（１４６）

　裕二は、強い眩暈を連続的に感じていた。

「・・・・鏑木さん・・・間違いないんですか。」

　鏑木は、頷きながら裕二に言い放つ・・・

「疑いたくなかったさ。実は、異周波が出ていることに気づいたんだ。彼女・・そう、翔子君のＣＥ機からだった。今でも信じられないよ。」
「・・・・・・」
「お前は、それをいつも持ち歩いている。衛星チップ入りだからな。何処にいても居場所は把握できるさ。そして、作戦は全てメアリーに漏れる。翔子君からな。」
「鏑木さん・・・・どうすれば？」

　鏑木は、大きな溜息をついて暫し考え込んだ。

「・・・・・よし、こうしよう。いいか、よく聞け。」
「お前は、このＣＥ機をとりあえず使い続けろ。」
「え・・・でも・・」
「裕二、逆に利用するんだよ。」
「・・・・！・・・なるほど・・・」
「メアリーを誘き寄せれる。」
「ですね。」
「しかし、翔子君に気づかれないようにしないといけない。」
「それは大丈夫です。」
「メアリーを始末すれば全ては終わる。」
「鏑木さん・・・・メアリーを捕まえたら・・・・・殺って・・・いいんですね。」
「・・・・・・・・・・裕二、あの女は・・・・殺人者だ。」
「・・・解りました。」
「それから、裕二・・・・翔子君のことは、・・・・俺とお前だけの秘密だ。ただ、所長だけには、言っておかなければならん。最悪を避けるためにな。」
「ええ・・・・そうですね。」
「とりあえず、ランダムにお前のＣＥ機に偽情報を入れる。撹乱させよう。」
「じゃ、俺が鏑木さんから貰う直接の情報は？」
「センターのピッチを使おう。単信設定してあるダイレクト電話だ。」
「解りました。・・・・・じゃ、鏑木さん、さっそく行って来ます。」
「ああ、気を抜くなよ。」

　裕二は、鏑木に無言で頷くとシークレットハウスを出た。

　亜美を連れて第一センターに戻った裕二は、特命課係長の桜木を読んだ。

「桜木、ちょっと来てくれ。」
「はい。」

　裕二は、ＣＥ機をデスクにおいてロビーに出た。

「何ですか、課長・・」
「よく聞け、メアリーがマリーナにいることは間違いない。それをなるべく早く見つけて欲しい。鏑木さんが言うには舟艇アンテナとは別にカモフラージュした衛星アンテナが付けてある可能性が高いと言っていた。それが目印だ。」
「解りました。」
「香川にＰＩＰ爆弾を用意させた。プラスチック爆弾の一種だ。お前は、発見したら香川に連絡を入れろ。俺の合図で爆破する。」
「・・・・・・わ、解りました。」
「でも、誰が爆弾を仕掛けるんですか？」
「それは、心配するな。」
「・・・・は、はぁ・・・・」

　怪訝そうな顔で納得する桜木・・・
　裕二は、桜木の肩を叩いて追説した・・・

「桜木・・俺は、お前に色々な事を教えてきた。しかし、疑問も持つだろう納得いかない事もある。だがな、俺も課長だ。部下である、お前らの命は守らんといかん。責任感ない奴は上に立てない。いわく命令は聞く事だ。」
「課長・・・俺は・・・香坂課長のように・・・・」
「桜木っ・・・なれるさ、お前なら・・・・俺が、お前を鍛えてるんだぜ。」

　裕二は、そう言いながら、もう一度、桜木の肩を叩いた。
　桜木は、意を決した表情に戻り裕二に答えた。

「・・・課長、さっそく出かけます。」
「頼むぞ。」

　裕二は、デスクに戻ってＣＥ機をポケットにしまった。。
　ガラス越しに、第二センターに顔を向ける・・・・・

（鏑木さん・・・・頼みますよ・・・・）

「どうしたの、裕二さん・・」

　亜美の声に、一瞬、緊張が走る裕二・・・・・・

「いや、何でもない・・・・さ、俺たちも行くぞ。」
「ええ。」

　こうして、裕二と亜美もセンターを出て街に繰り出す事にした。

　誘導作戦を実行するために、メアリーがいるであろうマリーナとは違う場所に向かわなければならない。
　自分が離れる事によって、桜木も仕事がしやすくなるからだ。

「ねぇ、裕二さん、港に行かないの？」
「ああ、色々と探りたい事もあるしな・・・」

　裕二は思った。亜美といえども、その理由は今の段階では言えない。
　翔子とは、大親友であり動揺した態度を見破られる可能性もなくはないからだ。
　そして翔子も、女性と言えど、センターで情報係長を務めるほどの人間なのだ。

　その頃、第二センターの三課では、翔子が怪訝そうに鏑木を見つめていた。
　今日に限って鏑木から指示がない事に疑問をもっているのだろうか・・・

　その鏑木は、ランロックをかけてタイプを打ち続けている。
　翔子は、鏑木のデスクに歩み寄った。

「次長、今日の行動事項は、課員に情報を入れなくていいんですか？」

　鏑木は、用意してあった言葉を翔子に返した。

「ああ。実は、作戦を変えようと思う。とにかく相手の所在もわからんからな。いま、データを打ち直しているところだ。終わったら君から連絡してくれ。」
「解りました。」

　翔子は、表情を変えることなく席に戻った。
　鏑木は、チラッと翔子を確認した・・・

（・・・・・裕二・・・・こりゃ、急がないといかんかもしれんぞ・・・）

　鏑木は、今日中に翔子を追い詰める事に頭を悩ました。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　昼も近づき、裕二と亜美は、昼食を摂る事にした。

「亜美、飯でも食おうぜ。」
「ええ。」

　車を地下の有料駐車場に停め、二人は車から降りた。

「上の飲食街に出ようぜ。」
「うん。」

　亜美は、裕二の後を歩いていた・・・その時・・・
　裕二が、亜美に振り向き、いきなり抱き寄せると唇を合わせてきた。

「・・ん・・っ・・・」

　口を離した亜美が裕二に囁く・・・

「裕二さん・・・ど・・・」
「静かに・・・俺の後ろに、男がいる・・・・」

　亜美は、裕二の肩越しに目線だけで確認した。

「・・・誰？・・・」
「判らん・・・・いいか・・・後ろを歩くな。俺の横に並んで歩くんだ。」
「わかった・・」

　裕二は、向きを変えて出口に向かった。
　男は、くたびれたスーツ姿の格好だが、強烈な闘気を感じる。

　裕二と亜美が、その男の前を通り過ぎようとした時だった。
　訛った言葉で裕二を呼び止める。

「おい・・」

　裕二が、男に振り向いた。

「・・・・私に、何か用ですか？」

　そう言った瞬間、男は強烈な後ろ回し蹴りを裕二の頭部に放った。

「グッ・・」

　何とかブロックをしたもののフェイクさへ出来ないほどの早さだった。

（・・・・・・・こ、こいつ・・・）

　裕二は、上着を脱いで亜美に放った・・・
　受け取った亜美の顔が強張っている。
　亜美も男の尋常ではない強烈な雰囲気を察したのだろう。

「・・・・ゆ、裕二さん、気をつけてっ。」

　ネクタイを緩め腰を落とす裕二・・・
　男も裕二に合わせ身構えた。

　睨みあって数十秒後、同時に二人が前蹴りをだすと足を交差して互いの踵が腹部に炸裂しあった。

「グッ・・」「ゲホッ・・」

　尻餅をつく二人・・・・

（・・・・・こいつ・・日本人じゃないな・・・）

　裕二と男は、ゆっくりと立ち上がった。

　男は、半分笑みを浮かべている。
　よほど自信があるのか、余裕を見せていた。

（笑いを見せるとは、甘いな・・・・こいつ・・・）

　男は軽快なフットワークで踊るように裕二に近づいてきた。
　息を飲みながら裕二のスーツを握り締める亜美・・・

　男は、連続した蹴りを裕二に見舞ってきた。
　男の早い蹴りに、裕二は、ブロックで防御するしかなかった。

（・・・・フゥゥー・・・・なるほど・・・テコンドーか・・）

　早くも裕二の前腕は、男の蹴りによって腫れ上がっていた。

「やるな・・・・・・さて、次は俺の番だぜ。」
「・・・・？」

　裕二は、右半身のサウスポースタイルに構えると更に腰を落とし次の攻撃を待つ・・

　男は、何も考えずに裕二の間合いに入ってくる。

（馬鹿め・・）

　男が、フェイントを掛けた踵落しを見舞ってきた。
　テコンドーの代表的な技だ。

　裕二は、待ってましたとばかりに地に手をついて右にステップすると、男の軸足を払った。
　脛に当たった裕二の足底に掬われ男は身体を半回転させて地面に落ちた。
　すかさず裕二は、身体を回転させ、肘を男の胸部に叩き込む・・

「グゥワッハァァァァー・・・・ウギギギギギィ・・・」
「ふっ・・・お前、頭悪りぃーな・・・」

　男の左足は、折れ曲がって反対方向に向いていた。
　右肺部が、陥没し口から大量の吐血をしている。

「・・・ゆ、裕二さん・・・大丈夫・・・」
「ああ、見てのとおりだ。ちょいと腕が腫れたがな。」
「・・・どうするの？　この男・・」
「大場さんに連絡を入れておく。」

　裕二は、菊花の店長、大場に連絡をして男の始末を依頼した。
　そして、亜美から上着を受け取った。

「な・・・シワクチャじゃねぇーか・・・」
「ご、ごめん・・つい、力が入っちゃって・・・」
「・・・・ったく、お前は。俺がやられるとでも思ったのかよ。」
「うぅん、そんなんじゃ・・・・ただ、興奮しちゃって・・・・」
「・・・それより、次は何が起こるかわからん。飯を食っておこうぜ。」
「う、うん・・」

　裕二は、腕を擦りながら地上に上がっていった。

「ね、裕二さん、私、この間から思ってたんだけど、いくら裕二さんを狙ってるからって、どうして、こんなに簡単に居場所が判っちゃうの？」

　昼食を食べ終わった亜美が、裕二に素朴な質問をした。

「亜美、直に話す・・・・俺も、さっき知ったんだ。」
「え？・・さっき・・」

　そこへ、裕二に桜木から連絡が入った。

「香坂だ。」
『課長、桜木です。』
「おう、どうだ？」
『見つけました。ブルーのＧＧ大型クルーザーです。この色は１艇しかありませんので、直ぐ判ります。』
「そうか。よくやった。」
『香川には、先ほど連絡しておきました。』
「よし、解った。しかし、この短時間でよく判ったな。」
『ええ、ちょっとトラップ組んで。』
「トラップ？・・・・・・おい、桜木、トラップとは、どういう意味だ。」
『え・・・ライン無線を使って傍受をしたので誘導して、その隙に・・・船内に・・・・・・そ、それが・・・』
「馬鹿やろぉぉぉーっ！」

　裕二の大きな怒鳴り声に、店内の客が一斉に裕二に振り向く。

「・・ゆ、裕二さん・・・ちょっと・・・」

　裕二は、亜美や客を無視して更に叫んだ。

「桜木っ、急いで、その場から立ち去れ。出来るだけ目立たないように。」
『え・・・まだ・・』
「いいから、逃げろっ！　わかったなっ！」
『・・はい・・・・課長・・・俺・・何か・・・・・・ぇ？　・・ウガァッ・・・・』
「！・・・桜木・・・おい、桜木っ・・どうしたぁっ・・・桜木ぃぃぃーっ！」

（クソッタレェーッ！）

「裕二さん、・・・ま、まさか・・・」
「亜美、急いでマリーナに行くぞ。」
「わかったわ。」

　裕二と亜美は、急いで地下駐車場に戻った。
　センターの専用ピッチで鏑木に連絡を入れる裕二・・・

『な、何・・・・桜木が・・・』
「今から向かうところです。」
『わかった、裕二、よく聞け。危険かもしれないがＣＥ機を亜美君に持たせてセンターに帰らせるんだ。今、駐車場と言ったな。そこに、至急課員を送る。』
「わかりました。」

　裕二は、車を停めると亜美に事情を説明しＣＥ機のバッテリーを外して手渡した。

「亜美、いいか・・・鏑木さんに、これを渡すんだ。」

　亜美は、理由を聞かずに頷いた。
　もはや、普通の状況ではない事を察しているからだ。

「ええ、わかった。」
「直ぐに課員が迎えにくるが、気をつけろ。」
「うん。」

　裕二は、亜美を残し急いでマリーナに車を走らせた。
　タイヤを鳴らして車をスタートさせる裕二・・・

（裕二さん、気をつけて・・・・）

　亜美は、祈るように裕二を見送った。

（１４７）

　裕二は、車をマリーナの手前に横付けした。
　車から降りて慎重に周りを見渡す裕二・・・

（・・・・・どこだ・・・・・桜木・・・・・・無事でいてくれよ。）

　青のＧＧクルーザーは、５０メートルほど離れた、台頭付近にあった。

（クソォー・・・うかつには、近づけん・・・）

　その時、裕二が乗ってきた車のクラクションが鳴らされた。
　咄嗟に後ろを振り向く裕二・・・

　そこには、バイクを横付けした男が、中指を立てて裕二にサインを送っていた。
　ボンネットの上には、血だるまになった男が仰向けに倒れている。

「さ、・・・・桜木ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーっ！」

　裕二は、車に向かって猛ダッシュした。

　男は、バイクをターンして走り去っていく。
　裕二は、ボンネットに倒れている男を確認した。
　やはり、桜木だった。

　ほとんど区別が出来ないほど顔は変形し、四肢も全部骨折している。
　右の大腿は、折れた骨が皮膚とズボンを破って突き出していた。
　裕二は、急いで救急車を呼ぶと桜木の呼吸を確認した。

「桜木・・・桜木っ！・・・・・俺だ、香坂だ・・聞こえるか。」

　桜木の口が僅かに動いた。

「喋らんでいい。判るな・・・・もうじき救急車がくる、頑張れ。」
「・・・・か・・・・・・課長・・・・・・・・・・・」
「いいんだ、喋るな・・・・・後で、ゆっくり聞くから・・」

　裕二は、桜木を地面に下ろして、顔についている血を拭き取り骨折した四肢を簡易的に固定した。

「桜木・・・・・・死ぬなよ・・」

　桜木は、意識を失った・・・

（・・・・・・・・・許さんぞ・・・・・・俺の全力を持って・・・・・許さん。）

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　裕二は、桜木が搬送された病院から、遠藤に電話を入れた。

「・・・あ、香坂です。」
『どうだ・・桜木は？』
「いま、手術中です。」
『そうか・・・・いま、シンディーをそっちに向かわせた。入れ替わりで、センターに戻ってきてくれ。賭けに出る。』
「わかりました。」

　数十分後、洋子が病院に現れた。

「裕二君、お待たせ。はい、車の鍵よ。」
「ああ・・・」
「・・・裕二君、元気出して。貴方が弱気を見せると課員も動けないわ。」
「ああ、解ってる。・・・・じゃ、何か合ったら連絡をくれ、頼むぞ、洋子・・」
「ええ。」

　裕二は、足取り重くセンターに向かった。

−　第二センター　−

「鏑木さん。」
「おう、裕二、所長がもうじきくる。地下に行こう。」
「ええ。」

　裕二は、鏑木と共に地下のシークレットルームに入った。
　しばらくして、遠藤が部屋に入ってきた。

「今、病院から連絡が入った。手術は成功したようだが右足は使い物にならんそうだ。」
　遠藤の言葉に、裕二の顔が一気に陰りを見せた・・・

（・・・桜木・・・・・・）

「鏑木・・・どうする。」

　鏑木は、少々間を取った後、二人に作戦案を説明した。

「もう、これ以上時間を延ばせません。犠牲者が増える一方です。翔子君を呼び出して真相を完全に喋ってもらおうと思います。」
「簡単に話すでしょうか？」

　裕二の質問に鏑木も顔を曇らせた。

「鏑木、俺が聞き出そう。」

　裕二と鏑木が遠藤を見つめた。

「荒尾常務が、全グループ関連会社にシステム停止の要請をしに行っている。」
「えぇ！・・そ、そんな事をすれば・・・」
「利益低下は、やむをえん。常務が社長を納得させてくれたようだ。」
「・・・・・・」
「もう、我慢の限界だ。鏑木、どんな手を使っても構わん。メアリーを誘き寄せる手筈を整えろ、今から翔子君と話す。」
「・・・・・・わかりました。では、ブラフを張ります。」
「んむ。」

　鏑木は、情報係に内線を入れた。

「俺だ。情報係長と代わってくれ。」
『はい。お待ちください。』

　しばらくして翔子が電話口に出た。

『はい、阿部です。』
「今から、香坂をマリーナに行かせる。君の端末に情報を送るから経由してくれ。」
『解りました。』

　鏑木は、電話を切ると偽情報を翔子のパソコンに送った。

「所長、ＯＫです。」
「よし、行くか。」

　遠藤は、裕二と鏑木を連れて三課に向かった。
　オフィスに入る３人・・・・

　鏑木が、課員に問いただす。

「情報係長は？」
「え・・そういえば・・・先ほどまでいたんですが。」

　隣の席に座る課員が、翔子がトイレから出てエレベーターに乗ったと答えた。
　３人は、翔子が上階に上がった事に直ぐに気がついた。

「屋上だろう。行くぞ・・」

　３人は、慎重な面持ちでエレベーターに向かった。

「所長・・・・・」

　鏑木が、遠藤に声を掛けた・・・・・・

「・・・変な気分だ・・・自分の子供に引導を渡すような感じだな・・」
「・・・・・・」

　鏑木と裕二は、遠藤の言葉が、重く濁っているように聞こえたのだ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　３人は、最上階に着いた。
　ここから、さらに階段を使って上がると、遠藤は屋上に出る扉を開いた。

　裕二と鏑木も、遠藤に続き屋上に足を踏み入れる。

　周りを見渡す３人・・・

「所長、居ました。」

　中央の高架水槽に腰を降ろしてタイプを打つ翔子の姿があった。
　遠藤は、静かに息を吐くと翔子に向かって歩き出した。

　気配に気づき顔をあげる翔子・・・・
　翔子は、驚愕の表情で遠藤を見入った・・・

「・・・・・・やぁ。」

　翔子の身体が一気に硬直する。

「・・・・・・・所長・・・」

　遠藤は、翔子の前で立ち止まり顔を見つめた。

「翔子君、・・・・・理由を聞かせてくれ・・・・・」

　翔子は、パソコンを置いて立ち上がった。

「・・・・・理由は言えません。私は、・・・私は、既に覚悟を決めてるんです。」
「覚悟？・・・・どういう意味だい。」
「西田次長・・・篠塚美貢さん、・・・・そして、桜木君をあんな目に合わせてしまったのは、私のせいです。私は・・・・・私は・・・・」
「どうしてなんだ・・・・翔子君・・・」
「言えないんです。・・・でも、私なりの・・・お詫びをしてケリを付けます。」
「ケリ？」
「いま、メアリーに、連絡を入れました。」
「・・・・・」
「香坂課長を単独で球場跡地に誘き寄せる事が出来ると言っておきました。」
「何だって？・・・どういう意味だ。」
「・・・・全て、・・・全ての説明と内容を私のパソコンに入れておきました。」
「何っ？」
「メアリーの潜伏している場所は、マリーナのクルーザーです。」

（・・・やはり・・・・そうか・・・）

「彼女は・・・メアリーは、・・・・・・悪魔です。」

　そう言うと、翔子は、端末機を遠藤に放り渡した。
　遠藤が、それを受け取る隙に、翔子は後方へ猛ダッシュした。

「！　ま、待て、翔子君！」
「裕二っ！」「はいっ！」

　裕二と鏑木がダッシュした。

　裕二と鏑木は、翔子の後を必死に追いかけていく。
　後ろを振り向く事もせず必死で走る翔子・・・

　そして、二人が同時に、翔子に飛びついた。
　しかし、その瞬間・・・・・・・

　翔子は中庭のあるプレートフェンスに、頭からダイビングした。

「な！　なんて事を・・」
「・・！・・しょ、翔子君・・・」

　裕二と鏑木が同時に声を上げた。
　翔子の身体は、１２階の屋上から地上の中庭に叩きつけられた。

　遠藤が走りよってフェンス越しに真下を覗く。

「所長・・・」
「・・・・な・・・・なんてこった・・・・・クッ・・・・クソッタレがぁぁぁー。」

　遠藤は、翔子から渡されたＰＣ機を抱えながら、きつく目を瞑った・・・・
　跪く裕二と鏑木・・・・・・

「・・・何で・・・・何でだ・・・・何故だぁぁーっ。」

　裕二が叫んだ。
　鏑木は、手を地に付いて無言でいる。
　遠藤の身体は、小刻みに震えていた・・・・・
　３人の、身体には、どうしようもない脱力感が襲い掛かっていた・・・・・・