（１１７）

　亜美は、ＫＫＩ食品に向かうタクシーの中で簡易的な作戦を立てた。
　今回は、太平洋の関係である事を最後まで隠さなければならない。
　そして、青葉健二の行動全てを詳しく調べるために同社の中から協力してもらう社員を探す事も必要だった。

　私生活での行動や身辺は、調査の洋子が担当する事になっている。
　亜美の役割は、青葉が酒井由香の財産を狙っているという物的証拠を掴む事だ。

（・・・んー、協力者を探すのが厄介ね・・・）

　亜美は、何種類かのシュミレートを頭に叩き込み、その場、その場でアタックしていく事にした。

　ＫＫＩ食品に到着した亜美は、総務部庶務課に案内され研修職員として課員に紹介された。

「始めまして。香坂亜美と申します。しばらく、この会社で研修を受ける事になりました。よろしくお願いいたします。」

　総務部長に席を指定された亜美は、青葉健二の斜め向かいの席に座った。
　青葉の居る庶務課は、１２人で構成され、係長を含めた男女が半数ずつ従事している。
　早速、亜美は、隣に座る若い男性職員に挨拶をした。

「よろしくお願いします。」
「あ・・・こ、こちらこそ・・・・い、石川と言います。」

　隣に座る男は、石川直樹という２５歳になる入社３年目の社員だった。
　石川は、亜美の挨拶に緊張のボルテージが上がっていった。

（き、綺麗な人だな・・・・）

　亜美は、石川の心を読み取ったのか、にっこりと笑みを投げかけた。

「よろしくね。石川さん。色々と教えてください。」
「は、はい・・・な、何でも聞いてください。」
「ありがとう。」

　亜美は、石川に事務の内容を聞き終わると、総務課長の案内で会社の見学をする事になった。

「香坂君、内の業務を紹介しよう。一緒にきたまえ。」
「はい。」

　亜美は、総務課長に付き添い社内を見てまわった。
　ＫＫＩ食品は、７つの業務に分かれてそれぞれ事務を担当している。
　全国各地に食品を発送する会社の大元であった。

　亜美は、各部署で挨拶をしながら担当長からの説明を受けていた。
　そして、どこの部署でも、亜美を見ては、視線を投げかけてくる男性が多かった。

（ひょっとしたら、意外と早く協力者が見つかるかも。）

　亜美は、そんな事を思いながら、極力、冷静を装おう事を忘れなかった。

「どうだね、香坂君？」
「はい、活気があって、さすが市場をリードする会社ですね。」
「ああ、採用する社員も高い競争率を潜って入社してくるし、社員にも競争意識を持たせているんだ。利益向上のためなら、多少の事は、目をつむる事も必要と幹部は考えているんだよ。」
「多少の事は・・・というと。」
「見て見ない振りをする事も大事ということだね。」
「・・・なるほど・・・そうですね。」

　亜美は、この会社独特の経営趣旨を理解した。
　そして、会社の運営、利益、拡大のためなら、第三者の犠牲や悪事を容認すると言っているように聞こえたのだ。

「では、頑張ってくれたまえ。良い研修となる事を祈ってます。」
「はい。」

　亜美は、総務課長に礼を言って席に戻った。
　隣では、石川が懸命に書類の整理をこなしていた。

「ね、石川さん。お昼一緒に食べない？」
「え、本当ですか？」
「ええ、色々と聞きたいこともあるし。」
「よ、喜んで。」

　石川は、笑顔で答えると顔をニヤつかせながら事務を続けた。

（まずは、信頼できる人間を聞き出さないとね・・・。）

　亜美の頭の中では、猛スピードで作戦が練られていく。
　ある程度予想をしておかなければ、青葉に気づかれる恐れがあるからだ。

−　昼休　−

「へぇー、それじゃ、庶務の青葉さんと営業一課の大見さんが、過激なライバル争いをしてるのね。」
「ええ。役員からも次期課長昇格者を将来のリーダーに抜擢すると言われてるんです。」
「二人は独身なんでしょ。」
「ええ。でも、大見さんは、同じ課の女性と来月結婚が決まってるんですよ。」
「へぇー・・・青葉さんは？」
「さぁ、係長は、どうなのかな？でも見ての通りハンサムだし社内の女性からも人気ありますからね。それに成績もいいし、将来は幹部が予想されているから、玉の輿を狙ってる女性は、沢山居ると思いますよ。正直、羨ましいですよ。」
「そうなの。」
「でも、大見さんの婚約者は、食品マーケットでは国内トップを走る大宝グループの専務の娘さんなんです。つまり、うちの会社にとってもプラスになる事は間違いないんですが、そういう見方をすると青葉係長は、大見係長に一歩遅れをとっているというのが社内での噂になってます。青葉さんは、多分、焦ってるんじゃないかな。」

（大宝グループっていったら、うちの物産の提携会社じゃない・・・）

「で、青葉さんは、そういう素振りがあるの？」
「というか、大見さんに負けないくらいの知名度がある女性を探してるって噂が、社内で流れてるんですよ。」

（なるほど・・・ひょっとしたら青葉は、お金だけが目的じゃないかも・・・）

「ふぅーん。・・・ね、石川さん、変な事を聞くけど、この会社で口が堅くて秘密を守れる人って居る？」
「んー、皆、出世のためなら簡単に口を割る人は幾らでもいますけど・・・・・反対に口が堅い人は少ないと思いますね。この会社は、競争させるんですよ。」

（・・・・そうかぁ・・・）

「ねぇ、石川君、あなたは、口は堅いほうなの？」
「え、俺ですか・・・んー・・どうかな。まだ平社員だし、ついて行く上司を決めていないので今のところは・・・・・。でも、香坂さん、何でですか？」
「ぇ・・・い、いえ、何となく・・その・・・そう、私って出世学というか、そういうのに興味あるのよ。それに男を見極める技術を得たくて・・・。」
「へぇー、そうなんですか？」

（ヤ、ヤバカッタわ・・・・・しかし、私もいい加減な事言うわね・・・）

「でも、俺、個人的には、口は堅いと思うんですけどね。」
「ねぇ、石川君、今日飲みに行かない？」
「えぇーっ、本当ですかぁっ！」
「ちょ、ちょっと、声が大きいわよ。」
「す、すいません・・・香坂さんのような美人に誘われものですから、嬉しくて・・つい・・。」
「フフッ、お世辞はいいのよ。」
「お世辞じゃありませんよ。本心です。」
「じゃ、終わったら一緒に帰りましょう。」
「は、はい。」

　亜美は、終業間際に、屋上から鏑木に連絡を入れた。
　石川から聞いた話を知らせるためだ。

『大宝グループか・・・・物産の提携会社だな。』
「ええ。」
『ん・・待てよ・・・その、ライバルっていう大見の婚約者は、大宝の専務の娘でＫＫＩにもプラスになる訳だろう。しかし、太平洋物産のほうが大宝より上だ。つまり、青葉は、大見の婚約者以上の女性を探していると考えれば・・・・・・』
「私も、そう思いました。しかし、酒井さんは、今は一人です。物産にも直接関わってる訳じゃないし、青葉のメリットはあるんでしょうか？』
『いや、幾らでもある。』
「・・・・？」
『莫大な金だ。・・・・つまり、金で大宝を操作できると考えているかも。酒井さんは、太平洋の歴代幹部の中でも国内高額納税者だったからな。』
「！・・・・なるほど・・・株操作も出来ますね。」
『よし、要件は当てはまった。亜美君、引き続き青葉の情報を仕入れてくれ。』
「解りました。」

　亜美は、電話を切るとオフィスに戻って帰り支度をした。
　石川が、早くも支度を済ませ、ソワソワした態度を取っている。

「石川さん、お待たせ。いきましょうか。」
「は、はい・・」

　亜美は、石川と共に会社を出ると、石川がよく行くという店に向かう事にした。

「洋風居酒屋なんですが、雰囲気もよくて美味しいんですよ。」
「そう、楽しみだわ。」

　亜美は、歩きながら、ある事を考えていた。
　石川を情報収集者として協力させようと思っていたのだ。
　調子は良いが、素直で亜美に好意を持ってくれている。
　なにより、まだ若いためか主観的に出世欲には興味を持っていないこと。
　そして、青葉と同じ課の人間を使ったほうが、何かと利便性は多く、怪しまれる事も少ないと考えたのだ。

（１１８）

「香坂さん、ここです。」

　石川が、亜美を店内に案内した。

「へぇー、明るくて、お洒落なお店ね。」

　石川は、奥に進み、囲いのあるテーブル席に場所をとった。

「ここで、いいですか？」
「ええ。」
「何を飲みます？」
「そうねぇー・・・ビールでも飲みましょうか。」
「わかりました。」

　石川が、店員にビールと料理を注文した。

　運ばれてきたピッチャーを亜美と自分のグラスに注ぐ石川・・・
　亜美と石川は、軽くグラスをあわせた。

「おつかれさま。」

　亜美は、運ばれてきた料理を食べ、ごく普通の会話を交わしながら石川に協力を促す、切っ掛けを探っていく・・・

　既に１時間ほど話したであろうか、真面目で口も固そうな石川は、使えそうだという気持ちが固まってきた。

「石川君は、彼女が居ないの？」
「ええ、なかなか見つからないんです。」

　石川は、早くも酔ってきたのだろうか、顔が赤らみ口調も滑らかになってきた。

「香坂さんのような女性なら最高なんですけどね。」
「ま、お世辞なんか言っちゃって。」
「いえ、お世辞じゃないですよぉー。マジに本音です。香坂さんが結婚してなきゃ、申し込んじゃいますよ。」
「フフッ、ありがとう、嬉しいわ。」
「彼女がほしぃぃーーっ！」

　石川は、ビールを喉に流すように一気に飲んでいく。

「・・・・・・ね、石川君、変な事聞くけど、そのぉー・・・どう処理してるの？・・つまり・・男の・・欲望というか・・」

　石川は、亜美の質問に赤い顔を更に赤くして答えた。

「・・ぇぇ・・まあ、その・・一人でする時もありますし・・・そういう店に、同僚と行くときもありますけど・・・・・・・でも、しょっちゅう店に行くお金なんかありませんからね。」

　そう言って、ビールを追加注文する石川・・・
　亜美は、石川の心理を探っていった。
　従来、感受性が強く康平の血を受け継いでいるのか、人の心を読む力に長けている。
　亜美は、心の中でほくそ笑みながら石川を自分に引き付けていく作戦に入った。

「ね、石川君、仕事の話なんだけど・・・・」
「ぇ、仕事ですか・・・僕は、女の話がいぃぃーっ。」

　既に酔いが思考を上回ってきたようだ。
　運ばれてきたビールを半分ほど一気に飲んでいく。

　亜美は、ブラウスのボタンを緩めて石川の位置から胸元が確認出切る様にした。

「あぁ・・ちょっと苦しいわ、飲みすぎかなぁ。」

　薄紫色のブラジャーが、白いブラウスから見え隠れしている。
　石川は、亜美の胸元に目が釘付けになっていた。

（・・・・ぁぁ・・・こ、香坂さんの・・・・）

　石川は、それを振り払うようにトイレに立った。

「ちょ、ちょっとトイレに・・・」

　石川は、上体を屈めながらトイレに走った。

（・・・フフッ・・・石川君も可愛いわね・・）

　しばらくして石川がトイレから戻ってきた。
　亜美は、タイミングよく組んでいる足を石川から見えるように組み替えた。
　ストッキングを通してブラジャーと同色のショーツが、はっきりと確認出来る。
　石川の視線は、亜美の股間に突き刺さった。

（ぱ・・・パンティ・・・が・・・）

　ゆっくりと席に座った石川に亜美が喋りかけた。

「石川君、今日は、ありがとう。」
「え？」
「主人も待ってるし、これで帰るわ。」
「そ、そうですか・・・・」

　残念そうに答える石川・・・・・

「今日は、面白い話を聞かせてくれてありがとう。また、二人で一緒に飲みに行きましょうね。」

　亜美の言葉で、石川の顔が、一気に明るくなる。

「は、はい。喜んで。」
「石川君は、ゆっくり飲んでて、私タクシーで帰るから。あ、今日は、私に払わせて。無理に誘っちゃったし。」
「そ・・そんな・・・僕が・・」
「いいのよ。じゃ、石川君も気をつけて帰ってね。」
「は、はい。・・・ご馳走様です。」

　亜美は、妖艶な笑みを石川に見せながら軽く手を振って店を出て行った。
　石川の心理を考察し、誘心させるために取った行動だったのだ。

（なんとか、興味を示したかな？・・・さて、裕二さんに抱いてもらおぉーっと。）

　亜美は、タクシーを拾うと家路を急いだ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「あの、香坂課長、お茶でも・・・・」
「いや、このまま帰るよ。独身女性の家には入れないぜ。」

　裕二は、ガードしている酒井由香を自宅まで送ってきたのだ。

「でも、それじゃ・・」
「これが俺の仕事さ。気にするなよ。さ、戸締りはしっかりとな。」

　裕二は、由香を玄関に入れると、そこから立ち去ろうとした。

「あの・・課長・・・」
「ん、なんだい？」
「ぁ・・・そ、その・・・今度、・・・・・」

　裕二も、亜美と同様、人の心を読む高い技術を持っている。
　その仕草や態度で由香の言いたい事を理解したのだ。

「由香君、明日の夜にでも飲みに行こうか。色々と話したい事があるんだろう。」

　由香は、裕二の誘いに嬉しそうに返事をした。

「本当ですか？・・・絶対にですよ。」
「ああ、わかった。・・・じゃぁな。」

　裕二は、由香と明日の約束をして家路についた。
　由香は、裕二にガードをされるようになってから心が揺らぎっぱなしだった。

　近寄りがたい男であるのだが、いざ、裕二との付き合いに触れると、頼りがいがあり、包容されているような独特な雰囲気に好感を持った。
　由香は、短時間で裕二という人間に吸い込まれていったのだ。

「あぁー、暑いっ。亜美っ、ビールくれっ！」
「はぁーい。しかし、遅かったのね。」
「ああ、酒井君が残業でな。一緒に付き合わされたんだ。」
「ご苦労様っ。でも、ガード役だからね。」
「それにしても、でかい家だったぜ。　あ、明日、彼女と飲んでくるから。」
「うん、わかった。それより、裕二さん、どぉぅこれ？」

　亜美は、フレアー風の寝着を捲って裕二に見せ付けた。
　裕二は、突然の亜美の行動に咳き込んでいる。

「ブホッ・・ゲホッ・・・な、なんだ、その下着は？」

　亜美が、笑いながら裕二に答えた。

「通販で買ったの。裕二さん好きでしょ、こういうの。、

　亜美の穿いているショーツは、蜜壷部分だけがくりぬかれた派手に光る金色のナイロン製のショーツだった。

「・・・・き、嫌いじゃないが・・・・凄ぇ派手だな。」

　亜美は、それに答える事はせず、裕二の腰に巻かれたバスタオルを開いて肉棒をくわえ込んだ。

「い、いきなりかよ・・」

　しかし、裕二の肉棒は、瞬時に怒張していった。
　肉棒から口を離した亜美が裕二を見上げる。

「フフッ・・・そういう割りに裕二さんも反応が早いわね。」
「・・ちっ、言いやがったな。」

　苦笑いをする裕二に亜美は抱きついていった。
　そして、裕二は、亜美を抱きかかえると寝室に急いだのだった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−　翌朝　−

　裕二は、由香の出勤に合わせるため早めに家を出る所だった。

「じゃ、今夜は、遅くなるからな。」
「ええ。気をつけてね。」
「そういえば、そっちの進行状況はどうだ？」
「うーん・・・青葉が、なかなか尻尾を出さないから・・・」
「早めに、情報提供者を見つけろよ。そうでないと俺も動き様がないからな。」
「うん、解ったわ。」

　裕二は、由香の出勤にあわせ、亜美よりも先に家を出て行った。

「さてと、勇斗を起こすかな・・・・」

　亜美は、寝着の上から股間を押さえた。

（ぁぁ・・・まだ、裕二さんのが、オマタにまだ入ってるみたい・・）

　亜美は、歩きにくそうに勇斗の寝ている部屋に向かった。