９．

　　　　　　　　　　　　　　　　　　（Ｐ）

　間に休暇をはさみ、私は再び（別の事件の捜査をしながらも）、『ＩＣＥ　ＭＡＮ』の捜査に取り掛かった。
『あなた、また事件のことを考えているんでしょう？』
　どうしても頭から事件のことが離れず、妻の和歌にそういわれたものだ。

　『ＩＣＥ　ＭＡＮ』は、『ＩＣＥ　ＭＡＮ』ではない誰かが名前を利用したのではないか。私が打ち出した持論はそれだった。
　だが、『ＩＣＥ　ＭＡＮ』自体が不明な存在であり、またその通称も警察内部で勝手に呼んでいたものにすぎない。マスコミは『ＭＩＮＤ　ＢＲＥＡＫＥＲ』と呼んでいたのだから。
（犯人は、警察内部にいるというのか？）
　だとしたら、結城彼方だけは絶対に守らなければならない。手がかりがなくなるのは避けたいし、もう一度彼女を狙ってきたところを捕えることができるかもしれない。

（彼女は、脅迫を受けたと最寄の警察に訴えた、と言っていたな。結果的に、それが現実となったわけだが…）
　いや、脅迫はまだされていない、と彼女は言っていた。陵辱を受けただけだ。
　私はその後彼女が記憶を消されていないことから、『ＩＣＥ　ＭＡＮ』を騙るものの犯行ではないか、と読んだのである。

「その脅迫状、見てみたいな…」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（Ｉ）

（よもや、またこれを使うとは思わなかったな・・）
　傷の男と遭遇したときは、手にとっただけで済んだが、今度ばかりは使わないわけにはいかないだろう。
　取り出したのは一本の針だ。

　息を潜め、夜の闇が覆ったビルを眺める。もうすぐ出てくるだろう。
（来る…！）
　一階の電灯が消され、完全な闇となった。玄関ドアが開いて女性が出てきたのを確認したのち、私は飛び出して後ろに回ると共に、針を彼女に突き刺した。

　声を上げる間もなくくず折れる彼女…彼方の同僚の杉谷を右腕で支える。それから、先ほど閉じられたばかりのビルの中へ彼女を引きずり込んだ。あとは縛ればいい。

　手近な部屋に引きずり込み、ドアに鍵をかける。どうやら、会議室かなにかのようだった。机とイスには事を欠かない。
　とりあえず、気を失った杉谷をイスに座らせ、そのまま縛り付ける。しばらくは目覚めない針麻酔をしたつもりだが、イスに縛り付けても、彼女が目覚めたりはしなかった。
　記憶を消す時も、この針を使ったものだ。ほとんど傷がない状態にできるため、何か道具を使用したとも感づかれにくいのが長所だ。
　ただし、一つ使い方を間違えると、苦痛と死をもたらす凶器に成り代わるが…。

「ん、ん・・・・」
　ようやく目覚めた彼女は、イスに縛り付けられているのに気付かず身を起こそうとする。
「な、何？何が起こったの？」
　自分のいる環境を理解できず、暗闇に縛り付けられているという現実に恐怖している彼女は、こっけいにさえ見えた。
「…私のことは知っているな？『ＩＣＥ　ＭＡＮ』といえば、分かるだろう？」
　目隠しをしながら、耳元で囁いてやる。もちろん、声色を使って。
「じょ、冗談はよしてよ！そんなの、本当にいるわけが…」
「冗談でイスに縛り付けるとでも思うか？」
　私は凄みをつけて言った。杉谷はより一層肩を震えさせる。
「だ、だって、あれは、あの人が、ちょっと脅かしてやれって…！」
（やはりな）
　口を滑らせたのか、彼女は私が望んでいたことを聞くまでもなく答えてくれた。それだけ聞ければ申し分ない・・・と言いたいところだが、もう一つ聞くことがある。
「お前にそれを依頼したのは、夫の市川有三か？」
「そ、そうよ！早く、自由にして！」
　ここまで聞ければいい。どうやら、二人で共同して警告文を送ったのは確かなようだ。だが、そこにどんなメリットがあるのか。恐らく、彼女は知らないだろう。
「…これ以上、彼女を傷つけるようなマネをしてみろ。記憶を消されるだけでは済ませんぞ」
　しっかりと警告を与え、彼女をそのままにして部屋を後にしようとしたとき、後ろから嗚咽が漏れた。
「助けて…自由にして、何でもするから…！」
　軽い気持ちだったかもしれないが、杉谷が彼方に恐怖を与えた人間の一人だということは確かだった。そう考えると、急に怒りが込み上げてきた。

　だが、それはこの私も同じだろう。結城彼方に恐怖を与え、苦痛を与え、今でも苦しませているのは…この私も同じなのだ。

　私は、また針を取り出すと、その首筋に刺した。
「な、何をしたの？」
「痛みはない。死ぬこともない。記憶も失うことはないが、しばらく脚が麻痺して動かなくなる」
　私は、針麻酔の効果を言った。
「これで、逃げることも抵抗することもできなくなったわけだ」
　私は言うと、怯えて声も出さない杉谷の腕を締めているロープを解いた。それだけでなく、イスからも解放してやる。
「…服を脱いで裸になれ」
　私は言っていた。こんな女に欲情する気にはならないが、彼方が味わった悲しみと同等の苦しみを味わってもらわなくてはならないような気がしたのだ。
「何でもするんだろう？」
　私は、躊躇する彼女に言葉を投げかけた。すると、彼女は震える手で服を脱ぎ始めた。上着も、ブラウスも下着も、全て脱いで文字通りの裸体を晒した。もっとも、暗くてよく見えないのだが…。
　彼方とは違い、豊満な胸を持った、豊かな体躯だった。
「な、何をする気？」
「そのまま、そこに寝てればいいさ」
　そう言うと私は後ろを振り返った。
「明日の朝、この会社の社員が出勤してくるまでは、その脚のマヒは解けないからな。社員全員にその豊満な裸を拝んでもらえ」
「い、嫌よ！そんなの嫌！」
　悲鳴混じりに叫ぶ彼女に向かい、今度は、私は針を投げた。それは彼女の口をとおり、舌に突き刺さる。無論、痛みはない。
「しばらくは、喋るのも無理だ。私が『殺さない殺し屋』と言われた理由が十分にわかっただろう？」
「う・・ああう、うう・・・」
　舌も脚もしびれ、身動きも喋ることも叶わず、裸体を突き刺すあたりの空気が、彼女が朝になって発見されるまで彼女を痛めつけてくれるだろう。
「ま…、まっへ…！」
『待って』といいたかったのだろう。私が無視して部屋を後にしようとすると、彼女は意外な言葉をぶつけてきた。
「こんなままほうっておかれるなんて、もっお、いぁ…！」
　私は正直に驚いた。こんな状況でも、女性は男に欲情できるものなのだろうか？あるいは、ある意味サディスティックともいえる仕打ちを私から受けたからなのだろうか？

　私は、彼女の裸を見てある程度膨らんだそれを取り出すと、彼女の口にくわえさせた。ゆっくりと腰を動かしてやる。マヒした舌では上手く舐められるはずもなく、ただ口をつぼませて、私を締め付けてくるだけだ。
　他の場所は一切刺激せず、胸も雌蘂も触らない。ただ、口に突き入れてやるだけだった。
　今の彼女には、最悪の拷問だろう。

「んぅっ」
　杉谷を床に仰向けに寝転がせ、乳房の間に挟み込ませる。柔らかい乳房の感触が、手にもそれにも伝わって温かい。
　横から乳房を支え、左右から押し付け、腰を前後させる。杉谷は私が命令するでもなく、顔を起こして先端を咥えた。舌の動きが激しいのは、彼女が人妻だからだろうか？それとも、相手が市川であるためか、男に飢えているからだろうか？

　自分だけが達し、彼女の口の中に好き放題に射精した。頭を両手で押さえ込み、逃げられないようにして。
「んぅっ、んっ、んぐっ！」
　やはり言われるまでもなく飲み干し、先端についた白濁も舐めとり、わざわざ吸いこんで残った精液をも飲み干した。
　名残惜しそうにも見えた彼女の口から引き抜くと、私はそれをしまってから彼女に一瞥をくれる。
「風邪をひくなよ」
　それだけ言って、私は薄暗い会議室を後にした。