７

　　　　　　　　　　　　　　　　　　（Ｍ）

　数日して、彼方は退院した。腕の傷は少しずつ癒え、今は薄く筋を残すのみとなっていた。しかし、彼女の心の傷は深いはずだ。
　私は、そんな彼方の心を少しでも休ませることができるだろうか？

　とりあえず、私は彼女を抱きしめた。服を脱がせるのも面倒くさく、スーツの上から強く抱きしめていた。
　彼女を求めたい、というのもある。だが、私はそれ以上に、彼女に私を感じて欲しかった。体温を伝えたかった。
　最初驚いたような声を上げたものの、彼方の腕はすぐに私の背中に食い込んだ。

　彼方の顔を見ると、涙がにじんでいた。何が哀しいのか、それはよくわかっていた。

　恐怖心を与えないように、ゆっくりと彼女を押し倒し、シーツの上へ寝かせる。まだ服の上から抱きしめたままで。
　唇を優しく重ねながら、私ははじめて彼方の服を脱がせにかかった。
（嫌がるだろうか？）
　そう思ったが、彼方は前と同じように体をガチガチに緊張させながらも、大人しく脱がされるままにしていた。
　全裸にした彼女の肌を上から下まで眺める。
　相変わらず小さい乳房、細い腰つき、そして薄い恥毛に守られた雌蘂…。

　彼女自身は『ＩＣＥ　ＭＡＮ』に陵辱されたことを『汚された』と思ったかもしれない。だが、彼方の雌蘂はそれでもその清らかさを失ってはいなかった。
　この私とも何度か交接をしたにも関わらず、相変わらず綺麗なものだ。

（彼方は、私のことをどう思っているだろうか？）
　ふと、そんな思いがまた脳裏を過ぎ去っていく。私一人が彼女を求めても、意味がない気がするのだ。単純に人を愛するとはいっても、やはり独りよがりを許すことはできないし、そこに生まれる愛を最終的に大切と思えるだろうか？
　愛し愛される、というのがもっともな理想だろう。体にしろ、心同士にしろ、である。だから、見合いでの結婚などはもってのほかだ、という考え方を私は持っている。
　他人の紹介によって引き合わせられ、たった数回の逢瀬で何がわかりあえるだろうか？

　他の女はいい。行きずりで抱いてそのまま別れ、好きだの愛するだの一切斬り捨てて付き合うのもいいだろう。
　だが、彼方だけはそれでは嫌だった。

　彼女は、伸ばされた指を拒まなかった。柔らかい肌を撫で、そのまま薄い茂みに埋没させる。
「うっ…」
　小さな声が漏れた。それに構わず、ゆっくりと亀裂に沿って指をいったりきたりさせる。すぐに入る入口ではないからこそ、それなりに準備が必要なのは、もはや承知の上だ。

　徐々に湿ってくる雌蘂に、少しだけ指を食い込ませた。
「ひっ！」
　やはり狭い。が、溢れてきた彼女の愛液は、徐々に指のすべりをよくさせてくれる。ゆっくりと、奥まで挿入していく。入りきったら、前後させる。
「うっ、うっ、うっ」
　動かして、指を止めるたびに彼方の声が上がる。飽きさせないように、あいている左手で乳房を愛でる。
　先端を日本指でつまんで、引っ張る。力をいれず、彼女を痛がらせないように。
「あっ、あっ…」
　目を閉じて、彼方が声を洩らす。

「彼方」
　私は一旦彼女に声をかけてから、指を引き抜く。そして、両足を広げ、この前と同じように彼女の雌蘂に唇を押し付けて貪った。今度は、最初から激しく、音を立てるように。
「きゃああぁぁっ！」
　悲鳴交じりの声が、彼方が感じているものを私に間接的に伝えてくれる。舌を激しく動かし、吸い付く。軽く歯を立てて、別の刺激も与えてやる。

　舌に当たる恥毛の感触も、かすかに漂う雌蘂の匂いも、私にはもう興奮剤でしかなかった。
　あっという間に、彼方は快感の頂点に達し、さらに多くの蜜が彼女の雌蘂から吐き出される。
「はぁっ、はぁ…」
　さすがに続けて苛むのは、彼女を疲れさせるだけだろう。私は再び彼女を抱き寄せ、思う存分抱きしめた。柔らかい彼方の肌が、乳房が、太腿が私の体を包む。
　彼女は嫌がるでもなく、うつろな目を宙に泳がせていた。よく見ると、涙がにじんでいた。

　少しの後、私は彼女を横向きに寝かせると、上になった左足を持ち上げ、挿入しやすい体勢を整える。
　秘所が露になるのを、彼方が必死に隠そうとするが、私はそれをさせまいとその手を強く握った。
「うっ…！」
　固くなったそれを取り出し、入口にあてがう。彼女のその部分はもう、『蜜壷』という言い回しがしっくりくるほどに濡れていた。

　少しずつ力を込めて、彼女の中へ入り込んでいく。
　激痛を訴える声。

（…いつもの、彼方だ）
　押し寄せてくる快感の波をどうにか払いながら、私は前後に腰を動かした。持ち上げた彼方の左足を抱きしめる。
「ああっ、すごい、すごいっ！」
　やっと彼方も快感を訴えるようになり、私は一安心だった。

　腰を動かすたびに、ずっ、ずずっ、という膣と愛液と私とが擦れる音がかすかに響き、場の淫猥さを引き立てる。そして、彼方の声も。
「彼方、気持ちいいかい？」
　私は、聞いてみた。意地が悪かっただろうか？だが、私はするからには彼女のほうにも快感を求めて欲しいと思う。自分だけの快感など、価値があるだろうか？
　もっとも、こんな風に彼女のことを気遣っている時点で、私は本当の意味で彼女を、彼方を愛しているのかもしれない。

「あーーーーっ、あっ、あっ！」
　ひときわ大きな声が彼方からあがると共に、私の快感も頂点に達していた。先端は我慢の限界を訴えるかのように膨れ上がり、引き抜くのも大変かもしれない。
「か、彼方ッ！」
　必死に引き抜こうとするのを彼方が私の腰に足を絡めて止めた。
「…あ、貴方との子供なら、何人でも産みますから…ッ！」
「…彼方…！」
　彼女の言葉を信じて、私は我慢をやっと解放した。

「ああっ、ああっ、あ、溢れる…熱い…」
　顔を覆った彼女は、私の射精に反応して声を上げた。私も、彼女の膣に温かく包まれながら、先端に溜まったすべてを彼女の中に余さず流し込んでいく。
「…それでも、わたしを愛していただけますか？」
　突然、彼方から言葉が漏れた。私は、彼方の左足を抱きかかえたまま、力強くうなずいた。実際は、力強くなかったかもしれないが。