１２．呪縛

　太陽は、とっくに昇り明るい日差しが射し込んでいる。
「奥さん、そろそろ起きな」
　朝寝坊を、戒めるように川田。
「・・・・・」
　手足を縛られたままの響子、無言で目を開ける。
　恥ずかしさで、顔を伏せる響子。
「シャワーでも浴びて帰り仕度しな、奥さん」
　縄を解き始める森田。
「服は、ここだ」
　響子の服を、ドサッと置く川田。
「約束のものは？」
　服を抱えながら問う響子。
「心配いらん。ここに用意してある」
　紙袋を、ポン、ポンと叩く森田。

　風呂場から水音が聞こえている。
「このまま、帰して大丈夫ですかねぇ」
　不信顔でいう川田。
「ちゃんと釘刺しておけば大丈夫だ。しっかり、喜ばしてやったしな」
　自信ありげにいう森田。

　風呂場から、帰って来る響子。
　来たときと同じスーツを、何事もなかったかのように着こなしている。
「鏡をお借りしていいですか」
　すまし顔で問う。
「遠慮なく、使ってくれ」
　愛想良くいう、森田。
　響子は、小さな小瓶やスポンジを並べ、化粧を直している。

「約束どおり、娘の写真に、ネガ、生徒手帳は、ここに揃えてある。持って帰りな。約束はちゃんと守るぜ、俺たちは」
　封筒を差し出す、森田。
「・・・・・」
　ほっとした様子で、中身を調べる、響子。
「これで娘の件は解決ってわけだ。・・・しかしだ、奥さん。俺たちには、新たに、いい写真が手に入ってるってことは、解るわな」
　と切りだす、森田。
「どういうことですか」
　小声でいう、響子。
「２，３日中には、俺が奇麗に現像・焼付けして、奥さん宅に、届けてやってもいいんぜ。・・旦那あてでな。・・解るだろ」
　すごんでいう、川田。
「止めてください。そんなこと、絶対、困ります。どうしろというんですか」
　渋い顔で、慌てていう、響子。
「おとなしく待ってればいい、悪いようにはしない。いづれ連絡する、今日のところは、帰りな」
　無理やり帰らせる森田と川田。

　その後、響子は今までどおりの、平穏な生活に戻っていった。
　森田と川田も、期待を胸に、今までと変らない退屈な日々を過ごす。

〜・〜・〜・
〜・〜・〜・

　数日後
　川田の同期で、商工会会長を務めている山田。
「また、今年も"やーさん"から連絡がきたぞ」
　山田は、びびった様子で話す。
「いつもの事じゃないか。いくらだい。商店街全体で分担しようじゃないか」
　慌てた山田を、怪訝そうに見ながらいう川田。
「それが、今回は、金だけじゃないんだ川田。・・・・”女を都合しろ”といわれてるんだ。　どうしたもんだろう」
　困りはてた山田。
「そんなのは、隣町が担当だろ。うちらは、健全な商店街だ、ピンサロもヘルスもソープもないんだからな。女なんか都合つくわけないじゃないか」
　響子のことが頭をかすめる川田。
「それがなぁ、”玄人はいい、素人の女を用意しろ”って言って来てるんだ」
　思案顔で山田。
「それっ、どういうことだ。妻や娘を人身御供にだせってか。・・そりゃ、とんでもない話だ」
　驚く、川田。
「だから、困って相談してるんじゃないか」
　開き直ったように怒る、山田。
「分かった、分かった。・でっ、その話、期限はあるのかい」
　考えながら川田。
「いやっ、期限はきられてないよ。しかし、常識的に何ヶ月も返事しないわけにいかない、数週間がやっとだろう」
・・・・
「この話、俺に２，３日預からせてくれないか。考えがあるんだ」
　自信ありげにいう川田。
「それゃかまわないが、話、ややこしくしないでくれよ」
　怪訝そうに山田。
「心配いらない、かってに動いたりはしない」　・・・・・・・

〜・〜・〜・

　その翌日、森田と川田。
　事情を説明し終わった川田。
「でっ、考えってのは、響子のことだな」
　思案顔の森田。
「さすがに、物分かりがいいっすねぇ。なんとかなるでしょう」
　嬉しそうにいう川田。
「簡単にいうなっ。あの奥さんに納得させるのは、まだ難しいだろ」
　馬鹿にしたようにいう森田。
「納得なんか。どうでもいいでしょう」
　うまく話が合わないことに、苛立つ川田。
「そうは、いかん。奥さんとの今の関係を、潰す気ならいいが。・・・俺は、まだまだ、続けたいんだ。ある意味で、信頼関係を維持しておかないと続かん」
　悩む、森田。
「何か、いい方法ないすか」
　ノーテンキな川田。
「解った、山田に言ってくれ。まず、できるだけ時間を稼いでもらってくれ、最低２週間。それから、用意できる女は、目が不自由だってことで了解させるんだ」
　決断したように森田。
「なんです、その”目が不自由”ってのは？」
　不思議そうな川田。　
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つづく