（３７）

−　翌朝　−

　常時、タイマーを掛けてあるステレオが鳴りはじめた。
　その音に、裕二と亜美が同時に目を覚ました。

「‥ん‥‥あれっ‥‥あのまま寝ちまったのか‥‥」
「‥‥そうみたいね‥‥」

　亜美が、裕二の唇を指で擦りながら甘えた声をだす。
　裕二は、亜美の鼻を摘んで左右に振った。

「やだぁー‥‥離してよぉ、裕二さん。」

　裕二は、笑いながら布団を剥いだ。

「さ、起きるか？」
「うん。」

　二人は、真っ裸のまま寝てしまっていた。
　亜美は、妙に引き攣った感じがする下腹部を覗いてみた。

「や、やだー‥‥オケケが張り付いてるぅー‥」
「ドハハッ‥」
「ドハハッじゃないわよ、裕二さん。パリパリになってるわ。」
「いっそのこと全部綺麗に剃ってみたら？」
「嫌よ。恥かしいじゃない。」
「そうかな？　舐めやすいけどな‥‥」
「‥‥それより、お風呂に入ってくる。気持ち悪いわ。」
「俺も一緒に行っていいか？」
「‥‥この間みたいに、また襲うんでしょ。」
「‥‥ゥッ‥‥」
「‥‥‥ず、図星のようね‥‥」

　見透かされた裕二は、照れ隠しのようにベッドから降りてキッチンに入った。
　それを見た亜美は、笑いながら浴室に向かった。

　裕二は、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しボトルごと口に運んでいく。
　ふと、美貢のことが頭に浮かんだ‥‥‥

（彼女も亜美くらい絶叫しながら昇天するとな‥‥‥）

　裕二は、煙草を口に咥えて火をつけた。
　その時、テーブルに置いてあった裕二の携帯電話が鳴り響く‥‥
　裕二は、面倒くさそうに携帯を手にとった。

「もしもし、香坂です。」
『香坂さん、私‥真央です。』
「やぁ、おはよう。」
『直ぐに電話しようと思ったんだけど仕事が遅くなっちゃって。美貢から聞いたわ。とても信じられないわ、それも一日で。』
「ああ、でも‥まだ肝心の不感症の方がね。」
『うぅん、美貢も、これで精神的には楽になったはずだわ。これから、仕事にも復帰できるかもしれないし‥‥‥。』
「ああ、その通り。でも、肝心なのは、俺だけではなく他の男性でも‥‥‥だ。」
『貴方に頼んでよかった。』
「真央さん、まだ終わりじゃない。これからさ。」
『‥‥‥本当にありがとう。』
「いや‥‥いいさ。」
『‥‥ね、香坂さん‥‥‥‥‥近いうちに‥‥またお店に来て。』
「えっ‥‥あ、ああ‥‥そうだね。‥ま、また寄らせてもらうよ。」
『待ってるわ。』

　裕二は、電話を切ると残りのミネラルウォーターを全部喉に流し込んだ。

（フゥー‥‥考えようによっちゃ美貢さんより真央さんのがキツイかもな‥）

「裕二さぁーーん、入ってきていいわよーっ。」

　裕二は、亜美の声に即答した。

「おぉーっ、直ぐ行くっ。」

　裕二は、短くなった煙草を揉み消すと急いで浴室に向かった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「もう、遅刻しそうよっ、裕二さん！」

　亜美が怒りながら裕二に言い放った。

「そういうお前だって、アン、最高ぉぉー、って言ってたじゃねぇか。」

　裕二の運転する助手席で亜美が裕二の耳をつね上げた。

「イテテッ‥‥‥は、離せ、亜美っ‥」
「時間考えてやってよ。」
「お前だって俺のココから口を離さなかったじゃねぇーか。」

　亜美は、今度は裕二の足をつねった。

「イデデッ‥」

　亜美は、膨れっ面で口を閉ざした。
　二人は、浴室で、昨夜の続きをしてしまったのだ。
　つい熱中しすぎて時間が経つのを忘れてしまい気がつくと出社時間が迫っていた。

　裕二は横目で亜美を確認すると静かに笑みを見せてアクセルを強く踏んだ。

　昼休みになり裕二は亜美と食堂で昼食をとりながら談笑していた。

「そう言えば裕二さん、この間、裕二さんのご両親に来ていただいた時にお母様から貰った着物を打ち直しに出したわ。結婚式で着ようと思って。」
「ほぅ‥‥そうか。でも来年の秋だぞ。早くないか？」
「うぅん、色々と加工してもらうと半年掛かるんだって。」
「へぇー、そうなのか。」
「それより、とんとん拍子で進んで良かったわ。」
「ああ、まさか顔見知りとは俺も驚いたよ。」

　裕二と亜美は、先週末に互いの両親の顔見せを兼ねた挨拶を交わしていた。
　驚いた事に、裕二の父親、総一郎は、康平が製鉄にいたころの設計課長時代に企業セミナーで康平を指導してくれた担当官だったのだ。

「私たちの話を放っておいて昔話ばかりしてたものね。」
「ああ。それより仲人が助かったよ。」
「立川専務でしょ。」
「ああ、荒尾さんの兄貴分みたいな人だって聞いたけど。」
「ええ、父が入社した時から面倒を見てもらった人なんだって。」
「俺も数回しか会ったことがないからな。」
「北原社長の右腕的存在でしょ。」
「ああ。ちょっと恐れ多いけどな。」

　裕二と亜美の話の席に、鏑木と洋子が近づいてきた。

「よ、お二人さん。式の相談か？」
「あ、補佐‥‥‥」
「補佐たちこそ、来年早々じゃないですか。準備はいいんですか？」
「ああ、おかげさんでな。もう待つだけださ。」

　洋子が裕二と亜美に、これ見よがしに手の平を見せ付ける。

「どう？　裕二君、亜美‥‥これ‥」
「わぁー、係長ぉー、素敵な指輪ですね。」
「昨日、洋さんがオーダーメイドで作ってくれた婚約指輪がやっと出来たの。」

　裕二が鏑木を見ながら呟いた‥‥

「へぇー、オーダーメイドですか。」
「ああ、時間が掛かるんだが意外と洒落たものを作ってくれるんだ。」
「そうですか。‥‥‥‥‥その店を紹介してください。」
「ああ、いいぞ。」

　裕二の言葉に洋子が亜美にウィンクを送った。
　亜美は、照れながらも嬉しさを隠せないでいる。

「ところで香坂、例の女性はどうなった。」
「ええ、何とか恐怖症は取り除けたみたいです。」
「そうか、で‥‥その後は？」
「え‥‥はぁ‥‥それが‥‥」

　裕二は、以前、助言を貰った鏑木の言葉を思い出していた。

【まず、完全に自分の女にしてしまえ。】

　裕二は、喉先まで、その言葉が出ていたが言うのを躊躇っていた。
　しかし、鏑木が裕二の表情から、それを読み取ったのか眼で笑いながら反対に喋りかけてきた。

「香坂、お前は、心理という考え方にブレがある。」
「え？」
「‥‥いいか、よく聞け。男と女とでは性的思考が全く異なるんだ。」
「‥‥‥‥」
「男に不感症なんてあるか。ないよな、ま、そういう場合は不能って言うだろう。女は、不能っていないよな。どんな状態でも出来てしまう。極端な事を言えば生理の時でもだ。つまり、イクっていう感覚が男と女では別なんだ。解るか？」
「‥‥‥ぁ‥なるほど‥‥‥‥」
「女性の満足するまでの過程は、少なからず愛がないといけないんだよ。男は違う。ただ単に気持ちよくなるだけなら、自分でも出来てしまう。ま、それは女性にも言えることだが、男性と比較すると差が生じる。」

　鏑木の説明で亜美の脳裏にヒントが浮かんだようだ。
　裕二も、何となく鏑木の言っている言葉の意味を解きはじめていた。

「しかしだ、女性も男性もセックスを続けていくうちに変化していく。」
「‥‥‥プレー内容ですか？」
「んー‥‥」
「他の性交の種類に興味が沸くとか‥‥」
「ああ、つまり、ＳＭが好きになる人間もいれば、言葉だけでイク人間もいる。わざと犯されるようなプレーに興奮したりアブノーマルで昇天する女性もだ。」
「‥‥な、‥なるほど。」
「それぞれ、物心ついた時から何らかの感性で将来の自分が出来上がっていると言ってもいいかもしれん。」

　鏑木は、煙草に火を付けて煙を一息吐いた‥‥

「極端な例は、スワッピングだ。自分の亭主や女房が異性と性行為をしているところを見て興奮したり、又は、その性行為による嫉妬で、異常に身体が興奮してきてしまうとかだ。要は何で感じるかだな。」
「か、鏑木さん‥‥‥」
「それだけじゃない。性的な満足を得るためには、人間という生き物は、それ以上に色んな事を考えてしまうのさ。」
「そ、それが、進展性のある欲ですね‥‥‥‥それを‥‥彼女に。」

　裕二は、感謝するように鏑木の顔を見入った。

「チッ‥‥‥俺も、お人好しだぜ。しかし、亜美君も承諾して一緒に頑張ってるって聞いたからな。俺は、お前達が好きだし。」

　そう言いながら、裕二と亜美を見ながら苦笑いを見せた。
　亜美が、鏑木に言葉を発する。

「補佐‥‥凄いです。普通全く気付かない所まで‥‥‥」

　鏑木は、亜美を見ると微笑みながら囁いた。

「‥‥‥‥‥亜美君、‥‥‥‥俺が昔付き合っていた彼女も不感症だったんだ。」
「えぇ！‥‥」
「俺の事を好きだった。もちろん俺もだ。‥‥‥‥‥でも、不感症を‥‥それを苦にして自殺したんだ。悔しかったぜ。‥‥なぜ言わないんだとな。」
「‥‥‥‥」
「俺に悪いと思ったんだろう。俺は彼女を弔う意味で、必死で、これを研究したんだ。」
「‥‥‥‥補佐‥‥」
「俺がセックス好きなのは、意味があるんだ。香坂に話を聞いた時に非常に興味が沸いたよ。」

　そう言って、今度は声に出して笑う鏑木‥‥

（鏑木さん‥‥‥‥たぶん‥‥それを思ってくれて‥‥‥）

　亜美が、先を切って鏑木に囁く‥‥

「補佐‥‥裕二さんをそういう目に合わさないために‥‥‥」

　鏑木は、照れたように髪を掻きながら亜美を見た。

「難しいんだ、女も、愛も、セックスも‥‥そして心を理解すというる事は。」
「‥‥‥はい。」
「ま、しかし、今の俺には、一生涯のベストパートナーがいるし‥‥‥ここにな。」
「洋さん‥‥貴方を見てるだけでイッちゃいそぅ‥‥フフッ‥」

　洋子が、照れながら鏑木の手を握っている。

　なかば、しらけ気味に洋子の言葉を聞いていた裕二と亜美だが、妖しく、かつ艶やかな洋子の瞳を見て二人は、まさに洋子の言葉が本音に聞こえたのだ。

「ま、香坂、お前と亜美君は、そんな事はないだろうよ。」
「‥‥‥‥」

　裕二と亜美は、自分の過去の辛い思い出まで話してくれた鏑木の恩情に感謝した。

（３８）

　亜美がキッチンでコーヒーを入れながら裕二に提案をしていた。

「要するに鏑木補佐が美貢さんを自分の女にしろっていったのは、愛という過程なくして性感を得られないということだと思うの。」
「‥‥‥ああ。」
「しかし、裕二さんを結婚対象とまでは思わせてはいけない。」
「んむ。違う傷を負うからな。」
「ええ、‥‥しかし、美貢さんは承知していると思うわ。」
「え？‥‥という事は？」
「遠慮しなくていいんじゃないかしら。彼女は、心の底から不感症を治したいと思っているし既に手応えを感じている。」
「‥‥‥‥」
「どうかしら、まず、色々な性的行為を試してみたら。」
「例えば？」
「直接聞いてみるのもいいかもね。」
「ふむ、なるほど‥‥‥」
「ひょっとしたらアブノーマルが好きかも知れないし。」
「な‥‥何‥‥だとしたら俺は躊躇しちゃうぜ。」

　亜美が笑いながら答えた。

「あくまで例よ‥‥‥でも、もう裕二さんを信用していると思うわよ。」
「‥‥んー‥‥明日、何気なく聞いてみるかな。」

　裕二は、美貢に色々と問いただしながら一番興味のありそうな事を聞き出そうと思っていた。
　しかし、裕二は、美貢本人から意外な言葉を聞く事になる。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　カントリーパブでビールを飲みながら裕二と美貢は話をしていた。

「えぇっ！　　み、美貢さん‥‥」
「香坂さん‥‥そんなに驚かないで‥」
「自分から‥‥‥電話したのかい？」
「え、えぇ‥‥一応‥」

　驚く裕二に美貢は、節目がちに、そう語った。
　美貢は、いつまでも裕二に頼っているのでは、申し訳ないと考え自ら男性に積極的になろうと、以前に付き合っていた男性に電話をしたらしいのだ。

「で、その男性は‥‥‥」
「ええ‥‥運良くというか偶然、お付き合いしている女性はいないらしくて‥。」

　裕二は、美貢を観察しながら丁寧に言葉を選んで質問をしていく。

「美貢さん、例えば‥‥例えば、フラれたり、‥‥そ、その弄ばれたり‥‥」
「香坂さん、覚悟の上よ。そんな事を心配してたら道が開けない‥‥」
「み、美貢さん‥‥」
「私、昔の事を思い出してみたの。決してセックスは嫌いじゃなかったって。」
「‥‥‥」

　美貢は恥かしそうに裕二を見つめながら思いを語った。

「私だって何人か、関係を持った男性はいたのよ。最初は別として、気持ちいいと思った事も有るわ。」
「‥‥‥」
「どこかで‥‥どこかで兄の影響があったと思うの。」
「‥‥‥‥」
「たぶん、兄が自殺した時に‥‥‥‥‥」

（‥‥美貢さん‥‥気がついたか‥‥‥）

「自分で、苦しみを閉じ込めてしまったと思うわ。」
「しかしだな‥‥」
「うぅん、香坂さん、自分っていう女を軽く見てるんじゃないのよ。決して誰とでもいいというわけじゃないの。もう一度、もう一度恋愛をしてみたいの。心の奥を身体を熱くしてみたいと思ったの。」

　美貢は、よくよく考えた末に結論を出したのだろう。
　裕二は、決して悪いことではないと思った。
　ただ心配をしたのは、今、美貢本人が言ったように男の方が美貢という女を軽く見てしまいかねないという事だった。

　裕二の脳裏に、先日、鏑木に聞いた話が頭を過ぎっていく。
　好きな男性が出来、お互いが幸福感を得られないと美貢が気付いてしまった時に不感症とは違う悩みが美貢に芽生えてしまうのではないかと‥‥‥。
　そして、美貢が、その男性のために、愛欲の行為を演技しないとも限らない。
　それを一生、続けられるかというと、それは絶対に不可能である。
　それは、本当の幸せという意味をお互いが勘違いしてしまうからだ。

　裕二は、鏑木の話を美貢に聞かせようと思ったが敢えて口に出すのを止めた。
　自ら打開しようと美貢は、必死に考えたのだろう。
　そういう意味で自分自身から気がついたほうが良いに決まっていると裕二は判断した。

「そうか‥‥‥わかった。でも、美貢さん、悩んだら、いつでも連絡をくれ。」
「ええ。連絡は必ず入れます。だって‥‥‥私、香坂さんしか相談できる人が‥‥」「遠慮しないでくれよ。」
「‥‥‥‥‥‥私、不思議だったの。」
「え？」
「だって、‥‥私を抱いている事を香坂さんの彼女も‥‥知ってるんでしょ。」
「あ、ああ‥‥それは‥」
「いくら、人助けだからって、それを許す女性なんて、そうそう居ないわ。」
「美貢さん‥‥」
「私、凄く羨ましかったわ。香坂さんの彼女は信頼してるんだって。私も、そうなりたいの。私を信頼してくれる男性を見つけたいの。」

　裕二は、美貢の気持ちを察し決断を承諾した。
　自らの意志を持ったこと自体、以前とは変化したのだ。
　恐らく完全に男性恐怖症は取り払えたのだろう。

「美貢さん、解った。もう俺からは何も言わない。ただ俺をいつまでも理解者だと思っていてくれ。」
「ありがとう。香坂さん‥‥‥私、頑張るわ。」

　裕二は、美貢の目に光る意志の強さを確認した。
　仮に上手くいかなくても落ち込む事はないだろうと思ったのだ。

「じゃ、香坂さん‥‥私‥‥これで‥‥」
「あ、ああ。」
「あの‥‥これ、私が出て行ってから読んでください。」
「‥‥‥‥」

　美貢は、裕二に、一枚の手紙を渡して店を後にした。

　バーボンを注文し、ゆっくりと喉に流し込んでいく裕二‥‥‥
　何となく、スッキリしないでいたのだが、ある意味、喜ばしい事でもあった。

　裕二は、封筒を開けると中の便箋を取り出し文章を読みはじめた。

〔香坂さんへ

　香坂さん、私のために、大切な時間を費やしてくれて本当にありがとうございました。
　直接は、恥かしくて言えなかったので、こうして手紙を書く事にしました。

　私は、香坂さんの恩を一生忘れる事はありません。

　この手紙を書いた真意は、香坂さんを本当に好きになってしまうのが怖かったんです。
　本音を言うと、ずっと一緒に居て欲しかった。

　大切な彼女の２番目の女でも良いと真剣に思いました
　
　でも、それは香坂さんの恩を仇で返すことになってしまうと感じたのです。

　そして、考え抜いた末に、私は、決心しました。

　香坂さんに治してもらうんじゃない。自分で治すんだって。

　自分自身で香坂さんのような素敵な男性を探すんだって。

　私、いい意味で、たくさんの恋愛したいと思いました。

　香坂さん、私、もう大丈夫です。　本当にありがとうございました。

　追伸

　先日、香坂さんに抱いてもらった時の感想ですけど

　全てが包まれているような感じで、とても心地良かったです。

　もし、あの時、いける事が出来ていれば、もっと‥‥‥

　いえ、そうなったら本当に心が苦しくなったかも。　　　

　でも、でも、正直に言うと‥‥また誘って欲しいな。〕

　裕二は、２回、手紙を読み返すと、便箋をたたみ封筒に入れてポケットにしまった。

（出来れば俺が治したかったけどな‥‥‥）

　裕二の頭に、怒った亜美の顔が浮かんだ‥‥‥

（イ、イカン‥イカン‥‥）

　裕二は、残りのバーボンを空けると店を出る事にした。

（さぁーて、どうすっかな‥‥‥亜美は洋子とオールナイトで映画を見に行くって行ってたし。）

　裕二が、繁華街を抜けて緑地歩道を歩いていると後ろから裕二に向けてクラクションが鳴らされた。

「香坂さん。」

　声を掛けたのは真央だった。

「‥‥あ、、真央‥さん。ポ‥‥ポルシェ‥‥凄い車に乗ってるね。」
「だって、お金の使い道がないんだもの。」

（なんつぅー‥‥贅沢な‥‥）

「‥‥どうかした？」
「い、いや‥‥今から店かい。」
「ええ、それより美貢から聞いた？」
「ああ、たった今まで一緒にいたんだ。」
「香坂さん、貴方のおかげよ。本当にありがとう。」
「いや、美貢さんが頑張ったのさ。」

　真央は、美貢の性格が激変し明るく積極的になった事を心の底から喜んでいた。
　真央も、婚約者だった章一と同様、傷を負った美貢が心配でならなかったのだ。

「ねえ、香坂さん、今から一緒にお店に同伴しない？」
「えぇ？　い、今から？」
「どうせ美貢とやる気だったんでしょ。それとも彼女の所へ急ぐかしら？」
「いや、今日は、彼女はいないからね。暇といえば暇なんだが‥‥」
「じゃ、決定っ！　乗って乗って。」

　真央は裕二を急かしながら助手席に乗せた。
　渋々、乗り込んだ裕二は、煙草を咥えて火を付ける。

「ね、香坂さん、サービスしてあげるからね。」
「は？　い、いいよ俺は飲むだけで。」
「何を言ってるのよ。私と個室行きよ。」
「な‥‥お、下ろしてくれ。俺は鞭で叩かれたり踏みつけられたり‥‥」
「フフッ、香坂さんに、そんな事をするわけないでしょ。」

　真央は、微笑しながら車をフェニックスに走らせた。

　店に到着した裕二と真央は、車から降りて店内に入った。
　真央の付き添われカウンターを過ぎていく裕二‥‥
　ドアを開けられ真央の専用室に入っていく。

「ね、何か飲む？」
「あ、ああ‥‥‥じゃ、ビールを‥」

　真央は、冷蔵庫からビールを取るとグラスに注いで裕二に差し出した。

「ああ、ありがとう。」
「私も飲もっかな。」
「どうぞ、ご遠慮なく‥‥」

　真央が微笑みながらビールを自分のグラスに注いだ。
　徐に裕二にグラスを合わせてくる。
　裕二は、真央の笑みにドキッっとしながらグラスを重ね合わせた。

「ねぇ‥‥香坂さん‥」
「ん‥‥真央さん、その色を変えた声が妙に不気味に感じるけど。」
「不気味って何よ、化け物みたいに‥‥‥そんな事より普通でいいからエッチしよ？」
「は？‥‥ふ、普通ね‥‥‥‥普通でも色々あるけどな。」

　真央は、裕二の承諾を無視して服を脱ぎ始めた。
　恥丘のタトゥが妖しく蠢いている‥‥‥‥
　真央は、裕二のスーツのボタンを外しに掛かった。

「ま、真央さん‥‥‥」
「もう、焦らさないでよ。」
「え‥‥俺、焦らしてるわけじゃないんだけどな‥‥」
「もうっ、馬鹿っ！‥‥私がやって欲しいのっ！」
「‥‥な、なんだ、そうなのか。」

　真央が膨れっ面で裕二を睨んでいる。

「わ、わかった‥‥わかったから‥‥」

（その化粧で睨まれると迫力あるな‥‥）

　裕二は、怒る真央の顔を見ながら、渋々、服を脱ぎ始めた。
　一気に笑顔になった真央が裕二のスーツをハンガーに掛けていく。
　下着一枚になったところで真央が裕二の穿く下着を一気に降ろし肉棒を咥え込んだ。