かれこれ三時間は荷物の片づけをしているというのに、室内に積まれたダンボールの山は少しも減らない。小林亜美は額の汗をハンカチで拭うと、作業を中断して部屋の窓を全開にした。二階のその場所からは物干し台のある庭が見える。 山の高台に建つ家だから、眺めはかなりいい。水田のひろがる田舎町の端から端までが見渡せる。近代的な建造物やビルなどひとつもない。自分がこのような土地で生活するなど、丸の内勤務のＯＬだった半年前までは想像もしていなかった。 空気がおいしい……。 背中までの黒髪が風で揺れる。亜美はそれを片手で押さえた。階段をあがる足音が部屋の外から聞こえてくる。 「あの、亜美さん」 廊下から首だけを覗かせて小林祐一は言った。 「リビングの片づけ終わりました」 「ご苦労さま、ずいぶんはやかったのね」 「小物しかなかったから」 「隆道さんのお部屋も片づけたほうがいいかしら」 「書斎は自分でやるって言ってましたよ、親父」 そう言うと、祐一は彼女のいる室内を目だけで見まわした。 「ここも僕がやりますよ」 「そんな、悪いわ」 「亜美さんは自分の荷物を片づけてください」 「でも、祐一くんだって部屋の整理がまだなのでしょう？」 会話がよそよそしいのは、ふたりがつい最近まで他人同士だったからだ。けれども今は母子と呼ぶ間柄となっている。 「僕ならたいした荷物もないから、大丈夫ですよ」 「なら、少し休憩をしてからふたりでやりましょう。そのほうがはやく片づくわ」 「あ、はい」 「お茶を用意するから、リビングで待ってて」 ふたりで一階へと戻り、亜美は台所に入った。祐一はコーヒーが苦手なので、冷蔵庫から麦茶のボトルを取りだし、コップに注ぐ。 「親父がいたらもっとはやく片づいたのにね」 リビングの椅子に向かいあって座りながら、中学生の息子は口を尖らせた。 「引越しの途中で抜けだすなんてさ」 「仕方ないわよ、急なお仕事なんだから」 放送作家の隆道に東京のテレビ局から電話が入ったのは、昨晩のことだった。 「大変なんでしょうね、テレビのお仕事って」 亜美は小さく息をついた。都会を離れ、田舎暮らしをするのが夫の夢だということは、彼女も以前から知っていた。交際中から何度も話を聞かされていたし、そのための具体的な構想も彼は持っていた。 そんなだから、三ヶ月前に挙式する直前、引越しの計画をはじめて夫から伝えられたときも、亜美に特別な驚きはなかった。むしろ、彼の熱意と行動力を男らしいとさえ思った。 都会を離れる寂しさがまったくなかったといえば、嘘になる。だが、彼と夫婦になれることを考えれば、不安などごく些細なものだった。この人についていきたいと心から思った。三十九歳の夫に離婚歴があることも、彼に若い男の連れ子がいることも、亜美に結婚を躊躇させる障害にはならなかった。 「通勤するのもひと苦労だってのに、わざわざこんな田舎に引越すなんて」 「そうでもないわ。パソコンやファックスもあるし、仕事にはさほど支障は出ないって言ってたもの」 「でも、亜美さんは大変でしょ。買いものだって不便だし」 「わたしなら平気よ」 そのために東京で教習所にかよい、免許も取得した。夫の支えになりたいという強い気持ちが亜美のなかにあった。 「そろそろ片づけをはじめましょうか」 「うん。……親父、明日の夜まで帰ってこないんだよね」 「そうよ。だから今日じゅうには片づけなくちゃ」 二階にあがる祐一の背中を見届け、亜美は、空のコップを台所へとはこんだ。少年の言葉が、水面にひろがる小さな波紋となって彼女の心を揺らしていた。 親父、明日の夜まで帰ってこないんだよね……。 つまり、今夜は祐一とふたりきりということだ。そういう経験は、別に今回がはじめてではない。田舎の新居に越してくる前、三人は都心のマンションで暮らしていたのだが、仕事上、夫が家を空ける機会が多く、祐一とふたりですごしたことが何度もあった。 まだ中学生の祐一を男として意識したことだって、一度もない。母子ならば当然のことであり、それが自然なことだった。つい最近までは確かにそうだった。けれども今は、特別な目で少年を見るようになっている。 田舎の新居は造りは古いが、そのぶん間取りがひろく、部屋の数も必要以上に多い。リビングダイニングに夫婦と祐一の私室、さらには隆道の書斎まで設けたのだが、それでも空き部屋が三つも残っている。そのうち二階の一室を雑用品の収納部屋とするため、ふたりはダンボールの梱包を次々と解いた。 「夕食の時間までには片づけないとね」 手を動かしながら亜美はつぶやいた。台所におさまりきらない来賓用の食器を戸棚に並べる。 「本当、祐一くんがいてくれて助かったわ。わたしひとりじゃぜんぜん終わらなかったもの」 「いえ、そんな」 「そのダンボールの中身は何かしら」 「親父の本だと思いますよ」 祐一はダンボールを開けた。分厚い書籍がぎっしりと詰まっている。 「やっぱりそうだ。ほとんど仕事の資料ですよ。こっちのも……あ、これもだ」 「なら、書斎にはこんだほうがいいかしらね」 「大丈夫だと思いますよ、あっちは別の資料でいっぱいだし」 「本好きだものね、隆道さん」 「まったく。少しくらい処分すればいいのに……あ」 別のダンボールを開けた祐一の手が突然に止まった。 「どうしたの、祐一くん」 彼の異変は亜美にもすぐにわかった。彼女は身体を起こすと、目を丸くして狼狽する義理の息子に近づいた。 隠そうとする祐一を無視してなかを覗きこむ。色とりどりの布地がダンボールの内部におさめられている。すべて女物の下着だ。 「あら、いやだわ」 今度は亜美が狼狽した。荷物が多すぎたので、間違ってまぎれこんでいたのだろう。 亜美はダンボールをかかえて廊下に出ると、寝室のベッドの横にそれを置いた。身体が熱くなっているのが自分でもわかった。彼に下着を見られたことが恥ずかしいのではない。半月前に見た光景が鮮明によみがえり、頭から離れなかったのだ。 あの夜。寝つけなくてベッドから抜けだした亜美は、洗面所の灯が廊下にもれ出ているのを見つけた。扉がかすかに開き、なかから物音が聞こえてくる。 亜美はリビングの陰に身を潜め、注意深く様子をうかがった。もしも不審者が入りこんだのならば、ベッドで眠る夫をいそいで起こさなくてはならない。だが、その必要はないとすぐに理解した。扉の隙間から見えるパジャマの背中は、彼女のよく知っている人間のものだった。 洗面所の床に祐一が座りこんでいる。 室内に置かれたドラム式洗濯機が邪魔で、彼の顔まではうかがえない。背中の一部から右腕にかけてが見えるだけだった。それでも、義理の息子がこんな夜中に洗面所で何をしているのか、おおよその見当はついた。乱れた息づかいが、リビングに隠れる彼女の耳にも届いてくる。 まさか、自慰……。 そうとしか考えようがなかった。彼の右手にしても、亜美からは死角となる太腿の内側に添えられているのだ。何かを握り、忙しく動いている。 亜美は息苦しくなった。男性のそのような場面を目にしたのは、これがはじめてのことだった。やがて祐一の手の動きが激しくなり、よっぽど気持ちがいいのか、肩まで上下しはじめた。 「……ッああ、亜美さん」 突然に名前を呼ばれて、亜美の身体が揺れた。 かすれて聞き取りづらい声だったけれども、彼は、確かにその名前を口にしたのだった。かといって亜美の存在に気づいたふうでもなく、彼女に背中を向けたまま息を乱している。射精直後の男特有の息づかいである。首を捻ってリビングに目を向けたりもしない。 では、なぜその名前が出てきたのか。答えは明白だった。彼は、ペニスを握りながら亜美のことを考えていたのだ。彼女の裸身を想像しながら射精したのだ。 その意味を理解した瞬間、亜美は、足音を消して寝室へと戻った。 ベッドの毛布を頭からかぶったものの、少しも睡魔が襲ってくる気配はない。眠れるわけがなかった。つい今しがたに見た少年の姿が、揺れる背中が、闇に浮かぶ蛍光塗料のように瞼の裏側に張りついて消えないのだ。それを無理に消そうとすると、彼女の名を呼ぶ祐一の声が頭に浮かんでくる。 毛布のなかに新妻の熱い息がこもった。男の淫らな情景を目にして冷静でいられる女などいない。 白い肌が自然と火照り、パジャマの下の乳首が硬くなってくる。忘れようとすればするほど、そうなる。翌日、洗面所の洗濯籠に入れておいた彼女のパンティには、乾いた精液がたっぷりと付着していた。 亜美は、そのことで彼を咎めたりはしなかった。咎められるわけがなかった。 ひろい心で見れば、まだ許容の余地はある。祐一から見た自分は確かに母親だが、同時に、血の繋がりのない他人でもあるのだ。ましてや、母と呼ぶには若すぎる二十八歳の女である。 中学生の彼が性的な目で見るのも、無理はない。仕方のない悪戯だと思う。それに、祐一を責められない理由はほかにもある。 少年からそのような目で見られるのは不快ではなかった。恥じらいや困惑の裏に隠された嬉しさがあるから、本気で彼を叱る気にはなれない。 部屋に戻ると、亜美は何食わぬ顔で作業を再開した。 祐一も黙々とダンボールの中身を片づける。だが、なかなか作業に集中できないようだった。そのことが気配で彼女にもわかった。 集中できないのは何も祐一だけではない。表面上は冷静を装ってはいるものの、亜美の意識も別のところにあった。彼女にとってもっとも身近な存在の男が、自慰で発散させなくてはならないほどの情欲を自分に向けているのだ。 その感情を無視できるほど亜美は無神経な女ではない。そんな気持ちは素直に外見にあらわれ、今日の亜美は、薄手のノースリーブにミニスカートといういでたちだった。こんな恰好をするのは学生以来だ。夫にさえ見せたことがない。 何かを期待しているわけではないし、十歳以上も年下の中学生に性的な魅力があるわけでもない。ただ、小さな悪戯心が湧いただけだった。些細なからかいだった。女の刺激的な姿を目にして、まだニキビの残ったこの少年がどんな顔をするのか、見てみたい。 「これじゃあ今日じゅうには終わりそうにないわね」 そう言うと、ふたたび黙って作業に埋没する。祐一も口を開こうとしない。けれどもその無言こそ、互いの存在を意識している明らかな証拠だった。 「ねえ、祐一くん」 長い沈黙のあとに亜美は言った。 「あの箱はここじゃないわ」 祐一は、彼女が指さした箪笥の上に視線を向けた。 「裁縫道具が入ってるの。普段から使うから、リビングにはこんでおくわ」 「じゃあ、僕が取りますよ」 「いいわ、わたしがやるから」 亜美は脚立を持ちだし、箪笥の上に腕を伸ばした。そうしたのには理由があった。ミニスカート姿で高い場所にあがればどうなるのかは、容易に想像がつく。 子供じみた悪ふざけだと自分でも思う。少なくとも、母親が息子にしていいことではなかった。けれども、祐一だって亜美の下着に悪戯をしたのだ。少しくらいは仕返しをしてやりたい。 「やだ、思ったより高いのね」 着衣姿でもそれとわかる大きな尻が揺れる。その部分に少年の視線が当たる。 「ごめんなさい。怖いから、ちょっと支えてくれないかしら」 「いいですよ」 祐一は身を低くして脚立を固定した。 「ううん、違うの。そうじゃなくて」 「え」 「脚立じゃなく、足を押さえてほしいの」 本心から出た無意識の言葉だった。彼をからかいたいという気持ちが先行しすぎて、自分が高い場所が苦手なことをすっかり忘れていた。 「ねえ、はやくゥ」 「は、はい」 母親と呼ぶには若すぎる女にせかされ、祐一は咄嗟に腕を伸ばした。 両の足首を左右の手で掴む。細い足首だった。 「あッ……」 亜美の肩が震えた。 生の足首に触れられたとたん、小さな電流にも似た刺激が背筋に走り、つい声が出てしまったのだ。自分でも予想外の性感だった。 「亜美さん？」 「……な、なんでもないわ。それより、もっとしっかり支えてちょいだい」 声にも狼狽が色濃くなっている。 「足首じゃなく、もっと上のほう」 「え、でも」 「お願い、本当に怖いの」 この状況で足を支えたところで、かえって身体が不安定になるだけだ。そんなことは彼女にもわかっている。 だというのに、本心とは別の言葉がつい出てしまった。それほど鮮烈な指の感触であり、刺激だった。この性感をもっと味わってみたいという気持ちが、点滅を繰りかえすネオンライトのように彼女のなかで光っていた。 祐一の手が足首から脛へと移動する。 亜美は、その感覚に意識を集中させた。皮膚の上を虫が這っているような感じだった。性感の波が身体じゅうに押し寄せてきて、息づかいが湿ったものになる。 遠慮がちのさわりかただから、かえって興奮も大きい。まるで痴漢に襲われているようなスリルがあった。いや、痴漢なんかよりはるかにいい。ふたりきりの部屋で触れられているから、感じる。 強い興奮に見舞われているのは祐一も同じだった。義母の足のあまりの美しさに、魅惑に、彼は目を見張らずにいられなかった。 見た目はスラリと細いのに、こうして触れてみると意外なほど肉感がある。男にはないその独特の弾力は、女の乳房や尻の柔さを彼に想像させた。感触にしてもすこぶるなめらかで、生クリームを固めて作ったのかと思えるくらいだ。 自然と口のなかに生唾が湧いてくる。女の肉体がこれほどいい手ざわりだなんて、少しも知らなかった。しかも、支えてくれと命じられたため、両腕をまわしてほとんどしがみつく形となっている。 亜美さん、すごくいい匂いがする……。 無駄毛の一本もないスベスベの足に顔が当たる。膝の裏側に彼の息がかかると、成熟された肉体を持つ美人妻の腰が揺れた。 「あン、だめよ……そんなとこ」 亜美はうろたえた。そんな部分にまで女の性感があるとは知らなかった。 いやでも足に力が入らなくなり、ミニスカートの尻が落ち気味となる。そんなだから、なかなか箪笥の上部に手が届かない。また、別の不安もあった。祐一の指が意外なほどに気持ちよくて、先ほどからパンティの内側が熱くなりはじめている。 最初は自分から彼に見せるつもりだった。確かにそうだった。しかし、それは好奇心から生まれた些細な悪戯であって、それ以上のことを望んでいたわけではない。性的な刺激がほしかったわけでもない。 ところが、実際はどうだ。乳房や女性器に触れられたわけでもないのに、こんなにも感じている。足への接触だけで欲情している。 膣内から湧き出る恥液によって、いまやパンティの内部は完全な湿地帯だった。太腿にまで溢れているほどである。そして、太腿のすぐ下には祐一の顔がある。 やめさせなくてはならない。家庭を預かる身の母として、隆道の妻として、そのような女の痴態を息子に見せるわけにはいかなかった。欲情の証を彼に見られたくない。しかし、理性から分離した心は逆のことも考えていた。 「ねえ、もっとしっかりと支えて。でないと落ちちゃいそうだから」 それが言いわけにすぎないことも理解している。 「もう少し上を支えて」 「あの、やっぱり僕が取りますよ」 「だ、大丈夫よ。だからお願い……はやく」 「う、うん」 すでに祐一の手は膝を通過し、ムチムチッとした女そのものの部分にまで達している。スカートの生地越しではなく、じかに腿に触れている。 これほど接近しているのだから、きっと下半身も露見しているのだろう。腿を伝う愛液も、パンティの濡れ染みも、すべて見られているかもしれない。はしたない母親だと彼に思われたかもしれない。 これ以上の辱めはないというのに、かえって亜美の興奮は大きくなっていた。恥辱がこれほど強い快感をもたらすなんて思いもしなかった。 小刻みな震えが腰に走り、乳房や背筋にもひろがり、身体全体が甘い痺れに包まれる。相手が年下の少年というだけで、感じかたがまるきり違った。太腿だけでもこんななのだ。もしも淫裂に触れられたら、いったいどれほど感じてしまうのか。 だめよ、そんなの……彼は隆道さんの息子なのよ……。 心のなかで自分を律したところで、性熱が鎮静するわけもない。むしろ、祐一ならいいのではないか、という感情さえ湧いてくる。そんなふうに思えるのは、相手がひそかな劣情を彼女に向けている少年だからにほかならない。 亜美のパンティに悪戯をしたのも、裏をかえせば、彼なりの歪んだ愛情表現でもあるのだ。それを正しいとは言わないが、頭から否定することもできない。非常識なのは今の亜美とて同じだった。 ならば、いいのではないか。もう少しだけ、本当に少しだけなら非常識の罪に身を墜としてもいいのではないか。 亜美は混乱した。誘惑に負けてはいけないという強い意志もあるし、溺れてみたいという弱い心もある。だが、ものごとを理性的に分別する時間も余裕も彼女にはなかった。こうしている今も性熱は膨張しつつある。 「もっとよ、もっと上を」 赤い霧が頭のなかで渦を巻き、彼女から思考を奪い、最後に残された素直な心がそのまま甘い声になった。 「上をさわって」 「でも、これ以上したら」 「え、何？」 「これ以上は……その、見えちゃいそうだから」 「何が見えそうなの？」 亜美は、わかりきったことをあえて問いただした。 「ねえ、ちゃんと答えて」 「……そんなの言えないよ」 「なぜ？ 知っているから聞いたのでしょう」 「それはそうだけど」 「なら、ちゃんと言って。何が見えそうなのか、言って」 「し、下着」 少しの沈黙のあと、祐一は細い声で白状した。 「……パンティ、見えちゃいそうだから」 「つまり、まだ見えてないってことね」 「うん」 「本当に？」 「嘘じゃないよ、本当に見てないよ」 亜美は、彼のその声が虚言だと直感で悟った。これほど密接しているのだ、スカートの奥が見えないわけがない。 あるいは、見える位置にいながらあえて顔をあげないのか。照れや躊躇があるのだろうか。そうだ。きっとそうに違いない。だからこそ彼は見ていないという言葉を使ったのだ。見えないではなく見てないと言ったのだ。 亜美のなかの邪な感情がざわめいた。そういった男の嘘はきらいではなかった。淫らなことをするための口実を女に与えるからだ。 「わたしのパンティ、見たいの？」 挑むような目で少年を見据えた。 「見たいのでしょう」 「え、それは」 「そうなのね？」 「う、うん」 祐一のその声は、ふたりが母子の関係を完全に踏み越えたことを意味していた。 「……パンティ、見たいよ」 「ウフフ。洗面所でたっぷり見たくせに」 「え？ 今なんて」 「なんでもないわ。それより」 亜美は箪笥に両手をついて身体を支えると、膝を緩く曲げ、腰の位置を低くした。裁縫箱を取るという本来の目的など、もはや完全に忘れている。 「本当に見たいのね」 「うん、亜美さんのパンティが見たい」 「亜美じゃなく、ママって呼んで」 「マ、ママのパンティ見たい」 その言葉を祐一が発した矢先、突然に何かが彼の視界を遮った。 「いいわ、見せてあげる」 祐一の喉が鳴った。目の前にあるのは単なる暗がりの黒ではなかった。角度によって濃い灰色や紫にも変化する、高級な布地特有の艶のある黒である。 布地の中心には濡れ染みがあり、乾ききる前の墨汁のような光沢を放っている。その部分が、彼のすぐ鼻先に迫る。 「祐一が悪い子だから、わたしも悪いママになっちゃう」 亜美はさらに下半身を沈めた。スカートの裾が彼の頭によって持ちあがり、黒いパンティの臀部が外気にさらされる。色以上に形状で目を引く下着だった。布面積がごく狭く、尻の半分も覆ってはいない。 「これが亜美さんの……ママの」 祐一は声を震わせた。義母がこのような下着を身につけていたことに、卑猥すぎる尻の形状に、彼は感動せずにはいられなかった。 小林亜美が魔性的な肉体を持つ女だということは、祐一も薄々と気づいていた。歩くだけでユサユサと揺れる高い胸、万力で締めつけたみたいに細い腰。どれを取っても衣服では隠しきれない卑猥さがあるのだ。なかでも尻の量感は目を見張るものがあり、前屈みの姿勢を取るだけで、階段をのぼるだけで、ムッチリとした丸さが強調される。些細な動作がそのまま挑発の媚態となる。 部屋で自慰をするときも、いつも頭のなかでこの尻を思い浮かべていたほどだ。しかし、これは想像以上だった。彼の安易な夢想を超える肉体をこの義母は持っている。 「さ、さわってもいい？」 そう言うと祐一は、亜美の承諾を待たずに両手を伸ばした。小さな下着だから、特に何もせずとも地肌の尻に指が当たった。 「うわッ、ムッチムチだよォ！」 最初は遠慮がちの触れかただったのだが、すぐに指が上下に動き、左右にも動いた。果実の形をした餅のような感触だった。 ただ柔らかいだけではなく、指を押し戻す強い弾力がある。しっとりと手になじんでくる独特の湿りもある。そして、言葉では形容しがたい淫猥さがある。 「ああン、祐一ッ……」 性感のために亜美が尻を揺さぶると、祐一の手もそれを追いかける。女の柔らかい肌を十本の指で捕食する。 「そ、そんなにいいの？ ママのお尻がいいの？」 「最高だよ。ママってスケベな身体なんだね」 子供だから残酷なことも平然と口にする。 「たまんないよ、これ」 「もう、本当に悪い子……え、あ、あンッ」 亜美の声が途中で切れた。新たな性の鳴動が彼女のなかで起こったのだった。下着の中心に、指とは異なる何かが当たっている。 かまわず祐一は顔を埋めた。尻を左右に押し開き、首も伸ばし、女の敏感な部分に唇を押しつける。音がたつほどに強く吸う。 「そ、そんなの……だめよォ、だめだってば……ッ、うう」 亜美は狼狽した。指での接触は許したものの、これは想定外のことだった。 「危ないから、落ちちゃうからッ」 腕を伸ばして押し退けたいところだが、不安定な脚立の上ではそれも容易ではない。祐一も顔を離そうとしない。 愛液で濡れたパンティごと陰部を啜られる。めちゃくちゃに動く舌が肛門にも当たる。 「ン、ンはああ……ゥ」 不浄な部分を舐められて、また声が出る。 亜美は箪笥の縁を掴んで強い刺激に耐えた。両腕もろくに使えないから、ほとんど鎖で吊るされているのと同じである。 まるで尋問でも受けているような気分だった。薄暗い牢屋に幽閉され、身体の自由を奪われ、義理の息子から罰を与えられる自分の姿が頭に浮かんだ。いや、罰ではない。こんなにも気持ちのいい罰など存在しない。 暴力ではなく快感をもちいた拷問だから、もっと苛めてほしくなる。あらゆる男が手を伸ばしたくなる極上の肉体がくねつく。それは、拒絶に見せかけた誘惑の嬌態である。 パンティの上から舌でねぶられる独特の感触も、これまでに味わったことがないものだった。愛液と彼の涎で下着がグッショリになる。絶頂が、すぐそこまで迫ってくる。 「だめよ、もう……これ以上はだめなの」 祐一が顔を離した一瞬の隙をつき、ようやく亜美は片手で彼の頭を押した。 「こんなことするなんて……」 憤りのなかに小さな期待を含んだ声だった。 「下におりるから、そこをどいてちょうだい」 「……おりて何をするの」 「え？ 何って」 性感で足が震えているため、動作がひどく緩慢だった。そしてようやく床に足をつけると、亜美は脚立に両手を乗せ、前のめりの上半身を支えた。高い場所にのぼりたがっている牝猫の姿勢である。 まだ乱れた息のまま尻を突きだし、スカートに手をまわした。 「何って……こうするの」 ミニの裾を自ら捲りあげた義母の姿を目にして、祐一は息を呑んだ。 |
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| 2011.8.6掲載 |
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