２．

　初めて痴漢された日から、ナツミは言われた通りに毎日同じ車両の同じ乗車口から乗って、あの痴漢に身をまかせていた。なぜ自分の名前を知っているのかとか、脅されているようで仕方なく、というのは言い訳で、一番の理由はあの時覚えてしまった悦びに、体がうずいてどうしようもないのだった。

　ナツミだって今時の15の少女である。聞き役がもっぱらとはいえ、友人同士で卑猥な話もたまにはするし、オナニーだってしたこともある。だが、自分で試してみた時は、それほどよい物とも思えなかった。もちろん、そんな状態でセックスなどしたことがあるわけもない。性に関しては割合オクテだったと言える。
　ナツミは、他人の手によりもたらされる快楽があれほどのものとは、ついぞ知らなかったのだ。

　何度も身をまかせていれば、痴漢がどんな人間か、さすがにわかる。しかし男はナツミの全く知らない人だった。最初に痴漢された時、ナツミは実際に見てはいなかったが、痴漢をするぐらいだから普通の女性には相手にされない、年を取った醜男だと決めつけていた。
　しかし、実際は違った。年の頃は30代から40代前半位の中年にさしかかる手前のごくごく普通の男性。醜男どころか、がっしりした体系に顔もそう悪いわけでなく、そこそこモテそうでさえある。

　もちろん、気を許したわけではなかった。痴漢は痴漢でしかない。何度も好きにされている今でも、恐怖心は消えない。ただ、それを上回る快楽にどうしてもあらがえないのだった。
　痴漢は回を重ねるごとに、少しずつ話しかけてくるようになっていた。怪しまれないように、ぼそっとつぶやくだけだが、蜜壷のようにどろどろになったあそこをさんざんいじられまくった後、ホームで呆然としているナツミに、去り際にまるで蔑むように声を掛けるのだ。

「本当にお前は淫乱だな」
「痴漢されてこんなにぬちょぬちょになるやつはお前ぐらいだ」
　ナツミは、その言葉だけでさらにあそこを濡らす自分をとめることができなかった。
（私って、変態なのかもしれない……）

「明日はスカートもっと短くして来いよ。ケツが見えるぎりぎりまでな」
　いつものように思うさま蹂躙された後、そんな言葉をかけられて、ナツミは迷った。ナツミの通う女子高もこのご時世、超がつくほどのミニスカートで闊歩している生徒達はたくさんいる。ナツミの膝上20センチも一般的に考えれば短い方だろう。だがさすがに姿勢によっては下着が見えるほどの長さは下品に思えて、そこまでは踏みきれなかったのだった。

　だが、ナツミにとって、あの男の命令は絶対だ。丈を詰めるまではしなかったが、今はスカートの長さを簡単に調整できる、ゴムバンドがある。みぞおちのあたりまでスカートを引き上げて留めることになるが、白いブラウスを外に出してしまえば、わからないだろう。

　次の日、ナツミはぎりぎりの短さにした制服のスカートを揺らして駅に向った。ちょっとした風が吹けば白いパンティーがのぞけるだろう長さだ。いつもより周囲の視線が下半身に集まっている気がする。いたたまれなさと妙な興奮がナツミの胸を支配した。苦心して階段を上って、ホームのいつもの所定の位置に立った。

「ちゃんと言いつけ守ってるじゃねえか。ったく本当にお前はどうしようもないメスブタだな」
　聞きなれた声が後ろから聞こえて、ナツミは身震いする。期待と不安に胸をふくらませて、滑り込んできた電車に乗り込んだ。

　今日はブラウスを最初からスカートの外に出しているので、ナツミの豊かな胸に容易に手がもぐりこんでくる。
（ああっ……いつも、こうしてればよかったんだ）
　もぞもぞと動くブラウスに目をやっていたナツミは、乳首を急に絞られて、（あんっ）とのけぞる。
　もう一方の手は相変わらずパンティーの上からこりこりと刺激を与えてくれているが、切なく息をあがらせながらも、ナツミはもうそれだけでは満足できない、
（あっ、はっ、はぁっ……やっ……下着の上からじゃイヤっ……もう足りないっ）
　ナツミはもう我慢できないと、自分からクリトリスを男の指にこすりつけて催促した。自分のあまりにはしたない行為に顔から火を吹きそうになるが、早く男の骨ばった指でじかに触って欲しくてたまらない。男はわかってくれるだろうか。
　くっ、と背後で笑う気配がした。

（えっ！）
　その瞬間、仰天してナツミは動きを止めた。
　パンティーが、…ない。邪魔で邪魔で仕方がなかった、ナツミの愛液でぐしょぐしょになっていた下着が、完全に気配を消したのである。
（腿にも膝にもかかってない……、まさか、床に、落ちちゃった！？）
　パニックになりかけたナツミだが、満員電車のことである。身動きもままならず動揺しながら立ち尽くすしかない。そんなナツミの心情を知ってか知らずか、男はスカートに素早く手を差し込むとナツミのクリトリスをいきなりくりっとつまんだ。
「あうっ」
　何の前触れもなくそんなことをされて、ナツミはすさまじい快感に背中に電流を走らせ、のけぞるしかない。その後も続く的確な刺激に、ナツミの小作りで可憐な唇からは、抑えても抑えきれない吐息が後から後からもれだした。
（はぁっ、はぁっ、はぁっ……も、もう許してっ……あっ、ああんっ）

　いつものように到着駅を告げるアナウンスが流れてきて、男の手の動きも止まる。
　ナツミは荒い息をつきながら、しかし、いつもと違う、消えてしまった下着の行方を必死で探そうとしていた。下着という受け皿のなくなった白い粘液がナツミのむきだしの股の間を直接どろりと流れ落ちてくる。あわててスカートの裏側でぬぐって、なんとか誤魔化した。

（もし床に落ちてたら、ハンカチを落とした風を装って、さりげなく拾えるかもしれない……。で、でも床になかったら……、ただでさえ今日はスカートが短いのに……）
　半分泣きそうになりながら、ドアが開くその一瞬がチャンスだと身構える。だが朝の通勤ラッシュの殺気立った群集に一気に押し出されて、ナツミは床を見る暇もなかった。
　それでも、あらかたの乗客が降り終えただろうとあわてて振りかえると、新たな一団が我先にと乗り込むところで、とても床を捜索している余裕はない。

　ナツミは絶望的な気分になって、ホームに立ち尽くす。乗ってきた電車を仕方なく見送ると、ぎりぎりの短さのスカートを手で必死に押さえ、のろのろと階段にむかって歩き出した。スカートの下には何もつけていないのだ。ちょっとした風が吹いただけで、全てが丸見えだ。

　向うからサラリーマンがやってくる。一瞬だけこちらを見てすぐ目をそらした中年男性は、ぎょっとした顔になり、ナツミをもう一度見直した。
（な、なに！？もしかして見えちゃった……？）
　ポーカーフィスを装ってやりすごしたが、スカートをつかむ手が細かく震える。
（お、落ち付いて……。落ち付いていれば大丈夫、私が挙動不審だからおかしいのよ……）

「乳首二つともびんびんだぞ。色まで丸見え」
（えっ！？）
　ふいに背後からかけられた声に、ナツミは、自分の胸を即座に見下ろす。パンティーのことに気を取られて、上半身のことには全く気が回っていなかった。いつのまにかブラジャーは取り去られ、夏服の薄い白いブラウスをとんがったピンク色の二つの乳首が扇情的に押し上げている。
「乳首そんだけ尖らせてノーパンで堂々と歩くとはなぁ…。清純そうな顔して、お前の淫乱ぶりは途方もねえなぁ」

　痴漢の男だった。ナツミは、あまりのことに目を見開いた。まさかここまでするとは思っていなかったのだ。
　今まで自分から声をかけたことはなかった。だが、勇気を振り絞って、しかし内容が内容なだけに小声で詰め寄る。
「あ、あなたが私の下着を取ったの！？返して！」
「返してやってもいいが、こんなぬちょぬちょのパンティー、もう使えねえだろ。」
　バカにしたように笑って、ナツミが履いていた、白い下着をこれ見よがしに振る。
「やっ、やめて！」
　ナツミはあわてて飛び付き、奪い返す。それは刃物ののようなもので切り裂かれ、ぐっしょりと濡れたただの白い布切れになっていた。
「い、いくらなんでもひどいわ！！！」
「毎日毎日あそこまで気持ちよくさせてやったのに、その言い草はないんじゃねえか？」
　声をひそめ抗議するナツミに対して、痴漢の男が返すのはごく普通の声量だ。ナツミは周囲の目線が気になって、いたたまれなくなり頬を染めた。
「あ、あたし、どうかしてた……、もう……、明日からはいいですから……。あの……」
「何ふざけたこと言ってるんだよ？自分だけ気持ち良くなってハイさようならか？」
「…………」
　ナツミには、返す言葉もない。
「ま、こんなとこじゃなんだろ。場所変えようぜ」
「あ、あたし学校が……」
「そんな格好で行く気かよ？ほらとにかく来いよ」

　男は無理矢理ナツミのカバンを奪い取る。有無を言わせない響きだった。
　片手で尖りきった乳首を隠し、もう一方の手で今にもめくれあがりそうなスカートを必死で押さえる。
「おらおら、ケツの方は見えないよう見張っててやるから」
　男はくくくっと楽しげに笑った。
　凄みのある笑いだった。ぞっとして、今更ながら後悔の念が湧いてくる。これからどこへ行こうというのだろう。
　駅のホームをずりずりと変な姿勢で歩いていると、知らず涙が出てきた。自分は恥ずかしい格好でムリヤリ歩かされていることに感じている。白いねばねばがまた降りてきて、どろりと股を伝わった。
「お前、感じてるのか。ほんっと正真正銘の変態だな！」
　嘲笑され、身を硬くする。
　だが、そんな罵倒の言葉にさえ、ますますナツミの心と体は甘いうずきを感じ、囚われていくのだった……。
　
（完）