10.

　私の日常は、一月前のある日を境に、激変した。
　私はある青年に犯され、屈服させられ、服従を誓わされた。
　これは、その青年と共に、墜ちていく運命を背負わされた、一人の愚かな女のある日の出来事。

　８月上旬【Ｆｒｉｄａｙ】

　−７：２０−

「じゃあ、いって来るから…」
　朝ごはんを食べている優子に、出かける挨拶をする。ラジオ体操から帰ってきて、ＴＶを見ながら朝ごはんを食べていた優子が、元気に、
「お母さん、頑張ってね〜」
　と、送ってくれる。
　頑張って、の意味が別に聞こえて少し赤くなってしまう私。
　私は、週五日、近所にあるトウヤマ水道というところで、パートしている。だが、今わたしが向かっているのは、別の場所。三つ目の四つ角を右に曲がって少しいったところにある、二階建てのアパートの一番奥の部屋。
　財布の中に別にいれた鍵を使って、そのドアをあける。この瞬間、いつも私は緊張している。
「おはようございます…」
　そう言って静かにドアを閉めて、私は彼、当山　隆さんの部屋に入る。１ＤＫのごく普通の間取り。そこの部屋の奥にあるベットで、彼は寝ていた。
　寝起きのいい彼は、私がドアを開けた時には気づいて、もう目を覚ましている。
「おはよう、静恵」
　１０歳年下の彼に、名前で呼ばれるのにももう慣れた。まだ眠そうな瞳をこすって私を招く。
　これからの行為のことを思うと、私の頬は朱に染まる。私は彼の視線を感じながら、身に付けたもの、全てを脱ぎさる。
　この部屋でのルール。二人きりの時、私はいつも裸でいなくてはいけない。
　全ての服を脱ぎ去り、私は彼が横たわるベットに乗る。シーツを下ろして、男性特有の生理現象で隆起した彼の下半身から、トランクスを脱がせていく。
　長い、彼のモノがそそり立って私を待っていた。動悸が少し激しくなる。
　朝、彼に性の奉仕をする。これが私の歪んだ日常の始まり。
　彼のは長すぎて、口の中に咥えるのは大変。だから、私は彼に教わったとおり、亀頭というところに軽くキスしてから、その部分を丹念に舐め始める。この独特の匂いや味にも、ずいぶん馴れた。
　長い竿のあたりを手で握り、上下させる。彼のが、私の拙い愛撫に反応し、脈動してきた。
　また、コレが私の中に入る…
　そう思うと、自分でもわかるくらい私は体が火照ってしまう。
「静恵、乗って」
　私の太ももを優しく擦っていた彼が、そう命じた。６９という行為をしたいみたいだ。
　私はこの行為が、未だに恥ずかしい。恥ずかしいといえば、全部恥ずかしいのだけど…
　でも、逆らうことが許されていない私は、頷いて彼に下半身を向けて跨る。私の恥部が彼の目前に晒される。
「は、はぁ…」
　愛撫する手が、舌が止まってしまった。彼の指が私の淫裂に触れたのだ。敏感すぎるクリトリスをさけて、彼のモノを受け止める膣口に指を這わせてきた。
「あ、あぁ…」
「止めない」
　愛撫を怠ってしまった私に彼の静かな叱責が届いた。その途端、電流をじかに通されたかのような衝撃が全身を走った。
「あぁぁぁぁぁ！！」
　彼がバツとして、クリトリスを剥いたのだ。そしてそこに指を押し当ててきた。それだけで、私は軽く気をやってしまう。
　普通の倍の大きさと言われている私のクリトリスは、わずかの愛撫でもかなり感じすぎてしまう。
　主人にもここは辛いので長い間触らせないでいた。
「ほら」
　短く彼が言う。私は荒い息を整えながら、私の口にはキツイサイズの彼のモノを口に含み、手を上下させる。彼のモノの硬度が、確実に上がっていく。
　先走り、という汁の感触を鈴口から感じてきた。そろそろいいかな…
　私は手を離し、彼に向直り股間に彼の屹立したモノを導く。わずかな愛撫で私の中はすでに高まっていた。
「いれますね…」
　少し前の私だったら、きっとできなかったこと。私は自ら彼のを自身に導いて、そして自分で腰を沈める。
「あぁぁ…」
　彼のが入ってきた。入り口のあたりにわずかな抵抗があったけど、その後、いっきに私の奥まで彼のものが届いた。
「あ、あぁぁぁ・・・」
　私自身が、快感の槍で貫かれたかのような質感。思わず彼の胸にもたれ掛かってしまう。
「ほら、動いて」
　彼の手が軽く私のお尻を叩いた。私は頷き、ぎこちなく身体を上下させる。愛液が擦れる淫猥な音と、堪えた私の声だけが部屋に響く。
　届く、奥まで…　私の多くない男性体験の中でも、彼の男性自身は、ダントツで長い。私の中に全部入りきらないほど。
「静恵、どう？」
「き、きもちいいです…　はぁ…　あぁ…」
　彼にもたれ掛かり、その肩に両手を置いて、上半身をちゃんと起こす。さらに深く、彼のが入った。
「オッパイ揉んでみせて」
「は、はい・・・　くぅ…　ふぅ…」
　自分でも大きすぎだと思う胸を、私は彼によく見えるように下から揉みしだく。彼によく見えるように、精一杯形を変えさせる。
「はぁ・・・　た、隆さん、ま、まだですか…？」
　私は高ぶってきている。もういこうと思えばすぐいけそうなところまで、精神が高ぶっている。彼は私に一緒にいくということを別に強要してはいない。これは、私の望み。
「いきそう？」
　淫らに動く私を、楽しそうに見つめて、彼は言った。そう、彼は私を犯すとき、セックスをする時、いつも楽しそうな顔をしている。
「は、はい・・・」
「静恵がいやらしいこと言ってくれたら、僕もいくかもね」
　また、顔が赤くなる。淫語を口にするのはいつも、火が出るほど恥ずかしい。でも、私は彼の望むことなら、なんでもきかないといけないから…
「し、静恵の、お、おま○、こに…　た、隆さんの熱い精液を、そ、そいでください…」
　切れ切れになりながら、やっとこれだけ口にする。恥ずかしくて顔を背けてしまう。
「よし、了解」
　静かな彼の言葉とは裏腹に、彼が私の腰を掴んで、自ら激しいピストン運動を開始した。
「あ、あ、あぁ、あぁぁ…」
　激しい快感が押し寄せる。先ほどまでと比べ物にならない荒々しさ、頭が白くなる。快感が身体の芯で私を上り詰めさせる。
「い、いきます…　た、たかしさんも…」
　彼の手のひらに、自分の手のひらを重ね合わせる。ピストンにあわせて、私も必死に身体を、腰を動かす。
「でるよ」
「はい、どうぞ…　だして、だしてください！」
　意識が、一瞬、本当に白に染まる。そして、身体の奥、おなかの中に熱い迸りを感じる。注ぎこまれている、彼の精液を…
「はぁ…」
　彼の胸にもたれ掛かる。
「お疲れ様」
　彼が優しく髪を撫でてくれた。心が少し温かくなる。
　わたしは、彼に返事する代わりに、軽く彼に唇を重ねた。
　そして、行為の後の虚脱感が残る体を動かし、彼のを抜く。
　なんとも言えない淫猥な音を立てて、彼の少し脱力したペニスが抜けた。
「綺麗にして」
「…はい」
　私の出した愛液と彼自身の精液で、薄白い粘液に汚れた彼の男根…　独特の鼻をつく匂いも今はキライじゃない。
　ウエットティッシュをとり、粘液をふき取ってから、仕上げで軽く舌を使って綺麗にする。最後に亀頭部分にキスをして終わり。
「時間、今日は早かったね」
「え、そうですか…」
　汗をふき取るため、バスタオルを借りる。本当はシャワーも浴びたいのだけど、これからお仕事だから、さすがに無理なので。
　言われて時間をみたら、たしかにいつもより終わる時間が少し早い。いつも八時ころまでかかっていたけど、今日は七時五十分だった。
　ブラジャーを着けて、下着を手にとろうと屈んだ時だった。
　ふいに背後から抱きすくめられた。いつの間にか彼が後ろに来ていたらしい。
　背中に、また硬く大きくなった、彼のモノが当たっている。ま、まさか、朝から、もう一回…？
「た、隆さん…　また、あぁ！！」
　たった姿勢のまま、いきなり後ろから貫かれた。まだ精液が残っている私の中は、ほとんど抵抗なく彼のを迎え入れる。
「あ、朝からに、二回もです、か…？」
「静恵のお尻みてたら、もう一回したくなっちゃったんだ」
　あっけらかんと言ってズンズンと深く強く、そして速く私を貫く。二度目だというのに、硬さが全然変わらない。
「た、たってられま、せん…」
　私は何の支えもなく、立ったまま貫かれている。快感が膝を震わせ、今にも崩れ落ちそうだ。
「倒れたら、お仕置きするから、頑張ってね」
　優しく楽しげな彼の声。彼は私に命令する時、本当にあっけらかんと楽しそうに言うのだ。でも、その言葉に嘘は無いので、私は必死に抱きつく彼の手を掴み、震える膝に入らない力をいれる。
「は、はやくお願いします…　ち、遅刻しちゃいますから…」
　時間が気になる。私はみんなより３０分早く出社して、事務所の掃除をすることになっているのだ。
「うん、そっか、遅刻になるな。じゃあ…」
　そういう彼の手が、私の秘所、それも一番危ないクリトリスに伸びた。
「もっと感じてもらわないとね、僕もいけないから」
　そして、快感に明らかに肥大している私のクリトリスを軽く摘んだ。
「はひぃ！」
　快感というより拷問に近い感覚、私の意識は一瞬で白濁し、膝は崩れ落ちる。その拍子に彼のが抜けてしまった。
　床に、手と膝をついて、四つんばいのような体勢になってしまった。
「あ、抜いちゃったね」
「す、すいません…」
　彼が楽しげに言って来た。この声は、私をいじめる時の彼の声。あぁ、何をさせられるんでしょ…？
「とりあえず、続きね。お仕置きは後で考えるから」
「は、はい…　はぁ！」
　思わず、高い声が出てしまう。四つんばいの姿勢のまま、彼が私を突きはじめた。この姿勢が一番私の膣内を快感でかき回す。
　彼のが、私の中でビクンと震えるのがわかった。二回目は、意外と早く終わりそう。でも、それは私もだ。何度目かの絶頂で、もう頭の中は真っ白。これから仕事にいくのも忘れそうなほど。
　彼が腰を思いっきり打ちつけた後、精がまた私の中に注ぎこまれる。
「ふっ、ふぅ〜」
　二回目なのに、また量が多い。彼は最後の一滴まで私の中に注ぎこもうとする。
　私は出された感覚で、もうダメだった。腕はついてられなくて、突っ伏すような形になっている。
　なんとも言えないいやらしい音がして、彼のが引き抜かれた。
　…綺麗にしないと。
　私がノタクタとむきをかえ、抜かれた彼の前に傅く。ティッシュまで届かないとわかったら、身体が無意識に淫液に濡れた彼のモノを舐め始めた。しょっぱいようなすっぱいような、不思議な味が舌を刺激する。
「自分から綺麗にしてくれるんだ、静恵」
　言われて、思わず自分のした行為のはしたなさに気づき、顔が赤くなる。いつもは彼に、綺麗にしてくれと言われてからやっていたのに。
　はじめたことを止めるわけにいかず、彼のに着いた粘液を舐め取る。それに、わたしはこの彼のを口に含んだり舐めたりという行為には、まったく抵抗感がなくなってもいた。
「お、終わりました」
「ご苦労様、立てる？」
　かしづいていた私の腕を持って、立たせてくれる彼。足元はまだ少しふら付いていた。
　よろめいて彼にもたれ掛かってしまう。抱き合うような形になった。
　主人よりずっと厚い胸板に顔を埋める。オトコの匂いがした。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。早く服着ないとね」
「はい…」
　裸同然のカッコウだと気づき、慌てて放れる。もう少し、あのままでいたかったかな…
　服を着ながら、私はこの胸の中の想いを、もう拒絶できなくなってきている。
　
　わたしはこんなにも私を玩んでいる彼、当山　隆という人を、愛し始めていた。
　それは、きっと流されるままに生きてきた私にとって、初めて芽生えた感情。