| ４０ 三姉妹がそれぞれ互いに問答を重ねるなか、僕は押し黙っていた。場を乱したのはやはりというかなんというか、風花さんだ。 けれども、僕が黙っていたのはただ気恥ずかしかっただけでも、疲れていたわけでもなく、僕自身の体の熱がまだ収まっていなかったからだ。 考えてみれば、僕はいつも場に流されるばかりで、自分から『したい』と言ったことはないし、無理やり襲い掛かったことももちろんない。 『相手のことを考えた上での判断だ』、とか『三人を手にかけるのに罪悪感を感じる』とかではない。ただ僕のほうが、『自分から『したい』と言ったり、あるいは自分から行為を迫ることで、三人に嫌われるのが嫌だった』、そんな自分勝手な理由でしかなかった。 弓華ちゃんは、とても恥ずかしそうに『やっぱり、いいかな？』と聞いてきた。 （…これってやっぱり、僕と同じように考えているのかな…） しきりに風花さんの言うことを否定していたのも、自分の行為を後回しにしていたのも、やっぱり…。 「…弓華。お前が『したい』と言ったとしても、純水はお前を嫌ったりはしないさ」 「！」 僕が考えていたことを、風花さんがずばりと言った。反射的に、僕も弓華ちゃんも風花さんを見ていた。 ためらいがちに椅子から立ち上がった弓華ちゃんを見て、僕も同じように席から離れた。そして、こちらにゆっくりと歩いてくる彼女を、僕は自分から抱きしめていた。 「純水くん？」 僕の腕の中で、弓華ちゃんが驚いたような声を上げた。 「…嫌だった？」 そんなことを尋ねながらも、僕は抱きしめる腕の力を弱めたりはせずにいた。 「…ううん。嬉しい」 彼女は微笑を返すのを見て、僕はもう少しだけ腕に力を入れる。 三つ子の姉妹で外見はまったく同じとはいえ、やっぱりこの三人と接していて感じるもの、求めるものはまったく違う。 僕が言うのも妙なことだけれども、聖架さんを見ていて何を感じるかといえば、包容力や母性とか優しさとか、そういった方向になると思うし、風花さんは信頼感とか行動力かな？ただ、口に出さなくても、多分本人は誰かから頼られるのを嫌がっていると思う。 弓華ちゃんから『何でもできすぎる』的な発言を受けると、困った顔をしたりするのはその関係じゃないかな？ そして、弓華ちゃんには『親近感』、『安心感』がある。一番最初に『彼女になった』ということもあるかもしれないけれども、彼女が与えてくれる安心感は、他の二人にはないものだと思う（聖架さん、風花さんを貶しているわけではないけれども）。 「あ、そういえば…」 ずっと抱き合っている僕ら二人を見ているのが飽きたのか、聖架さんも風花さんもいつの間にか椅子に座って話をしていた。 「なあに？」 顔を上げて声を漏らした僕を、弓華ちゃんが見上げた。 「気がついてみると、聖架さんと風花さんは『さん付け』なのに、弓華ちゃんは『ちゃん付け』だなあ、って。 三つ子で年齢も顔も同じなんだから、やっぱりみんな同じのほうがいいかな？」 僕が首をかしげて見せると、 「じゃあ、わたしは風花ちゃんか」 …と風花さんから声が飛んできた。 （しっかり聞いてたのか） 思わず苦笑してしまった僕を尻目に、風花さんも合わせて苦笑していた。 「自分で言っていて似合わないと痛感できるな、風花ちゃんは…」 「そうですね、風花ちゃん」 聖架さんも、風花さんをからかって可笑しそうに笑っていた。確かに、外見は同じでも、風花さんに『ちゃん付け』は似合いそうに無い。 「…だがしかし、『弓華さん』も似合うものではないな」 「うん。今のままでいいよ。なんか、わたしだけ『彼女』だって気分になれるし」 そういった弓華ちゃんは、どこか嬉しそうに見えた。 「それは聞き捨てならないな」 「ですね」 弓華ちゃんの言葉に、二人が真顔で答える。こんなことで姉妹喧嘩になった困る（ならないと思うけど）と思った僕は、弓華ちゃんを抱きしめたまま彼女を寝室へと連れて行った。 「ね、純水くんは大丈夫？朝食挟んだといっても、朝っからアレだし…って、なんでおねえちゃんたちついてくるのよ」 寝室に移動してきた僕達を追うようにして、残り二人が入ってくるのへ、さすがに弓華ちゃんが反論した。 「それはそうだろう。わたしたち二人とも、見られながらのセックスだったというのに、弓華だけ自分たちの世界に入り込もうというのは黙認できない」 （見られながらになったのは、不可抗力なんだけど…） 笑顔で理由を話す風花さんの言葉に、僕はそんなことを思ったものの、もちろん口には出さない。 「わ、わたしは風花に誘われたから来ただけですからね。…まぁ、ちょっと興味がありますけど…」 「まあ、そういうわけで、気にせずやってくれていい。わたしたちは手を出さずにじっくり眺めているさ」 「それが気になるんじゃないのよっ！」 「な、なんか緊張するなぁ…いつまでも初めてのからだじゃないことは分かってるんだけど…」 ベッドの上に座り込んで呟く弓華ちゃんがかわいらしく思える。 「僕だって同じだよ」 嘘ではなかった。もちろん、ドアの近くで床に座り込んでいる二人がちょっと気になる、ということもあるんだけど…。 「ね、どうすればいいかな…」 ちょっと戸惑っている弓華ちゃんを見て、僕は考えをめぐらせる。あくまでも一直線に、でも冷静に体を求めてくる風花さんや、普段控えめでも押し通すところは押し通すし、素直にもなる聖架さんとは違って、弓華ちゃんとの行為はどちらかというとその場の勢い的なものがかなり大きかった気がする。 それに比べると、今日の弓華ちゃんはとても冷静な状態だ。 （やっぱり、僕が…リード…するべきなのかな） ただ、この三人との付き合い方に（多少なりとも）慣れてきてはいる僕も、冷静ではある…と思う。 （でも、服を脱がすとかは悪い気がするなぁ…着させたことはあるけど） そういう風に考える僕は、軟派男じゃないけれども硬派でもないんだろう。 「…あ、とりあえず横になるね」 顔を真っ赤にした弓華ちゃんが、僕に気を遣うように仰向けにベッドに横になる。が、体中ガチガチに緊張させてしまっているのを見て、僕は苦笑してしまった。 （風花さんなら、『まどろっこしい』とか言い出すんだろうなぁ） そんなことを考えながら、僕はついに弓華ちゃんの服に手をかけていた。 「弓華、ちょっと緊張しすぎじゃないか？」 僕が上着に手をかけたところで、部屋の片隅に座り込んでいた風花さんが声をかけてきた。 「だ、だって…」 「大丈夫さ。純水にすべて任せておけばいい」 「…」 風花さんの言葉を受けて、弓華ちゃんが僕を見る。 「…うん。僕に任せて」 こういう言葉が自然に出てきたのは、あるいは風花さんの誘導尋問（？）だったのだろうか。それとも相手が弓華ちゃんだから言えたことだろうか。 できるだけすばやく、彼女の服を脱がせていく。時間をかければ、ただでさえ緊張している彼女の羞恥心を増大させるだけだ、と思ったからだった。 慣れない動作のせいで、上着もスカートもいろいろ弓華ちゃんの体に引っ掛けたりして戸惑ったものの、どうやら弓華ちゃんをさらに緊張させずに済んだようだった。 やっと下着姿になった弓華ちゃんを見下ろすと、『やっぱり姉妹なんだな』と思う。細かな体格とか胸の大きさとかは違っても、肌の質が同じように思えたからだ。 「…純水くん、じっと見たら、恥ずかしいよ」 言われて、僕は苦笑しつつ弓華ちゃんの顔のほうを見る。心臓の鼓動がさっきから我慢できないほど早くなってしまっている。そして、必然的に僕の股間のほうも、驚くほど硬くなっているのが分かった。目の前に下着姿の女性がいるのだから、当然だ。 「んっ…！」 『まず、何をするべきか』…とか、そういうことは考えず、僕は彼女の唇を求めていた。これも、相手が弓華ちゃんだからだと思う。 風花さんなら、僕がする前に自分からくるだろうし…。 弓華ちゃんの抵抗はなかった。彼女の上に覆いかぶさるようにして唇を重ねた僕は、彼女を両手で抱きしめつつゆっくりと舌を差し込んだ。 （どうやっていいかなんて、分からないけど…弓華ちゃん、どう思ってるかな） そう考えていると、弓華ちゃんの腕が僕を締め付けてきた。彼女の口の中で舌を絡めあいつつ。その感触を愉しむ。 しばらくすると、その脚が僕の下半身に巻きついた。負けじと、僕も彼女の唇を少し強く吸った。弓華ちゃんは目を閉じていた。 「んっ！」 一体どのくらいの間キスを続けていたのか、僕にもよく分からないけれども、唇を離したころには、彼女の顔は赤く火照り、そして僕のモノは早くズボンから出たいとばかりに立ち上がっていた。 「純水くん…もう、我慢できないよ、早く、して…」 目を潤ませた弓華ちゃんが、かわいらしい表情を僕に向ける。 「…うん。痛かったら言ってね」 僕はまず、弓華ちゃんのショーツをゆっくりと剥ぎ取った。彼女の秘所は、下着の上から分かるほど濡れていた。 （いつから我慢していたんだろう） やっぱり、食事前にするべきだったのかな、と少し思った。続いて、ブラジャーを上へ押し上げる。さっきの聖架さんのこともあって、この状況で器用にブラジャーの金具をはずす自信がなかった。 「やぁ、胸は見ないで…恥ずかしいよぉ」 「…なんで？」 すぐに胸を覆ってしまった弓華ちゃんに、僕は問いかけていた。 「だって…おねえちゃんたちに比べて…わたしのは特に小さいし、触っても揉んでも純水くんは気持ちよくないだろうし、見た目もよくないし…」 「そんなことはないよ」 僕は、弓華ちゃんの言葉をさえぎった。 「気持ちよくないこともないし、見た目だって悪くない。それに、そんなことで僕は弓華ちゃんを嫌ったりしないよ」 弓華ちゃんに笑顔で答えると、彼女も合わせて嬉しそうに微笑んだ。 「うん、ありがとう。わたし、純水くんのこと…大好きだからね」 その言葉を聞いてから、僕は弓華ちゃんの両足をゆっくりと左右に開くと、ようやくズボンからモノを取り出す。 （こういうときって、愛撫…とかするのかな？そのまま入れていいのかな？） そんなことを考えて、弓華ちゃんの秘所を覗き込むと、綺麗なピンク色をしたそこは、やっぱりよく潤っていた。 少し考えた後、僕は胸を覆った弓華ちゃんの左腕を取ると、その手に硬くなったモノをそっと握らせる。 「えっ…こんなに硬くなるんだ…」 思わぬ感触だったのか、弓華ちゃんが顔を上げた。目をぱちくりさせながら、握ったり手を上下に動かしたりされているうち、僕は気持ちよくなってしまった。 「弓華ちゃん、そんなに握ったり動かしたりしたら、出ちゃうよ」 僕が言うと、弓華ちゃんは 「あっ、ごめんなさいっ！」 と手をぱっ、と離した。幾分か緊張がほぐれたかな？ 膝を曲げてやってから、広げた両足の間に体を入れる。それから 「弓華ちゃん、入れるからね」 と声をかけた。 「うん…そっとね」 言われたとおり、その小さな亀裂に、そっと先端を押し付け、そしてそのままゆっくりと先だけを挿入してやる。 「ひあんっ！？」 「うっ！」 にゅるり、と先端が入り込むと、濡れた膣口が僕を温かく包み込んだ。同時に、弓華ちゃんが凄い声をあげ、僕を強く締め付けてくる。 「ゆ、弓華ちゃん、力を抜いて…」 射精しないように力みながら、僕は必死に弓華ちゃんに声をかけた。 「あ…ふぁ…うん」 しばらく放心していた彼女が我に帰るのを見てから、僕は少しだけ彼女の中に入り込む。 溢れた愛液がモノに押し出され、ベッドにぽたぽた垂れていく。 「うああっ…き、気持ちいい…っ、入ってくるよぉ…！」 彼女の腰を両手で支え、僕は少しずつ奥まで侵入していく。濡れた膣内の感触に、僕にようやく『弓華ちゃんを犯しているんだ』という実感が湧いてくる。 「はぁ…っ、はぁぁ…」 彼女の一番奥まで入ったところで腰を止めると、喘ぐ弓華ちゃんの左手が宙を泳いだ。びくん、びくん、と体を震えさせたところを見ると、軽くイッたのかもしれない。僕は右手で彼女の手を受け止めると、しっかりと手を繋いでやる。そのままの状態でゆっくりと腰を前後させると、弓華ちゃん曰く『特に小さい』胸が、やんわりと揺れた。そして、綺麗なピンク色をした先端は、ピンと立ってしまっている。 僕は、余った左手を彼女の乳房の上に乗せた。小さい小さいと自分で言っていたものの、暖かく柔らかい感触はやはり女性の胸だった。 腰を優しく動かしながら、同じリズムで乳房を揉み解すと、弓華ちゃんから甘い吐息が小刻みに漏れる。 「あっ、ふぁっ…やぁっ、純水くんの、大きくて、熱い…」 唇の端から少し涎を流しながらも、彼女は快感を素直に訴えてくれる。 「おねえちゃんじゃないけど…本当に病み付きになりそう…ああっ…！」 目をきつく閉じて喘ぐその表情は、姉二人とまったく同じだった。髪型が同じだったら、まったく同じ人間にしか見えないだろう。 「弓華ちゃん、少し激しくしていい？」 「うん。手は繋いでてくれる？」 「うん」 僕がうなずくと、弓華ちゃんが微笑んだ。…と同時に、その左手で僕の手をきゅっ、と強く握ってきた。 スピードを上げ始めると、弓華ちゃんの喘ぎ声はいよいよ高まっていく。思わず窓を見ると、きちんとしまっている。とはいえ、彼女の声が漏れていないかちょっと心配にはなる。近所にも人はいるだろうし、まだ昼だし…。 「…あっ」 僕が窓を気にしたことで気づいたのか、弓華ちゃんが右手で口を覆ってしまった。顔も真っ赤だ。 （とはいえ、弓華ちゃんだけじゃないんだけどね…） 今度は、自然に部屋の片隅にいる二人に目をやってきた。風花さんは少し顔を赤らめて苦笑し、聖架さんは顔を覆ってうずくまっていた。 「…っ！？」 そんなふうに別のことを考えていると、弓華ちゃんの膣が急に締まった。意図的に締め付けできるほど器用じゃないだろうし（これだけは風花さんも同じだと思う）、多分今の話で羞恥心が高まってしまったんじゃないだろうか。 僕は、彼女の状態を気にしながら、再び腰を動かす。 「あっ、あんっ、あっ…ああっ」 もはや口を抑える力もなくなってしまったらしく、弓華ちゃんはベッドに指を食い込ませて快感に抗っていた。ここまで感じてくれると僕も嬉しい。 「あっ、い、純水くんっ、…もう、い、イくっ…イッちゃう…っ！ひゃあっ！？」 絶頂寸前の彼女を激しく突き上げながら、その乳首を痛がらないようにきゅっ、と摘んでやる。 僕は激しく彼女の痴態に興奮していた。すでに朝から何度も射精した体だというのに、腰の動きも手の動きも止まらず、ただ彼女に快感を求め、また彼女に快感を与えるべく動いていた。 弓華ちゃんの膣内がとても熱い。前後運動を繰り返すたびに、硬くなったモノに肉と愛液が絡み付いて離してくれない。 「弓華ちゃん、ぼ、僕ももう出るッ！！」 「ああああっ！出して、そのまま出してぇっ！わたしの中をいっぱいにしてっ！！」 その言葉を受けて、僕は彼女の一番奥へモノを突きこみ、腰の動きを止めた。…と同時に、溜め込んでいた精液を一斉に放射していく。 溶けるような快感が僕を包んだ。それと同時に、弓華ちゃんが絶叫を上げた。 「イくっ、イッちゃうぅ！ああああぁーーーっ！！」 「はっ、はぁあ、いっぱい出てて…気持ちいいよぉ…」 大量の精液を体に迎え入れた弓華ちゃんが、恍惚の表情を浮かべた。 「本当に気持ちよさそうだな、弓華」 今まで黙ってみていた風花さんが、そんな弓華ちゃんに言う。 「うん…気持ちいい…すごく幸せ。ずっとつながっていたいくらい」 「羨ましい限りだな」 風花さんが本当にそんな顔をした。朝一番にしたくせに…。 僕はしばらく彼女の中にいた。弓華ちゃんの表情が落ち着くのを見てから、彼女からやっと離れた。 「すごいな…あれだけセックスしたのに、まだ勃ってる…」 さすがに全開というわけにはいかず、少し萎えてはいたものの、風花さんが見つめながら言うとおり、僕のモノはまだ勃っていた。 「もう、しないからね」 身の危険を感じた僕は、真っ先にそう言った。 「あーーーーっ！？」 背後からの弓華ちゃんの声に、僕は心臓が止まりそうになるくらい驚きながら振り向いた。 「や、やっちゃった、今日、危険日なのにっ！」 ベッドから全裸のまま飛び起きた彼女は、股間を両手で押さえながらあわてふためく。 （そういえば…） 僕もどうやら自我を失っていたらしい。何も考えずに大量に射精しまったのを、ちょっと後悔した。 「それなら大丈夫だ」 風花さんの言葉に、僕達二人はそろって彼女を見る。 「弓華はすでに避妊してるからな」 「なんで？」 きょとん、とした弓華ちゃんが、ベッドの上から風花さんに投げかける。 「さっき、弓華にウィンナーを『あ〜ん』とやったときに、一緒に薬も食べさせておいた。多分、食後にセックスするだろうな、と思ったからな」 「なんて準備のいい…っていうか、効くのそれ？」 「さあ？それはわたしも聖架も同じ条件だからな。誰かができてしまったら、全員で育てればいいさ。わたしは子供は好きだからな」 風花さんは気楽にそういったけれども、彼女は本気だろうと思う。けれども、僕のほうは三人の『彼氏』であるという責任を目前に突きつけられた気がした。 このまま三人との付き合いがいつまで続くかは分からないし、誰かと結婚する可能性も分からない。けれども、僕がそれにふさわしい人間にならなくてはならない。 全員が、僕の大切な人なのだから。 いろいろあって、僕達の関係はより密接になっていった気がする。そしてそれからしばらくはそんな日々が続いた。 デートをするときは弓華ちゃんと二人か、全員で、ということが多くなった。一応僕達は高校生だ、というのを考えてのことだ。 弓華ちゃんとは同じクラスで、すでに彼氏彼女の関係だ、ということは何人かが知っている。三つ子全員を連れ歩いて『全員が彼女だ』と考える人もそうはいないだろう。 ただ、あちこちで全員に腕を組まれたり、聖架さんに胸を背中に押し付けられたり（本人は意識していない）、風花さんに耳元で囁かれたりしたけれども。 聖架さんは、シスターをやめて（これは僕が原因だ）弓華ちゃんの家に住み始めた。二人とも生活が便利になった、と言っている。 アルバイトをしつつ就職先を考えるそうだけど…彼女なら上手くいくだろうなぁ、美人だし、器量もいいし、男性には人気が出るだろう。ちょっと悔しいけど。 風花さんは、何事もなかったように社長職に戻った。もうその手に仕込み杖を握ることはないらしく、僕はひたすら安堵していた。 父を殺めたのは確かに風花さんだけれども、僕にはその罪よりも風花さんのほうが大事だった。 弓華ちゃんと僕は、相変わらず普通の高校生だ。まあ、ちょっと前よりおおっぴらに付き合うようになったかな？ 顔を合わせる機会が多いだけに、彼女との付き合いが一番多い。だからこそ、お互いの知らない面がだんだん分かるようになってきた。 掘り下げてみると、彼女の趣味は僕のそれとほとんど一致していて、僕のほうが逆に嬉しいくらいだった。 『恋人』としての弓華ちゃんもそうだけど、『彼女』としての弓華ちゃんともより親密になれた気がする。 戸惑いつつも、僕は平凡、そして幸せな生活を送っていた。けれども、それを打ち破るものがあった。 誘拐騒ぎから一ヶ月ほどたったある日のこと、僕は聖架さん、そして弓華ちゃんからの電話を受けて、ある場所へとタクシーを走らせていた。 『風花の会社から電話があって…、風花が…、風花が血を吐いて倒れたって…』 聖架さんの声は、痛ましいほどに涙に濡れていた…。 |
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| 2007.12.5掲載 |
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