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８．被虐の光（１）
夫からは、与えてもらえない、女の喜びを知覚し始めた肉体、何にも負けない優先度を与える美加。
その日、美加の予定は空いている。
朝食の後。
「カヨさん、今年のピアノの発表会で使う衣装を探したいの、お昼前から出かけますので」
予定を告げる美加。
「分かりました。ごゆっくりどうぞ」
何の疑いもなく、普段どおりの生真面目な返事を聞く。
「１１時頃に、車を手配して頂けるかしら」
「はい、葵タクシーに、予約しておきます」
「それから、和美の帰りより遅くなるのでよろしくお願いするわ」
日曜日の子供のような、はしゃいだ気持ちで、身づくろいを始める美加。
・・・・
いつもより、濃い目の化粧で出掛ける美加。
タクシーで、○○駅まで走らせてもよかったが、後ろめたい気持ちもあり、最寄駅の「○△駅まで」と運転主に告げる。
○○駅から○△駅は、所要時間約１０分、時間的には大差ない。
〜・〜・〜
その日は、普段取ることの無い、普通休暇を会社に申請し、妻には何も話さず、いつもどおりの出勤時間に合わせ家を出た達夫。
いつもと違うのは、スポーツバックを余分に持っている事ぐらい。
中央公園を時間つぶしに歩いている達夫。
目にするのは、ジョギングをする人妻風の小太りな女、犬を連れた老人etc。
空いたベンチに座り、ぼんやりしている。
小学生の頃、初めて勃起した息子。
週間マンガの水着写真に、反応する息子、なぜか痛む。
勃起する現象には、驚きはないが、痛む息子。
その日は、それで終わり、翌日も勃起、やはり痛みを感じる。
勃起力は、ますます増すばかり、突っ張れた包皮を強引に引く手。
「うぅっ」
引っ張れた包皮が開放され、大きさを増す息子。
出血は無いが、かきむしったような、痛みに疼く息子。
・・・・
中学生の頃、自転車通学。
道端に落ちた、ケバイ色彩の雑誌。
人気の無いことを確認しながら、黒い鞄に投げ込む。
帰宅し、雑誌を広げる。
性に興味を持ち始めた少年が、初めて手にした卑猥な本はＳＭ雑誌だった。
麻縄で、縛り上げられ悲痛な表情の女。
瞬時に勃起する息子。
妄想でのオナニー、射精もすでに経験済み。
女の股間は、黒く塗つぶされている。
（ここに何か秘密があるのか）
百貨辞典のその種の項目には、快楽については書かれていない。
雑誌の小説を読み進む。
女の股間の秘密が、ぼんやり解明されていく。
・・・・
達夫にとって不幸だったのは、初めて手にした雑誌が、マニアックなＳＭをテーマにしていたことだった。
今では、正しく理解しているが、その時、指導者はいない。
初めて感じた、強烈な性的興奮は、異常な嗜虐趣味の世界、中学生の少年にその異常さは、理解できない。
このときから、すでに４０才をまじかにした男は性的興奮とＳＭを強くリンクさせてしまっていた。
不幸なトラウマ、誰にも苦情は訴えられない。
唯一の救いは、男として十分機能する息子を持っていた事だった。
・・・・
眠りから突然目覚めたように、ハッとする達夫。
腕時計を見る、すでに１０時前、足早に歩きはじめる。
市の中心部までは、地下鉄に乗った。
目に付いた酒屋で、安いワインを買う。
サービス品の栓貫きをもらった。
路地を入り、ネオンの消えた繁華街、小さな間口のポルノショップを見つけ、アップ系の媚薬を手に入れ、ホテルに向けて歩きだす達夫。
昼前には、チェックインを済ませ、ホテルのレストランで定食を口にした。
予約を入れた翌日、部屋番号は事前に確認した、予定どおりの７０５号室。
期待を胸に待つ達夫、口を開けたスポーツバックをベットの脇に置き、ジュース用のグラスに媚薬を垂らす。
・・・・
１３時を過ぎた頃。
コン、コン
ドアに響く音、慌てて歩みより、ノブを回す達夫。
「おひさしぶり」
熱海の夜の記憶を蘇らせ、美加の瞳を見つめる達夫。
「こんにちは」
か細い声の美加、落ち着いた表情だが、戸惑いを隠せない。
「場所は、分かりましたか」
「ええ、駅から見えますもの」
「時間は、ゆっくりできますか」
「夕食までには、帰ります」
キッパリいう美加。
「質問攻めですのね」
「ハハハ、失礼・・来てもらえて良かった、そうでなければ、新しい葛藤の始まりだったろうから・・まぁっ、座って下さい」
椅子を進める達夫、冷蔵庫を開ける。
「あたしが来るって、自信おありでしたの」
「丸っきりなしじゃ、手紙は書けないってとこかな・・何か飲む？、ワインは？」
「少し、頂くわ」
ワインを開ける達夫。
「来る前に、買ってきたんですよ、とりあえずコルクで栓をした物をと思って」
媚薬入りのグラスに注ぐ達夫。
「でも、冷蔵庫にあるんでしょ」
「安物でも、甘過ぎるワインより良いでしょう・・それよりグラスがなくて」
ワインを注いだジュースのコップを差し出し、向かいの椅子に座る達夫。
グビグビと飲み干す。
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