15

　お隣さんの悩ましいあの声に挑発され、胡瓜を使って０７２〜をしてしまった翌日・・・学校は終業式を迎えていた。
　通知票が生徒には手渡され、午前中で授業は終わりである。
　午後の職員の打ち合わせの後、洋子は教官室で一人仕事を片づけていた。
　他の教師はやはり部活などで出払っている。
　勤務時間の終了まで後少し・・・さあ、もう一頑張りだと時計を見て洋子がそう思ったとき、ガラガラ・・と、入り口の扉を開けて一人の教師が教官室へ入ってきた。
　例の35歳独身男、小池だった。
　一昨日の件があったので、洋子は緊張した。
　小池はそこに洋子しかいないことを確認し、その洋子に向かってにやっと笑いかけると、自分のデスクから何かを取り出し、洋子のところまでやってきた。
　何のつもりかしら・・・といぶかしがる洋子の横に立つと、
「先日、これをお借りしました・・・」
　と言って、仕事を広げた洋子のデスクの上にポスカを置いた。
「あッ！・・こ、これは・・・」
　驚きの声をあげる洋子・・・
　そう、それは一昨日女教師が自分を慰めるのに使った極太の筆記具だった。
　顔を真っ赤に染めた洋子は自分の引き出しを開け、中を確かめた。
　あのとき慌ててそこにしまったはずのポスカは、なくなっていた。
「あ、あの・・・」
　頭が混乱してしどろもどろになっている洋子に、小池はにじり寄ってくる。
「いや、一昨日急にこれが必要になって、失礼でしたが勝手に引き出しの中から拝借したんですよ。ぬるぬるに汚れていましたが、僕がきれいに洗っておきました・・・ははは・・・」
　小池の笑いにひどく侮辱された気がして、洋子は勢いよく椅子から立ち上がった。
　あまりの恥ずかしさに、顔ばかりか全身がかーっと熱く火照っていた。
　同時に、恥ずかしい秘密を知られてしまった惨めさに動揺した。
「それにしても洋子先生、あなたほどきれいな方が、こんなもので自分を慰めていたなんてちょっと驚きですなあ。」
　そう言うと小池は、洋子の肩に馴れ馴れしく手を置いた。
　その手を払いのけ、
「ちょ、ちょっと・・やめてください！」
　と鋭く言うと、洋子は後ずさった。
「洋子先生！・・あんなものを使わなくたって、僕でよければいつでもお相手しますよ・・・」
　いやらしい笑みを浮かべ、そう言いながら小池はなおも洋子に迫ってくる。
「小池先生！・・な、なにをおっしゃるの！？・・せ、セクハラで訴えますよ！」
「おや・・セクハラとは心外だなあ。ここは神聖な職場ですよ。そこで裸の尻を見せられる方がよっぽどセクハラじゃないですか！・・違いますか？」

　ああ・・やっぱりこの間、見られてしまったんだ！

　慌ててスカートを下ろしたつもりだったが、やはり一瞬遅かったのだろう。
　小池のその言葉に、洋子はもはや反撃できなかった。
　心臓の鼓動が速くなり、息が詰まるようでブラウスの下の豊かな胸が大きく上下した。
「洋子先生、あのチャーミングなお尻をまた見せてくださいよ・・・」
　小池はそう言って、洋子のスカートに手を伸ばしてきた。
「い、いや！」
　その手を払い、洋子はまた一歩下がる。
「ふふ・・・」
　小池は不敵に笑いながら、女教師を追い詰める。
　洋子はじりじりと後ずさり、とうとう窓際の壁に背が当たるまでになった。
　追い込んだ獲物を小池はニヤニヤしながら見つめている。
　その目は普段の理知的な涼しい目ではなく、ぎらぎらした雄の目だった。
　逃げ場を失った洋子は、硬直し動くことができない。
　このまま自分は陵辱されてしまうのか・・と、女教師が半ば諦めかけたとき、コンコンと扉をノックする音がして、ガラガラ・・と誰かが扉を開けた。
　慌てて振り向いた小池は、
「何だね・・・君！」
　と怒ったように言った。
　洋子の位置からは、扉を開けたのが幸夫だとすぐに分かった。
　二人の教師の間のただならぬ緊張感を察知して幸夫は立ちすくんだが、
「幸夫君・・な〜に？」
　と、洋子が声をかけると、
「あ、あの・・洋子先生にちょっと・・・」
　と、口ごもりながら言った。
「いいわよ、入っていらっしゃい！」
　助かった・・と思いながら洋子はそう言った。
　洋子の言葉に頷いて、おずおずと教え子は教官室に入ってきた。
　小池は小さく舌打ちし、
「またこの件は、いつかゆっくりお話ししましょう・・・」
　と言い捨て、幸夫と入れ違いに教官室から出て行った。
　その後ろ姿を見送ると、洋子はほっと安堵の溜息をついた。
「先生、何かあったの？・・大丈夫？」
　心配そうに幸夫が洋子の顔を覗き込む。
　そんなかわいい教え子に、洋子はにこやかに微笑みかけて言った。
「いいえ・・何でもないわ・・・」
　幸夫は手に、一昨日渡した宿題を持っている。
「それより、あなたは何の用なの？」
　洋子は分かり切ったことを聞いた。
「宿題ができたから、持ってきたんだ・・・」
「あら・・家へ提出に来なさいって言ったのに・・・」
「少しでも早く見てもらいたくて・・・それに・・・」
　そう言うと教え子は、女教師を抱き締めようとした。
「だめよ！・・今はダメ！！」
　洋子は強い語調で言って、教え子を押し戻した。
「お願いだよ、先生！・・僕、２日も我慢したからもう限界だよ！」
　もう泣きそうな声だ。
「分かってるわよ・・でも今はダメ！・・小池先生がわたしたちの様子に聞き耳を立てているかも知れないわ。もう先生も仕事は終わりだから、あなたも一度帰って出直していらっしゃい！・・待っているから・・ね？」
　幸夫は残念そうに、
「分かった・・・」
　と呟いた。
　洋子はそんな幸夫をますます愛おしく思い、そっと抱擁した。
　幸夫は、今度はじっとしていた。
「いい子ね。あなたが好きよ・・幸夫君！」
　そう言って唇を重ねた。
　下腹部に硬く膨らんだ幸夫の股間が当たる。
　唇の下で幸夫が呻いた。

　今夜はこれを・・・また味わえる！

　そう思うと女教師の陰裂は、はやくも欲情の印を下着に滲ませていた。
　抱擁を解き幸夫を送り出すと、洋子は急いで帰り支度をした。
　足早に学校を出て家路を急ぐ。
　マンションには６時前に着いた。
　部屋の鍵を開けようとしていると、ちょうど隣の女子大生、美夏も帰宅した。
「あら・・こんばんは・・・」
　洋子が声をかけると、女子大生もにこやかに笑って挨拶を返した。
　美夏は崩れた印象のない普通の娘だった。
　昨夜のあの淫らな声など、その姿からは想像もつかない。
「お顔を見たの、久しぶりだわ。」

　ふふ・・声は昨夜たっぷり聞かせてもらったけれど・・・

「ほんとですね・・・」
「これからバイトか何か？」
「いえ・・今日は休みです。」
「そう・・学生さんもなかなかたいへんね！」
「はい、まあ・・じゃ、おやすみなさい！」
「おやすみなさい・・」
　そんな短いやりとりをして、二人はそれぞれ中に入った。
　今夜お隣さんは部屋にいる。
　昨夜の反対で、今夜は自分の声を聞かれることになるかも知れない。
　いや、聞かせてやりたい・・と、洋子は思った。
　寝室に入ると、昨夜使った俄バイブの胡瓜が、萎びて惨めな姿を枕元にさらしていた。
　その滑稽な姿に思わず洋子は笑ってしまう。
　そんなもので自分を慰めたことにも、自嘲せざるを得ない。
　それを片づけ衣服を脱ぐと、洋子は下着だけになって浴室へ行った。
　欲情の染みがついたパンティを脱ぎ洗濯篭に放り込むと、手早くシャワーを浴びた。
　新しい下着に替え、ブラは着けずにタンクトップにデニム地のミニスカートを身に着けた。
　髪を乾かし、リビングを簡単に片づける。
　それから夕食の支度に取りかかろうと思ったその時、玄関のチャイムが鳴った。
　時計を見るとまだ６時半だ。
　幸夫にしては早過ぎると思いつつ、洋子は玄関に行って扉の外に声をかけた。
「はーい、どなたですか？」
　扉の外の人物が答えた。
「僕です・・幸夫です！」
　え！？・・早過ぎるわよ！・・と、洋子は思ったが慌てて玄関の鍵を開けた。
「幸夫君！・・早かったのね・・・」
　扉を開けて幸夫は中へ入ってきた。
　今夜もＴシャツにハーフパンツ姿だった。
「あなた、夕食は？」
「食べてません・・・」
「あら・・じゃあ、何か食べる？・・先生もこれからだから・・・」
「はい！」
「じゃあ、上がって！・・どうぞ・・」
　女教師はそう言うと先に立ってリビングに向かった。
　幸夫は靴を脱いで後からついてきた。
「スパゲッティは好き？」
　幸夫がリビングのソファに腰を下ろすと、キッチンに立った洋子は明るい声で教え子に尋ねた。
「はい・・大好きです！」
　幸夫が答えた。
「じゃあ、スパゲッティにするわね。すぐできるから、テレビでもつけて少し待っててちょうだい・・」
　そう言うと、いそいそと料理を作り始めた。

　ふふふ・・まるでわたしったら、この子の奥さんみたいだわ・・・

　自然と心が弾み、洋子は幸せな気分に浸っていた。