（４７）

「フゥー・・・・見ごたえがあったぜ、真央さん。」

　裕二の発した言葉で呆然と見ていた亜美が我に返る。
　亜美は、股間に湿りを覚えていた。

（やだ・・・濡れちゃったゎ・・）

　真央が、ソファに座って裕二に声を掛けた。

「香坂さん、バトンタッチよ。」

　裕二は、真央の言葉に頷くと柴田に近づいていった。

「柴田、約束だ、言えっ！」

　柴田は、ガックリと項垂れながら小声で話し始めた。

「・・・・俺は、太平洋建設の蛯原専務が率いる共同事業で一緒に仕事をしていた。この事業で、収益になる金額は莫大だ。俺は自社に主導を持ち込みたいと思った。
　ぐ、偶然・・２年前に、スナックで遊ぶ明美と出会った。まさか、海老原さんの女房とは知らずに関係を持ったんだ。それから次第に欲が出てきた。明美を使って海老原さんの・・・・私財も手に入れようとした。明美と・・・俺は、成功したら一緒になるつもりだった。明美は性に飢えていた。俺にとって都合のいい女だった。」

　裕二は、まだ喋ろうとする柴田の頬を思いっきり殴った。
　声も出さずに気を失う柴田・・・
　録音を止める亜美が裕二に声を掛ける。

「ゆ、裕二さん・・・まだ、喋ろうとしてたんじゃ・・」
「これだけ聞けば、十分だ。それに、それ以上、聞きたくない。胸クソ悪くなるぜ。」

　真央が、裕二と亜美に喋り掛けた。

「それにしても、この奥さんも奥さんね。私には信じられないよ。」
「ああ、全くだ。専務が気の毒すぎるぜ。」

　裕二は、まだ気を失っている明美を見た。
　みなも一斉に視線を延ばす。
　裕二が健太郎に囁いた。

「健太郎、まだ、君は、イッてないだろう。好きにしろよ。」
「え、いいんですか？」

　真央が口を挟む。

「香坂さんが、いいって言ってるのさ。その専務さんの怒りも込めて虐めてやりな。」
「解りました。」

　笑みを浮かべて、明美に近づく健太郎が、明美の顔にはめている拘束帯を外した。
　そして蜜壷とア○ルに刺さったバイブを引き抜くとジェルを肉棒に塗りこみ一気に菊門に突き刺した。
　激痛に目を覚ます明美・・・

「・・・・ン・・・ングゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・い、痛いぃぃぃぃー！」
「今まで優しく責めていたが、俺は真性のサディストなんだ。あんたの苦しみ喘ぐ姿を見ないと、発射できねぇんだよ。」

　そう言うと、無造作に上下をしていった。

「・・・い、痛いぃぃ・・・や、、やめてぇぇぇー・・・」

　明美の菊門が裂けて血が滲んでいる。

　亜美は、とても見ておれずに部屋を出るよう裕二に促した。

「ああ、そうするか。・・・真央さん、助かったよ。とても君らの助けがなかったら間に合わなかった。」
「何、言ってるのよ。これからも遠慮しないで何でも言ってね。」
「ああ、その時は頼むよ。」
「・・・フフッ、亜美さん、勉強になったかしら。」
「ええ、でも正直、私、真央さんのようには、なれないかも・・・」
「アハハ、香坂さんで練習したら？」
「な・・・・・ま、真央さん、変な事言わないでくれよ。」

　大声で笑う真央の声に、亜美も、真央という女性に好感を持っていった。

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　店を出た裕二は、亜美を車に乗せると早速、補佐の西田に連絡を入れた。

「補佐っ、香坂です。」
『おう、ご苦労、どうだった。』
「はい、柴田も奥さんも自ら吐きました。録音も完璧です。」
『んむ、俺もたったいま大山建設の常務２人に引導を渡してきた。』
「え・・だ、大丈夫だったんですか？」
『ああ、ちょっと暴れさせてもらったがな。』
「で、どうなりました。」
『今、大山建設が共同事業から降りたらメシを食っていけん。明日、社長自ら直々に、太平洋建設に謝罪に行くそうだ。』
「そうですか・・・・補佐、さすがですね。」
『はは、さ、俺は帰る。息子とキャワィーっ愛妻が待っているからな。』
「・・・ご、ご馳走様です。」

　西田が笑いながら電話を切った。
　裕二は、エンジンを掛けると車を発進させた。

「裕二さん、意外と、あっけなかったわね。」
「・・・亜美、俺たちの仕事は、こうして、あっけなく終わるのがベストなのさ。」
「・・そうね。」

　亜美は、そう言うと裕二の肩に頭を乗せて目を瞑った・・・・・・

　翌日、西田と裕二、そして亜美が第一課長の野口に報告に行っていた。

「ご苦労だったな。建設の蛯原専務も礼を言っていたぞ。奥さんと次女とは離縁して長女と一緒に暮らすそうだ。」
「そうですか。」
「長女も専務の気持ちを理解したらしい。なんでも長女に冷たく当たっていた理由は自分の帝王学を気付かせるためとかでな。教えずに本人が盗み取ってほしかったと。」
「なるほど・・・専務も叩き上げで、あそこまで上った人ですからね。」
「ああ。ま、無事に終わってよかったよ。ご苦労さん。」

　野口は、３人を労って所長室に入っていった。

「さてと、香坂っ、報告書をデータ化しておけよ。」
「え、・・・あ、はい。」

　西田が、あくびをしながら席に戻っていった。
　笑いながら裕二を見る亜美・・・・

「裕二さん、今夜、美味しい物を食べに連れて行ってくれたら、私が、替わりに報告書を作成してあげてもいいんだけど。」
「なにっ、本当か。・・・・亜美君、お願いします。」

　亜美は、笑顔で頷いた。

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「係長ぉー、お帰りなさーい。」

　裕二と亜美は、新婚旅行から帰った鏑木と洋子の出迎えに空港へ来ていた。

「鏑木さん、お帰りなさい。」
「香坂、わざわざ済まんな。」
「何、言ってるんですか。当然ですよ。」
「土産もあるし、俺たちの家に来いよ。」
「ええ、そのつもりです。」

　裕二は、洋子の荷物を持つと楽しく会話をしながら空港パーキングに歩いた。
　二人の荷物を積むと、４人を乗せた車は、鏑木たちの新居に向かった。

　湾岸線を走る裕二の車の後に、距離を開けてついて来る車があった。
　適度に車間をあけながら気付かないように尾行している。

（・・・・・ん？・・・・気のせいか・・）

　裕二は、直感的に気がついたが、さして気にする事はなかった。
　亜美の会話で、次第に、その車から注意を反らしていく。

「ねぇ、ねぇ、係長どうでした。アメリカは？」
「ええ、面白かったわ。」
「二人とも英語は、ペラペラですもの不自由はなかったでしょ。」
「でも、やっぱり、ご飯がね・・・最後は、おにぎりばっかりだったのよ。」
「そうなんですか・・・」

　話は尽きることなく続いている。
　車は、しばらくして鏑木らの新居に着いた。

「香坂、ここだ。」
「はい。」

　裕二が、鏑木の愛車、フォードエクスプローラーの横に車を停めた。
　車から荷物を降ろしながら家を見渡す。

「鏑木さん、洒落た家ですねぇ。奮発したじゃないすか。」
「ああ、当分、洋子も働いてもらわんとな。借金が返せんよ。」

　鏑木は、笑いながら洋子を見つめた。

「あら、洋さん、私、ずっと仕事を辞めるつもりはないわよ。」
「ふっ、お前らしいぜ。」

　裕二と亜美も笑いながら玄関に向かった。

　居間に上がると４人は、ソファに腰掛けた。
　しかし、すかさず洋子が立ち上がる。

「ちょっと待っててね。ビールでも持ってくるわ。」
「つまみも作ってこいよ。」
「はい、はい、わかってますって。」

　洋子が、キッチンに向かうと亜美も一緒に手伝いに向かう。
　視線を鏑木に戻した裕二が、鏑木の目の下の傷に気がついた。

「・・・・鏑木さん、・・・目じりに、ちょっと痣が・・」

　裕二の言葉に、鏑木が軽く手を当てた。

「ああ、これか・・・・・・実はな・・・」

　鏑木は、新婚旅行で起きた、ある事を裕二に話した。

　鏑木と洋子が３日目の夜を迎えた時の事だった。

「俺は、太平洋のニューヨーク支社に同期の男がいて、その日、結婚の報告を兼ねて会う約束をしてたんだ。」

　その男は、山本といい３年前からニューヨーク支社に勤務していたのだが、この春、日本に戻る事が決定していた。
　鏑木と洋子は、待ち合わせのレストランで山本を待っていた。
　しばらくして、笑顔を見せながらも脅えた様子で現れたのだが、妙に落ち着きがないことに鏑木は不信に感じていた。

「洋っ・・・・」
「山本、どうした。久しぶりに会ったのに・・・・元気ないぞ・・」
「い、いや、何でもない。・・・彼女か奥さんは？」
「あ、ああ・・紹介するよ。シンディ洋子だ。」
「始めまして。洋子です。」
「いやぁー・・おい、洋っ、こんな別嬪を娶りやがって羨ましいぞ。でも、お前は、ハンサムだからな。世の中、やはりハンサムには美女がつくようになってんのかなぁ。・・ったく、ケダルイぜ。」

　洋子は、山本の言葉に照れながらも嬉しさを隠せない。
　山本は、洋子に用意してきたプレゼントを渡した。

「これ、俺からの結婚祝いなんです。奥さんに・・・。」
「えっ、本当に・・・ありがとうございます。嬉しいぃーっ！」

　洋子は、山本に断ってプレゼントの中身を開けた。
　それは、シルバーのクラッチ型をしたブローチだった。

「素敵ぃ。」
「山本、すまんな。」
「何を言ってる。わざわざ、ここまで、俺に会いに来てくれたんだ。それに、洋子さんみたいな美人にプレゼントできて俺も嬉しいよ。」

　山本は、そう言いながらも妙に身体に力が入っている。
　鏑木は、不審に思いながらも久しぶりの再会に会話を続けていた。
　まだ、会って１時間も経たないうちに山本が、席を立った。

「洋、本当に申し訳ないんだが、契約事務が明日なんだ。せっかく会いに来てくれたんだが、これで失礼するよ。」
「え・・・そ、そうなのか・」
「４月には、日本に帰ることが出来る。その時は、奥さんと一緒に飲んでくれっ！」
「ああ、もちろんだ。」
「奥さん、本当に申し訳ありません。また、春に会う事を楽しみにしています。」
「山本さん、ブローチありがとうございました。私も再会を楽しみにしていますわ。」
「洋、帰りは、ちゃんと見送りに行くからな。」
「ああ。」

　山本は、ニッコリと笑うと二人に手を上げてレストランを出て行った。

　裕二は、黙って鏑木の話に耳を傾ける。

「その後、俺は、洋子と少し飲んでからホテルに帰ろうとしたんだ。」

　鏑木は、洋子とレストランを出て歩いてホテルに帰ろうとしていた。
　その時、何発かの銃声が二人の耳をつんざいた。

「ひ、洋さん・・・拳銃の音じゃない？」
「ああ、急いでホテルに帰ろう。」

　鏑木と洋子は、サイレンが鳴り響くなか、急ぎ足でホテルに帰った。

　そして、特に何事も起きるわけでもなく旅行を楽しんだ後の最終日、鏑木と洋子は、レンタカーで街を探索していた。
　洒落た小物を売る店を見つけた洋子が買い物をしたいと中に入っていく。
　鏑木は、洋子を店に待たせて煙草を買いに行った。

　煙草を売っている店が、なかなかなく２０分ほどしてから、店の方に向かうと洋子が、二人組みの男に囲まれていた。

「俺は、急いで駈け寄ったさ。でも、その瞬間、洋子の肘が男の顎にヒットしてもう一人の男も、洋子得意の股間蹴りで、あっけなく二人をぶち倒していた。
　洋子は、必死だったんだろう。近づいた俺に気付かずパンチを放ってきた。ブロックしたが、エントランクされて洋子の肘が俺の目じりをかすったんだ。」
「はは・・・洋子も洋子ですが、さすが、鏑木さんですね。」
「ま、お前のエンピなら俺も吹っ飛んでいたがな・・・・」
「で、どうしたんです。」
「もう、飛行機に乗る時間も迫ってたし、ホテルに帰って荷物をまとめる事にしんだ。」

　鏑木と洋子は、先程の事も特に気にすることなく荷物をまとめるとチェックアウトをしてホテルの車で空港に向かった。

　食事は機内で摂ろうと洋子に話し、鏑木は、トイレに向かおうとした。
　その時、鏑木は、妙な視線を背中に感じていた。

「トイレに行くのをやめて洋子から離れないようにしていたんだ。フライト放送が掛かったんだが、俺は山本をギリギリまで待ってた。」
「来なかったんですね。」
「ああ。その時から俺の脳裏に疑問が走った。・・・何かあるとな。」
「なるほど・・・」
「そして、山本と会った日、レストランを出た後に聞いた銃声が妙に気になってな。」
「ま、まさか・・・」
「ターミナルからニューヨーク支社に電話をしたんだが、３日前から山本は、出社をしていないというんだ。」
「・・・・」

　結局、鏑木と洋子は、一番最後に飛行機に搭乗した。
　洋子も最後に、もう一度、山本に礼を言おうとしていたが残念がっている様子だった。

「鏑木さん・・・・」
「何かある・・・・そして、洋子が狙われている。」
「・・・・・・・・・・ブローチ・・ですか？」
「・・・・・・・・たぶん。」

　ちょうど、話を終えた裕二と鏑木の前に、二人が、はしゃぎながら料理と酒を持って戻ってきた。

「さぁ、洋さん、裕二君、飲むわよぉーっ！」

　裕二と鏑木は、洋子の胸を飾る銀色のブローチに視線を向けた。

（４８）

「さぁ、裕二君、バァーっと飲んでね。」
「あ、ああ。」
「洋子、身体に気をつけろよ子供が出来たんだから。」
「えぇぇぇぇーっ！」

　亜美が驚きの声を上げた。

「補佐・・・か、係長・・・・」

　洋子が、頬を染めて呟いた。

「向こうで、どうも様子がおかしかったから病院にいったの。」
「で・・・？」
「ちょうど３ヶ月だって。」
「キャァー、係長、おめでとうございますぅぅーっ！」
「ありがとう。・・・はい、裕二君、飲んでっ。」
「あ、ああ・・・」

　裕二は、鏑木から聞いた話が脳裏をかすんでいるのだろう。
　とにかく、何事も起きない事を祈りつつ洋子の差し出す酒を受けていた。

　酒が進むにつれ、裕二も鏑木も、先程の話が遠くに飛んでいく。
　そして、徐々に盛り上がっていった。

　二人の夜の話になると、いっそう声が高くなっていった。
　鏑木も今日は遠慮をしない。
　顔を真赤にしながら裕二と亜美に話を始めた。

「それがな、香坂っ、亜美君、洋子の妊娠がわかってしまったから激しく出来ないんだよ。とにかく気を使って疲れ方が激しいんだ。」

　亜美も酔っ払って遠慮ない質問を鏑木にしていく。

「で、補佐は、どうしたんですかー？」
「ああ、こう言ったよ。洋子っ、出る瞬間まで口でやってくれってな。」

　そう言って大笑いする鏑木に輪を掛けて、洋子の話す言葉も遠慮がない。

「洋さんなんて、まだ乳は出ないのかーって、オッパイを吸い続けるのよ。」

　いくら酔っ払ってるとはいえ、さすがの亜美も照れを隠せない。
　席を立ってトイレに向かった。

「亜美ぃぃー、オナるんじゃないわよ。」
「もうっ、係長ったら・・・そんなことしませんよ。」

　結局、これ以上無い盛り上がりに、裕二と亜美は鏑木の家に泊まっていく羽目になった。
　知らず知らずのうちに居間で４人は、朝を迎えていた。
　鏑木が差し込む陽に目を覚ます・・・・・

「ん？・・・・・？・・・・・・？・・・・」

　鏑木は、目をこすりながら起き上がった。
　裕二と亜美が抱き合って寝ている姿が目に飛び込んでくる。
　洋子は、スカートが捲くりあがりショーツ剥き出しでソファに寝転んでいた。

（・・・ったく・・・）

　鏑木は、洋子のスカートを下げると裕二を蹴飛ばした。

「コラッ、香坂っ、起きろ。」
「んー・・・？・・え・・・まだ・・・イッってないんです。」

　鏑木は、苦笑いをしながら冗談で裕二に殺気を見せた。
　突如、顔色を変えて飛び起きる裕二・・・・

「・・・あ・・・・か、鏑木さん・・・・」
「ふっ、お前を起こすには、これが一番だな。」
「か、鏑木さん・・・」

　一気に気を緩めてソファに腰掛ける裕二・・・
　横を見ると洋子と亜美は、まだ寝息を立てている。

「おい、亜美っ、起きろよ。」

　亜美は、裕二の言葉でゆっくりと瞼を開け始めた。

「・・・え・・・・・・こ、ここ・・どこ・・・？」
「何、言ってんだよ。鏑木さんの家だよっ。」
「ハハ、亜美君、目が覚めたかい。」

　鏑木の声に、亜美は覚醒をしていった。

「・・ぁ・・・あ・・・ほ、補佐・・・・・お、おはようございます。」
「おはよう。朝飯も食っていけよな。」

　亜美は、寝起き顔を裕二以外に見せた事に一気に恥かしさが増加していった。
　洋子が３人の会話に目を覚ましていく。

「ふぁぁー・・・よく寝た・・・・・え？　まだ居たの？」

　洋子の寝ボケに鏑木と裕二が笑いを見せた。

「おい、洋子、朝だぞ。」

　洋子は、鏑木の言葉に急いで立ち上がった。

「え・・・あ、ご、ごめんなさい、洋さん、急いで朝食の支度するわね。」

　裕二は、一気に主婦になった洋子の行動に感嘆していた。

（やはり、変わるもんだな。・・・特に鏑木さんの妻じゃ・・・ククッ・・・）

　裕二らは、朝食を鏑木らと一緒に済ますと帰宅することにした。

「裕二、いつでも遊びに来い。ただし昼間にな。」
「・・・鏑木さん。昼間にはなかなか来れませんよ。」
「夜は、俺たちだけの時間だから邪魔するなよっ。」

　そう言って笑う鏑木に裕二は、昨夜の話の余韻を視線で送る。
　鏑木も裕二に返答するように頷いた。

「補佐、係長、お邪魔しました。新婚生活楽しんでさい。」

　亜美の言葉に、はみかみながら洋子が手を振った。

「気をつけて帰ってね。また、明日、センターで会いましょ。」

　裕二と亜美は、車に乗り込むと窓を開けて二人に手を振った。

「裕二さん、楽しかったわね。」
「・・・ああ。」
「・・・・どうしたの？　深刻な顔をしちゃって。」
「・・・・ああ、ちょっとな。」

　裕二は、昨夜、鏑木から聞いた話を亜美に聞かせた。

「えぇーっ？　・・・で・・・、何か起こりそうなの？」
「わからん。しかし、昨日、鏑木さんには言わなかったが、空港から出る時に、尾行されてたような気がしたんだ。」

　そう言った瞬間、バックミラーから昨日と同じ車が裕二の車の後を走っている事に気が付いた。

「！」
「・・・・・亜美、その車が、いま俺達の後ろを走っている。」
「え・・・」
「振り向くなっ。」
「・・・・」
「・・・・ちょいと、調べがてら奴らをからかってやるか・・・」

　裕二は、マンションと反対方向に向きを変えると人通りの少ない路地に車を走らせた。

（間違いないな・・・後をつけてきている。）

　裕二は、ダッシュボードから皮手袋を取り出して手にはめた。
　その行為を見て亜美も緊張を走らせる。

「亜美っ・・・」
「解ってる。気を入れるわ。」

　裕二は、わざと狭い一方通行の道を選んで進むと車を停めた。
　しばらく待ってもクラクションが鳴らない。

「亜美、やはり俺たちに用があるようだ。」
「気をつけて、裕二さん。」
「ああ。」

　裕二は、サイドボックスからトンファを取り出し後ろの腰にさした。
　車から降りると、ゆっくりと後方に止まる車に歩き出す。
　その車からも裕二の姿を見て、３人の西洋人が降りてきた。

　裕二が３人の男に言い放つ。

「俺に、何のようだ。」
「・・・・・・」
「何とか言えよ。」

　男たちは黙っている。
　裕二は、即座に戦闘態勢にもっていく。
　その時、一人の男が裕二に声を掛けた。

「お前は、太平洋グループの人間か？」
「・・・だとしたら・・・どうする。」

　裕二が、そう言葉を放った瞬間、男のパンチが裕二に向かって放たれた。
　サイドステップして難なくかわす祐二・・・
　空気が焦げる匂いが鼻につく。

（クッ・・・かなり、やるな・・・）

　３人の男が、左右に移動した。
　祐二は、腰に刺さったトンファを抜いて身構えた。
　怪訝そうに、トンファを見つめる男達・・・・

「ふっ、お前ら外人さんは、この道具は、あまり見たことがねぇだろっ。」

　祐二の言葉に男らは、胸ポケットからナイフを抜き出して構えた。
　裕二が不敵な笑いを見せると男らが、たじろぐ。
　一人の男が、流暢な日本語で裕二に言い放った。

「・・・・・おとなしくブローチをよこせ。」
「何ぃ・・・ブローチだと？」

　裕二は、洋子が胸にはめていた銀のブローチの事だと直感した。

「知らないのか・・・・・・・知らないのなら用はない。」

　裕二は、男の言葉に疑問を投げ打つ。

「フッ・・・聞き捨てならんな。お前ら何者なんだ。」
「うるさい。命が欲しかったら黙って消え失せろっ。」

　裕二は、そんな言葉を無視してトンファを手元で一回転させた。
　真ん中の男が、左右の仲間に目で合図をする。
　裕二は、小さく息を吐きながら下っ腹に力を入れていった。