１８

（わたしは一体、何をしているのでしょうか…）
　求めていた感触、感覚に身をゆだねながら、わたしは考えていました。わたしは今、純水さんのすぐ近くにいます。背中に腕を回し抱きしめています。
　自分でもその行動に出たのが信じられませんでした。
（わたしはシスターで、聖職者で…こんなことは絶対にできない、許されないはずなのに…）
　純水さんの腕もわたしの背中に触れ、そして優しく抱きとめてくれます。
（許されないはずなのに…後悔する気持ちがないのは何故でしょうか…？）
「聖架」
　名前を呼ばれた気がしましたが、今のわたしにはそんなことはどうでもよく、ただこうしていつまでも包まれていたい。その気持ちだけがありました。
「…聖架がしたいのは…してほしいのはそれだけじゃないだろう？」
「えっ？」
　わたしと純水さんが同時に声を上げたのが分かりました。
　そして、わたしの背中にゆっくりと柔らかい感触があたります。少し首を曲げて後ろを見ると、風花の顔がすぐ近くにありました。
「たとえば、こういうことをされたいんじゃないのか？」
「きゃっ！」
　風花の言葉の同時に、わたしの胸にあらぬ感覚が走りました。
　抱きついているわたしにはよく見えませんが、どうやら風花の両手がわたしの胸を捉え、刺激しているようです。
「あっ…はぁっ…ふ、風花、やめてくだ…さ…」
　やさしく乳房を揉み解され、わたしの体に、あっという間に快感が走っていきました。
「聖架さん、どうしたの？」
「あ…ふぁ…なんでも…」
「わたしに胸を弄られて、興奮しているのさ」
　わたしの言葉が風花によってさえぎられてしまいました。
（…ち、違います、そんなわけが…そんな…）
「はあぁっ…」
「それにしても、相変わらず聖架は敏感だな。ほら、ここをこうすると…」
　二本の指でてっぺんを挟み『くりっ』とつままれると、わたしの体に電撃が走りました。純水さんの目の前で恥ずかしい、と分かっているのに、自然に出てしまう声を抑えることもできず、わたしはただ風花に攻め立てられるままになっていました。
「ほら、純水。ぼーっとしていると、わたしの指だけで聖架がイッてしまうぞ」
「え？あ、う、うん」
　一体風花は、純水さんに何を告げ口したのでしょうか？わたしは快感のあまりに風花の言葉を聞き取ることさえできませんでした。
　それどころか、体が火照ってしまった今のわたしには、純水さんや弓華の顔すらよく見分けられず、ぼやけた世界に取り残されていました。
「あ…はぁ…ん…」
　不意に純水さんからの束縛が解かれ、わたしの体ががくん、と前に崩れ落ちました。が、それを風花が胸をわしづかみにすることで支えます。
「…えーと、『ぼーっとしていると』といわれても…」
「聖架。純水にどうされたい？」
　意地悪く、風花がわたしの耳元に囁きました。その表情はどこか小悪魔的でいつもの風花と少し雰囲気が違うように思えました。
「この前のようにされたいんじゃないのか？」
（この前…あぁ、風花が、教会に来て…）
　わたしの脳裏に、あのときの光景がよみがえります。下腹部を容赦なく攻め立てられ、快感に声を上げたわたしの姿が…。
（あぁ、純水さんに、目の前にいる純水さんに…）
「弓華。聖架を脱がせるから、手伝ってくれ」
「え？あ？わたし？」
　弓華と風花が何か話しているのが分かります。しかし、わたしの頭の中はもはやそれどころではなく、三人に見られている恥ずかしさと、自分の中にある葛藤と、そして風花が与えてくれた快感にはさまれて動けませんでした。
「買ったばかりの服だからな。大仰にぬらしてシミを作るわけにもいくまい。純水、聖架を支えていてくれ」

「あ…風花、弓華、やめて…やめてください…」
　二人がかりでわたしの服を脱がしにかかるのに、わたしは必死になって抵抗しました。むしろ面白がっているようにも見える二人に、ちょっと腹が立ったのも事実でした。
　しかし、こんな痴態を純水さんに見られていることさえ、わたしには一種の快感だったのです。
（あぁ…わたしはもう…）
　わたしは目を閉じていました。

　やがて、わたしのすべてが純水さんの前に晒されていました。

　布一枚も纏わぬ生まれたままの姿のわたしを、純水さんが見ています。
「おねえちゃん、肌すごく白くて綺麗…」
　なぜか弓華までが顔を赤らめてわたしの裸を見ています。わたしの気持ちは宙に浮き、何を考えていいのかも分からなくなっていました。
　胸が高鳴り、抑えることができません。ただ、わたしの残った理性がそうさせるのか、腕は必死に隠すかのように胸の上で組んでいました。
「聖架は普段肌を出さないし、日焼け対策だってしないからな。肌が綺麗なのは当然だ。そう思うだろう？純水」
　どうしてこう風花は意地が悪いんでしょうか？こんなこと聞かれたって、純水さんに答えられるはずが…。
「…うん、聖架さん、すごく…綺麗…」
（えっ？）
「純水、聖架はここが弱いんだ」
　ベッドの上に仰向けに寝かされたわたしの背中を、風花の腕が抱き起こします。そして、あまったほうの腕をわたしの足の間にするり、と忍ばせてきました。
「ひうっ！」
　くちゅ、といういやらしい音と同時に、わたしの体にまた快感が走りました。
「ほら、もう濡れてしまっている」
「本当だ。おねえちゃん、すごい…」
　左右に開かれてしまった足の間を、弓華が覗き込んでくるのへ、わたしは
「弓華…っ、そんなところ見ないでください」
　と呼びかけるのが精一杯でした。
「純水もよく見てやってくれ。聖架の…」
「ちょっ…！！」
　わたしは大急ぎで背中を起こしました。そして、足の間を両手でふさぎます。
「わっ、わたしの…その、こんなところを見せて…どうするんですか…っ」
「純水のことを好きなんだろう…？だったら、一度隅々まで見てもらえばいい」
「そういう問題じゃ…っ」
　わたしの言葉が終わらないうちに、風花の手がわたしの手を引っ張って、足の間からはがしてしまいました。
「純水。聖架はわたしが抑えているから、気持ちよくしてやってほしい」
「…うん…」
　風花の言葉に、純水さんが控えめに、でも素直にうなずいたのが意外といえば意外でした。
　わたしは再びベッドに押さえつけられ、弓華に足を広げられた状態で、わたしはまた全てを純水さんの前に晒す恰好にされてしまったのです。
（純水さん…なんだか…）
　顔を高潮させて、戸惑いつつもわたしの体を覗き込む純水さんのことが、なんだか逆にかわいらしく思えてきます。恥ずかしいはずなのに、とんでもないことをされているはずなのに、わたしは…わたしの体はむしろ、今の状況を喜んでいるようでした。
　開かれた脚の間に、純水さんの顔が迫るのを見て、わたしの体がさらに熱を帯びていきました。触れられているわけでもないのに息が荒くなり、心臓の鼓動もどんどん高まっていって、胸が苦しいほどでした。
「純水、さん…」
　くちゅ、とわたしの秘所に何かが触れました。風花の指ではありませんでした。
「あ…おねえちゃん、いいな…」
「聖架。純水が、聖架の大事なところにキスしているぞ」
　頼んでもいないのに、風花が現在の状況をつぶさに報告してくれます。そんなことをしなくても、今どういう状況にあるのかは、体を伝わる快感だけで十分に把握できるというのに。
「はぁ…っ！」
　びくんっ、とわたしの背筋が反応しました。純水さんの舌は、あくまでも優しくわたしの入り口を、撫でるように舐めていきます。
「おねえちゃん、胸も綺麗だよね。わたしもこのくらい大きければなぁ…」
　弓華の目がどこかトロンとしています。そういえば、純水さんの一番の彼女が弓華なのに、彼女はなぜわたしたちを止めないのでしょうか？
「あっ、ふぁっ、はぁ…ぁっ」
　優しく膣内部へ舌を差し込まれると、わたしは急激に絶頂へと運ばれてしまいました。上半身がびくん、びくん、と痙攣し、下半身から快感が突き抜けていきます。
「あああぁーーっ！」

「…はぁ、はぁ、はぁ…」
「早かったな」
　あっという間に絶頂に達してしまったわたしを見ながら、風花が言いました。わたしのほうは無我夢中でしたが、自分でも『早い絶頂』だということはなんとなく分かりました。
　おそらくは、自分が好いた人に抱かれ、そして今のような行為に及んだことの興奮、高揚感も手伝っていたのではないでしょうか。
「聖架。まだ終わりじゃないぞ？」
「え？」
　息も絶え絶えになっているわたしに、風花が語りかけます。
「愛し合う男女が最終的に及ぶ行為を、知らないわけじゃないだろう？」
　わたしはそう言われ、すぐに『それ』に思い当たりました。
「で、でもっ…そ、それは…」
「それに、今のは聖架が満足しただけだ。純水はただ、聖架の一番敏感な場所を愛撫したに過ぎない。そうだろう？」
　諭すように言われ、わたしは反論ができずにいました。

　たしかに、わたしは純水さんによって快感を与えられ、そして絶頂へと導かれました。しかし、それはわたしだけが満足したのであって、純水さんが満足したわけではありません。
（わたしは…わたしは、純水さんにも満足して欲しい…たとえ、この体が純潔を失うことになっても）
　この場所に来たときすでに、ある種の決意ができていたのかもしれません。わたしは目を閉じると、純水さんに向かって言いました。
「…純水さん…して…ください」

「純水。聖架はああ言っているが、どうだ？勃っているか？」
「え？」
　一線を越える発言をしてしまったわたしの傍にいた風花が、ベッドから降りて純水さんに語りかけます。
「…だいぶ興奮したようだな」
「ふ、風花さん」
　風花の声がどこか嬉しそうにも聞こえましたが、まだ興奮が冷めないわたしには、風花が何をしているか見る元気もありませんでした。
「聖架。純水も、聖架が乱れる様を見て興奮したみたいだ」
（あぁ、純水さんが、わたしを見て…）
「うぅ…ちょっと悔しいけど、さっきのおねえちゃんを見て興奮しない男の人もちょっとイヤだなぁ…」
　弓華は弓華でちょっと複雑そうな表情をしています。
「わっ」
　やがて、純水さんが頓狂な声を上げたのが分かり、わたしは思わず体を起こしていました。
　そこには、風花に見事にズボンを下ろされてしまった純水さんがいました。
「もっと堅くなるかしら？…純水のはわたしが舐めてあげる」
「あ、ダメだよ、風花さ…あ…」
　下半身裸にされて立ちすくむ純水さんの目の前に、風花が跪いている、そんな光景が目に留まりました。この場所からでは何をしているのかよく分かりません。
「わ、わわわ、わっ」
　弓華は二人の横から覗き込んでいて、間の抜けた驚きの声を上げています。
「ん…んぅ…っ、んっ」
　くちゅ、くちゅ、という水音と、そして風花の色っぽい声。それでわたしはようやく、風花が何をしているのか悟りました。