１１．訪問客

　達夫との関わりは、日常的になっていた。
　美加の肉体的欲望は、達夫によってのみ満たされる、愛情のない肉の関係。
　二人の関係は、愛情以上に強い繋がりを持っていた。
　回数が増す度に、慣れ親しみ警戒感を失ってくる。
　いつものように、ホテルの玄関を出て行く二人。
　・・・・
　・・・・
　西崎源二は、関係会社の大村雄二を連れて、建築資材の新商品の売り込みに隣町まで出張して来ていた。
「次から、この出張は、このホテルに泊まりで行こう」
　源二が提案した。
「そうですね、泊まりなら５，６社は廻れますかね」
　雄二が答える。
「・・・・・・」
　源二は、急に足を止め、答えを返さない。
　兄嫁の美加が、見知らぬ男と目の前のホテルから出てきた。
　玄関を出るとすぐ、二人して背中を向けて源二の前を進んでいく。
　３０ｍは離れているが、見間違いはない、あれほどの美人は、そうそう居ない。
「西崎さん、どうしたんです」
　不思議そうに振り返る雄二。
「いや、ちょっと思い出したことがあってな。いいんだ。・・・・泊まりなら楽だろう」
　ハッと意識を取り戻すように答えを返す源二。
　予定の３社を廻り、仕事を終えたが、始終、美加と男のことが気になり仕事に身が入らなかった。
　・・・・
　・・・・
　それから、一週間ほどした昼間に、兄の西崎家を訪ねる源二。
　お手伝いのカヨが顔を出す。
「こんにちは、カヨさん。仕事で近くまで来たんで、休憩させて貰おうかと思って」
「それは、ごくろうさまです。美加さんに伝えますので、お待ち下さい」
　丁寧な挨拶をするカヨ。
　生まれ育った我が家、源二は応接室へ足を運ぶ。
　落ち着かない気分の源二。
「まあ、めずらしい、どうされたんです、こんな明るい内に」
　明るい美加の声。
「仕事が近くだったんで、寄らせて貰ったんですよ」
　カヨが、コーヒーを２つ用意して、運んでくると、忙しいのかそそくさと出て行った。
　手早く話を付けてしまおうと、砂糖を混ぜながら、切りだす源二。
「美加さん、○○○ホテル知ってますか」
「○○駅の近くのかしら」
　妙な話題に、不思議そうに答える美加。
「そうです、そこで見たんですよ、ある女性が男と一緒に出てくるところを」
「・・・・」
　警戒心を露わに、無言の美加。
「好いことした後らしくて、顔赤らめてましたがね」
「それが、私とどんな関係があるんです」
　強気でいう美加。
「はっきり言いたくないんですがねぇ、○月○日○時○分・○○○ホテル、これだけ言えば十分でしょう」
「・・・・」
　言葉のない美加。
「解ってもらえたようですね、また連絡しますから、今日のところはこれで」
　席を立つ源二。
「待って、耕二さんには・・・」
　あわてて引き止めようとする美加。
「解ってますよ」
　美加の言葉を遮るように返事を返し、立ち去ってしまう。