16．

−ＡＭ１０：３０−

　僕は今、西武新宿駅のそばの喫茶店にいたりする。
　待ち合わせのためだ。
「お待たせしました」
　と時間ぴったりに現われたのは。スーツを身につけた三十代後半と思われる男性。
「いえ、時間ぴったりですね」
「まぁ、仕事ですから」
　そう応えると、男性は僕の向かいに座ってウェイトレスにブレンドを注文する。
「で、首尾はどうでしたか？」
「バッチリ、ですね。まぁ、対象が調べやすい方でしたし。これ、調査報告書になります」
　と、男性はＢ４版の封筒を僕に渡す。その封筒には『ＬＡエージェンシー』の文字が印刷されている。
　そう、僕は三日前、水曜の夜に探偵事務所を訪れて、あることを調べてもらっていたのだ。
　封筒を開き、クリップで留められた数枚の報告書を取り出した。一番上には調査対象である男性、静恵の旦那の写真が留めてあった。会社から出るところを隠し撮りしたって感じの写真だ。
「では、報告を始めさせてもらいます…」
　と探偵さんが僕が報告書に目を通しはじめたのに合わせて、話始めた。
　僕が知っておきたかったことを。

　報告は３０分ほどで終わった。
　やっぱり、というか何て言うか…　事実は僕の想像より少し酷かったりした。
　静恵の旦那さん、佐野　悟は年齢４０歳。先年、けっこう大きい事務用品の会社に大卒で就職して、そこで静恵に出会い結婚した。でも、この結婚からして、どうも普通じゃなかったらしい。
　佐野には、同期で入社したライバルな人がいて、その人と上役の娘さんを取り合って負けてしまい、その後に、静恵に手を出した、そんなところらしい。
　でも、優子ちゃんが出来てからは、ギスギスしたという性格も丸くなり、仕事の方も順調にこなしていたらしいのだけど、ある時空いた課長のポストを巡って、その同期の人とまた争いになり、その競争に負けてから、焦り始めたとのこと。
　で、二年くらい前に一発逆転を狙ってか、会社に無断で独断である商談を進めて、その商談の失敗で会社に損失をけっこうあたえた責任を取らされて、リストラされたとのことだった。
　それから、何ヶ月かは、家で半引きこもりだったらしく、その後、心配した前の上司の紹介で今の会社に入社したとのこと。
　旦那の性格は、仕事は出来るけど、協調性に少しかけるところがあり、プライドが高い。今でも、自分が前の会社をリストラされた原因は、結局は上司の娘さんと結婚できなかったとぼやいているとか。
　まぁ、自分の失敗を他人のせいにしたがるタイプだと探偵さんは言っていた。
　で、ここからが本題。旦那の借金問題。これは思ったより酷かった。
　家を担保に銀行と消費者金融から合計６００万くらい、借りているとのこと。しかもここ一年くらいで。
　どうも競馬にはまり込んでいる他にも、見栄をはって今の会社でも羽振りよく振舞っているせいらしい。
　なんだか、報告を聞いていると、感じるのは何故だか遣る瀬無さ。
　どうして、この人と静恵は結婚なんかしているのだろうか？　この人の求めている幸せの形は、きっと僕と違うのだろうなと思うと、何だかため息すら出てしまう。
　探偵さんは、さすがプロと言った感じで、わずかな時間で佐野という人のことを見事に調べ上げている。
　でも、聞けば聞くほど、佐野　悟という人が愚かで哀れな人に思えてしまう。
　最後に聞きたかったけど聞きたくなかったことが、探偵さんの口から出てきた。
「浮気、というほどじゃないですけど、入れ込んでいる女性がいるみたいですね」
　とその女性とのツーショット写真、それもホテルに入るところの写真を出してきた探偵さん。聞けばその女性は、高円寺にあるキャバクラに在籍する源氏名『サエ』さん（２０）との事。昨日撮って来たそうな。そう言えば、昨日は旦那さんお泊りだったっけか。
　別途に請求書をテーブルに差し出され、それと一緒にサエさんと佐野氏の報告が始まる。１３０００円って高いのかな、安いのかな？
　佐野氏は、どうも御伊達に弱いタイプらしく、このサエって子に手玉に取られているようとは、探偵さんの言だ。
　何だか、怒るより呆れてしまうし、ますます遣る瀬無くなる。
　この人のもとから、静恵と優子ちゃんが居なくなったら、佐野さんにはどうなるんだろうか？
　…でも、やっぱり佐野さんには静恵と優子ちゃんを預けておくわけにはいかないな。
　最後に、探偵さんに追加の請求分の調査料を払って、探偵さんは「また何かありましたら」と言って、サービスですとここの勘定を持ってくれるらしく、レシートもって席を立った。
　僕は一礼すると、冷めてしまった珈琲に口をつけて、その苦さに何だか、またため息をついた。
　僕の気分を暗くしているのは、きっと静恵のこと。
　旦那と別れるのが正しい、と僕は思う。僕の欲を抜きにしてだ。
　でも、きっと彼女は躊躇うと思う。気弱な上に優しい人だから。
　僕は、いや僕と優子ちゃんはあの人の理性の枷を外しきることができるのかな…
　そんなことを考えていると、マナーモードにしていた携帯が数度震えた。メールの着信だ。
　取り出して見ると、何となく予想していた通り、優子ちゃんからのメールだった。
　開いてみると、
『お母さんが凄いことになってます！』
　と言う文が飛び込んできた。
『なにが凄いの？』
　とすぐに返信すると、これまたすぐにレスがくる。
『エロエロ光線全開です！　Ｈな感じバリバリで、そばにいろボクもやられてます！』
　とビックリマーク連発なメールが。
　どうやら、欲求不満の静恵は、凄いことになってるみたい。

−場面変わって−

　身体から、熱が抜けきらない…
　さっきからずっとそんな感じ。
　隆さんとの行為は、中途半端に終わってしまい、どうしよもない身体の疼きを久しぶりの自慰で紛らわそうとしたけど…
　絶頂を迎えても、残るのは物足りなさ…
　隆さんの精を子宮の奥に受け入れたいという更なる欲望の疼き…
　明日まで、私はこんな感じで凄さないといけないのでしょうか？
　熱が、冷めません…
「お母さん、コレどうかな？」
「…え？」
「もう、お母さん〜。ボーっとしすぎ」
　気がつくと、娘が両手に水着をもって、頬を膨らませていた。どっちの水着が似合うか、見立てて欲しいのだろう。
「えっと…　ちょっと派手すぎない？」
　出された水着を見ると、赤白のストライプのビキニと、少女向けなのに、デルタラインの食い込みが際どい、水色のハイレグな水着を優子は持っている。
「えぇ〜。これくらいはフツーだよ〜。そ、れ、に・・・」
　と、優子は更に布地の少ない白いビキニを取り出して、ヒラヒラと自分に重ねるようにして見せる。あどけない笑顔に、どことなく怪しい笑顔だ。なんとなく、隆さんの笑顔に重なる。
「当山さんがせっかくお金出してくれたんだもん。後でサービスしないと、ね♪」
　当山さんの名前を出され、思わずドキッとしてしまう。
「だ、だめよ、優子。あんまり、た…　当山さんに甘えちゃ」
　なんとか、母親らしい言葉で、その場を取り繕う。それに、いくら隆さんが優子に甘くても、やっぱりこれは行きすぎな気もする。
「なに、お母さん。ボクに焼きもち？」
　優子がいきなりそんなことを言うので、私はまた顔を赤くする。焼きもちって…　なんで優子に…
　それに…　隆さんのことを出されると、また頭に今朝、中断された行為のことが思い出されてしまい…
　アソコがいやらしく反応しているのがわかってしまう…
「お、か、あ、さ、ん！　また、ボッーとしてる！」
　目の前で水着をヒラヒラさせて、優子が少し怒ったように言う。
「あ、ごめんなさい…」
　わずかでも間が空いてしまうと、私の心に淫らな靄がかかってしまう。今朝の隆さんとの行為の続きを夢想してしまうのだ。
「じゃあ、ボク、これにするね。次は、お母さんの水着かなぁ〜」
　？　いきなり、優子がとんでもないことを言って来た。
「ボクとおそろいのビキニにする？　でも、お母さんのオッパイじゃ、サイズないかな〜」
「あ、あのね、優子・・・」
「お母さんの、おっきすぎるモンねぇ〜」
　優子の手が私の胸に伸びる。そして軽く揉まれただけで、
「あぁ…」
　思わず軽い嬌声を上げてしまう私。慌てて優子の腕を払う。
「もう、ダメよ！」
「あぁ〜。お母さん、今、Ｈな感じになったでしょ〜？」
「こ、こら！　こんなトコで…」
「隠さない隠さない。じゃあ、お母さん、お会計よろしく。ボク、ちょっとトイレ行ってくるから」
　優子は聞く耳持たず、私に赤白のビキニを押し付けると、そのまま走っていってしまった。
　続く言葉もだせず、私はため息をついて、優子の水着をレジに持っていった。
　そして、しばらく。
　トイレの前で優子を待つ。でも、その間も私の視線は焦点があわず、思い出されるのは、やはり隆さんのことだけ。
　何で今日に限って、彼は私を焦らすようなコトをしたのだろう？
　いつもなら、あの長い彼のペニスを、躊躇いもなく私のアソコに捻じ込んで…
　そして私の腰が立たなくなるまでするどく突いて…　私に散々声をあげさせて…
　最後に私の中に溢れるくらいの熱い精液を…
「・・・あぁ」
　秘部をまさぐりたい衝動が私を襲う。
　今、ここに隆さんがいたら、私は彼にされるがままに、この身体をさらけだしてしまうだろう…
「お母さぁ〜ん！」
「ひゃん！」
　いきなり、胸を後ろからギュと掴まれた。驚きと、電気ショックを受けたかのような粟気立つような感覚に、声をあげてしまう私。
「またボッーっとして、どうしたの、今日は〜」
　そしてそのまま優子は、少し強い力で、私の胸を揉み上げる。
「あぁ…　こ、こら、優子…　だ、ダメだってば…」
　こねくり上げる、そんな感じのもみ方。端から見たら親子のじゃれ合いにみえるかもしれないけど…
「お母さん、今日はなんかずっとエロエロだもんねぇ〜。ど、う、し、た、の？」
　そして優子の愛撫にも似た、胸のさわり方に、私は力が抜けていく…　こ、ここは家ではない、外。しかも何千人もの人がいるような場所なのに…
「あ、はぁ…」
　あられもない声をあげてしまっている私がいた… 快感にあっさり流されてしまう…
「お母さん一名、個室にごあんな〜い」
　優子がおどけた声をあげて、私をどこかへ引っ張っていく。
　そこは…

「ゆ、優子…　あぁ…」
「すっごいグチョグチョだぁ…　大変なことになってるよ、お母さんってば…」
　優子が私を連れて行ったのは、障害者の人などが使う大きめなトイレだった。普段なら何とか抗うそぶりをみせる私だけど、今日はなんの抵抗もできずそのまま優子に連れ込まれてしまった。
　そして、今、スカートをまくりあげ、下着も脱がされ、便座に片足をのっけて淫らな秘部を娘にさらしている私。
　娘の指は、まるで別の生き物みたく、私の襞を、熱い中を、まさぐっていく。
「お母さん、気づいてた？」
　とても楽しげに優子が言う。
「は、はぁ…　な、なに？」
「今日のお母さん、いろんな男の人にジロジロ見られてたんだよ。なんだか、Ｈなことしてくださいみたいな感じのオーラ、全開だったから〜」
「え・・・」
　優子に言われ、私はまた顔を赤くする。
「そ、そんなに見られてたの…？」
　そ、それも、男の人に？
「うん。ジロジロ〜って感じで。きっと、みんな・・・」
「ひゃあ！」
　クリトリスを指で摘むように擦られ、身体に電気が走ったような快感が駆け巡る。
「お母さんのここに、オチンチン挿れたかったんじゃないかなぁ〜」
　そして娘は、私の秘裂の中に指を二本、ゆっくりと挿しいれてきた。
「あ、あたしの、中に…？」
「そうだよ〜。お母さん、きっと何人もの男の人に、Ｈな想像させられてたんだろうね〜」
　グチュ、グニュ…　愛液をしたたらせた秘裂を、優子の指が出たりはいったり・・・
　淫らな音がこの個室に響いている。
「お母さんはどうなのかな？」
　優子は私を言葉で責めるかのように、淫らな想像をさせるようなことばかり言う。
「お母さんも、ここに指なんかじゃなくて・・・」
「はぁ！　あぁ、あぁん！」
　優子の指が深く、そして激しく私の中を出入りする。その激しい愛撫に私の脳は蕩けそうになっていた。
　声を抑えるだけで必死な私に優子は言う。
「男の人のオチンチン、欲しいんじゃないの〜？」
　！？
　一瞬、快感に蕩けた意識が覚醒する。図星をつかれたからだ。
　今朝から私の頭には、何度も何度も繰り返されている思いがある。あの、中断された行為の続きを望んでいる思い。
　それを優子が見透かしたように笑っている。まるで、私を誘う可愛い小悪魔のように…
「な、なに言ってるのよ、優子…」
「欲しいんでしょ、お母さん〜♪　正直に…」
　娘の顔が、唇が私の陰部に近づく。そして、尖らせた可愛い舌が…
「あ、あひゃ！　あぁぁぁ！　だ、ダメって言った、あぁぁ！　そ、そこ、ダメ！！　つ、強い、強いの！」
　私の弱点とも言える、クリトリスを舐めはじめた。どこで覚えたのと言いたいくらい、絶妙な力加減で優子の舌が私のクリトリスに刺激を与えてくる。
「言わないともっとやっちゃよ〜」
　その楽しそうな声、私を嬲るその仕草。優子と隆さんが重なっていく…
「で、でも…　はぁん！」
「欲しいんでしょう、お・か・あ・さ・ん♪」
　優子の指は二本、私の中を出入りしていく。そして舌は電流のような刺激を私に与え続ける。わずかに残った理性が、娘の愛撫と言葉によって失われていく…
「ほら、お母さん」
「ほ、欲しい…　欲しいわ、お、男の人の…」
「男の人の、なぁ〜に？」
　あ、あぁ…　ホントにこの子の責め方は、あの人を思い出させる。私の全てを奪ってしまったあの人を…
「お、男の人の…」
「男の人の？」
「お、オチン…　あぁ、言わせないで…」
　羞恥に揺さぶられる心。でも、それさえも快感になってしまっている今の私…
「ちゃんと言わなきゃダメでしょ、お母さん♪」
　娘の誘いに、わたしの口は開いていく。…今、私はどんな顔をしているのだろうか？
「オ、オチンチン…　男の人のオチンチン、欲しいの…」
「ふぅ〜ん、欲しいんだ♪　じゃあ、お母さん…」
　娘の指はいやらしく、私の中を動く。出て、入って…　中をまさぐり、擦るように…
「誰のが、欲しいのかなぁ〜？　まさか誰のでもいいってコト、ないよねぇ〜」
　ビクン！　私の中でずっとあった恐れが弾けた。
　この訊き方、優子はやっぱり…
　私と隆さんのことを知っているのでは…
　私が答えられないでいると、娘は立ち上がり私の背後に回った。左手は、私の秘裂をまさぐり、右手は私の胸を揉み始めた。
　幼いながら、その巧みな指使い、いったいどこでこんなことを覚えたのだろう…
「オッパイ、たぷたぷだねぇ」
　娘の声が背後で、耳元で囁かれる。その声すらも、私を責める愛撫に思えてしまう。
「じゃあ、さっきの続きね。お母さん…　ここに…」
　指でアソコを広げていく。
「だれの、オチンチン、ほしいのかなぁ〜」
　そして指で弾くように、クリトリスを触る。軽く弾かれるたびに、
「はぁ！　あぁん！　だ、だめ！」
「言ってくれるまで、止めないよ。もしかして言えないってことは…」
　優子は私に、ある人の名前を言わせようとしている。夫以外の名前を…　あの人の名前を…
「誰のでもいいなんて、言わないよねぇ〜」
　優子が胸を、アソコを、そして心を責めていく。
　私はもう、母であることも忘れて、快感に酔っていった。
「そろそろお母さん、言ってもいいんじゃないの〜♪　だ、れ、の、オチンチンほしいのかな〜？　あぁ、あの男なんて言ったら許さないからねぇ」
「はぁ…　だ、だって…　そんなこと…　あぁ！」
「お母さんの口から、聞きたいなぁ〜。誰のオチンチン、入れてほしいのか。でないと…」
「…でないと？」
「そこらへんから、ヘンな男捕まえてきて、お母さん犯してもらおうかなぁ〜」
「！？」
　娘の口から恐ろしい言葉が…
　し、知らない人に犯されてしまう…　それも娘が連れてきた男に…　きっと娘の前で…
「あれ、お母さんのＨな穴から、すっごい溢れてる…　もしかして、今、ボクが言ったことで、そんなに興奮しちゃったの？」
「あぁ…　ダメよ、そんなことしては…」
　快感に溶かされた心は、もう一匹の牝に私を貶めていた。娘にはそう言っても、私の頭は見知らぬ男に犯されている自分を想像して、そして感じてしまって…
　・・・そして、それを隆さんに知られた時のことを思うだけで。
「あぁ…　ごめんなさい…」
　麻痺した頭は、この場に居ない、私が全てを捧げてしまった人への謝罪の言葉を口にしていた。
「あれ、お母さん、誰に謝っているのかな？」
　娘の楽しげな声が耳に…　愛撫は殆どされていない。アソコを指で広げられているだけ。
　でも、快感に酔った私には言葉すら愛撫となって、苛まれていく。
「あ、あの人、です…」
「あの人ってぇ？」
　答えてはいけない…　母親として、それをしてしまっては、もう…
　そう囁く、わずかに残った理性も、押し寄せる快感の波には抵抗にはならず…
　頭の中はもう、朝、じらされたことや、今まで隆さんにされた淫らな行為の数々、そして娘との禁断の行為が駆け巡っていて…
「た、隆さんの…」
「隆さんの？」
　もう、ダメ、だった…　母としての私は、女としての私の私に負けて、ついて告白してしまった…
「隆さんの、が欲しい、の…」
「隆さんの、なにかなぁ〜？」
　母の不倫を告白されても、娘は驚いた風もなく、続ける。ふと、化粧台の鏡に、私の、そして優子の痴態が写っているのに気づいた。
　私の背後にいる優子が笑っていた。可愛く、楽しげに、小悪魔のように…
「隆さんの、オ、オチン、チンを…　入れてほしいです…」
「どこにかな？　いつも言ってるみたいに、言ってあげなよ、お母さん？」
　耳にかかる吐息が熱い…　私の言葉に娘も興奮しているだろうか…？
　促され、私は続けて淫語を口にする。いつも、隆さんに言わされているように…
「隆さんの、長いオチンチンで…　私のいやらしいアソ…　オマ○コを、思いっきり突いて欲しい、です…」
　言った後、目尻から涙が零れたのが他人事のように感じられた…　もう、今までのように仲のいい親子の関係には、きっと戻れないだろう…　それが、今更悲しく感じられた…
「よく言えました、お母さん♪」
　そう、娘がいった時だった。

　コンコン、コンコン、コンコン…

　トイレのドアがノックされた。冷や水を浴び去られたように現実に引き戻される。
「あ、ゆ、優子…？」
　驚いて固まってしまっている私から離れて、優子が私から離れて歩いていく。
　そして、なんの躊躇いもなく、ドアを開けてしまった。驚いて言葉も出ない私。あわてて服を着なおそうとする私の目に飛び込んできたのは…

「早かったですね、当山さん♪」
「優子ちゃんに、あんなに凄いの聞かされちゃ、飛んでくるよ」

　いるはずの無い人…　隆さんが立っていた。優子と普通に会話している…
　そして何が起きているかわからず、混乱している私をみて、隆さんは笑顔で言う。そう、私を責める時に見せるあの笑顔で…

「お待たせ、静恵」