２５

「…毎度毎度、わたしたち三人、揃って純水に迷惑をかけるな。すまないと思っている」
　 ベッドの上の二人を見ながら、わたしは純水に言った。
「迷惑じゃないよ。むしろ、嬉しい」
「そうか…わたしも、嬉しい」
　 わたしの口からそんな言葉が出るのに、わたし自身が少し驚いた。自分から『嬉しい』という言葉が出せるとは思わなかったからだ。
「ふふ…純水と出会ったことで、わたし自身も少し…いや、いろいろと変わることができたようだ」
「…そうなの？」
『どこが？』とでも言いたそうな純水に、わたしは
「わたし自身もよく分からないさ。ただ…前とは明らかに違う、そんな感情を純水に持つようになった」
　 と返す。
「ひょっとしたら、以前のわたしは、純水とセックスがしたかっただけなのかもしれないな」
　 あからさまにどきり、とする純水の表情の変化が楽しい。
「だが、今は違う。わたしは…純水とセックスがしたくてここに来たんじゃない。『純水に会いたいから』ここに来たんだ」
「でも僕のほうは、未だにどうしたらいいか分からないよ。いっぺんに三人『彼女』ができるなんて夢にも思っていなかった。
　 同じ顔をしていても、みんな性格が違うし、好みだって違うし…」
「それはそうだろう。いくら三つ子だって、わたしたちは別人だ。血のつながりと外見以外は赤の他人と言っていい」
「さすがにそれはないよ」
　 わたしの言い方がよほど可笑しかったのか、純水が笑顔を見せてくれた。

「純水。明日は学校が休みだろう？」
「え？あ、うん」
　 日にちと曜日を考えて言ったセリフに、純水はうなずいた。
「だからこそ、ここに二人寝かせたままにしているんだけど…」
　 純水の顔が、姉と妹のほうに向く。この二人は、わたしがここにいることも知らずに、相変わらずかすかな寝息を立てて眠っている。
　 一体この二人に何があったのだろうか。
「…純水、明日、デートをしよう」
「はっ！？」
　 唐突に出たわたしの言葉に、純水の顔が再びこちらを向いた。戸惑う顔もやはり可愛らしい。
「休みの日に、恋人同士を連れてデートなんて、青春を駆ける若人によくある話だろう？」
「風花さんと？」
「…二人で、ならわたしは万々歳なのだが、ここに二人いる以上、納得はしないさ。この際いっぺんに三人連れて歩けばいい」
　 内心は残念だが、わたしたちは純水の恋人である、という点では平等でなくてはならない。
「どこに行くかは明日決めればいい。幸い、二人ともここにいるんだから」
「う、うん」
「さて、その話はいいとして…」
（こうやって、次々と話を変えて純水を惑わせるのはわたしの悪いクセか…それとも、わたしはこうやって純水を惑わすことで、本当に純水と腹を割って話すことから逃げているのかもしれないな）
　 いかに今親しげに会話していたとしても、たとえ体を交えたことがあっても、わたしがここにいる純水の父親を斬ったことには間違いない。
（この稼業に罪悪感を持ったわたしは、もはや使い物にならないのかもしれない）
　 そこまで考えると、わたしは自分の考えを振り払うかのように言葉を続けていた。
「…やっぱり、セックスもしておこうか。わたしも純水に抱かれたい」
「やっぱり、そうなるんだね」
　 いいかげんわたしの言動に慣れたのか、純水は微笑を浮かべていた。それを見るとわたしも
「当然だ」
　 と思わず笑顔がこぼれるのがわかった。

「さあ、純水」
　 わたしは自分から純水の手を取った。そのまま、引き寄せるようにして、純水の体に顔を寄せる。
　 純水の手が自然にわたしの背中に回った。わたしたちは、立ったまま抱擁する恰好になった。
「…暖かいな、純水は」
「そう？」
「ああ。心地いい暖かさだ。弓華の恋は、こんな感じだったのかもしれないな。今、こうしているだけでもわたしは幸せだ」
　 わたしは素直にそう言った。
「頭を撫でてくれないか？」
「…？うん」
　 戸惑いつつも、純水は優しくわたしの頭を撫でてくれた。
（…純水…父さん…）
　 一瞬、死んだ父と純水の影が重なった。もちろん、似ても似つかない顔なのは分かっている。ただ、なんとなく純水と父の雰囲気が似ているように思っただけだ。
「…風花さん、泣いてるの？」
「…えっ？」
　 自分でも気づかなかったが、いつの間にか、目尻から一筋、涙が流れていた。
「…気にしなくてもいい。そのままわたしを抱いていて」
「うん」

　肉体ではなく、わたしは今、純水と心を繋げている。そんな気がした。それが嬉しかったのだろうか？肉体的な快楽による絶頂ではなく、わたしは今、こうして純水に抱きしめられているだけで、満足してしまいそうになっていた。
（…いかんな）
　 そう思ったわたしは、自分からそっ、と体を離した。
「さあ、純水」
「…あ、うん」
　 わたしは服を脱ぐのももどかしく、下着だけ下ろすと、純水を床に押し倒した。
（そういえば、前もわたしが上だったな）
「床、痛くないか？」
「大丈夫だよ」
（女が言うセリフじゃないな）
　 わたしは胸のうちで苦笑した。ゆっくりと純水のズボンに手を伸ばし、それを取り出す。
「…勃っているな。嬉しい限りだ」
「うん。さっき、風花さんを抱きしめてるときに」
　 純水の返事を聞いてから、わたしは純水のモノの上に体を移動させると、足を開き、ゆっくりと腰を…。
「風花さん」
「ん？」
　 腰を落とそうとしたときに、純水から声がかかった。わたしは純水のモノを上に向けたまま返事をする。
「風花さんがまだ濡れてないよ？」
「それなら大丈夫だ。そのうち濡れる。わたしも興奮しやすい性質らしいからな」
　 止めていた腰を落としていくと、わたしの秘所に固いモノが当たった。濡れていないのを承知で先端を押し込もうとすると、やはり膣の門に阻まれ、なかなか入りそうにない。
「…くぅっ！」
　 両手でモノをしっかりと支え、強引に腰を落とすと、わたしの体に痛みが走った。濡れていない膣壁に先端がこすりつけられたせいだろう。
「あ…はぁ…っ！」
「うっ…」
　 純水までもがどこか苦しそうな表情をしたように思えたのは、わたしの気のせいだろうか？
　 十分に準備ができていないからだのなかに、準備が終わっているモノを入れるというのは難しいということが実によく分かった瞬間だった。
「うああ…っ、は、入ってくる…」
　 まるで、初めての時と同じような激痛。しかし、幾分か前回より楽に思えるのは、わたしの体があのときのことを覚えているからなのだろうか？
「い、純水はどうだ？痛いか？」
「かなり狭いけど、痛くない。少し濡れてきたから、気持ちいいよ」
「そうか。それを聞いて安心した」
　 わたしはゆっくりと腰を上下させる。『少し濡れてきた』というのはウソではなかったらしく、何度か腰を上下させると、『ずるり』というふうに結合部が音を立てた。
「あっ…」
　 今度はわたしが声を上げる番だった。どうやらやっと濡れてきたらしいわたしの膣内が、純水のモノを受け入れ始めたのだ。
「む、胸…胸もして…っ」
　 わたしは自分から服の前をはだけると、純水の手を握って胸に押し付ける。
「うん」
　 純水もわたしの意図を察してくれたのか、両手でわたしの乳房を愛撫しはじめた。聖架ほど大きくないぶん、揉む面積も小さいだろうが、純水はわたしの乳房で少しは興奮してくれるだろうか？
「風花さん、ここ、勃ってる」
「あっ」
　 純水の両手は、わたしの乳房を下から押し上げるように揉み解し、さらに人差し指で先端を刺激してくれる。固く勃ってしまった乳首は、今までにないほど敏感になっていて、指がかすめるだけでありえない快感を呼び起こしていた。
　 わたしは、純水が胸へくれる快感に酔いしれながら、自ら腰を揺り動かし、さらなる快楽を求めていた。
　 スカートのせいで結合部こそ見えないものの、その中がどうなっているかは容易に想像できる。
「純水も…純水も動いて」
「うん」
　 右手を胸から腰へ移し、わたしの体を支えながら突き上げてくる。すでに大きくなったモノは、もう十分にあふれかえった愛液を巻き込みながらわたしの奥を激しくつついてくる。
「ひっ、ひあぁ…っ、純水、純水…っ」
　 腰に当てられた純水の右手に、自分の左手を絡めて繋ぐ。そうすると、より純水を身近に感じることができる。
「風花さん、僕、もうイきそうだよ…」
「あ、ああ、中で…中でイッて…！子宮の中に注ぎ込んでぇ…っ！」
「だ、ダメだよ風花さ…あ、ああッ！」
　 二人して大きな声をあげながら、仲良く絶頂に達した。わたしは体を弓なりにのけぞらせ、純水はそんなわたしの膣内…いや、子宮内に大量に射精してくれる。
　 熱いものがわたしの奥深くへ入り込んでくる快感は、これまでにはありえないほどのものだった。
「ふ…風花さん…」
「だ、大丈夫だ…安全日ではないが、薬で避妊してある…ほめられたものではないが、きちんと準備はしてきた…」
　 純水の精液を残らず体の奥へ受け止めてから、わたしは体を離した。何度も交わりたかったのだが、体のほうが一度の交接で満足してしまったのである。

「あ…はぁっ、はぁっ…」
　 体が上手く立たず、わたしは純水の横に仰向けで倒れこんだ。足を大きく広げ、胸が服からはみ出たなんともみっともない様相ではあったが、それ以上体を動かすことができなかった。
（あぁ、純水がわたしを見ている…わたしは…幸せだ…）

「…狭くない？」
「まぁ、大丈夫だろう。子供のころは三人抱き合って寝たものさ」
　 苦笑する純水をよそに、わたしは悪戯心で、姉と妹が眠るベッドにもぐりこんだ。ちょうど、間に末妹の弓華を挟みこむ形になった。
　 起きるか、と思ったが、起きる様子はなかった。
（ふふ…朝になって、二人がわたしを見たらどう思うか楽しみだ…）
　 わたしは、寝る場所をなくしてしまい、床に寝転がる純水にウィンクしてみせるのだった…。