召しませ、美姉（１）


　大木隆太はテレビを消すと、リビングのソファにリモコンを投げ捨てた。土曜日の夕方は面白い番組がひとつもなかった。
　せっかくの週末なのにやることが何もない。冷蔵庫にはろくな食べものが入っていないし、テレビゲームも飽きた。学校の宿題は山積みだったが、休日前にわざわざ勉強する気になどなれなかった。
　二階の部屋へと戻ってラジカセにＭＤを挿しこむが、一曲と聴き終えないうちに飽きてしまう。すぐに彼は電源を切って、ベッドの下に手を潜らせた。
　漫画雑誌の奥からプラモデルの空き箱を取りだす。なかには友人に借りたアダルトＤＶＤが隠してある。
　これを見て若い性欲を発散させれば、少しは気持ちもまぎれるだろうか。いや、それなら先週ごみ捨て場で拾ったグラビア雑誌がいい。表紙の娘が巨乳の同級生に似ていて、つい持ち帰ってしまったのだ。それとも、友人に新しいゲームでも借りてこようか。
　そんなふうに悩むこと自体が面倒になり、彼はベッドに身体を投げだした。
　枕元の漫画本を欠伸混じりに開く。すでに何度となく読みかえした内容だったが、気がつくと、時間を忘れて熟読していた。
　三冊目を読み終えたころには、時計の針は六時を過ぎていた。
　隆太はベッドから起きあがると、机の棚からＣＤケースを取りだして部屋を出た。
　間接照明の灯が落ちるフローリングの廊下を歩み、ノックをしてから扉を開ける。
　絵梨はベッドに寝そべりながらファッション雑誌を読んでいた。
「なんの用？」
　ページを捲りながらふたつ年上の姉は言った。隆太の顔を見ようともしない。
「これ、この前借りたＣＤ」
「机の上に置いといて」
　隆太は部屋に入った。壁のハンガーにブレザーの制服がかかっている。
　以前はぬいぐるみと漫画本しかない部屋だったが、高校生になってから洋服がやたらと目立つようになった。ドレッサーの上の化粧品も増えた。去年まで壁に貼られていたアニメのポスターも、今は男性アイドルのものにかわっている。
　しかし、もっと大きな変化もあった。それは室内に充溢した妙な甘さだ。
　化粧やコロンの匂いではない。廊下で風呂あがりの姉とすれ違ったときなど、その芳香が特に強く漂ってくるのだ。それは以前の姉にはないものだった。隆太の知らない女の香りだった。
「そろそろ晩メシ買いにいってくるけど」
　机の上には参考書と漫画雑誌が置かれている。開きっぱなしのノートは白紙のままだ。そのノートの上に彼は女性ポップスシンガーのＣＤを置いた。
「姉ちゃんのも買ってくるよ、何がいい？」
　両親は親戚の結婚式に出かけている。明日の夜まで帰ってこない。
「どこまで買いにいくの？」
「コンビニか駅前の弁当屋かな」
「あたし、この前のサンドイッチがいい」
　そう言って姉は、はじめて隆太を見あげた。小顔だから、黒目がちの丸い瞳がやけに大きく見える。
「先週お父さんが買ってきたやつ、あれがいい」
「あのサンドイッチって、確か隣町のデパートで買ってきたやつだろ？」
「わかんないけど、食べたい」
「面倒臭いよ」
　駅前まで出るなら十分程度ですむが、隣町となると往復で三十分以上はかかる。
「サンドイッチならコンビニでいいじゃないか」
「だめよ、味がぜんぜん違うもの」
　真顔でわがままを言う。
「あそこのタマゴサンド、すっごくおいしいの。あれじゃなきゃいや」
「ガキみたいなこと言うなよ」
「いいじゃん、どうせ食事代はもらってるんでしょう？」
　隆太はため息をついた。姉の自由奔放は、何も昨日今日はじまったことではない。性悪で勝手気まま、家にいるときはいつも不機嫌そうな顔をしている。
　母親が隆太に食事代を預けたのも、姉の粗雑な内面をよく理解しているからだ。けれどもそんな彼女の評価は、家の外では見事に逆転する。
『おまえの姉ちゃん、すっげえ綺麗だよな。今度紹介してくれよ』
　そんなことを言っていた男友達は、ひとりやふたりでは足りないほどだ。
　外見だけならそうかもしれない、確かに美人だと隆太も思う。小動物を彷彿とさせる大きな目、それでいて、妙に大人っぽく見える細面の顔立ち。姉以上に美形の娘など彼の中学校にはいなかった。
　しかし、どれほど魅惑的であろうと、姉は姉であって、それ以上の存在ではない。
　血の繋がりがある以上、彼にとっての絵梨とは女ではなかった。女の姿形をしただけの風景である。少なくともこれまではそう思っていた。
「電車代ならだすからさ。お願い、買ってきてよ」
　ベッドの端に腰かける姉を見て、つい隆太は視線を横にそらしてしまう。
「プラスお小遣いもサービスしちゃう、先週バイト代が入ったばかりだしね」
「だからさ、お金は関係ないんだって」
　そう言う口調もどこか歯切れが悪い。
　体温が急速に高まってくるのが、自分でもわかる。その理由は隆太自身がよく知っていた。姉の服装である。うつ伏せで寝ているときから気にはなっていたのだが、まさかここまでとは予想していなかった。
　姉は花柄のキャミソールを着ていた。
　いや、はたしてこれをキャミソールと呼べるのか。薄い花柄の布地は異様なほどに丈が短く、肋骨のうっすらと浮いた胴まわりまでが露呈している。下半身も太腿が剥きだしのホットパンツだから、まるで室内で水着になっているような姿だった。
　なんだよこれ、ほとんど裸じゃないか……。
　見ようによってはそうとも取れる恰好である。家ではラフな服装が多い姉だが、ここまできわどい姿は見たことがない。両親が見たら卒倒することだろう。
「何、どうしたの？」
　じっとしていても胸の谷間が見えてしまうような洋服だから、少し身を乗りだすだけで乳房の半分近くが露呈してしまう。
「ねえ、隆太ってば」
「なんでもないよ」
「でも、顔だって真っ赤だし」
「だからさ、それは」
　そこで絵梨は突然に薄く笑った。姉の唇は小さい。だが肉厚でぽってりとしている。目は心の窓というが、姉の場合、思ったことがまず唇の形にあらわれる。
　隆太は慌てて視線をそらすが、もう遅かった。
「ふうん、そうかァ……なるほどね」
　弟の弱みを見つけたとき、顎に人さし指を添えるのが姉の癖だった。
「なるほどって、なんだよ」
「隆太もそういう年頃になったのかァ」
　勝ち誇った顔で弟を覗きこんでくる。そういう姿勢をすれば、自然と胸元の露出も大きくなる。姉が身に着けているのはＢカップのブラジャーだ。以前、洗濯籠に入っていたのを好奇心から手に取ったことがあったのだ。そのブラまでもうばっちりと丸見えだった。
「仕方ないわよね、隆太だってもう中学三年生だもんね」
「何を言ってるのかわかんないよ」
「女の子の身体に興味があるんでしょう？」
　姉の口にしたその言葉は、思春期の少年にとって稲妻だった。
「隆太って意外とエッチなのね」
「そんなんじゃないって、違う……違うよ」
「嘘。あたし知ってるんだから」
「何をだよ」
「隆太、よくあたしのことジロジロ見てるじゃない」
　事実だから反論できない。最近、ふとした姉の仕草に妙な色気を感じるのだ。
　いや、仕草だけではない。以前は細いだけだった身体つきにも、このところ女っぽい丸みが目立ちはじめている。生尻の曲線など特に絶品だった。脱衣所で偶然に目にしたことがあるのだが、ウエストが細いからことさら量感がきわだって見えるのだ。アダルトＤＶＤを見ながら自慰をしているときも、その尻が自然と頭に浮かんでくることがあった。
「そんなに興味があるなら見せてあげようか」
　姉の言葉の意味がすぐにはわからなかった。
「そのかわりサンドイッチ買ってきてよね」
「見せるって、何をだよ」
「隆太の見たがってるもの」
　だから何をだよ、と言いかけて隆太は息を呑んだ。口を開けたまま絶句した。姉がキャミソールの紐を肩から抜いたのだ。
「見たいんでしょう？　女の子の裸とか、オッパイとか」
　さらに絵梨はもう片方の肩紐も抜いた。胸元の布地がずり落ち、水色のブラジャーが半分ほど顔を覗かせる。
「それともパンティのほうがいい？」
「ばかッ、やめろよ」
　フロントにかかるＶ字の部分だけが白いブラジャーの上に彼女は両腕をまわした。隠すのではなく見せつけるための仕草である。
「わけわかんないことするなよ」
「だって、食べたいんだもん。サンドイッチ」
「だからって、何もそんな……やめろよ」
「ふうん。本当にやめちゃっていいんだ、お姉ちゃんのヌード見たくないんだ？」
　その声に恥じらいの色はなかった。普段の姉そのものの口調であり、顔である。そんな顔をしたまま弟の短パンを見据えて、絵梨は目を細めた。
「ここは大きくなってるくせに」
　隆太は唇を噛みしめた。真実を口にだして言われるのはつらかった。勃起しているから、あからさまに隠したり背中を向けることもできなかった。
「お姉ちゃんを見て勃起するなんて、隆太ってば変態」
　失笑混じりの声でからかわれたところで、顔をそむけることしかできない。
「姉ちゃんだって変態じゃないかよ、弟の前でそんなことするなんてさ」
「だって、隆太からかうの面白いんだもん」
「だったら」
　姉に手玉に取られるのが悔しくて、つい口を尖らせた。
「だったら、何よ」
　少しの沈黙のあと、彼は口を開いた。
「そんなんじゃなくて、もっとほかのも見せろよ」
「え」
「オッパイ見せろって言ってんだよ」
　心にもないことを口走った。そして、すぐに後悔の念がのしかかってきた。絵梨の顔に演技のない驚きが張りついていたからだ。
　しかし、それは一瞬のことだった。
「いいわよ、見せてあげる」
　余裕たっぷりの表情でそんなことを言う姉に、今度は隆太が驚いた。
「そのかわりサンドイッチ買ってきてよね、約束だからねッ」
　彼が引き止める間もなく、姉の手がキャミソールの内側に潜りこんだ。
　花柄の着衣が細い腕を抜ける。背中までの黒髪が揺れる。その光景が、ビデオのコマ送り映像のように隆太には思えた。
　脱ぎ去ったキャミソールをベッドの端に置いて、絵梨は弟を強く見据えた。臆している様子はない。隆太のよく知っている傲慢な姉の顔である。あるいは、年長者としての威厳を必死に保とうとしている顔にも見える。
「それじゃあ脱ぐね」
　わざわざそんなことを告げるのは、彼女のなかに躊躇があるからだ。
「少し捲るだけでいいでしょ？」
「う、うん」
　躊躇しているのは隆太も同じだった。本当にいいのかという迷いがあった。と同時に、こうなった以上は引きかえせない、引きかえしたくないという責務のような思いもあった。
　細い指が、ブラジャーのカップを下から捲りあげた。
　隆太は息を詰めて眺めた。熱視しながら、あッ、と短い声を発した。
　お、オッパイだァ……。
　自然と身体が動いて、上半身ごと首を突き伸ばした。
「だめ……そんなに見ないで」
　ひるんだ声で形ばかりの拒絶をする。隆太が耳にしたことのない姉の声である。
　かまわず隆太は顔を寄せた。フローリングの床に片膝を落とし、さらに首を伸ばした。絵梨が少しだけ身体を横に逃がすと、彼もベッドに片手をついて斜めから覗きこんだ。
「見るだけよ。ね、本当に見るだけだからね」
「わかってるって」
　姉の顔ではなく乳房に向かってつぶやいた。
　細身の体形にこの上なくぴったりな、程よく実った女の房である。グラビア女優のような量感はない。けれども美しい。美しくて、ひどく猥褻だった。女の価値は乳房の大きさで決まる、そんな男子中学生の常識を覆す美乳を姉は持っていた。
　以前、親戚の大学生がこんなことを言っていた。
『絵梨ちゃんは正統派の美少女だね』
　中学生の隆太には彼の真意が皆目わからなかったが、今ならその意味が理解できる気がする。正統派の美少女。それはつまり、品のある容姿とプロポーションをさしているのだろう。胸ばかり大きな娘ではだめなのだ。姉のような顔と肉体を持つ娘こそが正統派であり、至高の極美なのだ。
「ねえ、もういいでしょう？」
　姉は小さく身じろぎをした。薄桃色を溶かしたような乳首も揺れる。
「ねえってばァ……」
　それでも隆太が何も言わないから、絵梨も黙りこむしかなかった。
　男に鑑賞されるだけの淫花と化した乳房を、隆太は時を忘れて眺めた。どれだけ見ても魅力の減じない肉丘だった。
　できることなら触れてみたい、手を伸ばして、形と柔さを確かめてみたい。けれどもそれをしたら姉は怒るだろうし、口にだす勇気も隆太にはなかった。なのに時折、自分でも無意識に身体が動きかけてしまい、彼は何度も手を引っこめた。
　見ている隆太も緊張していた。見られている姉も緊張していた。重苦しい空気のなか、室内に満ちた甘さだけが密度を増していく。いや、変化はほかにもあった。姉の乳首が心なしか尖り気味になり、白い乳房ごとかすかに上下しはじめている。
　隆太は姉の顔を見あげた。そして息を呑んだ。
「な、何よ」
　絵梨は慌てて顔を横にそらした。
　その表情は、確かに彼の知っている姉のものである。しかし、隆太は見逃さなかった。ほんの一瞬ではあるが、姉の表情にはアダルトＤＶＤの女と同じ恍惚があった。
　姉ちゃん、もしかして感じてるのか……。
　ＡＶに登場する女たちは男の視線だけで喜悦していた。だとしたら、姉もそうなのだろうか。口や態度ではいやがりながら、その実、本心ではやらしいことをしたがっているのではないか。何かを期待しているのではないか。
　そんな少年の疑念はそのまま明確な言葉となった。
「姉ちゃん、ブラジャー取ってみてよ」
　漫画とメールが趣味の女子高生は目を丸くした。
「ずっとそのままじゃ手が疲れちゃうだろ」
「それはそうだけど……まだ見るつもりなの？」
　拗ねた口調で姉は言った。見るだけじゃなくほかのこともしてほしい、という意味にも聞こえる声音である。
「もう少しだけ頼むよ」
「でも、本当に恥ずかしいのよ」
「そんなに恥ずかしいの？　見てるだけなのに？」
「当たり前じゃない」
「そうかァ、そうだよな」
　隆太は顎に指を添えた。
「……だったら俺も脱ぐよ」
　あたかも名案とばかりに手のひらを叩いて彼は告げた。
「姉ちゃんだけ恥ずかしい思いをさせるなんて不公平だからね」
「ちょっと待ってよ、ぬ、脱ぐって」
　弟の顔と股間を交互に見つめる。
「本気で言ってるの？」
「そりゃあ俺だって恥ずかしいけどさ」
「だったら、何もそんな」
　ためらう姉にかまわず立ちあがり、背をそらせて短パンの前を突きつけるようにした。
「自分でやるの恥ずかしいからさ、姉ちゃんが脱がしてよ」
「ええッ」
「頼むよォ」
　姉の喉が小さく動いた。その美顔に、さらに股間を寄せる。
「でも、やっぱりそんなこと……」
　そんなふうに困惑しながらもブラジャーから手を離した。ストラップのない下着は捲れかえったままだ。
　下半身は水着同然のデニムパンツ、上半身は乳房丸だしというあられもない姿のまま、姉はうろたえた視線を隆太に向けた。本当にするの？　と目だけで訴えながら、弟の腰に恐るおそると指を伸ばしてくる。
　確かに隆太は脱がせてくれと頼んだが、決して短パンを脱がせろとは言っていない。しかし絵梨は、なんの疑問もなくスポーツメーカーのロゴが入った着衣を引きおろした。
「あン、やだッ」
　ブリーフの上からでも目立つ膨らみを注視したまま、絵梨は短い声をもらした。悲鳴ではない。悲鳴に見せかけた歓喜の声だった。
　さらに姉は、命じてもいないのにブリーフにも指をかけた。
「え……ね、姉ちゃん」
　隆太が身を引こうとしたときには、もうバネ仕掛けの勃起が飛びだしていた。
「す、すご……い」
　腿までおろしたブリーフに指をかけたまま、絵梨は、弟の男茎に魅入った。
「やだッ、何これ。なんでこんなに大きいの」
「そ、そんなこと言われたって……」
　自分でもなんとなく自覚はあった。セックス好きと評判の女子の先輩から「オチン×ン見せて」とからかわれたこともあるくらいなのだ。
「やっぱりそうなのかな、そんなにでかいのかな？」
「でかいわよ、でかすぎよォ」
　姉が失笑混じりの顔で驚くたびに、熱い息が亀頭をくすぐった。
「さ、触っても……いい？」
　男性タレントに握手を求めるような口ぶりで姉は言った。そして、隆太の答えを待たずに手を伸ばしてきた。
　白い指先が亀頭のくびれに当たり、紅を引くように太幹をなぞる。
「うわ……ッ」
　腰に落雷が落ちた。そっと触れられただけなのに、痛いくらいの快感があった。自分でしごくより数百倍は気持ちよかった。
「ご、ごめん。もしかして痛かった？」
　隆太が派手に身じろぎをしたので、絵梨までたじろいでしまう。
「大丈夫だよ、ちょっと驚いただけだから」
「もう少し触ってもいい？」
「う、うん」
　軽く触れられただけでこんなになるのだ、触る以上のことをされたら、いったいどうなるのか。そんなことを考えた矢先、隆太が思ったことをそのまま姉は実行した。五本の指がペニスを甘く包み、ゆるゆると前後に動きはじめる。
「すごい、ビクンビクンしてるゥ」
　姉の恍惚がそのまま指づかいにあらわれている。いやらしいことをされているのは隆太だというのに、絵梨の顔までいやらしさに染まっている。好奇心に輝く女子高生の顔ではない。そのことは、隆太にもすぐにわかった。
　勃起に触れただけで感悦してしまうほどの経験が姉にはあるのだ、セックスの経験があるのだ。その事実に嫉妬する暇もないほどの手淫の快美に、隆太は腰を震わせた。
「ウフフ、隆太。イキそうなの？」
　そう言う絵梨の目に妖しい光が浮かんでいる。弟をからかう爽快感に淫らな気分が加味して、乳房を見られる羞恥すら忘れているようだった。
「我慢しないでいいからね、お姉ちゃんがしっかり見ててあげる」
「ま、待って」
　隆太は慌てて腰を引いた。姉の指も勃起から離れる。
　せっかく一度は優位に立ったのだ、このまま姉に主導権を返すのは癪だった。
　こうなった以上はとことん突き進んでみたい、やりたいことはすべて実行したかった。彼のやりたいこととは、うろたえる姉の姿を見ながら射精することだ。
　隆太は短パンごとブリーフを足首から抜くと、姉の横に座りこんだ。
「今度は俺がしてあげるよ」
「するって、何を？」
「そんなの決まってるじゃないか」
「え……や、やああン」
　前置きもなしに乳房を掴まれ、姉は細腰を色っぽくよじらせた。
「すごいや、こんなにムニュムニュなんだ」
「だめ、隆太……や、やめて」
「姉ちゃんだって勝手に触ったじゃないかよォ」
　絵梨は黙った。強い口調で事実を言われては反論できない。
「姉ちゃんのオッパイ、こんなだったんだ。すごいや」
　たじろぐ姉の肩に手をまわして抱き寄せると、隆太は、さらに本格的に蒼い柔肉を揉み押した。感動という以外に言葉が見つからなかった。汗などかいていないのに妙な粘りがある。柔らかいのに、指を押し戻す独特の弾力がある。夢にまで見た女のパーツが自分の手のなかにある。
　何より嬉しいのは姉の反応だった。揉むごとに、握るごとに、恥辱にまみれた色とりどりの声を発するのだ。力加減を強くしても弱くしても腰が揺れる。顎を突きだしてのけぞったりもする。そして、果実の芳香に女本来の生々しさが混ざりはじめる。
「ッはン、だめ、だめよ……ほ、本当にだめなの……ンッううン」
　体臭と同じ匂いの声を発しながら、絵梨は、弟の身体を押しのけるために手を伸ばした。しかし、その手が触れたのは彼の腕や胸板ではなかった。
　偶然に接触した勃起を反射的に掴むと、姉は、すぐさま指を上下に動かしはじめた。