６

「ちょっと待ってよ！」
　告白のセリフを言い終わった後、純水の体の暖かさを愉しむわたしに待ったをかけたのは、他でもない妹、弓華だった。
「ゆ、弓華ちゃん？」
　驚いたのは純水のほうだった。不可抗力とはいえ、こんな状況を彼女に見られたら、普通の人間は焦るだろう。純水だって例外ではない。
「…二丁目の大通りあたりから後をつけていただろう？」
　振り向かずにわたしは聞いてみる。すると、逆に弓華が『えっ』と声を上げた。
「実の妹の尾行に気づかないほど堕落していないぞ、わたしは」
「そんなことはどうでもいいから、純水くんから離れてよ！」

『とりあえず、ここじゃ目立つから家に入ってよ』
　といわれ、わたしたちは遠慮がちに純水の家にお邪魔することになった。それはそうだ。同じ顔の姉妹が痴話げんかしていたら目立つだろう。
「すまない。迷惑をかけた。雰囲気や場所を選べるほど器用ではないんだ」
　わたしはまず謝罪した。よくよく考えるまでもなく、純水はわたしのことを一切知らなかったはずだ。押しかけたわたしのほうが悪いに決まっている。

「わたしにも謝ってよ…」
　力なく、妹が言った。
「ああ、すまない」
　わたしは素直にそう言った。ここにいるのは弓華の彼氏だ。わたしが立ち入るのは本来不可能な領域である。
　だが、わたしはそれをあえて破ろうとしている。なぜなら、わたしも純水のことを…。

「ねぇ、風花姉さん、前の電話なんだったの…？『なかったことにしてくれ』って」
　弓華が不思議そうな目でわたしを見た。思ったより怒っていないようにも見える。とりあえずは止めに入ることができたからかもしれない。
　おそらく、弓華は弓華でわたしのことを少しは警戒していたんじゃないだろうか。見かけどおり（年は同じだが）幼いところのある弓華だが、十五年は一緒に暮らしてきたのだ。互いの性格は嫌でも分かる。
　そんな中、普段会社に出っぱなしのわたしが外に出ているのを見かけた…そして、ついてきたのだろう。

「わたしは、あきらめるつもりだったんだ、だが…」
　わたしの中で、ある種の罪悪感が広がる。わたしが手にかけた人間は数多い。だが、こんな気持ちになるのは久しぶりだった。
「だが、あきらめられなかった。わたしは、弱い女だな…。好きだと言いたい、言いたいのに言えない…」
「わたしが告白して、彼女になっていたから？」
「それもある。だが、もっと別の問題だ」
　そこまで話すと、純水がお茶を淹れてきてくれた。気遣いのある青年だと思う。
「ごめんね、姉さんもわたしも、迷惑かけちゃって」
　弓華も謝った。
「二人して謝られても困るよ」
　意外なことに、純水は微笑で返してくれた。
「まぁ、驚きはしたけど」
「わたしだって驚いたよ…。いったいどうやって、純水くんの家を突き止めたの？」
「こう見えても、わたしは会社の社長をやっている。人一人の家を見つけ出すくらい造作もないさ」
　弓華の質問に、わたしはそう答えた。表向きの貿易会社では、とてもそんなマネはできないだろうが。

「そんなことよりも、次は弓華の番だろう？」
　わたしがいうと、弓華はきょとん、とした顔で
「何が？」と聞き返してきた。
　同じく純水も『何が？』という顔をしている。
「第一の『彼女』である弓華だって、純水に抱きつくくらいはしたいだろう、ということだ」
「へっ！？だ、だだだ、抱きつくって・・・！」
「暖かくて気持ちよかったぞ、純水の体は」
　言葉で追い討ちをかけると、弓華の顔がすぐに真っ赤に染まった。照れ屋で引っ込み思案で奥手なのは昔から相変わらずだ。
　さすがに純水のほうも戸惑いつつも顔を赤くしていた。
　わたしは、多く語れるほど男性との付き合いはないのだが、そんなわたしでも今の純水の表情は『可愛い』と思うことができた。
「あ、あの、その、純水くん、今のは風花姉さんの冗談で…」
「冗談ではない。気持ちの赴くままに触れ合うのも彼氏彼女の付き合い方だぞ」
　それが本当かどうかわたしには分からない。しかし、少なくともわたしの中ではそうだ。口で愛を語らっていても、いくら心で愛をつなげていても、体でそれを示さなければ意味がない。
「…弓華、こうするんだ」
　わたしは純水にすっ、と寄り添うと、首に腕を絡め、胸を押し付けるようにして抱きしめる。嫌でも伝わってくる温かみが心地よい。
「ふ、風花さん…」
　純水が戸惑うようにわたしに呼びかけたが、わたしはそれにかまわずに
「弓華、さあ」
　と弓華に視線を投げかけた。
「…う、うん、純水くん…」
　弓華がよってくるのへ、わたしは体勢をかえて純水の横から抱きつく。あいた反対側に弓華が体を寄せていく。
「…純水くん、大好き、だよ…」
　顔を真っ赤にした弓華が抱きつくのを見て、わたしは『純粋だな』と思う。
「純水くん、あったかいよ」
　首ではなく腕に腕を絡ませ、肩に頬を寄せる弓華。二人に抱きすくめられ身動きの取れない純水。
　ちょっと情けない表情がまたかわいらしく感じる。わたしのほうも、また胸に火をつけられたかのように体が熱い。

　これは、純水の体の熱ではない。わたしの体のそこから湧き上がる熱…。
「迷惑かな、純水くん」
　いつの間にか目を閉じて感じ入ってしまっている弓華が、純水に聞いた。
「迷惑じゃないけど…」
　純水は口ごもっていた。

「純水…純水がもっと欲しい…」
　ごく普通にそんなセリフが出てしまった。
　わたしにはそのセリフを吐く権利などなかった。わたしは、自分が『斬った』相手の子供に恋してしまったことになる。
　無論それは許されることではなかった。
　ほぼ無意識に、わたしの手が純水のあらぬ場所へと向かっていた。ジーンズの上をすり抜け、そして『その場所』へ。
「ふ、風花さん、ど、どこへ…」
「…硬くなってる…」
　ゆっくりと撫で回し、その感触を確かめる。ジーンズのなかで、純水のものが勃っているのがよくわかった。

「風花姉さん、どこ触ってるのよ！？」
　やっと目を開いた弓華が、純水の股間を撫で回しているわたしに言う。
　しかし、わたしはその言葉を無視し、ジーンズのファスナーを下げてしまうと、そこから手を差し込んだ。
「うあっ」
　しゃがみこむ純水をはさむように抱きしめるわたしたちの姿を、他のものが見たらどう思うだろうか。
　わたしはそんなことを考えながら、純水のものの感触を確かめる。硬く、そして暖かいものの感触を…。

「風花さん、ダメだよ、そんな…」
　どちらかというと女性のセリフのようにも聞こえるが、純水もさすがに言葉を漏らした。
「…純水が、欲しいんだ…一目見たときから、ずっと、欲しくて仕方がなかった。それを我慢できるほどわたしはできた人間ではなかった」
　ゆっくりとジーンズから取り出してしまうと、弓華が『きゃっ』と声を上げて目を覆った。が、よく見ると目をふさぐ指に隙間があった。
「…純水、大きい…」
　姿を現した純水のものを、わたしは軽く右手で包む。左腕は相変わらず首に絡めている。
　そっとつかみ、軽く上下させると、純水の体が『びくん』と反応するのがよくわかった。
「ダメだよ、風花姉さん、そんなことしちゃだめだってば…」
「いいんだ。純水は、こんなに大きくしてるんだから…ね？」
　尋ねるように、わたしは純水に視線を向けた。しかし、純水は当然のように瞳をそむけてしまった。
「弓華は、そのまま抱きしめているんだ」
　わたしは、妹にそう声をかけ、自分は純水のものを握ったままその体から離れる。そして、今度は純水の正面へ。

　少し強めに握りつつ、先ほどよりも少し早く上下に動かしてやる。
「ふ、風花さん…っ！」
「気持ちいい？純水？」
　声をかけつつ、その動きをさらに早めていく。
「き、気持ちいい…っ、けど、そんなにしたら…うあっ！」
　純水のセリフが言い終わらないうちに、わたしは右手に包んだ陰茎を強く握った。
　その直後、その先端から白濁が勢いよくとんだ。
「あっ…」
「きゃあっ！」
　わたしと弓華が同時に声を上げていた。が、その声の内容は違っていたはずだ。
　弓華は純粋に驚いて声を上げただろうが、わたしは…。
　純水のものが吐き出した精液は、わたしの顔に着地した。そのべとついた感触すら心地よかった。

　わたしは、間違いなく純水に恋をしている…。そう、その体をも欲するほどに…。