（７５）

　遠藤は、裕二と亜美、そして鏑木と共に国際センターの地下にあるシークレットオフィスで修平からの説明を受けていた。
　そこには、本社幹部に許可を取り付けた康平の姿もあった。

「康平、会長さんは何と言っていた？」

　修平の質問に康平は、ゆっくりと答えていく・・・

「ああ、会長も社長も険しい顔で、日本もそういう時代に突入したかと言っていた。一応、念を押して今件の話は、会長と社長だけに留めておくように依頼しておいた。」
「許可は得たわけだな。」
「ああ。」
「よし、今日中に俺も上部に決定報告を済ませる。」

　修平と康平の会話に亜美が、質問をしてきた。

「修平叔父さん、つまり私たちはどういう事をするの。」
「亜美、これから教養を含めて色々と教えていくが、言ってみれば、国内でのあらゆる諜報過程が主だ。」
「諜報過程って？」
「んむ、諜報過程とは、情報の収集、照合、分析、そして配付を意味するんだ。それは複雑で、反面スリルに満ち、大量の人力を必要とし、きわめて費用のかかる作業だ。各国の外交および軍事機構は、それによって活力を得ている。」
「・・・・・・よく、わからない・・・」

　苦笑いをしながら修平が話を続けた。

「世界の主要諜報機関の活動は間断なく、そして容赦なく行われているんだが、しばしば政治的現実と矛盾している。友好国に対する隠密作戦や、諜報戦のうす暗い世界では日常茶飯事さ。つまり、自国の諜報機関が集めた情報だけで十分ということはありえない。それゆえ各国は公式にせよ、非公式にせよ他の国、他の諜報機関、時には個人と、協力し合うネットワークを形成している。」
「・・・えぇ・・・・そ・・・・・・それって、きわめて奇妙な関係を生むことになるんじゃ？」
「ああ、もちろんだ。諜報活動は、たとえ政治家が否定しようとも、いかなる国家体制においても必然の行為なのさ。防諜活動の一部である対スパイ活動は、諜報活動の裏返しとして不可欠なんだ。」
「それを私たちが・・・？」
「ああ。特に電子戦は比較的新しい形の、だがきわめて恐ろしい戦場だ。ここでは勝利も敗北も数秒、いや、マイクロ秒で勝敗が決まってしまう。
　この戦いに生き残るためには、電子情報の収集が欠くことのできない要素となるんだ。諜報組織は、その努力を外部の問題に対して向ける物と一般的には受けとられている。しかし今日、諜報組織そのものが巨大な官僚機構であり、その多くの時間と努力は、自ら火をつけた内部問題の解決のために費やされている。隠れ蓑としている秘密性に困難だからな。」

　修平の説明を黙って聞く裕二と鏑木が息を飲んで、その言葉を噛み締めていた。
　康平が、遠藤に尋ねた。

「遠藤、人員は、お前を含めた、この４人だけか？」
「いえ、以前から目をつけているセンター員が２人いるのですが、まだ、話をしていません。彼らには近々、説明を兼ねて・・・。」
「遠藤君、慎重に事を進めてくれ。この話自体、内閣府では超極秘事項なんだ。」
「ええ。もちろん十分承知しています。」

　修平は、さらに詳しい話を延々と続けていった。
　聞くたびに裏の世界の実態を知る４人は、緊張を超えある種の恐怖さへ感じていったのだ。

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　真央は前日から電話をしても全くでない美貢を心配してアパートに訪れていた。

　ドアをあける真央・・・・・・・・
　部屋の中央に居るを美貢を見て真央は驚愕した。

「美貢っ、美貢っ！　やめなさいっ、何やってるのよっ。」

　真央が大声を出して美貢を制止している。
　しかし、真央がいくら引っ張っても蜜壷に挿入した缶ビールを抜かずに激しく出し入れをし喘ぎまくっているのだ。
　昨日、ベーカーに打たれた薬が、まだ効いているようだった。

「ウアァ・・オ○ンコォォー・・・オ○ンコが気持ちいいのぉぉぉー・・」
「美貢っ！美貢ったら、止めなさいっ！」

　美貢が自慰をしているベッドのシーツは、失禁と蜜壷から流れる愛液でぐっしょりと濡れていた。
　真央は、必死で美貢の手を掴み外そうとするがビクともしない。

「どうなっちゃったのよぉー、美貢ぅーっ！」

　真央は、もはや、どうする事も出来なかった。
　冷静に考えた末に生命には別状がないと判断し、しばらく様子を伺う事にした。

　椅子に腰掛け美貢を注視する真央・・・・
　美貢の目は虚ろで焦点が合っていない。
　何より、自慰行為によって不感症だった美貢が感じているのが不思議でたまらなかった。
　美貢の蜜壷からは、相変わらず異常なくらい蜜が流れ出ている。
　真央は、絶対におかしいと感じていた。

（何か・・・何か絶対にあったわ。・・・おかしいわよ、こんな事って・・・・）

　真央は、美貢を見続けた。
　既に何度も昇天し興奮で身体中が赤く染まっている。
　その時・・・・

「ウギィィィィィィィィィィーッ・・・・」

　絶叫と共に美貢が気を失った。
　驚いた真央が、ベッドに近づき美貢の頬を何度も叩く。

「美貢・・・美貢っ・・・どうしたの？大丈夫・・・」

　何度呼び起こしても返事はない。
　しかし、気を失っている美貢の表情は特に異常はなかった。

（いったい・・・・何故・・・どうしちゃったっていうの・・・）

　真央は、気を失った美貢を移動させ濡れたシーツを剥いだ。
　新しいシーツを敷き直し再度、美貢をベッドに寝かせると、身体を丁寧に拭き、何とか下着とパジャマを着せる事が出来た。
　美貢も軽く寝息を立てて落ち着いているようだ。
　ふと時計を見ると、既に、昼を過ぎている事に気づく・・・
　美貢を心配ながらも、真央は、近くのコンビニへ買い物に出掛けた。

　２、３０分ほどして戻ると美貢は、まだ寝ていた。
　真央は、安心しながらベッドの横に座りサンドイッチを頬張りながら缶コーヒーの栓を開けた。
　その時、小さく呻きながら美貢が眼を覚ます。

「み、美貢、気が付いたの！」
「・・ぅ・・ぅぅ・・・・うぅーん・・・・・・・あ？・・・あれ・・・来てたの？」
「き、来てたって・・・・美貢っ・・・あなた・・・」
「え、どうかした？」
「どうかしたって・・・・あんた・・・、そ、その・・・覚えてないの？」
「覚えてないって？・・何を？」

　真央は、不審に思いながら美貢に自分が、ここに来てからの事を説明し始めた。
　美貢が怪訝な顔をしながら真央を見つめる。

「冗談言わないでよ。」
「美貢、あなた、本当に気づいてないの？　私をからかってるんじゃないわよね。」
「何言ってるの？なんで、まーちゃんをからかうのよ。」

　真央は、頭の中が混乱してきた。
　美貢の言葉と真剣な表情を見るからに、からかっているようには見えない。

「美貢、じゃぁ、あなた、あそこの毛が無いけどどうしたのよ？」
「え？　何言ってるのよ。ちゃんとあるわ。まーちゃんこそからかわないで。」

　真央は、顔を強張らせながら美貢に怒鳴った。

「自分で見てみなさいよっ。」

　真央の真剣な態度に美貢が、着ているパジャマをそっとずらして股間を覗きこむ。
　そして、驚きながら、今度は美貢が反対に真央に怒りはじめた。

「まーちゃん、ヒドイじゃないっ！私が寝ている間に剃るなんて。」

　真央は、美貢の言葉に軽い眩暈を覚えていた。
　真央は、再度、美貢に今までの出来事を伝えた。

「美貢、信じなさい。それに私は、あんたの毛なんか剃っていないわ。」
「・・・・・・」
「・・・美貢、そこの缶ビールを見てみなさい。貴女、それを入れていたのよ。」

　美貢が、恐る恐る真央に指さされた方を見る。
　その瞬間、裂けた菊門にも微かな痛みが走った。

「美貢、昨晩、電話した時、何処にいたのよ。」
「昨日・・・よ、夜？・・・・・・」

　美貢は、必死に昨日の事を回想していた。
　メアリーに声を掛けられ車に乗った事までは思い出した。
　しかし、スプレーを掛けられて眠らされたり淫行された事など全く頭に浮かんでこない。

「・・・・・わ、解らない・・・・・思い出せないわ。そういえば・・・・・どうやって帰ってきたのかも。」
「えぇっ？・・・お酒でも飲んだの？」
「うぅん・・・仕事を終わってから・・・・・裕二さんの会社の人に誘われて・・車に乗って食事に誘われたんだけど、それから・・・・・・それから・・・・・」

　美貢は、頭痛を覚えた。
　考えるほどに、思い出すほどに痛みが増していく。

　真央は、美貢を見ながら、嫌な予感を感じていた。
　この状態は尋常ではない。
　不感症である美貢が、自慰によって昇天を繰り返す事実・・・
　何より、数日、いや数時間で、ここまで変えてしまった出来事に不安を抱いている。
　真央は、夕方になるのを待って裕二に相談をする事にした。

（７６）

「えぇっ！・・・・本当なのかい？」
『ええ・・・私、ちょっと不安になっちゃって。』

　真央は、裕二の仕事が終わるであろう時間を見計らって相談の電話をしていた。

「なるほど。解った、今から行くよ。」
『ごめんなさい、忙しいのに。』
「なに、いいさ。」

　裕二は、電話を切ると、亜美に事情を説明し同行を求めた。

「それは構わないけど、でも、裕二さん、今夜、修平叔父さんと会うのよ。」
「ああ、それまでには終わるさ。話を聞くだけだからな。」

　そこへ、裕二と亜美の会話に耳を立てていた鏑木が声を掛けてきた。

「香坂、俺も一緒に連れて行ってくれ。」
「え、は、はぁ・・それはかまいませんが。」
「例の不感症の女性だろ・・・」
「ええ。」
「何となく匂うんだ・・・」
「・・・・わかりました。じゃ、行きましょう。」

　裕二は、センターを出ると早速、美貢のアパートに向かった。
　車の中で、真央から聞いた話を亜美と鏑木に詳しく説明し予備知識を与える。

「なるほど・・・・という事は、メアリーが誘ったのは間違いないな。」
「そうですね。俺と居た外人の女性といえば、メアリーしかいませんから。偶然入ったカフェで美貢さんと会ってるし、その時に見ているはずだから。」

　そうこう話しているうちに、裕二の運転する車が、美貢のアパートに到着した。
　早速、部屋に行きドアをノックすると中から真央が出てきた。

「裕二さん、ゴメンね。・・・あら、亜美さんも。」
「こんにちは。美貢さんどうですか？」
「うん、今は落ち着いているの。・・・・？・・・・あの、そちらは？」
「真央さん、俺の上司で鏑木さんだ。」

　真央が、鏑木を見て頭を下げた。

「前回、美貢さんの件で色々アドバイスを貰った人だよ。」
「突然、お邪魔してすみません。ちょっと気になってしまって。」
「・・・す、すみません。その節は美貢が・・・・・どうぞ、上がってください。」

　３人は、奥の部屋へ通された。
　中では、美貢がソファに座って頭を抱えている。

「美貢、裕二さんたちが見えたわよ。」

　真央の言葉に咄嗟に顔を上げる美貢・・・・

「・・・・こ・・香坂さん・・・すみません。」
「なに、気にしなくていいよ。それより、もう一度詳しい話を聞かせてくれないか？」
「・・・ええ・・・」

　３人は、美貢の説明に一寸たりとも聞き漏らさないよう耳を傾けた。
　美貢は、何度も途中で質問をされながらも丁寧に答えていく。

「なるほど、ということはメアリーと、その友人の車に乗ってからの記憶が、まったく無いわけか。」
「ええ、思い出そうとすると頭が痛くなって・・・」

　鏑木が、何やら真央に耳打ちをした。

「え、い、今からですか？」
「ええ、できれば早い方がいいんだ。」
「は、はい・・・わかりました。」

　鏑木は真央に、美貢の身体を調べさせてほしいと頼んだのだ。
　調べるのは、亜美と真央が手伝い、さらに尿を採ることも注文した。
　真央が、美貢にその事を話す。

「え・・・こ、ここで？」

　困惑する美貢に鏑木が説明をする。

「美貢さん、もしかしたら君の身体に薬を打ったか、飲まされた可能性がある。まず、注射痕を調べて、更に、もしそうなら尿から何か検出できると思うんだ。」
「・・・・はい・・・・わかりました。」

　美貢は、亜美と真央に付き添われて隣りの部屋に移動した。
　真央に促されて全裸になる美貢・・・
　恥ずかしながらも美貢は亜美の注文どおりに身体中を調べられていった。
　数十分後、３人が隣室から戻ってきた。

「どうだ、亜美？」
「ええ、まず身体だけど、肛門裂傷があるし、膣もかなり荒れている。陰毛も剃ったのではなく抜かれたようね。というか、引き抜かれてるわ。
　あと、右の乳首が大きくはれて化膿していたわ。それから、尿だけど、かなり濁っているわね。それより美貢さんの首を見てよ。痕が残っている。」

　裕二と鏑木が美貢に近づき首筋を見た。
　右の顎近い部分の血管に、微かに黒ずんだ点の様な射し跡があった。
　鏑木と裕二が確信をする。

「香坂、間違いないな。打たれてるぜ。」
「ええ・・・そうですね。」

　裕二は、美貢と真央に今後の行動と出来事を全て報告するように依頼した。

「わかった。でも・・・いったい何が・・・・」
「まだ判らない。調べがつき次第、話はするよ。」
「ええ、お願いします。」

　裕二ら３人は、真央と美貢に心配しないよう落ち着かせて部屋を後にした。
　車に乗ると同時に、鏑木は、製鉄研究所に行くよう裕二に促す。

「わかりました。美貢さんの尿を調べるんですね。」
「ああ。これから俺たちの身の回りに起きる事は徹底的に念を入れていく。」
「・・・・そうですね。」

　裕二は、急いで研究所に車を走らせた。
　研究所に到着すると事情を説明し、早速、美貢の尿を検査する事になった。

「なるほど、わかりました。では、しばらくお持ちください。」
「ああ、よろしく頼む。」

　鏑木の言葉に頷き、研究員が実験室に入っていった。

　１時間程して研究員がロビーで待つ裕二らにプリントアウトした詳細結果を持ってきた。

「鏑木課長、わかりました。とんでもないものですよ、これは。」

　受け取った鏑木に、裕二と亜美も、その書類を覗き込む。

「オビファルピン？」
「ええ。一種の抑制解除薬です。ま、麻薬の一種ですね。」
「具体的には、どういう薬なんだ。」
「要するに化合調薬なんですが、これは脳下にある視床下部の抑制を無意識かつ極度に開放させてしまうんです。簡単に言うと、性欲に関する感覚が、自意識とは別に異様なまで敏感になり、性欲中枢が本人の持つ理性を超えてしまうんです。よく拷問などに使いますね。」
「結局どうなるんだ？」
「打つ量にもよりますが、通常は２ｃｃで十分効果が得られます。ただし、薬を打ち続けることによって人間の理性は吹っ飛びます。つまり、完全に従順する人間を作り上げる事が出来るんです。」
「で、もう一つの薬は？」
「ええ、これは、正式な薬名はありませんが、同じく化合薬で脳の中枢器官を麻痺させてしまうんです。中国北部に生植する痺茎草という植物と微量の大麻、そして睡眠薬が混ざっています。」
「効能は？」
「記憶を消滅させるんです。」

　３人は、研究員の説明で全てを納得した。

「ありがとう。助かったよ。この事は秘密にしておいてくれ。」
「ええ、わかりました。」

　裕二らは、研究所を出た。
　車に乗り込むと、裕二は大きく溜息をつく。

「ふぅぅー・・・鏑木さん・・・・・」
「んむ。俺たちの思考している次元を超えている。しんどくなりそうだ。」

　そう言いながら、鏑木が腕時計を見た。

「さて、ちょっと早いが、待ち合わせの場所に行くか。」
「そうですね。」

　３人は、修平から正式な依頼と説明を受けるため、内閣調査室専用のレストラン、菊花に出掛けることになっていた。

　レストランに着くと別室では、既に遠藤を向かいに二人の職員が背を向けて待っていた。

「所長、早いですね。」

　鏑木の声に軽く手を上げる遠藤・・・
　遠藤の前に座る職員が振り向く。

　裕二が、その職員に気づき声を掛けた。

「あれ、香川・・・草刈君・・・」

　二人が、裕二らに頭を下げた。
　裕二らは遠藤らが座るテーブルに腰掛けた。
　鏑木が小声で尋ねる。

「所長、残りの二人というのは・・・」
「ああ、香川と草刈君、この二人だ。」

　香川巌、４月に業務係長に就任した２５歳になる男だ。
　同じく、草刈聖子も業務係に籍を置く２４歳の若手職員である。

「そうか、君達が・・・」

　鏑木の言葉に頷きながら香川が返答した。

「本当に迷ったのですが、所長から色々な話を聞かされました。一晩、必死に考えて、今朝、所長に承諾の返事をしたんです。」
「・・・草刈君もか。」
「はい。」

　遠藤が説明を始めた。

「香川は、同期や友人に、政界関係や国の機関、官公庁にも知り合いが多いんだ。何より世界情勢に詳しい。大きな声では言えんが裏の人間とも顔が繋っている。」
「へぇー・・・・」
「草刈君は、特殊メイクアーチストが得意なんだ。」
「・・・・・・え？」
「兄が、あの有名なハリウッドの特殊Ｂバンクメイクを務める草刈新太郎さんさ。小さい頃から、兄と一緒に多種の工作をしていたらしい。兄の新太郎さんに引けを取らないくらいの腕だ。何より細かい作業に器用な技術を持っている。」
「ほぉー、そうなんですか？」
「二人とも芯がしっかりしている。人間的にも申し分ないと俺は判断した。実は、４月の人事で、センターに、二人を引っ張ったのは俺なんだ。」

　香川巌と草刈聖子が、恐縮しながら遠慮がちに笑みを見せた。

「鏑木課長や香坂補佐の噂は本社にいる頃から聞いていました。二人ともセンターでは、エース的存在でしたし憧れでしたよ。」

　香川に続いて草刈も続ける。

「私もです。センターに来れただけで嬉しいのに、一緒にチームを組めるなんて。」
「チームか・・・なるほど。」

　そこへ、修平が現れた。

「遠藤君、お待たせ。揃ってるかい？」
「はい。これで全員です。」
「んむ。よし、席を移ろう。」

　修平に促されて遠藤らは、さらに奥の部屋に場所を移動した。