| ４４ あれから、瞬く間に時が過ぎ去り、風花さんが亡くなってから早一年が経過しようとしていた。 僕達は変わらず三人になってしまった付き合いをしていたものの、心の中から風花さんの影が消えることは決してなかった。 聖架さんも弓華ちゃんも、しばらく放心したような状態だったものの、それでも時間が傷を癒してくれたのか、またもとの生活を取り戻していった。 聖架さんはあの後、すぐにアルバイトを探し、忙しい仕事の傍ら保育士の勉強を始めた。どうやら、保母さんを目指すようだ。 彼女は、後で僕にこう言った。 『人を傷つける職業に携わったわたしには、やはり資格がないかもしれませんが、わたしは今を生きる、あるいはこれから生まれてくる子供たちのために、できるだけの優しさと、それから生きることの厳しさを教えていきたいと思います。今までの償いと、風花への償いのために』 …強いな、と思った。必然的に、彼女と出会う機会は減ってしまったけれども、僕は聖架さんを応援こそすれ、止めようなどとは思わない。 それにあわせてかどうかは分からないものの、弓華ちゃんも猛勉強を始めた。別に、高校卒業が危なかったわけじゃない。彼女にも、やりたいことが出来たようだった。 『わたしね…、難しいかもしれないけど、医者になろうと思う。もちろん、並大抵の努力じゃダメなことは分かってるけど…。 でも、わたしは風花姉さんに何もできなかったから…同じ病気に苦しむ人のために何かできるようになりたいの』 彼女らしい言い方だな、と思った。ただ、二人とも、自分の尊い夢と理想を掲げていたものの、僕に会うときはいつものように振る舞ってくれた。 僕は、何をしたいんだろうか。 ふと、そんなことが頭をよぎった。 下校時刻、もう赤くなった空の下で弓華ちゃんと歩いていた僕は、自分の将来のことについて考えをめぐらせていた。 「どうしたの？」 ずっと黙っていたせいか、弓華ちゃんが僕に聞いてきた。その腕は、しっかりと僕の腕に組まれている。 「うん…弓華ちゃんは医者を目指すそうだけど、僕はどうするのかな、って…」 僕が素直にそういうと、弓華ちゃんは 「急いで決めることじゃないわよ。確かに、これから卒業就職進学って忙しくなるし、道を間違えて後悔することもあるかもしれないけど…。 でも、未来は誰にも分からないんだから」 「…未来は誰にも分からない、か…そうだね。これからやりたいことが出来るかもしれないし、就職を探しておこうかな」 僕はそう言った。けれども、軽い気持ちで言ったわけじゃない。自分のやりたいことのために歩き出した二人を、少しでも助けたいのも事実だし、自分の未来を悟らずにはいられなかった風花さんのためにも、僕の未来は自分で決めたい、というのもあった。 「いざとなったら、医者と保育士で純水くんを養うことだってできるんだから」 黙っていたら、そんなことを言われてしまった。でも、それって…。 「…それって…」 僕が驚いて弓華ちゃんの顔を見ると、彼女はたちまちに顔を真っ赤にしてしまった。 「ち、ち、ち、違うのよ、な、なんだかプロポーズのセリフみたいになっちゃったね…あははは…」 照れ笑いをする弓華ちゃんが可愛い。 「そういえば、小野沢さんっていたでしょ？風花姉さんの会社に」 「うん」 ＹＴＣの社員で、あの誘拐騒ぎのときに後から来た人だ。確か、風花さんが亡くなる前にも見舞いに来てたっけ。 「あの人、結婚するんだって。同じ会社の先輩と」 (…じゃあ、峰さんかなぁ…なんだか、悪くない雰囲気だったし） 「あとね、うちのお父さんも再婚を迫られたらしいのよ…」 そう言って、弓華ちゃんがうなだれた。 「別にいいんじゃない？まだ若いんだし」 僕が真面目に言葉を返すと、弓華ちゃんが笑った。 「その相手の人、売れてる雑誌記者らしいんだけど、お父さん、結婚断っちゃったみたい。なんでも、歳が一回り違うとかでね…」 （断ったのか…） さすがに、雪村さんの相手までは想像できない。ただ、烏丸翔一の肩書きは雑誌記者だったから、その関係かな？ 「お父さんたらね、うちのお母さんにベタ惚れだったみたいで、『俺にはあいつしかいないんだ』みたいな断り方したんだって」 『あいつ』というのは、弓華ちゃんのお母さんのことだろう。 （あの人に、そういう面があったのか） 考えてみれば、雪村さんは自分にはとても厳しそうに見えるが、三姉妹にはとても甘いみたいだし、その原因がお母さんにあるとすれば納得がいく。 （でも、雪村さんをベタ惚れさせた女性って、どんな人なんだろう？） ちょっと、想像ができなかった。 今年度、僕達は高校を卒業することになる。僕も弓華ちゃんも卒業自体は問題なくできそうだった。遅刻もないし、休みもほとんどない。単位も落としてはいない。 卒業したらどうするか。弓華ちゃんは確固たる意思を持って勉強をしているけれども、僕にはまだ明確な方針はない。 しかし、まだ決まっていないだけだ。どうするかは、すぐに決まる気がする。そして、決まれば僕は努力を惜しまないつもりだった。 聖架さんに、そして弓華ちゃんに負けないように。それから、風花さんに笑われないように…。 「…もうすぐ、風花姉さんの命日だね」 「…うん。あれから、一年経つんだね」 もうすぐ弓華ちゃんの家に着く、というところになって、そんな話が出た。あれから一年も過ぎたというのが信じられなかった。 ひょっとして、ＹＴＣに行けば、あるいは弓華ちゃんの家に行けば、今でも風花さんがいるんじゃないか、という気分になる。けれども、一年前のあの日、間違いなく風花さんは、僕の目の前でこの世を去った。…その日から、一年…。 「…一緒に、お墓参り、来てくれる？」 「もちろんだよ」 僕は、弓華ちゃんの言葉にうなずいた。 「ただいまぁ」 弓華ちゃんの家の前で、彼女が誰にとでもなく言った。この時間なら、まだ聖架さんはいないだろう。 「お帰り」 そんなわけで、僕はなんとなく返事を返していた。素直に微笑を返す彼女が眩しい。 「それじゃ、また明日…」 「…ね、家、寄ってかない？」 僕が帰ろうとすると、弓華ちゃんが突然そう言った。 「え？でも、迷惑じゃ…」 「ぜんぜんそんなことないよ！迷惑とか、そんなこと」 ぶんぶんと勢いよく頭を横に振って、弓華ちゃんが言う。 「お邪魔しまーす」 「はい、どうぞ」 僕の言葉に、弓華ちゃんは嬉しそうに相槌を打ってくれる。 「それで、純水くん、今日の授業…」 そういいながら弓華ちゃんが自分の部屋のドアノブに手をかけ、開いたときだった。 「きゃあああっ！？」 「ひええぇ！？」 女性二人の声が家中に響いた。と同時に、僕の前に半裸の聖架さんの姿が飛び込んできた。 「お、お、お姉ちゃん、なんでいるのっ！？」 「い、純水さん、何でっ…弓華、早く閉めなさい、いいから閉めてッ！」 僕達二人を締め出して、ドアが音を立てて閉まった。僕達は居間に移動することにした。 「…」 しばらく雑談をしていると、顔を赤くした聖架さんが、唇を真一文字に結んだ複雑な表情のままテーブルについた。ちょっと気まずい。 「弓華。部屋に入るときはノックをまずしなさいと、あれほど…」 「だ、だっているって思わなかったんだもん。まだバイトだと思って」 「今日は早く終わるって、言ったような…言いませんでしたっけ？」 「言ってなかったよ？おねえちゃん、朝寝坊してパン咥えたまま飛び出していったじゃない。 一度スカート穿かないでパンツのまま外に出ようとしたのをわたしが止めたでしょ？」 （聖架さん…） 弓華ちゃんのセリフに、僕は苦笑していた。いかにも聖架さんらしい。 「あ、そういえばそうでしたっけ」 「うん」 「…あ、純水さん、お帰りなさい」 思い出したように急に言われ、僕は思わず『うん』と返事していた。 「…じゃなくて、こんにちは」 これが普段の聖架さんなんだなぁ、とちょっと思った。おっとりしていてどこか天真爛漫で何をしでかすか分からない、という印象だろうか。 この様子を見ていると、元は四挺の拳銃を操る凄腕の暗殺者だ、というのは信じられない話である。 （お帰りなさい、か） 聖架さんは間違えたみたいだけど、考えてみればそのセリフを言われたのがとても久しぶりだということに気がついた。 たとえようの無い懐かしさと暖かさが僕を包んでいた。 「ちょっと待っててくださいね。今コーヒーでも出しますから」 「あ、わたしがやるからおねえちゃん座ってて！また塩入れられたら敵わないもの！」 あわてて立ち上がる弓華ちゃんの姿を見て、僕は想像した。やりかねない、と。 「さっきは、本当にお見苦しいところをお見せしてしまって…」 顔を真っ赤にして、聖架さんが申し訳なさそうに頭を下げた。僕のほうはちょっと嬉しかった面もあったため、なんと返せばいいのか分からずに曖昧に答えるしかなかった。 「あ、うん…」 聖架さんに言われて、僕の脳裏に先ほど見た下着姿の聖架さんが頭に浮かんでしまい、僕のほうも顔を伏せてしまった。 「ん？どうしたの、二人とも？」 数分して、コーヒーを載せたお盆を持った弓華ちゃんが戻ってきた。 「え、えぇ、あははは…」 「…変なの。やましいことを考えてたわけじゃあるまいし」 笑ってごまかす聖架さんに、弓華ちゃんが言った。 「ところで、風花の命日はどうしましょうか。三人で行きますか？」 「さっきも、その話をしてたんだよ」 弓華ちゃんの入れてくれたコーヒーを頂きながら、僕達はその話へと戻っていった。 「僕も行きたいな。一緒に行ってもいい？」 僕がそういうと、二人揃ってニッコリ笑った。 「もちろんです。風花もきっと喜びます」 そんな二人の笑顔を見ながら、僕は一緒に二人の後ろにある時計を見ていた。いつの間にか時間が経ってしまっている。 （このままいたら、迷惑だな、そろそろ帰らないと…でも…） そうは思ったものの、席を立てない理由があった。 （勃ってる…） 僕は苦笑していた。おそらく、聖架さんの着替え姿を見たのと、頭の中でそれがめぐっていたからだ。 いつの間にか、ズボンの中で僕のモノが固く立ち上がってしまっていて、すぐに萎えてくれそうにない。 「…？どうかしたんですか？」 さすがに変に思われたのか、聖架さんに声をかけられてしまった。 「あ、いや…その…」 僕は正直に答えるわけにもいかず、返事に詰まってしまった。 「…あ、純水くん…」 「！」 横から突然きた弓華ちゃんの声に、僕は思わずそっちに顔を向ける。すると、ためらいがちに僕を覗き込む弓華ちゃんの顔があった。 「…勃ってる…」 言うなり、顔を真っ赤にしてしまった。僕は気恥ずかしさに目を背けていた。 「…おねえちゃんが、着替えなんかしてるからだよ…？」 弓華ちゃんが、責めるように聖架さんを見る。 「そ、それはわたしのせいじゃ…！？むしろ、ノックもせずに部屋に入ってきた弓華のほうが…」 聖架さんはぶんぶんと勢いよく頭を振って弁明した。 「それを言うなら、遅刻スレスレで早く帰ることも言わないで出て行ったおねえちゃんが…」 「…どっちも、悪くないよ…」 笑いを噛み殺しながら、僕はそう言った。 「でも、不思議ですよね…一体、純水さんの体のどこがどうなって、こうなるんでしょうか」 いつの間にかテーブルを離れていた聖架さんが、僕を覗き込んでいた。眉をひそめ顔を赤くしているものの、興味津々といった目だった。 「…ちょっとお姉ちゃん、エッチなこと考えてないでしょうね」 「…そういう弓華はどうなんですか？」 （否定はしないのか…） 二人とも真剣なまなざしなのが、ちょっと怖く思える。 風花さんが亡くなって以来、僕達は体を交えることはなかった。僕自身彼女に悪い、と思うところがあったのかもしれないし、二人も遠慮していたのかもしれない。 でも、風花さんが僕達の間を上手い様に繋いでいたのではないか、とも思える。 そういえば、僕達が体を交える際には、必ずと言っていいほど風花さんが引き金になっていた 「…純水さん」 聖架さんに声をかけられ、僕はハッ、と我に返る。 「風花のことを、考えていたんですよね」 「…うん」 僕がうなずいたとほぼ同時に、勃ちあがっている箇所に温かみを感じる。目を下に向けると、聖架さんの白い手がズボン越しにそこを撫でていた。 「…わたしたちは風花になることはできませんが、それでも、風花と同じように、純水さんを好きでいます」 その手がゆっくりとズボンから僕のモノを取り出す。とはいっても、風花さんのように器用に取り出すことはできず、ぎこちなく、戸惑いながら遠慮がちに、ではあった。 「…すごい」 ズボンから突き出た僕のモノを見ながら、弓華ちゃんが僕の背中越しに声を上げた。 僕のモノが取り出された後も、聖架さんが手で優しく刺激を与えてくる。勃ってしまっているため敏感になっているそれは、聖架さんからの刺激を快感と受け止め、より興奮して硬くなっていく。 弓華ちゃんが無言のまま、椅子に座ったままの僕の横に立ち、聖架さんと同じように、そして聖架さんと一緒に僕のモノに手を添える。 二人の手で包まれたモノは、もう先端部分しか見えていなかった。 椅子を引っ張って部屋の中央に座らされた僕は、二人の舌責めにあっていた。二人がかりなので口に含まれてはいないものの、手と舌で繰り返される愛撫なので、刺激が一定しない。僕はその快さに時々声を上げそうになる。 「はぁ…純水さぁん…」 「ん…おねえちゃん、なんだかとってもエッチな声出してるぅ…」 僕のモノはもう、二人の唾液で塗らされて光っていた。そんな中で僕は、二人の執拗な責めに対してすぐに射精してしまわないように耐えるしかない。 気が付くと、二人が舌と手の動きを止めて、僕を見上げていた。止められるとなんだか物足りない気がしてきたものの、僕は射精せずに済んだ安心感で胸をなでおろした。いくらなんでも、新築同様の弓華ちゃんの家の床に白濁を撒き散らすわけにはいかない。 「…ふふ、なんだか今、風花に笑われたような気がしました。『やっぱりしたいんじゃないか』って」 「あ、わたしも」 僕の眼下で、二人が顔を合わせて笑った。 そのとき、僕にもなぜか風花さんの声がしたような気がした。あわてて振り返っても、もちろん誰もいない。 風花さんは亡くなった。それは、紛れもない事実なのだ。 「うん…僕も」 僕は、二人に合わせてうなずいた。 「僕も、その…したいな」 自分からそう言ったのは、ひょっとしたら初めてかもしれない。おそらく、僕自身二人の愛撫によって相当欲情したんだろう。 「…どっちから、しましょうか？」 弓華ちゃんの部屋に移動してくると、大真面目な顔で聖架さんが聞いてきた。 （そういわれると、僕も困るんだけど…） どっちが先か、なんて僕に選べるわけがない。そもそも、僕が選んだことなんてない。 「二人いっぺんに、ってわけにもいかないもんねぇ」 とても過激なことをしれっと言う弓華ちゃん。でも、顔はやっぱり大真面目だ。 十数回のあいこを経て、勝ちを収めたのは聖架さんだった。さすが三つ子として生を受けたからなのか、ジャンケンの手まで気が合うようだ。数分近く二人のどこか微笑ましい（？）争いを見ていたものの、この二人と交わる、という気持ちが強かったのか僕のモノはまだ硬く勃っていた。 「それじゃ、お先に失礼します…」 そう言って、聖架さんはベッドの上に身を投げてしまった。これって、やっぱり僕が脱がせる、ってことなのかな…？ さりげなく彼女の顔を見ると、真っ赤になったまま緊張でガチガチになっていた。無理も無い。僕だって、久しぶりなんだから。 「あっ、は、恥ずかしいです…っ」 僕がベッドに座ると、聖架さんはまだ何もされていないのに顔を覆ってしまった。 「…おねえちゃん、それじゃ純水くん、何もできないよ…？」 「だって、いつもわたしたちの前に風花がしていたじゃないですか。それで、わたしも…暴走して…」 真っ赤になって恥ずかしがる聖架さんの姿に、僕の心臓の鼓動も高まっていた。彼女自身の性格もそうだけれども、ほとんど露出の無い白い服がいっそう清楚さを際立たせている。 （そういえば、いつも風花さんが最初だったからなぁ） 暴走して、という言い方は正しいのかもしれない。僕のほうだって、風花さんの誘導（？）がなかったらこの二人と体を交えていなかったかもしれないのだ。 「…お、お願い、します…」 聖架さんの言葉に、僕はうなずいた。 よくよく考えると、この服はさっき着たばかりなんだなぁ、とか思いつつ、聖架さんの服を脱がせていく。 （聖架さん、肌きれいだな…） あらわになった肌は、普段日の光に当たらないせいか、雪のように白かった。ただ、ひ弱そうな肌ではなく、清楚さと清潔感溢れる健康的な肌なのは確かだ。 「…あの、見つめないでください…」 下着姿になった聖架さんが、顔を赤くしながら言った。 初めてではないのは分かっているけれども、やっぱり下着を脱がすのは戸惑ってしまう。 ただでさえ目の前に美少女二人がいること自体信じられないというのに、それを脱がせているというのだから余計だ。 「聖架さん」 「はい」 端に手をかけ、ゆっくりとショーツを下ろしていく。あらわになった秘所は、もう濡れていた。 |
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| 2008.1.5掲載 |
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