−１−

「おかえりー」
　町一番の進学校から帰宅した弘志は、返事も聞かずに自室に駆け上がり学生鞄を投げ捨てる。
「お風呂、しなさい」
　階下から聞こえる母の声に、素直に応えて風呂を済ませた弘志は食卓にいく。
「遅かったな」
「うん」
　父の問い掛けにも気兼ねのない返事を返している。
　家族だんらんの食卓は、明るいランプに照らされ、いつも優しく支援してくれる父と母。
　テーブルには、手作りの食事が並べられている。
　温かい家族の想いのなかで育てられてきた。
　そんな弘志も、そろそろ大人への入口…、人なみに心も体も成長をみせている。
　大学受験を意識し始めた青春まっさかりのころ。
　家族みんなが協力態勢で、弘志を中心に動いている。
「弘志、…おまえさえ良ければ、薫おばさんのところに移ってもいいんだぞ」
　父親の提案に「うん」と曖昧な返事を返す。
「あそこなら、電車に乗らなくても通えるし、時間もできていいんじゃないか」
「そうねぇ、二人の娘さんも良い大学に通ってらっしゃるものねぇ」
「勉強もやりやすいだろう」
　父の提案に母も乗り気である。
「でも、…迷惑かけるんじゃない」
　弘志は便利さより、環境の変化を恐れている。
「それは、心配ないと思うわ。…男手がいなくて不安なことがあるって薫さん言ってるもの、それに大きなお家だし…そうしたら」
「…」
「こんど、薫さんに相談してみるわ」
　積極的に動いたのは母。

　翌日、弘志が帰ると待っていたように笑顔で迎える母。
「おかえり弘志、…薫さんに話つけといたわよ」
「もう話ししたの？」
「いつでもＯＫって、すごくいい返事してくれたわ…どぉ」
「まあ、いいけど」
「そぉ、じゃもう一学期も終わりだし、夏休みの間にご挨拶して二学期から住込ませてもらへばいいわ」

　そんなことで、弘志の移住計画は着々と進んでいった。
　女ばかりが住む叔母宅、なぜか弘志の鼓動は不安を打消すほどに高鳴っていた。
・
「玲子さん、はやく起きなさい…学校でしょ」
　薫は、朝食の用意をして妹の玲子を起こしている。
　一つ違いの静香は、着替えも済ませてテーブルについている。
「今日は、遅いの」
　玲子は心地よい布団の中に潜り込んでしまう。
「いいから、朝ごはん済ませなさい」
「うぅ〜ん」

　ちょっとした富豪の息子に見初められて玉の輿、どこにでもいるようなサラリーマンの娘からセレブな夫人へと大ブレーク…と、ここまでは良かったが新婚１年にして交通事故で夫をなくすと、先妻の娘を二人も抱えた未亡人となって、すでに３年が過ぎている、質素な生活につとめているが残された遺産は莫大で何の苦労もない日々。
・
　憧れの夏休み
「今日は、薫おばさんに挨拶してきなさいよ、場所わかってるでしょ」
　朝食の食器をかたづけながらいう母。
「ああ」
　通学ルートにある大きな屋敷を思い浮かべる弘志。
「そうそう、静香さんと玲子さんにも、ちゃんとご挨拶しとくのよ、勉強教えてもらうんだから」
「ああ」
「もぉぅ、そんなじゃだめよ…ちゃんと挨拶できるの？」
　口数の少ない弘志に少し不安げな母。
（これも、いい経験になるわ、きっと）
「うるさいなぁ、…何時ごろに行けばいい」
「昼前に行って、昼食ごちそうになってくるといいわ」
　本人が乗り気なことに、ほっと胸をなぜおろす思いでいる。
・
　電車で二駅、弘志は強い日差しに額に汗をにじませ、銀色の自転車をこいで行く。
　ライオンの飾りのついた鉄柵、洋風な庭は広ければどこかのお城を思わせる佇まいは白塗りの異人館を思わせる。
　おばさんとはいっても弘志は、生きる世界の違いを感じてしまうほどの差を感じている。
　玄関扉の横にあるライオンをかたどった鋳物製の呼鈴を押す。
　……ゴトン
　長い待ち時間のあと重い音がして開かれる。
（これで執事でも出てきたら…、まるで映画だ）
　弘志は恐れをなしている。
　出てきたのは薫おばさん。
「いらっしゃい、待ってたのよ遅かったわね」
　普段着も、よそ行きの高価そうな服だろうと推測した弘志だったが、なんと薫おばさんは、スケて見えるのかというような薄い生地のプリント柄。
　大きな胸のふくらみの突端の飛出しが、はっきり解ってしまう。
　思わず股間にズキンと衝撃を受けている。
　耳に響く声は、歳を感じさせず澄みきった妖艶さ。
「こんにちは」
「ひとりで来たの」
「ふん、チャリンコこいで」
「お昼、していくでしょ…さあ、入ってちょうだい」
　弘志の返事も聞かずに、大きなお尻をフリフリさせて先を行く。
「スリッパ、どれでも使って」
「はい」
　大きなジュウタンが土足エリアなのか、端に並べられたスリッパに履き替えて弘志は着いていく。
「娘たち、二人とも出掛けちゃってるのよ、弘志君が来るって言っといたんだけど…ちょっと待っててね」
（なんて無垢な子なのかしら）
　薫は、極端な恥じらいを魅せる弘志への驚きを押し隠し、キッチンへ向かう。
　どこにいても牝の甘い香りに刺激されつづける弘志。
　いかにも女ばかりの住まいといった感じのチャラチャラした装飾の部屋、異質な空間に一人取残されたような思いの弘志、手持ち無沙汰を感じて…どれもこれも、触れることさえはばかられるような気分をぬぐえず落着かない。
「さあ、こっちよ」
　ただでさえ良く目立つ胸のふくらみを、しっかり寄せ直してを強調した薫はいきなりドアを開けている。
「あっ、はい」
　あいかわらず目のやり場に困り視線の定まらない弘志は、あわてて立上がると、薫の後をついていく。
　小気味よく大きくクネルお尻に弘志の視線は釘付けに。
　８人は十分座れそうな大きなテーブル。
　用意されたチャーハンを前に弘志が座ると、真向かいにプルンと大きな胸を弾ませて薫が座る。
（ノーブラ…）
　ゴクンと生唾を飲む。
（父さんの兄弟のはずなのに、なぜこんなに金持ちなの？　薫おばさんにしたって女優かモデルじゃないかと思うほど美人だし）
「まぁ、何かついてるかしら…弘志くん」
　薫がきつく見詰め返すとうつむいてしまう。
「いえ」
「さあ、たべてちょうだい…精魂こめて作ったのよ」
「…はい、い、いただきます」
「うふふ」
　やっと弘志は手を動かす。
「ねぇ、そんなに緊張しなくていいわよ…噛みついたりしないんだから」
「…」
「ねっ…どう、食べれそうかしら」
「うっ、おいしいです」
　口にいっぱいほうばったまま、やっと視線を上げる弘志に特上の笑顔を返している薫。
「まぁ、むりやり言わせちゃったわねぇ…無理しなくていいのよ、先長いんだから」
　薫は、ちょっと口をつけるとお茶を用意する。
「食べ終わったら、お部屋案内するわ」
　ちょっぴりきまずい雰囲気に押しつぶされそうな弘志を、殻のない卵を扱うかのように、薫は優しく丁寧な応対をつづけている。

「あなたの部屋はここよ」
　擦れあう白い太ももに見惚れつづけて広い階段を昇り２階の一室にたどりつくと、そこには小奇麗に片付けられた広々とした洋室がある。
「はい」
「みんな、寝室は２階なの」
　いくつ部屋があるのかというほど長い廊下、弘志には階段近くの部屋が宛がわれていた。
「どう、気に入ってくれたかしら」
「うん、広いですね」
　ベットに机、本棚に作り付けのロッカーに加え広々とした空間のある部屋に戸惑いすら感じてしまう。
　弘志の部屋を挟むようにして、東側には姉妹の部屋、西側には薫の部屋がある。
　薫は、豊満なお尻をフリフリさせながら、姉妹と自分の部屋の位置を伝えると階段を降りていく。
「着替えと日用品だけ揃えればいいわよ」
「はい」
「トイレの場所は知ってるわよね、お風呂はすぐ隣だし」
「はい」
「あっ、そうそう…お風呂、鍵掛からないから時間制にしょうと思うの」
「はい」
「何時がいいかしら」
「…遅くて、いいです」
「そう、それじゃ…９時〜１０時でどう」
「はい」
「もっと、リラックスしてね」
　弘志に振り向いて肩を揉むと、薫の大きな胸の谷間が弘志の視線を奪う。
「はい」
「まあ、まだ‘はい’っていってるわ、……コーヒー飲むでしょ」
　弘志から離れていく薫は、なぜか股間の柔肉から熱い潤みを感じている。
（あぁ、なんて純な子なの…まるで小学生）
　
　休み明けには弘志の新しい寄宿生活が始まる。

つづく