１．

　俺のチンコは驚くほど小さい。
　確信を持ったのは中学の修学旅行の時だ。
　風呂場の脱衣所で驚いたの何のって。
　だって、全員のチンコが俺の勃起時の５倍いや１０倍以上はあるんだから。
　太さも長さも。
　俺はすぐに服を着て、顔をこわばらせながらすぐ部屋に戻った。
　結局、修学旅行の間じゅう風呂に入らなかった。
　高校では修学旅行に行かなかった。
　親を恨んだね。
　遺伝かなぁって思ったけど、子供の頃一緒に風呂に入ったオヤジのはすごくで大きくて太かった。
　大人になると自分もそれくらい大きくなると思っていた。
　母親側の血筋なのだろうか。
　いやいや、母親の兄貴、つまり叔父さんと一緒に風呂に入った時もオヤジに負けないくらい大きくて太かった。
　隔世遺伝だろうか。そう思ったが違うんだなこれが。　
　オヤジ方の祖父も一緒に風呂に入ったことを憶えているのだが、驚くほど大きかった。
　あれが勃起したとしたら、凶器になるんじゃないかと思ったほどだった。
　そして母親方の祖父なんかは村で有名なくらいの巨根の持ち主だったらしい。
　なんでも、オヤジと母親の見合いの時に、そのあまりにも大きすぎるチンコについて話しあったという。
　祖父同士がお互いに見せ合って、祖母も話しあって、この縁談は即決だったらしい。
　そりゃそうだ。あれだけの大きさだと女性に大怪我を負わせる可能性があるからだ。
　で、俺の話。たしかに気になっていたんだ。
　中学生になれば、そこそこ大きくなるだろうと期待していた。
　だけど、そう俺は悩みに悩み抜いたよ。
　正直、自殺も考えた。思春期の男の子なんてそんなものだよ。
　そして、そう３０歳を過ぎても未だに童貞だ。
　そりゃ風俗で卒業も考えたけど、俺の小さいチンコをみられるのが嫌だったのだ。
　勃起しても、通常時と大きさが変わらないのだ。
　笑われるに決まっている。
　それに身体だけは人並み以上に大きく成長しているので余計にチンコが小さく見える185cm85kgの巨漢に、小指くらいのチンコなんだ。勃起しても小指の大きさなんだ。
　でもね、もういいんだ、開き直りましたよ。
　仕事を頑張りましたよ、人一倍ね。
　おかげ様で、小さな店だけど経営者、仕事は順調、年収も人並み以上、チンコは小さいけどね。
　そんな俺にまたしても縁談が来たんだ。


　まぁ、両親にはちゃんと事情を説明してある。
っていうか､高校のときに家で大暴れしちゃったんだ｡
「なんでこんな俺を産んだんだ！」とか「お前たちに俺の悩みが解ってたまるか！」とか｡
　両親はびっくりしていたよ。
　そりゃそうだよ。
　俺は拾われてきた子じゃないかとも疑っていたんだよ。
　それで、正直に俺のチンコを両親に見せたんだよ。
　そしたら、オヤジは母親の浮気を疑うし、母親は大泣きして身の潔白を叫ぶし、産科病院に問い合わせして、子供の取り違いはなかったか調べてもらってDNA検査までしちゃったよ。
　間違いなく血がつながっている正真正銘の息子だということだ。
　じゃぁなんでこんなにチンコが小さいのか。
　神様のいたずらだとしか思えない。
　もしくは前世の祟り、巨根の祖先がなにか極悪なことをやっていたとか。

　あ、そうそう、縁談の話。
　両親は、とにかく孫の顔を見たい、と四方八方あらゆるコネやつてを使って縁談を探してくる。
　もちろん、結婚後すぐ初夜に離婚決定ってなるのは避けたいので、俺のチンコのことも相手方に打ち明けるらしい。
　だいたい相手方は
「そんなことは気にしませんよ…」
　とかいうのだけど、結局は、なんだかんだ理由をつけられて断られてしまう。
　そりゃそうだ。こんなに小さいのだから、子供を産めない可能性が大きい。
　なにより俺の巨漢と小さいチンコの話を聞いては、何よりも見合い相手の娘さんも、笑ってしまうのだろう。

　いいよ、同情してくれなくても。
　この苦しみは誰にも理解してもらえないだろう。
　両親や親戚でさえもわからないだろう。
　俺はこのまま、童貞のまま、女を知らずに死んでいくんだ。
　そう覚悟しちゃったよ。

　今回の縁談も両親があちらこちらに、俺の恥を晒して探し出してくれた。
　両親の気持ちもわかる。それにもう慣れちゃった。
　結婚相談所では俺の話は有名らしい。
　あーゆうところは同業者のネットワークもあるらしいんだよね。
　で、俺の名前はリストに載っているらしい。
　超難題保持者だって。
　まいちゃったよ。

　結婚相談所に門前払いをされるようになってからも両親は、見合いの相手を探していた。
　もう、意地みたいなものだろう。
　もしかしたら、俺に対する罪悪感でもあるのだろう。
　両親の夫婦仲はとても良い。
　すこぶる仲がいい。
　あの歳で毎晩のように、両親の寝室から声が漏れてくる。

　正直結婚はしたい。
　だけど、女性を満足させてあげる自信が全くない。
　俺と結婚した相手のことを考えると不憫だ。
　だから、結婚はしたいけど、あきらめた。
　俺は童貞のまま死んで行くことにしたのだ。

「ね、今度の娘さんは、あなたみたいな人を探していたと言っているの」
「そうだ、それにこの娘さんはかわいいぞ、絶対おまえにぴったりだ！」
　そういって両親は見合い写真を俺の家に置いていった。

　こんな俺でもいいて？　もう誰でもいいから結婚さえできればいいからって感じなんだろう。
　どうせブスに決まっている。

　俺は写真もみなかった。

　それで、今日は見合いだ。
　はいはい、今日もまた、笑われに行くとしましょう。
　これは儀式だ、いや拷問なんだけどね。
　とにかく両親の淡い期待を踏みにじらないように努力はする。
　チンコに関わること以外は、とてもよくできた両親なんだから。

　ホテルマンの人とは顔なじみになっている。
　もう数十回はこのホテルを利用している。
　最初のうちは、詮索しないようにということだろうか、無表情だったが
「いぁ〜また振られに来ましたよ」と俺がおどけて言い続けているうちにご苦労様ですという感じで挨拶をしてくれるようになった。

　内庭がとても立派なラウンジに案内された。
　多忙な毎日の休息にはもってこいだ。
　俺は見合いではなく、ただコーヒーを飲みに来ているのだ、と思うことにした。
　親孝行のためなのだ。

　いつもの席に両親と紹介者が座っていた。
　相手方の両親はまだ見えていないようだった。

「こんにちは、お世話になります」
　俺は元気を装って席についた。
「あ、はじめまして。私、今回のお世話をさせて頂く杉村です」
　地味だが高そうな着物を着た品の良い女性が、微笑みながら話しかけてきた。
「よろしくお願いします」
「素敵な方でらっしゃる。良かった、とても良い縁談ですこと」
　杉村さんは、とても良い感じの人だった。

　あーこの人にも迷惑を掛けるんだ、俺の小さいチンコが、って思いながら
「まだ、相手の方は見えられていないんですか」と尋ねた。
　まさか、当日キャンセルか？　まぁ、それはそれでもいいや。

「あ、違うんですよ。もう見えられているんですよ」
　杉村さんは隣の席に会釈した。

　隣の席にはプロレスラーを思わせるような巨漢で筋肉質の夫婦が座っていた。
　あまりもの巨漢で同席するには狭すぎるということなんだろう。

　まさか、すんごい巨漢の娘か？　写真をみなかったことを少し後悔した。
　太っている女性だと絶対に俺のチンコは入り口にも届かないぞ。
　そうか、セックスレスの結婚でもいいってことか？
　いやまて、俺の両親は孫が見たいというので縁談を決めてくる。
　なに、もうどうしようもないブスで巨漢の女性で嫁ぎ先がないからこの縁談の話があったのか？

　俺は考えていることが表面に出ないように、自分の小さいチンコを恨みながら、作り笑いをした。
「あ、ほら、涼子さん、こちらの方よ」
　杉村さんが巨漢の父親の後ろに回り込んだ。
　相手方の両親は汗をハンカチで拭きながら、すまなさそうな表情をしてペコペコしている。
　父親の後ろから手を引かれて姿を表したのは、まるで小学生のように背が低く、清楚で端正な顔の女性だった。
　長い黒髪が着物が似合っている、まるで人形のようだ。
　杉村さんの小学生の娘だと言ってもいいくらい幼く見える。
　身長は140cmくらいかな。
　恥ずかしそうに俯き加減で、少し首をかしげながら
「涼子と申します。よろしくお願いします」
　蚊の鳴くような声で、お辞儀をした。
　派手な着物を着ていたら七五三？って思われてしまうからだろうか、地味ながらの留袖を綺麗に着こなしていた。
　この巨漢の両親の娘？　信じられなかった。
　養女だろうか？
　というか年齢は幾つなんだ？
　俺は写真どころかプロフィールも見ていなかったのだ。

　相手の両親は見かけによらずとても気さくな人だった。
　まず、自分たち両親の姿で見合いの話がなかなか先に進まないこと、そして娘さん、そう涼子さんには身体的な欠陥があるというと、すべて打ち明けておいた方が良いだろうということで、話してくれた。
　涼子さんは母親の横で隠れるようにしながら、もじもじと恥ずかしくてハンカチで口元を抑えている。
　真っ白な肌の頬が赤く染まっていた。

「この娘も高校生の時には付き合っていた男性がいたのです」
「まぁ、高校生ですから、やがてそういう関係になりそうになったのですが」
「相手の男の子が、ものすごい巨根だったそうなんです」
「娘はとても恐怖心を覚えたのですが、相手は必死でした」
「かなり暴力的に涼子に迫ったそうなんです」
「それが男性恐怖症の元なんですが…」
「まぁ、それくらいならよくある話なんですが…」
「男性恐怖症だけじゃなくて…どうも…あの…」
　母親が話しを引き継いだ。
「それでどんなに努力しても入らなかったわけです。入れようとすると物凄い激痛が走ってしまう」
「そのうち相手がくたびれてしまって…」
「産科医に行けと彼氏にいわれて…この娘、素直なものですから…産科医に行ったそうなんです」
「診断結果は処女膜が異常に厚かっただけじゃなくて…あの…その…」
　父親が母親に代わって話した。
「膣っていうんですか、これが非常に小さい。そして膣の収縮性が殆どないらしいんです」
「ですから、手術で処女膜を切ったとしても、まず男性器の挿入は不可能だと…」
「挿入できるとしても小指の太さが限度らしい」
　それを知った涼子さんは自殺を図ったらしい。
　自分は女性として一人前ではない。もし人工授精したとしても膣の収縮性がなければ子供を孕むことはできない。
　人一倍子どもが好きで、幼頃から両親のような幸せな家庭を築くことを夢見ていたのに。
　俺は話を聞きながら胸が熱くなった。
　気がつくと涼子さんは肩を震わせていた。

「この話を杉村さんから聞いてね、この人しかいないと思ったんだ」
　俺の父親が話しだした。
「そう、もうね、お父さんも私も孫の顔を見るのは諦めたの」
　母親は涙声で言った。
「この娘さんを幸せにできるのはお前しかいないと思ったんだ」

　涼子さんの父親は懇願するような口調で
「私たちも孫をあきらめました。ただ。涼子に女の幸せを感じて欲しいんです」
「あなたなら涼子の苦しみを理解していただけるのではないかと思うのです」
　涼子さんの母親は
「すみません、勝手なお願いで…」
　そこまで言って泣き崩れた。

　涼子さんは母親の着物の袖をギューっと握り締めていた。

「でも、双方のご両親の気持ちばかり押し付けてはいけませんよ」
「幸せな結婚はお当人おふたりの気持ちが大切ですから」
　杉村さんは微笑みながらそういった。


　涼子さんは、今時には珍しく聡明で純粋で清楚な佇まいだった。
　ウエディングドレスは特別注文で、大人っぽいものを選んだのだが、まるで人形のようだった。
　身内だけで教会で結婚式を上げたのだが、俺たち二人の事情をよくしている親戚たちは心のそこから祝ってくれていた。

　ただ俺は185cmの大男、涼子さんは140cmではなく本当は130cmの少女人形のようなんだ。
　なんでも見合いの時には、シークレットブーツならぬシークレット草履を履いていたらしい。
　流石にロングドレスに高いハイヒールは危ないので、俺は低い靴を履くように涼子さんに言った。
　自分の背の低さにコンプレックスを持っているので、嫌だといいたかったのだろう。
　妻は夫の言う事を絶対に聞かなければならないという古風な考えの持ち主だから、コクンと頷いて了承したのだ。
　だから、祭壇の前でたった二人は大人と子供というより　大男と人形という感じだった誓いのキス。

　俺は跪いて彼女のベールを持ち上げた。
　人生初のキスだ。
　涼子さんは高校のときに付き合ったことがあるので人生二人目だそうだ。
　まぁ、初めてのキスは七転八倒した初体験未遂事件の時の一度きりだったそうだ。
　キスっていいね。
　俺はAVの身過ぎで貪ろうとしちゃった。
　でも、涼子さんが怖さで震えているのがわかったから軽く唇を触れ合わせただけだった。
　それでもこんなにキスって気持ちのいいものなんだ。

　いいや、セックスはできなくても、キスだけで満足だ。
　そんな不埒なことを考えているうちに結婚式は終わった。