７．手紙

　出張から帰り、会社勤務が続く達夫。
　予定どおりの成果、特別な評価もなく、変わらない日々。
　久しぶりの、健二と二人きりの昼食時間。
「あい変わらず、忙しいですね、佐山さん、ちゃんと昼に昼食とるの久しぶりでしょう」　悩みのない、明るい響きの健二。
「この時期は仕方がない、今年はまだ、ましだ」
　健二の問い掛けに答える達夫。
　・・・・
「ところで、熱海の後は、上手く行ってるんですか」
　話題を、仕事から避けようと健二。
「何もないさ」
　気のない達夫。
「でも、いい女だったでしょ。あれでもお膳立てしたつもりなんですから」
　小声の健二。
「すまなかったな、見た目だけじゃなくて、中身も絶品だ」
　健二を喜ばせる達夫。
「そんなにですかぁ、僕の方は良く喋るばっかりでスタイルはトドですからね」
　うらやましがる健二。
「そりゃ、言い過ぎだろ、けっこう良く見えたがなぁ」
「まあ、見た目は、問題ないっすけど、あっけらかんとしたあの雰囲気がぁ・・・」
「悪い事してるっていう、暗い雰囲気が無かったのか」
「そっ、それ、いつもやってる夫婦のアレじゃないんですから、そうでしょっ」
　熱海談義に花の咲く二人。
　・・・・
　・・・・
　仕事帰り、地下鉄の中の達夫。
　スーツの内ポケットから、１枚の紙切れを取り出し眺めている。
　熱海の夜、美加のバックから抜き取った、何かのレシート。
　会員制なのか、クレジット一回払い、衣類￥２８，４００−、住所と名前、電話番号まで記載されいている。
　股間の疼きを意識しながら、健二の「熱海の後・・・」の言葉が頭の中を駆け巡る達夫。
　・・・・
　・・・・
　美加は、日曜の夕方遅くに、夫婦して和美を迎えに行った。
　耕二の弟、西崎源二が出迎えた。
　西崎家の財産は、正式な遺言により、その殆どが長男、耕二に受け継がれ、次男の源二が手にしたのは、住む土地と住居のみとなっていた。
　そのため、源二の生活は、耕二のそれとは違い、とこにでも居るサラリーマン家庭といったとこであり、遺産の恩恵にあずかっていないのが現実であった。
　そんな現実の差を感じることもないように、源二夫婦は愛想よく対応してくれていた。

　月曜日の西崎家。
　美加は、家事いっさいをお手伝いに任せ、昼食の後ピアノの練習をしていた。
　和美が小学校に通うようになってから、手の空いた美加は、趣味のピアノを上達させようと、ピアノ教室に通うようになり１年、今では、クラッシック曲を彼女なりに弾くことが出来る程になっていた。
「美加さん、お手紙が届いています」
　お手伝い、カヨの声に手を止める。
「どなたから」
　手紙類の殆どは、耕二宛に届き、美加宛に届くものは、旧友の手紙ぐらいしかなかった、当然のように差出人を聞く美加。
「それが、差出人の記載が無いんです」
　カヨが不思議そうに答える。
「そお、ありがとう、カヨさん」
　カヨから手紙を受け取る美加。
「お茶でも、しましょうか」
　と答えを聞くことなく、足早に立ち去るカヨ。
　不思議そうに、開封する美加。

「美加さんへ

　４月２４日　１３時
　○○駅前　○○○ホテル　７０５号室

　　　　　　　　　　　　　　熱海　Ｔ　　」
　差出人は、達夫。
　何の疑問もなく、判断する美加。
　身体中の血液が集中し、熱を持ち始める股間。
　花園の疼きを感じ始める美加。