愛欲の向こう側

（８）

　亜美は、センターのロビーで、香坂に康平が了承した事を報告していた。

「え、今夜、会ってくれるって？」
「ええ。いつでもいいぞって言ってました。」
「そうか、亜美、ありがとう。」
「うぅん、別にそんな事はいいんだけど・・・ただ・・」
「ん？・・ただ、何・・・・・」
「ええ、一緒に飲みたいから車に乗ってくるなって・・・・」
「ああ、それは構わんよ。俺も酒が入った方が話しやすいし。」
「すいません。」
「なに、誤る事ないよ。俺も酒は大好きだから。じゃ、終わったら亜美と一緒に帰るとしよう。」
「はい。お願いします。」

　香坂と亜美が話しているところへ、腰を叩きながら洋子が歩いてきた。

　二人に気付く洋子・・・

「あら、ご両人・・・・・ん？・・・・ははぁー・・・」
「何だ、洋子・・・何か言いたそうだな・・・・」

　洋子は、香坂と亜美を交互に見ると、ニヤニヤと笑いながら二人をからかってきた。

「フフ・・・亜美、どうやら願いが叶ったようねぇ。」
「・・え、ええ・・・ま、まぁ・・・・その・・・」
「裕二君、どうだった亜美のオマ○コは？」
「ったく・・・相変わらずストレートな言い方してるな。」
「お前こそ、やりまくってるようじゃないか。」
「まあね、昨日も腰振りすぎちゃって・・・・」
「ふぅーん、誰と？」
「洋さ・・・・・ぁっ・・とと・・・」
「洋？・・・・」

　洋子は、首を傾げている香坂を見て、亜美の口を押さえた。

「ん？　なんだ、亜美は、洋子の男を知ってるのか。」
「亜美、言っちゃ駄目よっ、鏑木さんだって・・・・・・ァ・・ゥ・・」
「な！・・・・か、鏑木補佐・・と・・・か？」
「・・ァ・・ワ・・・ワ・・・・・」

　大きな口を開けて、しまったという顔をする洋子・・・・
　いくら二日酔いとはいえ、自分と同じように自らボロを出してしまった洋子が、亜美は可笑しくてたまらない。

「ゆ、裕二君、お願いっ、黙ってて。」
「俺は、言わないけど、・・・・・・・・・でも別に知られたっていいじゃねぇか。」
「そうですよ、係長、隠さなくてもいいと思いますよ。」
「んー、でも社内恋愛ってのを否定してきた私にとっては、イメージ崩れるのよねー。」
「フン、何がイメージだ。それより、補佐みたいな色男をよく落とせたもんだ。お前に騙されてるんじゃないのか？」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。愛し合ってるのよ。」
「・・・・・・・ま、せいぜい補佐に嫌われないようにな。」

　そう言って香坂はオフィスに戻っていった。
　洋子は、香坂が席に座るのを確認すると、案の定、昨夜の事を亜美に聞いてくる・・・

「亜美、ところで、どうだったの裕二君は？」
「そんな事、言えませんよ、恥かしくて・・・」

　亜美も香坂に続きオフィスに入っていった。
　後を追いながら興味津々でしつこく聞いてくる洋子・・・

「いいじゃなぁいの、亜美ぃー、教えてよぉー・・」
「洋子、何やってんだっ！早く仕事しろっ！。」

　なんと、鏑木に怒鳴られる洋子、恐縮しながら渋々とデスクについた。

（なによ、洋さん・・・昨日は、お前のココは最高だなんて言ってたくせに・・・）

　何やら感ずいたのか、鏑木は自分を睨む洋子を見ると、咳ばらいをしながら慌てて書類を見始めた。

（フンっだ・・・）

「シンディ」

　第三課長の野口啓太が、洋子を呼んだ。
　野口は、外交と業務を管轄し鏑木と洋子の係を担当する男である。

「はい、なんでしょうか？」

　洋子が野口の席まで足を運ぶ。

「これを見てみろ。」

　野口が、モニターを洋子に見せる・・・
　洋子の顔が一気に変化していった。

「課長・・・こ、これは？」
「ああ、やばいぞ。」

　鏑木も二人の様子に気付き近づいてきた。

「鏑木、調査専門のお前としては、どう判断する？」
「ほほぉー、課長、間違いなく外部侵入者ですね。」
「で、どこから抜き取られているんです。」

　野口が、マウスを滑らせた。

「・・・・・太平洋化学か・・・・」
「鏑木、どこの会社の侵入か調べてくれ。」
「はい。」

　センターでは、太平洋グループの各会社を統括管理しているコンピューターがあり、データの流出や外部操作を防止するためセキュリティーロックを掛けれるシステムになっていた。
　これに、異常があると自動で感知できる仕組みになっているのだ。

「課長、リモートにブロックが掛かっててエンコード出来ませんね。」

　鏑木の言葉に野口は顔を顰める。

「と、言う事は、太平洋化学に流出者がいてセキュリティを操作してると言う事だな。」
「そういう事になりますね。」
「私が、明日にでも直接、化学に行って調べましょう。」
「んむ、そうしてくれるか。第一課長に頼んで情報から一人借りよう。」

　鏑木が、野口に同行する人物を指名してきた。

「出来れば香坂を借りたいんですが。」
「香坂か。わかった、京本課長に話しておこう。」
「お願いします。」
「洋子、お前は明日一番で研究所に行ってクローズソフトの使い方を教えてもらって来い。今回はそれを使おうと思う。」
「はい。」

　終業が近づいた頃、香坂が鏑木の所に足を運んできた。

「鏑木さん、先程、京本課長から指名されました。明日は同行しますのでよろしくお願いします。」
「ああ、頼むぞ。・・・そう言えば、お前と組むのは初めてだな。」
「ええ、一度、鏑木さんと一緒にやってみたいと思ってました。」
「センターのエースにそんな事を言われると照れるがな。どうだい、もし暇なら今夜一杯やりに行かないか？」
「すいません、今日は亜美君の家に行くんですよ。」
「お、彼女と付き合い始めたのか。美人だからな・・・お前とお似合いだぜ。」
「は、はぁ、まあ。でも、今日は亜美君のお父さんに会うんですよ。」
「なにっ！？　荒尾康平さんに・・・か。」
「はい。」

　鏑木が、顎を撫でながら何やら考えている様子だ・・・・

「・・・・・香坂、俺も一緒に連れてってくれっ！」
「え？　・・・・・ええ、私は構いませんが。」

　香坂は、鏑木の依頼を亜美に話してみた。
　亜美が、康平に連絡をすると何人でも一緒だから構わないという返事をもらい、香坂を介して鏑木に言い伝える。
　いつの間にやら洋子の耳にも入り、駄々をこねて無理矢理着いてくることになった。

「亜美君、すまなかったね。」
「いえ、とんでもありません。父も楽しみにしているみたいです。」

　タクシーの中で、鏑木に釘を刺される洋子・・・

「いいか、洋子、失礼のないようにな。」
「解ってるわよ、洋さん。」
「・・・お、おまえな・・」

　香坂が鏑木に笑いながら声を掛ける。

「鏑木さん、もう、お二人が付き合ってる事を知っていますから、そう気を使わないで下さい。」
「え、な・・・なんだ、そうなのか？」

　そう言いながら後ろの洋子を振り向くと妙にソワソワした態度が気に掛かる。

「・・・・ん？・・・洋子・・お前、まさかとは思うが・・・・・」

　そう言って、亜美の顔を見ると亜美が顔を紅くしながら視線を鏑木から外した。

「洋子、お前・・・・込み入ったことも話しやがったな？」
「ち、違うのよ・・・・その、つい、知らず知らず口を滑らせて・・・」