大人しそうな人だなぁ・・・・・・
　それが、僕の瞳さんに対しての第一印象。
　今時珍しい、といえる長い黒髪、細い身体、うつむき加減の面差し、そして度のキツそうなメガネ。そのパーツを総じると、大人しそう、に至った。
　兄が、照れまくりながら、両親と僕に、紹介してくれた彼女、衛藤　瞳さん。歳はもうすぐ三十、そうは見えないけど兄より一個歳上のようだ。
　結婚したいと言っているので、この人は僕の義理の姉になるってことなのだろう。まぁ、鬼瓦が人に化けたような兄が、嫁さんを見つけられたことだけで、僕は拍手喝さいしたい心境。
　親父もお袋も、兄がお嫁さんを連れてきた、その一事だけでもう有頂天状態で、僕一人が八神家で、落ち着いている気がする。
　面白かったので、黙って成り行きを見守っていたところ、なんとなくキョロキョロキョドキョドしていた瞳さんと目があった。名は体を現す、といえばいいのか、メガネの奥には、大きな、それでいて綺麗な瞳があった。
「あ、あの・・・・・・　こじろ〜さんですよね？」
　か細いけど、不思議と耳に心地よい声で、瞳さんは言った。
「兄貴と一片たりとも似ていませんが、弟の小次郎です」
　時代がかった名前だと我ながら思う。ちなみに兄は武蔵と書いてタケゾウと読む。なんだ、そのヒネリはと親にツッコミたい名前だ。容姿も恐ろしいほど似ていない。兄が父方の、僕が母方の祖父の生き写しと言えるくらい似ているから、血は繋がっていると確信できるが、事情をしらない人は、百パーセント、義理の兄弟と勘違いしてくれる。
　僕の答えに、瞳さんは、照れたように小さく笑った。それは可愛いといっていい笑み、ちょっとドキッとする。
「わ、わたし、おねーさんになる、瞳です。よろしく、です」
　と、小さく頭を下げる瞳さん。たどたどしい言葉だけど、彼女の心からの言葉だとわかる。彼女はこの結婚を喜んでくれている、それだけど僕は満足だ。
　その笑顔を見て、僕はこの人とは、うまくやっていけそうだなっと、なぜか確信できた。


　で、三ヶ月後、彼女は衛藤　瞳さんから、八神　瞳さんになった。僕に義姉が出来た。


　【レベル　０】

「こじろーさん、起きてください。こじろーさん」
　ユサユサ、ユサユサ。小さく揺れる僕の身体。半年前から目覚まし時計の代わりになった目覚ましおねーちゃんこと瞳ちゃんが、僕を起こしてくれている。
「いま、何時〜・・・・・・？」
　自他共に認めるダメ人間な僕は、朝起きて夜寝るという健全な生活が苦手だ。仕事といえば昼の十二時から一時、夕方五時から夜十時まで親父の古本屋の手伝いをしているだけだし。
「もう、十時です、起きてください」
　相変わらず、小さい声で瞳ちゃんは僕を揺らしている。
「じゅーじかぁ・・・・・・　まだ大丈夫じゃない？」
　僕の店番の時間まであと二時間あるし。
「ダメですよ、起きてください」
　マジメが服着てメガネかけて髪を伸ばしたような瞳ちゃんだから、平日にダラダラと寝ているのは不健康だと思っているのだろう。何とか僕を、しっかりした時間に起きるようにしたいらしく、半年間、こりずに起こしに来てくれる。
「う〜〜、瞳ちゃんが、そこまで言うなら、しかたないかぁ〜〜」
　もう一眠りしたいところだけど、ユサユサ時間が長すぎて、さすがに目が覚めてしまった。
　起きたついで、ということで僕はベットの中から、ニョキっと右手をだして、いつもの朝の挨拶を始める。
「はうわ！」
　毎度ながら、この反応、面白い。僕を起こしていた瞳ちゃんに、お礼としてお尻を触ってあげたのだ。痩せてるのに、お尻の肉付きは中々だと思う。
「ダ、ダメって言ってるですよ、こじろ〜さん」
　途端、涙目になりながら、お尻を触る僕を非難する瞳ちゃん。こんな可愛い反応をするから、瞳さんが瞳ちゃんになったのだ。
「だって、これ・・・」
　と薄手のスカート越しに、パンツの感触を確かめる。円を描くように優しく撫でる撫でる。お餅のような柔らかさ。触っているだけで気持ちいい。
「朝の挨拶だから」
「挨拶は、お、おはようです、こじろ〜さん・・・・・・」
　恥ずかしくて、顔が真っ赤になっている瞳ちゃん。毎朝のことなのに、毎度この反応されるから止められない。
「今日のパンツは何色？」
　と、聞きながら、スカート越しにパンツを少し引っ張る
「あ、あ、あの、毎朝、何で訊くんですか？」
　モジモジしながらも、何故か触らせてくれる瞳ちゃん。この人は電車通勤したら、痴漢の好餌になること間違いないだろう。
「趣味だから」
　断言する僕。そう、彼女が僕の家に来てから、瞳ちゃんにセクハラするのが、僕の一番の趣味になってしまった。何故だか、自分でも分からない。なんとなく手が伸びたのが最初、あとは瞳ちゃんの反応が面白いので、止められなくなってしまったのだ。
「あの、そ、その、また縞々ですよ」
　消え入りそうな声で、応えてくれる瞳ちゃん。縞パンは僕のプレゼントでリクエストなので、履いてくれるとやはり嬉しい。
「は、早く起きてきて、くださいね」
　満足した僕が、手を離した隙に、慌てて部屋を出て行く瞳ちゃん。毎朝いろんなセクハラ受けているのに、よく来てくれると手を合わせて感謝。
　さて、今日は何して、瞳ちゃんで遊ぼうか。

　僕と瞳ちゃんは、なぜかとても仲が良い。僕がセクハラをしても、彼女はそれをスキンシップの延長とでも捉えてくれているのだろうか。
　親と同居しているのだが、店舗の上に居を構えている僕の為に毎朝、毎晩、ご飯も届けてくれるし、作ってもくれる。専業主婦でヒマだからと、部屋の掃除どころか、店舗の掃除までやってくれる。
　どうも瞳ちゃん、弟という存在にもの凄くあこがれていたそうで、兄と結婚することで出来た義弟の僕を、甘やかすのが楽しいらしい。菩薩のような方だ、ホント。
　僕は僕で、気弱でとぼけた天然気味の義理の姉には、今まで誰にも感じたことがない、親愛感とでもいうような感情を持っている。
　二階にある僕の部屋から、せまく急な階段を降りると、そこには小さな台所があり、その先が狭い店舗になっている。
「珈琲入ってますよ、こじろ〜さん」
　テーブルには、淹れたての珈琲が湯気を立てている。五十メートル離れた実家から、持ってきてくれた今日の朝食はＢＬＴサンドのようだ。痩せの大食いな僕の為に、量も多い。
　店では、親父が開店準備をしている。十時開店なのだか、その辺りは儲け無視の商売だけあってアバウトだ。
「ありがと〜ございます」
　手を合わせイタダキマスを言って、バクバクと朝食をいただく。店番に入った親父さんにも珈琲を届けて、パタパタと階段を上っていく瞳ちゃん。部屋の掃除とか布団を干すのとかやってくれるのだ。
「瞳さん、うまくやってるの？」
　歩いて五十メートルなのだが、僕が実家に顔を出すのは半年に一度くらいだ。月に一度は、この質問を親父にしている。
「いい嫁さんだよ。まぁ、大人しすぎるから、母さんに振り回されてるけどなぁ」　
　今回も、同じような答えが返ってきた。兄が鬼瓦の生まれ変わりだとしたら、蒸気機関車が人間に転生したような馬力のあるお袋、勢いが良すぎるのが難点だが、基本善人なので嫁いびりとかはしそうにないか。
　なら、瞳ちゃんの抱える問題は、僕くらいか？
　最初は、可愛いモノだった、僕のセクハラ。いまは、もし訴えられたら、手錠かけられるかもしれないレベルに近づいている気がする。
　それも、瞳ちゃんが、『いぢめてオーラ』だしてるから、いけないんだよなぁ、と彼女に責任を転嫁しておく。
　朝昼ごはんが終わり、また手を合わせてゴチソウサマ。今日も美味しかったです。マグカップに珈琲を追加して、部屋にあがると、瞳ちゃんが僕の布団を干し終えたところだった。
　瞳ちゃんが来る前は、この部屋は下の店舗の倉庫か、と思うくらい本が山積みで、脚の踏み場もなかった。でも彼女、わざわざ通販で本棚を購入し、文庫、新書、ハードカバー、マンガと分けて収納してくれた。
「ご苦労さま、瞳ちゃん」
　ちなみに、二人きり以外の時は、瞳さんと呼び分けている。瞳ちゃん、も『瞳　おね〜ちゃん』を略していることになっている。
「もうちょっと待っててくださいね」
　と長い髪を後ろでまとめて、掃除機をかけ始める瞳ちゃん。鼻歌なんか唄って楽しそう、どうも瞳ちゃん、家事全般をするのが好きみたいだ。
　さして広い部屋じゃないので、掃除機かけもすぐに終わりそうになる。椅子に腰掛け、その様を大人しく見ていた僕だが、そろそろかと空になったマグカップを置く。瞳ちゃんの掃除機がけは、いつもかける順番が決まっているので、どこまで来たら終わりか、だいたい分かるようになっていた。
　ソロリ、と背後に忍び寄る。掃除機のスイッチを今まさに切らんとする瞬間に、行動を開始。
　僕は、背後から瞳ちゃんの胸をガシィと鷲づかみにする。
「ほにゃぁ！」
　瞳ちゃん独特の、驚きの声が上がるけど、掃除機の音に相殺される。胸は触ると悲鳴が大きいので、下に居る親父に何事かと思われるので、このタイミングでやることにしているのだ。
「こ、こ、こじろ〜さん！　ま、また、また、ま！」
　瞳ちゃんは残念なことに、胸はあまり大きくない。でも、ささやかな揉み心地はクセになる心地よさだ。
「あ、またブラジャーつけてる」
　モミモミと硬い感触を掌に味わいながら、容赦なく瞳ちゃんの胸を揉む、揉む。瞳ちゃんへのセクハラの極意は、罪悪感を感じず、思いっきりやる事と悟っている僕。そうすると、流れでなぜか、瞳ちゃんのせいになるのだ。
「外してきてよ、瞳ちゃん」
　最近のセクハラトレンド、瞳ちゃんにノーブラを強制するは、なかなかに難航している。
「だ、ダメですよ、そ、そんなの」
「なんで？」
　揉まれるたびに、ビクンビクンと身体を震わせる瞳ちゃん。胸は感度がかなりよろしいらしく、触られると、こんな素敵な反応を見せてくれる。
　なんで、と言われると、ブラジャーをつける理由を説明できない瞳ちゃん。この攻め口はなかなかいいか？
「ねぇ、瞳ちゃん、明日は外してきてよ」
「して、こないと、じかに、こじろ〜さんに、もまれちゃい、ます・・・」
　涙目になりながら、小さく身を捩ってわずかな抵抗をみせる。
　耳元で囁きながら、耳を軽く噛む。ハムって感触、瞳ちゃんの弱点その二の耳たぶを攻めると、
「はうっわ！」
　と胸とは違った反応を見せる瞳ちゃん。スイッチいれたままの掃除機が手を離れ、ガタンと落ちる。
　ビクンビクンと僕の口と手に震えてくれている。なんか、今日は特に反応がいいかも。
　なんか、口はパクパクと開いて何かを言っているみたいだけど、言葉になってないようだ。
　ブラジャー越しに、瞳ちゃんの乳首が反応して固くなっているのが分かる。このままコレをつまんでやろうと思った時だった。

「うわぁぁぁあぁああああああああぁぁ！」
　階下から尋常じゃない悲鳴と、ゴラガラドカンという轟音が。なんか揺れている気もする。
　さすがにセクハラモードも一瞬で醒め、慌てて階段を降りる僕。瞳ちゃんもあわあわしながら、付いてきた。
　階段を降りると、埃が舞いまくっていて、何も見えない。口を覆って、店内を覗いてみると・・・・・・
　そこには崩れて山になった本棚の中から、一本だけニョキっとでた手が見えた。
　なんの惨劇だ？

　それからが大変だった。救急車が来るわ、警察が来るわ、ご近所さんが集まるわで。
　原因は、親父にあったようで。上の方にあった本を取ろうとして、なかなか抜けないので、無理に引っ張ったら、三十年選手の本棚が寿命を迎え、本を支えきれずに雪崩れを起こしたとの事。不運で不幸な事故だ。
　その本の雪崩れの直撃を受け、父親は入院することに。首のムチ打ち、全治二ヶ月とのこと。
　当然、古本屋もしばらく休業。明日からはしばらく、本のなだれの後始末が僕の仕事か。　
　さすがに実家に顔を出し、家族会議となる。警察官な兄も仕事を放りだして帰ってきていた。
　やはり、僕はあの古本屋の再起を目指すのが、当面の仕事となった。まぁ、僕以外、それが出来るのはいないので、承諾する。
　で、瞳ちゃんも及ばずながら、手伝ってくれることに

　そして、僕のセクハラは、その日を境に、エスカレートしていくことになってしまった。