァァァァー・・・・グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーッ・・・・」

　大塚が、あまりのショックに失禁しながら気を失った。
　真央は、金属製の棒を手にとると大塚の首に当て、更に電気を流して強制的に眼を覚まさせる。
　そして、何度も同じ事を繰り返した。

「・・や、・・・や、・・・・・・やめて・・・・く・・れ・・・」
「私は、サドだよ。やめろと言われて手を休めるとでも思ってるのかい。」

　真央は、再度カウザーのスイッチを回していった。
　大塚は、繰り返す真央の仕打ちに吐き気をもよおす。

「・・・す・・・すま・・ない。・・・ユ、ユルシ・・テ・・ク・・・・レ・・」
「許すわけがないでしょ。」
「わ・・・解った・・・じ、自首・・・する・・・・こ、殺さ・・・ない・・で・・」

　真央が、大塚の言葉に、カウザーから手を離そうとすると裕二が阻止した。

「真央さん、信用するな。こういう男は開放されれば何度でも同じ事を繰り返すんだ。」

　真央が、裕二の顔を見つめた。
　表情を変えずにいるが、裕二の身体から発する異様な雰囲気に真央自身も身体に震えを覚える・・・・

「真央さん、君のやり方は、まだ甘い。拷問っていうのを見せてやろう。」

　裕二は、そう言うと大塚に近づき、親指を両目に当てて上から強く押さえ始めた。

「ウッ・・・な、なにを・・・・」
「大塚よ・・・眼球の潰れた音を聞いた事があるか？」
「・・・ァヮ・・・ヮヮ・・・や・・・やめて・・・・くれ・・・」
「心配するな。目が見えなくなっても生きていく事はできる。」

　そう言うと裕二は、上から体重を掛けていった・・・

「ヤ、ヤメロォォォォーッ・・」

　大声で叫び声をあげる大塚の身体が跳ね上がる。
　裕二は、そのまま肘を大塚の顎に打ち付けた。
　気を失う大塚の顔面拘束帯の下から血が滴り落ちてきた。

　大塚から離れた裕二に真央が恐々と声を掛ける。

「ほ・・・本当に、潰したの？」
「いや、さすがに俺にもそんな勇気はないよ。ただ恐怖心を与えるには最高に効く方法さ。」

　僅かではあるが、真央の身体が震えていた。
　裕二の雰囲気に圧倒されているのだろう。

「さ、真央さん、君の希望通り女を抱けないようにするぞ。」

　真央は、裕二の言葉で背筋に冷たいものが走った。

　更に、裕二が部屋にある道具を物色しはじめた。
　そして、ラビアにぶら下げるための細いワイヤーを棚から取り出す裕二・・・・
　裕二は、そのワイヤーを大塚の肉棒と袋部分を一緒に縛り天井にある丸環に通した。

　そして安定の悪い置物スタンドを中央に寄せ部屋の冷蔵庫をそのスタンドの上にバランスよく置いた。

「な、何をするの？」
「ま、見てろ。」

　裕二は、そう言うと丸環から垂れているワイヤーをたぐり、冷蔵庫の取っ手に縛り付けて止め金具をはめた。
　更に壁に掛かるロープを置物スタンドに巻きつけて正面ドアのノブに頑強に取り付ける。

「ま、まさか・・・・・」
「その、まさかだ。奴には、これ位の仕打ちをしろって俺の脳が言っている。」
「どうなるの？」
「こいつの事だ、死ぬ事はないだろう。ただ男としては生きていけないだろうな。」

　平然と言ってのける裕二に、真央もたじろいでいる。。

「貴方は、一体・・・・」
「真央さん、俺は、大塚の様な悪党が大っ嫌いなんだ。本来なら奴は、この程度の罰では足りんくらいさ。」

　裕二を見て息を呑む真央・・・・・

「さ、君の部屋に戻ろう。」

　そう言って裕二と真央は、急いで真央の個室に向かった。
　部屋に戻った裕二が帰り支度を済ます。

「よしと・・・じゃ、俺はいくよ。」
「大塚は？」
「奴の声も外までは聞こえない。大塚を心配して誰かがドアを開けるだろう。」
「わ、私は？」
「ごく普通に仕事を続けていればいいさ。俺も、俺の彼女も普通に店を出て行く。」

　真央は、裕二を見つめた後、正面のドアを開けた。
　そして、小さな声で裕二に囁いた。

「・・あの・・・香坂さん、・・・・」
「ん？　なんだい。」
「・・・・ありがとう。」

　裕二は、真央の肩にそっと手をかけて頷いた。

「これで、よかったかい？」

　下を俯いたまま、静かに頷く・・・

「さ、真央さん、早く、カウンターに・・・」

　真央は、裕二の言うとおり足早にカウンターに戻って接客を始めた。

（さてと・・・・ん、亜美は、何やってんだ・・・）

　裕二は、亜美を思い出しスタッフ用のトイレに向かうとトイレをノックした。

「おい、亜美・・・いるのか？　俺だ。」
「ゆ、裕二さん・・・もうちょっと待って・・・まだゴロゴロいってるのよ。」
「早くしろよ。もうじき店が騒ぎ出すぞ。」

　急かす裕二に、亜美は仕方なく立ち上がった。
　顔を顰めてトイレから出てくると裕二にもたれかかってくる。

「ん？　顔がやつれてるみたいだな。」
「まったく・・・あの男・・・浣腸なんかして・・・」
「歩けるか？」
「なんとか・・・」

　裕二は、笑いを我慢しながら亜美を支えて店を出る仕度をした。
　ロッカーで亜美を着替えさせるとメインフロアーを通って入口のホールに向かう。
　途中、真央が居るカウンターに視線を向けると真央が裕二に小さく手を上げた。
　裕二は、ウィンクをしてフェニックスを後にした。

「大丈夫か？　亜美・・・」
「うん、まだちょっと、お腹が張ってるみたい。」
「マッサージしてやろうか？」

　亜美が笑いながら裕二を見つめる。

「お腹だけ？」
「いや、その下も・・・かな？」

　亜美が、満面の笑みを浮かべながら裕二にしがみ付いた。
　車に乗り込んだ裕二と亜美が、フェニックスの派手な看板を見ながら前を通り過ぎていく・・・・・

　その３０分後・・・・
　フェニックスでは、担架で運ばれる大塚の周りに人だかりが出来ていた。
　店は、急遽、閉店し、警察の緊急立入と捜査が行われている。

　鏑木の偽造操作と遠藤の処置で裕二たちに捜査メスは入ることはなかった。

　そして真央は、警察の質問に淡々と答えながら裕二の事を考えていた・・・・

（・・・・香坂裕二か・・・・・・美貢を・・・・・あの男なら・・・）