５

　　　　　　　　　　（Ｆ）

「…君の両親はどういった人物かね？」
　そう聞かれたのを皮切りに、わたしはこまごまといろいろ聞かれることになってしまいました。
　あのあと、わたしは警察に行きました。もちろん、身の危険をなんとか回避したほうがいい、というあの人の意見を受けて、です。
　少なくとも、『ＩＣＥ　ＭＡＮ』と名乗る人間は、わたしのことをなぜか知っていて、そして、わたしに危険を訴えている。あるいは、危険を訴えておいて、おびえるわたしを見て楽しんでいる…。
　しかし、警察に言ったのは思わぬ収穫を得る結果にもなりました。『ＩＣＥ　ＭＡＮ』が何者なのか、少し情報が入ってきたためです。

　『暗殺者』だというのです。それも、他人の依頼を受けて、お金をもらって人を殺める、そんな冷酷非常な人間だというのです。
　決して、平凡な人間は狙わず、そして、ターゲット以外の人間に危害を加えない。そして狙った獲物は必ずしとめる。まさに暗殺者だと、警察の方が仰っていました。

　この世の中に、まだ暗殺者などというものが必要だということにも驚きましたが、何よりもなぜわたしに，『ＩＣＥ　ＭＡＮ』に気をつけろ、などという警告が来るのでしょうか。わたしには、地位も名誉もないというのに。

『…一ヶ月前に心臓発作で亡くなった堅山浩介代議士のあとを継ぐ形で、国前紀夫氏が代議士となることが決定されました』
　テレビがそんなニュースを流しました。
（まさか、これも・・・・）
　考えすぎ、とは思いましたが、あんな話を聞いたあとでは無理もなかったのでしょう。そういえば、心臓発作、という死因に疑問が多い、といつか聞いたことがあった気がしました。
　一部の権力階級が、やはり暗殺者を欲するのでしょうか。

　少なくとも、『ＩＣＥ　ＭＡＮ』はわたしの家を知っています。とても、不安でした。きっと、どこか、わたしの機がつかない場所で見張っていた…。

　　　　　　　　　　　　　　　　　（Ｉ）

　見れば見るほど、魅力的な女性だ。だが、気に入らないことが一つある。誰かが、『ＩＣＥ　ＭＡＮ』を知っているという点だ。
　妙な男が彼女に近付いたようだが…。まさか、あの男が『ＩＣＥ　ＭＡＮ』のことを彼女に話したのだろうか？
　私には彼女を傷つける理由がない。やれといわれても首を縦に振るわけがない。

　とりあえず、あの男が誰だかを調べたほうがいいようだ。冤罪を証明する機会にもなるかもしれない。
　明らかに、あの男は彼方のあとを尾行していた。見る限り無軽快な彼方は、あんなにあからさまな尾行でもきにしないのだろうな…。

　私は苦笑しながらも、その後ろをついていく。こちらは、もちろん気付かれないように、である。
　やがて、彼方が公衆トイレに入っていった。さすがに男はあとから入るわけにもいかず、そのまま通り過ぎていく。
　私はすぐさま走り、男の肩に手をかけた。

『彼女に何をしようとしている？』

　まずは、彼女に安全を報せなくては。そう思った私は、クロロホルムをしみこませたハンカチを手に、彼方が出てくるのを待った。
　彼女の死角から飛び出し、意識を混濁させる。面白いように彼女は引っかかり、私の顔を見ることもできずに昏倒していく。

　目隠しをしてから、私は彼方をベッドに寝かせた。顔を見られるわけにはいかない。すでに暗殺者仕事をしていないとはいえ、私の過去に変わりはないのだ。
「ん・・・・うん・・・・」
　彼女が目覚めそうになるところを慌てて、腕を背中の後ろで縛る。
「な、何をするんですか？」
　思いのほか間の抜けた声が、私を苦笑させた。実感がないのかもしれない。
「…いいか、よく聞け。私は『ＩＣＥ　ＭＡＮ』だ」
「あ、『ＩＣＥ　ＭＡＮ』！？」
　さすがに緊張が走ったのか、彼方が聞き返してきた。
「…私はお前に危害を加えるつもりはない。あの脅迫状におびえる必要はない」
「どういうことですか？なぜ、わたしにそれを教えるんですか？」
　腕を必死に動かしながら、彼方は私に聞いてきた。
「それに答える必要はない。黙って私の言うことを聞けば、何もしない」
「・・・」
　彼女が押し黙ったのを見て、私は視線を移した。縛られた彼女の恰好は、どうも目のやり場に困るのだ。見ていると情欲すら湧いてくる。無理矢理寝かせたせいでめくれているスカート、ブラウスを柔らかく押し上げている小さめの胸。そして、縛られた腕をなんとかしようと必死にもがくその姿。

（我慢できない…）
　私は、スッ、と彼女のスカートと下着を下ろしていた。綺麗な脚、太もも、そして彼女の秘所が明らかになる。
「あっ！だ、ダメ！それだけはいけません！」
　さすがに、激しい抵抗があった。私も『危害を加えない』と言った手前、我慢するべきだったのだろう。だが、艶かしく動く彼女の肢体は、我慢を許してくれなかった。
「…まだ、男の経験がないのか。この前男が一泊したようだから、無事では済まなかったと思っていたが、よほど無欲な男みたいだな」
　あまりにも綺麗な彼方の雌蘂を見つめ、私は言った。彼方は精一杯の抵抗を見せたが、私が力任せに脚を押さえつけると、動けなくなった。それを確認してから、私は思い切り彼方の雌蘂を吸った。
「嫌あぁぁッ！」
　吐息と嬌声が漏れる。未使用ならではの締りのいい雌蘂は、私の舌さえも締め付けてくる。
　やがて、彼女が愛液を吐き出すと、私は彼女と繋がっていく。
「ひいいっ！」
　悲鳴が上がった。激痛が走っているのだろう。が、私が聞きたいのは激痛に上がる悲鳴ではない。
　彼女に感じて欲しいのは痛みではない。
　腰の動きをゆっくりとさせる。柔らかい乳房を揉む。乳首を指で弾いてやる。どんな愛撫にも、彼女は声を上げて反応した。

「…ごめん…なさい…、ごめんなさい…」
　彼方は、途中からそんな言葉を発していた。私はそのとき、自分の欲望を抑えられなかったことを後悔した。が、そのときにはすでに限界に達しており、そして彼女も…。

　もう一度彼女を眠らせたあと、その腕のロープを解いてやる。服も、元通りに着せてやる。

　満足感を得たはずの私の脳裏に残ったのは、何かの罪悪感に苛まれながら、泣き叫び、快感を訴える彼方の姿だった…。