（７７）
　
　別室に入った遠藤たちは、修平に促されて椅子に座った。
　全員を見渡すと修平が低い声で決定事項を報告する。

「遠藤君、今朝、正式に官房長官から許可を貰った。」
「・・・・・はい。」
「今後、君達は内閣調査室・外部調査員の特命エージェントとして登録される。」

　遠藤をはじめ裕二や鏑木の顔に緊張が走った。

「当初、２週間、任務遂行のための知識と教養を身につけるために特別講習を受けてもらう。」
「わかりました。」
「ただ、センター員や周りに気づかれないため勤務以外の時間だ。ちょっとキツイかもしれないが、必要な事だ。覚悟してくれ。」
「承知してます。」
「それから、こういう世界では当たり前なんだが直接俺から遂行命令は出さない。ある人物を介して君達に命令が下る。」
「・・・・・」
「よし、今から詳しく説明をしていこう。」

　修平は、時間をかけてじっくりと遠藤たちに話を聞かせていった。

　遠藤らは、修平の説明に真剣に耳を傾け、早くも脳と身体に植え付けていこうという姿勢が伝わっていた。
　質疑を繰り返しながら、結局、修平の話が、終わったのは、午前０時近かった。

「以上だ。他に何か質問はあるかね。」

　みな、納得したように視線で頷いている。

「よし、じゃ、明日からの講習は頑張ってくれ。」

　修平が、胸ポケットから無記名のプレートカードを６枚出して皆に一人づつ渡した。
　薄く小さなプレートで見たことの無い模様の刻印が刻まれている。

「修平さん、これは？」
「エージェント証だ。それを見れば警察や検察、或いは、仲間のエージェントに捕まったり強捕されても上部で確認が出来て、釈放されるようになっている。」
「・・・・・」
「何かあったときの掃除屋は、このレストランの従業員だ。ここの店長、大場武彦に暗号を言って依頼すればいい。」
「はい。わかりました。」
「じゃ、遠藤君、後は頼むぞ。」
「はい。」

　修平は、皆を見渡すと無言で部屋を出て行った。
　一斉に緊張が解け、張っていた肩が落ちる・・・・・
　遠藤が皆に声を掛けた。

「さ、明日から２週間、頑張ろう。」
「はい。」

　皆が一斉に返事をした。
　そして、今後展開されていくであろう、あらゆる出来事に緊張を漲らせていた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−　２週間後　−

　遠藤を始めとする６人が、基礎的な教養を身につけて調査室の講習を終了した。
　センターでの勤務が終わった後に行う講習のため、ひどく疲れも溜まっていたが、そうも言ってはいられない。

　その間も、鏑木はメアリーの近辺を調査し資料をまとめようとしていた。
　裕二は、美貢が気になり何度か電話を入れたが、その後は症状も出なかったようだ。
　夕方近くになりデスクに座る鏑木が、裕二に目で合図を送りロービーに誘った。

「香坂、下へ行くか。」
「ええ。」

　裕二と鏑木は、センターの喫茶室に入った。

　裕二と鏑木が、ほぼ同時に煙草を噴かした。

「香坂、もう一度、メアリーと接触してみるか？」
「ブラフ、張るんですか？」
「ああ。基本的に長い期間を掛けて、基盤を作るのがＣＩＡのやり方だ。手遅れにならんよう、今のうちに根を摘んでおいた方がいいと思ってな。」

　鏑木が裕二に顔を近づけ、更に小声で案を出す。

「えぇぇーっ！」
「そう、驚くな、決して不可能ではない。」

　鏑木が提案した内容とは、メアリーを何とか安心させ、彼女の部屋か、若しくは身体自体に盗聴器を仕込むという事だった。

「しかし、失敗すると、とんでもない事に・・・」
「まあな。」
「まあなって・・・鏑木さん。」
「失敗しない作戦を考えるんだよ。ＣＩＡといえども人間だ。どこかに隙や欠点はある。それを可能にするには寝ることだ。」
「そりゃそうですが、彼女は、頭脳も警戒心も半端じゃないですよ。」
「んむ。しかし、セックスからは、つけ込めると思うんだ。どんな人間でも、一番隙のできる瞬間、行為だからな。」
「・・・こっちの身にもなって下さいよ。」

　笑いながら鏑木が話を続けた。

「ま、完璧な策を考えてやるよ。それより、相棒のベーカーが邪魔なんだ。」
「ベーカーという男は、どんな奴なんです？」
「ああ、危険で野蛮な男だ。元軍人なんだが特殊部隊出身さ。」
「グリーンベレーですか？」
「いや、トーマックという海軍の組織で潜入専門の個人で動くレンジャーだ。」
「潜入専門？・・・・レンジャー？」
「簡単にいうと知れずに潜入し暗殺し何事もなかったように作戦を遂行して帰還する人間だ。ま、プロ中のプロだな。」
「そんな男がＣＩＡ・・・ですか。」
「あそこは、色んな奴が集まっているさ。」
「ちょっと見てみたいですね。」
「ベーカーをか？」
「ええ。」
「んむ、いいかもしれんな。奴がお前を見てどういう反応を示すかも興味があるし。」
「・・・今夜、偶然を装って会ってみます。」
「いきなりか・・・・・香坂、気をつけろよ。」
「はい。」

　裕二は、終業が近づく少し前に亜美を付き添わせＣＩＡ日本支局をカモフラージュする貿易ビルに向かった。
　当然、全ての階がアメリカ系列の会社で、その最上階にベーカーはいる。
　裕二は、車から降りると亜美と共にビル前の簡易緑地スペースのベンチに座りビルから出てくる人物を観察し始めた。

「裕二さん、どうするの？」
「んむ、奴は、俺の顔を、間違いなく知ってるだろう。しかし、俺が奴を知っているとは気づいていない。」
「・・・・・」
「偶然を装って接触してみるつもりだ。」
「えぇー、危険よ。」
「だから、聖子君にメイキングしてもらったじゃねぇか。」

　裕二は、センターを出る前、草刈聖子に頼んで顔を変えてもらっていたのだ。
　皮膚も若干、褐色にし、皺を増やしてもらった。
　センターを出る頃は誰も裕二と気づかないほど完璧なメイクだった。

「でも・・・」
「大丈夫さ、無茶はしないよ。」
「・・・なら、いいけど・・・・」
「しかし、顔が攣って喋り難いぜ。」

　亜美が笑いながら裕二に囁いた。

「でも、本当に別人ね。聖子さんって凄いわよ、ここまで変えてしまうなんて。」
「ああ、それより、もうちょっと格好よくしてくれればいいのに。」
「ふふ、贅沢言わないの。」

　その時、街頭時計のベルが鳴り響き、しばらくしてビルからは多くの人が１階のロビーから外に出てきた。

「亜美、よく見てろよ。」
「ええ。」

　１０分程、経ったろうかグレーのスーツに身を包んだベーカーが煙草を咥えながら外に出てきた。

「裕二さん、来たわ、ベーカーよ。」
「・・・で、でかい男だな・・・」

　まるで白熊を想像させるような巨体だが、いかにも鍛えている事を物語るような引き締まった身体をしている。風貌も精悍で隙がない。

「なるほどな・・・・よし、つけるぞ、亜美っ。」
「ええ。」

　裕二と亜美は、距離を置いて気づかれぬようベーカーの後をつけた。
　ベーカーは、自宅に向かわずショーウィンドウを見てはフラフラと歩いている。

「おかしいな・・・あてがあるのかな？」
「そうも見えないけど。」

　その時、雑居ビルが立ち並ぶ一角に入ったベーカーが、ビルを見上げた。
　そして中に入ると、上階には上がらず地下にあるショーパブへ足を運んだ。

「よし、俺たちも入ろう。」
「ええ。」

　裕二と亜美は、ベーカーを追って地下のショーパブに入った。
　中に入るとメインステージでは、マジックショーを行っている。
　気づかれぬようベーカーを探す裕二・・・

　ベーカーは、ドンリクカウンターの隅に座ってショーを眺めていた。
　裕二と亜美は、ベーカーからは死角になる席に座り様子を伺った。

「さて、どうやって接触するかだな。」
「でも、裕二さん、接触してどうするつもりなの？」
「奴の実力を知る。」
「えぇー、危険な真似はしないって言ったじゃない。」
「実は、鏑木さんから助言を貰ったんだが俺が探りを入れているという事を見せてもいいというんだ。」
「・・・・・え？」
「要するに、ベーカーとメアリーが計画を練り始める事に慎重になり準備に時間が掛かるようになる。ただ、いきなりセンターの俺がという事を知られてはまずい。
　反面、内調に関わっているという事も、できれば避けたい。つまり、どこかの組織が、嗅ぎ付き始めたという事を知らせるだけでも効果があると言うんだ。」
「ははぁーん・・・。」
「だから顔を聖子君に変えてもらったんだ。」
「なるほどね・・・・」

　ふと、カウンターを見るとベーカーが携帯電話で何やら会話をしている。
　そして徐に立ち上がると廊下を挟んだトイレの方に歩き出した。

「お、チャンス。・・・ちょいと行ってくるぜ。」
「・・・裕二さん、気をつけてね。」
「ああ。心配するな。」

　裕二は、ベーカーを追ってトイレに向かった。
　廊下と言ってもフロアーに近く、左右は、インテリアとして花瓶や絵画などが豪華に並べられており、彫刻を施した柱が何本も立っていた。

（ん、おかしいな？・・・誰かと会ってると思ったが・・・小便か・・・）

　裕二は、左右の装飾品を見る振りをしてベーカーがトイレから出てくるのを待った。
　ふと、人の気配に気づく裕二・・・
　その時、裕二の全身に強烈な戦慄が走った。

（ん？・・・）

　裕二は、全身を緊張させ、すかさず戦闘態勢をとる。
　視界に入った隣りの柱に、同じく警戒しながら立つ一人の男と目が会った。

「・・・・？」

　その男も裕二の身体中から発する雰囲気に気づいたのだろう。
　冷静さを装ってはいるが同じく戦闘態勢をとっていた。
　その距離、わずか１メートル・・・

（何者だ・・・）

　裕二は、その男と視線を合わした。
　男の風貌、眼つきを見ると、ただ者ではないことは容易に判断できる。
　一方、相手の男も裕二に対し、警戒心を強めていた。
　そして、ほぼ同時に、二人は声を発した。

「あんた、何者だ。」

　互いの持つ闘争本能が心の奥の警鐘を鳴らしたのだろう。
　言葉を発したと同時に、二人の拳が激突した。

（７８）

　強い衝撃が二人の腕を通して全身に伝わった。

「グッ・・」「ツツッ・・」

　二人は、すかさずファイティングポーズをとる。
　それ以上の会話は、しなかった。
　これだけの腕の持ち主なのだ。
　本能的に味方ではないと判断してしまう。

　裕二が、見えないほどのスピードで手刀を喉に見舞った。
　しかし、見事にかわされてしまう。
　今度は、逆に男の肘が裕二の顔面を襲ってきた。
　フェイクしギリギリでかわす瞬間にローキックを見舞うが同じくフェイクされてしまう。

（クッ・・・やりやがるぜ・・・）
（こ、この男、何者だ・・・）

　二人は、同時に、そんな事を思いながら次の攻撃を考える。
　裕二が、ゆっくりと細い息を吐きながら小さく腰を落とすと相手の男も口を僅かに窄めて気吐をしていく・・・・
　そこへ、運悪くベーカーがトイレから出てきた。
　しかし、裕二と相手の男は、ベーカーの姿を視界に入れるもののお互い視線は外さない。危険だからだ。
　ベーカーは、二人から徒ならぬ殺気と身体中から溢れ出る闘気を感じたのか、瞬時に警戒心を強めたのだろう。裏口から急ぎ足で出て行ってしまった。

（クソッ・・・出て行きやがった・・・）
（チッ・・・逃がしたか・・）

　裕二は、ベーカーを諦め男に集中した。
　男も更に強い気を裕二に当てていく。

　男がフックを連続で見舞ってきた。
　裕二はブロックをしながらも隙をつき拳を返していく。
　しかし、互いの実力は似通っており、なかなかパワーヒットしない。
　絶え間なく二人の攻撃が続くが全く埒があかなかった。

（クッ・・・当たらねぇ・・・）
（・・何なんだ、コイツ・・・）

　空気が焦げる臭いが鼻をつく・・・
　既に、互いの前腕はブロックで腫れを見せており、ワイシャツのボタンが隆起する筋肉で外れていた。
　しかし、そんな事は億尾も見せずに鋭い攻撃を繰り返していく。
　だが、打ち合わせでもしたかのように攻撃と防御が反復されダメージを与えるまでには及ばなかった。

（こいつ・・・ただ者じゃねぇ・・・・）
（半端じゃねぇな・・・この強さは・・・）

　ついに、二人とも額から汗を流し始めた。

　息の乱れを気づかれないように、二人はファイトを再開する。
　そこへ、なかなか戻らない裕二を心配して亜美が様子を見に来た。
　裕二が、ただならぬ様相で一人の男と格闘している姿を見て驚きを見せる。

（え、・・・な・・裕二さん・・・）

　驚く亜美・・・・
　亜美は、思わず声を発してしまった。

「ゆ、裕二さんっ！」

　裕二の名を大声で叫ぶ亜美に、二人がパンチを繰り出しながら長く距離をとった。
　背中を向けている男が裕二を警戒しながらも斜めに移動し亜美を目だけで確認した。

「あっ！」「えぇっ！」

　亜美と、その男が同時に声を上げた。
　男はビックリした顔で亜美に囁く。

「あ、亜美か？」
「一樹さん・・・」

　裕二が、不思議そうに二人を見た。

「し・・知り合いなのか、亜美・・・・・」

　問いただす裕二に男も言い返す。

「亜美、お前の連れ添いなのか？」

　亜美は、何度も首を縦に振りながら答えた。

「裕二さん、私の従兄弟なの。」
「な、・・・・・えぇぇぇーっ！」

　そして、一樹にも説明をした。

「一樹さん、その人、私の婚約者なの。」
「な、こ、こんな・・お・・おっさんが・・・・ぁ、いや、失礼・・・」
「違うのよ、変装メイクしてるの。」
「変装メイク？・・・き、君達、いったい何をやってるんだ。」
「え、えぇ・・・ちょっと・・・それは・・・」

　裕二と一樹の全身から一気に闘気が消えていった・・・
　緊張がほぐれ、汗が一段と吹き出てくる。
　一樹は、ポケットからハンカチを取り出して額を拭き始めた。
　裕二も上着を脱いで乱れたシャツを直し始める。

「亜美、従兄弟って・・・？」

　裕二が、大きく深呼吸しながら質問をする。

「私の叔父、つまり、お父さんの一番上の兄の息子さんなの。」
「え・・・・そ、そうなのか・・・・」

　裕二は、上着を羽織ると一樹に近寄り頭を下げた。

「大変、失礼しました。私、亜美君の同僚・・・・あ、婚約者で香坂と言います。」
「いや、こちらこそ、失礼しました。・・・・しかし、君の腕は半端じゃないね。」
「とんでもないです。僕の方こそ焦りました。」

　二人は本心なのであろう、素直に感想を述べ握手を交わす。

「で、私の勘だが、さっきトイレから出てきた男をつけていたようだが。」
「・・・・え・・・・・え、えぇ・・・」

　裕二は、亜美に視線を送りながら説明を考えていた。
　しかし、一樹が、あることに気づいたようだ・・・・

「ん！・・・なるほど・・君たちは、太平洋グループの中央管理センターだったね。」
「・・はい・・・・・」

　一樹が大声で笑い始めた。
　裕二と亜美が、怪訝そうに一樹を見つめる。

「いや・・俺としたことが・・・・亜美、香坂君、どうだい、ちょっと飲もうか？」
「は、はぁ・・・・ま、いいですけど・・・」
「よし、店に戻ろう。」

　裕二は、一樹という男に興味を持ったのか素直に誘いに承諾する。
　トイレでメイクを落とすと、裕二は、一樹の後を追い店内に入っていった。

「ふぅー、喉がカラカラだ。香坂君、飲めるんだろう？」
「ええ、酒は、大好物です。」

　一樹が、笑顔で頷くとビールをピッチャーで注文した。
　運ばれてきたビールを受け取ると一樹が裕二と亜美のグラスに注いだ。
　裕二が、一樹にも注ぎ返す。

「さて・・・・では、我が仲間に乾杯っ！」
「乾杯っ！・・・・・・え？・・・な、仲間？」

　裕二が、その言葉に驚きを見せると一樹はグラスを空にし真剣な表情に戻った。

「実は、昨日、修平の叔父貴から外部エージェントの話を聞いたばかりなんだ。太平洋の中央管理センターから数名が外部調査員として登録されたってな。」
「えぇ・・じゃ・・・」
「ああ、俺も、そこのエージェントさ。」

　亜美が、不思議そうに一樹の話に割って入る。

「あの・・・一樹さんって検察官じゃなかった？」
「ふっ、以前な。修平の叔父貴からスカウトされたんだ。」
「そ、そうだったの・・・てっきり・・・」
「ははっ、今は、内閣調査室で官房付事務官として勤務している。だから、君達の仲間だ。実は、俺もベーカーを追っていたのさ。」

【荒尾一樹】　
　康平の長兄で、元国連の諜報機関に勤めていた恭平の長男だ。
　現在、内閣調査室の主任を務めており、各国の工作員に最も恐れられている凄腕エージェントだった。
　当然、修平の部下になるが誰にも素性を漏らす事はなかった。

「ど・・どおりで・・・」

　裕二が、腕を擦りながら一樹を見つめた。

「香坂君、君の格闘センスは凄いな。久しぶりに緊張したよ。まさか、これほどの腕をもつ男が日本に存在するとはな。」
「恐れ入ります。」
「衝撃力が凄い、ヒットしていたらやられていたな。」
「と、とんでもないですよ。僕のほうこそ、ブロックした腕がパンパンです。僕のほうこそ、あの迫力に圧倒されました。というか正直、怖かったです。」

　亜美が横で独り言のように呟いた。

「そもそも、気づくようなもんじゃないの？」
「いや、確かにベーカーがいなければな。しかし、偶然、同じ場所であの、香坂君の雰囲気と闘気を感じれば味方とは思わんだろう。」
「そういうものなの？」

　一樹が笑いながら亜美を見た。

「？・・・・そういえば亜美、お前、かなり変わったな。」
「え？・・・そうかしら。」
「ああ、・・・・何となく康平叔父さんに雰囲気が似てきたぞ。」
「・・・・」

　亜美が、一樹の言葉で恥ずかしそうな笑みを見せた。

「んーむ・・・・・なるほど、亜美、お前、かなり成長したようだな。他の人間に持ってないものが備わっている、やはり・・・親子だな。」

　裕二は、一樹の言葉に、その真意と一樹自身の持つ実力を感じ取った。

（この人・・・読む力も相当だ・・・・）

「ところで、一樹さん、大樹さんは元気なの？」
「大樹か・・・あいつは、今、防衛庁にいる。」
「へぇー、そうなの？」

　大樹とは、恭平の次男で、一樹の弟だ。
　現在、防衛庁に勤務しているが、一樹は、大樹の勤務内容には口を閉ざした。

「ま、あいつの事は、また話すよ。ところで、君達は何故ベーカーを？」

　裕二は、一樹の質問に詳しく説明を始めた。
　腕を組みながら静かに耳を傾ける一樹・・・・・・
　裕二の説明が終わると、静かに頷きながら呟いた。

「なるほど、そうか。実は、室長からベーカーの身辺を洗えといわれてな。俺が調査した情報は、君達の耳に入る事になるはずだったんだろう。」
「つまり、いま、バッキングしてしまったんですね。」
「そういう事だな。」
「すみません。」
「いや、いいさ。それより奴は、かなり危険な男だ。香坂君、気をつけろよ。」
「ええ。」

　一樹は、裕二に真剣な眼差しながらも口元に微かな笑みを見せて励ました。

「・・・・・しかし、香坂君、よく見ると君はハンサムだな・・・・・・。」
「え・・・あ・・は、はぁ・・・・ありがとうございます。」
「亜美とはラブラブかい？　亜美も礼子叔母さんに似て、いい身体してるし。」
「もぉーう、一樹さんったら、初対面で失礼な言い方しないでよ。どうして私の親族は、エッチでスケベな人間ばかりなのよっ。」

　拗ねながら言う亜美を横目に、一樹は、裕二に手を差しだしながら囁いた。

「香坂君、亜美と結婚をすると私とも親戚だ。」
「ええ、そうですね。よろしくお願いします。」
「・・・ようこそ、我がスケベ一族へ。」

　その言葉に、握手を交わす裕二と一樹は大笑いをした。