１４

　自分が自分でなくなっていくような、そんな気がした。純水くんと二人で歩いている間にも、胸の動悸は高まるばかりで止まってくれそうにもなかった。
　道行く人が、そんな自分を眺めているんじゃないか、と一人で恥ずかしく、情けなく思っていた。
　だから…到着までがとても長く感じられて仕方が無かった。

「…着いた…ね」
　着いたのは、純水くんの家の前だった。なぜか声が震えるのが分かる。わたしは、ここで、何をしようとしているのだろう…。
「お邪魔、します」
　ガチガチに固くなってしまっていたわたしは、戸惑うままに部屋に通された。

　相変わらず片付いた部屋、そして、風花姉さんと純水くんがああいうことになった部屋。
わたしの頭の中では、あのときの光景がもやもやと広がってきていた。
（どうしてあの時、してもらわなかったんだろう）
　…そんな思いもあった。だけど、風花姉さんだって、あんなふうに余裕綽綽みたいに見えて、かなりの覚悟をして望んだんだと思う。
　そして、それは、わたしも同じ…同じだから。
「…純水くん、わたし、どうすればいいかな？風花姉さんみたいにしたほうがいいのかな」
　もちろんそんなことは無理だ。わたしにはそれが分かってる。それができるくらいなら、あの時とっくに風花姉さんに便乗していただろうし、今こうやってわざわざ『どうすればいいかな』なんて尋ねたりもしない。
「弓華ちゃんは、何も…しなくていいよ、僕が、なんとかするから」
　純水くんも、どこかためらいがちに言った。一回あるかないかの差だけど、ここでは純水くんのほうが経験者だ。

　ふわり、と純水くんがわたしの体を抱きしめてくれる。優しく背中を撫でてくれる。
「…純水くん、さっきもこうやって抱きしめてくれたよね」
「なんていうか…すごく気持ちよさそうだったから」
「うん、気持ちいい…っていうより、すごく幸せ」
　わたしは目を閉じていた。まるで父親に抱かれる子供みたいだった。そして、それ以上に『恋人してる』という実感が湧いてきて嬉しかった。
　ゆっくりと体が離されたとき、わたしはあることに気づいた。
（…うわぁ、わたし、どうなってるんだろう…漏らしちゃったのかな、恥ずかしいよ…）
　太ももに間を走る熱い液体。じわりと熱い下腹部。
「弓華ちゃん」
「み、見ないで、恥ずかしいよ」
　純水くんの声に、わたしは首を横に振ってこたえていた。
「…こんなに濡れてたんだ…」
　ぽつり、と漏れた言葉。わたしは恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
（見られちゃったよ…）
「だって、頭の中、純水くんのことで一杯で、ここに来て、風花姉さんと純水君が…ああなったときのことを思い出して…」
「僕も…それは、同じだから」
（えっ？）
　純水くんの言葉に、わたしは一瞬恥ずかしさを忘れていた。
「僕も、今…風花さんとのときのことを思い出して…」
　そこでわたしも気づいていた。今まで体をくっつけていたので気づかなかったけれども、純水くんの下腹部も、ズボンを押し上げるようにして膨らんでいた。
　（あぁ、純水くんも、そうなんだ…）
　なんとなくほっ、とした。妙な気分だったけれど。
「…純水くん、わたしに…わたしに、して…。風花姉さんと同じように…ううん、風花姉さんよりももっと、いっぱい、たくさん、してほしい」
「…うん、僕も…弓華ちゃんと…」
　わたしはもう一度純水くんに抱きしめられていた。胸の鼓動は痛いほどに高鳴り続けていて、止まってくれそうになかった。
　ゆっくりとベッドに（押し倒されるかのように）仰向けに寝かされると、わたしの背中に柔らかい感触が走った。
（ああ、わたしはこれから…）
　これから、純水くんと…大好きな人と一つになろうとしている…。

　ゆっくりとわたしの制服が脱がされていく。恥ずかしい中で、しっかりと感じ取ることができる、純水くんの鼓動。
「…ねえ、純水くん」
　やっと下着姿にされたところで、わたしは純水くんに声をかけた。純水くんのほうも緊張しているみたいだった。
　でも、それは当然なのかもしれない。前に風花姉さんとしたときは、風花姉さんが自分から、半ば強引に誘っていったわけだし、もちろん女性の服を脱がせるなんて初めてに決まってる。…これはわたしの推測でしかないけど…。
「わたしの胸、小さいよね。風花姉さんやおねえちゃんみたいに大きいといいんだけど…」
　サイズの小さいブラジャーに覆われた胸。風花姉さんだってこんなのつけたら胸がこぼれるだろうし、おねえちゃんに至ってはたぶん、背中のフックを止められないか、無理やり留めてもはじけ飛んでしまうだろう。
「でも…それだけで弓華ちゃんの価値が決まるわけじゃないよ」
「…うん、ありがと」
　少しだけ勇気が出たせいもあって、わたしは自分でブラジャーを押し上げた。…と同時に、一応胸のてっぺんを手で覆う。
　こういう状況でもまじまじと見られるのはやっぱり恥ずかしかった。
「…キス…していいかな？」
「えっ？あ…うん」
　初めて純水くんからキスを求められ、わたしはためらいがちに目を閉じた。今思えば、純水くんのほうがわたしの緊張を解きほぐそうとしてくれたのかもしれない。

　ゆっくりと唇を重ねると、純水くんの熱が伝わってきた。純水くんの舌がやさしくわたしの唇を押し広げ、そしてわたしの舌を絡め取る。
「んっ…んぅっ…」
（ああ、気持ちいいよぉ…）
「んーっ…んっ？」
　じっくりとキスを交わしているわたしに、また別の感触が襲い掛かっていた。太ももの辺りを撫でる手の感触だった。
（えっ？もう、脱がせちゃうの？）
　ゆっくりと下着に指を絡めると、少しずつ下ろしていく。
　
　そこで唇が離れた。

「はぁ…ん、んぅ…」
　まだキスの余韻が残っているわたしを見下ろしながら、純水くんがわたしの両足を少し左右に広げた。
「…弓華ちゃん」
「はぁ…あ、わたしの…そこ…どうなってるの…？」
　おそるおそるわたしは尋ねた。わたしは今、純水くんに大事な場所を見られている。今までどんな男にも見せたことがなかったものを見られている…。
「すごく、濡れてる」
「嘘…恥ずかしいよ」
　わたしは顔を背けていた。
　スカートがめくりあげられ、わたしの下腹部が露にされた。そこをゆっくりと純水くんの指が撫でる。
「ひあっ！」
　びくん、とわたしの体が反応するのがよく分かった。今までありえなかった感触に、わたしの体はあまりにも敏感に反応していた。
「ごめん、痛かった？」
　わたしが過剰に反応したためか、純水くんが真剣な顔で聞いてきた。わたしは照れと気恥ずかしさが混じった複雑な気持ちで
「だ、大丈夫、ちょっとびっくりしただけだから」
　と返していた。
「…ね、純水くん、わたしもう…我慢できない…」
「う、うん…」
　ゆっくりと下腹部を撫でる感触に耐えられなくなったわたしは、自分から純水くんに求めていた。
「…それじゃ、入れるよ…」
　純水くんがわたしに近づいてくるのが分かった。優しくわたしの太ももをつかむ手の感触が心地よい。
「うッ…」
　固いものがわたしの秘所に当たった。そしてそのまま『ぐちゅ』という嫌な水音とともに、わたしの入口にめり込んだ。
「きゃあっ！」
　わたしを襲ったのは、快感ではなく激痛だった。
（い、痛い、痛いよ…ぉ！）
　体の中に巨大な異物が入り込んでくる激痛に、わたしは目を強く閉じて耐えていた。
（風花姉さん、こんな太くて固いモノを体の中に入れられてたの？）
「弓華ちゃん、大丈夫！？」
　わたしの反応の仕方に驚いたのか、純水くんがあわててわたしに聞いてきた。わたしは手をベッドに食い込ませ必死に抵抗しながら、
「だ、大丈夫…大丈夫…ううっ…」
（だ、大丈夫じゃないよ…こんなに痛いなんて、知らなかったよぉ…）
「お、奥に、奥に来て、わたしの奥ぅ…」
「う、うん…もう少しだけ我慢できる？」
「…はあっ…うん…くっ…」
　わたしがうなずくと、純水くんの左手がわたしの腰をつかんだ。右手はわたしの胸に走る。たいして大きくない（というか小さい）乳房を優しくまさぐってくる。
「あっ…ひあっ…」
　そうされているうちに、純水くんのモノがずんっ、と奥に食い込んでくるのが分かった。相変わらず痛いものの、胸を刺激される感触に紛れているせいかさっきより少しは楽だった。
「ね、ねぇ…」
「…んっ…う、うん？」
　どっちも無我夢中になっている中で、わたしは純水くんに声をかけた。そうでもしていないと激痛に耐えられそうもなかった。
「き、気持ちいい…？わたしの中…どう？」
「す、すごく締め付けてて…溢れてて、すごく、気持ちいい…」
　恥ずかしかったけど、素直に嬉しい。体の中に食い込んでいるモノが、さっきよりも大きくなっているのがよく分かる。
（うあぁ、わたしの中で、こんなに大きくなってる…）
　ただ中に入れただけだというのに、わたしは『つながっている』という嬉しさと、そして思った以上の激痛に浸っていた。
「…動いて…大丈夫？」
（えっ？動くの…？入れただけでも痛いのに…）
　わたしが驚いて顔を上げると、純水くんは
「動かないと…このまま締め付けられて、すぐに…出してしまいそうで」
　よくよく考えると、それはまだ困る気がする。いくらわたしだって、男女の営みが最終的に何をもたらすものなのかはよく分かっているし、わたしの立場上それは避けるべきだということも分かっている。
　だけど、そんなことはどうでもよかった。
「う、動いて…わたしの中を…かき回して…っ」
　わたしの声と同時に、純水くんの腰が前後に動くのが分かった。そして、わたしの中に入っているモノも。
「うああぁっ！！」
　体に電撃が走った。
（い、痛いっ！痛いよぉ…ッ！風花姉さん、何でこれが気持ちよかったの…？）
『一つになっている』嬉しさと、そしてそれとはかけ離れた痛み。わたしは二つの感情にもてあそばれていく。
　くちゅ、くちゅ、と嫌な水音が秘所の入り口近くで感じられた。
「弓華ちゃん、弓華ちゃん…っ」
「あ、ああ、純水くん…っ」
　二人で名前を呼び合う。わたしは純水くんの手を取りしっかりと握っていた。体のどこもかしこも、純水くんと一つになっていたかった。
　前後の動作が激しくなっていくなかで、純水くんもわたしの手を握り返してくれていた。わたしは幸福感に包まれていた。
「あっ！」
　不意に、純水くんの体が離れた。いきなり引き抜かれたわたしは、突然の開放感に驚いて体を起こしていた。
　次の瞬間、わたしの足の間近くにあった純水くんのモノが、わたしの顔に向かって白い液体を飛ばした。
「きゃっ！」
　熱い液体が、わたしの顔に着地した。それは、風花姉さんの体に降りかけられたあの液体と同じものだった。
（あぁ…わたし、やっと純水くんのものになったんだ…）
　ふっ、と自分の秘所を見ると、出血しているのが分かった。
（血が出るくらいだから、痛くて当たり前なんだよね…わたし、処女喪失しちゃったんだね…）
　なぜかため息が漏れた。それは後ろめたさじゃなくて、きっと…。