第３章　紹介の連鎖

　あのアクシデントから一週間ほどたったある日、アキラは大学のキャンパスで俺に声をかけてきた。
「ヒロシ、この間は悪かったな」
　アキラはそう言いながらもニヤついている。
（まあ、恥ずかしい所を見たられたし、仕方ないか）

「ああ、もういいよ、それより内緒だぞ、あの事は」
「分かっているよ、これで、お互い秘密を共有したわけだしな」
　アキラ言っている秘密の共有とは、アキラがゲイということを俺が知っていて、逆にアキラは俺がソフトＳＭで女と楽しんでいたという事実をアキラが知っているという事である。
　その事はお互い暗黙のなかで理解できた。

「それよりヒロシ、あの女、お前より年上じゃないのか？俺はチラッとしかみてないけど、玄関にあった女の靴の趣味といい、どう見ても若い子じゃないだろ？」
「うん、まあな・・・・」
「いくつなんだよ」
「えっ？まあ・・・・一回りは違うな」
「えええっ、じゃあ３０過ぎかよ！？」
「まあな」
「どこで見つけたんだよ？出会い系サイトか？いまどきテレクラじゃないだろな？」
「いいじゃないかよ、そんなこと、お前には関係ないだろ！これ以上は内緒だよ」
「そっか、まあいいけどな・・・・そうか３０過ぎか・・・・」
「なんだよ、なんかあるのかよ」
「いや・・・・そうじゃないんだけどな」
　そう言ってアキラは黙り込んだ。いつも多弁なアキラにしては明らかに不自然だった

「どうしたんだよ、なんで黙り込んでるんだよ？」
「いや・・・なんでもない」
「おい、おい、そんな言い方すると、かえって気になるじゃないか？」
「うん・・・・・・・・」
「おい、アキラ！ハッキリ言えよ、隠してんだよ！」
「いや・・・隠しているんじゃないんだ・・・」
「だったら、なんなんだよ」
「いや、実はなぁ・・・・おまえ順子知っているだろ、俺のゼミにいる中村順子」
「中村順子なあ。知っているよ、先月、飲み会したときに酔って暴れだした、あの男まさりの体のでかい女なあ」
「ああ、その順子だよ」
「で、その順子がどうしたんだよ？なんか関係あるのか？」
「いや、俺なぁ、順子と、数日前にパーティーでバッタリ会ってなぁ・・・」
「パーティー？なんのパーティーだよ」
「ゲイとレズのナイトパーティー・・・・」
「なんだそれ！？そんなのがあるのかよ！」
「ああ、前から噂じゃ聞いていたんだけど、順子はレズらしい」
「けっ！どいつもこいつも、俺の知り合いは変な奴ばっかりだな・・・・まあ、あいつがレズって言うのは、なんか説得力あるけどな・・・きっとタチって方だな」
「当たり！そうらしい」
「それで？それが俺と何の関係があるんだよ」
「いや・・・・すまねえ・・・頼める立場にはないんだけどな、実はそのパーティーで俺、イイ男を見つけてあ、イイ男なんだよ、かっこよくってさぁ、逞しい体つきの男でな・・・俺、一目でその男に惚れたんだ」
　俺は想像して吐き気するものがあったが何とか我慢してアキラに話を進めさせた

「それで？」
「で、そのパーティーの時、順子にその男の話をしたら、その男、順子の親友らしい、今はフリーなんで相手がいないとかで近いうちに紹介してくれるってことなんだけど、見返りに順子に女を紹介するように頼まれている」
「はあ？同性愛の相手を紹介し合うってわけか？しかも、お前が順子に女を紹介するのか？」
「ああ、そうだ、しかも条件があって、年上の女じゃないといけないらしい」
「まさか！あの・・俺の・・・彼女を順子に紹介して欲しいって言うのか！」
「ああ・・・・ダメだよなあ？」
「あたりまえだろう！そもそも、女に興味のないお前に女を紹介しろって話自体、無理な話だろ、ましてや、お前が順子に紹介する相手をなんで俺が世話しなきゃならなんだよ！」
「まあそうだよな・・・・でもヒロシ、あんなことしているくらいだし、あの女とは遊びだろ？」
「まあ、そりゃそうだけど・・・・」
「じゃ、一度聞いてくんねえかな、そっちの方の興味ないか、俺、年上の女なんて全く知り合いがいなくて本当に困ってるんだ」
「けっ！自分のお母さんでも紹介してろ！そんな事、彼女に聞ける訳ないだろ・・・第一、俺に何の関係があるんだよ」
（俺に何のメリットもないじゃないか）
「そうだよな・・・まあ確かに・・・無理な話だよなぁ」
「そうだよ、まったく〜何考えてんだよ、ばかばかしい！」
　俺はそっけなく答えたが、まったくメリットのない話ではなかった、正直、アキラがまだ、まだ俺に興味を持っている事は分かっている、それでも友人としてこれまで付き合ってきた。ただ、そのアキラの俺に対する気持ちが分かっているだけに、それが俺の心の中で負担になっていることは事実だ。
　この際、アキラが他の男に興味を持ってくれれば、俺としては気が楽になる、しかも順子に由紀をとりあえず紹介さえすればいいだけなら、大した事ではない。
　そう考えた俺は、アキラに問いただす

「仮に順子に彼女を紹介したとして、由紀が・・・あっ・・この間の俺の女は「由紀」って言うんだが由紀が同性愛に方には興味はないとか、逆に、順子の好みじゃないって事でうまくいかなかったらどうするんだよ」
「それは大丈夫だ、俺だって順子が紹介してくれるその男が俺のことを嫌だって言えばそれで終わりだしな、あくまでもとりあえず紹介するだけって約束だから」
「けっ！当てもないのにそんな約束だけははっきりしているのかよ？」
「いや、俺たち同性愛者は結構、好みがハッキリしているから、普通の人のように、簡単に相手がみつかるって訳じゃないからな」
「普通の人って・・・・なんだかお前らの論理は良く分からないけど、わかったよ！じゃあ、とりあえず聞いてみるだけでいいなら、聞いてみる、でも、返事はいつになるかわからないしあまり当てにするなよ！」
「ああっ、助かるよヒロシ〜頼む！聞くだけ聞いてみて、また連絡してくれ！」
「ああ、わかった」
　そう言って俺は次の授業へ向かった。

次の授業は-経済原論-うちの大学でも一番大きな大ホールでの授業だ、こんな大人数の授業は俺のように真剣に授業を聞く意志のない奴ばかりで、当然後ろの方から席が埋まっていく。
　俺は少し早めにこのホールに来たので最後列に陣取ることができた、後はゆっくり昼寝でも楽しむつもりだった。

「あらっ！いいポジションに座っているじゃない」
　そう俺に声をかけ、肩を叩く奴がいた・・・・なんとあの、順子だ！

　彼女は身長１７５ｃｍ前後、以前に比べればスリムな体格になったが、それでも肩幅が広く筋肉質な体つきは元水泳部だったからだと聞いた事がある。髪はストレートで長く、背中にかかるくらいまであるロングヘヤーが印象的だ、その髪を後ろで一本に束ねて
る。もともと、美人なのだが、いつも化粧もせずジーパンにＴシャツ姿。胸も小さく、
言葉使いも男のような話し方をするから、男から見れば女を感じない存在の女性だ。
　
　順子は俺に声をかけたあと、ニヤニヤしながら強引に俺の隣の席に座ってきた。
　俺は嫌な予感がした。確かに順子とは知り合いではあるが、これまでそんなに話したことはない、そんな順子が俺に話し掛け、横に座ることに不自然さを感じたからだ。
「ヒロシ、久しぶりだね」
「ああ、お前が大暴れした飲み会以来だから１ヶ月くらい合ってなかったな」
「嫌なこと覚えているわね」
「忘れるかよ〜あれから恥ずかしくて、あの店に行けなくなったじゃないか」
「いいじゃない、あんなお店なんかどうでも・・・・ねえ・・それよりアキラから聞いたわよ」
　順子は急に小声になり、自分の携帯電話を俺に見せ、アキラから電話があったというジェスチャーをしている

（やっぱり・・・アキラのやつ、もう順子に電話してやがる・・・）

「ねえ〜よかったら、授業怠けて、お茶しない？」
　順子が俺を誘ってきた。

（確かに、これから先の話は、ともてここじゃできない・・・）

「ああ、じゃあ学生協の喫茶でもいくか？」
「うん、あたしがおごるよ」
「断る！後が怖そうだ・・・・」
「あははははっ（笑）用心深いのね」
　そう言って二人で大ホールを出て、構内の喫茶へ向かった。

（アキラの奴、順子にどんな話をしたんだ、最初に順子からそれを確かめておかければ・・・）
　俺はそう考えながら順子と校内の喫茶店に入っていった。